著者
横山 敦郎 安田 元昭
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究においては,歯根膜幹細胞の種々の細胞への分化に関する成長因子の同定および分化した細胞の遺伝子発現様式の差異を明らかにすることを目的に,以下の研究を行った.WKAウィスター系5週齢雄性ラットから,下顎切歯を抜去し,15%FBSおよび抗生剤を含むα-MEM中に静置し,2週後まで初代培養し,アウトグロースした細胞を歯根膜細胞として回収した.回収した細胞を,デキサメサゾン(Dex),アスコルビン酸(Asc),βグリセロフォスフェイト(βGP)を含む培地とこれらを含まないコントロールの培地の2種の培地で2週間培養し,骨関連タンパクであるオステオカルシンと歯根膜特有のタンパクであるXII型コラーゲンについてRT-PCRを行いmRNAの発現を検索した.XII型コラーゲンの発現は,コントロールとDexを含む培地の両者に同様に認められたが,オステオカルシンはDexを含む培地で著しく強く発現していた.この結果から,Dexで骨芽細胞に誘導される幹細胞が,採取された歯根膜細胞には含まれることが明らかとなった.この結果をもとに,Dexを含む培地,b-FGFを含む培地およびこれらを含まないコントロール培地の3種の培地で歯根膜細胞を3日培養した後,RNAを回収し,DNAマイクロチップで網羅的にmRNAの発現を解析した.その結果,mRNAの発現は,b-FGFを含む培地とコントロールの培地では,ほとんど差異が認められなかったが,Dexを含む培地とでは差異が認められた.この結果から,b-FGFは歯根膜幹細胞を分化させることなく増殖させ,またDexは,歯根膜幹細胞を骨芽細胞へ分化させることが示唆された.
著者
吉成 啓子 齋藤 兆古 岩崎 晴美 友末 亮三 松前 祐司 堀井 清之
出版者
白百合女子大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

スポーツ動作の解析は,高速度カメラ,筋電図,加速度計などを用いて行われてきた.しかし,その手法は比較研究が中心であり,「熟練者の動作」=「巧みな動作」という主観的・経験的議論にとどまることが多い.そこで本研究では,スポーツ動作としてテニスのサーブを選択し,画像の固有パターン認識手法を用いて,「巧みな動作」を科学的・客観的に判断することを試みた.その結果,テニスのサーブ・フォームにおける上級者と初級者の本質的相違が,画像の固有パターン認識手法によって抽出可能である,ということが明らかになった.方法,結果,考察の要点をまとめると次のようになる.「方法」スポーツ動作の中の不変量を,画像の固有パターン認識手法を用いて定量化することを検討した.被検者は,上級者として男子テニス選手1名,初級者としてテニス歴半年未満の男子1名の合計2名とした.各被検者は,縦状に緑,赤,青の3色に色分けされたウェアを着装し,最大努力のフラット・サーブを行った.サーブ動作を測方に設置したデジタルビデオカメラを用いて毎秒30コマで撮影した.「結果と考察」テニスのサーブにおいては,フォワード・スウィングの際の脊柱を中心とした身体の回旋速度を大きくするために,テイクバック時に上体をいったん後方に捻り,"タメ"を作ることが重要であるとされている.上級者初級者とも,赤・青・緑の色の部分のみを取り出した画像を解析した結果,3次元空間画素分布表示の場合は色の少ない部分はグラフ上に表示されず,こうした動きの本質的な相違のみを表示できるということが分かった.このことは,画像の固有パターン認識手法が,従来主観により論じられてきた「巧みな動作」を客観的に検討する手法として有効である,ということを示している.
著者
中谷 武嗣 山岡 哲二 藤里 俊哉
出版者
国立循環器病センター(研究所)
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

体重約10kgのクラウン系ミニブタから下行大動脈(内径5mm、長さ10cm)を清潔下で摘出し、冷間等方圧印加装置にて超高圧を印加(980MPa、10min)することによって細胞を破壊した後、DNase及びRNaseを含む生理食塩水にて洗浄した。続けて、エラスチンの除去は、凍結乾燥して真空熱架橋後、エラスターゼ溶液内に浸漬することで消化した。この際、エラスターゼ処理時間を変化させることで、残存エラスチン量を調節しその効果を検討した。また、リン脂質の除去は、二酸化炭素を用いた超臨界流体処理によって行った。二酸化炭素に若干量のアルコールをエントレーナとして添加することによって、リン脂質を効果的に抽出することができた。得られた脱細胞化血管にブタ血管内皮細胞および平滑筋細胞を播種し、独自に開発した回転培養装置を、平滑筋細胞は組織内への細胞播種システムを基本とした。回転培養装置では表面のみでの細胞増殖が認められたため、内皮細胞へと応用した。組織はイブヘの細胞播種は、3D細胞インジェクターを利用して可能となったが、その後のリアクター培養による効率よい増殖効率までは至らなかった。作成した脱細胞化血管を1cm^2程度に分割し、ラット背部皮下に埋め込むことにより、脱細胞血管の最大の問題である石灰化の検討を行った。1〜3ヶ月経過後に摘出して、X線CT、および、元素分析による石灰化量を行った。その結果、脱エラスチン処理、および、冷間等方圧印加処理後の洗浄液からカルシウムイオンあるいはリン酸イオンを除去することで、石灰化を効率よく抑制できる可能性が見いだされ、ブタ移植実験により検証を進めている。
著者
大沼 保昭
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

平成20年度は、平成19年度の活動内容を踏まえ、過去3年間の共同研究によって得られた共通の理解を前提としつつ、個別報告及び討論を中心に活動を行った。各個別報告の報告者及びテーマは以下のとおりである。(1)垣内恵美子氏(政策研究大学院大学)「文化遺産の便益評価-誰がどのように保護するべきか-」(4月7日)(2)一寸木英多良氏(国際交流基金企画評価部)「国際文化交流事業に関する評価手法研究の現状と展望について-韓国及びドイツにおける定量・定性的評価調査の事例をもとに-」(5月26日)(3)中川勉氏(外務省広報文化交流部文化交流課長)「外務省・文化外交の現状と課題」(6月27日)(4)篠原初枝氏(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)「文化遺産レジームの史的変遷-何から何を保護するのか-」(9月1日)(5)立松美也子氏(山形大学人文学部法経政策学科)「紛争下における文化財保護の国際法」(11月28日)(6)中村美帆氏(東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究専攻博士課程)「文献購読(Lyndel V. Prott and Patrick J. O'Keefe, "` Cultural Heritage' or ` Cultural Propery' ? ")」(12月16日)。(7)稲木徹氏(中央大学大学院法学研究科公法専攻博士課程)「『国際文化法』を構想する諸説について」(2月24日)。以上のような専門の研究者・実務家による個別法告および討論によって、現行文化遺産保護体制の具体的諸問題がさらに明確化するとともに、現行制度の諸問題に対して具体的な制度設計の指針や政策面での提言を与える基礎となる学際的な理論的研究の現状について共通の理解をさらに深めることができた。以上の研究成果は、今後予定される公表作業にとって極めて重要な意義を有するであろうと思われる。
著者
山根 智恵 難波 愛
出版者
山陽学園大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1.日本人高校生(142名)、韓国人高校生(60名)、豪州人高校生(54名)へのアンケート調査の結果、異文化理解を主な目的として日本語を学習した韓国人・豪州人は、日本人より日本・日本文化に対して多様な見方をしており、異文化適応度も高いという結果が得られた。この異文化適応度に関しては、Kelley and Meyersが中心となって作成した、Cross-Cultural Adaptability Inventoryの全50項目[下位尺度は(1)情緒の安定、(2)柔軟性・開放性、(3)認知の鋭敏さ、(4)自立性]を使用し、得られた数値で分散分析を行った。多重比較の結果、適応度は、豪州人>韓国人>日本人の順で得点が高かった。ここから、異文化理解を目的とする外国語教育はLo Biancoらが提唱する「第三の場所」の構築に確実につながっていることが確認できた。2.日本人高校生、韓国人高校生各4人のOPI(ロールプレイ部分)を分析した結果、日本人の非言語行動の特徴として、発話中の首振り(話し手の場合)と相槌の首振り(聞き手の場合)が観察された。ここから日本人が会話を円滑に進めていく際に、首の縦振りが重要な役割を担っていることが明らかとなった。また、韓国人の特徴として、目上の人との会話に、腕組み、肘付き、頬杖が観察された。これらは日本人には見られない手の動きであり、長幼の序を守る両国でも表し方が異なることが窺えた。3.18年度の調査結果は現在分析中であるが、17年度までの項目・手法と異なる点は、次の通りである。この結果と未発表のデータについては、今後順次発表する。(1)「目本らしさ」「日本文化らしさ」「学習希望項目」の選択理由を記述させた。(2)「日本文化らしさ」の選択要因(例:日本人との接触、情報機器)を選択肢より選択させた。(3)日本語能力の変化を分析するため、30人に春と冬の2回、インタビューを行った。
著者
二木 昭人 吉田 朋好 本多 宣博 増田 一男 村山 光孝
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

今年度は,ケーラー・アインシュタイン計量の存在およびケーラー・リッチソリトンの存在問題において,モンジュ・アンペール方程式の近似解が収束しない場合に現れる乗数イデアル層についての成果を得た.これらの乗数イデアル層と二木不変量との関係を調べることは代数多様体の幾何学的不変式論の意味の安定性,特にスロープ安定性と呼ばれる性質とケーラー・アインシュタイン計量の存在との同値性に関する予想を証明する上で有用である.まず,ケーラー・アインシュタイン計量の存在問題から現れる乗数イデアル層については次の結果が得られた.XをトーリックFano多様体とし,Xはケーラー・アインシュタイン計量を持たないとする.GをXの自己同型群の極大コンパクト部分群,G^Cをその複素化とする.VをG-不変計量を初期計量とするG^C-不変乗数イデアル層の定める部分概型のサポートとする.もし,ある正則ベクトル場に対し二木不変量が正とすると,そのベクトル場が定める半空間とモーメントポリトープの共通部分にVのモーメント像が入ることはない.この結果を用いると2次元射影平面の1点blow-upの乗数イデアル層のサポートが決定できる.ケーラー・リッチソリトンの存在問題は二木不変量の代わりにTian-Zhuの不変量を用いると任意の正則ベクトル場について同様の主張が成立することがわかる.これを用いると2次元射影平面の1点blow-upにケーラー・リッチソリトンが存在することの別証明が得られる.
著者
米谷 淳 棚橋 美代子 大野 雅樹 猪崎 弥生 西 洋子
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

平成19年度も昨年度に続き国内外の調査研究と実践的研究の2本柱で、子どもの情緒と社会性の発達支援に関する予備的研究を進めた。小児病棟における子どもの発達支援に取り組む保育士や英国チャイルドプレイスペシャリストやチャイルドライフスペシャリストについて、その現状と教育システムについて、兵庫県立こども病院、浜松大学付属病院、英国キングフォード病院の担当者にインタビューをした。また、日本初のチャイルドプレイスペシャリスト養成コースを立ち上げた静岡県立大学短期大学部のコース責任者や、英国マンチェスター市ボルトンコミュニティカレッジの養成コース責任者と会い、プログラムの詳細と今後の展開について意見交換した。これらの作業を通して、日本の病院に適した保育専門職の養成のためには、さまざまな資格や背景をもって日本の病院の小児病棟に務めている保育者が互いに交流しながら、研究者とともに教育プログラムの研究開発を進め、独自なものをつくりあげていくべきことが示唆された。保育者養成プログラムに関する実践的研究としては、京都女子大学発達教育学部の「保育技能実習」における専門家による人形劇指導と、棚橋ゼミ生を中心とした人形劇団「たんぽぽ」の巡回公演等を観察し、指導者と学生へのインタビューを行った。また、子どもの情緒と社会性の発達支援としての人形劇の意義と可能性を検証するために、専門家(人形劇人)が幼稚園・保育園で公演した人形劇を鑑賞している園児をビデオ撮影して分析した。こうした作業の結果、専門性の高い保育者としての資質を高める上で人形劇の実習と実践が非常に有効であるだけでなく、保育に人形劇を活用することは子どもとのコミュニケーションや子どもの情緒や社会性の発達を促進する上でも有効であることが確かめられた。また、子育てサークルづくりの観察を通して子育て支援の方法、とくに、ファシリテーターの役割を検討した。
著者
中園 明信
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

15年度年度も昨年度に引き続き、北部九州における磯魚幼稚魚の出現をモニタリングした。15年度も夏から秋にかけて従来見ることの出来なかった多くの暖海性稚魚の出現が見られた。主なものを上げるとコスジイシモチ、ホンソメワケベラ、ナガサキスズメダイ、ニザダイ等である。14年度との大きな違いは14年度に多数出現したイトフエフキが極端に少なかったことである。それに反して、ホンソメワケベラやナガサキスズメダイの数は比較的多かった。イトフエフキは14年度同様の出現を期待していたが、期待に反して少なかったのは14年から15年にかけての冬季が例年になく水温が低かったために産卵親魚群が死滅または分布域が後退したのが原因ではないかと推察された。すなわち、14年から15年にかけての冬季には、例年12℃までしか下がらない沿岸の水温が寒波の襲来で約1週間9℃まで低下した。しかし、寒海性の稚魚の出現は見られなかった。15年度の観察では、水温13℃まで下がった12月中旬まではソラスズメダイはじめ多くの磯魚幼魚が生息していたが、その御数回寒波が来ており、荒天のため観察が出来ていない。しかし、データ・ロガーで水温を記録中であり、本報告書を提出後であっても、調査を行う予定である。また、沖合い60Kmにあり対馬暖流の影響下にある沖ノ島においては、14年の寒波襲来時も水温は13℃以上で、多くの暖海性魚類が生息しており、それらが越冬していることを確認している。以上の3年に亘る観察研究の結果から考えて、水温13℃が暖海性魚類幼稚後が越冬できるかどうかの限界水温になっていると考えられるので、長期的気候変動と磯魚の分布変動との関係を調べるには、水温13℃に注目する必要があるであろう。
著者
森川 友義
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

政治脳の進化過程を「囚人のジレンマ」において研究する第一段階(平成15年度)から、「ゼロサムゲーム」や「Hawk-Doveゲーム」を含めた複数のゲームに拡大する作業を行った(平成16年度)。一年目の成果は米国政治学会誌においてリード論文として掲載されたことで結実し、世界の政治学者から高い評価を受けることになった。この論文では、「政治脳」と「人間の協力性」との関係を明確にした。2人の人間関係において嘘をつく能力、見抜く洞察力、及び他者に対してある程度懐疑的になることの3つが人間の協力性を最も高める要因である、という一見してパラドクシカルな仮説を提出して、コンピュータ・シミュレーションによって検証を行った。更に経済学等でしばしば用いられる「合理性」という言葉について政治進化論の立場から新たな定義づけも行い、「合理性」とは社会科学で使われるものの他に、その時代環境に適合できるかどうかの「合理性」(そしてそれは必ずしも利己的ではない)も長い時間のスパンでは重要であり、伝統的な「合理性」の定義は普遍的なものでないことを主張した。第二段階では前年度のパラダイムを更に前進させたが、特に中心となったのは個人と個人の利害関係が直接的に対立するような非協力ゲームにおいて、得られる利得が小さかった場合、争いに参加するかどうかの意思決定について分析を行った。「意思決定の重層」(Orders of Intentionality)という全く新しい分野がそれであるが、相手の出方及び自分の出方を幾重にも推理しながら、最大の利得を獲得させようとする戦略であり、食料や異性の獲得といった人間の存在に根源的に関わるような場面で、リスク高く利得が必ずしも高くない場合に、人間は政治脳を最も駆使することが分かった。
著者
黒田 英一
出版者
宇都宮大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究では、集団就職世代の工場経営者・商店主を対象に聞き取り調査を行った。聞き取り調査結果をまとめると、次のようになる。1 集団就職により大都会に出てきた中卒者のうちわずかしか工場経営者・商店主になることができなかった。それ以外の者は、大都会で転職を重ねて雇われ職人や単純労働者になり、あるいは帰郷卸した者、消息不明などである。2 努力してそれなりに工場経営者・商店主になれたのは、勤務した先の経営者に恵まれたことである。良き「社長」「おやじ」に恵まれて、そこで技能を徹底的に修得させられただけでなく、仕事以外の面でも厳しく躾けられた。3 集団就職世代が厳しい就業環境のなかで習得した技能は、職種や産業によって違いがみられた。小売業のように2,3年で習得できる接客・サービスの技能もあれば、10年近くたってようやく身につく大工や旋盤の技能もあった。4 就職先は住み込みであり、経営者と同じ屋根の下で暮らしたことから、集団就職世代にとって、就職先はもうひとつの家庭となった。生まれ故郷に次ぐ「第2の家庭」であった。5 「一国一城の主」になることができなかったものの、集団就職は中学卒業者にとっては大都会に入ることができる最初の一歩であり、その後の人生の入り口ともなった。こうした研究成果をふまえると、集団就職はよきにつけ悪しきにつけその後の人生のひとつの契機となっており、たまたま艮き経営者に恵まれた者だけが、工場経営者・商店主となって「サクセス・ストーリー」を演じることができたといえる。厳しい競争であっても、大都会は技能を磨けば社会階層を移動できる機会を若年労働者に与えていた公正な社会であった。
著者
得津 愼子
出版者
関西福祉科学大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

1.平成14年度の作成した家族レジリエンス尺度(Family Resilience Inventory,FRI)の調査・分析を下に、平成15年度家族心理学学会第21会大会において「家族レジリエンスの家族支援の臨床的応用に向けて」の口頭発表を行った。これについては「家族支援に有用であると思われる家族レジリエンス概念を用いた家族機能尺度の作成」という原稿にまとめた(掲載は未定)。2.平成14年度に行った「家族の危機と回復」についての聞き取り調査の分析を進め、「家族レジリエンス尺度作成に向けて」『関西福祉科学大学紀要』Vo17(2004,3月刊行予定)に発表した。3.平成15年12月に、中途障害者とその家埠から聞き取り調査を行い、家族の持つ家族レジリエンスが働くため、医療ソーシャルワーカ」や支援システムの充実が不可欠であることが考察された。4.FRIは臨床に使用されることを目的としている。今日、家族療法においても、社会福祉方法論においてもナラティヴアプローチがもはやメインストリームとなっている感もある。自記式調査であれ、聞きとり調査であれ、家族員が家族の危機的状況を新たに思い起こし、「語る」ことは極めて臨床的な行為である。ゆえに、家族レジリエンス尺度の自己活用の可能性が示唆された。5.調査の対象者が「家族」を語るときの家族は、対象者の時系列的に異なる複数の「家族」であったり、その故に、同じ家族からの同時の聞き取り調査であっても、その対象とする「家族」は異なっている場合がある。また、絶えず変化生成する家族システムの特徴からも、家族の「今、ここ」での資源としての有用性に焦点化することに意義があるのではないかと考察された。6.本家族レジリエンス概念は、従来のコーピング概念や家族ホメオスタシス概念と混同されやすいが、家族は個人と同様に家族内の相互作用のみならず、外部システムとの相互作用も含めて動き、家族レジリエンスは外部システムからの刺激によっても促進されるものである。ゆえに、単に家族解体を避けるためというよりも、一層機能的なシステムとなるためには、家族レジリエンスが働くための外部システムやその相互作用に注目すべきである。家族レジリエンス概念を盛り込んだ新たな支援システム作りについて一層調査、研究を深めたい。
著者
神田 圭一 大場 謙吉 田地川 勉 高見沢 計一 渡辺 太治
出版者
京都府立医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

人工物を体内に埋入した際に、生体防衛機構の働きによって周囲に繊維芽細胞とそれが産出するコラーゲン線維によって構成されるカプセル状組織体を血管内治療に応用するための基礎的技術開発を行った。(1)基材・形状設計:鋳型基材の材質の違いが与える組織形成への影響を調べた。また、鋳型形状の設計により、目的とする形状が任意のサイズで構築できる事を確認した。(2)カプセル状組織体をカバードステントとして形成する技術の開発:金属製のステントを拡張した状態でシリコンチューブの周囲にマウントしてこれをウサギ皮下に埋入した。1ヶ月後にステントの間隙は自家結合組織で覆われ、カバードステントが形成された。(3)動物移植実験:ウサギの大腿動脈を切開し、病変の無い腹部大動脈に径3mmのカバードステント自家留置を行った。留置は問題なく行うことが出来、留置後の血管造影でも開存が確認出来た。更にカバードステントの内腔は完全に血管内皮細胞で覆われていた。(4)疾患モデルの開発:疾患モデルの開発に着手した。まずは、Bio-Covered Stentの為の動脈瘤・動脈損傷モデルと、大動脈瘤モデルの開発に着手した。ウサギ頸動脈に頸静脈をからなるパッチを用いて嚢状瘤を人工的に形成した。この部分にカバードステントを留置することにより瘤を血栓化させ縮小させることが出来た。また、血管を露出後故意に損傷させ出血部にカバードステントを留置して止血させることが出来た。小口症血管に対する新しい血管内治療の選択肢となり得ると示唆された。
著者
菊池 三穂子 平山 謙二 NGUYEN Huy Tien
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

住血吸虫症の家畜向けワクチン等の開発により、住血吸虫感染のコントロールに寄与することを目的として本研究を推進した。放射線照射セルカリア感染によるワクチン効果が確かめられたミニブタの血清中の特異抗体に反応する住血吸虫抗原分画を同定し、新規ワクチン候補分子を虫卵及び虫体の可溶性抗原分画を二次元液体クロマトグラフィーシステム(2D-PF, BECKMAN Courter社)で分画し、抗体の反応性が認められる分画蛋白から、感染防御に関わるワクチン候補分子として4分画の配列を決定し、相同性検索の結果と分子量、アミノ酸配列から想定される蛋白の等電点(pI)の情報を元に4候補分子を決定した。これらの候補分子の虫卵、幼虫、成虫の各ステージにおける発現を確認し、虫卵ステージ以外でも発現が確認できたAAW27472.1、AXX25883.1、AWW27690.1について組み換え蛋白を作成し、放射線照射セルカリア感染ミニブタ血清が反応し、通常感染ミニブタ血清では反応が認められないことを確認した。この新たなワクチン候補蛋白のうち、AWW27472.1は23%程度の日本住血吸虫のカテプシンB・エンドベプチターゼ、26%のマンソン住血吸虫のカテプシンBとの相同性が認められた。AXX25883.1はsimilar to syntaxinと83%、Glutathion S-transeferase (GST)と23%の相同性を、AWW27690.1はDehydrogenase subunit1と46%の相同性を示すことが確認された。これらの候補分子の組み換え蛋白質で、マウスを免疫し抗血清を作成し培養ソーミュラ幼虫での発現部位について解析を行ったところ、AWW27472.1、AXX25883.1はソーミュラ表面に発現していることが推察された。これらの候補分子のワクチン効果を判定するための予備実験として、候補分子をpcDNA/V5/GW/D-TOPO(Invitologen)に挿入しDNAワクチンを作成し、Balb/Cマウス(1群13匹)に3回免疫後、血中抗体価を確認し日本住血吸虫セルカリアを40隻感染させた。感染後6週目に灌流し、成虫虫体を回収しワクチン効果を判定した。陰性対象群(Empty plasmid DNA)と比較した結果、AAW27690.1とAAW27472.1には、感染防御効果が認められなかったが、AXX25883.1は27%程度の回収虫体数の減少が認められた。今後、候補ワクチンの局在、効果に関わる免疫応答の本態等についてさらに詳細な検討を進めて研究を継続する。
著者
藤田 昌宏
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、従来からハードウェアの設計支援や設計検証に用いられてきた手法によって、近年注日を集めているシステムバイオロジーにおけるシミュレーションや解析を効率的に行い、実験室で行う実験では観測が困難な現象の観測や生化学反応における内部状態の推定を実現することを目的としている。今年度は、まず、昨年度の一般的な調査の続きとして、ハードウェア実装による生化学システムのシミュレーションの高速実行に着目し、特に詳細な調査を行った。その結果として、既存研究lこよりNext Reaction Method(NRM)までの手法は高速なハードウェア実装が既に提案されており、それらにおいては浮動小数点演算処理の最適化が重要であることが分かった。次に、上記の調査結果を踏まえて、NRMよりも高速なシミュレーション手法であるTau Leaping(TL)に着目し、その高速なハードウェア実装について検討した。反応を一つずつ逐次処理しているNRMに対して、TLでは複数の反応が一つの時間区間で起こり得ることを前提としてそれらをまとめて処理している点に特徴がある。したがって、複数の反応を並列に処理することが可能であり、よりハードウェア実装に適していると考えられる。さらに、一つの反応あたりの除算処理数もNRMより少ない点も、ハードウェア実装に有利である。ただし、TLにはNRMには無い微分処理が含まれているが、差分式に近似して処理を行うことにより高速に実行可能である。比較実験として、実際のソフトウェアの生化学シミュレータであるStockSimによるシミュレーションと、FPGAであるVertex5によるハードウェア実行との比較を考えており、現在までにその環境構築が完了している。今後は、実際にシミュレーション速度を比較することにより、提案するハードウェア実装による高速化できていることを確認する予定である。
著者
櫻井 龍彦
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

今年度は5月6日〜13日に春季廟会、9月3,4日に秋季廟会の調査をした。(1)廟前にある歴代の石碑を調査し、撮影した碑文を解読し、データベース化した。→康煕・乾隆時代から残存するものを含め、現在45基の碑を確認した。碑の写真と碑文の内容、現在復活した香会との関係等についての詳細データは、2006年3月に出版した中国語による報告書(総490ページ)にまとめた。(2)日本で未見の資料を収集した。→関係者の協力をえて、民国時代の貴重な資料はもとより、雑誌、新聞記事などに掲載された断簡零墨に近い資料も網羅的に収集し、A4コピーで3,600ページの分量になった。(3)香会および香客(参拝者)の現地調査。→2年間で、これまでに復活した香会を完全に把握することはまず不可能であるが、少なくとも約80の存在は確認した。そのうち重要な香会については、個別に密着調査をはじめた。また廟会の当日だけではなく、その準備段階における香会の行程についても参与観察した。密着型の追跡調査と準備段階の調査は従来だれも行っていない。香客については、初年度にアンケート調査をし、275人から回答をえた。また個別の聞き取り調査もおこなった。その結果は報告書に入れてある。(4)秋季廟会の調査。→従来、全く報告のなかった秋の廟会について、ほぼ実態を知ることができた。これは妙峰山廟会研究史の空白を埋めるものである。参加した香会などのデータは報告書に記載してある。(5)碑文の分析から香会の成立背景及び現在の組織のあり方を探った。→報告書に中国側協力者を含めた調査報告、論文などを21本収めた。研究成果としては、上記の中国語による報告書とは別に、論文として「妙峰山における「香会」の復活と現代的意義」加地伸行先生古稀記念事業会編『中国思想の十字路』所収(研文出版、2006)を発表した。
著者
鈴木 啓助
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

中部山岳地域の八方尾根、西穂高岳、乗鞍岳、木曽駒ヶ岳、御岳、八ヶ岳において積雪全層採取を行い、全層の詳細化学分析を実施中である。なお、乗鞍岳においては、同地点で複数回の採取を行い時間変化を検討する。さらに、特異な濃度変化を示す木曽駒ヶ岳については、尾根から山麓までの多点でのサンプリングを実施した。各採取地点において積雪全層の断面観測を行い、層構造が攪乱されていないことを確認し、積雪全層を3cm間隔で採取した。採取した雪試料は清浄なビニール袋に入れて実験室に持ち帰り、実験室で融解した後ろ過し、pHおよび電導度を測定した。また、イオンクロマトグラフ(DIONEX : DX-500)により主要イオン濃度を測定した。湿性沈着および乾性沈着によって大気から積雪中にもたらされた化学物質は、積雪表面からの融雪水の移動がなければ堆積した時の層に保存される。そのために、積雪全層から雪試料を採取することにより、初冬の積雪開始時から採取時までの積雪層の化学特性が時系列的に解析可能となる。現在までのところ、次のことが明らかになった。1.海塩起源物質であるNa^+やCl^-の濃度は、八方尾根、西穂高岳などの北アルプス北部では高濃度であるが、木曽駒ヶ岳や八ヶ岳などでは比較的低い濃度を示す。2.黄砂が観測された際には積雪中のCa^<2+>やSO_4^<2->の濃度が大きくなる。3.人為起源物質であるNO_3^-やnssSO_4^<2->の濃度は比較的どの地点においても高濃度の場合があり、特に、太平洋に近い地点での降雪では比較的高濃度になる。
著者
泉水 英計
出版者
神奈川大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

「民族」という語は日本近代史の最も重要な用語である。「人種」「国民」「人民」などが混在した維新期を経て、欧化政策に対抗した明治20年代の国粋主義のなかで普及し、穂積憲法学により皇室を宗家とする血族団体という意味に変容したといわれている。しかし、このような形成過程の説明は十分な根拠に基づいたものではなかった。「民族」およびその類語概念が用いられた明治初期の文献と、それが書かれる際に参照された西欧語文献を、書誌的に厳密に比較をした結果、「民族」の確実な初出は、明治9年の加藤弘之『国法汎論』であることが明らかとなった。原著はプルンチェリ『Allgemeines Staatsrecht』であり、法人としての「Volk」に対する文化集団としての「Nation」の下位分類を「Stamm」とした。加藤の訳語はそれぞれ「国民」「民種」「民族」であり、「Volk」については文脈により様々な意訳があるが、「民種」と「民族」については安定している。このような「民種」と「民族」の用法は明治20年代の三宅雪嶺の文章にもみえ、これまでは国粋主義の打ち出した「民族」概念の不安定さと理解されていた「民種」の混用を一貫性のあるものとして説明できる。一方で、同時代に彼らと対抗関係にあった官製の「独逸学」は敢えて加藤の用法を捨て、「Nation」を「族民」と訳している現在まで続く「民族」の用法を確立した穂積八束はこの系統に連なることから、「族民」から穂積の「民族」への移行過程の解明が次の課題である。
著者
度会 好一
出版者
法政大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

16世紀のポルトガルに隠れユダヤ教徒が大量発生した理由は、マノエル一世がユダヤ人を強制的にキリスト教に改宗させながら、彼らの内面の信仰を黙認したことにある。マノエルの期待通り、彼らはポルトガルの海外膨張に貢献しただけでなく、アントウェルペン、アムステルダム、ロンドンに進出して植民主義の尖兵となった。文化的には、キリスト教徒を装った隠れユダヤ教徒として、割礼をせず、祈りの時に跪き、救済を個人的なものと考える、ユダヤ教徒らしからぬ雑種であった。
著者
矢澤 進 細川 宗孝
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

セーシェル諸島で見いだしたトウガラシ(Capsicum chinense)‘Sy-2'は、トウガラシの生育適温である25℃付近に劇的な生育反応の変曲点があることを認めた。すなわち、24℃以下では縮葉を展開し、著しい生育遅延が認められるが、26℃以上では縮葉は全く認められなかった。また、縮葉のみならず花粉稔性、種子発達にも温度反応が認められることを明らかにした。本年度は縮葉反応に焦点を絞り、温度反応の形態学的・分子生物学的な研究を行った。縮葉は葉の表皮細胞や柵状細胞の形態異常が主な原因であることを明らかにし、また、縮葉ではクロロプラストが小さくトルイジンブルーによる染色性が低いことを認めた。また、24℃以下で育成した‘Sy-2'植物体の茎頂分裂組織には形態的な異常は認められなかったことから、分化した葉原基が温度反応をするものと推定された。そこで、‘Sy-2'植物体の茎頂部より抽出した全タンパク質を二次元電気泳動で分離したところ、28℃で育成した植物体にのみ強く発現するスポットを見いだした。このスポットを解析したところ、クロロフィルの形成と強く関係があるタバコのPsaHタンパク質と一致した。さらに、植物体の茎頂部より抽出・精製したRNAを鋳型としたディファレンシャルディスプレイ法を行ったところ、それぞれの温度で栽培した植物体に特異的な数本のバンドを認め、現在解析を進めている。本研究から、PsaHタンパクの発現量の低下が縮葉反応に関与していることが示唆された。今回の研究から、‘Sy-2'の生育適温でのわずかな温度差による劇的な生育変化のメカニズムが分子レベルで明らかになりつつあり、今後、園芸作物の温度管理に向けた新しい知見が得られるものと考える。