著者
小山田 耕二
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

平成20年度は、大規模非構造ボリュームデータ向け粒子ボリュームレンダリング技術の高度化を行った。非構造ボリュームデータとは、4面体や6面体が不規則に配置された空間で定義された数値データのことであり、有限要素法を用いた数値流体シミュレーション結果によくみられるボリュームデータである。昨年度開発した粒子ボリュームレンダリング法は,格子の視線順並べ替え処理を必要としない画期的な可視化技術として評価されている一方すべてのサブピクセル値を格納するために巨大なフレームバッファが必要とされることが問題点として指摘された。また、粒子発生においてメトロポリス法を採用したためすべての格子データをメモリにロードしておく必要があり、巨大ボリュームデータ処理時の問題として認識されていた。本年度では,これら問題点を解決するために、アンサンブル平均法の考えを取り入れたピクセル重畳法の開発を行った。本手法は本質的にサブピクセルの個数と同数の繰り返しを行うことにより生成画質の向上を図る。具体的には、フレーム更新毎に乱数のシードを変えながら粒子を生成し、その粒子を画像平面に投影し、その寄与を加算する。指定された回数だけ加算後にその加算値を加算数で除し、最終ピクセル値を得るものである。この手法では、もとの解像度のフレームバッファを準備するだけでよく、巨大フレームバッファの確保の必要性がなくなった。しかも繰り返しの途中で重畳されている画像は若干画質が荒いものであり。大規模データ可視化の場合の詳細度制御に活用することが可能である。
著者
朝日 讓治
出版者
明海大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

研究の最終年度として、これまでの研究経過を点検し、成果のまとめを念頭に、新たに(1)経済開発における非政府部門の役割、(2)寺社や教会などの社会貢献と実態を検討した。(1)経済発展における非政府部門の役割前年に検討した大規模地震の事例に続き、経済開発に必要な援助のあり方を展望した。基本文献はAmartya Senの一連の経済開発の論文である。Senは、飢饉に見舞われた地域の犠牲者への援助として、食糧や物資の提供ではなく、「公的雇用を提供すること」を提言、これにより、「本当にそれを必要としており、雇用機会を喜んで受入れようとする人々を選びだす」ことができるとする。この提言は、状況はまったく異なるが、中越沖地震の復興現場の指揮者の、「援助は、現金がもっともありがたかった」とする意見と共通する。市場メカニズムが働かないと思われている飢饉や災害地における支援のメカニズムとして注目すべき点である。(2)寺社や教会などの社会貢献長い伝統をもつ寺社や教会の中に、信者だけでなく、広く社会連帯を意識し、ホスピス建設促進や生命の尊さを教えるなど、積極的な活動を始めているところがある。このような宗教法人によるソーシャルキャピタルの提供は、新たな動向として、分析に加える必要性を感じた。(3)国際学会での報告:Institute of International Public Finance(IIPF)Warwick Universityで開催された国際学会に出席し、論文を報告し有益なコメントを得た。本研究との関連では、Agnar Sandmoの講演A Broad View of Global Public Goods(2国モデルを用いてグローバルに便益を及ぼす公共財の存在の下での厚生極木条件を導出)が、とりわけ示唆に富むものであった。
著者
綿谷 安男 幸崎 秀樹 榎本 雅俊
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

Gelfand-Ponomarevは有限次元空間の4個の部分空間の直既約な配置について、完全分類を行った。全体空間が無限次元のヒルベルト空間の場合は榎本氏と代表者の共同研究で4つの部分空間の既約な配置の非自明な具体例を無限個構成することができた。今回の研究では、さらに、有向グラフ(quiver)に沿ったヒルベルト空間の部分空闇の配置の研究を試みた。有向グラフ(quiver)の頂点と辺をヒルベルト空間とその間の作用素として表すヒルベルト表現を研究する。特に包含写像を考えれば、部分空間を有向グラフに沿って配置する問題を含んでいる。有限次元空間では、直既約な表現が有限個しかないのはディンキン図形のAn,Dn,E6,E7,E8に限るというGabrierの定理がある。この定理を関数解析の手法で無限次元化するのが、大きな目的である。鏡映関手とその双対性を無限次元のヒルベルト空間の枠組みで構成したい。無限次元の直既約なヒルベルト表現の非存在を仮定して,quiverがディンキン図形のAn,Dn,E6,E7,E8に限られることは、去年度に示すことができた。しかしその逆である、quiverがディンキン図形のAn,Dn,E6,E7,E8であれば、無限次元の直既約なヒルベルト表現が存在しないということは、ようやくAnの時に示せたのが本年の成果である。さらにBrennerによる3つの部分空間の配置の標準分解を無限次元で特別なときに示せた。拡大ディンキン図形の無限次元の直既約なヒルベルト表現にたいしては、不足数という数値的不変量をFredholm作用素の指数を使ってE6,E7の時に導入することができた。
著者
児玉 幸子 小池 英樹
出版者
電気通信大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

これまでの研究で、インタラクティブアートにおいては、展示会場に生じたイベントや鑑賞者が起こすイベントに対して、作品から効果的なインタラクションが返ったときに感じられるインタラクションの「つぼ」があることがわかってきた。本研究では、インタラクションが成功する争件を探るために、何種類かの入力デバイスを選び、タイミングなどの条件を変えて実験を行った。インタラクティブアートは、CGをモニタやプロジェクターに出力することが多いが、磁性流体ディスプレイを用いれば、CGの技術的制約から離れた実験が可能である。その特徴は,(i)微細な信号にも敏感かつダイナミックに反応するインタラクション、(ii)肌理細かなマテリアル性,(iii)液体であることに起因する形状変化(例:CGのモーフィングのような連続的変形。磁場に応じて、流動的状態や、スパイク状の突起をもつ何らかの形状を静止したまま保持する状態に移行できる)となる。芸術作品にはマティエールが重要と言われる。物質表面の肌理細やかな素材感は、芸術において極めて重要である。リアルタイムに3次元形状を変化させる場合、CGにおいでは画像の生成速度から生じる制約が大きく、テクスチャーの肌理はある程度犠牲にしなければ滑らかで自然なインタラクションは可能ではない。磁性流体ディスプレイを使えば、再現する形の制約はあるが、電気信号をほぼリアルタイムに液体形状の変化として反映できる。従って本研究では、まず磁性流体ディスプレイを中心に据えてリアルタイムのインタラクションの効果的技法を検討し、入出力の内容とタイミングをモデル化した。具体的には(a)画像認識を用いる手と形状のインタラクション(b)測音計を用いる音声と形状のインタラクションの2項目について実験した。その結果を最初に簡単なCGに反映させ、次に調整を加えて磁性流体ディスプレィに反映させて、独自のライブラリを構築した。今後複数の入力デバイスを統合的に用い、展示会場の画像・環境音、人間の動作等に連動して変化するダイナミックなインタラクティブアートを製作したい。
著者
末永 智一
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は, 「細胞の新規パターンニング法, 分離, 捕捉法を確立する」ことにある. 本年度は, 遺伝子組み換え細胞, バイオ微粒子を用いて, 誘電泳動による細胞捕捉と細胞アレイの作製, 捕捉された細胞の機能評価, 異種細胞のパターンニング等に関しても検討した.・単一細胞アレイの作製 : 誘電泳動により個々の微小ウェル中への細胞の捕捉することによる細胞アレイの構築に関して検討を行った. その結果, 直径30μm, 深さ25μmのウエルアレイを利用し, 1MHz, 3Vppの交流電圧を印加することにより, 効率的に単一細胞(HeLa細胞)ウエル中に捕捉することができ, 細胞アレイを構築できることが明らかとなった.・捕捉された細胞の活性評価 : 分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)をレポーター遺伝子として組み込んだHeLa細胞を作製し, 上記手法により誘電泳動により単一細胞アレイパターンを作製した. 発現したSEAP活性を電気化学顕微鏡により評価したところ, 単一細胞レベルでは遺伝子発現効率に大きな不均一性が認められた.・異種細胞のパターンニング : 誘電泳動パターニングデバイスを用いて細胞のパターニングを行なった. 本デバイスの利用により細胞に大きな損傷を与えることなく, 5分という極めて短時間に細胞をラインアンドスペース状に配列できることを明らかにした. さらにこのデバイスを利用することで, 異種細胞の異所領域へのパターニングが行なえることが明らかとなった.・バイオ微粒子のパターンニングと応用 : ITOマイクロアレイ電極上での誘電泳動を利用し、抗体固定化微粒子を抗体が固定されたPDMS表面の特性部分に集積させた. 集積化した微粒子量を蛍光計測することにより. マウスIgGを0.01ng/mLと高感度でしかも迅速に検出することに成功した. この手法を利用することにより, 各種細胞が混合した液から特定の細胞を分離できると考えている.
著者
杉山 あかし
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2000

本研究は、コミック同人誌即売会という文化活動をカルチュラル・スタディーズ的視点から実証的に分析しようとするものである。具体的課題は、若者たちの自発的な活動として形成されてきたこの文化的な場の構造・実態を明らかにし、その中から現代の若者文化が持つ可能性と、現代の若者が直面している社会的な課題・問題を明らかにすることである。本年度は、本研究3年目の最終年として、以下の各項目を実施した。(1)文献調査(2)一昨年度実施した郵送調査の分析作業の完成および(3)昨年度実施したカセットテープ郵送調査の分析の完成(4)コミック同人誌即売会(コミック・マーケット62)の観察(5)調査結果の妥当性を検討するための、コミック同人誌関係者ならびにコミック同人誌に詳しい研究者への聞き取り調査(6)報告書の作成本年度得られた知見のうち特徴的なことは、「コミック・マーケット」という場の日常化の進行であった。かつて、「コミック・マーケット」は文化運動、あるいは、祝祭論で言う「祭り」としての性格を持ち、日常生活とは一線を画した特殊な場として参加者たちから捉えられていたが、現在では単なる日常生活の一部分としてしか受け取られなくなっている傾向があった。同人誌出版物の書店での流通がめずらしくなくなるといった状況から見て、同人誌文化は社会において一般化する段階を迎えており、これはもはや同人誌文化が特殊なものではなくなり、文化運動としては意味を持たなくなって来ていることを示唆しているようである。大量の一般市民が大衆文化の生産者となり得るという事態は、これまでの大衆文化論の予想してこなかった事態であり、大衆文化論の新たなパースペクティプの構築が要求されていると考えられる。
著者
清水 勇 今福 道夫
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1)代表者の清水は、約1200世代以上にもわたって飼育されてきた暗黒バエの視物質オプシン遺伝子(NinaE, Rh2)のサブクローニングとシークエンスを試みた。方法としては約30-50匹の個体をまとめて抽出材料とし、発色団のレチナール結合リジン残基を含むExon4部分(約210核酸配列)をRT-PCR法で増幅し、サブクローニングしてシークエンスをみた。その結果、16クローン中の5クローンに変異がみられ、その内3クローンでは推定ペプチドのアミノ酸置換を引き起こす、それぞれ異なる非同義置換の変異がおこっていた。これは昆虫類の既存オプシンの分子進化速度から考えると異常な高頻度といえるものである。一方、対照群のハエで同様の調査(甲南大学で明暗サイクル下で飼育したもの)をすると、24クローン中わずか1クローンに、しかも同義置換がおこっているだけであった。さらにそれぞれの遺伝子の全長について調査し、NinaE〔20,000塩基中25個〕,Rh2とも暗黒飼育バエでは有意にミューテンションが挿入されていることが分かった。ついで一匹づつ頭部のmRNAを抽出するなど、実験をさらにすすめると変異がみられなかった。そこで再度、ハエをまとめてサンプルにして計ると、19クローン中6個の変異がみられた。分析法とバッチの違いによる結果の違いについて今後、さらに検討する必要があるが、なんらかの変異がおきている可能性が示唆された。2)分担者の今福は京都大学大学院理学研究科で暗黒条件下で継続飼育しているショウジョウバエをパールの培地で育てている。その成虫の光走性とkinesisを見るとL系統(明暗飼育)よりDD(暗黒)系統のほうが、それぞれ強い傾向を認めた。
著者
鬼頭 秀一
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

今年度は、前年度に引き続き、環境哲学・環境倫理学・環境思想研究者と保全生態学や野生生物管理学、環境社会学・環境史の研究者の交流と、生物多様性保全や自然再生にかかわる理念的研究の学際的な組織化を行ってきた。2005年7月には、サルの「いわゆる」獣害問題を巡って、現地の研究者と、環境社会学・環境史の研究者に報告をお願いし、上記のさまざまな研究者を招いて、その問題の核心について議論する研究集会を開催した。「いわゆる」をわざわざつけたのは、前年度のクマの問題も同じであるが、「獣害」という表現は、「問題」を一面的に捉えた表現であるからである。「問題」の本質は、野生生物のリスクも保護も含めた形での人と野生生物との関係性のあり方であり、それにかかわるさまざまな「問題」の解決は、生物多様性をどのように捉えてその保全を考えるか、「問題」の解決に至る「自然再生」はいかにあるべきかという、実践的で、しかも理念的な問題として捉えられるからである。2006年1月と3月には、これまでの集大成として、風土性、公共性という概念を軸に、公共哲学の視点を入れて、環境哲学・環境倫理学の問題を総括的に議論するようなシンポジウムとワークショップを、千葉大の公共研究のCOEと共催で開催した。参加者は、この萌芽研究で組織化してきた学際的な研究者を中心に、環境経済学、環境政治学の研究者も含めており、より広範な組織化を狙った。この萌芽研究の研究活動を通じて、生物多様性保全や自然再生の理念を考えたとき、ほぼ網羅する人文社会科学と自然科学の研究の領域を組織化したことになる。この萌芽研究の成果として研究成果報告書を作成した。本研究で研究助成を受けたさまざまな形態の研究集会で議論してきた内容を活字化するとともに、参加した研究者や大学院生の論文も収録した。その一部に関しては、東大出版会から出版することも計画している。
著者
宮本 賢一 桑波田 雅士 瀬川 博子
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

Klothoマウスはヒトの老化症状によく似た変異表現型を有するマウスである。Klotho蛋白の動物個体における真の役割については未だ明らかではないが、生体のカルシウム・リン代謝調節に深く関与していることが考えられている。とくに、Klothoマウスに見られるカルシウム・リンの代謝異常は、寿命決定の最も重要な要因であり、事実、低リン食でKlothoマウスを飼育し、高リン血症を是正すると、表現型の回復と、寿命の延長が観察される。Klotho蛋白とリンセンサー(type IIc Na/Pi cotransporter)は、脳脊髄液のリン濃度維持に関与しており、リンセンサーからのシグナルは脳脊髄液関門から分泌される未同定のリン調節因子の量を調節して末梢組織(腎臓など)に作用させるリン代謝ホルモン(寿命ホルモン)分泌を支配する統合性受容体(センサー)である。本研究ではリンセンサーノックアウト動物を作製し、リン代謝ホルモンの分泌を検討した結果、脳脊髄液関門においてこれらのホルモンの分泌過剰が予想された。そこで、リンセンサーノックアウトマウスおよび野生型マウスより分離した初代培養系脳脊髄液関門細胞を用いて、分泌亢進が見られる蛋白を分離し、質量分析計を用いて同定を試みた。さらに、DNAチップにより発現亢進の見られる分泌型遺伝子について解析した。これらの結果、4種類の機能不明蛋白(PKOS1, PKOS2, PKOS8, PKOS12)の発現亢進が確認された。現在、これらの機能についてノックアウトマウスを作製し検討している。さらに、klotho蛋白とPKOS12について発現部位が一致しているため、現在、蛋白相互を検討している。
著者
勝野 眞吾 松浦 直己
出版者
兵庫教育大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、少年院在院者に対して、いくつかの精神医学的尺度および心理学的質問紙を使用した調査を実施した。世界的にも女子における深刻な非行化群の研究例は少ない。本研究の目的は、女子少年院在院生を対象として、自尊感情や攻撃性、児童期のAD/HD徴候及び逆境的児童期体験における特性や明らかにすることである。またそれぞれの因子の関係性を解析し因果モデルを構築することである。その際、年齢と性別をマッチングさせた対照群を設定した。対象群はA女子少年院在院生41名で平均年齢は16.9(標準偏差1.7)歳。2005年12月から2007年5月までに入院した全少年を対象とした。両群にRosemberg版自尊感情尺度、日本版攻撃性質問紙、ACE(Adverse Childhood Experiences)質問紙、AD/HD-YSR(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder-Youth Self Report)を実施した。対象群のみWISC-IIIを実施した。自尊感情尺度の結果、対象群の自尊感情は有意に低かった一方、攻撃性に有意差は認められなかった。ACE質問紙の結果両群には著明な差が検出され、対象群の深刻度が明らかとなった。AD/HD-YSRの結果、対象群は学童期から不注意や多動衝動性等の行動の問題が顕著であることが示唆された。またWISC-IIIの結果、対象群のFIQの平均値は79.4(SD=11.1)点であり、認知面の遅れが示唆された。相関分析では、攻撃性得点と自尊感情には有意な負の関係が認められ、攻撃性とACE score及びAD/HD-YSR得点には有意な正の相関が検出された。すなわちこれらの因子が攻撃性に影響を与えていることが示唆された。このような傾向は青年期のみならず、成人期以降も対象者(少年院在院者)に深刻な影響を与えると思われた。
著者
梅村 孝司
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

1.強毒トリインフルエンザウイルスはマウスの脳に持続感染する強毒トリインフルエンザウイルスの経鼻接種により多くのマウスは脳炎によって死亡するが、生き残ったマウスの脳を調べたところ、接種後48日まで脳病変、ウイルス抗原およびウイルスRNAが残存していた(Vet.Microbiol.,2003)。インフルエンザウイルスは8本のRNA分節から成っているが、PB2を除く7本の分節がこれらマウスの脳組織中に証明され、インフルエンザウイルスが脳組織中に持続感染する可能性が示された。2.ウイルスゲノムはマウスの脳に感染後60日まで残存するHsN3亜型の強毒トリインフルエンザウイルスを経鼻接種されて生き残った43匹のBALB/cマウスの脳を接種後180日まで経時的に病理検索し、接種後60日までウイルスゲノムが脳組織中に残存することが分かった。3.新しいインフルエンザウイルスが持続感染した脳で誕生する可能性少ない前項と同じHsN3亜型の強毒トリインフルエンザウイルスをBALB/cマウスに経鼻接種し、接種後20日後に別の亜型のインフルエンザウイルス(A/WSN/33(H1N1))を脳内接種(重感染)した。重感染より6日後に脳組織を採材し、ウイルス分離、ウイルスゲノム検索および病理検査を行った。しかしながら、重感染させた脳組織からウイルス粒子は分離されず、両亜型ウイルスゲノムの再集合も見られなかった。これは重感染ウイルスが宿主免疫によって脳から排除されたことを示している。従って、脳内に残存しているインフルエンザ、ウイルスゲノムが重感染した別のインフルエンザウイルスにレスキューされ、新しい合の子ウイルスが脳内で誕生する可能性は低いことが実験的に確認された。
著者
和田 俊和 中村 恭之 加藤 丈和
出版者
和歌山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では,単一静止画像からの高解像度画像生成法Hallucinationを高精度化する方法について検討を行なった.昨年度はHallucinationによって生じるブロックノイズの除去方式および最近傍探索アルゴリズムの高速化について検討したが,今年度は最近傍探索アルゴリズムの高速化と全く別方式のHallucinationアルゴリズムの開発を行った.前者に関しては,昨年度提案したPrincipal Component Hashing(PCH)を改良し,Adaptive PCH(APCH)を提案した.これは,PCHでは画像データの分布が正規分布に従うものと仮定していたが,一般の分布では,必ずしも効率の良い探索が行えなかった.これを一般分布に対しても効率が良くなるように,累積ヒストグラムとそれを参照した2分探索木を用いたHash関数を導入した.これにより,任意のデータ分布に対してLSHや従来のPCHよりも効率の良い最近傍探索が行えることを示した.後者については,大量の画像集合から構成した部分空聞を利用して,入力画像の一部から残りの部分を推定する写像計算法について検討を行い,通常の部分空間を用いた写像では入力画像の面積が小さくなると多重共線形性の問題が発生することを明らかにした.さらに,その問題を回避するためにマハラノビス距離を最小化する出力を推定するMaximum Mahalanobis-distance Mapping(M3)を提案し,多重共線形性の問題を回避することができることを示した.さらに,これを画素間引きした画像に適用し,低解像度顔画像から高解像度顔画像が生成できることを示した.
著者
金城 政勝 源 宣之 杉山 誠 伊藤 直人 淺野 玄 金城 政勝
出版者
琉球大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

エマージング感染症の多くの病原体は野生動物や昆虫と共存し、自然界で密やかに感染環を形成している。そこで本研究では、野生動物や吸血昆虫から種々の病原体や抗体を検出して、わが国に既に侵入しているあるいは侵入する恐れのある新たなウイルス性感染症をいち早く補足し、それらの予知法を考察しようとするものである。最終年度である本年度は、岐阜及び西表島での昆虫採集を引き続き行い、それらからのフラビウイルス(日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ダニ脳炎ウイルス及びデングウイルス)遺伝子の検出を試みた。また、蚊由来培養細胞C6/36細胞を用いてウイルス分離も試みた。1)岐阜及び西表島における蚊の採取:本研究期間内において、最終的に20,919匹及び40,423匹の蚊がそれぞれ岐阜及び西表島で採取された。岐阜で採取された蚊のうち最も多かったのはイエカ属(80.0%)で、ハマダラカ属(17.2%)がそれに続いた。一方、西表島では、クロヤブカ属(62.7%)及びヤブカ属(32.7%)の蚊が大きな割合を占めた。2)RT-PCR法を用いた蚊からのフラビウイルス遺伝子の検出:同一のプライマー・セットを用いて日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ダニ脳炎ウイルス及びデングウイルスの遺伝子を検出することができるRT-PCR法により、685プール(1プール50匹、計29,966匹)の蚊からウイルス遺伝子の検出を試みた。しかしながら、目的の増幅産物を得ることができなかった。以上にことから、上記のウイルスは岐阜及び西表島に高度に浸潤していないことが示唆された。3)蚊由来培養細胞を用いたウイルス分離:C6/36細胞に接種した599プールのうち、34プールが明瞭な細胞変性効果(CPE)を発見した。このうち西表島のヤブカ属のプールから分離されたCPE発現因子について各種生物性状を調べたところ、上記ウイルスとは異なるフラビウイルスであることが示唆された。今後、このウイルスの哺乳動物に対する病原性等を詳細に検討する予定である。
著者
高田 礼人 堀本 泰介
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

インフルエンザウイルスは、表面糖蛋白質ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の抗原性によって様々な亜型に分けられる。現在まで、インフルエンザワクチンは主にウイルスHAに対する血中抗体を誘導することを目的としてきた。しかし、現行の不活化インフルエンザワクチンは抗原性が異なるHA亜型のウイルスには全く効果がない。本研究の目的はこれを克服し、全てのA型インフルエンザに有効な免疫法を検討する事である。これまでに、ホルマリンで不活化したインフルエンザワクチンをマウスの鼻腔内に投与すると、様々な亜型のウイルスに対して交差感染防御が成立することを明らかにした。これにはウイルス表面糖蛋白質に対する亜型特異的中和抗体以外の免疫応答が関与していると考えられた。免疫したマウスのB細胞を用いてハイブリドーマを作出した結果、ウイルス蛋白質に対するIgAおよびIgG抗体を産生するハイブリドーマクローンが多数得られる事が判った。これらの中には様々な亜型のウイルスに交差反応性を示す抗体があった。H1、H2、H3およびH13亜型のHAをもつウイルスに交差反応性を示す中和抗体が得られたため、そのエピトープを同定した結果、このモノクローナル抗体はHAがレセプターに結合する領域の近傍を認識する事が明らかとなった。この領域の構造は亜型に関わらず類似性が高いため、交差反応性を示すことが推測された。これらの結果は、全ての亜型のウイルスに対する抗体療法の可能性を示唆している。また、今後同様に免疫したマウスから得られた交差反応性を示すIgA抗体を用いて血清亜型に関わらずに様々なウイルスに対する交差感染防御のメカニズムを解析する。
著者
澤村 誠 宗林 孝明
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

貝毒(下痢性)を惹き起こすオカダ酸を、抗原抗体反応を利用し、非標識で動作するバイオセンサで検出した。また、予備実験として同センサによりがんマーカーのCEA(癌胎児性抗原)を検出した。・バイオセンサの作製:平成17年度に作成したトランジスタ型センサから操作が容易でより安定して動作するダイオード型センサを作製した(特許出願済)。・検出法:センサのシリコン基板表面の酸化膜上に微細な電極を作製し反応場とし、抗体を固定化(物理吸着)し、ターゲットの抗原を滴下する。抗原抗体反応進行に伴い、ダイオードの電流・電圧特性を比較すると、反応の進行レベルに加え、動的特性がターゲットの濃度に依存して規則的に変化する。標準サンプルから検量線を作成すればターゲットを定量することができる。・効果:本研究は貝毒の抗原抗体反応の検出を非標識で行った最初の研究と思われる(従来、検出にはマウステストが行われているが、近年ELISA法による実験の成功例がある)。オカダ酸のような微小な分子が非標識で検出されたことは重要な発見である。尚、使用したバイオセンサは構造が簡素で、低電圧で安定動作し、操作が容易である。他の抗原抗体反応(CEA検出)にも応用できるが、可能性として酵素反応やDNAハイブリダイゼーションにも用いることができ、応用範囲が広い。・新発見:反応場上の抗原と抗体が形成する薄膜の動的電気伝導特性が変化することから、反応に伴い抗体の分子構造(水を含む)の大きな変化(conformal transition)を伴う電子状態の変化があることが予想される。このため、今後、細胞やウイルスなどの大型ターゲットの電子状態計測や細胞シリコン融合素子への応用が期待される。課題:(1)検出感度を他の検出法と比較すること(サンドイッチ法(ELISA)で検出できず)。(2)抗原抗体反応に要する時間の短縮。(3)夾雑物のある環境における検出実験。
著者
細江 達郎 横井 修一 PRIMA Oky Dicky A 細越 久美子
出版者
岩手県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

盛岡市と周辺町村を対象とし、犯罪発生場面を物的・人的環境との動的関係から調査し、その発生抑制条件を明らかにした。そのことから地方における犯罪防止対策の基礎データを分析し、今後の研究の手がかりを提供した。本年度は具体的には以下について実施した。(1)GISによる犯罪分析窃盗犯とその地理的環境要因との関連分析を継続して行い、利用形態別の建物の割合と面積に基づいてクラスタ分析を行い、町丁目ごとに特徴を把握することが可能となった。その結果、対象地域は繁華街地域、繁華街・住宅混在地域・住宅中心地域に分類され、犯罪手口との関連が明らかとなった。これまで市町村(区)単位、交番管轄単位で分析されていたが、本研究によりさらに詳細な分析が可能となるだけでなく、防犯の面でも地域特性に応じた対策の検討が可能となった。(2)防犯意識向上のための地域安全マップ作製の効果に関する調査地域安全マップの効果は被害防止能力、コミュニケーション能力、地域への愛着心、非行防止能力の向上がある。それぞれの尺度を作成し、岩手県内農村部の一小学校児童を対象に調査を実施した。地域住民を含む地域安全活動に児童が参加し、実施前・後・3ヶ月後の能力の変化を調査し、安全活動の関与の効果について明らかにした。まとめとして、地方における犯罪発生は都市およびその周辺部においては罪種とその地域の建物利用形態との関係により発生の態様が異なり、農村部においては地域住民の安全対策への関与により犯罪発生・抑制に差異が出ることが確認され、今後、地方における犯罪防止はそれぞれの地域特性に応じたきめ細かい施策が必要とされる。3年間に渡る本研究はその基礎的な資料を提供するものである。