著者
森永 正彦 湯川 宏 吉野 正人 小笠原 一禎
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

光通信に用いられている石英系光ファイバーは、1.5μmの波長においてその損失が最も少ない。このため、波長が1.5μm近傍の発光材料の開発が急務である。本研究の目的は、エルビウム(Er)とアルミニウム(Al)を共添加したルチル(TiO_2)からの異常発光のメカニズムを解明し、ルチル系の新しい発光材料の量子材料設計を行うことにある。平成19年度の研究成果は、以下の通りである。1.2B属元素(Zn)添加による1.5μm帯の発光強度の増大昨年度の研究では、フォトルミネッセンス(PL)強度は、3mol%Er-TiO_2に比べて8mo1%A1-3mol%Er-TiO_2では約18倍、14mo1%Ga-3mol%Er-TiO_2では約23倍に増大した。このような異常発光現象は、8mo1%Zn-3mol%Er-TiO_2でも見られ、Ga添加材に匹敵するPL強度が観測された。一方、8mol%Cu-3mol%Er-TiO_2では、そのような現象は見られず、発光スペクトルは3mol%Er-TiO_2とほほ同じでPL強度も弱かったこのような添加元素による違いは、Al、Ga、Znはルチル(TiO_2)相中のTiと置換するのに対して、Cuは置換しないことが考えられる。共添加材の発光は、Erを固溶したルチル(TiO_2)相からのものであることが分かった。2.Erを固溶したルチル(TiO_2)相の中の発光の局所構造モデルの作成電荷補償の観点から、Erイオン周りの局所構造モデルを作成した。すなわち、+3価のErはTiO_2中の侵入型位置に入り、6個の酸化物イオンで囲まれている。添加元素(+3価のGa、A1や+2価のZn)は、Er近傍にある+4価のTiと置換して、電荷のバランスをとっている。例えば、Ga、Alの場合、Er近傍に3個が配置している。3.蛍光EXAFSによるエルビウム近傍の局所構造の決定8mol%Ga-0.5mol%Er-TiO_2を用いて、蛍光EXAFS測定を行った結果、上記のErの侵入型モデルを支持する結果が得られた。4.エルビウム(Er)の4f電子の多重項エネルギーの計算侵入型モデルを用いて、相対論DV-ME法によって、多重項エネルギーの計算を行った。
著者
村上 昌弘
出版者
共立女子大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

【目的】岩海苔(Porphyra pseudolynearis)は独特な香りと風味を有し、海苔類の中でも高級なものとされている。乾岩海苔を焙焼後、温水に浸漬すると海苔の旨味成分である5'-IMPが急激に増加し、旨味が増すことが知られており、これにはアデニリックデアミナーゼ(ADase)の関与が示唆されている。また、高温処理によっても乾岩海苔中のADase活性は消失せず、酵素学的にも興味深い。本研究では、ADaseの安定化機構の解明を最終目的とし、ADaseの単離・精製法、さらに酵素の大量抽出法について検討を加えた。【方法】試料の乾岩海苔は、西伊豆土肥産のものを使用した。トリス酢酸緩衝液で抽出した酵素液にADase活性が認められたので、以下の方法により精製を試みた,すなわち試料に、リン酸カリウム緩衝液を加えてホモジナイズし、遠心分離した。透析・脱塩後、弱陰イオン交換体であるCellulose phosphate樹脂で処理し、0.45M〜1.0M KClを含む緩衝液によるリニアグラジエント法により分画した。次に、5'-AMP agaroseによるアフィニティークロマトグラフイー、続いてButyl Toyopear1650Sによる疎水クロマトグラフィーを行った。【結果】Cellulose phosphateカラムクロマトグラフイーの結果、ADase活性はKCl濃度0.5M付近に回活性画分を限外濃縮し5'-AMP agaroseを用いるアフィニティーカラムクロマトグラフィーに付したとKCl濃度0.2M付近に回収された。さらに硫安濃度1.5M〜0MまでのButyl Toyopear1650Sを用いる疎グラフィーに付した結果、硫安濃度1.3M付近に活性があり、5'-AMPを基質とした酵素反応試験の結果にADase活性が認められた。ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、銀染色をした結果、薄い複数のバされたが、その中でも濃かった6万付近のバンドがADaseであると推測された。
著者
有賀 早苗
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

我々はPAP-1の結合因子を質量分析により網羅的同定を行ったところ、これまでに5種類の結合タンパク質を同定した。驚いたことにその中の一つに前述のEPB41L5が同定されたことから、劣性型RPの原因遺伝子Crb1と優性型RPの原因遺伝子PAP-1が共通の結合因子EPB41L5を持つことが明らかとなった。EPB41L5にはC末端が異なるL、Sの2種類のスプライシングアイソフォームが存在するが、PAP-1結合因子として得られたのはC末端側が短いアイソフォーム(EPB41L5-S)だけであった。また、EPB41L5-Sは通常細胞質に局在するが、PAP-1の存在下では核内に蓄積することを観察しており、PAP-1はEPB41L5-Sを核内にリクルートできると考えている。これらの知見は、劣勢、優勢の網膜色素変性症に共通な分子基盤が存在することを意味しているのかもしれない。更に、PAP-1のスプライシングターゲット遺伝子の探索を行い、複数の候補遺伝子を同定した。
著者
小林 敏雄 高木 清 大島 まり
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

低温体療法は脳の一部に血液が流れなくなる虚血性血管障害型の脳卒中に有効であり、1980年代より試みられている。虚血性血管障害が起きると欠血により脳内温度が40度近くに上昇し、このため神経障害が起こり、最悪の場合には死に至る。低温体療法を用いて体を冷やすことで脳の温度を2度から3度下げることにより、発病後の回復経過が良好である症例が報告されている。しかし、現在行われている低温療法は全身を長時間にわたって冷やすため、患者の体力負担が増大し、かえって危険になる場合が起こり得る。そこで、頭と頸部だけを冷やすことにより効果的かつ患者の負担が軽減できるような選択的脳冷却療法が模索されている。本研究では脳内温度の調節のメカニズムを把握すると同時に効率的な選択的脳冷却療法の指針を構築するため、脳内の熱輸送のモデリングおよび数値解析を行った。以上より、本研究では以下の3つのテーマに重点を置いて研究を行った。(1)脳内熱輸送のモデリング(2)数値解析システムの開発(3)医用画像および臨床データとの比較・検証(1)では脳血管網において熱交換を行っていると考えられている、内頸動脈の海綿静脈洞を模擬した同軸円管における対向流型熱交換について、直円管モデルと屈曲管モデルでの数値解析を行った。(2)数値解析にはFIDAPを用い、動脈・静脈の入口に50mmの導入部を設けて安定化を図っている。それぞれの密度・比熱は血液および血管壁で等しく、伝熱方程式に熱拡散係数を与えることで温度の計算を行う。(3)実際の脳冷却を行う際には0.2℃から0.3℃の温度低下が必要とされ、今回の解析でその条件を満たすことが確認された。屈曲管は2次流れの影響により直円管よりも伝熱量が増加し、また拍動流入を与えることで温度境界層が壁面近傍だけでなくなり、より動脈の冷却が促進されることが分かった。
著者
小崎 隆
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では、児童・学生および一般市民などの利用者を対象として、また、初等・中等教育現場や家庭などのさまざまな生活の場で、グローバルコモンズと地域環境資源を構成する重要な要素である「土」に関わるこれまでの知見を、平易かつ多面的に理解せしめることを通して、人と環境のあるべき姿を考える契機を与えるような環境教育補助ツールであるバーチャルミュージアム「土の不思議館」を試作することを目的とした。本年度は以下の研究を実施するとともに最終年度の取りまとめを行った。1)ペテルブルク大学土壌博物館と京都大学で協同してバーチャルミュージアム「土の不思議館」を製作した。2)海外の研究実施地域で追加資料の収集を行うとともに、国内の研究機関等で上記ソフトウエアの必要な改訂のための意見を聴取した。3)ペテルブルク大学および周辺の科学アカデミー研究機関においてソフトウエア試作版のデモンストレーションを行い、必要な改訂のための意見を聴取した。その後、ペテルブルク大学附属土壌博物館において、研究協力者Aparin館長ならびにAbakumov博士とともに、それまでに得られた評価に基づいてソフトウエアの改訂を行った。4)成果報告書を作成し提出するとともに、収集資料およびこれまでの現地調査で得られた成果を原著論文として公表した。
著者
湯上 浩雄 金森 義明 井口 史匡
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では,高温物体の表面に波長と同程度の周期構造(回折格子)を形成することにより、熱放射スペクトルの制御を行い、熱光発電システムや化学反応プロセス等の高効率な熱利用システムを構築することを目的としている。昨年度の研究において、Maxwell方程式の厳密解を求めるシミュレーションコードにより、各システムに最適な微細構造の決定を行うとともに、可視領域の輻射スペクトルを選択的に放射する表面ナノ構造体を高融点金属に作製するためのプロセス研究を行ってきた。この成果にもとずき、本年度は以下の研究を行った。1.昨年度までに整備したフーリエ赤外分光器を中心とした熱放射スペクトルの絶対値を測定する装置により,単結晶および多結晶タングステン試料表面に製作した表面回折格子からの熱放射を測定し、キャビティ深さと熱放射スペクトルについて系統的に調べた。その結果、キャビティ深さが浅い場合は、表面プラズモンポラリトン共鳴による放射が観測されるが、キャビティ深さの増大とともに、孤立したキャビティ内部の電磁波モードからの放射が支配的となることが分かった。2.光学定数が複雑な分散関係を示す材料に適応可能なFDTDプログラムコードを開発して,構造との共鳴効果による熱放射スペクトルへの影響を定量的に解析すると共に、実験結果との比較を行った。その結果、開発したFDTDコードにより、熱放射スペクトルが再現でき、実験と定量的な比較が出来る事が分かった。3.これまでの研究成果の取りまとめを行と共に、今後の研究の方向性や更に研究すべき課題について検討した。
著者
湯上 浩雄 齋 均 金森 義明 佐多 教子 圓山 重直
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

我々は、熱光起電(Thermo-Photo-Voltaic : TPV)発電に関する研究を行っていく過程で、フォトニック結晶と類似の表面ナノ構造により熱放射スペクトルが制御できる可能性が有ることを見出した。本研究では、この量子共鳴効果を用いた熱放射スペックトル制御機能の発現原理の解明と、TPV以外の熱工学応用分野への適応性に関して研究を行う。本研究では,熱放射スペクトルの制御を行うことにより,より高効率な熱利用システムを構築するとともに、作製したナノ構造エミッタの熱・光学特性を評価し、機能性発現原理と応用について考察する。前年度行った、Maxwell方程式の厳密解を求めるRigorous Coupled-Wave Analysis(RCWA)法に基づいた解析プログラムコードによる、最適な微細構造の決定、微細領域の放射スペクトルを測定するための放射測定装置の設計と製作に引き続き、以下の研究を行った。・可視領域の輻射スペクトルを選択的に放射する表面ナノ構造体を高融点金属に作製し、高温耐性を有する構造を実現するために、単結晶タングステン金属を用いて表面微細構造を製作し、1400Kにおいても安定な構造を得ることができた。・実際の試料の製作に当たっては製作誤差が不可避であり、それを考慮して改めて設計を行い、周期1.0-1.2μmの試料を作製した。これにより可視〜2.0μmの放射率が増大し、波長特性が改善された。・開発したRCW法に基づく数値解析と、微細構造のパラメータを変化させた試料の放射特性の比較から、今回得られた熱放射特性の変化は、主としてマイクロキャビティ効果に起因することが実験的に示された。
著者
澤田 典子
出版者
静岡大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

最終年度となる今年度は、黎明期(前7世紀半ば〜前5世紀)の古代マケドニア王国史を、断片的な文献史料と近年の考古資料との整合性の検証を軸として解明するという研究目的のため、前年度までに行なったマケドニア王国の建国神話についての分析と、マケドニア王国に関する考古資料の整理・検討を踏まえて、建国神話と考古資料の整合性を検証しながら神話の史実性についてさらに考察を深めた。建国神話を中心とした史料から読み取れる初期のマケドニア王国史について、ギリシア世界との関係という側面からも考察し、その成果は、論文「前5〜4世紀のマケドニアとギリシア世界」(平成21年度掲載予定)にまとめた。また、これまでの考察を総括したうえで、初期のマケドニア王国の「独自性」について、マケドニア王家と貴族層というエリート社会に焦点を絞って検討し、同時代のポリス世界とは異なるマケドニアの社会のあり方を、論文'Social Customs and Institutions:Some Aspects of Macedonian Elite Society'(平成21年度掲載予定)にまとめた。これらの作業を通して、マケドニア人のアイデンティティという、今後の研究につながっていく大きな問題についても考察し、初期のマケドニア王国における彼らのアイデンティティの形成・展開過程がその後のマケドニアとギリシア世界の関係史において重要な意味を持つことを明らかにした。
著者
松本 仁志
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本年度は,左利き児童の実態を踏まえた上での単位教材の作成,書字教材モデルの作成,予備的検証を以下の通りに実施した。1.文字の字形、文字の大きさ、文字の位置、書式(マス・縦罫・横罫)などの形式的な要素ごとに単位教材モデルを作成した。2.単位教材モデルをもとに、小学校第3学年及び第4学年を対象とした、文字習得に関わる教材、の配列・配置に関する教材、左手による筆記具の持ち方の改善に関する教材を作成した。ただし、左手による筆記具の持ち方の改善を図るための教材については、左利き児童の持ち方と書字姿勢のパターンが多様なため、典型的なモデルを作成するには至らなかった。3.大学生を対象に、書字教材モデルの有效性について、予備的検証を行った。その結果、文字習得に関わる教材、文字群の配列・配置に関する教材については、視認しやすい教材文字を配することの効果及び書式における横罫の優位性は確認できたが、その他の点については、右利き用のものと比して効果は確認できなかった。また、左手による筆記具の持ち方の改善を図るための教材については、データを処理に至らなかった。予備的検証において、視認しやすい文字の位置や書きやすい書式など、一般的な点での成果しか認められなかったのは、左利き者の書字特徴の捉えが不十分であったことを意味している。一人一人の実態にあわせた教材を提供するためにも、左利き児童の実態について、特に書字姿勢、筆記具の持ち方、書字行為(筆圧、書字方向、書字速度など)の実態に焦点化した再調査の実施と、その結果を踏まえた特徴の類型化が必要がある。
著者
赤堀 侃司 中山 実 柳沢 昌義
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

目的:本研究の目的は,アバタ自体が休息,もくしはリラックスすることにより,作業者がそれをみただけで癒されるたり,あるいは休息行為を促されるためのインタフェース作りである.これに必要なアバタの見かけや動作を開発・実装し,効果についてアンケート調査を行う.方法:MSオフィスアシスタント(以下MSアシスタント)と同等のサイズのキャラクター(癒しキャラ)を1個作成した.癒しキャラには背伸びなど全8動作を行わせた.これに対して,10個のMSアシスタント(犬,イルカなど)から各8動作,計88動作を抽出した.これらの癒し効果について,Web上でアンケート調査を行った.アンケートは7段階評価であり,分析的項目(5つ)と包括的項目(3つ)から構成された.手順:Web上のアンケートサイトにて,被験者1人あたりMSアシスタント2個と癒しキャラの計3個を評価させた.なお,MSアシスタントはランダムに割りふった.各キャラクターの被評価人数は約30名であった.結果:癒しを促進するキャラクターと行動を明らかにするために,評価項目ごとに,癒しキャラとMSアシスタントの88種類の行動について一元配置分散分析を行った.その結果,全体的な傾向として,犬とイルカの行動が,他のキャラクターに比べ,より癒しを促進していることが明らかになった.考察:花や貝殻など癒しイメージが感じられるものや,火炎放射器を使うなど意外性・非日常性が感じられる行為に癒し効果が認められた.また,キャラクターの「かわいさ」も重要な要因であることがわかった.今後の癒しキャラ開発では,作業者が日常とっている行動との関連や,キャラクターの影響を考慮する必要がある.また,作業者自身が休息行為を行うことによる癒し効果や,脳科学の知見の検証にも展開させていきたい.<スケジュール>平成19年3月日本教育工学会研究会における成果発表
著者
吉野 博 持田 灯 松本 真一 長谷川 兼一
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究は,平成15年度〜平成16年度までの継続研究である。研究目的は,建材や紙類など,これまで個々の部材レベルでしか検討されてこなかった住宅居室内に存在する様々な吸放湿物体の特性を室全体の総合的な吸放湿特性として把握する方法を開発するものである。最終年度である本年度の研究実績は,以下の通りである。1.単室模型を用いた実験昨年度に引き続き,居室の2分の1スケールの実験箱を使用し,居室における吸放湿特性の現場測定の方法に関する検討を行った。本年度は,室内容物として,コピー用紙,T-シャツ,羽毛布団,以上を組み合わせた場合について加湿実験を行い,室内容物が存在する場合における室の吸放湿特性について検討した。2.数値指標の提案と同定方法の検討1.の単室模型を用いた実験結果より,理論的に室内湿度の変動と湿度励振から室の吸放湿性能を評価するための数値指標とその同定方法について検討した。今回は,居室の吸放湿特性を表す数値指標として,1)積算加湿量と加湿開始時の湿度変化から算出する湿度変化速度,2)吸放湿の無い場合の室内湿度をバランス式から算出し,実際の室内湿度と比較してその差を評価する面積評価法,3)室内湿度のバランス式における吸放湿に関わる2つの係数KS,CWを実験結果から同定する係数同定法の3つについて提案し,それぞれの比較検討を行った。3.実大実験家屋を対象とした現場測定単室模型を用いた実験により得られた成果を基に,実際の居室における現場測定を想定し,屋外に設置された実大スケールの実験家屋の一室を用いた実験を行った。検討した室内容物等は,単室模型とほぼ同様であるが,特に本実験では,屋外条件の影響などについて検討し,(2)で提案した評価指標を同定した他,更に精度良く同定できる手法として,3つの係数KS,AW,BAを提案し,その精度について検討した。
著者
村方 多鶴子 大石 時子 太田 知子 山崎 鯉子 新屋 明美
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

夫/恋人から暴力を受けた女性被害者6名に面接を行ったデータを分析し、暴力に繋がる加害者の価値観・信条に影響を与えていえると考えられる加害者の家族関係を、被害者がどのように意味づけているのかを明らかにした。その結果、加害者の家族関係では、「父が暴力的環境で成長」「父から母への暴力」「父から加害者への一方的押し付け」「父親の影響力大」「母の身体的虐待」「母との信頼関係不十分」「離婚」「甘やかしすぎ」「安心感がない家庭」の9のカテゴリが抽出された。被害者は、加害者の「父が暴力的環境で成長」したことが、「父から母への暴力」「父から加害者への一方的押し付け」に繋がっていると捉えていた。他に「父親の影響力大」「母の身体的虐待」から、加害者は男女・親子関係における力関係を学習し、相手の視点で物事を見ることができず、弱者への支配を身につけた。つまり、夫婦/恋人関係は対等ではなく自分が優位、妻や物事を自分の思い通りにしてもよいと感じた。そして、妻/恋人・子どもに対する共感性欠如のために、自分中心の考えや行動をとり、暴力を軽んじるようになった。また、「父から母への暴力」を見て男性優位の意識が強まり、「母との信頼関係が不十分」だったため、母から得られなかったものを妻/恋人から得ようと、女性に対する期待が高くなった。加害者はこのような生育家庭を「安心感がない」と感じ、被害者意識が強くなったと被害者は意味づけしていると考えられる。看護の世界では、患者とのやり取りを振り返ることを通じて、患者との望ましい対人関係について学ぶために「プロセスレコード」を用いる。自分の信念や価値観を明らかにし自分の傾向に気付きやすいために、特に看護学生が用いることが多い。そこで、暴力を止めたいと思っている加害者がプロセスレコードを用いることで、自分の価値観や、思考や行動パターンに気付く一助になると考える。
著者
高橋 健造
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究は、難治性の皮膚角化症であるダリエー病、ヘイリー・ヘイリー病に対する外用治療薬の開発を目標とする。ダリエー病およびヘイリー・ヘイリー病は、各々SERCA2遺伝子、SPCA1遺伝子の変異による比較的頻度の高い優性遺伝性の角化皮膚疾患であり、醜形・悪臭を伴う皮疹が思春期以降の顔や胸部などの脂漏部位、あるいは腋窩などの問擦部に発症するが、現在の所、有効な治療法が存在しない。両遺伝子より転写される小胞体、ゴルジ体のカルシウムポンプであるATP2A2、ATP2C1蛋白の蛋白量が低下し、表皮角化細胞が正常な角化プロセスより逸脱することで発症する。我々は、ハプロ・インサフィシエンシーと呼ばれるこの発症メカニズより、SERCA2あるいばSPCA1遺伝子の転写を亢進し、患者皮膚でのポンプ蛋白の発現量を変異体・正常蛋白ともに増加させることで、皮膚症状を改善しうると考えた。そこで培養ヒト表皮角化細胞を用い、SERCA2・SPCA1遺伝子の発現を増強させる薬剤を、脂溶性薬剤ライブラリーをスクリーニングすることで網羅的に探索した結果、カンナビノイドとバニロイドと呼ばれる作動薬の1群が、ヒト皮膚でのATP2A2蛋白の発現を亢進することを発見し特許を申請した。ln Vitroの解析結果より発見した各作動薬群の薬剤を今後、モデル動物を用いたEx Vivoの実験を通して、より効果的で安全性の高い薬剤を検討することで探索するとともに、近い将来の臨床治験などへ向けたより効果的な薬剤の選定を進めている。さらにヘイリー・ヘイリー病の治療薬となるべき薬剤のスクリーニングも継続している。
著者
佐藤 英一 松下 純一 北薗 幸一
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

構造用複合材料における材料設計の目的は、望みの力学的性質すなわち製品の応力方向へ高い強度や靱性を得ることである。近年、形状記憶合金繊維の形状記憶ひずみにより生じる内部応力を利用して複合材料の力学的性質を改善する試みがなされているが、強化方向が繊維の方向で決められてしまうことは、通常の繊維強化複合材料と変わりがない。本研究は、方向や大きさの制御が可能である内部応力の起源として「磁歪」に注目し、等方的な磁歪粒子強化複合材料に磁化熱処理を行うことにより、選択方向を強化した異方性複合材料を創製することを目的とした。モデル材料系には、分散粒子には超磁歪材料Tb_<0.3>Dy_<0.7>Fe_2(Tafenol-D)、マトリクスにはAl, Pb, Snを選んだ。はじめに押し出しによる粉末法により、Al/Tafenol-D, Pb/Tafenol-D複合材料を作製し緩和プロセスを観察したが、磁化熱処理中にひずみの緩和は観察されなかった。押し出しでは粒子を分散させるのに加工度が不十分であると考えられたので、繰り返し圧延接合法(ARB法)によりSn/8vol%Tafenol-D複合材料を作製した。水冷電磁石にオイルバスを設置し、最大0.8T、453Kでの磁化熱処理を施し、緩和プロセス中のひずみ変化を測定した。磁場負荷により複合材料に生じた瞬間ひずみは、予想通り、磁場方向に伸び、垂直方向に縮みの方向であり、その大きさも予測値と一致していた。瞬間ひずみの発生後、磁化熱処理中にひずみは指数関数的に減少するのが観察された。その緩和時間は、粒子径と拡散係数から予測される値とほぼ一致しており、緩和時間のアーレニウスプロットから緩和の活性化エネルギーが求められた。以上より、選択方向強化複合材料創製の要となる磁化熱処理中の緩和プロセスを直接観察することができた。
著者
北村 充 濱田 邦裕 山本 元道 岩沢 和男 隅谷 孝洋
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究の遂行により得られた結果を以下にまとめる.・船体構造解析ビデオ講座の構築造船設計技術者育成のための構造解析学のビデオ講座を作成し,インターネット配信した.これは,実際の授業風景をデジタルビデオで撮影し,インターネット配信できるフォーマット(Windows Media Player)に変換し,ホームページに掲載したものである.これにより,造船設計技術者はインターネット上に公開されたビデオ講座を,「いつでも」,「どこでも」受講できるシステムを構築した.調査の結果,時間制約が多い社会人にとって,「いつでも」,「どこでも」,また「何回でも」受講できるビデオ講座は,非常に利便性が高いことが判明した.・オンライン教材の作成方法の確立ディスプレイ上に写したPDFファイルなどをポインターで示しながら,説明する音声を加えることにより,非常に鮮明であり,かつ,理解しやすいオンライン教材を作成した.ポインターにはペン・タブレットを用い,外部マイクロフォアンを接続する.その状況下で,ビデオ出力することにより,オンライン教材を効率よく作成方法を確立した.受講者の目の前で行われている講義と同じ(またはそれ以上の)レベルの理解度を得ることができる.・WebCTによるオンラインクイズによる理解度チェクの効果WebCTと呼ばれるe-learningシステムを用いて,オンラインクイズを実施した.クイズは自動採点機能を有しているため,受講者は答案提出後すぐに各自の点数を知ることができる.クイズにより受講者は授業内容をより深く理解することが可能になる.また,教育者側も受講者の理解度を測定できる.アンケート調査の結果,オンラインクイズは受講者の理解を高めることに対して非常に高い効果を有することが分かった.
著者
川真田 聖一
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

生体の主要な有機成分は、タンパク、糖と脂質である。これらのうちタンパクと糖については、研究が進展している。しかし、脂質は、試料作製の脱水操作で失われたり、特定の脂質に結合する物質がほとんど無いため、脂質の種類の同定は極めて困難である。本研究の目的は、組織や細胞中の脂質を、質量分析法(mass spectrometry)で角翠析して、脂質の種類を同定し定量化する方法を開拓し、ステロイドホルモン産生器官に応用することである。脂質の質量分析には、2つの技術的課題がある。第1に、脂質はイオン化しにくい傾向があるので、良いイオン化条件の検討が必要である。第2は、細胞や組織には多種類の脂質が含まれているので、測定や解析を困難にするおそれがある。研究では、ラットの副腎を取り出し、メタノールで抽出した。抽出液を、50%メタノールと0.1%蟻酸を含む水溶液で希釈して、イオンスプレー法(APCI)法を使い、イオンスプレー電圧5.500 Vで測定した。しかし、安定したピークは得られなかった。そのため、成分が既知の物質で測定を試みた。コレステロールなどのステロイド化合物をメタノールで溶解し、イオンスプレー法(APCI)法で測定したが、明瞭なピークは検出されなかった。次に、これらの測定物質を積極的にイオン化する必要があると考え、トリメチルクロロシランでシリル化させるなど、ガスクロマトグラフィーで使用される手法を試みているが、未だ安定して測定する方法を確立するには至っていない。
著者
亀田 正治 市原 美恵
出版者
東京農工大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

気泡を含む流体に関する多分野融合問題,具体的には,噴火様式を決定付ける要因とされる「マグマの破砕」現象の解明に取り組んだ.研究手法には,高い再現性と可視化撮影の実現性を重視して「マグマ模擬材料による常温室内実験」を採用した.模擬材料は,「水あめ」に過酸化水素水と二酸化マンガンを加え,触媒反応により酸素気泡を得たものである.この模擬材料は,マグマの持つ特徴である「超高粘度」「高剛性」「Maxwell型粘弾性」を併せ持ち,発泡マグマと同様に直径数10μmの気泡を大量に含んでいる.また,粘度,ボイド率も幅広い範囲で調整ができる.実験では,減圧による発泡材料の破砕過程を高速度撮影により詳しく調べた.その結果,十分固体的な状態におけるマグマの破砕は,破砕に必要な臨界差応力に達する時間tdecが特性をつかさどることを見出した.また,材料の固体流体遷移を支配する緩和時間trとの比(デボラ数: tr/tdec)を指標として,破砕に必要な臨界差応力に対するレオロジーの影響を詳しく調べた結果,臨界デボラ数(10)以上では,差応力はほぼ一定になること,また,臨界デボラ数を下回ると,次第に差応力が大きくなることが分かった.つぎに,減圧開始から破砕にいたるまでの時間tfに対するレオロジーの影響を評価したところ,デボラ数に反比例することがわかった.さらに,その最小値は減圧特性時間tdecによって,その最大値は,材料内の気泡が膨張を開始する特性時間tvに支配されることが分かった.これまでの成果を取りまとめたものを,雑誌論文2編,図書1巻として公表した
著者
久曽神 煌 磯部 浩已 福島 忠男
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

超音波モータは,構造が単純で,磁界を発生せず,直接駆動で減速器が不要であるので静粛に駆動することから,その応用技術の開発が進められている.一方,一般的に空気案内機構は,非接触で高精度案内を実現できるが,減衰特性やロバスト性に乏しい欠点がある.ここでは,円筒状のステータの中に,わずかなすき間を介してロータを配置する非常にシンプルな構造のモータを構築する.そして,ステータに周方向に伝搬する超音波たわみ進行波を発生させることで,ロータを非接触支持すると同時に,ロータを非接触で回転させる超音波モータを試作した.さらに,ロータの半径方向運動誤差を動的補正するシステムを構築し,ロータの高精度案内を実現した.空気膜のばねや減衰特性,ロータの質量などから構成されると考えられるロータの振動系の動特性を,圧電素子にステップ上の印加電圧を与えた時のロータ位置の時間的変動から算出した.駆動周波数23.9kHzにおいて,周方向に伝播するたわみ進行波の変位振幅が0.3μm(実測値)となるステータで,軸受すき間10μmの場合,空気膜のばね定数0.028N/μm,減衰比0.38を得た.また,ロータの運動誤差をリアルタイムで補正する制御系を構築し,半径方向運動誤差補正を行い,周波数特性を測定した.その結果,周波数10Hz以下程度の外乱に対しては,補正可能であることが確認された.以上の結果,本機構を精密測定器などの回転数の低い機器に導入できる可能性を見いだした.
著者
崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

胚性幹細胞(ES cell)は、胚盤胞の内部細胞塊を起源とする株化細胞で、多分化能を持ち遺伝子組換えマウスの作成に必須である。現在ノックアウトマウス作成に利用されているES細胞株のほとんどは、株化が容易で生殖系列遺伝するキメラが得やすい129系統由来のものである。しかし、129系統は脳に奇形があり脳の機能解析には不向きであるため、膨大な時間と手間をかけて他の系統のマウスに戻し交配する必要があった。そのため129系統以外の系統由来のES細胞が世界的に求められているが、他のマウス系統由来の高効率で生殖系列遺伝するES細胞株はほとんどないのが現状である。本研究の目的は、様々な系統のマウスからES細胞株を系統的に樹立する方法を開発し、今後の発生工学を利用した研究に供することである。まずC57BL/6系統マウスより再現性良くES細胞株を樹立する方法を確立するために、細胞を採取する胚の培養条件と多分化能を持つ細胞の採取の時期と方法を詳細に検討した。その結果、特定の時期に物理的な方法で内部細胞塊を分離することが、ES細胞株樹立に重要であることが明らかになった。この方法を用いてC57BL/6N由来ES細胞株「RENKA」を樹立することに成功した。さらにこのES細胞株から生殖系列遺伝をするキメラマウスを効率的に作成する方法を検討した。その結果、ES細胞を導入する胚の成長時期と導入するES細胞の数が重要な要素であることが明らかになった。これらの研究成果は、「近交系C57BL/6由来ES細胞株RENKA及びこの細胞を用いたキメラマウス作製法」として特許出願中である。
著者
武山 健一 加藤 茂明 高田 伊知郎 北川 浩史
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

申請者はポリグルタミン伸長異常タンパクによるSBMAモデルショウジョウバエを用いた神経変性誘導を指標とした(1)分子遺伝学的アプローチおよび(2)生化学的アプローチによる候補因子探索と、(3)その性状解析からクロマチン構造変換機能異常によるエピジェネティック制御破綻への情報基盤を構築した。(1)分子遺伝学的アプローチによる新規神経変性制御因子の探索SBMAモデルショウジョウバエのpolyQ-AR誘導性の個眼神経変性を指標として、神経変性の変動が観察された25系統を単離した。中でも神経変性を顕著に回復する遺伝子としてRbfの同定に成功し、RbfによるE2F-1転写活性化を破綻させている事を見出した(Suzuki et al.,投稿中)。(2)生化学的アプローチによる新規polyQ-AR相互作用因子の探索クロマチン画分からのpolyQ-ARタンパク複合体精製はトランスジェニックショウジョウバエ個眼より精製後、MALDI-TOF/MS法あるいはLC/MS法にて同定する。その結果、ヒストンシャペロンやelongation factor、RNA結合タンパク等を同定した。3 候補因子の性状解析とエピジェネティック制御情報基盤の構築(1,2)で同定した相互作用因子のクロマチン構造変換能をヒストン修飾や構造、クロマチン構造変換能に着目した生化学的解析を行った。具体的にはヒストンアセチル化、メチル化、ユビキチン化およびリン酸化assay、MNase assay、クロマチンsupercoiling assayやdisruption assayによりin vitro系を構築した。これに必須材料となるヒストン八量体およびDNAとのクロマチン再構築は、HeLa細胞核抽出液およびrecombinant系を両者で整えた。