著者
川本 耕三 石井 里佳 中越 正子 江野 朋子 中村 晋也 山岡 奈美恵 藤原 千沙
出版者
(財)元興寺文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

出土遺物はその成分が失われ空隙が生じるため強度が低下している。保存処理ではその空隙に薬剤を含浸し、接着剤等の樹脂により接合あるいは補填をする。本研究では、出土金属製品・土器・石材、さらに出土品ではないが様々な環境で劣化した民具(木質材料)の保存処理を想定し、接着剤・充填剤と含浸樹脂・溶剤等の薬剤との適合性を、主として力学的な強度低下を測定することで調査研究した。まず、処理薬剤が補填剤に及ぼす影響を調べるため、エポキシ系樹脂補填剤をシート状に成型し、溶剤等の保存処理によって遺物内に残留する可能性がある薬剤に浸漬した後、その強度を打抜きによる剪断試験によって測定した。その結果、チオール系硬化剤を用いたエポキシ樹脂は極性の大きい溶剤による強度低下が大きく、アミン系の硬化剤を用いたエポキシ樹脂は強度低下が小さいことがわかった。これは、色や熱特性の変化からも裏付けられたが、赤外吸収曲線には変化がみられなかった。次に、処理薬剤が接着剤に及ぼす影響を調べるため、擬似的に接着した出土遺物を作製し、同様の薬剤に浸漬した後、その接着強さを圧縮剪断接着強さ試験と曲げ接着強さ試験によって測定した。その結果、擬似鉄器ではその錆の厚みのために接着剤の接着面への付着を阻害することが観察された。また、擬似土器は母材強度が小さいために多くの場合で母材の破壊が観察されたことからアクリル樹脂等で母材を強化して後、接着する必要があると考えられた。以上の研究を通じて、文化財の保存修復材料に求められる特性は、「保存修復する文化財本体の強度を大きくさせる働きのあるもの、負の影響を与えないもの、必要がなくなった場合には完全に除去できるもの。」と考えられるが、そのためにわれわれはそれぞれの文化財に適合した接着剤をきめ細かく選択する必要がある。
著者
鈴木 哲雄
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

香取神宮における仏教的な資料を多数収集し、鈴木哲雄「香取神宮の神宮寺・寺院関係資料一覧(稿)」(『史流』46号、2016年)として刊行した。また、収集した諸資料にもとづいて、香取神宮境内に存在した愛染堂や経堂(経蔵)のあり方、かつて経蔵にあった大蔵経の散佚と一部の伝来状況、神宮寺における正月修正会の幕末までの存続、七人の供僧体制や諸寺院の存在について明らかにした。
著者
豊田 一則 小久保 喜弘
出版者
独立行政法人国立循環器病研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

腎臓病と脳血管障害の関係、言い換えれば脳腎連関を解明する目的で、以下の検討を行った。(1) 吹田研究に登録された都市型住民において、慢性腎臓病が頸動脈硬化の独立した危険因子となり、慢性腎臓病の有無に血圧カテゴリーを加えた交互作用が頸動脈硬化に対して存在した。(2)単施設急性期脳出血患者において、入院後早期の腎機能低下に超急性期収縮期血圧高度低下が有意に関連し、また腎機能低下者に転帰不良例が多かった。(3)多施設共同研究で、腎機能障害が脳梗塞rt-PA静注療法の治療成績不良や脳出血の3か月後転帰不良に独立して関連した。(4)脳血管障害と慢性腎臓病の関連を、英文総説に纏め、本研究成果も採り入れた。
著者
呉 松竹
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、高価な貴金属めっき(Au, Ag)に代わる次世代超高耐熱めっき材の開発を目指し、新規なナノ積層型のSn/Ag3Sn/Ag(Ag膜厚-20~300 nm)系多層めっきを開発した。このSn/Ag3Sn系多層めっきは、優れた耐熱性、耐摩耗性、耐硫化性および光反射性を持つことが確認された。これら性質は、主に最表面の硬質Ag3Sn層と軟質Ag層の複合化による導電性付与と摩耗性改善の複合効果によるものと考えられる。このSn/Ag3Sn/Ag系多層めっきは、車載端子、LED反射材および大電流高速充電コネクタなどに幅広く応用できると考えられる。
著者
道場 親信
出版者
和光大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

課題に関し、名古屋の「とけいだい」や青森の「大理石」は労働組合との安定した関係と一貫したキーパーソンの存在がサークルの存続を可能にし、広島の「われらのうた」では、半ば同人集団化していくことで持続可能となったことがわかった。また思想の科学サークル戦後史研究会での議論を通じ、60年以後にサークルを研究するサークルとして設立された「集団の会」がもつ意味を掘り下げることができた。故浜賀知彦氏、故村田久氏、故五味正彦氏の旧蔵資料の整理に関わり、資料の保存を進めることができた。思想の科学研究会所蔵の6ミリテープのデジタル化も完了できた。このほかいくつかの資料寄贈を受け、インタビュー調査を実施した。
著者
西原 典孝 小松 香爾 横山 晶一
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究では,フレーム構造論理という新しい論理体系の構築を目指した.本体系は数学的に厳密な意味論を持ち,かつ名詞概念間の階層関係,属性関係,および名詞句に相当する複合概念などを,記号間の直接的関係として記述できる論理体系である.いわば本体系は,自然言語や意味ネットワーク流な"構造的意味表現"が可能な数学的論理体系である.このようなフレーム構造論理の構築は段階的に行われた.まず1)基本体系を公理的体系として構築し,意味論の下での完全性を証明した.さらに,基本体系に対する機械的推論手続きを与え,その完全性,決定可能性を証明した.次に,2)否定概念に相当する補元演算子と集合概念に相当する結(選言)演算子を導入し,体系の表現能力を拡張した.これによって,「動植物(動物+植物)」,「太郎と花子と次郎」などの複合オブジェクトを構造的に記述することが可能となった.3)属性関係の表現力を強化するために,属性関係の属性値に相当するものをオブジェクト化可能にした.また「限量」の概念を導入し,「全称」と「特称」の2種類の限量関係を明確に記述できるようにした.最後に,4)動詞文自体も一つのオブジェクトとして捉え,名詞概念と同様に扱うという手法をフレーム構造論理に取り入れた.このような扱い方は,動詞文を多項関係と捉える従来の述語論理的手法とは本質的に異なり,いわば自然言語の意味表現法により密接した手法であるといえる.これによって,述語論理的枠組みでは高階述語を必要とするような文の意味も表現可能となった.このような体系の構文と集合論的意味論を厳密に定義した.
著者
宮下 志朗
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

「プランタン=モレトゥス工房」は、フランスからアントウェルペン(アントワープ)に移住したクリストフ・プランタン(1520?-1589)が立ち上げた出版工房で、16世紀後半から17世紀前半にかけて、ヨーロッパ随一の規模を誇り、いわばヨーロッパの出版センターとして繁栄します。工房は出版物はもちろんのこと、活字・版木・道具類なども、その建物と共に非常に大切に保存されてきました。そして2005年には「世界文化遺産」に指定されて、ますます注目を浴びるようになっています。そこでわたしは、「文芸の共和国」という切り口により、ネットワーク上の作家(モンテーニュ、リプシウス)や、プランタンの活動を考察しました。
著者
佐藤 文彦
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

非肥満IGTにおける高血糖のメカニズムは完全には解明されていな。本研究においては、非肥満IGTの病態生理を検討するためにトレーサーを用いたグルコースクランプと、二つのトレーサーを用いた経口糖負荷試験を行った。私達の予備的なデータからは、非肥満IGTでは肝糖取り込みの低下と骨格筋のインスリン抵抗性が高血糖に寄与する可能性が示唆された。今後は、これらのデータを確定させるためにさらなる調査が必要である。
著者
高貝 就 中村 和彦 鈴木 勝昭 岩田 泰秀 尾内 康臣 竹林 淳和 森 則夫
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

高機能自閉症者にみられる「タイムスリップ現象」に代表される記憶再構築障害に果たすドパミン系の役割を、ポジトロン断層法(PET)を用いて検討した。すなわち、定常状態とタイムスリップ現象を誘発するようなcueを負荷した状態とにおいて、ドパミンD1受容体密度を特異的トレーサー[llC]SCH23390とPETで計測した。現在、その結果について解析中である。
著者
中村 恵子 塚原 加寿子 伊豆 麻子 岩崎 保之 栗林 祐子 大森 悦子 佐藤 美幸 渡邉 文美 石崎 トモイ
出版者
新潟青陵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

養護教諭を対象とした質問紙調査を実施し、どのように養護診断・対応を行っているのかを明らかにした。養護教諭やスクールカウンセラー、生徒指導主事への面接調査を実施し、心の健康問題における連携について分析、記述を行った。スクールソーシャルワーカー(SSW)に面接調査を行い、SSWによる支援について明らかにした。また、養護教諭へのグループインタビューをもとに、保健室来室者記録の改善を図った。さらに、各関係機関を訪問し、連携について調査した。アセスメント・シートや情報提供書を作成するとともに、健康相談活動の進め方や体制づくり、関係機関との連携などについて、研究成果としてまとめた。
著者
織谷 健司 金倉 譲 一井 倫子 齊藤 則充
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

Signal transducing adaptor protein-2 (STAP-2)は、シグナル伝達あるいは転写因子と結合するアダプター蛋白である。本研究において、生体内炎症反応を増強すること、アレルギー反応を抑制すること、BCR-ABL活性増強を介してケモカイン受容体発現を変化させること、メラノーマ細胞増殖に必須であること、抗原刺激後のT細胞免疫応答を正に制御すること、を見出した。本研究成果により、STAP-2阻害剤開発後の治療対象疾患が明らかになった。
著者
伊藤 昭 寺田 和憲
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

心を読むことに基づくコミュニケーションを計算機に実装可能なアルゴリズムとして検討した。主要な成果は、次のとおりである。1.心を読むコミュニケーションの発生要件を「非零和ゲーム状況=利害が完全には一致しないが協調を必要とする状況」と定式化し、人工的にその状況を生成することで、嘘やだましを含む心を読むことによるコミュニケーションを創発させた。2.人が(人工物を含む)対話相手に心属性を付与する条件を、外見要因、行動要因の2面から調査した。また、心を読むことによるコミュニケーションの創発におけるメタ信号を役割を、身振りをコミュニケーションメディアとして用いて分析した。
著者
河原 俊雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1998年、『殺人者の言葉から始まった文学-G.ビューヒナー研究-』(鳥影社)を出版した。本研究は、この著書で展開した論を裏付け補足し、ビューヒナー研究史上における本研究の位置を明確に示し、あわせて、『ヴォイツェック』と『レンツ』の作品が生まれた土壌となる当時の時代背景を主として殺人者の精神鑑定という問題に焦点を絞り明らかにしたものである。科学研究費申請の当初の目標も研究史の外観と時代背景の解明に的を絞り込んだ。その成果が以下の二点である。すなわち、ビューヒナー研究(四)は研究史を、ビューヒナー(五)は時代背景を、それぞれ調査し検討し、従来の論に対して批判的な観点から自らの見解を提示しようと試みた。研究期間の後半は、ビューヒナーの作品に対する演劇的な側面からのアプローチが大きな課題となった。2001年に、ベルリンのシャウ・ビューネで観た『ダントンの死』の公演、ベルクのオペラ『ヴォツェック』の分析、さらには、レッシングやヴァーグナーやデュレンマット等の演劇やオペラの演出への関心。これらはいずれも、申請者のなかでビューヒナー研究を通して得た文体研究の成果が反映された結果である。言葉の戦略的な機能、群集の問題、主人公の感覚による一見断片的としか思えないがしかし基底のところで通じている太くて直線的な流れ。こうした観点からビューヒナー研究と関連する分野の演劇やオペラを観る視点が生まれた結果である。しかし、ベルリンやウィーンでのビューヒナーの戯曲や、その戯曲を台本にしてオペラ化した作品の上演はそう多くはない。このため、演劇的な側面からの研究は未完に終わった.これは今後の課題としたい。
著者
兼原 敦子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

日本と近隣諸国との間には、海洋境界画定紛争がある。島に対する領域主権の問題が関わるため、紛争は短期には解決されず、長期化する。日本は、とくに中国との間の大陸棚境界画定につき、中間線方式を主張しているが、その妥当性が文献、実践から明らかになった。また、日本の調査捕鯨船への妨害行為についての国際法上の対処についても検討した。
著者
溝口 元
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

江戸末期までの本草書および明治期以降の学術書、専門雑誌に掲載された棘皮動物、甲殻類、両生類、げっ歯類の種の量的変化、図譜の記載の特徴を文献的に調べ、近代西洋動物学が我が国導入されることにより、どのように動物「種」の認識が変化したかを探究した。明治期以降の教育制度の整備と標準和名の普及は対応していた。また、20世紀初頭、来日し日本産両生類を採集し新種として記載して、アメリカへ持ち帰ったスミソニアン博物館学芸員スタイネガーの日本産動物の液浸標本を調査し、採集時期と種を確定した。さらに、旧台北帝国大学理農学の動物分類学者、青木文一郎が採集したげっ歯類の種と採集数を計数しデータベース化を試みた。
著者
戸田 任重 宮原 裕一 浅井 和由
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

不活性ガスの六フッ化イオウ(SF6)による年代解析では、調査地(長野県南部)の地下水の滞留時間は2~33年と推定された。水道水源および観測井戸(いずれも30m以上の深井戸)の地下水の硝酸態窒素濃度は、滞留時間が20年弱(1993~94年涵養)の井戸で極大を示し、15年未満(1997年以降涵養)の井戸では比較的低濃度であった。調査地では、堆肥を含む施肥量が過去40年以上にわたり減少し続けており、水道水源などの深井戸の硝酸態窒素濃度は施肥量の減少を反映している可能性がある。
著者
堤 俊彦
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は,レアシンドロームであるプラダウイリー症候群(PWS)児の養育のプロセスにおける親や家族が経験する困難の理解と心理的援助のニーズを探ることであった。乳幼児から青年期のPWS児を持つ親を対象に,グループインタビューを行ない,子育ての過程で経験する困難や発達のプロセスを中心に聞き取りを行った。その結果,障害に起因するさまざまな問題への周囲の無理解により,親や家族は地域で孤立し,専門的な援助もないまま,同じ子を持つ親のサポートを頼りに,養育を行っている現実が明らかになった。より早期より専門家が関わり,親や家族に対する心理面の支援を含めた包括的支援システムの構築が急務な課題といえる。
著者
竹下 盛重 中村 昌太郎 石塚 賢治 石塚 賢治
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

日本のEATL(腸管症関連T細胞リンパ腫)では大部分がII型であり、その多くはCD56+, CD8+T細胞リンパ腫であった。その非腫瘍部位の粘膜には、腫瘍性のIEL(上皮内リンパ球)が約70%にみられ、また反応性IELが多くみられる腸管症病変が約50%に認められた。腫瘍細胞はC-METの反応が約80%に、またリン酸化MAPKが90%、C-MYCが約40%、BCL2が70%強に認められた。また、FISH によるC-METの増幅は65%、C-MYCの増幅が71%に認められた。EATLでは、C-MET/MAPK系やC-MYC/BCL2系を介する細胞の増殖維持が腫瘍化に関与していると推測した。
著者
根津 由喜夫
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ビザンツ皇帝の帯びる霊性的権威の実像を解明することを目標にしている。11-12世紀における帝都コンスタンティノープルをひとつの神聖空間として俯瞰した上で、そこで行動し、独特な政治文化が醸成されるのに貢献した皇帝以下のビザンツ人たちの行動形態を、極力、同時代の価値観、思考様式に基づいて解き明かしてゆくことを目指している。さらに、時の経過と共にそれらの現象がたどった変遷の過程も探求する。
著者
加藤 佳子 岩永 誠
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

健康生成論にもとづき食嗜好と偏食の機序について検討した。その結果,1)偏食の構成概念が明らかにされ,食嗜好,偏食行動を測定する尺度を開発した。2)首尾一貫感覚は食感覚に対する受容性と正の相関があり,ソーシャルサーポートは,偏食行動と負の相関があった。3)好きな味と嫌いな味に対する前頭前野の反応の相違が示された。4)偏食の改善は,健康状態に影響することを確認した。味覚感受性は,偏食や食嗜好に影響を与える傾向があるが,内的資源や外的資源を媒介とした時,味刺激に対する感情の調節が図られ偏食行動は緩衝される可能性がある。内的資源や外的資源の充実による食行動の改善について今後も検討する必要がある。