著者
植田 宏文 藤原 秀夫 丸茂 俊彦 五百旗頭 真吾 林田 秀樹
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、資産の証券化を通じた市場型間接金融の拡大等に代表される金融システムの変革が、どのような経路を通じて経済の成長に資するのか、さらにその問題点は何かについて理論・実証的に明らかにすることを目的として分析を継続してきた。これらの分析は、現在における経済諸問題の背景を明確化させ、混迷を深める今日において将来のあるべき方向性を示す上でたいへん意義があるものと言える。
著者
田中 美栄子 田伏 正佳
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究では人工知能の基礎となるような複雑系科学に的を絞り、経済系、脳の解明に応用数学の経験と計算能力を投入することを目的とした。主テーマは経済情報物理学、人間乱数のHMMモデル、非侵襲的診断へのニューラルネットワーク応用、エージェントの協調、であるが、経済情報物理学の占める割合が特に大きかった。初年度は協力者田伏との共同研究で、次年度以降は代表者田中が単独で、学部学生9名の卒業研究テーマとしても用いながら行い、モデルと実データの解析から様々の新たな知見を得ることができた。後半には研究の重点を複雑系としての経済現象にしぼり、「経済物理学」と「人工市場」の二つ研究グループと接触を保ちながら、経済物理学はポジティブフィードバックによるマルチエージェント・シミュレーションから、パラメータ空間が二つの相に分かれその臨界点に対応する値でちょうど実際の高頻度金融データと同じ統計性を示すことを具体的な形で明らかにした。結果の前半は2001年4月発行のINFORMATION誌第4巻に、後半はEmpirical Science of Financial Fluctuations(Springer,2002)に掲載された。また、高頻度金融(TICK)データの性質を高速コンピュータ解析で扱い、スケール不変な統計性から乱流との類似、細かな動きの予測可能性、および多国間の為替の同時取引を仮想的に行った場合の裁定機会とその緩和時間について具体的な知見を多く得た。最後に複雑系経済学の国際的な研究センターの一つであるサンタフェ研究所を2月に訪問して意見交換を行った。人間乱数の研究は実データの時系列解析により個人の性格に対応した特徴をパラメータに取り入れることが可能であることを明らかにした。非侵襲的診断へのニューラルネットワーク応用は吉田氏の開発した計測機器と共に特許申請した。
著者
北山 斡人
出版者
福岡工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

焼結助剤としてランタノイド中最もイオン半径の大きなLaと最も小さなLuの酸化物を選択し、(1-x)La_2O_3+xLu_2O_3(x=0,0,1,0.2,0.3,…,1)の混合比で窒化ケイ素焼結体を作製し、その…転移の活性化エネルギーを決定した。その結果、x=0.3でx=1の値にほぼ等しくなった。このことは、イオン半径の小さな希土類元素が、より強く窒化ケイ素粒界界面に結合することを強く示唆する。
著者
横川 宗彦 大竹 浩靖
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

環境保護の観点から,油剤を使用しないセミドライMQL加工やドライ冷風加工などにおいて,空気単層流の加工点の冷却メカニズム,加工熱と供給空気冷却との熱収支限界の基礎関係を把握するための実験と解析をし,また実際のCBN研削により確認した.赤外線加熱器によって,想定した加工熱を工作物に与え,その加熱点に与える空気の供給状態を変化させ実験を行い,また加工点の空気除熱伝熱関係を逆問題解析し,種々の供給条件における冷却特性を求めた.供給空気の流速が速く,低温になるほど,加工点および周囲の冷却性が高くなるとわかった.また,CBNホイールで高能率冷風円筒研削を行い,工作物の表面組織状態,硬さ分布,残留応力分布を測定した.0.2Nm^3/min,-60℃の冷風で,高能率研削でも油剤と同じ冷却効果が得られることを確認した.さらに,高速空気流の中に水滴ミストを混入させ,ミスト添加による乱れの増加や潜熱による冷却性向上を目的に基礎実験と解析を行い,その効果を明らかにした.流速をレーザドップラー流速計で測定し,加熱点における液滴や液膜の状態を高速CCDカメラによって測定,観察した.加熱点温度は電圧制御され,定常状態にし,外挿値により加熱表面温度をフーリエの法則を用いて壁面熱流束を求めた.水滴を添加させたことによる気相の攪乱効果よりも液膜形成による潜熱効果が大きいことがわかった.水滴量0.3L/hでは,空気単層流の約3倍であり,水滴量に比例して冷却性効果があった.また,水滴速度が速い方が熱伝達率が高くなることがわかった.しかし,冷却性を高めるためにはある程度以上の水滴量が必要とわかった.以上のように,空気単層流でも流量を少なくしても,流速を向上させることにより熱伝達率が向上し,冷却性が向上する.また水滴を圧縮空気とともに供給することによって,潜熱から冷却性が高くなることがわかった.
著者
高橋 信雄
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1,親の意識は、音反応出現後に安堵感を示し、その後、就学前までは聴覚とことばを意識していた。就学後は、聾学校の場合には手話を、通常小学校の場合には子どもの得意とするコミュニケーションを心がけているが、聴覚への意識が十分には持続できないことが多かった。教師側は、聾学校では聴覚活用の意識が十分でなく、通常小学校では聴覚的な配慮が十分ではなかった。2,対象児の変容:(1)コミュニケーション様式の変容:通常学校に通う児の場合、聴覚口話が多いが、十分には通じないと思われる児では、手話を併用している。この場合、親も子も手話が十分でなく、簡単な日常生活程度の簡単な手話しか使用されず、コミュニケーションが不十分となるだけでなく、意味概念上の深まりが極めて浅いことがわかった。(2)聴覚情報処理上の変容:コミュニケーションモードの種類に係わらず、術後の年数と共に向上していった。音声情報処理能力は、電極の挿入具合ばかりでなく、術前の聴覚的な活用能力が大きく影響していると思われる。(3)言語能力の変容:小学校の低学年では、読字力、語彙力、文法力、読解・鑑賞力の各領域において学年相応の力を持っているが、聴覚的情報受容力が十分でない群では、読字力以外の領域の力は、学年があがるにつれて伸びが鈍くなった。(4)話しことばの変容:構音は、年数と共に改善が認められたが、聴取能力に依存するところが大きく、個人差が大きかった。また、聴取能力の向上だけでは、一部の音は歪んだり、鼻音化することも多く、発音指導が必要であった。手指コミュニケーションモードの児ほどその傾向は強かった。(5)聾学校では、体系的なリハビリプログラムがなく(93%)、病院・リハビリ施設・学校との連携したプログラムが必要と思われた。いずれの項目も、個人差が大きく、リハビリ後の親や教師などの意識が、術後の成績に大きく関連すると思われた。
著者
矢野 真一郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

筑後川から有明海に流入した淡水の挙動を把握するために,GPS付き漂流ブイを利用したLagrange的観測を実施した.潮汐条件が中潮と大潮,筑後川の河川流量が平水時の55m^3/sから中規模出水時の1,678m^3/sまでの種々の組み合わせ条件下であった,2006年6/7と7/21,2007年7/17と7/28に現地観測を実施した.観測項目は,淡水塊の座標,流速,海洋構造(塩分・水温),水質(濁度・クロロフィルa・Ph),風向・風速である.観測は一潮汐(約13時間)もしくは半潮汐間(約8時間)に連続的に行った.観測結果より得られた主な知見は,以下の通りである.(1)風が弱い時,筑後川から有明海に流入した河川水の南北方向の運動に対しては圧力傾度力が,東西方向にはコリオリカが支配的である.(2)風が弱い時,筑後川から流入した河川水は一潮汐で西へ輸送され,移動距離は河川流量に依存する.特に,出水時は対岸の太良地先まで輸送され,一潮汐で諌早湾まで到達できる.(3)南風が強い場合,表層流が風の影響を強く受け,河川水が東岸に停滞する.次に,水平方向と鉛直方向の乱流拡散係数を推定するために,漂流ブイを複数浮かべる観測と乱流微細構造プロファイラーによる現地調査をそれぞれ4回と2回ずつ実施した.これらの観測結果より,水平乱流拡散係数は河川水の流入などの局所的な条件で異なり,1〜10^2m^2/sのオーダーをとることが分かった.さらに,鉛直乱流拡散係数は成層度,潮汐,潮時により大きく変動し,10^<-7>〜10^<-3>m^2/sのオーダーで変化していた.これらの成果は,有明海における流れの数値シミュレーションで未知のファクターである乱流粘性係数・拡散係数の評価と河川から流入する物質の湾内での輸送構造について,重要な知見を与えたものと考えられ,今後の計算精度の向上に寄与できる.
著者
坪郷 英彦
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

中国5県で活躍する草葺き屋根職人の所在調査と、地域ごとの屋根型、技術、道具の違いを調査した。その結果、環境と人の暮らしの立場から山地と平野部の屋根の屋根勾配の違い、千木の有無の違いを明らかにした。近代産業と在来技術の関わりの視点から芸州流と呼ばれる広島県の職人、出雲の職人について、技術の特徴と職人像を明らかにした。
著者
小沢田 正 中田 瑛浩 久保田 洋子
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

臓器の病変をいかに早期にかつ正確に把握するかは,今や医療診断の中心課題である.CTの発達した現在でも,高い信頼性を要求される臓器組織の確定診断においては生検またはポリペクトミ-による微小組織片の摘出とその組織病理検査に頼らざるを得ない.そこで本研究では,病理学とは全く異なる動力学の視点からの診断を考えた.すなわち摘出された微小組織の一部を用い,病変によって生じた力学特性の変化を検出することによって,その場で短時間に信頼性の高い臓器組織の病変情報を提供し得る新たな診断方法の開発を試みた.以下,本研究により新たに得られた知見の概要を述べる.1)ダイナミックダンパーの原理を応用し,臓器軟組織の動力学的な物性値測定を可能とする動的試験法を開発した.また,この手法を応用したヒト前立腺組織,ラット大動脈組織を始めとする泌尿器科臓器組織の迅速かつ高信頼性を有する新たな臨床病変診断システムの実現に一歩近づいた.2)ごく微小なはりに生体軟組織片をダイナミックダンパーとして作用させ,その振動吸収能を計測することにより逆問題的に生体軟組織の動的物性値評価を行う手法を初めて提示した.これにより,はり質量の百分の一以下,数mg大の超微小生体軟組織片の固有振動数,弾性係数,粘性減衰係数などの動的物性値測定が可能となった.3)シンプルな動的試験法であり大がかりな測定装置を必要とせず,その場で迅速な計画が可能なため,軟組織の臨床診断法として最適であることが分かった.
著者
後藤 正道 圓 純一郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ブルーリ潰瘍は、抗酸菌M.ulcerans感染による痛みのない皮膚潰瘍であるが、病変に痛みがない原因は不明であった。M.ulceransが産生する毒性脂質mycolactoneをマウス足底に注射すると、局所に知覚過敏の後に知覚鈍麻がおき、末梢神経にシュワン細胞の膨化と壊死が起こった。また、培養シュワン細胞にmycolactoneを投与すると、シュワン細胞の壊死とアポトーシスが起こった。さらに、ヒトの治療前後の皮膚生検組織でも神経の変性所見を見出した。これらの研究結果から、ブルーリ潰瘍の無痛性はmycolactoneの細胞毒性に起因することが明らかになった。
著者
入子 文子
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

19世紀の作家の例に漏れず、ホーソーンが歴史家顔負けの第一史料の読み手であったことは、コラカチオを初めとするニュー・ヒストリシズムの批評家たちも指摘する所である。17世紀アメリカを舞台とする『緋文字』においても歴史的解釈は盛んである。けれども従来の歴史的批評には(1)アメリカ性の強調は顕著だが英国への目配りが欠けている。(2)歴史的観点とはいえ、政治や宗教など理論に偏り、具体的事物である文化表象は等閑視されている。これではテクストの正確な読みはできない。当研究は、「楽しいイングランド」をひきずった「イギリス生まれの」「イギリス人」からなる、『緋文字』第一世代のピューリタンたちの持ち込んだ17世紀英国の豊かな文化表象に焦点を当てた。またアメリカの都市の歴史をヨーロッパの都市とのつながりで見ることにより、『緋文宇』解釈にこれまで気づかなかった一側面を強く意識するに至り、筆者のこれまでの研究を同じ方向へ、さらに深く進展させることとなった。特にルネッサンス人を惹きつけてやまなかった古典的<メランコリー>の図像を主要登場人物に見ることで、従来のピューリタニズム一辺倒では読みとれなかった「黒」に、新しい意味のベクトルをひらいた。従来の研究に当該研究成果を加えて『緋文字』論を世に出すことが残されている。今後は『緋文字』以後のロマンスへと研究対象を広げる。読みの方法も基本的には同じだが、イギリスだけでなくより広範な地域の文化表象に目配りし、ホーソーン言うところの「ロマンス」の本質を明らかにし、ホーソーンの望む読み手となることを目指すことになろう。
著者
寺田 松昭
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、2アドレス方式により移動端末の制御を抜本的に変えた新しいモバイルネットワークを目標に、2アドレス方式による移動端末制御方式の確立、2つのアドレスを用いて移動端末に通信チャネルを設定するための技術、新モバイルネットワークとインターネットとの相互接続技術の開発を進め、以下の成果を得た。1.端末識別のための「ユニークID」とパケットを目的の端末に届けるアドレス「経路制御アドレス」を分けた"アドレス方式"を開発した。モバイルエッジルータ(MER)は新しい移動端末が現れていないかどうかを絶えず監視し、新しい移動端末を発見すると、そのユニークIDを取得し、経路制御アドレスと対にして、位置管理ノード(LMN)に登録するようにした。この方式によって、移動端末の位置とそこへの経路制御を可能にした。アドレスを階層的に付与することによって、高速なルーティングを可能にする方式を開発した。モバイルコアルータ(MCR)用ソフトウェアを試作し、動作を確認した。2.端末位置の発見方法を考案し、実装した。端末の移動に伴うパケット転送ルートの迅速な設定/切替え制御を実現した。モバイルエッジルータ(MER)用ソフトウェアを試作し、動作を確認した。3.複数の新モバイルネットワークをインターネヅトにより接続した実験システムを構築した。モバイル端末を無線LANリンクで接続した状態でアクセスポイントからアクセスポイントへと移動しても通信が滞りなく行えるかを検証した。実験システムを用いて、主に新モバイルネットワーク間での端末移動制御を検証した。4.インターネットと新モバイルネットワークとの通信を可能にするためにプロトコルの変換を行うゲートウェイを開発した。
著者
藤原 毅夫 星 健夫 山元 進
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

遷移金属酸化物などいわゆる強相関電子系では、密度汎関数を超えた電子間相互作用の取り扱いが必要である。本研究では(1)LDA+U法による取り扱い、(2)GW近似による取り扱い、を行った。また(3)動的平均場近似による予備的な計算、を試みた。さらに、大きな系において密度汎関数理論の枠内で第一原理分子動力学を実行するために、オーダーN法のアルゴリズムを開発した。(1)LDA+U法で取り扱った系は(1-a)Nd{1-x}Sr{x}MnO{3}(x〜1/2)の磁気秩序と軌道整列、(1-b)La{7/8}Sr{1/8}MnO{3}(強磁性絶縁体)の軌道秩序とホールストライプ構造、(1-c)NdNiO{3}、YNiO{3}の磁気秩序と電荷秩序、(1-d)La{2-x}Sr{x}NiO{4}の磁気秩序と電荷秩序、である。(2)GW近似についてはプログラムを整備し、新たにいくつかの計算上の技術を開発しまた並列計算を可能にした。これにより、Si, CaO, MgO, Fe, Ni, Cu, TiO, VO, MnO, Nioなどのバンドギャップその他を検討した。反強磁性絶縁体となるMnO, NiOを除くと、いずれもバンドギャップ、バンド幅など多くの改善が得られ、実験と良い一致を示す。一方,Ni, Feなどのバンドの交換分裂はLDAの結果からほとんど変化しない。これは、交換分裂には梯子ダイアグラムの寄与が必要だが、他は電子正孔の対生成消滅ダイアグラムからの寄与で大きな改善が得られるためである。一方、MnO, NiOについては無摂動状態の波動関数をよりよいものにする必要が示された。現在検討中である。(3)オーダーN法については、絶縁体のワニエ関数を反復的に構成し、これをもとにMauri, Galli等と同じアルゴリズムで分子動力学を実行した。ワニエ関数から、変分および摂動により波動関数を構成するため計算負荷が少なく、現在100万原子の系で計算が可能になっている。Si(100)面の亀裂伝播を実行し、亀裂により発生した面に非対称ダイマーが構成されるプロセスを見出した。
著者
今井 敬子 岩田 礼
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、将来的な中国語デイスコース論の構築のために、基礎的な作業と理論的な検討を進めることを目的にスタートした。デイスコース("談話"とも称される)という観点からの言語研究は、文レベルの文法研究(統語論)の形式主義、抽象主義による限界を見極めた上で近年盛んになった研究分野であり、言語主体のありかた(思考、主観)、言語環境(文脈)、言語使用の背景(文化・社会)などへも目を向けて言語を捉えようとする立場である。中国語でも近年、デイスコース研究への関心が増しているが、本格的な研究はこれからといった段階である。当該期間中に行われた本研究の実際とその成果は以下のようにまとめることができる。本研究ではデイスコースを、表現内容の上でまとまりをもつ複数の文の集合体と捉え、その使用実態と機能を観察した。実際の発話からデータ(音声データおよびそれを文字化したデータ)を収集し分析するという実証的な方法をとった。まず、デイスコースというまとまりを成立させる代表的な手段として、連接語について観察した結果、ごく限られた連接語(因果、逆接など)の目立った多用があり、さらに因果関係を表す連接語の調査を進め、作用域の広さ、多重的な因果関係、表現類型の選択使用と話題の展開のしかたとの関わりを分析、さらには、本来の意味(因果関係の表示)を失い、発話を単に繋いだり終結させたりする機能が見られた。このように実際のデータの中での連接語は、談話の継続、展開、終結などに密接に関与していることから、デイスコース標識として再認識されるべきであろう。本研究ではまた、シナリオのせりふにおける人称代名詞の使用実態を調査し、登場人物間のコミュニケーションのありかたと人称代名詞の選択使用の相互関係を明らかにした。また、声調という音声的特性について、そのピッチの変動を、個別言語、発話主体という両者の面から観察・分析した。なお、残された課題も多い。特に、デイスコースと「視点」の関係性、主題展開の方式につての研究が成果を出せぬまま現在に至ったことが残念である。今後は、これらのテーマについて研究を継続していく計画である。
著者
水谷 智 平野 千果子 有満 保江 三ツ井 崇 永渕 康之 松久 玲子 板垣 竜太
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本共同研究では、日本(朝鮮、台湾、沖縄等)とヨーロッパ(イギリス、フランス、オランダ、スペイン、ドイツ等)の植民地史を、「医療」「官僚制」「人種主義」といった<近代性>の問題系に属する主題を軸に再検討した。植民地主義をグローバルな文脈で共同研究するにあたっての<比較>の必要性と危険性の両方に十分に注意を払いながら、様々な支配経験に関する実証研究を突き合わせ、相互参照を可能にする枠組および概念の創出を目指した。その結果、近年の植民地研究の鍵となっている「植民地近代性」(colonial modernity)の概念の可能性と限界が明らかになった。また共同討議の過程で、議論の対象とした植民地帝国のそれぞれが、他国との<比較>によって自国の支配を正当化し統治政策を策定していた歴史像が浮かび上がってきた。<比較>それ自体を歴史研究の対象として主題化し、植民地主義の一部としてそれを根底的に検証し直す必要性が理解されるに至ったのことも、本研究の重要な成果の一つである。
著者
安田 延壽 余 偉明 山崎 剛 岩崎 俊樹 北條 祥子 松島 大
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

仙台市内の代表的幹線道路である国道48号線(北四番町通り、幅員27m)において、都市キャニオン(道路)内の窒素酸化物濃度(NOとN02のモル和)の高度分布を測定し、その特徴を明らかにしていたが、さらに乱流輸送理論に基づいて、その法則を明らかにした。高度約1.5m以下では、濃度は高さに依らず、等濃度層を成している。それより上空では、窒素酸化物濃度は、高度zの対数1nzの一次関数で表される。即ち接地気層と同様の対数則が成立する。等濃度層は、発生源が地表面より数十cm高いところにあることと、走行する車両によって強制混合されることにより形成されるものである。対数則層の濃度の高度分布より、摩擦濃度が決定される。この摩擦濃度は、等濃度層上端の濃度の関数であることが、大気境界層理論および観測により明らかになり、定式化された。さらに、一般には大気の温度成層は中立ではなく不安定あるいは安定成層をなす。この効果を、接地気層の理論に基づいて取り入れ、窒素酸化物の鉛直輸送量の日変化および地域分布を計算することが可能になった。広域に渡って窒素酸化物の鉛直輸送量を計算するためには、地上付近での窒素酸化物濃度のデータの他に、大気安定度に関する情報が必要である。この問題に対して、従来から東北大学気象学研究室で開発されてきた熱収支モデルをさらに改良して用いた。特に、東北地方では冬季には積雪があるので、そのような場合に対する熱収支モデルも開発し、窒素酸化物の鉛直輸送モデルに組み込んだ。これらの理論体系から、窒素酸化物の鉛直輸送量が評価された。1991年〜1998年の8年間の平均では、発生源である道路の場合、幅27m・長さ100mの道路より、N02換算で、年間625kgの窒素酸化物が上空に輸送されている。道路から離れた地域では、ほぼその1/3であった。
著者
川村 恒夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

平成10年度は,3条刈り自脱コンバインを供試し,選別部の籾,チャフ,及びそれらの混合物の流れを解析するために,超小型CCD-TVカメラと光源を選別部に組み込み,実作業中に画像を収録して流れの状態を解析した。その結果,エンジンが定格回転数(2750r.p.m.)では選別部に籾や藁の滞留は認められなかったが,10%程低下すると選別能力が低下し,2000r.p.m.程度まで低下した場合は,2番還元に籾と藁屑,及びささり粒が滞留するのが認められた。次に唐箕ファンや扱胴の回転による風速と風圧を熱線風速計で測定した。エンジン回転数の範囲が,約1800r.p.m.〜2750r.p.m.の時に,グレインシーブ上の風速は0.8m/s〜3.3m/s,静圧は0.1mmAq〜0.4mmAqであった。平成11年度は,籾やチャフ等の空気選別が行われる1番オーガからチャフシーブにかけての範囲と2番スローワで風速と風向を,熱線部分がセラミックで封止された西独ウェーバ社製のベントキャプターで測定した。その結果,水稲を流さずに測定した選別部の風速分布は,コンバインの胴体の端の方ほど風が強いこと,水平面からの角度が60°〜90°の時に風が強いことが明らかになった。また,選別部の溝体外側に近い場所の風速が中央部よりも1.5m/s程度大きいことも明らかになった。次に,水平面からの角度にして45°〜60°以上になると風速がほぼ一定値になることから,この方向が唐箕ファンから送られる風の流れる方向を示している。2番スローワ内の風速分布は均一ではなく,スローワの方向からすると下向きの-30°〜-15°付近や,スローワの上端を目指す方向の45°〜60°の風速が大きく,中心部付近で低下することが分かった。最後に,実際の刈取りを行いながら選別部内の風速を測定したところ,選別部内を流れる籾の流量による風速の変化は見られなかった。また,2番スローワの上ではエンジン負荷による影響を受けたが,1番オーガとグレインシーブの間の空間での風速はエンジン負荷の影響を殆ど受けていなかった。
著者
室田 昌子
出版者
武蔵工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ドイツの社会都市に関する運用として、「地区マネージメント」に着目し、各州のモデル地域、先進州(ノルトライン・ベストファーレン州)、意欲的な取り組みを行っているベルリン市などの各地区の取り組みについて、実地調査、インタビュー調査、報告書などの資料調査を実施した。市担当者、地区マネージャー、関係者(地区団体、学校、住宅企業など)などの役割と活動を把握し、日本における地区マネージメントの可能性を考察した。
著者
橋本 勇人 藤澤 智子 井頭 昭子 土田 耕司 渡邉 賢二
出版者
鈴鹿医療科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は2つある.1つは,ソーシャルワーク(以下SW)教育の構造を,(1)体験の部分,(2)SWとケアワーク(以下CW)の共通部分,(3)SWの入門の部分,(4)専門のSWの部分からなるという仮説を基に,(2)と(3)で学んだことを明らかにすることである。この場合,CWには介護福祉士だけではなく,保育士も含む。2つは,満足できたSWの実習に影響を与えたものを明らかにすることである.そのため,524名を対象とした質問紙調査と13名を対象としたインタビュー調査を実施した.質問紙調査では,a.社会福祉士養成課程のみの修了者,b.介護福祉士養成課程のみの修了者,c.保育士養成課程のみの修了者,d.介護福祉士養成課程と社会福祉士養成課程の修了者,e.保育士養成課程と社会福祉士養成課程の修了者の5群に分けて分析した.第1研究についての結果は,次の通りである.(2)に関しては,「コミュニケーションの取り方」など10項目はa,b,c間で平均得点の差がなかった.(3)に関しては,「社会資源の活用」など9項目はaの方がb,cより平均得点が高かった.CWの中でも,「専門職としての倫理」など3項目では,cよりbの平均得点の方が高かった.aとbにSW養成を付加したd,cにSW養成を付加したeの3群間を比較したところ,cのいくつかの短所は,克服されないことが分かった.インタビュー調査では,cのいくつかの短所は,幾分か克服される傾向があることが分かった.第2研究についての結果は,次の通りである.満足できるSW実習に影響を与えているのは,いくつかの実習内容とスーパービジョンである.スーパービジョンのうち,直接影響を与えているのは,実習指導者のスーパービジョンである.大学の担当教員のスーパービジョンは,実習指導者のスーパービジョンに影響を与えることによって,間接的に影響を与えている可能性があった.
著者
廣田 昌彦 馬場 秀夫 高森 啓史 大村谷 昌樹 山本 章嗣 大村谷 昌樹 山本 章嗣
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

急性膵炎におけるオートファジーの意義と急性膵炎の発症機序を明らかにするために、Psti/Atg5ダブル欠損マウスと膵特異的Atg5欠損マウスを作成し、解析した。1)膵外分泌刺激時には、オートファジーの結果トリプシンが生成するが、通常はPSTI活性によりトリプシン活性は阻害されて膵障害は生じない、2)過剰な膵外分泌刺激によりトリプシン活性がPSTIの制御活性を超えると、連鎖的に膵消化酵素が活性化されて膵が障害される、という結論を得た。
著者
木村 光江 前田 雅英 亀井 源太郎
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は,強姦罪,強制わいせつ罪の他,児童買春等処罰法,ドメスティック・バイオレンス防止法(DV防止法),ストーカー規制法,さらに人身売買罪を含む,主として女性を被害者とする犯罪行為を取り上げ,その実態並びに法整備についての検討を行ったものである。まず,強姦罪・強制わいせつ罪については,本研究実施期間中の平成16年に,刑法典改正により重罰化が実施された。本研究では,このような重罰化の背景には,性犯罪に対する国民の意識の変化があることを明らかとした。すなわち,このような変化は,単に性犯罪を「性的自己決定に対する罪」「性的自由に対する罪」とする考え方から,女性の尊厳に対する重大な侵害を伴う「性的暴行・脅迫罪」とする理解へと変化したことの現れであると理解すべきなのである。このような理解の変化は,児童買春等処罰法,DV防止法,ストーカー規制法という一連の特別法制定の延長線上にある。これらの特別法は,従来,「犯罪」とはみなされてこなかった行為類型について,明確に処罰化したものである。女性を被害者とする行為に対して,国民は,より厳格な処罰を求めるようになってきたのである。本研究では,特に,特別法についてその実態を踏まえて分析・検討を行った。その結果,DV防止法,ストーカー規制法においては,刑罰以上に,その前段階としての接近禁止命令や退去命令,警察による警告が極めて有効であることが明らかとなった。ストーカー規制法に基づく,警察による援助も急増しており,これらが効果を発揮していることが分かる。刑罰以前の手段が有効であることは,人身売買に関する分析・検討からも窺われる。すなわち,人身売買罪の制定自体が諸外国に向けたわが国の姿勢を示すものとして重要であることは明白である。しかし,実質的には,特に風俗営業適性化法の改正などにより,人身売買の温床となる営業事態を取り締まることの重要性が明らかとなった。