著者
有村 公良 高嶋 博
出版者
鹿児島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

甲状腺中毒性周期性四肢麻痺(thyrotoxic periodic paralysis: TPP)はアジア系の男性に多く、遺伝的背景が発症に関与していると考えられる。本年度は甲状腺中毒性周期性四肢麻痺(TPP)の新たな候補遺伝子の検討、その他の低K性周期性四肢麻痺(hypoKPP)の遺伝子検査と臨床所見の検討、および東南アジア各国との共同研究の推進を行った。(1)、本年度は従来TPPでは検討が行われていない、内向き整流性K+チャネルから5種類、KCNJ1、KCNJ5、KCNJ6、KCNJ11、KCNJ12を候補遺伝子とし、TPPの男性患者11名の末梢血DNAから蛋白コード領域をPCRで増幅後、塩基配列を調べた。その結果、KCNJ1遺伝子に1個、KCNJ5遺伝子に4個、KCNJ6遺伝子に2個、KCNJ11遺伝子に3個、KCNJ12遺伝子に7個の変異を認めたが、全てSNP databaseに登録済みの正常多型であり、病因となるような変異は認めなかった。TPPの原因遺伝子検索および異常多型の検出の目的で、Na+チャネル、Ca2+チャネル、K+チャネルを含むTPP専用のresequencing arrayの設計を行ったが、作成には800万円のコストが必要であり、今後は、本年度行ったように、従来の方法による原因候補遺伝子の同定を試み、それでも発見できない場合は、十分なDNAサンプルを収集後、市販のSNP arrayを用いて異常多型の検出を試みることとした。(2)TPP以外のhypoKPPの遺伝子検索で、本邦では弧発例が多く、かつ従来hypoKPPで報告されているチャネル遺伝子異常を認めない例が多数を占めた。特徴的なことはその全例が男性であり、TPPの臨床像と極めて類似していた。このことはTPPの病態を考える上で非常に重要かも知れない。(3)前年、アジア各国と共同研究を進めるべく、共同プロトコールを作成したが、現在そのプロトコールに従い、共同研究を推進中である。各国でのIRB申請の遅れのため、当初予定していたDNAサンプルの収集は果たせなかったが、今後も継続する。
著者
米林 喜男 濱野 強 藤澤 由和 佐々木 正道
出版者
新潟医療福祉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

現在、わが国においては多種・多様な調査が実施されており、それらに関しては非常に精度の高い、有用なデータが多く含まれている。欧米諸国においては、公的機関により実施された調査データはもちろんのこと、公的な助成により得られた調査データに関しては、一定の期間が経過した後には個人が特定されない形での公開が一般的に行われている現状にある。そこで、本研究においては、保健医療分野における調査データの公開制度に関してその具体的な課題抽出と、それらを可能とするための諸要件より検討を行うことを目的としたものであった。具体的には、前年度までの研究成果であるソーシャル・キャピタル研究におけるデータアーカイブの活用実態をもとに、わが国における適応可能性に関して検討した。すなわち、データアーカイブにおける基本的要件を整理し、わが国における背景との適合性を検討することにより、保健医療分野におけるデータアーカイブの可能性を具体的に示したものである。さらにデータアーカイブは、データの公開に際して個人の情報などプライバシー、および情報のセキュリティなどを十分に検討する必要があるが、この点に関しては法律的な観点、および情報技術的観点からそれぞれの専門家らとの意見交換を行ない、オープン・リソースを展開していくための通信技術と個人情報保護との関連性などに関して専門的視点より明らかにした。
著者
岸田 佐智 富安 俊子 芝崎 恵 佐原 玉恵
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本年度は、研究分担者及び不妊症看護認定看護師の協力を得て、不妊治療を受けている女性8名に対する半構成的インタビューを行った。インタビュー内容は、不妊治療中の身体的苦痛や不快、治療継続における悩み、パートナーや周囲からのストレス、生活上の問題、医療者への不満や、傷つけられた出来事、満足していることなどについてであり、1-2時間の面接を行った。インタビュー中は、MDレコーダーにてその内容を録音し、録音内容を逐語文にし、討議内容のメモも用いて、看護者が捉えている不妊治療中の問題点について質的に抽出を行った。昨年度の成果と合わせて、不妊治療における身体心理社会的側面の問題、(1)継続して行われる注射の方法(部位・角度、注入時間、(2)注射後の圧迫など)に関する問題、(3)治療に伴う副作用の無自覚や我慢、(4)人為的に作られた月経の辛さ、(5)不妊であることを認めたくない、(6)不妊であることや治療後に生じる喪失感、(7)妊娠を素直に喜べない、(8)繰り返し体験する痛みや恐怖からくる継続的緊張感、(9)治療の複雑さによる理解不足、(10)周囲との関係を控えようとする孤立化、(11)余儀なく変更されるライフスタイル、(12)経済的問題、(13)不妊である自分が理解されない、(14)血縁を存続させるための周囲からの圧力、(15)治療に伴う命の選択、妊娠するための治療を最優先する、(16)治療継続によりセックスレスな夫婦の関係、(17)不妊原因や治療失敗により生じる夫婦の軋轢、が明らかになった。そこから、不妊カップルへの包括的な看護援助を提供するため3つのケアモデル、(1)より効果的で、より痛みの少ない不妊治療に伴う注射方法を探索すること、(2)治療に伴う、苦痛への緩和方法としてホメオパチーを活用し、その軽減を図ること、(3)治療の内容や方法に関する理解を深め、治療や看護を連続的に提供できるようにするための治療計画手帳の作成をすることの必要性を見出した。
著者
原口 智和
出版者
佐賀大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

作物生産において水と養分は不可欠な要素であるが,水資源は逼迫し,かつ肥料による水環境の汚染が問題となっている.このような現状に鑑み,灌漑水と肥料の有効利用に資するため,必要最小限の灌漑水と肥料による作物栽培技術を確立すること目的として本研究を行った.作物が必要とする水および養分の量を,1個体あるいは数個体程度の小さなグループ毎に判断し,それらに必要な分のみを与えれば,圃場全体における灌漑水量および施肥量を最小限に抑えることが可能と考える.ここでは,作物生長を妨げない程度(必要最小限)の水分や養分が土壌中に存在しているかどうかを,作物の近赤外線画像から判定することを試みた.実験では,ビニールハウス内において,ワグネルポットにプロッコリおよびキュウリを栽培し,6種のバンドパスフィルター(550,650,680,750,780,800nm)を取り付けたデジタルカメラで葉および個体を撮影してその画像を解析した.土壌水分および養分の異なる条件で栽培した作物体について全体を撮影し,輝度(各波長光線の反射率)の分布と土壌水分・養分欠損との関係を調べた.その結果,葉が全方向に広がっているブロッコリについては,葉による蒸散量(抵抗)の違いは微小であり,また,「近赤外領域(780,800nm)の画像において,土壌水分の欠損によって輝度(対象領域内平均値)が増加する」ことが,個体全体を対象とした解析によって示された.一方,キュウリについては,葉の枚数が少ないため,葉の位置によって蒸散量(抵抗)や光の反射率の差が大きく,個葉を対象とした撮影・解析がふさわしいことが明らかとなった.
著者
森田 宏樹
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度においても引き続き、発信者情報の開示請求制度に関するアメリカ法およびフランス法における判例法の展開および立法対応の現状と問題点の分析を行った。アメリカ法においては、(1)個人の名誉毀損や企業の信用毀損のケースにおいて、違法情報の発信者を特定しないで匿名者"John Doe"を被告として不法行為訴訟を提起し、その訴訟手続内で被告を特定するためにプロバイダー等に対して発令される連邦民事訴訟規則に基づくsubpoena(罰則付召喚令状)による発信者情報の開示請求と、(2)著作権侵害のケースにおいて、不法行為訴訟とは独立に認められる・デジタル世紀著作権法(DMCA)に基づくsubpoenaによる発信者情報の開示請求という2つの法制度が併存しているが、(1)の系列の判例の検討からは、わが国のプロバイダー責任制限法の立案過程において発信者情報開示請求の要件設定に関して参考としたアメリカ法上の先例が、その後の判例の展開の中でどのように位置づけることができるのかを明らかにするとともに、他方で、(2)の系列については、昨年から今年にかけてP2Pによる音楽著作権侵害のケースに関して下された一連の判決の理由において、(2)の手続が(1)の手続と対比して、発信者の匿名性の保護と不法行為による被害者の救済とのバランスのとり方においてどのような意義を有するものと理解されているのかを明らかにすることによって、(1)と(2)のいわば中間に位置するともいえる・わが国の発信者情報開示請求権の意義を評価ないし再確認する視座を得ることができた。また、フランス法においては、違法行為者の発信者情報の開示をプロバイダー等に命ずる最近の急速審理手続(レフェレ)の決定例を検討するとともに、2003年1月に国会に提出された「デジタル経済の信頼」に関する法案(LEN)の審議過程(現在、審議継続中)をフォローした。以上の検討を踏まえて、わが国の近時の下級審裁判例における解釈論上の論点についても検討を進めた。
著者
坂本 雄児
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1. 目的多視点画像の撮影システムや、3Dディスプレイなど、3次元画像の様々な収集、表示システム間の3次元データを正規化する方法の一つである波面記述法において, 以下の点を明らかにする. (1)データ間の変換法のより深い理解 : 特に、多視点画像より波面記述データへの変換, (2)実空間への応用 : 実写多視点画像より波面記述データへの変換法の検討2. 平成19年度の研究実績開発した多視点画像撮影システムにより撮影された3次元画像より任意視点画像およびホログラムによる3次元像の表示を行い、変換法が有効であることを示した。3. 平成20年度の研究実績(1)多くの視点での撮影が必要とされていた従来のアルゴリズムを発展させ、撮影点数が少なく, かつ高分解能な立体画像の波面記述データに変換する新アルゴリズムを開発。(2)撮影位置に自由度が無かったものを, 比較的自由な位置からの撮影が可能な新アルゴリズムを開発。(3)上記, (1)(2)のアルゴリズムについてホログラムによる立体表示により有効性を確認。4. 今後の課題(1)連続的な視差と奥行き情報の内在が理論的にどう解釈されるべきか。(2)提案したアルゴリズムの特性や適応限界等の理論的, 実験的検討が必要。
著者
島内 憲夫 高村 美奈子
出版者
順天堂大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

ハッピネス・ライフ・デザインは、人間が生まれて、生活する中で周囲の環境の影響を受けて染み付いてしまった悪い習慣(意識や行動)を改善し、良い習慣(意識や行動)を形成するための方法の開発を意図している。その改善方法を提案するための評価シートとして「ハッピネス・ライフ・チェックシート」の開発を試みた。そのチェック項目は、「快食・快眠・快動・快笑・快楽・快生」ブラス「幸福感」の7項目、基礎的な情報として「健康観(主観的健康の定義)」「健康感(主観的健康状態)」「病歴」「幸せを感じる時」の4項目である。調査は、千葉県Y市、S市、S町、岡山県M町で行った。すべての地域でハッピネス・ライフ。チェックシートを用いて講座前と講座後の比較を行った。特に岡山県のM町では介入群と対象群とに分け、介入群にはハッピネス・ファクター(幸福因子)を発見・促進するため「笑い・人間関係・自信」に焦点を当てた「ふれあい生き生き講座」を行い、対象群にはリスク。ファクター(危険因子)の発見・改善のため「運動・栄養」に焦点を置いた「健やか講座」を行った。講座終了後の調査の結果、介入群・対象群共に「心身とも健やかなこと」の健康観が主流を占めたが、特徴的な差をみると介入群では「心も身体も人間関係も良いこと」・「前向きに生きること」・「人を愛することができること」など身体的・精神的。社会的・スピリチュアル(霊的・魂的)な健康観へと広がりをみせた。一方、対象群は「病気でないこと」、「快食・快眠・快便」など、身体の健康を意識した狭い健康観が多かった。また「幸福感」も介入群の方が高かった。今後はこの種の介入研究を継続し、リスク・ファクターをコントロールすることを重視した健康講座のみでなく、ハッピネス・ファクターを支援する健康講座のカリキュラムについても考えていきたい。
著者
大石 和欣
出版者
放送大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本科研2年目そして最終年度にあたる本年は、それまでの研究成果を公表していくことが目標であり、一応その目標達成することはできたと判断する。女性が十八世紀末において福音主義を受容していく過程で、宗教的な要素ばかりではなく、感受性文化の中で受容し、さらに慈善活動や消費活動といった社会行動へと応用し、さらには日記や詩、小説といった文学においても宗教的感性を発露させていったことは重要な意義を持つことを確認した。文学において宗教的要素は軽視される傾向が強いが、とくに十八世紀後半からのイギリスにおいて福音主義の及ぼした影響は広範囲かつ甚大であり、それが行動様式のみならず言説上にもはっきりとした痕跡を残しているのは当然といえば当然なのだが、クエーカーの女性はもちろんのこと、ユニタリアン派の女性の言説においても露骨に政治的な意味をもってその痕跡が残っているのは学術上新しい発見であったと言ってよい。また、ハナ・モアのような国教会福音主義者たちの言説には、福音主義が単に慈善や政治イデオロギーと結びついているのではなく、女性たちを「公共圏」へと参画させる推進力を保持していることが証明できた。一年のほとんどを国内における資料調査を行いながら、学会発表は論文執筆に費やした。ノリッジの女性たちの文学作品と福音主義の影響、およびフランシス・バーニーの小説における慈善と福音主義の関係については、12月末から調査・研究をはじめ、2月に3週間にわたる海外資料調査を行って国内にない資料調査を行った。それらについての論考は現在投稿中であり、来年度に公表される予定である。
著者
曽我 真人
出版者
和歌山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

「あの星、なあに?」と、初心者が夜空の下で、知りたい星を指差すだけで、その星の名前や星座名を答えてくれるシステムが、システム全体の中核部分であり,昨年度は,磁気式位置センサーを用いて,その中核部分を完成させた.本年度は,そのシステムに以下の機能を追加した.本年度は,そのシステムに,学習支援機能を追加した.具体的には,システムが,星座を構成している星に関する問題を学習者に提示する.学習者は,その回答に当たる星を,実際の夜空のもとで,指差し動作によって示し,システムに回答を伝える.すると,システムは,その星が,問題の正解に当たるかどうかを診断し,正解であった場合には,つぎの問題を提示する.不正解ならば,その旨提示し,ひきつづき問題の正解となる星を指さすよう,求める.具体的な,インタラクションは以下のとおりである.まず,ユーザはパネルから学習したい内容を選択する.問題出題システムは,ユーザが選択した問題内容と解答するためのヒントをダイアログと音声で伝える.同時に,問題出題システムは,解答添削エンジンに問題番号を送る.ユーザは指差し描画機能を用いて解答を入力し,解答データを解答添削エンジンに送る.解答添削エンジンは,問題内容に応じた解答データベースを参考に添削を行い,結果を描画エンジンに送る.そして,描画エンジンは,送られてきたデータをもとに描画を行う.ここでの結果の提示方法は,仮想プラネタリウムに画像を出力するほか,正解の場合,次の質問か,すべて正解したことをダイアログに表示し,音声でも伝える.不正解の場合,その旨をダイアログに表示し,音声で伝える.
著者
木俣 元一
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

リスボンのグルベンキアン美術館所蔵の『ヨハネ黙示録』写本の、子羊が第6の封印を開く場面でキリストが掲げ持つ印章がそなえる意味について考察を進めた。現代においてと同様に中世においても、視覚のあり方は一様でなく、地域や文化、対象や状況などの条件により多様な視覚のあり方が共存し、競合していた。西洋中世において機能していた多様な「視」のあり方をとらえるため、西欧の伝統において印章と刻印の比喩がどのように用いられたかを複製と権力という観点から追跡した。この比喩は、古代ギリシア、おそらくはそれ以前から、記憶、認識、表象、イメージ、存在をめぐるさまざまな問題系列と連なる伝統的トポスであった。古代、ビザンティン、初期中世においては、刻印は機械的複製を生産するための特権的手段であった。そこにあっては、人間の手が画材や道具を媒介として描写や似姿を形成するのでなく、イメージは一気に機械的に成立する。母型を素材に押しつけたり、打刻するとある程度の順応性や可塑性を備えた素材は、母型とは凹凸と左右の反転した形象を痕跡として留める。母型自体では陰刻であるゆえにいささか不明瞭であったイメージは浮き出すように可視化され、より判読しやすく触知的感覚をいきいきと呼び起こす様態へと変換される。こうしたイメージ産出手段では、個人による技術的差異が関与する余地はほとんどなく、同一のイメージを限りなく作り出すことが可能となる。西洋中世においては複製を作り出すこと、その技術、個々の複製がイメージの生産や受容に関わる多様な局面で重要な役割を果たした。
著者
緒方 政則 川崎 貴士 南立 宏一郎
出版者
産業医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

暑熱環境によるエンドトキシン(LPS)の感受性変化と致死率について興味深い結果が得られた。実験1.暑熱環境による致死率と体温変化エンドトキシン感受性マウス(C3H/HeN)とエンドトキシン非感受性マウス(C3H/Hej)の2群に分け、人工気象室にて、42℃、湿度50%で2から3時間飼育し、室温(27℃)に戻した。(結果)LPSに反応する遺伝子を有するC3H/HeNマウスとLPSには反応しない遺伝子を持つC3H/HeJマウスに暑熱環境下で熱暴露すると、C3H/HeJマウスが生存率を有意に改善した。この両群のマウスの熱暴露後の両群の直腸温を径時的に測定すると、両群ともに、体温上昇が急で、41℃以上の異常高体温に至ったマウスが死亡していることがわかった。また、41℃以上(異常高体温)と41℃未満(適応群)で熱暴露後の生死についてカイ二乗検定すると、有意に異常高体温が死に関与していることがわかった。これらの結果より、LPS遺伝子も生死に関与するが、異常高体温を引き起こす因子が生死に関与していることが推察された。実験2.暑熱環境によるエンドトキシン(LPS)の感受性変化エンドトキシン感受性マウス(C3H/HeN)を2群に分け、人工気象室にて、42℃、27℃の2群に分け、湿度50%で2時間飼育し、致死量以下および致死量のLPSを投与し、その後3日間、生死を観察した。(結果)42℃で2時間暑熱環境下に曝した後に、エンドトキシン(LPS)を投与すると、熱非暴露群に比べて、エンドトキシンの感受性が高まることがはじめて明らかにした。また、経時的にサイトカインであるIL-6,TNFを測定すると、TNFは両群ともに、有意な差は認めなかったが、IL-6は、熱暴露群の方が有意に高かった。
著者
野村 由司彦 加藤 典彦 松井 博和 杉浦 徳宏
出版者
三重大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

ビデオオンデマンド講義配信システムでは,学生は遠隔から,あるいは自由な時間に講義シーンを視聴できる.これにより,復習や欠席のリカバーなどの形で,実際の講義を補完することができ,大きな教育効果が期待できる.昨年度は,デジタルスチルカメラ画像を利用して,高解像度を確保しながら,デジタルビデオカメラ画像から指示棒動作のみを抽出して,これをデジタルスチルカメラ画像に重畳する方式を開発し,有効性を確認した.しかしながら,デジタルスチルカメラ画像における文字情報のコントラストの低下,さらには講師映像がデジタルスチルカメラ画像とは別の小動画として表示されていることによる臨場感の欠如などの課題が残っていた.今年度は,この方式についてさらに検討を進め,実際の講師映像を電子ファイルによって生成されたパソコン画面に重ね合わせるシステムを開発した.これにより,低容量でありながら,電子ファイル固有の画像の高精細さを保存し,しかも講義の臨場感(一種の仮想現実感)を伝えることのできる,新しい講義映像形態を実現することができる.さらに,本システムを用いて,実際の講義との比較実験を行った.その結果,理解度を確認するための小テストでは本システムは実際の講義と同等以上とあった.さらに,文字は十分に読め,講師の動きもある程度は伝わってきた,との回答を得た.さらに,利用方法についても,期待したとおり,講義を補完する形での使用について高い支持を得た.
著者
岡部 寿男 宮崎 修一 廣瀬 勝一
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

物理的に離れた場所にいるプレイヤがネットワーク上で対戦ゲームを行う環境構築の基盤を作ることが本研究の目標である。信頼できるサーバを用意することにより容易に実現できるが、サーバ自身の不正やサーバの負荷を考え、サーバなしのいわゆるpeer-to-peer型の環境を対象とする。そのような条件下で、対戦相手の不正を如何に防御するかを考察するのが、本研究の目的である。これまでの研究において、順序機械を用いてゲームを形式的に定義し、その定式化の汎用性を示すとともに、具体的ゲーム(軍人将棋)に対して計算量の削減を行いJaval.4を使って実装した。本年度は、その関連研究として、プライバシーを確保したまま二者間で情報をやりとりし、所望の計算結果(主に認証、認可)を得るためのプロトコルの研究を行った。本研究では、基盤となる認証体系としてShibbolethを仮定し、その上で「マジックプロトコル」と呼ばれる暗号技術を利用して所望のプロトコルを実現する方法を提案した。以下に例を2つ挙げる。例えば、年齢制限のあるWebコンテンツの閲覧の為には、利用者は制限年齢より上であることを証明すれば良く、自分の年齢そのものはできるだけ公開したくない。また、サービス提供側も、年齢制限がどこにあるのかを公開したくない場合がある。このような状況で、お互いに自分の秘密情報を公開しないまま、結果となる判定だけは正しく行いたいという要求が生じるが、これを、Yaoの金持ち比べプロトコル(2人の参加者が、自分の所持金を相手に知らせずに、どちらが金持ちかを正しく判定するプロトコル)を用いて解決した。また、例えば、会社の採用の条件として、大学時代に科目Aの単位を取得しているという条件を課している場合、会社はそれがどの科目であるかを明かさずに、また、大学側は、その科目A以外の単位取得状況は知らせずに、学生が科目Aの単位を取得しているか否かのみを、会社が知るという要求が考えられる。この問題は、紛失通信というプロトコルを応用することにより解決した。
著者
金子 昌子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

研究1.〔目的〕震度5以上の地震発生時のICUにおける体験内容を明らかにする。〔方法〕震度5以上の地震を経験したICU看護師を対象に地震発生時の対応等について面接調査を行った。調査内容は、地震発生時の医療機器の動き,対処等をフリートーキングにより行った。〔結果及び考察〕震度5以上の地震をICU勤務中に経験した17名の看護師に協力を得た。勤務帯はいずれも深夜勤務帯であった。看護師1人当たり2〜3名の患者を受け持っていた。フリートーキングにより抽出された経験内容は、「1メートル以上の高さのある医療機器(透析機器・輸液スタンドなど)は揺れが大きく、転倒の危険を感じた」「輸液ボトルの落下の危険を感じた」「医療機器類のアラームは鳴らなかったがきしみや摩擦音など異常音を感じた」など12項目のカテゴリが抽出された。また対処行動は「患者の側に行った」「揺れの大きい医療機器を押さえた」など7項目が抽出された。以上の結果から、地震発生時ICU環境下において高さ1メートル以上の医療機器は不安定となり患者・看護師の安全性を脅かす危険性が高いことが明らかになった。研究2.〔目的〕揺れによる輸液スタンド転倒予防に向けた改善策を検討する。〔方法〕5脚輸液スタンドと輸液ポンプ装着位置による重心点と揺れによる動線を測定した。〔結果及び考察〕大型振動台上に(1)3脚輸液スタンド,(2)4脚輸液スタンド,(3)5脚輸液スタンド,(4)5脚輸液スタンドに輸液ポンプ設置の4種類の輸液スタンドを設置し、阪神淡路大震災時の揺れを(1)100%としてそれを基準に(2)50%,(3)125%,(4)150%,(5)200%で揺れを発生させ(1)一方向横,(2)一方向縦,(3)2方向,(4)垂直方向の4方向の加振を行い、動作解析を用いてそれぞれの動線を分析した結果、3脚輸液スタンドが転倒しやすく、5脚輸液スタンドが揺れによる影響が大きい。さらに輸液ポンプを装着している場合、装着側を軸として回転することが明らかになった。さらに安定性を確保するために重心計を用いて測定をした結果、輸液ポンプ位置は低位であるほど安定性は高くなるが、作業効率が低下する。そのため重心・動線と作業性の視点から検討した結果、輸液ポンプは輸液スタンドの中心点に設置することが望ましいと考えられた。
著者
加地 正英 久能 治子 佐藤 能啓
出版者
久留米大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2000

【目的】インフルエンザは合併症併発の頻度が高い感染症で、それはインフルエンザ自体の治療以外の医療費が必要となる。本研究では合併症としての心臓に対しての影響に注目して、どの様な場合に影響が大きいのを検討した。【対象および方法】対象は1999年から2002年に、インフルエンザと診断され、腎機能障害例や高血圧などない症例を対象とした。病原診断は迅速診断キットを用いた。指標としてbrain natriuretic peptide (BNP)濃度を測定した。インフルエンザA、B感染例で年齢、性別、急性期・回復期BNP濃度を比較、また両群内で40歳以上の群と39歳以下の群で比較検討した。【結果】インフルエンザA55例、B50例を対象とした。BNP濃度はインフルエンザAで急性期12.4±12.7(pg/mL)回復期9.3±10.3(pg/mL)、インフルエンザBで急性期11.5±12.4(pg/mL)回復期9.1±8.6(pg/mL)で両群の急性期、回復期で有意差が確認された(P<0.01)。なお両群の急性期と回復期のBNP濃度に差はなかった。インフルエンザAおよびBとも急性期のBNP濃度はいずれも40歳以上の年令群が39歳以下の群より有意に高く、特に40歳以上の群で急性期と回復期の比較で有意差を認めたが(P<0.01)、39歳以下では急性期と回復に関して差はなかった。【考察】BNPは左心室への負荷を反映するものであり、慢性心不全などでは上昇することが知られている。本検討からインフルエンザ感染とBNP濃度および年令の間に緊密な関連があり、高齢になるほどインフルエンザ罹患時に心室負荷が大きいと推測した。BNPの値だけで、高齢者の循環器系の障害を論議できるわけではないが、高血圧や心不全を有する患者がインフルエンザに罹患した場合にはより大きな影響を与えると推測される。そのため臨床現場で高齢者のインフルエンザでは心臓に対する大きなインパクトの可能性が考えられ、その側面からも適切な対処が医療費などの増加を抑える可能性を含んでいると考えられた。
著者
牧野 俊郎 若林 英信
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は,熱工学の立場から人間の生活環境と地球の自然環境のほどよい共生を図ることをめざす萌芽的な研究である.人間の生活環境の改善はわれわれの当然の希望であり,とりわけ日本の蒸し暑い夏を快適に過ごすための努力はあってよい.ところが,その生活環境の快適さを実現するために空気調和機器(エアコン)をもってすれば,その使用電力分が地球大気に熱として放出され,さらにその電力生産にともなう熱が大気に放出されて,地球の温暖化を促進する.すなわち,エアコンに頼って快適さを追求しつづける限り,生活環境と地球環境との共生は難しい.本研究の要点は,(1)壁によるふく射冷却と(2)水蒸気を呼吸する壁である.電力よりは自然の自律制御機能に依存して人間の快適さを追及することである.本研究では,夏に涼しく冬に暖かい生活・暮らしの実現に貢献できる技術の開発のために,ふく射伝熱と水蒸気を呼吸する高熱伝導性の多孔質体に注目する.自律的な生活環境制御機能をもつ生活空間の壁をバイオマスの暖かさをもって実現することをめざす.このような人間生活と自然現象を見つめる熱工学研究の萌芽が育つことの社会的意義は大きいと考える.平成19年度(初年度)は,室内の生活空間における伝導伝熱・対流伝熱・ふく射伝熱・相変化をともなう熱・ふく射・物質輸送(heat, radiation and mass transfer)現象を考察し,その現象をよりよく制御するための生活環境自律制御型の高熱伝導性・高吸湿性の室内壁ユニット(第一壁)の開発を行った.すなわち,まず,計10種の第一壁の試料を作製した.次に,測定装置を作製し,第一壁の(有効)熱伝導率・(全垂直)放射率・平衡(質量)含水率を測定した.
著者
長弘 千恵 樗木 晶子 馬場園 明 堀田 昇 高杉 紳一郎
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

【経過】本年度は高齢者に対する事前調査の結果について検討した。【目的】看護職による転倒予防のための個別訪問指導行い、転倒予防のための個別訪問指導運動プログラムの評価を明らかにする。また高齢者の転倒体験と身体的精神的状況、居住環境、福祉制度および社会資源の活用状況との関連を明らかにすることを目的とした。【対象・方法】農村地域に住む75歳以上の在宅女性高齢者136名を対象に、看護師による家庭訪問調査を行った。調査内容は最近5年間の転倒状況、身体的状況、居住環境、福祉制度および社会資源の活用状況等であった。分析には転倒歴に欠損値のない131名を使用し、転倒要因では該当するものに1、該当なしを0として加算した。解析には対応のないt-検定、x^2検定、ピアソンの相関係数を使用した。【結果】(1)転倒体験者と非転倒体験者では年齢、介護度、寝たきり度、身体的状況、住居環境において差はなく、家族数では転倒体験者より非転倒体験者の方が多かった(2)転倒回数と自覚症状数には相関がみられ、転倒回数と排尿回数では負の相関がみられた(3)寝室の障害物で転倒体験者は非転倒体験者より多く、転倒回数との間に相関がみられた(5)社会資源の利用では差はないが、訪問介護の利用では転倒体験者が非転倒体験者より多かった(6)介入郡コントロール郡共に監察期間中に転倒が少なく、比較することはできなかった【考察】在宅の後期女性高齢者においては転倒体験者では転倒に関する自覚症状数が多いことから、介護者による転倒予測の可能性考えられた。また、寝室に障害物が多いことから住居環境の改善指導の必要が示唆された。
著者
原 美弥子 林 陸郎 鈴木 牧彦 飯田 苗恵 小林 万里子
出版者
群馬県立県民健康科学大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は1)在宅心臓病患者を対象に気功(採気体操)・太極拳による運動プログラム介入の安全性および有効性を検証する、2)地域支援型心臓リハビリテーション展開の基盤として運動継続の場を地域に設定することを目的とした。目的1)では調査研究機関の前橋赤十字病院研究倫理委員会において研究許可を得て、調査を開始したところである。研究対象者は急性心筋梗塞で、入院期間に不整脈等の合併症がなく200m歩行負荷を終了した患者を選定基準とした。退院後12週間の介入前後に心循環応答、ホルター24時間心電図による自律神経活動、包括的健康度(健康関連QOL尺度:SF-36)等を評価する。平成21年5月現在、研究協力者1名(68歳、男性)を調査介入中である。今後の研究継続により研究参加数を増やし、非監視型心臓リハビリテーションとして本研究運動プロブラムの有用性を明らかにしていく。目的2)では群馬県立県民健康大学および前橋市商工会議所との共同企画事業の一環として平成19年より地域住民を対象に「気功・太極拳教室」を開始した。平成20年は12回開催し、その教室卒業者を母体に地域住民が主体的に気功・太極拳を行う場を地域の自治会館内に設定し、グループ活動(1回90分/週)を開始した(平成20年7月発足)。その中で研究協力者16名に採気体操ビデオ(DVD)を配布し自宅での12週間継続状況を調査した。研究協力者は平均年齢64.9歳、男2名、女14名、服薬加療中は8名(高血圧・心臓病・糖尿病・高脂血症・メニエール病)、運動習慣ある5名、運動習慣ない11名であった。グループ活動中断者2名(腰痛悪化、仕事の都合)を除く参加者14名の体操実施は84日に対して平均36.4日実施率43%で、100%、98%実施者が各1名だった。今後は実施率の低い者に対する認知行動科学的介入方法を検討する必要がある。
著者
中森 茂 高木 博史 高橋 正和 辻本 和久
出版者
福井県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

絹タンパク質、セリシンにはSer、Thrなどの親水性アミノ酸残基に富む38残基の特徴的なアミノ酸配列が含まれている。本研究ではこれまでにセリシンの加水分解物や、上記38残基が2回連続したペプチドが昆虫細胞Sf9の血清中での細胞死に対して抑制活性があることを示してきたが、本年度の研究で以下のような新しい発見があった。1)38残基ペプチドの細胞死抑制効果の活性中心が10残基のペプチドSP3にあることを示した。この配列はSGGSSTYGYSである。2)SP3のC末端-YGYSをWGWSに変えても活性に差はないが、-AGASに変えると活性がなくなった。この事実からTyr, Trpなどの芳香族アミノ酸が活性に重要な役割を果たしていることが示された。3)NおよびC末端のSを削除したペプチドでは活性が大幅に低下した。このことからSerも重要な役割を持つことが示された。4)昆虫細胞Sf9の16時間培養後のDNAの電気泳動の解析によって明瞭なヌクレオソーム単位毎の特異的な切断が観察され、この細胞の死がアポトーシスによること、セリシンの加水分解物の添加がアポトーシスを抑制することが示された。
著者
橋本 洋志 坪井 利憲 大山 恭弘 苗村 潔 天野 直紀 石井 千春 小林 裕之
出版者
東京工科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,日常生活で現れる手の動き(箸や鉛筆の使い方,玉遊び等)を時系列データとして取得し,動きの特徴を表す特徴量を抽出して保存する(アーカイブ(archive)と称す)とともにこの特徴量をハンドガイド(写真参照手に装着して自動制御によりワイヤー型アクチュエータで5本の指を動かす)に送ることにより,ハンドガイドを手に装着した人間に,力覚として手の動きそのもののインストラクションを行えるようにすることにある。本年度では,前年度までの実験結果を基にして,次の成果を得た。● 指関節角度の時系列データに対する主成分分析法により,第1主成分が,動きの巧みさの指標となりうること,また,指関節角度の時系列データのうち,箸使いでは,人差し指と中指の間の角度に対する標本分散が,箸使い上手さの指標となりうることがわかった。● 玉回しでは,親指を含めた3本の指先関節が周期的に動くことが上手さの鍵となることがわかった。また,手の動きに関連して,副次的に次の知見を得た。● 手の力覚を用いて,人間の周囲にある障害物環境を認職できるという視覚の代替感覚を実現できることを明らかにした。● 人間がレクリエーションの一環として太極拳の動作を行うとき,手先の動きが重要であることが判明した。これは上手に動こうとするときの指標として,手先でバランスをとったり,スムーズな動作移行のときに手先反動を用いているためで,人間の動作と手の動きとの関連性に注目することが必要であることがわかった。以上の知見をもとに,指先のみならず手先の動きがしなやかになるようなインストラクションディスプレイのプロトタイプを構築し,臨床実験を通してその高い利便性・使用性を立証した。さらに,指先のモーションアシストデバイスを試作し,指の感覚とその動かし方に関する幾つかの知見を示した。