著者
岡本 秀己 青山 妙子 石島 唯 佐合井 治美 睦田 めぐみ
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

特別支援学級に対する調査から、発達障がい特性に応じた食育プログラムの開発が緊急課題であることを明らかにした。そこで、食育の6つの視点を盛り込んだ食育プログラムを作成し、特別支援学級に通う小学生を対象に連続食育教室を実施し、料理や収穫への関心、感謝の気持ちや自己肯定感の向上が認められた。更に改善した食育プログラム実施では、心理テスト、発達状態テスト、喜怒哀楽の解析を行い、自己肯定感、社会性の獲得に有効であることを科学的に明らかにした。最終取りまとめとして、食育プログラム(調理動画・音声・字幕・音楽)、学習指導案等を加え、多くの教諭や地域活動で利用できるホームページを作成した。
著者
下村 孝 松原 斎樹 フカマチ 加津枝
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.屋上のアスファルト,シバおよびつる植物で覆われたパーゴラ内の気象測定を春夏秋冬の四季に分けて行い,パーゴラ下では,夏期において,太陽熱の放射が軽減され,温度,グローブ温度が他に較べて低く維持された。被験者による熱的快適性に関する申告実験では,夏期にアスファルトおよびシバで不快感が増すのに対し,パーゴラ下では快適性が維持されることが明らかになった。この結果は,太陽の直射を受ける屋上緑化空間でも,パーゴラの設置により熱的快適性が維持されることを明らかにし,今後の計画指針を探る有益な知見となった。2.緑化された屋上を持つビジネスビル7件の従業員に対するアンケート調査を行い,緑化された屋上の昼休憩とリフレッシュ休憩時間における休憩場所として利用実態と評価を訊ねた。その結果,緑化された屋上空間はその開放感と居心地の良さおよび自然や季節の変化を身近に感じられることから,オフィスワーカーに休憩場所として期待され,シバ,花の咲く植物や常緑の植物など多様な植栽が施された上に,椅子やベンチ,雨よけ,藤棚などの緑陰が整備された屋上がもっとも望ましいと考えられていることが明らかとされた。これまでにない知見となり,今後の屋上緑化整備に向けての方法論として有益である。3.京都市内のビルの屋上での緑化を想定し,京都市内の代表的景観4種と緑化無し,シバ,洋風庭園および和風庭園風緑化の4種類の画像を合成して景観評価実験を行った。いずれの場合も,和風植栽での評価が高く,アイマークレコーダーによる実験では,屋上と背景共に緑の景観に被験者の視線が留まることが明らかにされ,コンクリート床や建築物の無機的な構造物は好ましくないと評価された。今後の屋上緑化のあり方に新しい知見を提供するものとして有益と考える。
著者
齋藤 善之 鎌谷 かおる 篠宮 雄二
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

近世の三陸地域に大規模家経営体が卓越したのは、その力量によって大自然(山野河海)の豊富な天然資源を開発しえたからであり、とりわけ両者の資源を連関させることで相互の開発を促進するしくみを創出保持できたからである。そうした大規模家経営体は辺境な地理的環境にありながら海運業や遠洋漁業をとおして広い地域との交流関係をもち、所有船などの輸送手段を介して遠隔地とも直接通交する力をもっていた。それにより都市との間の物流を実現したのみならず、最新の技術や文化を地域社会にもたらす窓口になり、三陸地域社会の自立と発展をもたらす原動力となっていたのである。
著者
瀬戸 宏
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

民国期中国シェイクスピア受容史上での三つの重要公演に焦点を絞って研究した。上海戯劇協社『ヴェニスの商人』(1930)、上海業余実験劇団『ロミオとジュリエット』(1937)、国立劇専『ハムレット』(1942)について調査し、三公演それぞれを主題に全国学会で報告した。上海戯劇協社『ヴェニスの商人』公演、国立劇専『ハムレット』公演についてはすでに論文化した。上海業余実験劇団『ロミオとジュリエット』公演は瀬戸の体調不調などで論文の完成が遅れたが、近く公開できる見通しである。これ以外に中国シェイクスピア受容史黎明期の問題で論文執筆・公開し、関連内容で、中国の学会で報告した。
著者
鈴木 明宏 西平 直史 高橋 広雅 小川 一仁
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では携帯電話を用いた簡易経済実験システム「Easy Economic Experiment System (E3)」を開発した。また、E3を用いた教育実験を講義に取り入れたときの教育効果の検証、及びE3を利用した経済実験と伝統的に行われてきた紙実験との実験結果の比較を行った。分析の結果、教育効果については教育実験に参加あるいは見学した学生の方が小テストの成績が通常形式の講義のみよりも有意に高いことが示された。また、E3を用いても紙を用いた経済実験と同様の実験結果が得られることが示された。
著者
原田 直樹
出版者
福岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

福岡県立大学不登校・ひきこもりサポートセンターを利用していた不登校児童生徒及びその保護者を対象に質問紙調査を実施した。(保護者:回収数66・回収率31.3%、不登校児童生徒:回収数25・回収率26.0%)以下の研究成果を得た。①不登校児童生徒の不登校当時と現在の環境への適応感や家族機能の実態を明らかにした。②さらに不登校の要因及び学校への支援ニーズの保護者と児童生徒の意識差や、大学生ボランティアによる影響も明らかにした。③また、大学生ボランティアが不登校支援に関与する方向性を明確化した。全国の大学生ボランティアによる不登校支援活動の展開に成果の活用が期待される。
著者
領家 美奈 中森 義輝 ヒュン ナム ヤン
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

嗜好性が高い製品については,その製品がもつスペック等に代表される機能の側面だけでなく,その製品が人に与える‘感性’も合わせて,製品評価に用いられる.さらに,その製品を購入する際の文脈も重要な製品評価の側面,すなわち,製品購入にいたる顧客の要望と考えられる.本研究ではそれらのあいまいで多様な顧客要望をファジィ情報として扱い,統合し,顧客の製品選択の意思決定を支援するとともに製品デザインに役立てようというものである.全体を均一に重要とするオペレータの開発,および,どの評価の側面をより重要視するのかに対する指針を得るためのモデルを構築した.
著者
佐藤 春彦 井上 剛伸 横山 美佐子 岩崎 俊之
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

寝たきりレベルの重度脳性麻痺児の日常生活における姿勢の善し悪しを客観的に判断するため、小型加速度計からなる頭部と体幹の左右対称性を評価するシステムを構築した。また、体幹の変形量を正確につかむため、骨標点の三次元位置に基づき変形量を表す手法を考案した。これらの評価法を使って重度脳性麻痺児の変形量と姿勢変換頻度を調べ、健常児との違いを明確にすることで、変形と姿勢との関わりの強さを示した。
著者
王 建青
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,人体内部と人体外部問の医療支援のためのインプラントボディエリアネットワーク(BAN)に適する通信方式の解明を目的として, 400MHz帯とUWB帯を対象に,解剖学的人体数値モデルに対して伝送路モデルを構築し,それに適する通信方式の検討及び送受信機の試作を行った.また,通信性能(BER)と人体安全性(SAR)の二つの視点から総合的考察を行い,インプラントBANに適する400MHz帯FSKやUWB-IR方式における最大伝送速度,最大送信電力を解明し,ダイバーシチ受信によるBERとSARの同時向上策も提案し,その有効性を示した
著者
小笠原 憲四郎 本山 功
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本年度は昨年度に続き本邦新生代の浅海性動物群を産する地層の層序年代や古環境が未だ確定できていないものについて形成年代や古環境を検討するため、北海道岩見沢市から門別町地域の朝日層とされている下部中新統につて現地調査を実施した。特に朝日層の模式地とされている岩見沢市の旧朝日炭鉱地域において大型化石だけでなく統合微化石層序の検討のため、系統的資料を採集した。また夕張地域から門別地域にいたる朝日層に対比される可能性の高い滝ノ上層とされている下部中新統についても同様の系統的料採集を行った。これらの現地調査と料採集には代表者の小笠原と分担者の本山が、それぞれ分担して別個に行い、特に、これまで未検討であった渦鞭毛藻層序の検討を新たにすすめている。また既存の浅海性化石資料の層序学的・分類学的再検討のため、東北大学総合研究博物館に所蔵の北海道の渡島半島と夕張-日高地域の下部中新統の化石資料について再検討し、それらの産出地点と層序的位置づけを確認し、さらに分類学的再評価を行った。筑波大学生命環境科学研究科に所蔵保管の関連する化石資料についても、昨年度と同様に継続して通年で系統的に層序と分類学的再検討を行うため、週1回の割合で非常勤の専門家を雇用してデータ整理を行った。また雇用者には、平成22年度国内雑誌等公表論文の新生代年代層序に関するデータも整理し、従来のデータ更新や再検討の基礎資料とした。これらの研究結果は、昨年度の実績を踏まえ、2編の論文として学会誌に公表し、さらに長年の課題であった北海道北東部、歌登町の中新統タチカラウシナイ層の貝類化石群集の分類学的検討を論文として公表することが出来た。この研究では若干の消耗品と破損していたデジタルカメラの更新に経費を使用した。
著者
藤平 育子
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

2001年〜2003年にかけて、全国規模の学会シンポジウム3回、招待特別講演4回において、フォークナーとトニ・モリスン、ルイーズ・アードリックらマイノリティ作家における女性表象、記憶/忘却、境界の問題を論じた。2001年度は、マイノリティ作家が形作る<アメリカ>性、およびフォークナーの白人女性人物と黒人女性人物のセクシュアリティの重なり合いについてシンポジウムなどで議論を展開した。2002年度は、歴史と記憶/忘却を主たるテーマとして、フォークナーの女性表象を、マイノリティさらにユダヤ系作家などの民族的記憶の問題と絡めて論じた。2003年度は、トニ・モリスン、ルイーズ・アードリックなどマイノリティの作家たちの女性表象を考察しつつ、フォークナーの女性人物で極めてユニークな存在感を誇るLight in AugustのJoanna BurdenとLena Groveの重なり合いについて論証した。また、ハーヴァード大学図書館およびニューヨーク市立図書館、ハーレムのショーンバーグ図書館において、フォークナー関係、アフリカ系作家関係の資料調査を行い、論文のテーマに発展させた。その間、フェミニズム批評、ポスト・コロニアル批評、多文化主義批評などから大きな刺激を受けたが、その成果は、合計8本の論文として内外の学術雑誌、研究誌、大学紀要などに発表された。現在、「フォークナーの女性表象---マイノリティの<アメリカ>」と題する著書を準備中であり、すでに、250ページほどの分量がすでに完成し論文のかたちで出版されている。
著者
河西 栄二
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、日本の具象木彫表現において独特な表現様式を作り上げた6作家(内藤堯雄、橋本平八、新海竹蔵、桜井祐一、円空、木喰)に焦点を当て、作品実見研究や資料収集に取り組み造形的検証を行った。樹種・木取りなど材料について、一木・寄木・道具・彫り方など技法について、モデル・形態・プロポーション・テーマ・精神性などの表現について分析し、それらの作品に潜む「日本のかたち」、土着的、原始的な独自の美のありようについて研究を行った。そして、その成果を基に自身での木彫制作研究にも取り組んだ。
著者
田上 正範 山本 敏幸 奥貫 麻紀
出版者
追手門学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

学生が大学卒業後も社会で活躍するために、学生と社会人とのコミュニケーション・ギャップを乗り越える、より実践的な育成モデルが必要である。本研究は、ギャップを乗り越える方法論として、「交渉学」に着目し、学生の現実的側面の向上を図るための動画教材の開発と、学生及び社会人のコミュニティ形成に取り組み、両者が学び合う実践モデルを研究した。これらの研究プロセスから得た知見を報告するものである。
著者
作野 誠一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、外部指導者の効果的活用に向けた条件整備の方策について、実証データに基づく具体的・実践的な提言を行うことであった。自治体への調査からは、現状のままでは外部指導者の地域差が露呈する可能性があること、外部指導者をめぐる各種制度については全体として「重要だと思うが実施していない」傾向があること、部活指導員の導入について「反対」の自治体はほとんどみられないことなどが明らかになった。また教員調査からは、外部指導者の導入を支持する割合は高いものの、部の状況によって判断すべきであるという意見もあること、複数種目部や地域クラブへの移行については慎重であることなどが明らかになった。
著者
白 迎玖 三上 岳彦
出版者
東北公益文科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、日本で蓄積された研究成果を有効利用し、途上国の実情に鑑み、観測およびシステム保守のコストを抑えながら、中国・上海において高密度自動観測システムを初めて構築し、長期間にわたって37箇所で気象観測を実施して得られたデータに基づいて、上海におけるUHI(Urban Heat Island)の実態を解明することを目的としている。観測によると、上海の月平均気温が上昇し、特に2005年の最高気温38℃を超える日数が10日以上、最高気温の最大値は39.8℃であり、世界的に見ても異常な高温化が顕著化していることが確認された。また、季節別の気温上昇については、春季(3-5月)と夏季(6-8月)の気温の上昇率が大きかった。1985-2005年の20年間に上海の気温上昇は、春季の気温の上昇が約2.53℃/20年でもっとも大きく、冬季(12月〜3月)の気温上昇は1.43℃/20年でもっとも小さかった。上海では風の弱い晴天夜間にUHIが年間を通してはっきり存在している。7月のUHI強度の最大値(月平均値)は4.3℃で、8月の場合には3.4℃であった。UHI強度は日没後急速に増加し、その後は同じような状態が日の出頃まで続くことが明らかになった。また、UHI強度の時間変化と風向とは密接な関連があり、各地域のUHI強度のピーク値の出現は風速と関連があることも確認された。さらに、UHI強度のピーク値は、20-22時と0-3時に現れると同時に、公園緑地のUHI緩和効果も同一時間帯に最大になることが判明した。7月には、夜間は市中心部にある公園緑地のUHI強度の最大値は旧密集型住宅地よりも約1.3℃低かった。8月には、夜間は市中心部にある旧密集型住宅地のUHI強度の最大値の方が約1.4℃高かった。
著者
黒石 智誠 菅原 俊二 田中 志典
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ビオチンは水様性ビタミンB群に属し、細胞内において5種類のカルボキシラーゼの補酵素として機能する。これまでに、アトピー性皮膚炎患者における血清中ビオチン濃度の低下が報告されている。本研究では、マウスモデルを用いて、アトピー性皮膚炎発症に対するビオチン摂取量の影響を解析したが、その影響は認められなかった。一方、ビオチン欠乏マウスでは、ビオチン充足マウスに比較して肝臓中のアミノ酸(メチオニン、システインなど)含有量が低下していた。さらに、ビオチン欠乏に伴う抗酸化能の低下も認められた。
著者
北原 啓司
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

東日本大震災からの復興を広域的に支援する拠点として設置した「きたかみ震災復興ステーション」における実践を通して、復興まちづくりにおける多様な課題を整理し、次に発生する可能性の高い南海・東南海地震における災害復興に向けた重要な論点を抽出することができた。また、「きたかみ震災復興ステーション」のように、専門家と行政、そして地域活動団体が連携する形での広域後方支援拠点が、広範囲の災害からの復興において如何に重要であるかを明らかにした。
著者
井上 和明
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

慢性C型肝炎は世界で2億人近くが感染し、肝細胞癌や肝不全の原因の筆頭である。現在の標準治療の効果は十分とはいえず新たな治療法の確立は臨床上の急務である。経口剤のウイルス増殖阻害剤の欠点を克服すべく、我々は新たな環状ペプチドライブラリーを用いてHCVの増殖に必須である宿主因子の、サイクロフィリンの阻害薬のスクリーニングを行い、カルシニューリンと相互作用を持たないLead化合物を発見し、検討している。
著者
杉本 幸裕 稲永 忍
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

コウモリカズラ(M.Dauricum)培養根の生産するストライガ(Striga hermonthica)の発芽刺激物質の精製を行った。活性物質をXAD-4に吸着させ、メタノールで溶出し、溶媒留去後、酢酸エチルで回収した。その後Sephadex LH20、C18 SEP-Pak Cartridgeを用いて精製し最終的にHPLC分取により単離した。これらの過程で、活性はコンディショニングしたストライガ種子を用いた生物検定により測定した。その結果、3種の発芽刺激物質を見出した。このうち最も高い活性は、HPLCでストリゴールと同じ位置に溶出された。また、分取された画分のUV吸収スペクトルはストリゴールおよびストリゴール類縁体のソルゴラクトンの文献値ときわめてよく似ていた。マススペクトルはストリゴールの文献値とよく似た開裂パターンを示した。以上から、コウモリカヅラ培養根の生産する主なストライカ発芽刺激物質はストリゴール、またはストリゴール類縁体であると考えられた。本研究の結果、非宿主植物のコウモリカズラ培養根がストリゴール、またはストリゴール類縁体を生産していることが明らかになった。新規な発芽刺激物質の発見には至らなかったが、ストリゴール類が植物の代謝産物であることを初めて明らかにした。
著者
加井 久雄
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は,会計の機能を会計基準の国際的統合化の文脈で数理モデルを使って検討するものである。日本の金融庁は,2015年4月に『IFRS適用レポート』を公表した。このレポートは,IFRSを任意適用した日本企業を対象にしたアンケート調査の結果を紹介している。その中で興味深いのは,IFRSを任意適用した理由として最も多かったのは経営管理への貢献であり,財務報告の比較可能性を大きく上回った。このことはIFRSを任意適用する日本企業にも,経営管理体制はあまり変えないまま,財務報告の部分だけを変えている企業と,経営管理体制を根本的に組みなおしている企業あることを意味し,この差異をもたらす要因の解明が重要であると言える。本年度は,前年度に引き続き,IFRSを基礎とする多国籍企業全体の最適な経営管理体制について検討した。「企業集団内の統一会計基準の性質と組織構造」では,本源的な企業価値を生み出す活動を行う生産部門と業績評価や公表財務諸表の作成といった情報生産を行う会計部門の関係に焦点を当て,多国籍企業内で統一的に利用する会計基準(IFRS)の性質によって生産部門と会計部門の最適な距離がどのように変わるのかを明らかにした。また,「「企業集団内の統一的会計基準と会計部門の活動」では,生産部門と会計部門の距離を所与として,会計部門は,情報生産コストの削減活動と生産部門への助言活動の二つの活動を行うものとし,多国籍企業内で統一的に利用する会計基準(IFRS)の性質によって会計部門の二つ活動の最適な水準がどのように変わるのかを明らかにしている。これらの研究は,多国籍企業におけるシェアードサービスの利用についても理論的な視点を与えるものである。