著者
大下 誠一 牧野 義雄 川越 義則
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

水中にマイクロ・ナノバブル(MNB)を発生させ、ナノバブルに注目して0.6nm〜6μmの範囲にある粒子径を評価した。さらに、バブルの存在が期待される水の動的特性をNMR緩和時間T_1から検討した。水は超純水製造器(Direct-Q,日本ミリポア(株))で調製し、MNBの生成にはマイクロバブル発生システム((株)ニクニ製を改良)とマイクロバブル発生装置OM4-MDG-020((株)オーラテック)を用いた。バブル径測定にはゼータサイザーNano-ZS(シスメックス(株))を用いた。前者のシステム稼備後1時間まではデータが安定せず、バブルのピーク粒径は340nm、分布範囲は120nm〜6μmであった。稼働後1.5時間には、ピーク粒径(190nm)は小粒径側にシフトした。2時間後にバブルの発生を停止した時点で、分布範囲は50nm〜1μm、ピーク粒径は120nm付近であり、これは1日後まで安定して観測されたが、2日後に165nm付近になった。また、後者のバブル発生装置を45分稼働させた場合、酸素MNBの生成後15日間は、ナノサイズのバブルが安定に存在した。一方、酸素MNBにより溶存酸素濃度が上昇し、40mg/L程度の高濃度になった。水中に微細なバブルが存在すると、水分子のネットワークに影響してT_1の変化が期待される。しかし、酸素が常磁性を有するため、単純にはT_1からバブルの影響を抽出できない。そこで、常磁性のMn2+を添加して酸素の常磁性をマスクした。10mM のMn2+溶液を調製し、これに酸素MNBを生成させた水を準備した。その結果、溶存酸素濃度(DO)が7.6mg/LのMn2+溶液に対して、この溶液に酸素MNBを生成させた水(DO=33.6mg/L)のT_1が顕著に増大した。この結果は、水中におけるナノバブルの存在を支持するものであると判断された。
著者
松田 ひとみ 増田 元香
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

北海道と関東地方地域在住の活動的な高齢者240人を対象として、会話の時間、相手、家族関係、生活習慣、リズム、うつ状態の評価と睡眠状態について、聞き取り調査とライフコーダ、アクティウォッチおよびアクティブトレーサーを用いて計測した。また、アクティウォッチから得られる睡眠効率を80%を指標に高群と低群に分け、両群の差を検討した。低群に対して、ライフヒストリーの聴取(30分間)を導入し、生活リズムと睡眠との関係について同様の機器で測定した。データはSPSS(Ver16.0J)統計パッケージを用いて解析を行った。睡眠に影響を与える心疾患、精神疾患、睡眠障害、睡眠随伴症状を有する者、睡眠薬を服用しているものは分析から除外した。解析の結果、男性が親しく会話をする相手として選択したのは、配偶者であったが、女性は姉妹や友人という回答であり性差がみられた。また、睡眠効率低群は、会話時間が短く、家族内での会話交流が乏しい傾向が見出された。さらに、低群において、うつ傾向との相関がみられた。特に男性で睡眠効率が低く会話時間が短いものを対象として介入を行った結果、初回の会話では睡眠への影響が見出されなかった。しかし、会話を約束して行った2回目以降の介入において、睡眠効率の改善が見出されるケースがあった。これらの介入については、インタビュアーとの人間関係や相性などのデリケートな側面もあり、必ずしもナラティブの効果とまでは結論付けることはできなかった。今後は、話し相手ボランティアの積極的な導入にも影響を与えるアプローチであることも踏まえ、更にナラティブ・ケアの具体的なプ白グラムと評価方法を検討することが課題となった。
著者
長江 美代子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

この研究では、質的記述的研究方法を用いて、日本の社会にみられる夫婦間暴力について、夫から妻への暴力という行動の背景を調査し、社会文化的にこの暴力行動を規定しているとおもわれる筋書きをみつけ、描写説明した。3つのエコロジカルモデルを統合して「日本文化における夫婦間暴力(IPV)のスクリプト」の概念枠組みを作成した。4つの主要概念(状況要因、夫婦行動、夫婦間コミュニケーション、IPV維持継続要因)と3つの側面(個人、対人、社会文化)に基づく面接ガイドにより、11名の女性IPV被害経験者に半構成的個人面接を実施した。1.男性加害者の参加者がまだ得られていないが、女性被害者11名のデータを、夫婦間の関わりに焦点をあてて分析した。分析はイリノイ大学研究者との共同作業ですすめ、論文として完成させた。内容分析により、IPV行動に影響している日本文化に共通する3つのビリーフ(信念):1)妻は夫に付随する、2)女性のする仕事(役割)は男性の仕事(役割)ほど価値がない3)IPVは妻が原因、が抽出された。2.日本社会における夫婦間暴力に関して、女性の視点を反映した包括的な文化的スクリプトを提供した。また、以下が今後の効果的な夫婦間暴力介入プログラムの考案にむけての課題である。・男女平等の文化的ビリーフを養うためには、地域に根ざした学童年齢からの教育介入が必要である。・より包括的なスクリプトを描くには、将来の研究では、男性の視点や家族の視点を入れ込むことが必要である。・継続して男性加害者の視点を取り込めるように研究デザインを考慮し今後の研究課題としたい。
著者
酒井 憲司 浅田 真一
出版者
東京農工大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

1.温州みかん48個体データに関して実施した1998年〜2005年の収量アンサンブルデータを取得する。これに対して、RSMを用いた大域的モデリングを行い,さらに決定論的非線形予測の意味での1年先収量予測をいった.高精度の予測に成功し,ダイナミクスが有効に再構成されていることが確認された.2.また,データ集合の分布についても予測を行い,おおよその豊凶の予測が集団レベルでも可能であることが示されたが,大域的モデルでは精度向上が限界のようであり,局所モデルの必要性が認められた.3.上記で開発した手法をハイパースペクトルおよびマルチスペクトル画像に適用するためのアルゴリズムを開発した。ニューラルネットワークスを用いた,局所ダイナミクスの同定である.カリフォルニア大学から提供されたピスタチオ収量データについて適用し,有効性を検討した.4.代表的なカオス制御の手法であるOGY法を用いて,同定されたダイナミクスに適用した.良好に不安定平衡点を安定化することに成功した.5.研究成果発表のためのワークショップを,「カオス・複雑系の生態情報学」国際ワークショップと共催した。研究成果報告書を刊行した。6.研究協力者1)浅田真一:神奈川県農業技術センター・主任研究員(温州みかん栽培試験と葉内養分検出)2)Nikolay Vitanov:ブルガリア科学アカデミー教授(時空間データの非線形解析)3)Devola Wolfshon:デンマーク王立獣医農科大学准教授(画像解析による花数計測)4)Alan Hastings:カリフォルニア大学デービス校・環境・生態系学科・教授(生態系のカオス解析)
著者
粂井 輝子
出版者
白百合女子大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

平成14年度はワシントン大学に所蔵されている『北米時事』新聞の川柳欄を閲覧コピーし、川柳をコンピュータに入力、平成15年度は『加州毎日』新聞の川柳欄を閲覧コピーし、川柳を同様に入力した。さらに『ユタ日報』の川柳欄の川柳も収集、コンピュータに入力した。両年とも、日系コミュニティでの人脈を通じて、戦前・戦中の川柳人と接触し、個人所蔵資料の閲覧コピー、面談聞き取りを行った。戦時中ジェローム強制収容所で発行された川柳しがらみ吟社の「しがらみ」、ツールレーク隔離収容所の「怒涛」などを収集した。平成16年度は、戦時中の収容所で発行された文学誌のなかの川柳を入力した。同年では、入力した川柳15000句を分析し、2004年度アメリカ学会(アトランタ)で、戦前の川柳に関する学会発表を行った。この発表で、日本アメリカ学会の英文ジャーナル誌への寄稿を依頼された。また、サバティカルで滞在中のハーバード大学ロングフェロー研究所の教授から、ドイツのアメリカ学会誌への寄稿を依頼された。(現在、入校中、発行は2005年度)。さらに補足的研究のために平成17年3月にシアトルとロサンゼルスで調査を行った。また平成16年6月にはアイダホ州ミネドカ強制収容所跡地を見学した。アメリカの川柳は、いわゆる狂句とは異なり、季語のない俳句ともいえる。川柳人の社会階層は、日本人会幹部から、季節労働者、年齢的には「老人」から10代の若者、性別も男性が多いものの、主婦や未婚女性も交じっている。一つの句は短いが、万単位で残る膨大な量を分析することで、記録を持たないと思われた一般庶民のさまざまな声が聞こえてくる。アメリカ移民の「人生の記録であり、心情の詩」である。
著者
北里 洋 豊福 高志 山本 啓之 土屋 正史
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究は,硫化水素存在環境に生存する有孔虫類を例として,真核単細胞生物への微生物の共生について理解するとともに,「硫化水素が飛躍的な生物進化を誘引する」仮説を検証する道筋を作ることを目的とする。研究は,(1)嫌気的な環境に生息する有孔虫にはどのような微生物が共存するのか?(2)微生物は何をきっかけとして,どのように取り込まれるのか?(3)微生物は細胞内で何をしているのか?(4)微生物が細胞内にいることは有孔虫の殻にどのような影響を与えるのか?について形態、分子両面から検討する。また、微生物生態学的なアプローチも試みる。研究材料は,夏季に硫化水素に充満した環境が出現する非調和型汽水湖である鹿児島県甑島なまこ池,京都府阿蘇海,静岡県浜名湖に生息する有孔虫Virgulinella fragilisを用いた。遺伝子および細胞のTEM観察の結果、この種には、細胞膜近傍にγ-プロテオバクテリア(硫黄酸化細菌)が分布し、細胞の中心には、浮遊珪藻スケルトネマに由来する葉緑体が多量に取り込まれていた。一方、模式地であるニュージーランド・ウェリントン港に生息するVirgulinella fragilisは、酸化的な環境であるにもかかわらず、γ-プロテオバクテリアと葉緑体が細胞内に分布していた。ただし、葉緑体は珪藻コシノディスカスに由来するものであった。これらのデータは、有孔虫が共生微生物をまわりの環境から取り込むことを示した。共生体の機能は、硫黄酸化細菌が硫化水素の無毒化、葉緑体が窒素固定と推定されているが、現在検討中である。有孔虫への細胞内共生は、Virgulinellaだけでなく、貧栄養の超深海に生息するステルコマータを持つ軟質殻有孔虫や近縁グループのグロミア属の細胞にも見られる。しかし、これらの共生微生物が何をしているのかという機能の解明は今後の問題として残った。
著者
日浦 勉 工藤 岳 笠原 康裕 彦坂 幸毅
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1、ミズナラの最大光合成速度は温暖化処理によって変化しなかったが、窒素含量は低下したため窒素利用効率は上昇した。イオン交換樹脂法によって土壌中の無機体窒素量がどのように変化したかは現3定量中である。2、葉中の窒素含量の低下と硬さの指標が上昇したため、植食性昆虫による食害は低下した。3、ミズナラの堅果生産量は枝の温暖化処理によって3〜5倍に上昇した。そのメカニズムは今のところ不明である。4、土壌中のバクテリアの量や組成は2年間の実験では変化が見られなかった。5、林床植物の総植被率は、林冠閉鎖が完了する6月中旬に最大となり、その後低い値で安定する傾向が見られた。林床に到達する光エネルギーとの対応関係が示された。夏緑性植物の地上部生育開始時期は、温暖化により早まる傾向が見られたが、その程度は種により異なっていた。一方で、秋の生育終了時期には明瞭な違いが認められなかった。すなわち、生育初期に温暖化の効果が大きいことが示された。半常緑性植物のオシダの越冬葉は、温暖区ではほとんどが冬の間に枯死していた。これは、温暖区では積雪がほとんどないため凍害による損傷が強かったためと考えられた。さらに、当年シュートの伸長は温暖区で遅くなる傾向が見られた。越冬葉の損失により、新葉生産のための養分や資源転流がなくなったことが影響していると予測される。土壌温暖化による積雪環境の変化は、冬期の越冬環境を変化させ、植物の生育にマイナスの効果をもたらす可能性が示唆された。以上の結果より、温暖化が植物にもたらす影響は、種や生活形により多様であることが示された。温暖化の影響予想には、個々の植物が有する生理特性を考慮する重要性が示された。
著者
中條 直樹 塚原 信行
出版者
名古屋学院大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

研究分担者塚原信行(愛知県立大学・非常勤講師)、研究協力者水野晶子(愛知淑徳大学・非常勤講師)、ムサエフ・ターライベク(当時名古屋大学大学院国際開発研究科・後期課程在学中、現在マレーシア国民大学・講師)と代表者でスタートしたプロジェクトは、中央アジアの英雄叙事詩の文献の収集を開始した。キルギスの「マナス」は世界最長の英雄叙事詩の口承文芸であり、語部により長短がある。本プロジェクトでは文字化された「マナス」の収集により、4分冊の1編と3分冊の2編と1巻本の「マナス」を2冊およびその解説書を、またキルギスの“EL AD-ABIATY"(People's Literature)SERIESのうち9冊を収集した。さらに“Go'ro'g'li"(Ташкент),“Алцамыс Батыр"(Алматы),“Кобыланды Батыр"(Алматы),“Камбар Батыр"(Алматы)を収集したもののいずれもキルギス語・カザフ語・ウズベク語により記述されており、記述の「マナス」の比較対象研究、またその電子化の試みは向後の課題としたい。ムサエフ・ターライベクによる『叙事詩マナス・コンコーダンス』(CD)はこの間の成果の一つであり、これは氏の出身国キルギス共和国でも高く評価されている。一方、我が国では「マナス」については、『マナス少年編・青年編・壮年編』(平凡社東洋文庫)がこの間に翻訳出版され、有用であった。また中央アジアに関わる文献に関しても広く収集に心がけ、「アイハヌム」(2001-2008:加藤九祚個人雑誌)も入手し、今後の参考にすることにした。
著者
石井 信行
出版者
山梨大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

都市空間経路探索歩行時の注視特性に関する実験の学会報告1.実験概要本研究の第1段階において,経路探索歩行後の記憶(アウトプット)を対象とした方法論によって,ケータイナビを利用及び不利用での記憶の量や質に定性的な違いがあることを示されたが,情報量が極めて多い実際の都市空間に関する記憶をデータとしたため,被験者の回答能力の影響を受け,都市認知について明確な差異を示すことが困難であることが課題として示された。そこで平成17年度は第2段階として,歩行探索時の情報獲得に関わる注視特性を対象とし,探索者の属性による注視特性の差異を明らかにすることを目的とした実験を行った。先行研究と既存研究を基に,同じ揚所で繰り返し経路探索歩行をした揚合にケータイナビ利用者は繰り返し回数が増えても注視特性に変化はなく地図記憶探索者は変化するという仮説を立て,各属性6名ずつの被験者に視線追跡装置を装着した状態で,甲府市中心部において経路歩行探索実験を行った。ケータイナビとしてauのEZナビウォークを用いた。2.実験結果実験の結果,合計約30時間分の注視データを得て,注視点軌跡図と注視特性グラフを用いた分析により,実験回数が増加すると地図記憶探索者は見方に変化が現れるのに対して,ケータイナビ探索者は見方が同じになる傾向があることが示された。3.学会報告第34回土木学会土木計画学研究発表会(平成18年12月於香川県高松市)「歩行者・自転車」セッションで本研究をまとめた「歩行ナビゲーション利用者の経路探索歩行時注視特性」を発表した。
著者
小鹿 一 丸山 正 大場 裕一 吉国 通庸
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

沖縄産シャコ貝(ヒメジャコ、Tridacna crocea)の外套膜に共生する渦鞭毛藻(Symbiodinium属)の種類を明らかにするために、まず株化された渦鞭毛藻を用いて分子系統解析法の確立を行なった。藻体よりゲノムDNAを抽出後、5.8SrRNAのITS領域および18SrRNAのV1領域をPCRにより増幅し、ダイレクト・シークエンス法により配列を決定した。続いて、分子系統解析ソフトPhylipを使用して、近隣接合法(NJ)により渦鞭毛藻の系統関係を解析した。その結果、これまで未知であった株の系統が明かとなった。この方法を用いて、つぎに実際のシャコ貝にどのような種類の渦鞭毛藻が共生しているのかを調べた。これまで、シャコ貝には複数種の渦鞭毛藻が共生していることはわかっていたが、どのような種がどのくらいの割合で共生しているのかは不明であった。そこで、ヒメジャコの外套膜より取り出した藻体を用いてDNAを抽出し、PCRを行なった。続いて、このPCR産物をプラスミドベクターに組み込み、大腸菌にトランスフォーメーションした。現在は、得られてきたコロニーに対しコロニーPCRを行ない、ひとつひとつのコロニーがどの種類の渦鞭毛藻に由来したDNAを持っているかを制限酵素とシークエンスを併用して決定する方法を確立している。また、渦鞭毛藻の系統に対応して興味深い低分子化合物がさまざま産生されていることが明らかになってきた。その中には、新規化合物であるzooxanthellamide類やzooxanthellactoneなども含まれる。これらの化合物が共生過鞭毛藻に特異的であることから、何らかの共生現象に関わっている可能性が期待される。
著者
川島 隆太
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

疲労やストレスによるパフォーマンスの低下が、脳のどの領域の働きの変化と関連するのかを、非侵襲的脳機能イメージング手法を用いた基礎研究によって明らかにし、さらに、認知心理学的研究を追加することによって、健常成人の疲労やストレスによる認知機能の変化を定量的に評価可能なシステムを開発することが本研究の目指す最終的な目的である。平成20年度は、機能的NIRsを用いて、健康な右利き大学生6名を対象として、連続単純計算による精神疲労負荷時の前頭前野活動を計測したが、疲労に伴う変化を計測できなかった。このため、精神疲労モデルを再構築することが必要であると判断し、心理学研究を展開した。健康な右利き大学生30名を対象として、内田クレペリンテスト(連続単純計算)による精神疲労の状態を、認知心理学的手法によって経時的に観察した。その際に、バランス栄養流動食を摂った場合と、水のみ摂取した場合の2条件を設定した。水のみ摂取した場合には、VAS法による精神疲労の内観が時間と共に増加し、単純計算の作業量も減少する傾向にあったが、流動食を摂った場合には、開始後1時間半までは、精神疲労の内観も単純計算の作業量も減少しないこと、1時間半以降は、水のみ摂取群と同様に精神疲労度の内観も、作業量も低下することがわかった。先行研究では、ブドウ糖のみ摂取した場合には、水のみ摂取と同じ疲労傾向を示すこともわかっており、朝食の摂取パターンによって、精神疲労とそれに伴うパフォーマンスの低下の程度に差が出ることがわかった。
著者
和泉 薫 小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本年度はブロック雪崩の力学的特性に関する研究として、平成13年度に設置した実験用シュート(高さ9.4m、幅0.9m、勾配32.6°)を使った雪塊の衝撃力測定実験と、雪渓上での雪塊の落下実験を行った。それぞれの実験から得られた結果は以下の通りである。1.雪塊の衝撃力測定実験・人工雪塊を用いた実験では、密度250kg/m^3では最大衝撃力値に衝突速度がほとんど反映されないが、密度450kg/m^3では最大衝撃力値が衝突速度によって変化することがわかった。・天然雪塊を用いた実験では、密度560kg/m^3の雪塊では最大衝撃力値が速度と質量に比例することがわかった。2.雪渓上における雪塊の落下実験・雪塊はある程度の落下速度となるまでは転がり運動によって落下すること、その後、落下速度の増加や、表面の起伏が大きい場所や傾斜が急激に変化する場所を通過するために回転を伴った跳躍運動に遷移することがわかった。・転がり運動による落下では斜面方向の線速度エネルギーに対する回転エネルギーの割合はおよそ20%程度か、それ以下であったのに対し、運動形態が跳躍運動に遷移することで、回転エネルギーの割合が約40%まで増加することが明らかになった。・雪塊の大きさが大きくなるにつれて、より短い落下距離で最大速度に達するという傾向や、雪塊が大きくなるほど回転エネルギーの最大値が出現するまでの時間が短くなる傾向が観測から得られた。
著者
永岡 慶三 竹谷 誠 北垣 郁雄 米澤 宣義 赤倉 貴子 植野 真臣
出版者
早稲田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は,複数の人間により形成されるグループに対して「グループの学力」を定義し,その評価法を開発することにある.今後のネットワーク社会のさらなる進展を考えれば,社会の各分野においては個人的活動は限られ束面となり,ほとんどがプロジェクトなど複数の人間の協力する活動が多くを占めることになると思われる.そこでは,個人個人の能力の高さだけでなく,いかに複数のメンバーの協同によるグループとしての能力の高さが要求されるものと考えられる.その評価法の開発・実用は,特定の人材の集合からどのように効率的なプロジェクトメンバー構成をすればよいかという人材活用の方法論としての価値を持つものと考える.さてテストを科学的に、計量的に扱うもっとも根本的な主要概念は信頼性である.信頼性(の推定方法)は考え方により多くの定義があるが,理論的明快さや実用性など種々の利点から最も多く用いられるのはCronbachのα係数である.本研究においても信頼性といった場合,Cronbachのα係数をさすものとする.研究実績の成果は,これまでのテスト理論では扱われていなかった受検者側の内部一貫性の特性・概念を導入したことといえる.さて有力な応用目的として,たとえば,N人の受検者集団から構成員数2のグループを構成するとする.すなわち二人ずつのペアを組むとする.Guttmannスケールの項目群を仮定すれば,個別学力の大きい順に第1位から第N/2位までのN/2人を異なるグループに配すればよく,いささか自明解である.ここに受検者側に内部一貫性の特性を導入すれば,話は別で,グループ(ペア)内のθ値の大小だけでは決まらないのである.すなわちペアで考えれば,お互いがお互いの弱点を補い合うような組合せ,すなわちその2名の1,0得点パターンの排他的論理和が全体で最大化するような組合せを行うことで最大化が見込まれる.
著者
名川 勝
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

一般には後見申立にかかる提出書類のうち基礎資料、財産資料、医学所見にかかる資料以外で、本人に関する社会的、心理的情報などをソーシャル・レポートと呼んでいるようだが、本研究では申立添付書類以外でも本人の後見事務に関して取り扱われる資料を含めた。そのうえで研究動向の調査ならびに実務の実際に関する調査を行った。各地の家庭裁判所における書式は所定の申立書類様式に身上監護に関する情報もあらかじめ求めるようになってきており、これをソーシャル・レポートに含めることもできるかもしれないが、十分とは言えないとの指摘が得られた。この場合、ソーシャル・レポートは本人のより正確な審判を得るため、とりわけ類型判断に有用な情報であるとの意見があった。また第三者後見の場合に候補者となるべきかの情報になり得るとの意見もあった。しかしながら、そのような詳細な情報収集を申請時書類に含めることは、却って申請を困難にするとの指摘も同時に得られている。ただしいずれの回答者についても申請前あるいは申請後によりよい後見事務を執り行うためにこれらソーシャル・レポートに関連する情報は必要との点では異論は無かった。ソーシャル・レポートに関わる情報は生活支援との関連が強いことから、今後はさらに審判前後それぞれの取り組みと他機関も含めた連携のあり方からよりよい情報のあり方を検討する。
著者
瀬戸口 剛
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

北海道のように冬季の積雪が多い寒冷地では、駅やバス停など公共交通機関の交通結節点の計画において雪や寒さへの対策が必要で、都市デザインにおいて重要な課題である。本研究では積雪寒冷の都市を対象に、積雪シミュレーション実験を行い、冬季に吹雪の影響を受けにくい交通結節点(駅やバスターミナル)のデザインを研究し、交通結節点における都市デザイン手法を確立した。わが国では、積雪時の都市デザインシミュレーションを行った研究は、筆者以外には無い。本研究では、稚内駅および中心市街地を対象に、積雪インパクトの評価を大型風洞実験装置による積雪シミュレーションを用いて行った。実験装置は、旭川市にある北海道立北方建築総合研究所が所有するものを利用した。積雪シミュレーションにより、稚内駅舎のデザインや建物配置、乗客動線システムを具体的に計画し、実際に設計に反映できる結果を得られた。積雪シミュレーションにより、稚内駅舎計画に反映した内容は以下の3点である。(1)稚内駅舎は歩行者動線に吹きだまりをつくらないよう、曲面型のファサードとした。(2)駅前広場に雪の吹きだまりが溜まるため、堆雪スペースを中央に設ける。(3)線路の先端部分に雪の吹きだまりができにくいよう、吹き払いができる駅舎設計にするとともに、除雪がしやすいようにする。さらに、積雪シミュレーション結果を実際の設計プロセスに反映させるための、デザインガイドラインを開発した。
著者
程 子学
出版者
会津大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では、個々の学習者の状況を正確且つ全面的に把握し、その状況に応じた適切な学習支援を行うことを目的としている。ユビキタスラーニング環境においては、学習者は、実世界において実際のオブジェクトを観察・接触・操作することにより、学習することができる。また、学習支援は学習者の状況をアウェアし、リアルオブジェクトに埋め込んだ処理機能によって、適時適地に状況に適応するように行われることを目指している。今年度では、前年度の研究結果を踏まえ、学習者の状況を定義し、検出するプラットフォームとして、 SDML(Situation Description Markup Language)を提案し、室内に敷かれるユビキタスタイルというセンサーネットワークを開発し、個体(人やモノ)の位置と識別子を一括して取得することが可能になり、それに基いて、室内の学習者と周りの人やモノからなる状況を検知し、適切な支援を行う。特に、児童に対して、危険の状況を認識させ、安全意識の向上の教育に応用した。また、身体に装着するジャイロセンサーノードによって、学習者の活動の状況を把握する方法をも試みた。さらに、 U-Petというバーチャルキャラクタを設計し、センサ等で把握した学習者の実世界における学習活動の状態に基づき、ユビキタスペットの様態や支援の内容が変更し、学習者ヘフィードバックする。その特徴として、学習カーブの各フェース(順調、停滞、低下)に応じて異なる支援戦略をもって学習者に学習支援を提供できる。 U-Petは、自分の学習状態と成長率をもち、学習者の学習状態に適していきながら、一定の違いを持ち、練習しすぎた学習者に休憩を呼びかけたり、怠けた学習者に努力を喚起したりする支援を行い、学習活動を円滑に行うようにする。
著者
長友 和彦 森山 新
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

・多言語併用環境,特に三言語併用環境にある幼児,年少者,成人の日本語およびその他の言語の発達を文法やコミュニケーション能力の発達という観点から解明した。・5班に分かれた約20名の研究者で月1回公開研究会を行いながら,タガログ語,ベンガル語,スペイン語,中国語,台湾語,韓国語,日本語によるデータの分析とその分析結果の検討を行った。・数回にわたって研究成果の中間発表会および最終発表会を公開で行った。・平成15年9月にアイルランドで開催されたThird International Conference on Third Language Acquisition and Trilingnalismで研究成果を発表するとともにInternational Association of Multilingualismの発足式に参加した。・研究成果を報告書(pp.1-199)にまとめ,約400部を関係機関・研究者に送付した。・本研究を基礎として「マルチリンガリズム研究会」が創設された。
著者
中本 高道 石田 寛 長濱 雅彦 蓮見 智幸
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では、匂い再生システムを用いて動画や音声に合わせて匂いを発生させて、芸術作品を創作する。昨年度は香り付きアートアニメーションを2編制作し、アンケート調査により香りの効果を調査した。本年度はインタラクティブ嗅覚ディスプレイを製作し、料理ゲームコンテンツを作った。ユーザからもアクションを起こしてインタラクティブにコンテンツを体験することで、臨場感の向上が期待できる。また、多くの人に体験して楽しんでもらうことを考えて料理ゲームを制作することにした。また、誰にでもわかりやすいコンテンツにすることを目指しそ、料理の題材としてはカレーを選んだ。中心に置かれたなべに、バターをしいたり、ニンニクや、たまねぎ、肉やカレーのルー、スパイスなどカレーの素材を入れていって、ユーザが操作しながらカレーを作っていく。これらの素材を加えていくと対応した香りが発生しく香りも序々にカレーに近づく。また、これらに合わせて"ジュージュー"といったような効果音により、さらにリアリティを高める。この中で、ニンニクと肉の場合は好みに合わせてその量もユーザが調節することができる。プラットフォームとなるソフトウエアを選択し、動画像の制作、画像の制御ソフトは芸大側が担当し、東工大側は匂い調合装置とのインタフェース、匂い調合装置のソフトウエアの開発を行った。そして、制作した料理体験コンテンツをCEATEC JAPAN(10/3-7,千葉・幕張メッセ)、産学官技術交流フェア(10/11-10/13,東京・東京ビッグサイト),東京工業大学大学祭(10/28-29)でデモ公開を行った。前2の展示会では168名、大学祭では163名の人に体験してもらいアンケート調査を行った。その結果、匂いの種類が大きく変化するところでは印象が強く、9割以上の人が臨場感が匂い無しに比ぺて増加したと回答した。さらに英語版のコンテンツを制作して米国で開かれた学会IEEE Virtual Reality 2007にても公開実演を行ない、好評を博することができた。
著者
菅野 聡美
出版者
琉球大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本年度の研究実施計画に基づき、上京しての資料調査、複写、及び資料の購入を行った。加えてこれまでに収集した資料を読み込み、研究を進め、その一端を論文の形で発表した。具体的には以下のとおりである。1、研究の実施結果(1)琉球レビュー、同時代の演劇・舞台関係資料の収集と研究。(2)琉球レビューの発案者である秦豊吉に関する資料収集と研究,(3)琉球レビュー上演の場であった日劇をはじめとする劇場各社の社史や、演劇史・芸能史の把握。(4)猟奇・変態雑誌に掲載された沖縄出身知識人の言説や沖縄に関する記述の収集と検討。2、研究成果(1)沖縄の文化(舞踊、演劇、音楽など)研究は、ともすれば「沖縄」という枠内で進められ、本土の芸能史との相互関係が考慮されてこなかった。日本の音楽史・芸能史といった文脈に位置づけることで今後の研究の可能性が広がった。(2)日本の文化・芸能の歴史を考察する上で、西洋文化の受容と影響は無視できない。つまり異文化接触やアイデンティティーの問題として芸術史を考察する必要に気づいた。(3)資料の検討により、国策協力、国家権力による規制と介入、文化の政治利用といった政治的な観点から、大衆娯楽や芸術を検討することの有用性を確信した。3、研究成果発表本研究で収集した資料を用いて「琉球レビューと額縁ショー」を執筆、単行本に掲載された。
著者
瀧野 揚三
出版者
大阪教育大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2000

本研究は、学校心理学的な観点から、学級経営に介入する手法を開発し、それを評価することを目的としている。初年度は、学級介入方法の具体化と評価視点の探索的検討を、次年度は、介入の方向性、経過面接の構造化をより確かなものにするために、継続的に教師用RCRTの測定を行なった。本年度は、5人の教師とその担当学級を対象にした介入を行い、その成果を検討した。個別の関わりに加え、小グループを形成することによって、相互に理解し助言しあえる自助グループの形成もねらいとした。対象の教師には、6月、7月、9月、12月、2月の計5回の研修に継続的に出席してもらい、それぞれの教師用RCRTの結果を用いながら参加者の学級経営の事例検討、自己達成予言的に学級経営の具体的方針の提出、数人の児童に焦点を当てた意図的な関わりの報告、親近感についての調査の実施などが具体的な実施内容である。参加した教師は、教師用RCRTの結果の読み取りができるようになり、またその資料を元にしながら、学級経営の様子を他の教員に語ることができた。このように自らの学級経営の状況を客観化するなかで、意図的な関わりの対象になる児童の特定、関わりの内容についての設定をすることができた。短期の目標とやや中期の目標を立て、またその目標をグループのメンバーに報告するなかで、データをもとにした実施可能な学級経営の実践につながった。別の評価の視点としては、児童による親近感調査を行い、その結果に基づく児童への関わりの修正もできた。継続的な研修の中で、他の教師からの共感や助言の機会を持ち、また自分の実践を他の教師に理解してもらえるように表現できるようになった。これらのことは、学級経営に介入する手法として、継続的な小グループセッションで教師用RCRTを用いることが有効であることを確認した。