著者
久恒 辰博
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

近年、記憶にかかわる海馬においては、どんなに年をとっても新しくニューロンが生み出されていることが発見され、この現象が大いに注目されている。ところがこの新生ニューロン数は加齢とともに激減することも知られており、新生ニューロンを増やす諸条件の検索が望まれていた。本研究ではマウス脳梗塞モデルを用いて、その脳保護作用が確認されていたフラボノイド(カテキン)を使用して、ニューロン新生に対する効果を検証した。核酸アナログであるBrdUを成体マウス(8週令以上)に投与し分裂中の神経幹細胞をラベルした。そして、この2週間後ならびに6週間後にマウスより脳を取り出し、新しく生み出されたニューロンの数をダブルブラインド条件下で共焦点顕微鏡解析することにより、計測した。有意差検定の結果、カテキンによって、わずかではあるが、統計的に有意に新生ニューロンの数が増加することがわかった。この効果の仕組みを探るために、カテキンが血管内皮細胞に作用していることを想定し、マウス血管内皮細胞由来培養細胞株であるbEnd3細胞を用いて、生化学的な解析を行った。この細胞が、神経栄養因子の産生を誘導するeNOS分子を発現していることをウェスタンブロッティング法で確認した。そこで、bEnd3細胞をカテキンで刺激することで、NO産生が起こるかどうかを調べた。数回の実験において、カテキン刺激によりNOの産生が高まる傾向が見られたが、その応答にはばらつきがあり、なかなか再現性のよい結果が得られなかった。仕組みの解明には、他の細胞ラインあるいはインビボの実験が必要であると思われた。本研究の結果から、詳細な応答機構は未解明ではあるが、フラボノイド類により、海馬ニューロン新生が高められ、海馬回路の機能が保持されていることが推測された。
著者
都木 恭一郎
出版者
東京農工大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では光の圧力を用いるプロペラントレスのエネルギー直接変換型宇宙推進の研究を行っている。初歩的ではあるが,電源からエネルギーを準黒体輻射源に供給し、光束の形で運動量を放出させ、その推力を計測することから開始,準黒体輻射源としてタングステンフィラメントを用いた。エンジン内部のノズルで光を反射し平行光に近づけるいわゆる放物面ミラーを採用,その焦点位置にタングステンフィラメントを固定する。フィラメントは最高2,500Kまでとし,蒸発量を抑制した。推力計測は申請者等が独自に開発した微小推力測定用の「ねじり式推力スタンド」で行った。本実験では、ワイヤーでバランスしてアームの一方に金属箔を光圧力を受ける形で吊るし、ワイヤーのねじり復元力と釣り合う際のねじり回転変位をレーザー変位計によって計測できるように構成した。推力のキャリブレーションはこれも申請者等が独自に開発した帯電による金属箔の反発力を利用した方法で既知の微弱静電気の力を発生して行った。その結果、「ねじり式推力スタンド」は十分な分解能である0.1μNの測定精度を持つことが分かったが、タングステンフィラメントから発生する輻射熱の影響があってゼロ点ドリフトが問題となった。今年度は新たにシャッター開閉機購を有した計測系(熱の影響が出る前に短時間で推力測定を完了する)を構築することで問題の改善を図り,その結果得られた推力は300Wで0.2μN,パワー変換効率としては20%程度であることが判明した。一方、全く別の光源として、タングステンフィラメントの替わりに、最大出力100Wで波長0.9μmの半導体CWレーザーを製作した。その結果,半導体レーザーにて出力80Wまでを達成,今後はこれを用いてシャッター機構を有する改良型「ねじり式推力スタンド」にて推力を評価することになった。
著者
秋光 純 銭谷 勇磁
出版者
青山学院大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

強相関電子系物質において、フェルミレベルの分散を平坦化することは、その強相関効果を顕在化させる働きがある。特に顕在化する物性として強磁性と超伝導が考えられる。特に高温超伝導体においては、フェルミレベル近傍でk=(π,0),(0,π)での分散が平坦化している。また理論的観点からも、フェルミレベルの分散を平坦化すると1粒子励起が抑制され、2粒子励起が高められ超伝導に有利であると考えられている。以上の背景のもと、我々は銅酸化物を取り上げ以下に示す3つの物質群での超伝導開発を行った。1)Liebモデルを基礎とした物質開発-Ba_8Ca_<16/15>Cu_<64/15>O_y(CO_3)_<2.66>-Ba_8Ca_<16/15>Cu_<64/15>O_y(CO_3)_<2.66>の結晶構造はCuO_2二次元面内のCuサイトがCO_3基で1/4置換された既知の物質であり、その電気伝導性は絶縁体である。このBa_8Ca_<16/15>Cu_<64/15>O_y(CO_3)_<2.66>のCa^<2+>サイトをNa^+で置換し、ホール・キャリアを注入し超伝導化を試みた。その結果、T_c=117Kから超伝導性が確認された。Ba-Ca-Cu-O-CO_3系では既知の超伝導体(T_c=110K)が存在するが、XRDからは既知物質は確認されておらず、Ba_8Ca_<16/15>Cu_<64/15>O_y(CO_3)_<2.66>による超伝導の可能性は高い。現在、相の特定を行っている。2)団子格子モデルに基づく物質開発-PrBa_<2-x>A_xCu_3O_y (A=Ca, La)-PrBa_2Cu_3O_yはYBa_2Cu_3O_yと同じ結晶構造を有しているにも関わらず超伝導が出現しない物質である。我々はこのPrBa_2Cu_3O_yに過剰酸素を注入し、CuO鎖を2次元面とすることにより、超伝導化を目指した。結果、金属的伝導は示すが、測定最低温である5Kまで超伝導は確認されていない。3)平坦なバンド構造が期待される物質開発-LaCuOCh (Ch=S, Se, Te)-我々は、理論的モデル物質のみではなく、平坦なバンド構造を有する物質として知られているLaCuOCh (Ch=S, Se, Te)を母体とした超伝導体開発も行った。La^<3+>サイトをSr^<2+>等で置換し、ホール・キャリアコントロールを行った。現在のところ金属的な伝導を示すものの、超伝導は確認されていない。
著者
岡本 幹三
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

診断技術の進歩と予後の改善によって多重がんの発生が増加しているが、多重がん患者の生存予後については余りわかっていない。今年度は、1979年から2003年までの25年間に亘る鳥取県がん登録資料を活用して単発がん患者と多重がん患者の生命予後について比較した。多重がん患者1,146名、単発がん患者15,022名について、罹患年齢、死亡年齢および第1がん罹患から死亡までの生存期間を求め、生存予後の比較はCox回帰による生存分析を用いておこなった。なお、多重がんの判定基準はIARC/IACRの規則に従い判定し、死亡票からの多重がんは除外した。その結果、多重がん患者は、第1がんの罹患年齢および死亡年齢とも単発がん患者に比して1歳弱高齢であった。第1がん罹患から死亡までの生存期間は、多重がん患者は4.3年で単発がん患者の2.8年に対して1歳弱長かった。Cox回帰による実測生存率曲線の比較では、10年生存までは、多重がん患者が単発がん患者より高い生存率を示し、その後第2がんの影響で逆転した。部位別には、特に直腸、胆嚢・胆管、膵臓、肺、前立腺で同様の傾向が観察されたが、食道、胃、結腸、肝臓、喉頭、乳房、子宮では顕著な違いは見られなかった。逆に皮膚、腎など、膀胱、甲状腺では単発がん患者が高い実測生存率を示した。以上の結果から、多重がん患者が単発がん患者より長生きすることが示唆された。おそらく、これは、第1がん罹患後の治療方法やライフスタイル(喫煙・飲酒)などによる影響が関与しているものと思われる。今後は、これらの点について検討していきたい。
著者
犬竹 正明 安藤 晃 服部 邦彦 戸張 博之 際本 泰士 阪上 雅昭
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

近年、ビッグバンに代表される相対論的宇宙論の進展とともに、ブラックホールの存在が予言され観測研究が進められている。ブラックホールはホーキング輻射と呼ばれるプランク分布に従う輻射を放出しているという予言がホーキングによって示されている。この現象はブラシクホールに付随する「事象の地平線」における時空の引き延ばし効果に起因するもので、最も興味深い現象の一つであるが未だ実証もされていない。本研究は、磁気ラバールノズルを用いてプラズマ流を亜音速から超音速に加速し、その際に出現する"sonic point"近傍にて波動を励起しそのパワースペクトルを観測することによりホーキング輻射予言を実証する事を目的とした実験研究を行った。本年度は、発散収束型(ラバール型)磁気ノズル部において、プラズマ流中でのイオンマッハ数が1近傍になる"sonic point"が形成され、この近傍においてイオン音波の励起と伝搬に関する実験を行った。この近傍では衝撃波発生に伴うイオン温度の上昇現象が観測され、そのためにイオン音波のランダウ減衰がおこりスペクトル観測が困難であることが判明した。一方、イオン音波だけでなく、アルヴェン波を用いることで、アルヴェンマッハ数M_A=1の"sonic point"におけるアルヴェン波の伝搬についても実験を実施した。発散型磁気ノズル形状を用いることでアルヴェンマッハ数が1以上の超アルヴェン速プラズマ流を生成し、アルヴェン波励起と伝搬特性を観測した。これらの実験において、上下流への波動伝搬に対するプラズマ流のドップラー効果を利用することで、プラズマ流速の新しい計測法を見出した。
著者
柳谷 俊 加藤 護
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究では,近年飛躍的に性能が向上したデジタル一眼レフ・カメラをもちいて破壊に伴う発光をはじめて撮影することに成功した.えられた発光画像のなかで,特に決定的な例は,断層面が試料表面を切る線の上に発光スポットがきれいに並び,岩石のFaultingと発光の因果関係を強く示唆している.一般に,発光現象が生じる場合,そのメカニズムを特定するには,詳細な波長情報がえられる分光測定を行うのが標準的手法であるが,発光時間が数マイクロ秒以下の単発かつ局所的な現象であること,ISO3200でようやく撮影できる微弱光であり,このような光をさらに分光するには通常の分光器では困難であることがわかった.したがって本研究では,分光器の代わりにデジタル一眼レフ・カメラを使用して発光を観察することとし,シンプルな1軸圧縮破壊実験を行い,破壊時発光を撮影することを試みた.この手法は,分光器に比べて限定的ではあるが,撮影した画像から発光のおおまかな波長情報を得ることができるのに加えて,発光が生じる場所の空間的情報を得ることができる.岩石試料として,花崗岩,トーナライト,玄武岩,砂岩,大理石,珪岩を用いた.さらに花崗岩については,産地と粒径の異なる4種類を用いた.実験の結果,カメラの画像上ではっきりとした発光が確認できたのは,粒径の大きな石英を多くふくむ花崗岩と珪岩に限られた.破壊発光の色は,青系統と赤系統の2種類であり,特に青系統の発光は,珪岩でもっとも顕著に確認できるなど,石英を含む試料に特徴的に見られることから,石英の圧電効果によって生じた電場とそこでの放電がその原因であることを示唆している.いっぽう赤系統の発光は,その発光場所の分布にこれといった特徴は見られなかった.さらに赤系統の発光は,別途に行った摩擦発光とおなじ色に写ることから,破壊時のひずみエネルギーの開放にともなって高温となったスポットからの黒体放射がそのメカニズムである可能性が高い.
著者
山内 敏正 窪田 直人 原 一雄 門脇 孝
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

(1)アディポネクチン受容体の特異的アゴニストを植物(果物・野菜を含む)から抽出・精製し糖尿病の根本的治療薬を開発。:アディポネクチンと立体構造上ホモロジーを持ち、アディポネクチン受容体に結合してAMPキナーゼを活性化するオスモチン並びにPR-5ファミリーペプチドをあらゆる植物・果物からスクリーニングし、ジャガイモOSM-1h(89%)、トマトNP24(89%)、ピーマンP23(86%)、トウガラシosmotin-like protein(72%)に含まれることを見出した。(()内はタバコオスモチンとのアミノ酸配列相同性を示す。アディポネクチン受容体アゴニストであることが確認されたオスモチンを、肥満・2型糖尿病モデルマウスであるob/obマウスに投与したところ、糖・脂質代謝が改善されるのが認められた。(2)オスモチン測定系の確立。:PR-5ファミリー物質の抗体の作製を完了した。ウエスタンブロットにて反応性の検討中である。(3)果物・野菜の摂取量とオスモチンの血中濃度・メタボリックシンドロームとの相関の検討。:東大病院に入院・通院する糖尿病患者あるいは兵庫県宍粟郡の住民からなるコホート集団を対象として植物・果物の摂取頻度調査を行い、前者の集団では種々の植物・果物の摂取量と糖尿病関連臨床指標との相関を後者の集団では種々の植物・果物の摂取量と糖尿病発症率との相関を検討し、PR-5ファミリーのうちどの物質が実際に生体内で対糖尿病作用を強くもっているかのsupportiveなデータが得られるか検討中である。
著者
和田 千鶴 豊島 至
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

スギヒラタケ関連脳症は,スギヒラタケ摂食後意識障害,痙攣をきたし,脳画像所見で両側基底核病変を認める致死的な疾患である。これらは中国で流行したサトウキビカビ脳症にきわめて類似している。われわれはサトウキビカビ脳症の原因物質である3-ニトロプロピオン酸(3-NPA)のスギヒラタケ関連脳症への関与を検討した。その結果、患者血清,髄液,スギヒラタケに3-NPAの有意な高値を認めず,また,付着真菌のいずれも3-NPAを産生しなかった。両側基底核病変を起こす可能性のある毒素は3-NPAの他にも数多く存在し,いずれもミトコンドリア毒素であり,基底核の酸化ストレス脆弱性に関連すると考えられている。ヒトの中毒例がない物質でも,実験動物で両側基底核病変が証明されており,今後,原因物質として検討に値する。一方,スギヒラタケは従来無毒のキノコであり、スギヒラタケ関連脳症はサトウキビカビ脳症と比べると,摂食から神経症状出現までの潜伏期が日単位と長く,不定である。摂食したスギヒラタケの量と重症度が相関しない。サトウキビカビ脳症と異なり,発熱,髄液細胞数増多を伴う炎症反応が強い症例も多いなど従来の中毒疾患として説明できない事項が多い。また、脳症患者は腎不全を高率に合併した。腎不全には種々の代謝異常、易感染性・免疫異常が現れるとされている。これらの異常が脳症発症に関与した可能性が考えられる。しかし、スギヒラタケを摂食した腎不全患者のうち、脳症発症者は2〜3%に過ぎないという事実から、脳症発症者個体としての免疫応答の異常や毒性物質代謝酵素活性低下についての検討も必要と考える。
著者
安田 孝子 島田 三惠子 大見 サキエ 巽 あさみ 矢野 忠 笹岡 知子
出版者
浜松医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

つわり妊婦に対するツボ刺激のつわり症状の改善への有効性を明らかにすることを目的として,県内の病院の妊婦外来で同意の得られた妊娠16週までの妊婦48名(68名配布,回答率77.4%)を対象として,つわり症状尺度,東洋医学健康状態,属性等で構成される質問紙調査を実施した。このうち,同意の得られた妊婦12人を対象として,ツボの指圧を1回10分間連続3日間,実施した。その結果,48名の対象者の属性の年齢は30.5±4.4歳,身長158.2±5.3cm,体重51.4±7.8kgであった。1.つわり症状尺度:北河のEmesis Indexを一部改変し,悪心,嘔吐,食欲不振,唾液分泌,口渇の症状の各項目の0点〜3点を点数化し,合計点が15〜11点は重症,10〜6点は中等度,5〜4点は軽症と分類した。各項目は,悪心2.1±0.9点,嘔吐1.2±1.2点,食欲不振1.6±1.1点,唾液分泌1.2±0.9,口渇1.0±0.9であり,悪心が最も多く,1日に5〜10回感じている状態である。合計点は7.1±3.5点であり,治療を要するほどではないが,中程度の不快な症状を抱えながら日常生活を送っていると考えられた。2.東洋医学的身体の状態:明治鍼灸大学式東洋医学健康調査票による妊婦の身体状態は4つのタイプに分類された。(1)胃虚型(胃腸症状が強い),(2)肝熱型(イライラや胸脇が苦しいなどが強い),(3)痰湿型((1)に不眠多夢などが加わった),(4)は(1)〜(3)以外の型であった。48人中(1)は19人(39.6%),(2)は18人(37.5%),(3)は5人(10.4%),(4)は6人(12.5%)であった。従って,つわりのある妊婦に共通して用いるツボは内関,中?であり,タイプによって,足三里,胃兪,太衝,百会,膈兪,豊隆,太白などを組み合わせることが適切であると考えられた。3.ツボ刺激の効果:ツボ刺激は,腹式呼吸と印堂,内関,全息律つぼ群の3ヶ所のツボの指圧を1回10分間,連続3日間実施した。12人の妊婦のうち,11人の有効データを分析した。つわり症状尺度のスコアは,ツボ刺激の実施前5.0±4.6点,実施3日後3.3±2.8点となり,有意(paird t-test,p<0.01)に低下した。従って,ツボ刺激がつわりのある妊婦の症状改善に効果があることが示唆された。
著者
渡辺 茂 村山 美穂
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究では,1)ヒトで好奇心との関連が報告されているドーパミンD4受容体遺伝子多型領域の鳥類での解析,2)D4拮抗薬投与による好奇心の低下の検討、により行動特性の遺伝的側面からの解明を目指した。鳥類ではエキソン1領域にアミノ酸のプロリンをコードするCCNの反復配列が存在し、種間、種内で反復数に差があることを見いだした。個体の行動データがあるカササギ、カケス、ハトで遺伝子型を調べた。プロリン反復領域をPCR増幅して、ABI3100シーケンサー(アプライドバイオシステムズ)を用いて、BigDye V3.1キット(アプライドバイオシステムズ)によるdye terminator法で塩基配列を解析した。その結果、カラス、カササギ、カケス、オウム、ハトはそれぞれ3,3,3,3回反復遺伝子を持っており、種内多型は見いだされなかった。好奇心の強い種としてセキセイインコを用い、新奇刺激に対する接近行動を好奇心の指標として薬理実験を行った。D4拮抗薬としてはL-745,870を用い、0.1mg/Kgから0.2mg/Kgを筋肉内投与した。その結果、拮抗薬投与により、有意な接近行動低下が見られた。なお、一般活動性には薬物投与の効果は見られなかった。このことから、D4が鳥類においても好奇心に関係することがわかった。しかし、多くの種で種内の遺伝子多型が見られなかったため遺伝子多型と好奇心との関連は十分に解明されなかった。
著者
白崎 良演 中村 浩章 羽田野 直道 町田 友樹 長谷川 靖洋
出版者
横浜国立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

我々は、2次元電子系がメゾスケールの大きさである場合、強磁場下で系のネルンスト係数に量子振動が見られる(量子ネルンスト効果)ことを平成17年度から平成18年度にかけて線形応答理論を用いた理論計算で示していた。平成18年度にフランスのグループ(Bhenia, et. al. ESPCI, Paris)から、ビスマス(Bi)単結晶のネルンスト係数およびエッチングスハウゼン係数の測定結果が発表され、ネルンスト係数の量子振動が現実の系で示された。我々はこの実験結果の検討を行い、試料の3次元性の効果を取り入れた理論拡張を行った。我々は磁場中の3次元バリスティック系を考え、運動の自由度を磁場に垂直な2次元面内の自由度と磁場に平行な自由度に分け、2次元面内の運動成分は有限サイズのバリスティックなものと見なしてネルンスト係数を考察した。その結果、3次元系でもネルンスト係数の量子的な振動が現れ、ネルンスト係数のピークは弱磁場側に尾を引く左右非対称の形を持つことが分かった。この形はBiの実験結果と一致する。このように、量子ネルンスト効果が3次元系において理論・実験両面から確認された。一方、Biのネルンスト係数のピークは実験値が理論値に比べ非常に大きい。この原因の理論的解明は今後の課題として残っている。我々は量子ホール系における輸送係数の基本関係に関しても考察を行った。従来、電気伝導度テンソルの非対角成分の磁場微分と対角成分との間では線形な関係式が提案され、研究が進められていた。我々は線形応答理論を用いて量子ホール系の輸送係数を理論・解析的に導出し、成分間の関係が非対角成分の磁場微分と対角成分の二乗が比例する非線形な関係であることを示した。この理論では、電子の不純物散乱により、ランダウ準位近傍の電子状態密度がローレンツ型になると仮定している。我々はGaAsによる実験結果を用いて、数テスラ程度の磁場のもとでこの関係が良く成立していることを確かめた。
著者
福島 哲仁
出版者
福島県立医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

中国北京にある中国予防医学科学院(現中国CDC)との共同研究は、フィールド予定地域において重症急性呼吸器症候群が流行したため、平成15年度から中断している。引き続き問題となった鳥インフルエンザなど新たな感染症発生にも影響を受けたため、中国予防医学科学院との共同研究は、中断のリスクが大きいと判断した。現在は、フィールド地を中国湖北省襄樊市及びその周辺に変更し、長期的に安定して共同研究が可能な武漢大学公衆衛生学院の譚 曉東教授との共同研究に切り替えた。今年度、新たなフィールド地域住民のナイアシン摂取状況とパーキンソン病発生状況に関する予備調査を開始し、襄樊市周辺の農村地域でトウモロコシ生産地域のパーキンソン病有病率が極めて低いという結果を得つつある。この結果をふまえ、現在、襄樊市及びその周辺地域において10万人規模の悉皆調査を計画中であり、ナイアシン低摂取地域において、本当にパーキンソン病有病率が低いのかどうか、さらに詳しい栄養調査によって、パーキンソン病発症に関連した環境要因について引き続き検討していく予定である。この疫学調査と並行して、仮説を裏付けるために実験室レベルの研究も進めており、これまでの疫学的分析と合わせて一定の到達点を整理しレビューとしてまとめた。この結果は、すでに雑誌に掲載されているが、体内に摂取されたナイアシンは、体内でNADH合成に使われるが、分解過程で脳を含め全身の組織でニコチンアミドが遊離し、メチル化が生じる。このメチル化されたニコチンアミドがミトコンドリアの呼吸鎖酵素複合体complex Iを直接的に、あるいはミトコンドリアDNA破壊を介して間接的に傷害し、神経細胞の脱落を招くのではないかと考えており、これを裏付ける結果を得つつある。実験室レベルの研究と中国における悉皆調査をさらに進め、表題にある仮説の検証を行っていきたいと考えている。
著者
細田 耕
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

昨年度試作した空気圧二足歩行ロボットを用い,床面の変化に伴う行動の変化についての検討,股関節の剛性変化による行動変化の検討を行った.さらに空気圧駆動の肩関節ひじ関節などの試作を行い,弾道学的運動のための制御則を考案した.(1)試作した二足歩行ロボットによる歩行の確認試作したロボットによって,弾道学的な歩行が実現できることを確認し,さらにさまざまな床面でロバストに歩行可能であることを実験的に確認した.(2)床面の変化に伴う行動の変化の観測床面の変化に伴い,二足歩行の歩行周期が変化することがわかったので,床面変化を歩行周期から推定する方法について提案し,床面変化に対応できる制御則を考案した.(3)股関節の剛性変化に伴う行動変化の検討股関節の空気圧を調整することにより関節剛性を変化可能であることを示し,剛性変化によって歩行行動がどのように変化するか,特に歩行周期がどのように変化するかについての調査を行った.この知見は,人間の二足歩行において股関節がどのような寄与をしているかについての重要な知見になると考えられる.(4)空気圧駆動の肩関節・ひじ関節の試作と弾道学的制御則の検討二足歩行ロボットの作成に関する知見を踏まえ,2自由度肩関節および1自由度のひじ関節を試作した.また,肩関節のみのロボットについて,運動開始時と終了時のみに空気圧弁の操作を行い,それ以外ではロボットの動特性に従って弾道学的な運動をする制御則を提案し,この制御則によって終点まわりに大きなオーバーシュートを発生することなく,短時間でスムーズな運動が実現できることを示した.
著者
山本 正雅 兼田 瑞穂 前田 美穂
出版者
奥羽大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

フュージョンパートナー細胞SPYMEGを用いてヒトのモノクローナル抗体が作製できるか否かを検討した。健常人の末梢血よりリンパ球を得てSPYMEGとPEG法を用いて融合させ、HAT存在下にてハイブリドーマ細胞を培養した。融合細胞を768ウエルに播種したところ、コロニー形成率は平均28%(2回の融合)であった。IgG産生能をサンドイッチELISAにて測定した結果、コロニーが形成されたウエル中27%で陽性であった。これは既報のパートナー細胞Karpasを用いた成績に極めて近い値であった。ヒトのIgGを産生している細胞を限界希釈し単クローンにし、IgGを精製したところ、H-鎖、L-鎖ともに発現しており、完全なIgGが合成されていることが分った。抗体産生能はハイブリドーマに依存するがよく産生するクローンで2〜10μg/ml程度であった。ハイブリドーマはセルバンカーを用いて1ヶ月凍結保存し、その後再び培養を再開しても抗体産生能は凍結前に比べ変化はなかった。この結果から、かなり安定したヒトのモノクローナル抗体が作製できることが明らかになった。そこで、ヒトの特異的モノクローナル抗体を作製するために、ヒトに投与できる抗原としてインフルエンザワクチンを用いた。インフルエンザワクチン投与した場合、投与後1ヶ月以内に末梢血リンパ球を得てSPYMEGと融合させ、HAT存在下にてハイブリドーマ細胞を培養した。またインフルエンザに自然感染した健常人についても検討した。融合細胞を384ウエルに播種し、インフルエンザワクチン抗原AとBの混合液ををELISAプレートにコートし、スクリーニングを行なった。その結果、自然感染の健常人からのリンパ球を用いたときインフルエンザ抗原に陽性に反応するモノクローナル抗体が14クローンが陽性であり、最終的に2クローンが得られた。インフルエンザワクチンを投与したとき、121クローンが陽性であった。このうち最終的に12クローンが得られた。同手法を用いて、血小板のGPIIb/IIIa複合体に対する抗体を産生している自己免疫疾患患者から抗体の作製を行なった。その結果、2クローンが健常人の血小板に反応しIIb/IIIaを免疫沈降してくることがわかった。これらの結果から、SPYMEGはヒトのモノクローナル抗体の作製が可能でり、臨床と基礎医学研究に役立つと考えられた。
著者
林 啓子 浦山 修 高島 尚美 山内 惠子 樋之津 淳子
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では「笑い」が2型糖尿病患者の血糖コントロールに及ぼす影響を明らかにするために、漫才や落語で笑った前後における血糖値の変化(短期効果)と日々の生活の中で笑う機会を増やすことで高血糖状態が改善されるかどうか(長期効果)の2本立ての研究計画を立て実施した。1年目はプロの漫才師の協力を得て、短期効果の検証をおこなった。60歳代の8名の糖尿病患者における笑い前後の血糖値の変化を自己血糖測定法(SMBG)により観察した。短期効果の実験は今回で3回目であり、再度食後2時間血糖値上昇が抑制されることを実証した(笑いの無い状況における血糖変動に比べ-31.4mg/dl)。2年目は24名の2型糖尿病患者を被験者として(60歳代、男性12名、女性12名、非インスリン治療)月1回「笑い」を含む糖尿病教室を9回開催した。この教室では日々笑うことを奨励し、さらに笑いに関与する顔面筋群(大頬骨筋、眼輪筋、口輪筋)の動きをよくする体操(笑み筋体操)を考案し指導した。被験者には体重、食事、運動(歩数)そして笑いの状況を日誌として記録してもらった。血糖変動の原因が明らかである者(薬物変更等)や出席回数が少なかった者を除いた17名について前年同時期の血糖変動と比較したところ、HbA1cの年間平均が前年より改善した者12名(-0.25%±0.22)、不変または悪化は5名(+0.09%±0.08)であった。期間中、本人が笑ったと目覚した日数は月平均10日〜20日だったが、13日以下になるとHbA1cが上昇する傾向が認められた。POMS短縮版による心理状態の変化では「緊張・不安」が改善した。糖尿病教室に参加した被験者の日誌からは日々の療養生活を改善しようとする前向きな書き込みが多く見られるようになった。血糖コントロールは日常生活のさまざまな要因により変化するため、笑いとの因果関係を客観的指標により明確にするには至らなかったが、「笑い」を指導内容に加えた糖尿病教育プログラムは血糖値の改善に効果があることが示唆された。
著者
望月 美也子 長谷川 昇
出版者
岐阜女子大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本邦において、女性の平均寿命が83歳を越え、閉経後女性人口が急増しているため、閉経後女性のquahty of life(QOL)の改善と更年期の諸症状を緩和させるかどうかを本研究の目的とした。平成16年度は、雌Zuckerラットの卵巣を摘出し、高脂肪食を摂取させることにより、更年期モデルラットの作成を試み、卵巣を摘出したラットの血清エストロゲン量の低下を経時的に確認して、更年期モデルラット作成法を確立した。平成17年度は、確立した更年期モデルラットを使用し、脂肪蓄積を促進させる緑茶カテキンを投与することで、更年期モデルラットの脂肪組織重量が増加するかどうかを確かめた結果、コントロール群と緑茶カテキン投与群の間に、摂食量、飲水量の有意な差がみられなかった。また、体重増加量をコントロール群と比較しても、ほぼ同様の傾向を示したが、コントロール群と緑茶カテキン投与群の子宮周囲脂肪組織重量に有意な差がみられたことから、緑茶カテキンの投与が、子宮周囲の脂肪組織重量に影響を及ぼす可能性が明らかとなった。そこで、平成18年度は、卵巣を摘出し更年期となったSD更年期モデルラットを、緑茶カテキン投与群、緑茶カテキン投与+運動群、非投与+運動群の3群に分け、運動負荷を与えた際の、骨代謝への効果を明らかにすることを目的とした。ランニングトレーニングは、実験動物用トレッドミルを用いて持久走的運動を行わせ、更年期を考慮し、傾斜6度、30m/m,1h/d,5d/wから速度と時間を徐々に増加させ行い、血清エストロゲン量をELISA法により経時的に測定し、大腿骨を破断して骨強度を測定した。以上の結果を総合すると、緑茶カテキンの投与と運動負荷が骨形成に有効であることが示唆され(論文執筆中)、本研究の結果を若手研究(B)に発展させ、更年期モデルニットを用いたトレーニング効果を詳細に明らかにしていく予定である。
著者
竹村 彰通 駒木 文保 清 智也
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

Vladimir VovkとGlenn Shafer によるゲーム論的確率論は以下の著書でその基礎が与えられた.Glenn Shafer and Vladimir Vovk. Probability and Finance:It's Only a Game! Wiley, New York, 2001そこでは,Skepticとよばれる賭をする人と,Realityとよばれる賭の結果を定める人の,二人のプレーヤーの間のゲームを設定することにより,ゲームの結果として確率が定まることが示されている.注目すべきは,測度論無しに,大数の強法則,中心極限定理,重複対数の法則,さらに数理ファイナンスにおける価格付けの諸公式,などが証明される点にある.竹村は,竹内啓,公文雅之との共同研究を通じて,ゲーム論的確率論に関する新たな結果を得ている.これらはtechnical reportとして発表されていたが,研究発表に示すように国際雑誌に刊行の段階となっている.また竹村はShafer氏およびVovk氏とも共同研究を進めており,以下の研究成果を得た."The game-theoretic martingales behind the zero-one laws", by Akimichi Takemura, Vladimir Vovk and Glenn Shafer. Techinical Report METR 08-18, March 2008.この研究では,測度論の諸仮定をおくことなく,コルモゴロフの0-1法則などの0-1法則の一般的な形をゲーム論的枠組で示している.
著者
畑中 研一
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

動物細胞を糖鎖生産工場と見立てて糖脂質の類似体を合成するバイオコンビナトリアル合成法を用いた糖脂質GM3(NeuAca2-3Galβ1-4Glcβ1-Cer)類似体の生産における最適条件を詳細に検討した。アルキル鎖の根元にアジド基を導入した糖鎖プライマーは他のプライマーと比べて約2倍糖鎖伸長を受けやすいことが明らかとなったが、プライマーの界面活性能を測定することによりこの理由も明らかにした。また、播種細胞数依存性、プライマー濃度依存性、培養時間依存性についても明確な依存性を確認し、最適条件を決定した。さらに、検討した最適条件を用いてのGM3類似体の大量合成と、生成物の分離精製方法も検討した。次に、GM3とepidermal growth factor receptor(EGFR)の相互作用や細胞における外因性/内在性GM3について検証した。GM3とEGFRの相互作用の機序を、共焦点レーザー顕微鏡による画像解析など様々な手法により明らかにした。さらに、GM3の代謝中間体であるlyso-GM3のオリゴマー化、合成された化合物のキナーゼ活性への阻害効果や細胞毒性を評価した。EGFRを高発現しているA431細胞に各化合物を様々な濃度で添加したところ、lyso-GM3 dimerに高いチロシンキナーゼ活性阻害能が見出された。大量合成の可能性が示されたGM3類似体(lyso-GM3 mimetic)を応用して同様な機能性糖鎖含有分子の合成を行い、それらがEGFRの関係する生理現象に及ぼす作用を検証した。A431細胞にこれらの各々の化合物を投与し、糖鎖伸長したプライマーを応用した新規化合物であるmimetic dimerに天然型であるlyso-GM3 dimerと同様のEGFRのチロシンリン酸化阻害能があることを示した。さらに、EGFRシグナリングの下流にあたるAktや細胞増殖も抑制することを明らかにした。EGFRとGM3の直接的相互作用を、SPR法を用いて詳細に解析した。結合定数やkinetics parameterの解析により、EGFRと糖脂質の相互作用が特異的であることを発見した。
著者
石川 源 竹下 俊行 瀧澤 俊広 磯崎 太一
出版者
日本医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

近年、胎児型Fc受容体が、IgGだけでなくアルブミンとも結合し、生体において、その異化から保護する作用があることが示唆されている。ヒト胎盤絨毛の栄養膜には胎児型Fc受容体が発現しており、母体血を介してアルブミンならびにIgGを担体として、選択的に胎盤への物質輸送が可能である。この研究にて、胎児型Fc受容体によるトランスサイトーシス機能を介した新規胎盤治療法開発を展開するために、先ずヒト初期胎盤を用いて胎児型Fc受容体のアルブミン保護作用を検討した.IgGとアルブミンの初期胎盤絨毛組織における詳細な局在解析を進めるために、光顕レベルで電子顕微鏡の解像力に迫る、独自に開発した超高分解能蛍光顕微鏡法でさらに解析した。母体血に接する栄養膜合胞体内には、IgGの局在を示す、たくさんの大小顆粒状の蛍光を認めた。栄養膜細胞内にはIgGは観察されなかった。しかし、隣接する栄養膜細胞間にIgGの存在を示す蛍光が観察された。栄養膜を越えて絨毛内間質にもIgGが検出された。初期胎盤絨毛組織において、栄養膜細胞層は、母児間IgG輸送の物理的バリアとはなっておらず、栄養膜合胞体においてトランスサイトーシスされたIgGは、栄養膜細胞間腔を通過し、絨毛間質へ既に到達することが明らかとなった。GFP融合胎児型Fc受容体ベクターを作製、絨毛癌細胞株(BeWo等)へ導入し、バイオイメージング解析を行った。解析を効率よく進めるためのGFP発現安定株の作製、霊長目を用いたin vivo実験は課題として残された。今回の研究から、従来の定説とは異なる。初期絨毛での胎盤関門に関する新知見を得ることができた(投稿準備中)。さらに、IgGのみならずアルブミンをキャリアーとして、初期胎盤絨毛組織内へ効率よく治療薬分子を投与することが可能であることを強く示唆する結果を得た。
著者
小林 達彦 合田 昌彦 東端 啓貴 橋本 義輝
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

昨年度までに、(D-アミノ酸ラセマーゼ,D-アミノ酸トランスアミナーゼ,D-アミノ酸オキシダーゼを含む)既知のD-アミノ酸代謝酵素遺伝子とは全く相同性を示さない、新規な酵素がD-アミノ酸代謝に関わっていること明らかにした。大腸菌ゲノムデータベース上でo341#16と登録されている遺伝子が本資化能に関与しているが、予想される開始コドンより32アミノ酸下流のメチオニンがN末端アミノ酸であると同定した。そこで、本メチオニンに対応するコドンを基に新たにデザインした合成オリゴヌクレオチド(と、終止コドン下流の塩基配列を基にデザインした合成オリゴヌクレオチド)を用いてPCR法によって増幅した遺伝子の大腸菌JM109での発現をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で検討した結果、全可溶住タンパク質の40%もの著量発現が認められた。本発現産物を用いて、D-シスチン分解酵素活性を測定した結果、顕著な活性を示すことが明らかとなった。また、分解産物として、ピルビン酸、アンモニア、硫化水素を同定することに成功し、本発現産物はD-シスチンデスルフヒドラーゼであることが判明した。続いて、本酵素をDEAE-Sephacel、Mono-Qカラムクロマトグラフィーに供することによって、電気泳動的に単一に単離精製することに成功した。本酵素の分子量は72,000であり、分子量35,000のサブユニット2個から構成されることが明らかとなった。本酵素のD-シスチンに対するKm値は1.07mMであり、Vmaxは9.32μmol/min/mgであることが判明した。また、本酵素はD-システインにも作用し、そのKm値は0.87mMであり、Vmaxは4.51μmol/min/mgであった。さらに、本酵素は逆反応をも行うことが判明した。