著者
遠藤 匡俊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.11, pp.601-620, 2001-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
58
被引用文献数
1 2

文字を持たないアイヌ社会において,近所に生きている人やすでに死亡した人と同じ名を付けないという 個人名の命名規則が,どの程度の空間的範囲に生活する人々に適用されていたのかは,これまで不明であっ た.アイヌ名の命名には,出生後初めての命名と改名による新たな命名があり,いずれもアイヌ固有の文化 であったと考えられる.アイヌ名の改名は根室場所,紋別場所,静内場所,三石場所,高島場所,樺太(サ ハリン)南西部,鵜城で確認された.中でもアイヌ名の改名が最も多く生じていたのは,根室場所であった. 根室場所におけるアイヌ名の改名は,結婚や死と関わって生じた事例が多かった.改名による新たな命名が 多く生じていたにもかかわらず,同じ名を付けないという個人名の命名規則は, 1848~1858 (嘉永1~安政5) 年の根室場所においては,集落単位のみならず根室場所全域でほぼ遵守されていた.根室場所は,アイ ヌの風俗の改変率が高いことから和人文化への文化変容が進んだ地域とみなされるが,アイヌ名の命名規則 に関する限り,アイヌ文化は受け継がれていたと考えられる.
著者
石崎 研二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.579-602, 1995-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
54

本稿では,クリスタラーの中心地理論の配置原理に関する疑問を提起し,疑問を解消する再解釈の提示,再解釈に基づくモデル化,さらに仮定緩和を考慮したモデルの展開を試みた.供給原理によってK=3システムが導出される理由を吟味し,提起した疑問の妥当性を確認した.そして,財の到達範囲に関する新たな表現方法に基づき,再解釈・モデル化を図ったところ,モデルは立地一配分モデルにおけるp-メディアン問題の一種として定式化された.さらに,(1)財の階次および到達範囲,(2)財の未供給地点の容認,(3)財の包括的保有の条件,について仮定緩和を考慮したモデルは,供給原理をより現実的な理論へと拡張し,数値例への適用からもモデルの柔軟性が確認された.また,これらの緩和モデルの一般形は,既往のさまざまな公共施設配置モデルを統合する,一般化最大カバー問題として位置づけられ,現代の公共施設配置モデルの基盤としての供給原理の含意を再認識した.
著者
田口 淳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.305-324, 2001-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

日本の都市問題の中でもとくに深刻な職住分離による通勤の高負担をもたらす一因に,大規模な住宅開発と通勤交通網の整備とのアンバランスがあげられる.本稿では,鉄道が段階的に整備されてきた千葉ニュータウンを対象として住宅供給と交通網整備の関係を分析した.北総開発鉄道の都心直通前後の入居者を比較すると,前住地の分布は近隣市町村のみならず外延的に拡大したことから,交通体系の変化や都心との時間距離の短縮が世帯の居住地選択の範囲を変化させることが明らかになった.また就業地の分布にも変化がみられ,北総線の直通する沿線に就業地分布が拡大したほか,都心3区就業者の千葉ニュータウンへの入居が加速した.さらに,鉄道を利用した通勤流動は鉄道網の整備状況を反映し,所要時間が最短になるような通勤ルートが選択され,対都心の絶対的な交通路を持ったことで通勤ルートの一本化が進んだ.
著者
渡辺 満久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.734-749, 1989-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
69
被引用文献数
2

北上低地帯は,その西縁を逆断層に限られる典型的な構造性の内陸盆地であり,鮮新世以降に奥羽山地から分化してきたと考えられる.北上低地帯は活断層,第四系基底面の形状,および地質構造によって, O-typeの地域 (同低地帯の北部と南部)と hypeの地域 (中央部)とに分類される. O-typeの地域では,新第三系,第四系基底面,および第四系 (厚さ数丁十程度以下)に東方へ緩く傾斜する構造が認められる.この地域の西縁部は,活断層がきわめて直線的であることから,比較的高角の逆断層で限られると推定される. I-typeの地域では,第四系基底面は西縁の活断層系に向かって数度以内の傾斜で一方的に傾き,第四系の層厚は奥羽山地では 200m以上に達する.西縁部には東へ凸な多数の活断層線が認められることから,低角の逆断層から成る複雑な断層系が形成されていると考えられる. これらの構造的な特徴と,半無限弾性体に対する食い違いの理論に基づく計算結果から想定される地震時の地殻変動,および地殻とマントルの非弾性的な性質に起因して地震後に現われる地殻変動とを比較した.その結果,西縁断層系への傾動が認められる 1-typeの地域では,断層活動によって低地が奥羽山地から分化してきたと結論した. 0-typeの地域に認められる構造を得るには,地表で確認できる断層活動以外の要因を想定する必要がある.
著者
本間 昭信
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.802-816, 2000-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

本研究は,従来,実験室的な空間に限定して考えられることの多かった視覚障害者の空間認知を,日常的な生活空間において考察した.被験者は主に社会福祉法人京.ライトハウスに所属する視覚障害者であり,対象地域は被験者の歩行訓練が行われる東西1,000m,南北600mほどの地区である.視覚障害者の認知距離と認知地点の布置(認知座標)について,全盲者・弱視者・晴眼者を比較考察した. その結果,ルート型の知識を問う認知距離実験,サーヴェイ型の知識を問う認知座標実験のいずれにおいても,視覚障害者の認知地図の歪みは,晴眼者よりも大きいことがわかった.しかし,この歪みの特性には,視覚障害者の障害の度合いのみならず,視覚利用の経験や,.障害の履歴による差がみられた.
著者
吉野 正敏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-16, 1992-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
62
被引用文献数
4 3

First, a definition is given for Föhn-type and Bora-type local winds. The Fan is a fall wind on the lee side of a mountain range. When it blows, the air temperature becomes higher than before on the leeward slope. The Bora is also a fall wind on the lee side of a mountain range, but when it begins, the air temperature becomes lower than before on the leeward slope. This definition can be applied regardless of the vertical structure along the cross-section, which is not always easy to observe for every case in the field. Second, the local winds caused by the airflows crossing a mountain range are classified according to the above definition. Third, vertical and horizontal models are illustrated, and descriptions of topography, clouds, precipitation and wind phenomena for the 12 parts from the windward regions to the leeward regions along the cross-section are given in a table. In the second part of the present paper, the impacts of local winds caused by the airflow crossing a mountain range are discussed. The effects of strong wind on the roofs of houses, wind breaks and hedges in the fields and surrounding houses, agricultural cultivation and land use, and windrelated names of places and passes are striking in the regions with strong fall winds on the leeward part as well as on the passes. Human response to such geographical conditions is quite sensitive, and we are able to know the local distribution of strong winds through observing these responses of the local people.
著者
小長谷 一之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.93-124, 1995-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
54

政治学者や社会学者の多くは,投票行動の集計結果(投票率,得票率)に現われる地域差を,投票性向の異なる社会階層の居住構成が,地域ごとに異なることに帰着させてきた(構成主義的アプローチ).ところが,地理学者が行なってきた諸外国の研究事例では,地域差のなかで,構成主義理論によっては説明できない部分がかなりあることがわかっている.この説明未了の部分の大半は,近隣効果と呼ばれる地域文脈的効果によるものと考えられる.近隣効果の発見は,過去30年の選挙地理学の最大の成果の1つである. 本稿では,京都市における1991年市議選の都市内地域における投票情報を分析し,次の3点を発見した.(1)有権者の階層構成の地域差は,投票率・得票率の地域差を説明できるほど大きくはない.(2)「地域別の投票率・得票率」は,地域ごとに変動し,その地域差パターンは構成主義モデルではほとんど説明できず,強い残差が残る(集計的近隣効果の存在).(3)「地域別かつ階層別の投票率・得票率」は,同じ階層について比較しても,地域ごとに変動し(非集計的近隣効果の存在),その地域差パターンは階層によらず,「地域別の投票率・得票率」の地域差パターンに類似する.この3つの現象は,普遍性をもち,たがいに密接に結びついていることがわかった.
著者
呉羽 正昭
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.818-838, 1991-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究の目的は,群馬県片品村におけるスキー観光地域,とくに1970年代までのスキー観光地域が, 1980年以降どのように変化してきたかに注目して,その形成の諸特徴とそれにかかわる条件を明らかにすることである. 片品村では, 1970年代までに,規模の小さい8つのスキー場が,伝統的利用が行なわれていた共有林野のなかに開設された.スキー場の開設に伴い周辺地域では民宿が開設され,またスキー場の冬季臨時従業員といった雇用機会がうまれた.住民は,スキー場に関連した新しい就業を取り入れ,それに,夏季の農業,林業および建設業を組み合わせるようになった. 1980年代になって,スキー場ではペアリフトなどの新しい施設の建設が進み,入込客,とくに首都圏からの週末の日帰り客が急増した.一方,周辺地域では,スキー場関連産業が重要な位置を占あている.片品村では,高速道路開通による首都圏からの近接性の向上,面積拡大を可能にした林野所有形態といった条件をいかしながら,スキー観光地域は, 1980年以降大きく発展してきた.そこでは,スキー場の入込客許容量が増加し,また多種類の宿泊施設が存在することによって,スキー客の多様な需要に対応してきた.
著者
山崎 孝史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.9, pp.512-533, 2001-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
135
被引用文献数
2

本稿は, 1980年代以降の英語圏の研究動向に即して,グローバル化,国民国家,そしてナショナリズムの関係を理解するための地理学的視角について検討する.グローバル化に伴う昨今の動態的な政治・経済・社会的変化は,一方において国家の基盤である主権,領土,あるいは国民的均質性を問題化し,他方においてナショナリズムに喚起された新国家形成や国家分裂という事態を招いている.本稿はまず,こうした一見矛盾した世界政治の現状を最近の研究を通して把握し,国民国家とナショナリズムの今日的意味を理論的に検討する.次に,ナショナリズムの現代的諸理論を近代主義アプローチを中心に論評する.最後に,ナショナリズムを領域的視点から検討することの有効性を,中心-周辺関係,領域的アイデンティティ,地理的スケールの三つの空間的概念を基に考察する.これらの考察を通して,グローバル化時代における国民国家とナショナリズムに関する政治地理学的研究の方向性を提示する.
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.156-166, 1997-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
41
被引用文献数
2 2

Discussions about “geopolitics” have flourished within the field of geography in recent years. In Japan, where geopolitics (chiseigaku) had been associated with empire expansion as well as German Geopolitik, the critical issues in geopolitics were not for their own features, but how they reveal ambivalent aspects of geography in general. In particular, two critical issues in geopolitics, political intentions and subjective interpretations of the world, make us realize that geographical descriptions may inevitably be political. Today, the term “geopolitics” is not used to designate a branch of study, but has a variety of contents at the general level. In this paper, by referring to the definition of “orientalism” by Said (1978), I suggest the necessity of analyzing geopolitical texts from the standpoint of criticism. An author of a geopolitical text is not an individual subject. Whether (s)he is a politician or an editor of mass media, (s)he represents the government or nation under a wider umbrella of ideology. From such a viewpoint, we could establish a research agenda that critically examines various geographical descriptions under the term “geopolitics.”
著者
阿部 一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.453-465, 1990-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
2 5

Landscape can be considered as place in terms of phenomenological geography. In this paper, the author examines the concept of landscape with reference to that of place, and proposes a con-cept of “story” in order to prepare a framework for the study of landscape change synchronous with our consciousness change. The results are as follows: 1) Landscape is the life-world on which our belief in objective reality is founded, and is a repository of meaning. Therefore, the concept of landscape coincides with that of place as a space with value and meaning. 2) Place is not only an object of intentionality but also a process of intentionality. According to Nishida Kitaro's (1926) theory of place, place is the field of consciousness, which means that place is also the process of recognition. We call this aspect of place a “meaning matrix”, the implicit knowledge required for understanding meaning, such as a standard for judgment or a view of value. 3) It is “story” that represents the meaning of landscape. A story is a discourse on objects-a legend, an article, or a picture and indicates the trend of history. The subject and landscape are changing together, influencing each other in parallel with a “story” (see Fig. 4). 4) The task ahead for landscape study is to understand the self-understanding of a social group by analyzing its “story”, and to clarify the structure of the meaning matrix.
著者
平井 松午
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.727-746, 1988-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
42
被引用文献数
3 3

近年の移民研究では,移住者の特性や移住意志決定プロセス,さらには移動流の方向などを明らかにするため,移民研究を人口移動研究の一環として捉え,移民の輩出過程と定着過程とにおける一連の移住過程が検討されてきている。本稿もかかる観点から,山形県出身者の多い美唄市西美唄町山形地区を例に,北海道農業移民の輩出・定着過程について報告しようとするものである. 山形地区の開拓は,明治27(1894)年,山形県村山地方の零細農民が組織した山形団体という農民移住団体の入植によって始まった.その後,自作入植者の単独移住によって開拓地の外延的拡大が行なわれるとともに,山形地区では畑作農業期に農民層分解がみられ,一部上層農の出現をみた.大正10(1921)年に山形地区が水田化されると,上層農はその労働力の担い手として小作人や奉公人を入植させた.こうした後続入植者の多くは,地縁的・血縁的なネットワークを通じての連鎖移住による同郷移住者に求められ,このことが山形地区において「同郷性」を維持してきた理由と考えられる.

8 0 0 0 OA 文献等

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.327-330,391_7, 2000-04-01 (Released:2008-12-25)
著者
田中 耕市
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.264-286, 2001-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
1 4

本研究は,福島県いわき市を対象地域として,個人属性で秀類した住民グループからみた生活関連施設に関する利便性をGISによって測定した.そして,グループ間における生活利便性の差異,および都市中心部と周辺部の生活利便性の格差を定量的に明らかにした.生活利便性を測定する際には,客観的なアクセシビリティ評価に加えて,住民からの主観的な評価を考慮に入れた生活利便性評価モデルを構築した.その結果,以下の点が明らかになった. 多数の生活関連施設が都市中心部に分布しているため,都市中心部ではすべてのグループからみた生活利便性が最良であり,グループ間における利便性の差異も小さかった.また,都市中心部から遠ざかるにっれて,生活利便性は徐々に悪くなる傾向にあった.都市中心部からの距離の増加に伴って生活利便性が悪化する割合は,各グループによって大きな差異がみられた.自家用車の所持率が高い就業者や男性高齢者では,生活利便性が悪化する割合は比較的小さかった.その一方で,自家用車の所持率が低い学生や女性高齢者は,都市中心部から遠ざかるにっれて生活利便性の悪化する割合が大きく,都市中心部と周辺部における生活利便性の格差が著しかった.
著者
谷 謙二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.263-286, 1997-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
5 11

本稿は,戦後の大都市圏の形成とその後の郊外化を経験した世代に着目し,その居住経歴を詳細に明らかにしたものである.方法論的枠組みとしてライフコース・アプローチを採用し,名古屋大都市圏郊外の高蔵寺ニュータウン戸建住宅居住者 (1935~1955年出生)を対象として縦断分析を行った.その結果,移動性が最も高まる時期は離家から結婚までの間であり,さらに離家を経験した者の多くが非大都市圏出生者であった.大部分の夫は結婚に際しては大都市圏内での移動にとどまるのに対し,妻は長距離移動者も多く,中心市を経由せずに直接郊外に流入するなど,大都市圏への集中プロセスは男女間で相違が見られた.結婚後の名古屋大都市圏への流入は転勤によるものであり,その際は春日井市に直接流入することが多い.それは妻子を伴っての流入であるために,新しい職場が名古屋市であるにもかかわらず,居住環境の問題などから郊外の春日井市を選択するためである.
著者
林 正久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.26-46, 1991-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
48
被引用文献数
3 4

テフラ,鉄津を指標とした沖積層の分析や微地形分類,風土記など歴史的資料の検討によって出雲平野の地形発達を考察した.完新世の海面高頂期は6,000~5,000y. B.P. で現海面上3~4m,水道状の内湾が形成され,島根半島が切り離された.3,600y.B.P.頃から2,700y. B. P. にかけての時期に,小海退がみられ,海面は-2m以下にあった.3,600y. B. P. に噴出した三瓶山の火砕流が大量の砂礫を供給し,海退期の内湾を急速に埋積し,その結果,半島は再び陸続きとなり,内湾は東西2つの潟湖に分離した.その後,海面は現在とほぼ等しくなり潟湖の埋積が続く.『出雲国風土記』の記す時代は潟湖埋積の一時期にあたる.当時は斐伊川が西流していたため,西の潟湖の方が速く埋積された.近世以降は鉄穴流しによる大量の土砂が宍道湖を急速に埋積するとともに,古い三角州面も埋積した,出雲平野はその形成に海面変動のほか,火砕流と鉄穴流しが大きな影響を与えている点に特異性がある.
著者
山内 昌和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.12, pp.835-854, 2000-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 3

本稿では,縁辺部における人口や世帯の再生産が行われている例として,漁業が基幹産業となっている小離島の中から小呂島を取り上げ,戦後の世帯再生産のメカニズムを明らかにした.小呂島における世帯再生産は,漁業労働力の確保という経営体の戦略と,世帯維持に対する規範意識に代表される社会的な制約の双方が深く絡み合いながら行われていた.その際,イノベーション導入による漁業生産の拡大は経済的な保証を与え,一方で社会的制約は小呂島出身者に対し大きな影響力を有し,世帯再生産を支える要因の一つとなっていた.今後は,婚姻形態の変化などの社会的理由から若干の世帯数の減少が予想される.しかしながら,他地域た比べて漁業資源獲得に際しての相対的優位性が続くと想定されるため,今後とも一定の世帯数が再生産されていくであろう.