- 著者
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吉川 左紀子
中村 真
- 出版者
- 一般社団法人電子情報通信学会
- 雑誌
- 電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
- 巻号頁・発行日
- vol.80, no.8, pp.1324-1331, 1997-08-25
- 被引用文献数
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7
相手の顔の表情や, 性別, 年齢が話し手の発話行動にどのような影響を及ぼすのかを実験的に検討した. 48名の被験者(「話し手」)が, ディスプレイに提示される大学生または40代成人男女の顔写真(笑顔, 真顔, 怒り顔)に対して, (1)ペンを借りる, (2)道を尋ねる, (3)車をぶつけて謝る, (4)うるさい隣人に抗議する, という四つの発話状況で話しかける課題を行い, そのときの発話行動をビデオカメラで記録した. 発話行動は, 発話の文節数, 発話のていねいさ, 発話開始までにかかった時間, 発話の流ちょうさ,「話しかけやすさ」と「発話の自然さ」の自己評価(被験者による評定)という6種の指標によって分析した. その結果, 相手の顔の表情は, 発話表現のていねいさや発話開始時間, 流ちょうさ, 話しかけやすさ, 発話の自然さといった発話行動のさまざまな側面に影響することがわかった. 一方相手の年齢や性別は, 話しかけやすさや発話の自然さについての主観的評価には影響を及ぼしたが, 発話開始までの時間や流ちょうさといった遂行指標には影響しなかった. コミュニケーション場面における時間的制約の中での顔の認識の特徴について考察した.