著者
鈴木 真二 土屋 武司 柄沢 研治
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

事故や故障が発生した場合の航空機の安全な自立的誘導制御技術を研究するとともに、飛行試験を模型航空機で実験する方法の研究を推進するのが本研究の目的である。事故や故障が発生した場合に、機体の姿勢を自動的に安定化する方法に関しては、本年度はニューラルネットワークによるフィードバック誤差学習法を研究し、シミュレーションならびに実機飛行試験によってその有効性を確認した。その結果は、飛行機シンポジウム(日本航空宇宙学会)、交通・物流部門大会(機械学会)において発表し、H18年8月開催予定の誘導制御シンポジウム(米国航空宇宙学会)で講演する。模型飛行機実験に関しては、ラジコン機の製造・飛行を実施し、指定したウェイポイントを自動で飛行する自律飛行試験に成功した。また、携帯電話回線を利用したデータ通信による飛行制御にも成功した。その成果は新聞、TVでも紹介された。模型飛行機の製作と実験に関しては、教育的効果も高いので、他の研究室、専攻も参加する研究科内の研究会プロジェクトを立ち上げ、活動を開始し、本年度は第1回全日本学生室内飛行ロボットコンテストを日本航空宇宙学会の主催により開催した。
著者
宮地 良樹 中村 元信 荒川 明子
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

円形脱毛症の中には、多発型円形脱毛症あるいは全頭部に拡大する全頭型脱毛症、眉毛や体毛の脱毛もある汎発型脱毛症があり、ステロイドの外用、内服、局所免疫療法、光線療法などの既存の治療法に反応しないことが多い。私たちは円形脱毛症の病因が制御性T細胞の機能不全であるという仮説のもと、坂口志文教授らとの共同研究で円形脱毛症患者の末梢血を解析し、有意な制御性T細胞減少があることをすでに見いだしている。自己免疫疾患マウスに制御性T細胞を移入すると自己免疫反応を抑制できるため、制御性T細胞操作の治療への応用が期待されている。我々はまず円形脱毛症を自然発症するC3H/HeJマウスの皮膚局所へ制御性T細胞を投与し、人体に応用する前にまず、円形脱毛症モデルマウスC3H/HeJマウスへの治療効果を検討する。(1)C3H/HeJマウスCD4陽性細胞をソーティングする。(2)FoxP3発現用レトロウイルスをトランスフェクト(3)C3H/HeJマウスの末梢血、脾臓、胸腺を採取する。(4)CD4陽性CD25陽性細胞をソーティングする。(5)FoxP3発現用レトロウイルスをトランスフェクトしたCD4陽性細胞とCD4陽性CD25陽性制御性T細胞をそれぞれC3H/HeJマウスの脱毛斑に局所投(6)外毛根鞘細胞のMHCclassI、II蛋白の発現量、インターフェロンガンマの産生を定量する。
著者
鳥巣 諒 伊藤 菊一
出版者
岩手大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

研究目的:恒温植物ハスの発熱現象の解明を次の2つの視点から行なった。(1)ハスの発熱する体温の時系列データをカオス時系列解析手法を用いて、体温変動の中にカオスが発現することを確かめること、(2)発熱時・非発熱時の花托部分の熱収支方程式を構築して、熱伝達・熱放射に関与する熱定数を同定し、ハスが発生する熱量を推定すること。実験方法と実験場所佐賀市内のハス田(佐賀市本庄町北緯33.3:東経130.3)で、ハスの開花時期(平成17年6月24日から7月14日)、ハスの花托部分の体温と気温を測定した。測定個体は40体で、温度測定には温度サーミスタ方式のデジタル温度記録計を利用し、サンプリング時間は1分とした。ハスが恒温植物であることの再確認ハスの花托部分が3〜4日間発熱し、30〜35℃を保ち、外気温より10〜15℃程度高い温度となった。また、太陽放射の無い日没から日の出までの間、温度制御を活発に行なっていた。ハス体温(花托部分)のカオス時系列解析ハス体温のパワースペクトル解析から遅延時間τを160分と決定し、3次元相図を用いてアトラクタを作図した。次に、相関次元解析を行い、埋め込み次元(16〜17)と相関次元(2.2)を求めた。さらに、リアプノフスペクトル解析を実施し、最大リヤプノフ指数とKSエントロピーがともに正の数となり、軌道不安定性・長期予測不能性が確認された。このことから、実験開始前の予想通りハス体温の変動にカオスが発現することが確認された。ハスの発熱基礎方程式の構築と発熱量の推定ハス花托部分の発熱時期の熱収支には、ハス自身の発生する発熱量のほかに、太陽からの熱放射、気温からの熱伝達、周囲環境からの熱放射・熱伝達が影響する。ここでは、太陽放射のない夜間部の熱収支に着目し、測定した温度データを入力として未知の発熱や各熱定数を求めるという逆問題(inverse problem)を解いた。これにより、パラメータの同定と発熱量の推定が可能になった。求められた熱特性パラメータは、空気から花托への熱伝達率が1.2kJ/10min m^2Kであり、発生した発熱量は、150〜300J/10minであった。
著者
柿木 隆介 渡邊 昌子 金桶 吉起
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本研究に用いたMicro-SQUIDは特注で製作した世界唯一の機器であり、まさに萌芽的研究の主旨にかなった研究テーマであった。この3年間は実用化における諸問題の解決に力点を置いて研究を行なった。すなわち、SQUID自体の問題に加え、磁気シールドルーム(これも世界で最も小型のものを特注した)にも多くの問題が発生した。さらにソフトウェアの多くも新たに作成したが、初期マイナートラブルが多く発見され、それを1つずつ解決せねばならなかった。昨年夏にはようやく実用化が可能となり実験を開始する事ができた。先ず末梢神経の記録を行った。指を刺激して手首部を上行する活動電位の計測を行った。Micro-SQUIDの極めて高い空間分解能は、上行する刺激信号が4双極子であること、またその伝導時間が平均58.7m/secであることを明らかにした。信号が上行する状況をmsec単位で明確かつ詳細に記録したもので、世界で初めての報告であった。また同様の刺激条件時に頭皮上にMicro-SQUIDを置いて初期大脳皮質反応の記録に成功した。現在は、さらに聴覚、視覚などの刺激による反応記録も行っている。現在はヒトを対象とした研究が主体であるが、今後はさらにサルでの実験も考慮している。さらに交通事故による「引き抜き症候群」患者の検索を目的として、先ず健常人を対象として腕神経叢より頚部神経節に至る末梢神経近位部の検索を行なった。Micro-SQUIDの極めて高い空間分解能は、上行する刺激信号が4双極子であること、またその伝導時間が平均約60m/secであることを明らかにした。来年度は多数の臨床例を対象として検査を行なっていく予定である。
著者
横谷 明徳 赤松 憲 藤井 健太郎 渡邊 立子 漆原 あゆみ 鹿園 直哉
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究では、放射線の直接効果によるDNAの損傷過程を、DNA中の特定元素を狙い撃ちができるシンクロトロン軟X線ビーム(以下軟X線)を用いることで解明することを目的としている。本年度はDNA塩基の蒸着薄膜試料を作成し、短寿命の塩基ラジカルをESRにより測定した。その結果、薄膜にわずかに水分子が吸着すると塩基ラジカルの収率が減少することを、窒素及び酸素のK吸収端の軟X線を利用することで新たに見出し、損傷過程においてDNAと配位水層との間の電荷交換相互作用が介在することが示された。一方、これまでに軟X線を用いて実験的に得られているDNAの1本鎖切断、2本鎖切断及びFpgなどの塩基除去修復酵素との反応で可視化された酸化的塩基損傷の収率について、モンテカルロシミュレーションによる理論的な解析を進め、特定元素の内殻吸収によりクラスター化した複雑なDNA損傷が生じることを明らかにした。さらに、軟X線と同様に高密度励起・電離を与えるイオンビームについても、研究当初には予定されていなかったが同様な実験を進め高LET放射線によるDNA損傷収率を得ることができた。また細胞レベルでの修復応答を調べるための新しい実験方法として、大腸菌の塩基除去修復酵素欠損株に損傷を含むDNAを適当なベクターで導入し、修復反応をさせた後に再び細胞からDNAを回収して損傷の修復度合いを測定する方法を確立した。この方法により、ふたつの塩基損傷からなるクラスター損傷により、修復欠損株では突然変異率が極めて増大することが明らかになった。さらにDNAとタンパク質がクロスリンクするタイプの損傷を調べる目的で、アミノ酸の薄膜に対する軟X線照射及びHPLC法による照射生成物の分析を行ない、光学異性アミノ酸に関する円偏光軟X線二色性スペクトルの測定に世界で初めて成功するとともに、アミノ酸同士が重合した二量体が生成することを確認した。
著者
西垣 泰幸 伊藤 敏和 佐竹 光彦 寺田 宏洲 西本 秀樹
出版者
龍谷大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

西垣と佐竹は、日本の景気循環がカオス理論により説明できるかどうかを実証的に検証するため、日本のGDPデータを用い低次元の決定論的な周期を検出するための「残差診断法」を適用し分析をおこなった。この成果は、2007年8月の国際会議(10^<th> International Conference of the Society of Global Business and Economic Development)において報告する予定である。さらに、設備投資、株価、株価収益率などの複雑な循環的振動を示す時系列データを用いて、複雑性の実証分析を進めた。これらの成果は、順次論文として取りまとめ、今後、学会・国際会議等で報告する予定である。寺田、西垣、伊藤は、複素ロジスティック方程式の経済学への応用に関する成果("An application of complex logistic equation to economics")を再検討したうえで、第63回日本経済政策学会、および、第11回差分方程式とその応用国際会議(11^<th> International Conference on Difference Equations and Applications)において報告した。さらに、複素ロジスティック方程式の一層の応用研究として、粗鋼などの鉱工業生産データ、金融・実物資産などの資産ストックデータ、工業製品普及率などのデータを解析し、シミュレーション研究を進めた。寺田は、ケインジアン動学を線型ではなく非線形動学として分析するために、(1)リエナール微分方程式、(2)ファン・デル・ポール微分方程式の数学的特性の研究に特化した。この成果は、今後、学術雑誌に発表するとともに国際会議(10^<th> International Conference of the Society of Global Business and Economic Development)において報告する予定である。伊藤は、B.Scardua教授との共同研究で、CP(n)上の線型双曲線ベクトル場の幾何学的特徴づけをした。また、フランスの数学研究所CIRMで開催された国際会議「Dynamical Integrability」(2006年11月27-12月1日)で研究報告をした。
著者
中澤 満 大黒 浩 間宮 和久 山崎 仁志
出版者
弘前大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

年度当初に立てた研究計画ではカルシウム結合タンパク質の変異が網膜変性にどのような影響を及ぼすかを遺伝子改変動物の作成ならびにRNA技術を用いた遺伝子発現抑制によって検討することであったが、この研究の準備を進める段階でヒト網膜色素変性モデル動物に対するカルシウム拮抗薬の視細胞保護効果を明らかにする必要性が新たに生じたため、まず第一に後者の実験を行うこととした。カルシウム拮抗薬による視細胞内のカルシウムイオンの変化がカルシウム結合タンパク質などを介した視細胞保護効果を持つかどうかを明らかにすることの方が臨床研究上より重要であると判断したためである。この実験においてヒト網膜色素変性モデル動物としてrds(retinal degeneration slow)マウスを入手した。このマウスは視細胞特異的な構造タンパクであるペリフェリン・rdsをコードする遺伝子の変異を持ち、ホモ接合体では視細胞外節の形成異常から網膜変性をきたす。そのヘテロ接合体は非常に緩徐な視細胞変性をきたし、ヒト常染色体優性網膜色素変性のモデルとされる。まず、rdsマウスとbalb/cマウスとの間にrdsヘテロ接合体を作成し、そのヘテロ接合体が経時的に緩徐な網膜変性をきたすことを観察した後、このマウスに生直後から腹腔内にニルバジピン(カルシウム拮抗薬の一種)を連日投与した。薬物投与群と非投与群(対照群)の網膜変性の進行度を網膜電図のa波、b波の振幅から比較検討したところ、投与群の方が統計学的に有意に網膜変性の進行が遅延していた。この結果、rdsマウスヘテロにおいてもカルシウム拮抗薬の視細胞変性抑制効果がみられることが明らかになった。次に、カルシウム拮抗薬投与による網膜内の遺伝子発現の変化をみるためマイクロアレイ法を用いた検索を行った。現在その結果を解析検討しており、次のカルシウム結合タンパク質の遺伝子変異を導入したモデル動物の作成を準備している段階である。
著者
高橋 宏 正田 純一 柳川 徹
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

胆汁うっ滞症の治療にはステロイドホルモン,フェノバルビタール,コレスチラミンなどが経験的に使用されてきたが,その効果は不安定であり有効性も確立されていない.漢方製剤インチンコウ湯(ICKT)は胆汁うっ滞や黄疸の治療薬に広く使用されている.我々は本剤の生薬成分であるgeniposideとその活性体であるgenipinの急性投与,およびgenipin,ICKTの慢性投与は有機陰イオン輸送蛋白であるmultidrug resistance-associated protein2(Mrp2)を介在した胆汁酸非依存性の強力な胆汁分泌促進(利胆)作用を発揮することが明らかとなった(Hepatology2004,Am J Physiol 2007).すなわち,genipinまたはICKTの長期投与ラットでは対照に比して,胆汁流量と還元型グルタチオン,ビリルビン,胆汁酸分泌量は有意に増加した.肝臓ではMrp2とMrp3のmRNAおよび蛋白発現レベルの有意の増加と,Mrp2の肝毛細胆管膜における発現が増加していた.これらの変化はICKT投与ラットで顕著であった.Mrp3はICKT投与ラット肝の門脈周囲領域で強い発現が認められたが,胆汁酸輸送蛋白であるBsep発現には変化を認めなかった.ビリルビン負荷試験にて,ICKT投与ラットにおける投与2時間後の血中総ビリルビンは有意に低下していた.ヒト肝細胞を有するヒト肝キメラマウスにおいても,ICKT長期投与のマウスでは対照に比して,胆汁流量の増加を反映し胆嚢腫大が認められた.肝輸送蛋白ではラット同様に,ICKT投与マウスでMRP2の蛋白発現量と肝毛細胆管膜における発現に増加が認められた.これらのことより,ICKTおよびその生薬成分であるgenipin(geniposide)の長期投与は,転写・翻訳の増加に加えて,post-transcriptionalメカニズムにてMrp2/MRP2の毛細胆管膜への集約を促進することにより,ラットおよびヒト肝において胆汁酸非依存性に胆汁分泌を強力に促進することが判明した.ICKTは胆汁うっ滞性肝胆道疾患の治療薬として高い有用性が示唆された.
著者
鉾井 修一 原田 和典 小椋 大輔
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

森林による二酸化炭素の固定と木炭の製造・貯蔵というCO2固定化プロセス、水およびエネルギー循環、排出量取引などの国際的な取決め・経済・社会システムをトータルに考えたシステムの提案と、提案するシステムの可能性を探ることを目的とする。そのために、本研究では以下の事項についての検討を行う。1.木炭化により固定し得る二酸化炭素(炭素)量の評価と炭化プロセスにおけるエネルギー収支の把握 2.木材供給システム、木炭製造プロセスおよび木炭貯蔵システムの検討と木炭貯蔵可能量の予測 3.木炭の吸放湿性を利用した室内湿度制御と健康との関係についての検討 4.木材および炭化後の木材の耐火性能についての評価 5.二酸化炭素固定化を認定・評価する国際的なシステムの提言今年度は以下の研究を行った。1.森林における物質収支、エネルギー収支についての基礎資料を収集し、二酸化炭素固定量の評価、木炭の製造に利用可能な木材量を把握する。2.代表的な木炭製造プロセスのエネルギー関係、木炭の収率、材種との関係などを整理し、その特徴を評価する。これにより、木炭化により固定し得る二酸化炭素(炭素)量を評価する。3.木炭貯蔵が可能な場所をリストアップし、その貯蔵可能量を見積もるとともに、木炭生産地と貯蔵地との間の最適な輸送システムについて検討する。4.木材および炭化後の木材の耐火性能についての評価を行う。5.壁の吸放湿性を利用した建物内湿度の調整と空調による湿度調整との関連について調査・整理する。
著者
渡辺 賢治 辨野 義己 山本 雅浩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

漢方薬の腸内細菌に及ぼす影響について明らかにするとともに、アレルギー発症抑制が腸内細菌の変化を介して可能であるかどうかを検討した。まず漢方薬が腸内細菌叢に対してどのような影響を与えるかを検討した。従来の培養法では細かい腸内細菌の変化を捉えることが不可能であったが、腸内細菌のDNAを制限酵素で切断して塩基長を解析するT-RFLP法を用いて解析した。その結果、漢方薬では処方ごとに腸内細菌をある一定の方向に変化させることが分かった。腸管遺伝子発現と腸内細菌との関連を調べたところ、抗生剤(シプロフロキサシン)投与にて腸内細菌が変化し、ヒートショックプロテインの発現が低下した。このヒートショックプロテインの発現は漢方薬十全大補湯にても変化し、腸内細菌の変化を伴っていた。腸内細菌のない無菌マウスではこの遺伝子発現の変化は観察されず、ヒートショックプロテインの変化には腸内細菌の存在が不可欠であることが示唆された。次に抗生剤投与モデルでアレルギーを発症しやすくなるかどうかについて検討した。まずは免疫寛容の系を確立するために予備実験を行い、卵白アルブミン10mgの単回投与にて免疫寛容の誘導できることが分かった。このモデルを用いて抗生剤(セフジトレンピポキシル、アモキシシリン、カナマイシン)を投与し、免疫寛容が誘導できないかどうかを検討した。カナマイシン投与にて少し卵白アルブミン特異的IgEの上昇が見られたものの、基本的に免疫寛容は抗生剤投与により破綻しなかった。しかしながら経口的免疫寛容を誘導しなかった群において、逆に卵白アルブミン特異的IgEの上昇が抑制されており、抗生剤投与にて何らかの免疫系の破綻を来たしていることが分かった。
著者
長岡 良治
出版者
鹿児島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

ADHD児(3名)の注意力や集中力の改善にどのような運動が効果的かを調べるために、閉眼歩行、無酸素運動(100m走)、有酸素運動実施前後に計算テスト、CRT(選択反応時間)測定、ペグボード検査を実施した。ペグボード検査では有酸素運動後と閉眼歩行後に、計算テストでは有酸素運動後に、CRTは有酸素運動後や閉眼歩行後に時間が短縮すう傾向にあることから、有酸素運動や閉眼歩行は注意力や集中力の改善に良い効果をもたらすことが示唆された。無酸素運動は運動後の呼吸の乱れにより一般に集中力は低下するが、ADHD児の中には良くなる子もいた。ADHD児には、動作のぎこちなさや不器用,さがみられるため、筋緊張の調節を司る大脳基底核に発達障害があるのではないかと考え、感覚統合運動を取り入れた8種類の身体運動を5名に3ヶ月間実施した。8種類のうち閉眼歩行と手拍子は毎日行わせ、的当て、ビーンズバッグ、風船バレー、ボール運動、ビーズ通しおよび後出しじゃんけんは週に1回行わせた。注意力・集中力をみるためにAPP検査、計算テスト、タッピング、ペグボード、CRT測定を行った6トレーニング後はAPP検査で問題のあった自己統制、動作の安定の項目が改善された。タッピングとペグボードの検査項目では改善が見られなかったが計算テストとCRTに改善の傾向がみられたことから、今回負荷した運動課題が脳の処理機能に有効に作用したと推察された。
著者
荒木 健治 笹岡 久行 広重 真人 栃内 香次
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

最終年度である平成15年度は平成14年度に行なった基礎実験に基づいて作成された実験システムを用いて性能評価実験とその結果明らかとなった問題点の改良を行なった.具体的には実環境下でビデオカメラを固定し,その手前に飼い主がいるという設定で限定された呼びかけに対するシステムの精度,使い勝手の評価を行なった.対象動物は猫である.評価基準としては「非常に満足,やや満足,やや不満,非常に不満.未応答」という5段階を用いた.実験の結果,総合では「非常に満足」が67.2%であるが,ユーザや対象動物に対するシステムの適応が進んでいない前半では「非常に満足」が46.9%であり,後半では87.5%と非常に高くなっている.このことは本手法の有効性を示しているものと考えられる.さらに,音声認識結果が誤りとなった場合のシステムの動作について考察したところ音声認識結果に誤りがある場合でも総合で「非常に満足」が49.3%であるが,後半だけでは73.5%となり音声認識誤りについても音声認識誤りを含む実例からのルールの獲得やフィードバック機能により正解となる場合が多く見られた.今回行なった改良は動物の動作の認識として動物の写っている画像においてその画像における動物の割合によって動物が現在どのくらい離れているのかを近距離,中距離,遠距離の3段階に評価を行い,動物が近づいて来たのか,そのままとどまっているのか,遠ざかったのかの判断を行なうという機能の追加である.本研究課題の研究機関である2年間において動物の行動とユーザの発話よりユーザの意図する動物の応答をシステムが代行できることの可能性が示された.また,そのようなシステムを使用することの有効性を性能評価実験により確認した.今後は本研究課題で達成された成果を基にさらに実用化に向けてシステムの改良を行なう予定である.
著者
河口 豊 日下部 宜宏 李 在萬
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

ユスリカは高等真核生物中で最も過酷な環境に多様な形で適応している生物の1つであり、高温、乾燥、低pH、低酸素状態に強い耐性を示す種が存在する。1種で全ての厳しい環壌に適応出来る訳ではないが、温泉ユスリカと総称される一群の種は、幼虫期を50℃程度の高水温下で過ごすことができる。このため、温泉ユスリカ由来のタンパク質は熱に対して比較的安定であると考えられる。熱耐性生物由来のタンパク質は、その精製の容易ざ、結晶構造の安定さより、PCR酵素に代表される試薬として、また、構造生物学における材料として幅広く活用されている。本年度も、強い高温耐性のユスリカの採集を目的に、調査を行い、数種のユスリカを採集した。しかしこれらのユスリカは42-45度程度の水温の温泉に生息しており、50度を超える温水からは採取できなかった。これらのユスリカよりmRNAを調整し、cDNAを作製したが、野外より採取した個体から調整したため、逆転写反応の効率が悪く、長鎖のcDNAを含むクローンが少なかった。そのため、クローンを選択、配列決定後、ホモロジー検索によりcDNAがタンパク質の全長配列を含んでいると判断されたものの割合が研究室で継代したユスリカ由来のクローンに比較して少なかった。これらのクローンについては、バキュロウイルスを用いた昆虫細胞系を用いて、ヒスチジンタグ付きの組換えタンパク質としての発現を試みたが、中程度の耐熱性を有するクローンがほとんどで、非常に高い耐熱性を示す組み換えタンパク質は得られなかった。
著者
篠沢 洋太郎
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本研究の究極の目的はヒトに被移植中間層皮膚に汗腺を導入することであり、そうであれば最近進歩著しい再生医療を応用して、患者自己の体性幹細胞をみつけ、これが汗腺細胞に分化・増殖する可能性を検討し、汗腺細胞を移植皮膚へ導入することを考えるのが得策であろうとの結論に達した。そのためには、体性幹細胞の汗腺細胞への分化・増殖のための足場(ハード)および化学性因子(ソフト)を検討する必要がある。よって、まず熱傷ラット早期における個体の被移植部(熱傷創部)を流れる血中の分化・増殖因子(サイトカイン)動態を検討した。方法:(1)250〜300gのSDラットを用い、40mg/kgのベントバルビタール腹腔内投与麻酔下に、背部に30%TBSAIII度熱傷を作製した。(2)熱傷(-)、3、24、48、72時間後、麻酔下に頸動脈にカニュレーションしヘパリン採血、犠死させた。血漿を24時間蓄尿とともに-80℃に冷凍保存した。結果:熱傷(-)、3、24、48、72時間後の値は以下の通り(いずれもn=5、単位はpg/ml)。IL-1β:24±10,9±3,9±3,6±0,94±79、IL-8(GRO/CINC-1):42±12,285±15,124±52,22±5,34±15、IL-1ra:12±0,2428±54,222±112,79±39,268±140、IL-10:17±5,57±9,10±0,10±0,209±77、8-OHdG(遺伝子の活性酸素傷害物質)/Cr比:66±8ng/mgCr,24±0,39±6,59±12,140±22。考察:観察期間においては72時間に活性酸素傷害指標は最大となったが、これには3時間後のIL8の増加(これに引き続く好中球の活性化)が関与したと考えられた。Th1系のIL-8、IL-1βはTh2系のそれぞれIL-1ra、IL-10と連動しており、一方の活性化を制御していると考えられた。結語:増殖因子(サイトカインなど)はこれに対する生体の制御因子と連動していると考えられた。
著者
小西 潤子
出版者
静岡大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

まず、昨年度の日本国内およびパラオにおける調査結果をさらに整理し、平成15年6月に英語による口頭発表"The adoption of Micronesian song and Dance by Ogasawara Islanders"(Seventh Annual Asian Studies Conference Japan、上智大学市谷キャンパス)を行った。また、昨年度のチュークにおける予備調査結果を受けて、中央〜東カロリン諸島における日本植民地教育の実態調査の必要性を感じ、8月にポナペおよびチュークで聞き取り調査を行った。その結果、行進踊りそもののの発祥地が東カロリン諸島周辺である可能性が明らかになり、日本統治時代にこの芸能に日本語混じりの歌が取り入れられていった経緯が明らかになった。またボナペでは、現在も日本語混じりの歌を伴う行進踊りが継承されているのに対して、チュークでは教会関係の行事を除くと、踊りの機会すらないことがわかった。これらと、昨年度のパラオにおける調査結果を合わせ、「海のルートと循環するルーツ-歌と踊りによるミクロネシアとの交流」(季刊誌『I-Bo』)で紹介するとともに、「行進踊りと日本語混じりの歌-ミクロネシアの民俗芸能に見る日本の植民地教育の影響に関する歴史的研究-」(『静岡大学教育学部研究報告』)としてまとめた。さらに、3月には1930年代にミクロネシアの行進踊りが伝播した小笠原諸島を訪問し、その後の日本文文化の様相について調査を行った。
著者
米谷 俊彦 田中丸 重美 菅谷 博 柴田 昇平
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

温暖化対策のためには、気候資源を利用した省エネを目指した技術開発を行い、特色ある産地作りなどの地域の多様な農業戦略の確立が急がれている。本研究では、中山間地域の傾斜地の地形と自然のエネルギー(地温)を生かした夏季の施設内冷却システムを開発し、善通寺市生野地区の大麻山の傾斜角度約20度の斜面において、長さ5m、内径60cmの土木排水管用外圧管を連結して、2m以下の地中に約70mに亘って埋設した。埋設したパイプが人工の風穴となり、夏季には、地中で冷却された空気を、傾斜地下部に設置した傾斜ハウスに送り込んで、施設内を換気冷却する。また、ハウス内部で暖められた空気は、ハウスの最上部に設置した煙突部から排出する。このシステムは、傾斜地の地下の地温で冷却された冷気と地上部の暖気の密度差をポンプの駆動力にした冷却システム(夏季に風穴からの冷気の吹き出しと類似)である。初期のパイプ埋設経費のみで、冷房機の運転に要するコストが不要なため、省エネシステムとして有望と考えられる。特にハウス内の気温が高温になる日中の午後に流量が大きくなって冷却効果が高まり、気温が低くなる夜間には流量が減少する特性を有している。工事が遅れたため、本研究期間には、暖候期の10月中旬と3月下旬のデータが僅かに得られただけであるが、晴れた日中に冷気がハウスに流入し、10℃程度冷却する事が確かめられている。一方、冬季には、気流の向きが逆転し、傾斜地上部から暖気が吹き出すことが確かめられており、上部にハウスなどを設置すれば、暖気を暖房用としても利用できることが証明されている。2006年7月に「傾斜地利用型環境調節システム」を特許出願し、2007年3月に岡山県内の2企業と技術移転の契約を行った。今後は、ハウス内の配管法などを工夫しながら、種々のデータを蓄積して、傾斜地利用型環境調節システムの開発、改良を進める予定である。
著者
岡田 光弘 安藤 寿康 大野 裕
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1)昨年度に引き続き線形論理や種々の新しい論理学理論の立場から、伝統的な認知科学的理論推論モデルや理論哲学的論理推論モデルの批判的分析や改訂を行った。特に、メンタルモデル理論とメンタルロジック理論に関する認知心理学の古典的論争やシンタクスとセマンティクスに関する論理哲学、情報科学等における二元論を現代論理学的観点から見直した。2)これまでは比較的少数の被験者調査を行うのが常であったが、統計的手法による実証的なデータ解析による大規模調査の方法論の研究を行った。「Baroco論理推論課題集」と呼ばれる演繹推論標準課題集を本申請グループが開発してきたが、これをさらに改良した。この課題集を用いて通常のIQ課題の関連性や、図形的表現による論理推論と言語的理論推論の(パフォーマンス)比較、抽象的推論と内容的推論の比較、信念相反的推論や領域依存的推論、論証構成と反例検索などに関わるデータの分析を行った。白血球中のRNAの転写量の差を調べるという方法論を導入することによって認知能力の関連遺伝子の所在とその効果量について調査する方法論を開発した。
著者
跡見 順子 村越 隆之 平工 志穂 三上 章允 桜井 隆史
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

東京大学教養学部では新入生を対象に必修科目のスポーツ・身体運動を行っている。その科目の一つとして、自分自身の身体を用いて運動を行いながら、運動時の身体変化を科学的に理解することを目的とした「スポーツサイエンスコース」を開講している。約30人の受講生を対象として、生命科学を基本とし、自分自身のからだを通して、また実際に運動することを通して、生命と脳を理解するための、以下の4つの教育プログラムの開発を行っている。1)フィールドにおける呼吸数による至適運動強度の推定を行い、運動に苦手意識を持つ学生にも自分自身のからだの機能を理解させる効果が得られた。2)運動後の脳の活性化を測定するためのプログラムを開発した。パソコンを用いた数分で修了する試験により、脳の活性状態を数値化し、比較検討することを可能としている。3)自分自身のからだを、構成単位である細胞から理解するために、ラットの解剖を行っており、現在、映像コンテンツを作成中である。4)自分自身の身体の動きを理解するために、ゆっくりとした動きを制御する太極拳を実習科目に取り入れ、太極拳について科学的な視点を持って身体の理解につなげる研究を行っている。伝統武術太極拳の脳機能への効果を、近赤外分光法(NIRS : Near Infrared Spectroscopy)を用いて検討した結果、太極拳実施中のOxyHbは対照課題実施時と異なる変化を示すことが明らかになった。1-3の内容をまとめたものを、日本体育学会第56回大会にて跡見、桜井が口頭発表、The American Society for Cell Biology, 44^<th> annual meetingにて跡見がポスター発表を行った。4の内容についてまとめたものを、日本体育学会第56回大会にて平工がポスター発表および共同研究として口頭発表を行った。
著者
大場 武
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

火山ガスはマグマに溶存していた揮発性成分から構成され,火山噴火がマグマから揮発性成分が抜けることを駆動力としていることを考えれば,その観測は火山噴火メカニズムの解明に必須であると言える.しかしながら,火山ガスを火口で直接採取することは危険を伴う.その危険を回避する手段として,大気に拡散した火山ガスによる自然光の紫外域,赤外域での吸収を利用する遠隔観測が実用化されている.しかし自然光の光吸収による観測は,SO_2,HCl, CO_2など,限られた気体のみに可能である.火山ガスの重要な成分であるH_2,H_2Sに光吸収法は適応できない.本研究で試みた遠隔観測の手法では,火山ガスにレーザービーム光を照射し,後方散乱するラマン光を観測することにより化学種の特定と濃度の推定を行う.この手法は,ごく一部の気体を除き,火山ガスを構成する主要な気体を全て感知することが原理的に可能である.実験は,532nm cw 0.6Wレーザー発振器,25cmニュートン式反射望遠鏡,CCDマルチチャンネル光ファイバー入力分光器を購入し,組み立てることにより実施した.実験では,レーザービームを夜空に向けて照射し,後方散乱する光を望遠鏡で集光し,分光器でそのスペクトルを観測した.分光器の仕様により露光時間は1分間に限られた.その結果,大気を構成するN_2ガスのラマン散乱光の検出に成功した.しかN_2以外の気体のラマン光強度は,ノイズ光強度以下であった.本研究の結果,実際の火山ガスに応用するために以下の改善が必要であるいえる.それは,レーザー出力の増強,分光器の感度向上,望遠鏡の集光力の増大である.結論として,最終的な目標への道のりは遠いものの,本手法の成功がもたらす革新的な観測能力の向上を考えれば,継続的に発展的な研究を続ける意義があると考えられる.
著者
平田 雅之 佐藤 雅昭 依藤 史郎 加藤 天美 神谷 之康
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

(1)MEG、皮質脳波(ECoG)を用いた脳律動計測ECoGとMEGとで同一課題施行し、解析ソフトBESAを用いて時間周波数解析、coherence解析を行った。詳細な脳内処理過程が明らかになるとともに、言語領野に共通の律動帯域と特有の律動帯域があることが明らかなり、現在論文投稿準備中である。(2)脳磁図(MEG)での言語優位半球の評価、言語機能局在の評価単語黙読課題を用いた場合、アミタールテストとの比較で85%一致、電気刺激によるマッピング法との位置の差は6.3±7.1mmであり、非侵襲的検査法として優れた方法であると証明された。アミタールテスト、脳表電気刺激の結果と比較し、成果を論文に投稿した。(3)脳信号解読まず、言語機能解読の基礎となる運動機能についてもsupport vector machineを用いて運動内容解読を試みた。運動内容推定については3種の運動内容弁別が80-90%の正答率でリアルタイムに弁別できることが明らかとなり、英文誌Neuroimageに発表した。言語に関しても時の皮質脳波を計測し、support vector machineを用いた脳信号複号化により発語内容推定を行った。カテゴリー別語想起課題にたいするカテゴリー識別は有意差のある結果が得られなかった。ピ、ポ、ギ、ゴなど単純な発語課題の識別率は運動内容解読には及ばないものの、本方法で言語内容解読がリアルタイムに可能なことが明らかになった。今後さらに性能向上のために計測・解析方法に工夫が必要であると考えられた。