著者
福島 邦夫
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は九州北部離島(対馬、壱岐、五島)と南部離島(甑島、トカラ列島口の島)のシャーマニズムと神楽(巫女舞い)を比較し、その共通する伝統を指摘しようとしたものである。従来の研究が比較的地域を限定していたことに対し、対象とする範囲を広げることにより、九州全体に広がっていた巫女の伝統を明らかにすることができる。まず、神楽において、巫女舞いの動きに共通点が見られることである。九州西岸の五島、甑島では、巫女は神前で大きく回って舞うと言う動作をする。衣装に関して言えば、甑島、トカラ列島口の島では先輩ネーシの髪の毛を頭に着けている。また、すべての巫女が左手で袖をつかみ右手に鈴を持って舞っている。次に、組織に関してのべると、神楽においては巫女は対馬、壱岐、においては法者と口の島ではホンボーイ、ジホーイなどの男性神職とペアになって舞いを舞ったことである。男性神職が太鼓を叩き、命婦、市、内侍が舞うと言う形である。法者は神楽保佐職つまり、神官を補佐する陰陽師であった形跡が見られる。また、巫女も大きな神社に関しては惣の市(一の内侍)、二の市(二の内侍)、三の市(三の内侍)など神社の女官としての地位があたえられていたことがわかっている。最後に信仰に関して、神霊が風として生き霊、死霊、山ノモン、イソノモン、ガラッパなどが考えられ、それを祓ったり、託宣をさせて、その言葉を伝えるなどのシャーマン的な行為を行っていた。これらは巫女と同じに法者もそうした行為を行っていた。また、比較的古い形をのこしているとみられる対馬やトカラ列島口の島では巫女自身が神歌を歌ったり、祝詞をあげたりする神官としての役割も果たしていたことである。
著者
小西 美ゆき 佐藤 禮子
出版者
兵庫医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

原発がん手術体験を反映させた転移性肝がん患者の周手術期看護援助を検討するために、文献調査、患者を対象とした面接調査、看護師を対象とした面接調査、米国の私立病院の肝がん患者をケアする部門の視察を行った。原発がん手術による心身の影響を考慮すること、転移がんに直面する患者の心理に配慮すること、今後も続くがん治療・療養に対する視点をもつこと、患者のもつがんとともに生きる姿勢や力を尊重することが看護援助を考えるうえで重要であることが示唆された。
著者
前原 信敏 佐藤 久聡
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

Staphylococcus hyicusは子ブタの滲出性表皮炎の起因菌であり、本菌が産生するS.hyicus表皮剥脱毒素(SHET)により本疾病に特徴的な臨床症状が生じる。SHETはその分子中にセリンプロテアーゼ様構造を有するが、カゼイン分解能を有さないため、その標的物質は特殊な蛋白であることが推測されている。血清型A(SHETA)および血清型B(SHETB)の毒素は1日齢ニワトリひなの皮膚からEDTAにより抽出した液中の分子量40kDaの蛋白(P40)にのみ結合した。SHETAおよびSHETBは毒素感受性動物であるニワトリひなおよび子ブタのP40ならびに非感受性動物である哺乳マウスのP40の何れにも結合した。また、ニワトリP40に対する抗体はニワトリ、ブタおよびマウスP40の何れにも結合した。しかし、SHETAおよびSHETBはニワトリおよびブタP40を切断したが、マウスP40を切断できなかった。高度精製したニワトリP40のアミノ末端配列はウシ、イヌ、ヒトおよびマウスのデスモグレイン1(DSG1)およびDSG3の細胞外ドメインのアミノ酸配列と高度に合致した。そこで、抗ヒトDSG1血清と抗ヒトDSG3血清をニワトリ、ブタおよびマウスP40と反応させたところ、抗DSG1血清は全てのP40と結合したが、抗DSG3血清は何れのP40とも結合しなかった。SHETAおよびSHETBとニワトリ、ブタおよびマウスP40を反応させた後に抗DSG1血清と反応させたところ、ニワトリP40とブタP40には結合しなくなったが、マウスP40には依然として結合した。以上の成績より、SHETの標的蛋白がDSG1であること、SHETの動物感受性はDSG1細胞外ドメインに対する切断活性に依存することが示唆された。
著者
豊田 和弘
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

植物に固有の細胞壁が病原体による感染を未然に防ぐ物理的な障壁となることは周知の事実であるが、外界からの生物的あるいは化学的な情報を受信(認識)し、それらを正確に伝達して細胞あるいは組織全体の防御機構を成立させる動的な小器官であることが最近の申請者らの研究によって明らかとなってきた。本研究は、細胞の外側で行われる高次の情報処理システムの分子基盤について、病理学の視点からメスを入れ、細胞(組織)の統御と恒常性の維持を図る植物細胞壁の新たな機能に迫るものである。
著者
豊田 雅士 梅澤 明弘 五條 理志 板倉 陽子 上 大介 三好 俊一郎 肥田 直子 井上 麻油
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

幹細胞移植医療における安全性や有効欧の検証として、前臨床研究としての中大動物実験が求められる。本研究ではヒトで心筋分化能が高いとして期待される羊膜細胞をブタ羊膜から樹立しヒト細胞と比較した。さらにブタの心不全モデルを作製し、そこに細胞を移植し評価した。その結果、ブタ羊膜細胞はヒトと同等な特性を有しており、移植により心機能が改善し、移植した細胞は生着後心筋への分化が認められた。
著者
増本 純也
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

細胞内病原体受容体のNOD蛋白質の変異による自己炎症性疾患の病態を解析することで、炎症を制御するインフラマソームの機能を詳細に描き出すことができ、その制御の異常によって自己炎症性疾患が発症することが裏付けられた。今回の研究でインフラマソームの果たす炎症制御への役割が類推できたことで、炎症性疾患の予防や治療への応用が可能になると考えられる。
著者
塙 晴雄 小玉 誠
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

IL-1阻害薬は炎症が関わる疾患の治療薬として期待される。我々は、IL-1受容体アクセサリー蛋白(Acp)-免疫グロブリン(Ig)とIL-1RタイプII(IL-1R2)-Igのヘテロダイマー(Acp-Ig/IL1R2-Igヘテロダイマーと呼ぶ)を作成し、そのIL-1阻害作用を既存のIL-1阻害薬と比較検討した。Acp-Ig/IL1R2-Igヘテロダイマー(ラット,IC50=1.95pM;ヒト,IC50=0.14pM)はIL1RA(ラット,IC50=1,935pM)やAcp-IL1R type I(IL1R1)-Igホモダイマー(ラット,IC50=73.7pM;ヒト,IC50=4.48pM)、Acp-IL1R2-Igホモダイマー(ラット,IC50=72.8pM)よりも強力にIL-1を阻害し、それはIL-1αおよびIL-1β共に強く阻害した。
著者
佐藤 淳 佐藤 幸男
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、カメラ画像から得られる対象物の位置や形状の情報を音の位置で表現する方法や、視覚情報と音響情報との3次元的な整合性を取る方法を探求した。まず、ステレオカメラが復元した3次元画像空間と、音響制御装置が持つ3次元音響空間と、ユーザが持つ3次元聴覚空間の関係を調べた。ステレオカメラが校正されていない場合、カメラにより復元した空間は3次元射影変換の不定性を持つ。また音響装置が校正されていない場合には、3次元音響空間にはやはり3次元射影変換の不定性が存在する。さらにこのインターフェイスを使用するユーザの聴覚感覚には個人差があるが、相対的な位置感や相対的な距離感が保存されると仮定すると、ユーザの聴覚感覚の個人差は3次元アフィン変換により表せることが明らかになった。そこで、ステレオカメラと音響装置との関係を3次元射影変換で直接表現し、基底音をユーザに与えてこの3次元射影変換を求めることにより、聴覚の個人差を吸収しつつ、カメラで撮影した物の位置を音の位置で表現する方法を開発した。次に、得られた視覚音響弱校正理論を複合現実感に応用し、視覚情報と聴覚情報との3次元的な整合性を取ることにより、より臨場感を増強する手法の開発を行った。この時、複数のカメラ同志がお互いに投影しあうカメラの相互投影の情報を積極的に用いることにより、視覚的3次元情報の計算安定性を格段に向上させることが可能であることを示した。このような視覚的3次元情報を聴覚的3次元情報と結びつけることにより、複数ユーザが存在する状況下において、それぞれのユーザごとに視覚情報と聴覚情報の3次元的整合性を取る手法を示した。実際に音と映像を用いた仮想対戦システムや仮想楽器を実現し、視覚的3次元情報と聴覚的3次元情報との幾何学的な整合性を取ることの重要性を明らかにした。
著者
陳 致中
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

近似、並列化、randomizationという3つのアプローチを融合して、計算困難な問題を解こうとした。本研究で考えた主な問題は計算的生物学における基本的な問題であった。考えた問題と得た結果は下記のとおりである:まず、tRNAと蛋白質の二次構造解明の研究でEvans氏によって定式化された「弧付き最長共通部分列問題」について研究を行った。Evans氏がこの問題のNP困難性を推測したが、未解決のままにした。本研究で、この問題のNP困難性を証明することに成功した。また、この問題の実用性から、この問題を解くための近似アルゴリズムも開発されている。本研究以前に開発された近似アルゴリズムによって達成される近似率が0.5であった。本研究でこの近似率を一般的に改善できなかったが、2つの重要なスペシャルケースに限っては0.5よりはるかに良い近似率を達成する近似アルゴリズムを開発できた。次に、蛋白質の構造解明に非常に役立つ「蛋白質のNMRスペクトルピーク割り当て問題」について研究を行った。Xu氏らがこの問題を「制限付き二部グラフマッチング問題」として定式化して、そのNP困難性を証明した。また、Xu氏らがこの問題を厳密に解くための(非常に遅くて実用的ではない)アルゴリズムを提案した。本研究で、この問題を解くための高速な近似アルゴリズムを2つ設計した。1つは近似率2を達成する。もう1つは近似率log nを達成する。面白いことに、蛋白質の構造解明の研究で実際に使われたデータを対象に実験したところ、後者の方が前者よりもよい解を出力することが分かった。このことから、理論的に良い近似アルゴリズムよりも実際のデータを考慮した発見的手法によるアルゴリズムの方がよい解を見つける可能性が大きいことが分かる。そこで、本研究で発見的手法によるアルゴリズムを3つ設計した。そして、蛋白質の構造解明の研究で実際に使われたデータを対象に実験したところ、どれもかなり良い解を見つけてくれることが分かった。さらに、生物系統史(phylogeny)の再構築に関する研究で定式化された「k-最近系統史問題」について研究を行った。本研究で、この問題のNP困難性を証明することに成功した。また、入力データにエラーがない場合、この問題を解く線形時間アルゴリズムがあることを証明できた。このアルゴリズムは入力データにエラーがある場合の近似アルゴリズムの設計に役立つ可能性がある。
著者
馬場 純子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本調査研究は、介護保険下における居宅部門の介護支援専門員(=ケアマネジャー)の業務実態、特にケアマネジメント業務の実施状況を把握し、ケアの質の維持・向上を推進するために介護支援専門員の質的向上、スキルアップへの方策等の開発を探索することを目的に、介護支援専門員の日常業務について一ヶ月間にわたる業務量調査(タイムスタディ)(37ケース)を実施した。ケアマネジメントのプロセスに沿って業務をコード化し、どのような業務を、誰を対象に、どのような方法で、何分行ったかを毎日記録し、業務時間数を算出するものである。その結果、(1)勤務形態でみると、51%の介護支援専門員が他の仕事との兼務であったが、一ヶ月間の総時間数の平均は全体で約191時間37分、最大値は約332時間34分、最小値は約108時間であった。常勤兼務の平均は約211時間で、担当件数(全体平均54.3件)には大きな差はないが、休日日数は常勤専従の2/3であり、業務量(時間数)は明らかに常勤兼務の方が多い。(2)業務の内容別にみると、課題分析、ケアプランの作成、モニタリング等のケアマネジメントの中心的業務において、常勤専従より常勤兼務の方が時間数が多い。またケアマネジメント以外の「その他の業務」は専従・兼務を問わず全業務の約3割と非常に多くなっているが、常勤兼務は約37%を占め、更に割合が多くなっている。(3)全体的にサービス担当者会議が開催されていない、等の主な知見を得た。また、英国のケアマネジャーの教育・研修では、(1)人々の権利や義務・多様性をpromoteするシステムや構造の開発、維持、評価、(2)個人に最善の成果をもたらすようなサービスの管理・運営、(3)財政資源の活用の管理・運営、(4)チームと個人のパーフォーマンスの管理・運営が、登録マネジャーの資格取得に必須の単位となっている。今後は、タイムスタディの結果を更に詳細に質的に分析し、英国の事情を参考にわが国の介護支援専門員の教育・研修のプログラム開発を進めるとともに、担当件数の削減をはじめとする労働環境の整備も併せて検討することとする。
著者
津村 幸治 原 辰次
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

量子化データを用いたシステム同定:量子化された入出力データを用いたシステム同定に取り組み,最適量子化器の導出を通して,システム同定に必要な情報量を導出した.本研究では量子化データを用いたシステム同定において合理的な誤差規範について考察し,その妥当性について議論した.特に入力データの生成を確率的に,誤差評価はhard boundを用いた場合,最適量子化器は,確率的アプローチによる最適量子化器と,指数型量子化器とのハイブリッド型となることを示した.ネットワークド制御:信号の伝達に制約のあるネットワークド制御問題について幾つかの結果を得た.容量の異なる複数の通信線を用いたサブバンド符合化問題,対数型量子化器を用いた場合の制御性能問題について結果を導出した.また制御対象が未知の場合の適応制御について,離散時間系,連続時間系の場合について,量子化された信号を用いた安定化適応制御器を導出した.最後に,通信において伝送信号がロスするというパケット落ちがある場合について,様々な場合についての結果を得た.メモリ容量制限下におけるシステムの近似と安定化:動的システムの複雑度の指標として,その状態変数が量子化されたビットメモリシステムの,ビット長を用いることを提案した.その上で,ビット長に制約のある近似問題および安定化問題を考え,近似問題においては,与えられた近似誤差を達成するのに必要なビットメモリ長の下限と上限について,安定化問題においては,安定化を達成するのに必要な制御器のビットメモリ長の上限について,解析的に与えることができた.ネットワーク輻輳制御:TCP/IPを用いたコンピュータネットワークシステムにおける,伝送パケットの流れの輻輳を制御する問題を考えた.有限バッファを持つボトルネックで待ち行列となるモデルを導入し,列長を安定に制御する問題を考えた.従来,安定化の問題についての結果が知られているが,ここでは安定化制御器のパラメトリゼーションを与え,最適制御器を導出した.制御性能限界を示すことにより,TCP/IPを用いたネットワークシステムのより良い構造的特性について明らかにした.
著者
陳 致中
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近似・並列化・randomizationという3つのアプローチを融合してNP困難な最適化問題の解決に適用した。研究対象となった問題と得た結果は下記のとおりである。まず、「最大巡回セールスマン問題(MaxTSP)」について研究を行った。得た成果は3つの論文にまとめられている。最初の論文では、MaxTSPに対して近似率61/81を達成するO(n^3)時間限定の近似アルゴリズムおよびMaxTSPのメトリックな場合に対して近似率17/20を達成するO(n^3)時間限定の近似アルゴリズムを提案している。2番目の論文では、MaxTSP対して近似率251/331を達成するO(n^3)時間限定の乱択近似アルゴリズムを提案している。3番目の論文では、MaxTSPの対称的でメトリックな場合に対して近似率27/35を達成する多項式時間限定の近似アルゴリズムおよびMaxTSPの非対称的でメトリックな場合に対して近似率7/8-o(1)を達成する多項式時間限定の近似アルゴリズムを提案している。次に、「単純グラフにおける最大辺2-彩色問題」について研究を行った。得た成果は1つの論文にまとめられている。その論文では、この問題に対して近似率468/575を達成する乱択近似アルゴリズムを設計して、さらにそれを脱乱択化した。さらに、「k・最近系統史問題」について研究を行った。得た成果は1つの論文にまとめられている。その論文では、この問題のいくつかの特別な場合に対して定数近似率を達成する乱択近似アルゴリズムを設計して、さらにそれらを脱乱択化した。最後に、「Tandem複製歴再構築問題」について研究を行った。得た成果は1つの論文にまとめられている。その論文では、この問題の2つの特別な場合に対して定数近似率を達成する近似アルゴリズムを設計した。
著者
飽田 典子 中嶋 みどり
出版者
広島国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

臨床心理士の養成システムが、(財)日本臨床心理士資格認定協会の指導のもとに制度化されたものの、内容面については大学院間の格差が大きい。そこでイニシャルケースを担当するまでの事前教育で多くの大学が採用しているロールプレイに着目して、その体験のさせ方について検討した。役割の決め方や振り返りの視点など、ロールプレイが意味ある事前教育となるためのたたき台を目指して、例をあげて具体的に検討した。
著者
刈谷 三郎 上野 行一 小島 郷子 笹野 恵理子
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「遊び」の活動に着目して、日本と韓国の子どもの日常生活や「遊び」の現状を調査し、子どもの置かれている実態を把握する。そして、いわゆる「実技教科」と呼ばれる、音楽科、図画工作科、体育科、家庭の学校での教科カリキュラムと子どもの日常生活における「遊び」の経験がどのように関連しているかを分析し、「遊び」と実技教科カリキュラムとの関係を考察することを目的とした。これまで私たちが行ってきた「教科教育における授業評価システムに関する教科横断的研究」(平成13-15年科学研究費助成)及び、戦後の教育課程比較や学習指導方法の比較をまとめた「日韓教科教育入門」(平成17年)の研究において比較的似通った教育課程を持つ両国で、子どもたちの「遊び」と実技系教科がどのように関わり、結びついているかの比較を行った。これまでの研究成果を元に、まず、子どもの「遊び」の日韓比較を、合計約2000名の児童を対象として都市部と地方に分け調査を行い、当該調査の分析と考察を行った。これについては「日本・韓国の子どもの遊び比較研究」と題し、刈谷三郎が2007年12月2007International Leisure Recreation Seminar(ソウル)において、その成果を発表した。韓国における高学歴志向、少子化、受験といった社会的背景が、子どもの「遊び」に深く投影されていることを指摘した。質疑の中で東北アジアでの研究への発展が示唆された。引き続き、子どもの「遊び」の実態把握からよみとれる日常生活経験を軸に、実技教科カリキュラムとの関連において考察を行い、遊びを自発的な自己完結的な子どもの日常生活文化として考えると、日本の子どもは実技教科が形成する学校教科文化と子どもの日常生活文化の乖離を強く意識し、韓国の子どもの方が、日常生活文化と学校の実技教科文化との接続を認識し、融合的に把握していること論証した。これらの研究成果は韓国・日本教育学会誌(韓国・日本教育学研究)において「実技系教科と遊びの日韓比較研究」として掲載予定(2008年8月)である。しかしながら、現時点では当初の目的の一つであった、新たな実技教科カリキュラムモデルの提案には至らなかったことが課題として残された。
著者
前田 樹海 深山 智代 小西 恵美子 野坂 俊弥 田中 高政 STANLEY Grace
出版者
長野県看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

わが国では多くの地方公共団体で骨密度測定事業が実施されている。骨検診において、限られた資源や時間の中でより教育効果を高めるための方策について、提供者および利用者の両側面から研究を行なった。提供者側からのアプローチとしては、教育効果の高い生活指導に資する問診票、および健康教育に携わる保健師、栄養士、運動指導員が一定の共通認識を持って一貫性のある指導を行うための解説書の開発とその評価を実施した。問診票の項目は、WHO等が公表している国際的なリスク要因に基づき、利用者が記入しやすい、スタッフが指導しやすいという観点から厳選し、マークシート式のものを作成し評価を行なった。利用者側からのアプローチとしては、骨健診において、骨の健康について理解を深めるための解説書の作成および、骨量減少リスクを自己評価するためのツール開発を実施した。このようなツールは世界中ですでに数種類開発されているが、日本女性に特化したツールがない点、感度を高めるために特異度が犠牲になっている点が課題と考えられた。そこで、研究者らが開発した問診票からのデータをもとに、決定木による場合分けを行ない、最終的には年齢、食事、体重、20代の身長という説明変数で、骨量減少を予測するモデルを作成した。86%の精度で骨量減少を予測し、感度は91%、特異度は81%を示した。一般化のためにはさらなるデータの蓄積と検討が必要と考えられたが、地域住民が骨検診への動機付けを高めるためのツールとしては一定の役割を果たすことが推察される。上記研究成果の一部を、International Osteoporosis Foundation World Congress on Osteoporosis 2006(Toronto, Canada)およびInternational Council for Nurses Conference 2007(横浜市)にて発表した。また、第33回日本看護研究学会学術集会(盛岡市)および、日本医療情報学連合大会(神戸市)にて発表予定である。
著者
磯貝 英一 明石 重男 寺澤 達雄 赤平 昌文 鈴木 智成 宇野 力
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

研究代表者及び各分担者はこの研究課題に直接的又は間接的に関係する研究成果を得ることができた。代表者の得た主な研究硬果は次のようなものである。1.二乗誤差に標本抽出費用を加えたものを損失関数としたとき、母平均と母分散が未知な正規分布における標準偏差のべきの点推定問題を考えた。損失関数の期待値であるリスクを最小にする標本数で推定するとき、標本数が大きいときの漸近的に最適な標本数には未知母数が含まれる。そこで、逐次推定量を提案し、1標本抽出費用が十分小さいとき、この逐次推定量に対するリスクおよび平均標本数の漸近展開を求めた。この結果はMetrika vol.55,no.3(2002)に掲載された。2.正規分布における未知な尺度母数のべきの点推定問題を考えた。リスクとして平均二乗誤差を考え,このリスクがある与えられた誤差値以下になるような最小の標本数を用いて推定したい。この場合、最小の標本数の近似値は未知な尺度母数を含む。そこで標本抽出を停止する停止規則を定義し、与えられた誤差値が十分小さいときリスクに関する条件がみたされることを示した。また、リスクとして平均2乗誤差と標本抽出にかかる費用の和を用いたとき、指数分布における未知な尺度母数のべきの点推定問題も考えた。本論文で得られた成果はSequential Analysis, vol.22,no.1&2(2003)に掲載された。3.指数分布における未知な尺度母数のべきの有界危険点推定問題を考えた。リスクとして平均二乗誤差を考え、このリスクがある与えられた誤差値以下になるような最小の標本数を用いて推定したい。この場合、最小の標本数の近似値は未知な尺度母数重合むため実際には利用できない。そこで標本抽出を停止する停止規則を与え、与えられた誤差値が十分小さいときリスクに関する条件がみたされることを示した。本論文で得られた成果はScientiae Mathematicae Japonicae, vol.58,no.1(2003)に掲載された。
著者
葉 せいい
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は植民地支配下における社会関係/権力関係が、いかに都市空間構造の形成過程に関与していたかについて、特にジェンダーと権力との関係に焦点をあてて分析を行った。植民地における権力関係は、支配者と被支配者というきわめて自明な二項対立的なとらえ方からとらえらえることが多いが、しかし必ずしもその関係は明瞭なものではなく、また支配者と被支配者という二つのカテゴリーだけが存在しているわけでもない。支配者の中にもまた被支配者の中でも階層化がされており、それが織り成す複雑な関係のなかに植民地社会は成立しているのである。その関係性の中で、女性がどのように位置づけられ、どのように権力関係に関与しているのか、またその関係が空間的にどのように反映されているのかを本研究では検証した。植民地における公共空間における権力関係において、女性は積極的に関与してはいなかったが、しかし実際には植民地権力による同化=日本化の過程に女性は深く関係した。すなわち植民地権力は、学校教育を通じて、同化政策や皇民化政策を実践的にもまた精神面からも協力に推進しようと試み、女性に対しては、同化=「日本化」した女性(妻となり母となる)を育成することによつて、家庭における「日本化」を浸透させようとしたのである。公共空間での公式な同化政策と家庭における、家族による同化の推進を図ったのである。学校教育を受けた女性は伝統的家族規範から解放されたが、しかし植民地社会の権力関係の中に絡みとられていた。一方、学校教育を受けなかった女性は台湾人居住区の私的空間や近隣空間の中で、伝統的な生活様式や規範に従って生きていた。複雑な権力関係が張り巡らされた植民地都市空間において、彼女たちは同化や皇民化などの権力支配の間隙に生活していたのである。植民地都市空間の権力の狭間で、彼女たちは伝統文化を継承し、アイデンティティを保持し続けた。それは寡黙でありながら、植民地権力に対する強力なレジスタンスであった。植民地都市空間における私的空間は、一方で植民地支配の媒介的空間となり、一方で強力なレジスタンスな空間として機能した。そしてそこは女性の支配する空間であった。
著者
西原 京子 堀内 成子 内田 直
出版者
(財)東京都医学研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、産褥期うつ状態の母親の睡眠を知るためには、産褥期に適応している母親の睡眠の構造を検討する必要があった。適応群の睡眠の特徴は、以下のとうりである。1、産褥早期(1週から6週)では、母親の平均睡眠時間は、322分であり、睡眠率は77%と低いが、それは子供の世話による覚醒時間の増加によるもので、中等度の深さの睡眠が減少するが、深い睡眠やREM睡眠は減少せず、効率のよい睡眠をとっていることが明確となった。さらに、母親の中途の覚醒は、子供の動きとよく同期していた。2、子供の概日睡眠覚醒リズムができる9,12週では、Interrupted sleepとNon-interrupted sleepが存在した。、Interrupted sleepは、産褥早期の睡眠に類似するが、Non-interrupted sleepは、非妊娠女性と比べると大差がなく、むしろ深い睡眠が増加し、Interrupted sleepからくる断眠の回復睡眠をとっていた。すなわち適応している産褥婦は、眠れる時には良質の睡眠をとっていた。一方、産褥期うつ状態の生理学的研究は、症状が出ている時に患者から同意を得ることは、かなり困難であったが、睡眠ポリグラフィで1名、アクティグラフィで1名の協力を得られた。共通の知見として、第1点は、眠っていても睡眠の自覚的評価は低いこと、2点目は、子供の動きへの対応が遅いことであった。これらの所見は、例数が少ないので今後さらに例数を増やして検討する予定である。本研究でもう少し睡眠ポリグラフィに協力を願えるかと推測したが状況は厳しく、途中より方法を検討した結果、actiwatchを母子に装着する方が簡易で、被験者の協力を得ることができた。アクティグラフィが、今後、産褥期うつ状態の精神生理学的研究の有力な武器になるであろう。
著者
西尾 由里 宮本 節子
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

(1) 日本人の場合、大学生と小学生の発達段階に関わらず、英語の知覚・産出・読みはモーラを単位としている。(2) モーラに基づく母語の影響は、アクセント表示の工夫や音声・文字の同時提示などの訓練により、音節分節に変換・改善しうる。小学生の場合、英語学習経験が有効に作用する。本研究の知見は、早期英語教育の教材作成に大いに貢献できると考える。
著者
海野 徹也 長澤 和也 小路 淳 斉藤 英俊
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

放流事業によって漁獲量が著しく回復した広島湾のクロダイについて、産卵場、卵分布、稚魚の分布、成長、食性などの初期生態を解明した。クロダイの主産卵場は広島湾の湾口部に形成され、産卵は夜間であり、卵は幅広い水深に分布した。卵密度と稚魚の日周輪解析より、産卵ピークは5月下旬から6月中旬であり、着底は7月上旬から中旬にピークを迎えることがわかった。稚魚の主食はヨコエビ類、カイアシ類、であったが、生息環境に応じ柔軟性を示していた。