著者
高木 博志
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近代日本・朝鮮の文化遺産をめぐる諸相を明らかにした。とりわけ、史蹟・名所をめぐる社会とのつながりや、語られ方の近世・近代の変遷といった文化遺産保護の社会史、あるいは「帝国」における文化遺産をめぐる政治力学に力点をおいた。具体的には、古都奈良・京都における古代顕彰のありようを、明治維新期から20世紀まであとづけた『近代天皇制と古都』(岩波書店、2006年、全320頁)をまとめたほか、近世から近代への名所の変遷を、桜や古典文学を題材に論じた。朝鮮半島の桜の植樹については、アルバイトにより『京城日報』などからデータを集め、帝国における桜の位相を論じる研究を準備している。また豊臣秀吉にかかわる歴史観や史蹟の顕彰を、日韓の近現代史にあとづけた。また研究報告書では、奈良女子高等師範学校「昭和十五年度大陸修学旅行記文科第四学年」(奈良女子大学所蔵)の全文(生徒のくずし字)を翻刻した。「大陸修学旅行」の記録は、日本だけではなく韓国・中国・アメリカなどの研究者にも関心が高く、翻刻の成果を広めたい。とりわけ朝鮮・満州の史蹟名勝・戦跡をたずね、古都奈良・京都における文化遺産をめぐる学知を、大陸においても「実地踏査」することによって修学することに注目した。本研究の研究成果報告書は、6章立てのオリジナルな論文で構成されているが、近年中に単著として(近代文化財史論(仮題))として出版したい。課題としては、文化遺産の日本・朝鮮における行政史的研究が残った。
著者
上田 博人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

今回の研究の目的は,現代スペインの演劇作品の語彙総合コンコーダンスを完成させることにある.これは全部で12の冊子(1冊600頁)からなる大部のものであるが,すでに3冊は刊行されているので,残りの9冊を1年につき3冊ずつ刊行することとなった.平成6年度.スペイン現代演劇の30作品の総合コンコーダンスの第4分冊(E),第5分冊(F〜K),第6分冊(L〜M)を完成した.現在,他のコーパスによる分析資料との比較検討を行った.平成7年度.総合コンコーダンスの第7分冊(N〜O),第8分冊(P),第9分冊(Q〜R)を完成した.動詞活用形認識プログラムの開発に着手した.平成8年度.総合コンコーダンスの第10分冊(S),第11分冊(T〜U),第12分冊(V〜Z)を完成した.動詞活用形認識プログラムのバ-ジョン1を完成した.これまでのスペイン語研究の資料は,母国語話者の直感や面接方式のチェック,文学作品などの用例採集,そして一部の研究者によるフィールドワークに基づくものであった.近年コンピューターが言語研究に使用されるようになって,コーパス言語学という新しい方法が注目されるようになったが,コーパスそのものは個人の研究の範囲内に留まり,あまり公開されてこなかった.また,その規模も小さかったことも問題点として挙げられるだろう.この研究は現代スペインの30の演劇作品全体を扱い,50万語の言語コーパスと総合コンコーダンスを完成させるという規模の大きなものである.今回,科学研究費の助成によって完成したスペイン語言語資料な内外の研究者に供されて,今後のスペイン語の言語研究や辞書学の発展に寄与できるものと信じている.
著者
籠谷 直人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

戦後の日本の経済復興は繊維製品の輸出主導で進められた。1951年に日本の綿製品は世界第一位の実績を記録する。そして57年からは日本は対合衆国輸出自主規制にふみきる。自由貿易原則を謳いあげた合衆国であったが、国内の繊維産業を保護する政策を日本の輸出自主規制に求めたからであった。世界的な自由貿易原則の行使と、国内の産業保護を希求する、両義的な通商政策を、合衆国は取り続けた。これは、日米繊維摩擦が問題となるときに、共和党と民主党の双方で追求された政策であった。1950年代のアイゼンハワード政権においてリチャード・ニクソンは副大統領であった。ニクソンは1960年にジョン・F・ケネディ候補に、大統領選で負けた。しかし、ニクソンは、ヴェトナム戦争中の68年に、大統領に就任した。ニクソンは、繊維産業が集積する南部の票田を確保するために、外国からの繊維輸入を制限することを公約にあげた。1950年代後半から60年代初頭にみられた日米繊維摩擦が、ここで再熱した。ニクソン政権は、日本をはじめ、韓国、台湾、香港に、繊維製品の「自主規制」を求めたが、華僑ネットワークを有するアジア四国は強く反発して、通商摩擦の沈静には約3年を要した。しかし、こうしたアメリカとアジアの摩擦が、1971年のニクソン・ショックの背景となる。突然の訪中とドルの金交換停止は、合衆国とアジアの繊維通商摩擦問題を背景にしていた。
著者
楠瀬 佳子
出版者
京都精華大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

現在は過去の連続線上にあり、過去の絶えまない再構築をくり返し、歴史は書き換えられていく。だが、誰にとっての歴史であるのかという視点を絶えず確認しなければならないだろう。とりわけ、南アフリカではアパルトヘイト政策のもとに、白人支配の立場から歴史が語られてきた。アフリカ人は長年にわたりあらゆる人権が奪われ、歴史から意図的に抹殺され、歪曲されたのである。こうした人種の強迫観念にとらわれた歴史をどのように書き換えるかは、過去を問い直し、現代と未来を再構築する重要な作業であり、国民国家をどう形成するかにつながる。南アフリカの女性たち、とりわけアフリカ人女性は、アパルトヘイト(人種隔離政策)体制のもとで「人種」「階級」「性」による三重の抑圧を受けてきた。さらには家父長制のもとで、家庭では父親、叔父、夫、息子によって支配され、労働の現場でも、男性の監督官や支配人に管理されてきたのである。女性の生活や経験は社会的に完全に無視され、社会の周縁におかれて見えない存在であった。本研究においては、数多くの女性にインタビューをしたり、真実和解委員会での証言を分析したり、文学に描かれた女性像をたどりながら、女たちの声を通して女性の実態を、明らかにした。こうした作業は歴史の再構築には欠かせないものであるが、時間的制約のなかでは、ほんの一部しか明らかにすることはできなかった。膨大な資料や、貴重な資料が手付かずのままであるので、今後もこうした研究を継続していきたい。歴史学のみでなく、文学、社会学、宗教学、自然史、博物学、人類学、政治学、経済学、女性学などあらゆる学問分野の共同作業も視野にいれなければならないだろう。
著者
五福 明夫 永井 伊作 永谷 圭司
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

人間が生活する環境において移動マニピュレータが対象物を探索・把持することは,現在のセンサ技術では,非常に困難である.そこで本研究では,対象物にデバイスを取り付け,このデバイスとロボットに搭載したマーク認識デバイスが通信を行うことで,対象物の識別と位置の確認を行うシステム(インテリジェントマークシステム:IMS)を構築し,さらに獲得した情報をもとに,移動マニピュレータによる対象物の把持・運搬の動作の実現を目指した研究を行った.IMSは,環境に存在する様々な物体に貼付し,それぞれのIMSは識別コードを記憶することが可能である.このIMSから発信する情報を,ロボットに搭載したマーク検出デバイスにより獲得することで,対象物の認識を行うことができる.平成15年度には,平成14年度に作成したプロトタイプのマークを,2cm角の基板上に搭載し,小型のマークを実現した.また,マーク検出デバイスについては,多数の物体に貼付した識別コードの中から特定のグループまたは特定のマークだけを呼び出し交信する機能を実現した.また,このマーク検出デバイスを小型移動マニピュレータに搭載した.さらに,マークの位置認識を行うため,マーク検出デバイスには,視野の広い全方向カメラと,視野の比較的狭いハンドアイシステムを利用したステレオ視システムを導入した.以上に示した通り,本申請研究の2年目には,環境内や対象物体に貼られた小型の複数のIMSとロボットが通信を行う基本システムが完成した.さらに,このシステムを利用し,環境に固定されたIMSとロボットの通信によるロボットの自己位置の推定,環境中の障害物に貼られたIMSとの通信による,障害物の位置認識,さらに,対象物に貼られたIMSによる対象物の把持動作を実現した.
著者
松尾 雅嗣
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

峠三吉資料については日記及び書簡の電子画像を、既に完成済の資料目録と統合し、資料画像目録として整理する作業を進め、予定より完成は遅れているが、来年度には完成の目途が立った。但し、日記、書簡については個人情報の問題が絡むので、研究成果として一般公開することは困難であり、画像つき目録を広島大学文書館など信頼できる機関に寄託し、研究者の用に供することも検討中である。また、原民喜資料についても自筆資料に関して同様の作業を進めたが、資料目録の整理に手間取り、進捗度合いははかばかしくない。これと並行して、海外での同様の試みについて情報を収集する一環として、「西部戦線異状なし」で知られる作家エーリッヒ・レマルクの資料を収集・保存するドイツ・オスナブリュック市のエーリッヒ・レマルク平和センターを訪問し、戦争文学資料の保存、目録作成、電子画像化の実態について情報を収集した。同時にオスナブリュック大学を訪れ、文学、歴史学研究者と空爆により市街の大半を失った同市の戦争被害にかかわる文書史資料の保存と電子化について意見を交換した。これに加えて、原爆により多くの死者を出した旧広島一中の生存者、遺族の手記集である『ゆうかりの友』の原資料を含む原民喜の甥、原邦彦の関連資料目録を完成し、『「ゆうかりの友」関連原邦彦資料目録』として刊行した。資料の電子画像化は完了し、現在画像目録の編集中である。具体的な研究成果ではないが、定年退職後の研究代表者の本研究を神戸大学の宇野田尚哉氏に引き継いでいただけることとなった。
著者
姫岡 とし子 中川 成美 池内 靖子 松本 克美 立岩 真也 二宮 周平 松井 暁
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、1、労働概念が男性の多い有償の経済労働を中心に組み立てられ、2、職業/家事、正規社員/パートなどジェンダー問でさまざまな境界線が引かれ、3、労働法も中立ではなく、4、労働研究がジェンダーの構築に関与している、という多様な意味合いで、労働がジェンダー化されていることを出発点とした。そして概念、制度、労働分担、働き方、セクシュアリティなどにいかにジェンダーが組み込まれているのかを、その変容過程も含めて考察し、また分析するために、歴史、社会学、法学、政治学、経済学、表象の分野で学際的な研究を行った。本研究では、労働の脱ジェンダー化に向けての提案も行った。本研究の過程で、「労働のジェンダー化」シンポジウムを開催し、制度面と表象面の2つの側面から、買売春やアンペイドワークなど、従来の労働概念に含まれていない労働も含めて考察した。その成果は、『労働のジェンダー化-揺らぐ労働とアイデンティティ』として平凡社から2005年に公刊されている。労働のジェンダー化は、家族と密接に関連している。家族については、歴史的観点から、日独の近代家族の形成と現在における家族の個人化について考察し、未完に終わったととらえた資本制と家父長制をめぐる論争に関して、性別分業がなお存在しつづけている理由とそこから誰が利益を得ているのかが検討された。家族法では、女性差別撤廃条約の視点から民法改正がなされる必要性が指摘された。また教育現場のセクシュアルハラスメントに関して、当該機関に環境配慮義務のあることが指摘された。表象については、アングラ演劇をマスキュリニティ構築のパフォーマンスとして読み解いている。
著者
田中 暉夫
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

土壌や根圏に生息する微生物である枯草菌は細胞外に多量の蛋白質分解酵素であるプロテアーゼを分泌する。プロテアーゼの役割は、細胞の周辺にたまたま存在する動植物の破片やその細胞内容物に含まれるタンパク質をアミノ酸またはペプチドにまで分解し、細胞に取り込まれる形にするものと考えられる。しかし、枯草菌は必要な時にだけ、すなわち、栄養が不足した時にだけプロテアーゼを分泌する。本研究は、このような制御のメカニズム解明を試みた。その結果、グルタミン合成酵素が細胞内の栄養(窒素源)状態を感知し、その制御下にある種々の転写制御因子をコントロールしてプロテアーゼの産生を制御しているという結論を得た。
著者
松澤 暢 岡田 知己 日野 亮太
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

最近の摩擦構成則による数値シミュレーションの結果によれば,プレート境界は地震時に高速にすべるだけでなく準静的にもすべっており,それは特にカップリング域の先端付近で顕著となることが予測されている.東北地方太平洋沖においてこの準静的すべりを地震観測から捉え,かつその付近の物性を解明することが本研究の目的であった.本研究により,小繰り返し地震(small repeating earthquake)が東北地方太平洋沖で発生していることが明らかになった.この小繰り返し地震データを用いてプレート境界における準静的すべりの時空間分布を詳細に明らかにすることに成功し,カップリング域の深部先端付近では,プレート間相対速度と同程度の速度で準静的すべりが進行していることが明らかになった.これは,カップリング域と非カップリング域の間の遷移領域を地震学的に捉えたことに相当する.GPS観測点は陸域にしか存在しないため,海溝付近での準静的すべりの状況を調べることはGPSデータ解析では困難であるが,小繰り返し地震解析からは,三陸沖の海溝付近ではかなり頻繁に準静的すべりが発生していること,また,M6以上のプレート境界型地震はすべて大規模な余効すべりを伴っていることも明らかになった.海溝付近の構造についても知見が得られつつある.海底構造探査の結果と地震活動の比較により,沈み込んだ海洋性プレートのLayer2の不均質性が地震発生の状況を支配しているというモデルが提示され,また,海底地震観測による高精度の震源分布と構造探査の結果との比較から,三陸沖ではプレート内部で発生している地震がかなり多いこともわかってきた.これらの結果は,プレート境界のカップリング状況が,プレート境界面の性質のみならず,ある程度厚みをもった領域に支配されている可能性を示唆している.
著者
村上 ひとみ 瀧本 浩一
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

地震時においては家屋の倒壊に至らない場合でも、住宅室内の家具什器による転倒・散乱被害が甚だしく、居住者が死傷したり、室内で出火延焼したり、避難ルートを失う危険性が高まる。室内被災の背景には、居住空間内の家財が増加・大型化していること、収納空間の不足と不適切な配置、内壁や家具の設計に固定への配慮が欠けていることなどの問題点が考えられる。このような実態を改善するには、居住者自身が室内空間被害の可能性と人的被害の危険度を客観的に認識し、家具の配置、住まい方を変えることによる危険度低減効果をシュミレーションにより視覚的かつ、定量的に認識できるような自己診断システムが望まれる。本研究では、1995年阪神・淡路大震災における震度と建物被害・室内被害に関するアンケート資料を分析して、震度を横軸とする家具の被害関数を導出した。具体的には住宅内で一般的な5種類の家具の4つの被害レベル(物が落ちる、転倒など)について正規分布関数を仮定し、数量化I類を用いて関数系のパラメータを求めた。上記の関数を基に室内危険度評価手法を提案した。さらにパソコン用CADのベースとプログラム環境を組み合わせ、居住空間の間取りを作成し、柱状体としての家具什器を入力・配置し、上記家具被害関数を用いてその環境における地震時被災危険度を推定するソフトウェアを開発した。1993年釧路沖地震で得られている室内被害調査結果を利用して、本ソフトウェアで推定される危険度と実被害を比較、推定の精度を検証した。ソフトウェアは推定結果を具体的かつ視覚的にわかりやすく表示し、震度の上昇に伴って増大する危険性を表示するなどの機能を有する診断用ソフトウェアとなっている。これによりインターアクティブなCAD環境を利用した住宅室内環境の地震危険度自己診断手法を提案するに至った。
著者
今岡 克也
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は,いつでも・どこでも・比較的簡単に測定できる微動の有効性を確かめるために、東海地域で地震観測を行っている施設内で微動測定を実施し,地震動と微動の特性を比較・考察することを目的としている.平成13年度から東海4県(愛知県,三重県,静岡県,岐阜県)内の地震観測施設で微動測定を実施し,表層地質などと関連させて得られた県内の地盤震動特性について,地元の新聞を通じて県民に公表するとともに,県庁や市町村の防災担当者に文書で説明した.次に,2000年10月6日鳥取県西部地震(M7.3)などの際に東海地域で得られた地震動波形を分析して,地震動と微動の特性を比較した.その結果,以下のことが判明した.(1)基板と堆積層とのせん断波速度のコントラストが大きく、かつ、堆積層が成層に近い地域では,微動H/Vスペクトルから表層地盤の1次卓越周期を容易に得ることができる.逆に,断層などの影響で堆積層が不整形になると,微動H/Vスペクトルの卓越が複数となり,また,水平動の卓越との対応も悪くなる.(2)地震の規模がM7.3と大きな場合,地震動波形と微動のH/Vスペクトルの1次卓越周期は長い周期域(4〜5秒)まで良く一致する.(3)地震動と微動のH/Vスペクトルの平均倍率を比較すると,地震動のH/V倍率は微動に比べて1.5〜2倍程度大きくなる場合が多い.(4)基盤と地表面との地震動波形から得られた表層地盤の伝達関数の1次卓越周期は、地震動のH/Vスペクトルから得られたものと良く一致する.
著者
長瀬 久明
出版者
兵庫教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

重力について思考する場合のマイクロワールドとして次の3つを明らかにした。1 言葉:質量,比例する,速度,など。言葉で思考する。2 数式:万有引力の法則,速度と位置の関係,などについて,式で思考する。3 グラフ:質量(具体例)の位置の変化について,2次元平面,3次元空間で思考する。これに基づいて、次の内容を持つウィンドウが設計された。1 言葉:文字や文節を素材とし,これらを結合し,格文法を用いることにより,文として構成できる。2 数式:変数,演算子を素材とし,これらを結合し,式を構成できる。3 グラフ:2あるいは3実数軸を内容とする。任意の点に質量を置き,時間的な位置の変化を表示できる。これらのウィンドウを用いて可能となる学習活動を明らかにした。マイクとワールドに対応するウィンドウとして,言語表現ウィンドウ,数式ウィンドウ,グラフウィンドウ,アニメーションウィンドウ(学習者に動的なイメージを持たせるために加えたウィンドウ)の4つを開発した。Windows95上でVisual Basicにより実行システムを作成した。学習課題とシステムとを切り離し,システムは純然たるツールとして作成した。これにより,システムは学習者のためのツールであるのみならず,教師が学習者に説明する場合にも使用できるツールとなった。数学への応用を検討した。2次関数について,式,グラフ,および,パラメータ,の3つのウィンドウから操作でき,3ウィンドウが連携して動作するウィンドウシステムを開発した。これにより,相異なる表現(グラフ,言語,など)を別々のウィンドウに表示し,連携動作させる型の学習ソフトウェアが,重力概念(運動方程式)の学習に限らず,知識を生成する学習活動に対して開発可能であることが事例的に示された。上記の研究結果はソフトウェア同梱の報告書として配布されるとともに,インターネットにより公開される。
著者
近藤 悟 平井 信博 瀬戸 秀春
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

植物体の生理活性物質であるアブシシン酸(ABA)およびジャスモン酸(JA)は環境ストレスに反応するストレスホルモンとして知られている。一般に6℃以下の低温は熱帯果実において貯蔵期間を延長するものの、果皮の褐色化などいわゆる低温障害の原因となり、著しく商品性を損なう。本研究では低温がABAおよびJA代謝、ABA合成経路の鍵酵素である9-シスエポキシカロチノイドジオキシゲナーゼ(NCED)遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。低温ストレスはコントロール区に比較して、ABAの増加を誘導した。ABAおよびその代謝物であるファゼイン酸(PA)、ジヒドロファゼイン酸(DPA)およびそのエピ体であるepi-ジヒドロファゼイン酸(epi-DPA)は貯蔵日数とともに増加した。マンゴー果実において、ABAの主要代謝物はepi-DPAであった。JA濃度もまた、ABAと同様に低温貯蔵中、徐々に増加した。NCEDはカウピーより単離されているNCED遺伝子配列を基にディジェネレートプライマーを設計し、マンゴー果実のcDNAを鋳型として、RT-PCRにより遺伝子のクローニングを行った。本研究では1遺伝子を単離した。マンゴー果実からクローニングしたNCED遺伝子はカウピーおよびブドウ等と高い相同性を示した。低温ストレス下でのマンゴー果実におけるNCED遺伝子の発現を示す。NCEDの転写量はコントロール区の果実に比較し低温ストレス下で増加し、ABAの変化と一致した。以上の結果は低温ストレスは、ストレスシグナル物質としてのABAの増加を誘導するが、これはNCED遺伝子の発現増加に起因するものであることが推定される。
著者
長谷川 耕二郎 北島 宣
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

カキ果実の離脱過程は"誘導段階"→"決定段階"→"実行段階"と考えられるが、離脱過程に関与する要因は明らかではない。本研究は、離脱過程に関与する要因を明らかにするとともに、離層細胞の形態形成と離脱過程における形態的変化を明らかにし、"実行段階"を分子細胞生物学的に捉えようとした。離層細胞は満開6週間前から識別されはじめ、満開4週間前には離層組織が観察でき、満開1週間後にはほぼ完成していた。樹上環状剥皮処理果実と室内水差し処理果実の離脱の推移はほぼ同様であり、両者の離脱過程はほぼ同様であると考えられた。20℃→5℃の変温処理では子房より果梗が顕著に早く離脱するので果梗と子房の離脱過程は異なると考えられた。エチレン発生量は離脱前に増加し、果肉部より果梗部から発生していた。さらに、35℃、20℃で離脱前に急激に多量のエチレンが発生し、変温処理では少量ではあるが離脱前にピークを示しており、少量のエチレンが離脱に密接に関係していると考えられた。採取果実のジベレリンとサイトカイニン様物質処理による、離脱、呼吸量、エチレン発生量の違いはみられず、これらは離脱過程に関係していないと考えられた。35℃処理、20℃処理、20℃36時間後5℃処理、20℃24時間後5℃処理、20℃12時間後5℃処理の順に自然離脱と強制離脱の差が小さく、離脱の実行段階の進行は温度に依存していると考えられた。35℃、20℃、20℃48時間後→5℃、20℃36時間後→5℃、20℃24時間後→5℃処理ですべて離脱したが5℃処理は離脱せず、20℃では24時間までに決定段階に入っていると考えられた。20℃処理果実の離層細胞は処理24時間後から凝縮した核が散在的に観察でき、時間の経過に伴ってその数は増加した。このことから、果実の離脱は核の断片化によるアポトーシスである可能性が示唆され、実行段階は核の断片化で捉えられると考えられた。
著者
有馬 道久
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,小学校に入学した児童が,潜在的カリキュラムをどのようにして習得していくのかについて検討した。2000年度は,小学校1年生のあるクラスについて,4月,6月,11月,翌年の3月に計36日間,計58時間の授業を観察,録画し,カテゴリー分析と事例分析を行った。このクラスには40名(男女同数)の児童が在籍し,担任教師は教歴17年の39歳の男性であった。その結果,児童は,潜在的カリキュラムの1つである教室ルールとして,「適切な姿勢のとり方」,「発表の仕方」,「号令の掛け方」などを学習することがわかった。教師は,入学直後は「説明する」という方略を用いるが,しだいに「ほめる」,「注意する」,「待つ」という方略を多用するようになることがわかった。2001年度は,1年生の別のクラスについて,4月,11月,翌年の2月に計32日間の朝の会と48時間の授業を観察,録画した。このクラスには35名(男子20名,女子15名)の児童が在籍し,担任教師は教歴32年の54歳の女性であった。ADHD(注意欠陥/多動性障害)児と集団保育未経験児の2人の児童に焦点を当てて,事例分析を行った。その結果,教師は,この2人の児童に対してかなり長時間の個別対応を行い,社会的スキルを指導していることがわかった。そして,この相互作用を通じて,クラスのすべての児童に「我慢すること(教師の指示に従うこと,順番や時期を待つこと,課題に集中すること)」という潜在的カリキュラムを教えていることが明らかになった。
著者
長ヶ原 誠 山口 泰雄
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、これまで国内外で展開されている自治体レベルの生涯スポーツキャンペーンの事例を集約・評価すると共に、これらの情報を元に筆者らが自治体においてスポーツ潜在層を対象としたキャンペーン事業を直接支援するアクションリサーチを展開し、その効果を実証的立場から縦断的に評価しながら、今後の生涯スポーツ振興キャンペーンの計画化・実践・および評価法についての具体的な提案とモデルを構築することにある。分析の枠組として、キャンペーン後のスポーツ実施頻度に影響する要因を前提・実現・強化要因の分類に基づき,縦断的手法を用いて明らかにした。長ヶ原ら(2002)が行った「健康日本21地方計画における身体活動目標を達成するための条件指標と測定尺度の開発に関する研究」において使用された条件指標ならびに測定尺度をベースラインデータとし、キャンペーンを実施期間中の2004年に、初回調査(2002年)において同意を得た1,239名に対し郵送法による同じ内容の質問紙調査を実施した。2004年時のスポーツ実施頻度を従属変数として、まず2002年時点の年齢、健康状態、スポーツ実施頻度をコントロール変数として投入し、第2段階で同じく2002年時点の前提・実現・強化要因それぞれを投入する階層的重回帰分析を行った。その結果、実現要因の「スポーツ実施の資源認知(β=.125)」ならびに強化要因の「便益効果認知(β=.132)」に上昇率ならびに影響度の有意性が確認された。したがって、スポーツ参加の欲求を実現する機会や資源、場所等の環境的要因および運動・スポーツに関する好ましい身体的・心理的効果を認知させることに着目した運動・スポーツプロモーション戦略が、将来的なスポーツ実施頻度に影響を与えることが示唆され、これらの要因に着目した成人を対象とするスポーツ振興キャンペーンの妥当性が実証された。
著者
伊藤 景一 渡辺 弘美
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

(研究1)在宅ケアの質の測定はアウトカム評価に焦点が当てられているが、神経疾患を持つ在宅ケア患者へのケアの効果評価には、長期間のアウトカム指標を開発する必要がある。そこでケアの効果評価に活用する指標を開発し各種妥当性を検証した。指標開発のための追跡調査を2回実施。べースライン:5年間に大学病院神経内科を退院した463名(指標開発の対象者)。初回調査年から2年後フォローアップ:201名(妥当性検証)。開発手順は日常生活行動を遂行する困難度を基に5因子構造の指標項目を構成。構造方程式モデリング(SEM)と一般線形モデルから構成概念及び予測妥当性を検証した。臨床的関連性から指標の利用可能性評価。指標は25項目から成る5指標で構成。SEMから各指標の上位に総合的アウトカム指標を仮定した二次因子モデルのパス係数、適合度指標ともに受入基準を満たした。各指標は、疾病障害対処困難・不安指標、家族介護負担・Strain指標、運動機能不全指標、身体症状発現指標、地域医療・ソーシャルネットワーク利用阻害指標、と解釈。指標が2年後のHRQOLに及ぼす影響を、多重指標モデルで検証。5指標全てが有意に2年後のHRQOLに影響を与えていたが、第1指標と第3指標からのパス係数の値が大きかった。2年間における指標の改善の有無がHRQOLに与える影響をみると、各指標が影響を及ぼしている側面は異なっていた。身体機能と役割機能のドメインの改善群と非改善群間の差が大きかった。指標の改善率は26-40%、安定率は54-70%。第1と第3指標は在宅療養におけるHRQOLの多くの側面に関与することが示され、指標によるアセスメント結果を基に、在宅ケア患者の心理社会的問題の抽出とサービスの改善や新システムの構築に寄与できると考えられた。(研究2)追跡期間中の症状と機能レベルの変化が健康関連QOLに及ぼす影響をSEMによるパスモデルで解析し、先行研究の仮説を検証するべく各種臨床変数とHRQOLのリンケージを試みた。この結果は、Diseases→Symptoms→Change in physical disabilities→General health perception→HRQOLの順序で影響が及ぼされる階層的なパスモデル構造を見出した。
著者
吉村 安郎 松田 秀司 KINGETSU Akira 金月 章
出版者
島根医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

実験手技が担当確立したとはいっても、処置中には出血死のマウスもある程度あった。合計49匹の成熟雄ICR mouse(下顎頭切除15匹、下顎頭切除後に耳介軟骨移植31匹、顎関節部を開放しもとにもどしたもの3匹)を処置後136日から187日まで飼育し屠殺した。その後両側の顎関節部を取りだし、通法通り組織標本を作製し、組織学的検索、免疫組織化学的検索とした。咬合状態をみると明らかに咬合異常を生じた症例は5例あり、4匹は死亡時に確認したものである。毎日マウスを観察していないため、咬合異常を生じた症例数はさらに数は多いのではないかと推測する。本年度は少なくとも下顎頭の欠損(すなわち咬合高径の減少)は明らかに咬合異常を起しうることを明確に示した。H-E染色による組織学的検査では、下顎頭切除例では、一般の骨折端とほぼ同様に治癒する。耳介軟骨移植例では、下顎運動のため移植軟骨は外側方に移動し、下顎頭欠損部に一致して存在していないことが多い。移植軟骨は耳介軟骨の性質を保有していた。免疫染色ではTransforming growth factor-βは顎関節関節腔表層細胞は下顎頭、下顎関節窩ともに陽性で、下層の軟骨は一般的に陰性である。移植耳介軟骨細胞も陽性細胞はわずかで、一般的に陰性である。fibroblast growth factor-2は下顎頭、下顎関節窩いづれも関節腔に近い間葉細胞、より下層の軟骨細胞も陽性であるが、表層に近い細胞群に活性は強い。移植軟骨は陽性のものと陰性のものが混在した。bone morphogenetic proteinは顎関節の関節腔の間葉細胞、軟骨細胞いづれにも陰性であり、移植軟骨は同様に陰性であった。Laminin染色においては、関節腔側にある細胞群も、それより下層の軟骨細胞ともに陰性反応を示した。移植軟骨細胞は一般的には陰性である。
著者
奥村 一彦 冨岡 敬子
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

舌原発低分化型扁平上皮癌細胞SASから得られた高浸潤と低浸潤性の細胞を用いた.蛍光Differential Display法とRT-PCR法により確認されたcDNA断片で浸潤性に差のある癌細胞間で発現しているmRNAの差異を検索し,2つの部分的塩基配列決定がなされた遺伝子を分離した.【材料と方法】ヒト舌原発巣から樹立されたSAS細胞から得られた高浸潤性クローンSAS-H1と低浸潤性クローンSAS-L1を用いた.方法は,高浸潤と低浸潤性細胞間で発現している差異のあるmRNAを,タカラのローダミン蛍光differential display kitを用いて検索した.すなわち,高浸潤と低浸潤性細胞間で発現している差異のあるバンドを切り出し,回収したcDNA断片をPCRで再増幅した.全ての断片は再増幅後も単一バンドで示された.cDNA断片は末端平滑化クローニングベクター組み込んだ.部分的cDNA断片の塩基配列決定はABI Genetic Analyzer 310シークエンサーを用いて行った.これらの塩基配列がなされたものを,DNAデーターベース(BLAST)によるホモロジー検索を行った.【結果】高浸潤と低浸潤性のSAS細胞を用いて対応するプライマーを用いてRT-PCRを行い,続けてmRNA differential displayを施行しLIEG-1とHIEG-1を確認された.Differential Display法で観察された発現パターンをRT-PCRで再現性を確認した.LIEG-1は低浸潤性細胞SAS-L1で強く発現していた.一方,HIEG-1は高浸潤性細胞SAS-H1で強く発現していた.低浸潤性で強く発現するcDNA断片LIEG-1は1番染色体に存在するRP5-926E3のヒトDNAに100%一致する結果が得られた.HIEG-1の塩基配列は,遺伝子銀行/EMBL DNAデーターベースで検索したが相同性のある既存の遺伝子は得られなかった.LIEG-1とHIEG-1の2つの遺伝子については,遺伝子全長のクローニングを実施中である.
著者
山本 哲朗 方 青 土屋 卓也 陳 小君 小柳 義夫 QING Fang CHEN Xiaojun
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は,当初偏微分方程式解法の主力をなすGMRESとSOR解法を中心としてその数学的基礎付けを与えることを目指したが,以前から研究を進めてきた線形・非線形SOR解法の理解が一段と進み,最近になってかなり満足すべき成果が与えられた.この解法について得られた結果の大要は次の通りである.1. 非対称行列を係数とする線形方程式に対する収束定理としてOstrowski-Reichの定理,Householder-Johnの定理,Newmanの定理,Ortega-Plemmonsの定理等が知られているが,これらはすべてSteinの定理から導くことができることを明らかにした.これにより,従来複雑であったOstrowski-Riechの定理の証明に見通しの貞い別証明を与えることができた.近く取りまとめてどこかに発表したいと考えている。2. 非線形SOR解法の収束定理としてはBrewster-Kannanの結果が知られているが,それは反復が収束するパラメータ{ω_k},0<ω_k<2の列が存在することを主張するにすぎず,ω_kの具体的な選び方には触れていない.我々は,偏微分方程式の離散化と関連した定理としてOstrowski-Riechの定理の一般化に成功した.この定理は大域収束性を保証するが,SSOR,USSOR,ad HocSOR等にも適用可能なものである.また,この手法はD-K法のSOR型加速にも使える.さらに,近年滑らかでない方程式への関心が高まっており,この分野で多くの業績をあげている陳小君(島根大学)を研究分担者として追加し,Uzawa法と平滑化Newton法の数理についても研究した.Uzawa法は一種のGauss-Seidel的反復であるが,その数理について現在見通しの良いまとまった解説はない.本研究で得られた成果をもとに引き続き研究を行い,見通しの良い理論構築を目指し,今後どこかに発表することを考えたい.