著者
末岡 淳男 井上 卓見 松崎 健一郎 高山 佳久 劉 孝宏
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

高速増殖炉ヘリカル伝熱管深傷プローブの振動によるセンサノイズの原因とその対策を,モックアップによる実験と数値シュミレーションによって明らかにした.得られた結果は以下のようにまとめられる.(1)ECT(Eddy current testing)プローブを静止させて蒸発管内で圧縮空気だけを流しても,プローブには振動は発生しないが,プローブの圧送時には振動を生じる,すなわち,プローブの振動の原因は流体力ではなく,蒸発管内壁とプローブにあるフロートとの間の摩擦と考えられる.(2)ECTプローブの挿入過程では,挿入距離の増大に伴ってプローブの振動が激しくなる.ヘリカル管の中間部を過ぎると,約20HZの卓越した振動数で振動し,それに伴ってRF(Remote field)ノイズも大きくなる.そのとき,ECTプローブは軸および径方向に連成振動をしており,RFセンサは尺取り虫的な動きをする.一方,引戻過程では,卓越した振動数を持つ振動は発生せず,振動レベル,RFノイズとも挿入過程よりも低い.(3)挿入時には,ECTプローブはヘリカル伝熱管の内径側に張り付き,引戻時には,逆に外径側に張り付くように圧送される.したがって,挿入時および引戻時で,ECTプローブにはそれぞれ張力および圧縮力が作用している.(4)ECTプローブの搬送速度を高くするほど,圧送用の空気量を多くするほど,ヘリカル直径を小さくするほど,ECTプローブの軸および径方向振動もRFノイズも大きくなる.(5)ECTプローブの径方向の振動は,先端にいくほど大きい.また,RFノイズは励磁センサと検出センサの径方向相対振動の大きさと相関があるが,軸方向振動とは相関がない.(6)RFノイズを最小化するためには,6m以上で,曲げ剛性が比較的低い先導プローブを持つECTプローブを構成することである.(7)伝達影響係数法を適用して,大規模なプローブ列を対象とした流体による搬送力を含む摩擦振動を解析した結果,モックアップの実験結果とほぼ同様な数値計算結果を得ることができた.
著者
船木 実
出版者
国立極地研究所
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究で開発した自動飛行する小型無人飛行機の飛行データを解析した。その結果、ガソリンエンジンから発生する電磁ノイズは電磁シールドにより磁力計に大きな影響を与えていなかったが、プラグ電圧を低下させていることが判明した。風が7m以下と弱かった桜島での実験では、自動飛行によるルートの誤差は30m以内で、単独測位GPSと同程度の誤差範囲内で、満足できる結果であった。高度は旋回中に約30m下降し、その後急上昇し設定高度を約20mオーバーシュートしていた。設定高度を±10m以内で飛行するには、旋回終了後少なくとも250mの直線距離が必要であることが判明した。しかし、22m/sの最大風速が235°の方向から吹いていた鳥海山での飛行実験では、飛行ルートは風上側でコースの逸脱はほとんど見られなかったが、風下側では100m近くルートが流された。東西方向の直線飛行のルートは満足できるものであったが、コースは絶えず修正され、機体は絶えず揺動していたことが推定される。以上の結果、我々の開発した小型無人機の場合、風が弱い時は単独GPS測位の精度以内の飛行が行われるが、風が強いときには設定ルートからの逸脱や、機体姿勢の修正のため多くのエネルギーが消耗することが分かった。第46次南極観測隊(越冬隊)に本機を託し、越冬期間中に飛行実験を試みた。低温でのエンジン始動や平坦な滑走路の確保の困難さから、地上滑走実験のみで、飛行は行われなかった。南極で高度なラジコン技術を持たない隊員が小型無人航空機で空中磁場探査を行うには、カタパルトの開発が不可欠である。本研究で開発した機体と飛行実験の結果は2006年1月に行われたInternational Symposium on Airborne Geophysics 2006で報告した。
著者
井口 壽乃 井田 靖子
出版者
埼玉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

両大戦間期における中・東欧のグラフィックデザインに関する活動の全貌を実証的に解明するために、ドイツ、チェコ、ハンガリー出身のデザイナーが同時代に英米を訪問、あるいは移民した先の国のグラフィックデザインに与えた具体的な影響について、所蔵先のヴィクトリア・アルバート美術館(ロンドン)、クーパー・ヒューイット・デザイン美術館(ニュー・ヨーク)他にて調査をおこなった。アメリカでは、チヒョルト(ドイツ)とラディスラフ・ストナー(チェコ)、モホイ=ナジ(ハンガリー)の相互の影響関係と交流が浮かびあがった。ニューヨークで活躍したストナーはアメリカのデザイン界に中欧のデザイン理論と方法を根づかせ、1940年代にはアメリカ型のモダンデザインとして新しい造形を推進していった。シカゴでバウハウスの教育を継承したモホイ=ナジは、アメリカの視覚芸術の領域に彼のニュー・ヴィジョン理論を移植し、新しいメディアやテクノロジーと造形表現を融合する芸術作品の創造へと発展されたことが解明された。(井口)ベルリンにてモダン・アートの原理を商業や産業に応用するために開校した私塾「ライマン・シューレ」で知られるユダヤ系ドイツ人アルバート・ライマンは、1937年にロンドンに産業・商業美術学校を設立し、イギリスに商業美術に特化した教育実践を通じて、イギリス・デザイン界においてモダニズムの理論と実践に深く関わったことが解明された。(菅)以上のことから、大陸のモダニズムの流れは英米にて継承され、それぞれ異なる歴史と土壌をもつ土地で、新たな展開を導いたことが実証された。以上の研究結果から浮き彫りにされた国家の文化・産業政策とデザインの関係について、ナショナリズムの視点から研究を行っている研究者デイヴィッド・クラウリー(ポーランド研究)とエヴァ・フォルガーチ(ハンガリー研究)と意見交換を行った。さらにポーランドを事例とした先行研究David Crowleyによる"National Style and Nation-State",1992.を翻訳・出版した(邦訳『ポーランドの建築・デザイン史:工芸復興からモダニズムへ』彩流社、2006年、4月)。
著者
永井 秀利
出版者
九州工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度は,前年度の研究成果を引き継いで,それを発展させるべく研究を進めた.前年度の研究では,他研究に見られる大頬骨筋よりも笑筋を用いる方が有効であることを示したが,本年度の更なる検討により,日常的な軽いあるいは微弱な口唇動作におしいては口角下制筋の方がさらに有効であることを確認した.これにより下顎部のみの比較的狭い領域への電極装着のみで十分である可能性が高まり,実用上の装着負荷をより小さくすることへの見込みも得られた.本年度に提案した口裂周辺の計測位置から得られた波形に基づいて,母音の認識実験も行った.筋電信号は微弱であるため,筋電波形には非常に多くのノイズが含まれる.これをどのように低減するかが大きな問題となるが,本研究ではウェーブレット解析に基づく縮退と大域制限とを併用する手法を提案した.また,特徴パラメータ抽出の際に計測毎の差異を吸収するための正規化の方法についても提案した.認識にはフィードフォワード型のニューラルネットワークを利用し,およそ64%の認識率を得ることができた.さらに,子音認識を目的とした筋の選定とそこから得られる筋電波形の特徴分析を行った.本年度の研究では,顎舌骨筋,胸骨舌骨筋,輪状甲状筋を対象筋として選定した.得られた波形を調査した結果,実際の発声に先行した筋活動の有無による特徴差が観測された他,[k],[s]などの口腔の前方で調音する子音については顎舌骨筋の活動が,[h],[m]などの口腔奥に共鳴空間を作る子音については胸骨舌骨筋の活動が特徴的に表れることが確認された.また,胸骨舌骨筋と輪状甲状筋の活動に関しては,母音発声に際しての特徴差も見られた.現時点ではまだすべての子音を識別できるとは言えないが,いくつかのグループへの識別を行うことは十分に可能と考えられる.こうした成果は,今後,もう少し整理を進めた上で研究発表を行う予定である.
著者
宮坂 道夫 藤野 豊
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

ハンセン病問題を「物語的正義」論の観点から再検討することが、本研究の目的である。そのために、(A)資料・文献研究と(B)聞き取り調査を併用しながら、以下の点について理論構築を行った。1)パターナリズムとしての絶対隔離政策、2)患者団体による患者の権利運動の展開とその社会的受容、3)<語り手>としての患者と<聞き手>としての知識人の乖離と責任の所在、4)<伝え手>としてのマスメディアの責任、5)病者に対する社会的な<無関心>と<偏見>の形成と存続、6)医療についての<正義>に求められるべき特質(<語り手><伝え手><聞き手>それぞれの立場の責任、および公正な意思決定の手続きとはいかなるものか)。本年度の実績としては、理論研究と資料研究の双方で順調な成果を見た。研究代表者の宮坂は、単著『ハンセン病重監房の記録』を来年度初め(平成18年4月14日予定)に刊行する予定である。これは、本研究で行った聞き取り調査、資料調査などの結果を盛り込み、特にハンセン病療養所に設けられていた懲罰施設(とりわけ収監者が多数死亡した過酷な懲罰施設であった栗生楽泉園の「重監房」)に焦点を当てて概説したものである。そのような施設において、患者に保障されるべき裁判を受ける機会が与えられず、療養所職員の裁量罰として不当な監禁が行われた実態を明らかにし、さらには、それらがメディアや国会等でいかに論じられ、廃止に至ったかを検証した。患者らは、こうした不当な人権侵害について、戦前から訴え続けていたのだが、保健医療などの専門職、マスメディア、国会議員、および一般国民が、それを聞き入れるまでに長い時間がかかった。共同研究者の藤野は、『近現代日本ハンセン病問題資料集成 補巻』(全8,9巻)を刊行した。これは、『近現代日本ハンセン病問題資料集成 戦前編』(全8巻)および『同 戦後編』(全10巻)に引き続き、ハンセン病問題研究の一次資料の集成であり、この問題を研究する上での重要な基礎的資料となるものと考えられる。
著者
王 碧昭
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

腎臓の発生は他の臓器と異なり、二つ別×の始原から出発、其々尿管と糸球体を生成する。この二つの始原の相互作用は異なる基質段階を経て、最後にネフロンを構成する。本研究は、腎臓発生期に発現する複数のコラーゲンを中心とし、損傷細胞の再生環境を築くことを最終目標とする。そのため、細胞が再生する際、細胞と足場が緊密付着よりもダイナミックな付着することに着目し、発生期の外的環境を模倣し、基底材料をV型-IV型コラーゲンで重層する。腎糸球体細胞が時間的に基質から付着、脱着を可動化し、空間的に凝集して、糸球体を形成することを目的とする。本年度の研究は、以下の点を明らかにした。(1)マウス発生期(胚性E11,E13,E15,E17)の後腎組織を其々取得し、コラゲナーゼ処理後、腎組織をV型コラーゲン再構成繊維上で培養する。V型コラーゲン繊維が発生腎臓に及ぼす影響を、免疫染色、共焦点顕微鏡観察とタイムラプスで観察した。その結果、V型コラーゲンは培養した後腎において、帯状高次構造を形成し尿管芽先端に巻きついていることを明らかにした。また、培養後腎は、V型コラーゲン繊維の足場情報により、後腎間充織中で閉鎖血管構造を形成することも明らかにした。(2)胚性期各時期のマウスの後腎組織をコントロールとして、組織取得後、すぐに凍結、切片化、各発生期におけるV型コラーゲンの局在とIV型コラーゲン、フイブロネクチンなど、V型コラーゲンからバトンタッチされる次環境ECMの局在を調べた。その結果、V型コラーゲンは発生後腎成長面に近い未成熟糸球体に局在、逆にIV型コラーゲンは発生後腎内部の成熟糸球体に局在、ECMバトンタッチが行われている。(3)アダルトの腎疾病モデルマウスから腎臓を摘出、mesh seiving法により、糸球体を取得する。V型コラーゲン繊維内で糸球体を培養してから、発生期の胚性腎臓と共培養する。その結果、アダルトの糸球体が発生腎の尿管芽先端に付着、融合することが可能となった。共焦点蛍光顕微鏡で観察した結果、発生期後腎尿管芽先端にアダルト進級態が近づくと、間充織細胞を巻き込んだシャープなV型コラーゲン繊維が尿管芽先端を糸球体間に形成されることを認めた。これらの結果より、V型コラーゲンが超高次構造ECMを介したcell-ECM-cell間相互作用を緩やかに誘導し、腎発生における基調ECMとして働き、毛細血管組織である腎糸球体と尿管芽との融合を助長するECMであることが明らかにした。
著者
氷室 昭三
出版者
有明工業高等専門学校
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

化合物をマイクロバブルによって分解できるかを明らかにした.有機化合物を形成している原子間の結合を切断するエネルギーをマイクロバブルがもっているどうかを明らかにするために,2.6×10-5mol/1の4-エチルフェノール水溶液1dm3をマイクロバブルでバブリングし,その水溶液の蛍光強度を測定した.この水溶液の蛍光強度がバブリング時間とともに減少し,バブリングによる消光作用を示したが,このとき極大の蛍光強度を示す波長のシフトは見られなかった.蛍光スペクトルのシフトが見られなかったことから,マイクロバブルが原子間の結合を切断していないことを見出すことができた.洗剤を含む水溶液をマイクロバブルで処理し,一定時間ごとに採取した溶液の表面張力を測定したところ,マイクロバブル処理前の洗剤溶液の表面張力は,濃度に依存して低下が大きくなるが,マイクロバブル処理後の洗剤水溶液における表面張力は上昇していることを見出した.これは洗剤の臨界ミセル濃度以下では,一般に,洗剤分子は空気に接している海面に集合する.ところが,水中にマイクロバブルが存在すると洗剤分子が気泡との海面に集合し,水中に分散するため,バブリングによって表面張力が時間とともに増加することを見出した.マイクロバブルで処理した仕込み水でつくった焼酎と通常の方法でつくった焼酎との味の違いを味覚センサで測定した.マイクロバブルで活性化した酵母でつくった焼酎の味が大きく変化するのを見出した.味覚には甘味,塩味,苦味,酸味,うま味があるが,ここではうま味の成分であるグルタミン酸ナトリウムの1mmol/1溶液についても測定したところ,マイクロバブルで仕込んだ焼酎が,グルタミン酸ナトリウムの応答に近づくことを見出した.
著者
西野 嘉章
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

平成15年度に開始された本研究で、1910-1930年代に欧米で刊行されたアヴァンギャルド美術諸誌紙(雑誌・新聞・年鑑)379件について、邦訳名、表題原綴(含副題)、創刊者・編者・主筆・編集委員、発行地、発行者、発行年・月日、解題、参考文献の諸項目の書誌学的な記載を行うことができた。ただし、上記の年代、地域に収まらぬものの、内容的に関わりが深いと思われる文献についても、適宜選択の上でリストに加えることとした。また書誌解題とは別に、本研究のもうひとつの研究課題となった、イタリア未来派の伝播普及の問題については、イタリア国内における未来派出版物の書誌解題を行った上で、イタリア未来派の日本国内での受容様態について、詳細な編年と研究を行った。この後者については、森鴎外、高村光太郎、木村荘八、東郷青児、神原泰、平戸廉吉、柳瀬正夢、村山知義という、イタリア未来派受容の系譜を明らかにすることができ、また、大正初期から昭和初期にかけて公刊された日本近代詩のなかで、未来派領袖フィリッポ=トマーゾ・マリネッティの唱える「自由語」の造形的言語表現形式が受容され、展開されてきたのか、という問題についてその道筋を明らかにすることができた。従来の研究を縛ってきた造形と詩歌、文学史と美術史、海外と国内、欧文献と和文献といった対立的な枠組みを超えて、統合的・俯瞰的な視座から前衛芸術のグローバルな展開を顧みることができたというのが、本研究の最大の成果と結論づけることができる。上記の研究成果は、『平成15年度-平成17年度科学研究費補助金(萌芽研究)研究成果報告書』として刊行されると同時に、デジタル・テキスト情報としていつでも利用可能な状態にあり、研究期間中に蓄積された書影のデジタル画像情報と組み合わされ、CD-ROM版の資料集成(コーパス)として、機会を見て公刊したいと考えている。
著者
三浦 正幸
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

カスパーゼは細胞死のメディエーターとして機能するシステインプロテアーゼであり、生体防御機構においても重要な役割を担うことが知られている。そこで、カスパーゼの活性化を可視化するツールとして、FRETを用いたインディケーター、SCAT3(Sensor for activated CAspases based on FRET)を発現するショウジョウバエ系統を作製した。ショウジョウバエの脂肪体は感染時に抗菌ペプチドを産生する器官として知られている。我々は、ショウジョウバエの遺伝学的手法(GAL4/UASシステム)を用いてショウジョウバエの脂肪体にSCAT3を発現させ、感染後のカスパーゼ活性検出を試みた。ショウジョウバエ腹部にE.coliをマイクロインジェクションした後に、時間経過毎に脂肪体を取り出し、単一細胞レペルでのカメパーゼ活性を観察した。その結果、E_coliの注入後30分の間において、脂肪体細胞の一部の細胞で、細胞死を誘導するのに十分なカスパーゼ活性が観察された。感染後の免疫担当細胞におけるカスパーゼ活性化動態の単一細胞レベルでの観察はこれまでに報告が無く、新しい知見である。カスパーゼ活性が観察されたのは一部の細胞だけではなく、それ以外の細胞においても、微弱な、あるいは一時的なカスパーゼ活性が検出された。この活性が、持続し細胞死を誘導するものかどうかについて、E_coli注入後6時間の脂肪体細胞を観察したところ、活性化が見られなかったことから、感染後初期に誘導された一時的な活性化であることが考えられ、E_coliの感染初期においてカスパーゼが何らかの生理機能を果たしていることが示唆された。
著者
阿部 正子 中島 通子 宮田 久枝
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は女性不妊症患者と自然妊娠女性の生活習慣を比較検討し,女性の妊孕力を予測するアセスメント指標ならびに妊孕力に影響を及ぼす予測因子を探索することであり,この成果を活かし看護介入プログラムへの示唆を得ることにある。そのために平成20年度は質問紙調査の実施および分析を行った。調査期間は平成20年7月〜平成21年2月,調査票は関東および関西の不妊治療クリニックならびに総合病院産婦人科に受診している妊婦700名に配布し615部回収した(回収率87.8%)。調査内容はフェースシートとして年齢,職業,妊娠前の体重や体温,不妊治療の有無などを尋ねた。妊孕力を左右する変数としてダイエットの経験,嗜好品の摂取状況の他に生活習慣,食習慣等39項目を採用し,(1)高校(18歳)まで,(2)高卒後〜結婚,(3)結婚〜妊娠,(4)現在の各時点での経験頻度を4段階で測定した。分析はSPSSver.15を使用し,記述統計と多重ロジスティック回帰分析でステップワイズ法による変数選択を行った。対象の年齢は29.8歳(SD5.0),今回の妊娠が不妊治療による者は73名(11.9%),自然妊娠は537名(87.3%)であった。今回の妊娠が不妊治療による妊娠であることに有意に関連を示したのは次の7変数であった(Hosmer Lemeshow検定x2(8)=5.89,p=0.66)。結婚年齢(オッズ比:OR=1.1,95%信頼区間(CI):1.02-1.22),月経困難症の既往有(OR=12.6, 95% CI=1.16-137.74),クラミジア感染症の既往有(OR=5.9 ,95% CI:1.68-20.77),月経不順の班往有(OR=2.8, 95% CI:1.17-6.77),過去に不妊予測有(OR=O.85, 95% CI:0.25-0.29),高卒後から結婚までの間にジュースなどの清涼飲料水を毎日飲むかについて「その通り」と回答(OR=2.0, 95% CI:1.31-2.91),結婚後から妊娠までの問にイライラしたときにおやつを食べることが多いかについて「その通り」と回答(OR=0.7, 95% CI:0.52-0.98)。以上よりライフコース選択や性の健康へのセルフアウェアネスの強化の重要性が示唆された。なお,上記の結果には関連の向きについて解釈の困難なものがあり,今後より詳細な検討が必要で壷ると考えられた。
著者
佐久間 康夫 木山 裕子 濱田 知宏
出版者
日本医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)ニューロンは脳による生殖内分泌調節の最終共通路であり、上位の脳機構からの支配を受けて、下垂体前葉を調節し性腺からのホルモン分泌調節や配偶子の形成を行っている。上位の脳機構についてはほとんどわかっていない。γ-アミノ酪酸(GABA)A受容体(GABA_AR)を介するGABA、AMPA受容体を介するグルタミン酸、キスペプチンなどのペプチドがGnRHニューロンの活動を調節すると考えられている。本研究では当初、古典的経シナプス性制御に着目し、無毒化した破傷風毒素(TTC)が神経活動依存的に逆行性系シナプス性標識を行うという特徴を活用し、GnRHニューロンに投射しているニューロンをトランスジェニックラットで可視化することを試みた。GnRHプロモーターの下流に蛍光蛋白であるEGFPとTTC遺伝子をつなげた導入遺伝子を用い、4系統のトランスジェニックラットを得、サザンブロット法によりこれらのラットに遺伝子導入が起こっていることを確認し表現型を検討したが、何れの系統においても脳内GnRHニューロンあるいは他のニューロンにEGFP標識が見られなかった。性腺摘除を行ってフィードバック環を開放してGnRHニューロンの過剰な活動を起こしたり、経代を重ねることで目的の表現型が得られるかについても検討したが、計画年度内には成功に至らなかった。一方、蛍光タンパク遣伝子の導入により、可視化したラットGnRHニューロンを対象とする実験では、GnRHニューロンにGABA_ARのα2,β3,γ1またはγ2サブユニットが発現していることをRT-PCR法で確認し、グラミシジン穿孔パッチクランプ法により、GnRHニューロンでは細胞内塩素イオン濃度が高く、成熟後もGABA_ARの活性化が脱分極を起こすこと、低濃度のGABAは活動電位の発生を促すが、高濃度では脱分極ブロックにより、活動電位の発生を抑えることを見いだし報告した(Yin etal.,2008)。gabazineによるGABA_A電流の阻止効果が限定的であったこと、この実験における低濃度のGABAは前脳底部におけるシナプス外GABAの濃度に相当することの2点から、シナプス外のGABA_ARの活性化がGnRHニューロンの調節に大きな役割を果たしていることが示唆され、本実験計画の当初の仮説の妥当性を考え直す契機となった。以上、本研究計画は当初の成果を挙げられなかったが、GnRHニューロン、ひいては視床下部ペプチド作動性ニューロンの調節一般について、古典的考え方にとらわれない新規な発想を導くに至った点で、有益であった。
著者
保田 ひとみ 畑下 博世
出版者
愛知県立看護大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

昨年度は、妊娠初期から産後1ヶ月までの夫の役割変換における縦断研究のうち、2組の夫婦を対象にし、それぞれの夫について妊娠初期と中期における夫の役割変換の過程を明らかにすることに取り組んだ。その結果、妊娠初期では、「妊娠への関心」、「妻・胎児へ関心を向け始める」、「漠然とした家族像の描写」の3つのカテゴリーが抽出され、妊娠中期では、「妻の身体・心理・社会的変化への関心」、「妻・胎児へ関心の上昇」、「妻・胎児へ関心の低下」、「漠然とした家族像の描写」の4つのカテゴリーが抽出された。そして、これらのカテゴリーは、両時期ともにそれぞれが関連し合っていることが明らかになった。本年度は、昨年度の対象に2組を加えて引き続き、妊娠初期から産後1ヶ月までの夫の役割変換の過程について明らかにした。研究方法は、本年度加えた2組の対象のそれぞれの夫に対しては、1.妊娠確定後妻の状態が安定した時期(1回目)、2.胎動知覚の時期(2回目)、3.分娩前の時期(3回目)、4.産後早期の時期(4回目)、5.産後1ヶ月頃の時期(5回目)に5回の面接を行った。昨年度からの対象の2人の夫には、それぞれ3回目から5回目の面接を行った。4人の夫の面接内容は昨年と同様に質的に分析した。その結果、妊娠確定後妻の状態が安定した時期(1回目)、2.胎動知覚の時期(2回目)においては、新しいカテゴリーの抽出はなかったが、1回日の面接で抽出された、「妊娠への関心」のカテゴリー名を「子どもを持つことへの関心」に、「妻・胎児へ関心を向け始める」のカテゴリー名を「妻・胎児へ関心」に変更した。分娩前の時期(3回目)では、「妻の身体・心理・社会的変化への関心」、「妻・胎児への関心の上昇」、「人間としての成長発達」、「漠然とした家族像の描写」の4つのカテゴリーが、産後早期の時期(4回目)と産後1ヶ月頃の時期(5回目)では、「第1子を迎える」、「妻・第1子への関心の上昇」、「人間としての成長発達」、「漠然とした家族像の描写」の4つのカテゴリーが抽出され、1回目から3回目と同様にそれぞれが関連し合っていた。以上の結果より、妻と第1子に関心を持ち続けることが夫の人間としての成長発達を促していると考えられた。
著者
竹田 直樹 八木 健太郎
出版者
兵庫県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

平成18年度に引き続き、昨年度のディスカッションを通して見いだされた課題をさらに詳細に検討し、都市におけるアートの変容過程を明らかにするための調査と分析を行った。日本国内におけるアートの存在形態に関する研究については、代表者の竹田が中心となって研究分担者とともに研究を進めた。その結果、わが国のパブリックアートとしては、公共空間に彫刻などの美術作品を設置するという形態を取ることが多いことが明らかになったが、こうした自治体などの彫刻設置事業にも、時代によってその枠組みに違いが生まれたことが見出された。その成果の一部として、こうした枠組みの一つとして彫刻シンポジウム型の彫刻設置事業について、その発生と変遷の過程を明らかにした論文が環境芸術学会誌に掲載され公表されている。また、現在進行しつつあるプロジェクト型のアートについては、各地のプロジェクトの調査にもとづいて一般誌等にその成果が発表されているほか、研究代表者らは実際に制作者としても参加することによってその実態の解明を進めた。一方、海外におけるアートの存在形態に関する研究については、研究分担者の八木を中心となって研究代表者とともに研究を進めた。最も大きな変化があった期間として4特に1980年代のアメリカにおける変化の重要性に着目し、昨年度のパブリックアートの見直し研究の調査に加え、1980年代を中心とするアメリカにおけるパブリックアート政策の枠組みに関する研究を進めた。アートを導入する側と、アートを制作する側の双方の視点から検討することにより、1980年代に起きた大きな変化が、導入する側においては冷戦の終結による政治的な役割の終焉が、制作する側においては美術の自律性に関わる意識の変化が重要な要因となって発生したことを明らかにした。この成果は、環境芸術学会誌に論文として掲載され、公表されている。
著者
小泉 圭吾 平田 研二
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本申請研究では電池駆動の無線通信器と小型センサとの組み合わせにより、地盤災害監視装置および都市環境モニタリングのためのセンサユニットのハードとソフトを開発することを目的とした。平成18年度の研究成果は下記の通りである。(1)防水機能を有するハウジングの開発を行った。また、車を利用した環境モニタリングのためのハウジングの開発を行った。(2)センサからの出力データを汎用ソフトで分析し、データベース化するシステムの検討を行った。(3)温度、湿度、照度、気圧、加速度が計測できるマイクロセンサを入手し、無線通信によってデータが出力されることを確かめた。温度センサ、湿度センサについては、精度検証を行った。また、無線通信システムについては、アドホックネットワークの確認、および屋外での通信距離の確認、遮蔽物による通信障害の影響についても実験を行った。(4)ヒートアイランドモニタリングに応用可能な、移動体による環境モニタリングシステムの基礎的研究を行った。平成19年度の研究成果は下記の通りである。(5)現場実証実験として、屋内の温湿度をリアルタイム監視できるシステムを構築した。その際、最適なセンサの配置形状の検討を行うとともに、防火扉などの無線通信が困難な環境下におけるシステムの安定性を実現した。(6)屋外の実証実験としては、高速道路沿いのり面において、センサネットワークの通信実験を行い、最適な通信距離およびセンサの配置形状について検討を行った。センサについては傾斜計、水位計、雨量計、サクション計、土壌水分計、カメラについて検討を行い、実証実験が行えるよう通信手法とセンサの設置手法に関する基本設計までを終了した。(7)道路沿いのり面監視および都市環境モニタリングに関する基礎データベースを作成した。
著者
平沢 政広
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本研究は,Li-NH_3,アミン溶液の薄層から溶媒を蒸発させて迅速に除去し,Liを析出させることにより金属Li膜を生成させるプロセスについての基礎研究である.本年度は,当初の計画に従い,Li膜を生成させるための多孔質材料の選定に重点を置いて,種々の有機,無機系素材とLi-NH_3溶液の反応性について検討するための実験をおこなった.実験では,213.15〜243.15Kにおいて,真空雰囲気のパイレツクスガラスおよび石英ガラス製のセル内に種々の組成のLi-NH_3溶液を調整し,溶液に試験素材を漬浸して撹拌(円柱状試料の回転などの方法による)を行い,試験素材と溶液の反応に伴う溶液の電気伝導度の変化を測定する方法などによって,溶液内のLi濃度の経時変化を調べた.使用した試験素材は,フッ化樹脂(Teflon),ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック系素材と,グラファイト,リチウムナイトライドの無機系素材である.実験の結果,グラファイト,リチウムナイトライドでは,固体表面の触媒作用によりLiとNH_3間のアミド生成反応が速やかに進行することがわかった.フッ化樹脂の場合,溶液内のLiと樹脂の化合物生成反応が認められ,この反応は液側Liの物質移動と固体内のLiの拡散により律速されることが推定された.ポリエチレンテレフタレートの場合も同様な反応が進行するものと考えられる.これらの結果は,FやOなどがLiに対して官能基として作用することを意味すると考えられる.一方,ポリエチレン,ポリプロピレンでは,溶液と素材の反応は十分遅く,実際に,これらの素材表面にLi膜を生成させることができた.現在,生成したLi膜と素材界面のキャラクタリゼーションと,スプレー法による膜生成について検討を進めている.
著者
乾 賢一 矢野 育子 増田 智先
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

研究代表者等はこれまでに、生体肝移植患者において、シクロスポリンやタクロリムスの標的分子であるカルシニューリンの酵素活性が、これら薬物の免疫抑制効果の指標となり得ることを明らかにしてきた。本研究では、臨床応用可能な迅速かつ高感度な新規カルシニューリン活性測定法の開発を目指して、ELISA法を用いた測定系について検討した。現在までに、カルシニューリンの特異的基質であるリン酸化RIIペプチドに対する抗リン酸化ペプチド抗体の作成に成功し、さらに抗体の特異性が確認された。続いて、抗リン酸化RIIペプチド抗体をプレートに固相化し、FLAG付リン酸化RIIペプチドを標準物質として、サンドイッチELISA測定系を確立した。FLAG付リン酸化RIIペプチドの定量性は、0.125-4ng/mLの範囲であった。本法は、カルシニューリンによるリン酸化RIIペプチドの脱リン酸化反応(ステップ1)と、FLAG付リン酸化RIIペプチドによる反応終了液中に含まれるリン酸化RIIペプチドの定量(ステップ2)を行うことを特徴とし、反応前後のリン酸化RIIペプチドの物質収支からカルシニューリンの脱リン酸化活性が算出できる。本年度は、リン酸化RIIペプチド定量のための条件検討を実施した。まず、ステップ1の停止液のステップ2に対する影響を調べた結果、常用の5%トリクロロ酢酸/0.lMリン酸二水素カリウム溶液を用いた場合、FLAG付リン酸化RIIペプチド(4ng/mL)の検出が不可能であった。そこで次に、5mM EGTA(カルシニューリンの阻害剤)をステップ1の停止液として用いた場合、ステップ2には影響せず、FLAG付リン酸化RIIペプチドの検出が可能であることが示された。今後、開発したnon-RI ELISA測定系の臨床応用に向けて、カルシニューリン活性測定の最適化及び全自動化を目指す予定である。
著者
森下 信
出版者
横浜国立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本研究では,外部磁場に応答する機能性繊維の開発および可変流量バルブへの適用について検討を行った.平成14年度には中空糸の内部に強磁性体粒子を封入して磁場に応答する機能性糸の試作を行った.さらに糸を2〜5mmの長さに揃えて切断し,これを化学繊維の布に植毛することを試みた.まず第1の結果として,外部から近づけた磁石に吸引される糸ができあがり,外部磁場に応答することが確認できた.繊維の太さは数ミクロン程度であり,化学繊維としては太い部類に属するが,機械的な応用を考えると極めて細い.製作上の問題は粒子の大きさのばらつきにあり,粒子径が大きいと中空糸が切断される危険性がある.これらは粒子径の大きなものを除去することで対応した.化学繊維の布に植毛する過程では,一般的には静電気を利用することで同じ長さに切断した糸を垂直にたてて接着剤で固定するが,糸の比重が大きく布に対して垂直に植毛するのが困難であった.これに関しては専門メーカーの協力により毛足が2〜5mmの機能性布を試作した.平成15年度にはこのビロード状の布を流路に対して垂直に貼り付け,油圧作動油の流量を調整できる範囲を実験的に確認した.その際にせん断流れを主とする場合と,圧力流れを主とする実験装置を開発し,その比較も行った.その結果,最大10%の範囲で流量を調整することが可能であることが明らかになった.この値は機械要素として用いるにはまだ小さく,今後さらに制御範囲を拡大するために,繊維の材質,繊維の太さ,長さを変化させてさらに研究を進める予定である.この機能性繊維の特徴は,従来開発されている分散系流体と比較して,分散粒子のちんでんは考慮する必要がないことにある.その意味で,開発の第1段階は終了したものと判断している.
著者
坂本 雅彦
出版者
奈良工業高等専門学校
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

不織布の新たな技術的応用を図ることを目的に,本年度は,主に円管内流れの新たな流動抵抗低減デバイスとしての不織布の効果について検討した.実験は,不織布を含む7種類の布地を,内径が25mm,全長が6mのアルミニウム円管路壁面に被覆し,水道水と空気とを作動流体に,圧損から管摩擦係数を求め,これら結果を,アルミニウム滑壁面を持つ円管の結果と比較した.また,円管路内の速度分布の測定も併せて実施し,両者の結果を比較した.その結果,本実験範囲では,あるタイプの不織布が流体の種類で異なる管摩擦係数の特性を示すこと,あるタイプの不織布は,アルミニウム滑壁面を持つ円管の管摩擦係数にほぼ等しい結果を示すものの,全ての不織布で明らかな減少効果が認めらなかったこと,不織布を被覆した円管路内速度分布は,アルミニウム滑壁面を持つ円管路の場合に比べ壁近傍で速度の勾配を小さくし,乱れ強さの増加を抑制している効果を持つ,事など明らかにした.今後,摩擦抵抗低減少効果をより定量的に評価・検証するため,矩形管路を対象に,繊維を剛体と仮定して,繊維形状,繊維配列や分布(密度),そして繊維が一定の運動を伴う場合の効果について検討していく予定である.
著者
宮地 良樹 松村 由美 椛島 健治
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

紫外線は紅斑(日焼け)・皮膚老化・免疫抑制・発癌など多岐に渡る影響を生体に及ぼす。皮膚科領域では、紫外線による免疫抑制作用は重要で、様々な皮膚疾患に紫外線治療が応用されているが、その反面、腫瘍免疫機能の低下により、皮膚癌を誘発することが問題となっている。一方、プロスタグランジン(PG)E2は、各々異なるシグナル伝達系を持っ4種類のサブタイプ受容体EP1、EP2、EP3、EP4を有し、紫外線照射によりのPGE2産生が強く認められることが知られていた。ところが各受容体の発現レベルや分布の複雑さ故、紫外線照射におけるPGE2の機能解析は困難であった。そこで我々は研究目的をPGE2の紫外線照射における生体への役割の解明と治療への応用に定め、課題の実現を目指している。まず、紫外線照射による紅斑形成において、マウスに紫外線照射を行うと、耳介の腫脹が起こるが、この腫脹反応がNSAIDにより減弱し、プロスタノイドの関与を示唆させた。そこでPGE2受容体欠損マウスに紫外線を照射するとEP2、EP4欠損マウスにおいて耳介腫脹反応が減弱していることが確認された。また、皮膚局所の炎症細胞の浸潤、血管径の減少、ドップラー血流計による局所血流量の減少も認められた。したがって、紫外線紅斑の形成には、PGE2-EP2,EP4シグナルが重要であることが示唆された。さらに、紫外線の局所免疫挿制作用を検証するために、紫外線を腹部に3kJ/m2照射した3日後にハプテンであるDNFBを腹部に塗布して感作する。その5日後にDNFBを耳介に塗布し24時間における耳介腫脹変化を確認すると、紫外線を照射しなかったグループに比べ耳介腫脹が減弱し、局所の免疫抑制効果を検証できる。この局所免疫抑制作用がプロスタノイドの産生を阻害するNSAIDの投与により消失することをC57BL/6マウスで確認したのでプロスタノイドがこのメカニズムにおける重要な分子であることが強く推測される。今後も引き続きPGE2各受容体欠損マウスにこのモデルを行い各受容体の役割の解明を行い、紫外線誘発発癌との関連の関係の解明を目指す。
著者
家串 哲生
出版者
山形大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、農業経営への環境会計導入を試みることを通じて、同経営に潜在的に隠れている可能性のあるコスト(potentially hidden cost)である環境コストを実証的に測定することを目的としたものである。研究初年度においては、主に対象事例の実態調査を行い、それに基づき、同事例の環境コストの集計範囲、事業活動に応じた分類、集計方法等の検討を行った。その具体的な研究内容は以下の通りである。(1)環境会計に関する内外の文献収集・検討を行った。また、同テーマの関連学会(日本農業経営学会、地域農林経済学会、日本社会関連会計学会等)に参加し、意見交換を行った。(2)前述した各学会において、それぞれ順に「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」、「農業経営における環境コストの認識・測定に関する-考察-農事組合法人Mにおける環境会計導入事例より-」、「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」の題目で学会報告を行った。最終年度となる次年度においては、(1)前年度の実態調査及び意見交換の結果に基づき、再度、対象事例の環境コストの集計範囲、事業活動に応じた分類、集計方法等の検討を行った。(2)それらの内容を勘案し、学会誌(『農業経営研究』)へ報告論文「農業経営における環境コスト及び環境資産の会計」を投稿し、掲載された。本研究では、対象事例の2004及び2005年度の農作業日誌データを用い、『環境会計ガイドライン2005』に基づいて環境会計を導入し、主に仮定按分法により6つの地域における環境保全コスト及び農業者当たり環境保全コスト、総費用に占める環境保全コストの割合を算出した。その結果、総費用に占める環境コストの割合は、いずれも2割前後をも占めており、その大部分は、「水質汚濁・土壌汚染防止」コストであること等を明らかにした。ただ、これらの結果には、対象事例の主観が多分に混入している。今後の課題として、いかに環境コストの認識・測定及びその方法の客観性の向上があげられる。