著者
今岡 克也
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は,1997年3月16日愛知県東部地震(M:5.8)の際に調査したアンケート震度の中から,高層建物内に居た人の震度に着目して,建物-地盤系の微動測定に基づいて,地震時の建物の揺れ易さを評価するものである。初めに,1999年8月21日和歌山県中部地震(M:5.5)と2000年7月15日新島地震(M:5.9)で,地震波形が観測できた三重県と静岡県内の地震計設置地点で微動測定を実施し,地震波形の卓越周期や継続時間と微動特性との関係を明確にした。次に,アンケート震度か得られた高層建物の中から震度が大きかった16棟を選び出して,建物-地盤系の微動測定を行い,(1)地盤の卓越周期,(2)建物の固有周期,(3)建物最上階の増幅倍率などを算定した。さらに,微動の測定結果を利用して,愛知県東部地震で得られた既存の地震波形から建物直下の波形を推定し,地震時の建物応答を算定し,アンケート震度と比較した。以下に,本研究で得られた研究実績をまとめる。1.愛知・三重・静岡県内の約220地点で,微動の卓越周期とM5.5〜5.9の地震波形の卓越周期を比較した結果,微動の卓越時のH/V倍率が5倍以上の場合には,8割以上の地点が地震波形の卓越周期とほぼ一致することが判明した。さらに,両者の卓越周期がほぼ一致する場合では,微動の水平動とH/Vスペクトルの卓越周期もほぼ一致することが分かった。2.建物-地盤系の微動測定によって,建物の固有周期が地盤の卓越周期と近接している高層建物は,地震時に同じ周期で長く大きく揺れる共振現象が起きることが判明し,それによって建物内のアンケート震度が大きくなることが推定できた。
著者
中沖 靖子 佐野 英彦 野田 守
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

カリエス治療に汎用されるレジン系充填材料は、健全歯質の保存という観点からその長期耐久性も重要と考えられる。申請者らは、この長期耐久性を阻害する接着界面のバイオデグラデーションの本態を解明するため、抗酸化剤の機能を有するプラチナナノコロイドを用い、劣化をとどめる方策を考えた。それに際し、接着界面の分子レベルでの超微細構造の情報を得るため、非常に高分解能であるが生体、特に軟組織観察に不向きとされてきた超高圧電子顕微鏡を、生体観察に応用する手技を確立した。
著者
石井 吉之 小林 大二
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

(1)北海道北部の多雪山地流域では、精度の良い水文・気象観測が十数年間にわたり継続されている。これらのデータを用いて各年の流域水収支を計算し、流域貯留量の年々変動を調べた。また、気温を変数とした積雪・融雪ルーチンとタンクモデルを用いた流出・貯留ルーチンからなる流域水収支モデルを構築し、積雪貯留量の変動が流減水収支に及ぼす効果を検討した。近年、日本各地に暖冬少雪傾向があると言われるが、この地域ではそのような傾向が見られるのか、また、その場合には流減水循環にどのような影響が現れるのかを、このモデルを用いて考察した。モデル計算の結果、積雪貯留量の大きな年々変動は単に冬期降水量ばかりに依存するのではなく、積雪期や融雪期の気温にも大きく依存することが示された。また、積雪貯留量の大小が夏期渇水期の河川流出高に及ぼす影響は小さいことが明らかになった。(2)上と同じ流域において、全融雪期間にわたって流域内における水及び化学物質の収支を明らかにし、その上で地中での流出過程を考察した。融雪水・混ざり水・地下水から成る3成分モデルによってハイドログラフ分離を行なった結果、地下水の流出寄与分は全融雪期間にわたって約40%とほぼ一定に保たれ、このために、融雪期における流域内での化学物質収支は流出過多になることが明らかにされた。(3)隣接する2つの森林小流域において融雪期の流出特性を比較した。2つの流域は面積・形状・地質・植生・土壌特性がよく類似しているにもかかわらず、土壌層に顕著な違いがあるために流出特性にもその影響が明瞭に現れた。また、土壌層が特に厚い内部小流域が流出の非ソースエリアとなるため、見かけ上は同じ流域面積でも実質的には異なることが明らかにされた。
著者
小南 靖弘 横山 宏太郎
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.種々の雪質の積雪について音速および音響減衰係数の測定をおこない、雪の物性と音響特性との関係を検討した。用いた音は200Hzから1/3オクターブ刻みで8000Hzまでの正弦波である。その結果、以下のことがあきらかとなった。(1)間隙空気中を伝播する音の音速は伝播経路の屈曲度を反映している。これは積雪中のガス拡散係数における拡散経路の屈曲度と同様であるが、音の伝播は屈曲した間隙中の最短距離を通るのに対し、ガス拡散の場合は屈曲した間隙の平均的な距離を反映していることがわかった。(2)間隙空気中を伝播する音の減衰係数は粒径×気相率で求める間隙サイズ指標の二乗に反比例し、圧力変動によって生じる間隙内のマスフローの減衰と同様の現象であることが確認された。また、結合した雪粒子を伝播する音の減衰係数は積雪密度に反比例し、質量効果による遮音のメカニズムによるものと推測された。以上の結果より、音速および音響減衰係数の測定より、積雪のガス環境を決定するパラメタであるガス拡散係数や圧力変動に伴うマスフローの減衰度合いなどを推定できることがわかった。2.自然状態の積雪中の底部、内部および表面の二酸化炭素濃度の連続測定をおこない、表層近くの積雪の見かけ上のガス拡散係数が風によって増加する現象を確認した。さらに、その程度は風速の二乗と積雪表層の間隙サイズとに比例することをあきらかにした。
著者
西村 喜文 森谷 寛之 今村 友木子
出版者
西九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、健常な乳幼児から高齢者を対象に、コラージュ技法を用いて発達的集計調査を行った。具体的方法としては、2189名のコラージュ結果を収集し、形式分析(全体的表現特徴、切り方、貼り方などの表現特徴)、内容分析(表現された具体的内容)、印象評定分析(表現された作品の印象)を行い、乳幼児から高齢者までのコラージュ表現の発達的特徴を明らかにした。また、コラージュ技法のアセスメントとしての有効性について考察した。
著者
浜田 弘明 金子 淳 犬塚 康博 横山 恵美 森本 いずみ 平松 左枝子 清水 周 橋場 万里子
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

「鶴田文庫」は、博物館学者・故鶴田総一郎旧蔵の博物館及び博物館学に関する蔵書・資料群で、その総量は段ボール箱約250箱に及び、桜美林大学図書館が所蔵している。本研究では、最も公開が望まれている国内外の書籍に重点を置き、約13,000点に及ぶ資料の目録化を実現した。合わせて、鶴田の業績を明らかにしつつ、日本における戦後博物館学の発展・展開過程を検討した。目録化された資料は、桜美林大学「桜美林資料展示室」の「鶴田文庫コーナー」で公開している。
著者
小林 啓治
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

北丹後震災にかかわる被災地の町村の史料を悉皆調査した上で、重要史料をリストアップし、簿冊目録・件名目録を作成した。重要史料のデジタルデータを蓄積するとともに、京都府行政文書の中から北丹後震災関係文書をリストアップし、被災地史料とつきあわせて重要史料の翻刻を行い、史料集を刊行した。以上の史料に分析を加え、被災地の目からみた北丹後震災の被災状況、救護・救援活動の特質について解明した。
著者
横須賀 俊司 松岡 克尚 津田 英二
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

害者ソーシャルワークを実践していくには、まず、今のソーシャルワーカーが自分自身を自己変革していく必要がある。その次に、ソーシャルワーク理論における現在の到達点である交互作用モデルを拠り所にしながら、人と環境という二元論的とらえ方を改め、人と環境を一元論的にとらえていくことが求められる。そのために、障害者の身体を交互作用が生じる場としてとらえていかなければならない。さらに、これまでとは異なるオルタナティブな障害者ソーシャルワーク専門職を実現するために、科学化・アカデミックな理論を必ずしも求めるのではなく、障害者の経験知に基づく活動を支えていき、ソーシャルワーカー自身が相対化できる視点や知識を形成していかなければならないのである。
著者
矢崎 紘一
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

この期間に行った研究の成果は,大別して,次の3つにまとめられる。1)光円錐上での南部・ジョナ-ラジニオ模型の定式化とその一般化。2)核子の相対論的クォーク模型による形状因子,構造関数の計算。3)クォーク・クラスター模型によるバリオン間相互作用の総合報告の完成。このうち,1)は東海大学のベンツ助教授たちとの共同研究で行った,南部・ジョナ-ラジニオ(NJL)模型の光円錐上におけるハミルトニアン形式の定式化を検討し,ドイツ,エルランゲン大学のレンツ教授,ティース教授および東京大学の太田教授たちと,光円錐上でのカイラル対称性とその破れの記述法の問題に一般化して,ワード・高橋の恒等式を用いた考察を進めるとともに,発散の正則化について新しい手法の提案を行った。2)はベンツ助教授,理化学研究所の石井博士,台湾国立大学の峯尾博士たちとの共同研究で,NJL模型に基く核子の相対論的クォーク模型において,クォーク間相互作用に軸性ベクトル状態でのものを含めて,核子の電弱形状因子や構造関数を計算し,その影響を調べるとともに,簡単化したクォーク・ダイクォーク模型により核物質での核子の構造変化を調べた。3)は東京工業大学の岡教授,上智大学の清水教授たちと20年近くにわたって進めてきたクォーク・クラスター模型によるバリオン間相互作用の研究の総合報告を完成させ,Prog. Theor. Phys. のSupplementの1冊として出版した。
著者
丸山 宏 潘 立波 金 敬雄 柳田 賢二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、中国とロシアの極東における国境地域および国境付近に住む少数民族の精神文化および言語文化が、社会主義の新中国およびソビエトが成立して以降、特に1970年代末から1980年代にかけて市場経済の導入と社会体制の変動が起こる中で、どのように構造変動しているのかを解明しようとしたものである。本研究は平成11年度と12年度の2年間にわたり行われた。初年度は、関連文献の国内外における調査と収集を行った。2年目において研究代表者の丸山宏は、9月に中国内モンゴルに赴き、聞き取り調査と文献収集を行い、エヴェンキ族、オロチョン族、ホジェン族などのツングース系民族について、現代史における生活の変化を跡づけることを試みた。1949年から90年代初までの各民族自治旗の民族人口比率の激変、社会制度や生活様式の変化にともなうシャマニズム文化の断絶、漢族との婚姻率の高さや民族語教育の不備による言語文化の喪失などの諸問題について、その変化の実態を整理することができた。柳田賢二は、中国の朝鮮族居住地域で資料収集した他、極東から中央アジアに移住させられたロシアの高麗人の言語がロシア語の影響下で変容している実態を考察し、将来において極東ロシアの朝鮮系の人々の言語と比較するための予備的基礎作業を行った。金敬雄は中国朝鮮族の言語の変遷に関して、新中国成立以降、文革期を経て、韓国との国交樹立以後までを時期区分し、特に中国語と韓国の朝鮮語からの特徴的な語彙の受容から新しい朝鮮語が成立しつつあることを検討した。潘立波はホジェン族の民間英雄叙事文学である伊瑪堪を取り挙げ、1930年代の記録と90年代の記録を比較し、民間文学の記録という領域における時代性とその異同点を整理した。
著者
八木 浩司 佐藤 浩
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

低ヒマラヤ山地斜面に発達する地すべり地形の分布図作成を通して,地すべりの発生しやすい地形・地質条件を明らかにすることでハザードマップ作成のための危険度判定基準を明らかにした.
著者
横山 泰行
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

重度化・重複化している精神遅滞児になわとび運動を定着させるためには,きめの細かい指導案が不可欠である.この要望に対して,現在のところ唯一満足のゆく指導案を公表しているのは,高畑の著書「フ-プとびなわでなわとびは誰でも跳ばせられる」である.本研究では,「フ-プとびなわ運動」の指導ステップを紹介し,次に,高畑の実践報告書「フ-プとびなわ驚異の教育力」を文献資料として活用している.つまり,重度の精神発達遅滞で,自閉的傾向の認められる事例児のフ-プとびなわ運動に見られるマスター過程を克明に追跡し,その過程で本人の心身(肥満問題や身体活動量・運動能力問題など),家庭の両親,指導者,クラスの仲間に及ぼした影響を要約をするものである.この事例児は「フ-プとびなわ運動」で肥満解消に成功することはできなかったが,肥満程度の昂進しやすい思春期に,肥満の最重度化にブレーキを掛けることに成功したケースである.数百回に及ぶなわとび運動の消費エネルギーも,重度肥満の程度を大幅に軽減できる身体活動量とはならなかった.本研究の後半は,小学部の頃から重度肥満であった事例児が中学部において,急速に肥満を解消していった過程を詳細に追跡している.血液の生化学的検査により,このままの状態が続けば,事例児の病気は避けられないといった診断結果が肥満解消を促す最大の動因となった.肥満解消の原因は,父親が学校と緊密な連絡を取りながら,家庭での徹底した食事管理,掃除や散歩の活用,学校側での定期的な身体測定,食事量・運動量のチェックと是正,家族に対する正しい肥満知識の普及,両親を説得して肥満治療にあたった点にあるといえよう.また,嘔吐による体の変調も急激に体重を減らした要因であった.
著者
姫田 麻利子 パンジェ マリー=フランソワーズ パンジェ マリー=フランソワーズ
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本の初習外国語教育が、目標言語話者との出会いが差し迫ったものではない中で異文化間能力育成の結びつきを具体的にするには、「異文化間の気づき」能力の育成と実際的評価が必要である。本研究では、異文化体験時の主観的記述を、自省と「異文化間の気づき」能力証明、将来的発展の道標として有機的に組織し、また評価対象として読む他者の存在を想定した有機性も持たせるための指示文を備えた教材を日本人大学生向けに提案した。
著者
森田 啓
出版者
千葉工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本年度は、1年目からの継続で、実際に運動遊び指向を指導方針に置くクラブ(競技志向が比較的弱い)に所属するジュニア・ラグビー参加者を対象に調査活動を行った。調査の結果については、集計および分析を進め、近く公表する予定である。実際のプログラム作成の過程で、身体接触とともに、普段の日常生活では体験しない浮遊感覚を体験できるものとしてスノーボードに着目し、スノーボード体験者にも調査活動を実施した。本研究で着目した「キレ」の状態は、深層心理学では、日常生活とは異なるこころの状態(変性意識状態)のひとつと考え、この状態では無意識領域の働きが活性化し、私たちの日常の合理的な論法が通用しない独特な思考様式が浮かび上がるとする。「無意識の教育」のためには身体が直接感じる「感情」「感覚」を教材化、プログラム化することとなる。身体が直接感じる「感情」「感覚」は「無意識」の領域に属すると考えられるからである。本研究で行ってきた調査においては、これらを言語化し、他者との対話の中で浮かび上がらせることによって、「無意識の力」が存在することを考えるきっかけとなるよう工夫してきた。普段は意識できない、あるいは自分にはどうすることもできない「無意識」の領域があることが認識・理解できれば、次の段階、つまり「無意識」とうまく付き合うこと、それをいかにコントロールするかを考えることが可能となる。本研究において、他者との身体接触やスノーボードなどの体験においては、痛い、怖い、むかつくなどの否定的感情を喚起することが可能であり、経験をつむことによってこれらの感情を抑制したり、コントロールできる可能性が示唆された。今後は、実際にさらにデータを収集し、考察を進めていきたい。
著者
鳴坂 義弘 安部 洋
出版者
岡山県生物科学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

モデル実験植物から農作物への技術移管のモデルケースを提案することを目的として、ゲノム配列が明かになっているシロイヌナズナとアブラナ科作物のハクサイについて遺伝子レベルでの比較解析を行った。ハクサイの遺伝子ライブラリーを作成して2000個以上のハクサイ遺伝子を得、これら遺伝子を用いてマイクロアレイを作製し、遺伝子発現解析を行った。その結果、両植物間で機能が類似する遺伝子の存在が示唆され、技術移管に向けた重要なデータが得られた。
著者
工藤 元男
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

戦国楚の地域文化の一つとして発生した「日書」が、秦漢帝国を媒介にして、ある意味で普遍的な占卜文化として流通してゆく歴史的過程を明らかにした。またその過程で「日書」が前漢武帝期頃から弛緩・解体し始め、他の占書の中に組み込まれてゆく状況も明らかにした。このような「日書」の歴史的性格は、戦国晩期以降の郡県制の発達と連動するものであり、出張が多かった地方の郡県少吏にとって「日書」が必要不可欠な占いであったことを明らかにした。
著者
金子 晃
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は偏微分方程式とトモグラフィに関連した数学の問題の理論的研究と計算機を援用した実践研究を主題とした継続的なものであり,今期の科学研究費受領期間中においては,主として以下のような研究を行い,成果を得た.(1)冪型の非線型項を持つ非線型熱方程式に対する藤田型の爆発の臨界指数は,錐の開きを識別できたが,放物型や柱状などのさらに狭い領域に対しては,有界領域との区別さえできない.これに対し,対数型の非線型項を導入すると,これらが区別できることを期待して,その一般論を構築した.特に,log uと1/log uを補間した函数logg uのp冪とuの積の形の非線型項に対して,任意の領域においてpに対する爆発の臨界指数が確定することを示した.具体的な領域に対するこの新しい臨界指数の決定は将来の課題として残された.(2)平面2値画像の2方向投影データからの再構成は,ほとんどの場合に一意性が無く,得られる解の関係や,よい条件を持つ解の探索はあまり明らかにされていない.本研究では,スイッチング演算により解の集合に有向グラフの構造を与え,その諸性質を調べることで,この問題への新たな接近法を開発した.こうして導入されたスイッチンググラフについて,さまざまな連結性,特にハミルトン性など,多くの興味深い結果が得られた.また,多くの未解決予想も得られ,新しい研究分野を拓いた.(3)代数幾何符号を画像に組み込む方法を発展させ,自動修復画像やマスク,電子透かしへの応用等を与えた.(4)逆畳み込みはトモグラフィの反転公式と同様,代表的な非適切問題である.ある種の正則化計算を導入して逆畳み込みを計算することにより,焦点のずれた実写写真の焦点補正を行い,この手法の実用性を確認した.本研究は,適切な逆畳み込みのパラメータを自動検出するところまで進めてから発表予定である.
著者
三宮 真智子
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は, 人間の情報処理に対する科学的探究心の育成を重視した問題解決志向のコミュニケーション学習プログラムの開発を目指し, 次の3つの成果を上げた。(1) 一般社会人として必要なコミュニケーション能力を構成する知識, スキルを体系化した。(2) ミスコミュニケーション・データベースを試作した。(3) コミュニケーションがうまくいったり失敗したりするのはなぜなのかを科学的に探究する学習プログラムを開発した
著者
北山 研二 川上 善郎 村瀬 鋼 木村 建哉
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

課題研究「なぜ人々は物語なしに生きていけないのか------多メディアの中の物語の発生・展開・終焉------」を遂行するための本研究会は、理論的研究部門と事例調査研究部門とに分けて、それぞれに必要な多種多様なレクチャー・研究会(21回)、国際シンポジウム(1回)、現地調査(2回)・討論会(6回)等を3年間実施した。理論的研究としては、物語の定義、物語の成立条件、物語の存在論などが研究され、狭義の物語よりは多分野横断の物語の再定義、物語の存在論的可能性が提起された。事例調査研究では、既存の特定の分野には限定できず複数分野横断の研究となったが、あえて分類すれば、文学(4件)、メディア(5件)、映画(3件)、美術(2件)、文化制度(2件)、哲学(1件)、消費社会(1件)、演劇・オペラ(1件)、経済(1件)、心理(1件)であった。そこで論点となったのは、どの分野でも物語が大きな役割を果たし、「大きな物語」(国家論、革命改革論、資本主義、社会正義、会社至上主義、大義名分、文化制度、新旧論争、モダニスムとポストモダニスム、成功物語、共同体神話、良妻賢母、女性差別等々)とその細部にはそれとは矛盾するような無数の「小さな物語」(失権復活、隠れた天才、娯楽優先、事実優先、対象固執、恋愛至上主義、個人利益優先、個性尊重、怨恨復讐、青春回顧、年功序列、伝統墨守、自分探し等々)がせめぎ合っている、あるいは現代特有の現象として「大きな物語」に回収されない「小さな物語」の集合などが確認された。しかし、「大きな物語」の復権の可能性があることも確認された。今回の課題研究では、こうした理論的研究と事例調査研究を相互に連携させて研究会・レクチャー・討論会を組織したので、新しい視点と論点が交錯し研究に奥行きを与えることができ、多分野への総括的問題提起型の内容豊かで刺激的な報告書が作成できた。
著者
西村 美東士 福留 強 清水 英男 齋藤 ゆか 谷川 彰英
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

現代青少年に関する諸問題については、「個性尊重」による個人の充実のための支援とともに、望ましい社会化を支援するための理念が形成されてきた。しかし、それは次の理由から、不十分な結果に終わっていたと考える。第1に、「一人でも(よりよく)生きられるようになる」ことを望む「個人化」欲求を社会化とは二項対立的にとらえたため、「個人化」支援と統合された社会化支援理念の構築が不十分であった。第2に、「仲間と(よりよく)生きられるようになる」ことを望む萌芽的な「社会化欲求」に対して、魅力的な方策を示し、さらには社会参画につながる展望を示すという点で不十分であった。本研究では、これまで蓄積してきた「青少年問題ドキュメンテーション」等を活用した文献分析等によって、支援理念の変遷過程を検討した。キーワードに関しては、文脈まで含めて細部にわたり分析し、社会化支援理念が、青少年個人の即自、対自己、対他者、対社会の気づきにどう対応しようとしてきたかを検討した。その結果、その変遷過程に一定の特徴を見いだし、より効果的な支援方策のための知見を得た。家族問題に関しては「ひきこもり」等の問題について、職業・就職支援に関してはフリーターやニート等の問題について検討した。その結果、個人化と社会化の統合的支援や、自己形成と社会形成の一体化の実現に向けた有益な知見を得た。青少年対策行政機関や青少年教育機関等が発行する関連文献については、社会化支援理念を共有し、発展させるための意義を明らかにした。同時に、社会化効果の測定や、より効果的な施策・事業展開のための計画策定の指標について、また、経験知としての側面の大きい社会化支援実践に関する他メディアの活用等について、成果公開の内容と方法の改善に関する知見を得た。(成果公開ホームページ:http://mito.vsl.jp)