- 著者
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堀内 孝
- 出版者
- 岡山大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2006
本研究では,「自伝想起の生成・再認モデル(堀内,2004a)」における再認プロセスを精緻化するために,自伝想起の意識的成分と自動的成分の性質の相違に関して実験的な検証が行われた。実験1,2では,想起時間を操作した検討が行われた。実験1では,実験参加者にはあらかじめ想起時間(2秒,6秒)を告知した上で自伝的記憶を想起させた。実験2では想起時間を告げず,想起開始から2秒あるいは6秒で強制的に打ち切った。いずれの実験においても,意識的成分は6秒条件と比較して2秒条件の方が少なかったが,自動的成分では有意な差が認められなかった。この結果は,自動的成分は意識的成分と比較して,想起開始後の早い段階から惹起し,2秒後には十分に機能していることを示している。実験3では想起する自伝的記憶の新旧の違いを操作した検討が行われた。大学3年生を実験参加者として,想起する自伝的記憶が古い条件(中学の3年間)と新しい条件(大学の3年間)における意識的成分と自動的成分を比較した結果,いずれの成分に関しても古い条件の方が新しい条件よりも少なかった。一般的に自動的成分は時間耐性があるが,6年もの歳月が経過するとさすがに減少すると考えられる。実験4では事象関連電位を使用した検討が行われた。Czにおける1600msから2000msの平均電位を比較した結果,"思い出せる(Remember)"判断の方が"わかるだけ(Know)"判断よりも有意に高かった。1600ms以降の両判断の波形の違いは,意識的成分と自動的成分の生起速度の違いを反映しているものと解釈された。これらの実験結果は,自伝想起の意識的成分と自動的成分が基本的に異なる特性を有しており,独立したプロセスであることを示すものである。本研究の知見にもとづき「自伝想起の生成・再認モデル2008」が提唱され,その応用可能性と評価に関する議論が行われた。