著者
三浦 宏之 吉田 恵一 栗山 實 真柳 昭紘 岡田 大蔵
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

歯は粘弾性体である歯根膜によって顎骨に植立されており,咀嚼時に機能力を受けると,歯槽骨の中に押し込まれて上顎臼歯部は口蓋側遠心歯根方向へ,下顎臼歯部は舌側方向へ変位して,歯および顎骨が受る咬合力を緩衝している.健常者の下顎第1大臼歯は,咬頭嵌合位での噛みしめ時に舌側方向へ50μm程度の回転成分の強い変位経路を示し,プリッツ咀嚼時にはプリッツが上下顎間に介在することによって下顎第1大臼歯は舌側方向のみならず頬側方向への力を受けるために頬側方向への変位を示すが,この頬側方向への変位は咀嚼の進行と共に減少し舌側方向の変位が増加する.一方,歯槽骨の吸収が認められる被験者の下顎第1大臼歯では噛みしめ時の変位量は50μm程度と正常者とほとんど変わらないものの,正常者とは逆方向の頬側方向に変位した.まだ,プリッツ咀嚼時に正常者に見られた咀嚼初期の頬側への変位が見られず,咀嚼初期より舌側方向に変位し,さらに健常者に比べて幅のある大きな動きを示していた.ブラックシリコーンにて記録した同症例の咬合接触像では,軽度,中等度噛みしめ時に遠心舌側咬頭内斜面に1点,強度噛みしめ時には遠心舌側咬頭内斜面,遠心咬頭外斜面,近心頬側咬頭頂の3点に穿孔が見られ,頬側咬頭内斜面のみに特に強い咬合接触像が見られるわけではなく,咬合接触像に特に異常は認められなかった.それにもかかわらず,正常者と異なる変位経路を示したのは歯槽骨の状態の変化によるものと考えられる.歯が機能時に正常時と異なる変位経路を示すと歯周組織の状態をさらに悪化させることも考えられる.したがって,歯槽骨の吸収を伴うような症例では歯周組織の破壊状態を適切に診査,診断を行うとともに,歯周処置を行い,補綴物製作時には補綴物に正常な変位経路をとるような咬合接触関係を付与する必要があることが明らかとなった.
著者
増田 佳丈
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本研究ではMOS-FETのゲート酸化膜(誘電体膜)の代替材料として期待されるTiO_2薄膜を、金属アルコキシドの加水分解性と揮発性を利用した気相加水分解法により、常温・常圧下で作製し、その特性を評価することにより、新規合成プロセス開発を行った。原料のTitanium(IV) isopropoxideと蒸留水をキャリアガス(N_2)によって気体として輸送し、両者を気相中で混合し加水分解反応によって生成するTiO_2をSi基板上に薄膜として析出させた。また、原料ガスにTetraethoxysilaneを混合することで、TiO_2-SiO_2複合膜を析出させ、キャリアガスの流量によって組成比を変化させた。XRDによる結晶化温度の決定、XPSによる組成分析を行った。また電極をつないだMOS構造でのC-V曲線とAFMによる膜厚測定から誘電率を計算し、I-V測定からリーク電流密度を測定、評価した。常圧・室温条件でSi基板上にTiO_2薄膜が形成された。XRD測定から、アモルファス相であることが確認され、400℃・1時間の加熱処理によって結晶化し、アナターゼ相を示した。AFMでは目立った粒界は確認されず、XPSでは残留炭素の存在が示された。TiO_2-SiO_2薄膜も同様にSi基板上に析出し、XPS測定の結果からキャリアガスの流量比を変えることで組成比を制御できることが示された。TiO_2-SiO_2(52/48)薄膜はTiO_2薄膜が結晶化する400℃においても結晶化を抑制することに成功し、700℃で初めてアナターゼ相へ相転移した。MOS構造における電気測定から、TiO_2薄膜の誘電率は40程度、TiO_2-SiO_2(52/48)薄膜は20程度という値が得られた。また、本研究に関しての受賞、新聞発表、招待講演等を下記に記す。日韓セラミックス国際セミナー 奨励賞 (2002年11月、増田)新聞発表 日本工業新聞 2002年4月3日(水曜日) 2面招待講演 Yoshitake Masuda, and Kunihito Koumoto Third International Symposium on Biomimetic Materials Processing (BMMP-3), Nagoya, Japan, January 27-29, (2003)
著者
石田 哲也 前川 宏一 半井 健一郎
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究の主たる成果は,以下の点に集約される.1.無機複合材料の硬化から劣化過程を時空間上で予測する熱力学連成解析システム「DuCOM」をベースに、微生物による有機物分解反応を逐一シミュレーション可能な「BioDuCOM」システムの構築に成功した.熱エネルギー,水分移動,および酸素移動と好気性微生物反応モデルを連成させることで,任意の形状,寸法,温度・湿度・通気に対する環境条件のもと,反応過程をシミュレーションするシステムである.限定された範囲ではあるが,温度,含水量,ならびに酸素を変化させた実験結果に基づきパラメータを設定することに成功した.モデルの一般化および高度化のためには更なる実験検証が必要であるものの,任意の廃棄物組成,温度,含水量,ならびに酸素供給量における反応を予測する数理モデルのプロトタイプを開発することに成功したのである.2.新しい原理に基づく有機系廃棄物のコンポスト化技術を提案した。最先端のコンクリート練混ぜ技術「MY-BOX」を改良・発展させ、コンポスト材料を対象とした重力駆動式かくはん・切返し装置「BioMY-BOX」を開発した。材料かくはん実験結果から,かくはん後の材料の均等性は手動かくはんと比べてほとんど差が認められなかった。ここで,かくはん工程に要する時間はわずか数秒であった。さらに,重力駆動型かくはん・切返し装置と発酵槽を鉛直直列に連結した自己切返し反応システム(STRシステム)を提案した。タイ王国における検証試験を通じて,STRシステムが妥当なかくはん・切返し性能を有すると共に,適切な発酵状態を実現することが明らかになった.
著者
榎並 正樹 増田 俊明 平原 靖大
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

顕微ラマン分光装置に組み込むための,超小型点接触変形装置を設計・製作した.この装置は,結晶にかかる局所応力のその場(in-situ)観察をすることを目的とし,精密可動ステージ,超小型ロードセル,アンプとダイヤモンド圧子からなり,試料への荷重の調製は手動で行う.変形観察する試料は石英の単結晶薄板であり,その下面をダイヤモンド圧子で点接触変形させ,それにともなうラマン・シフトの様子を,上面より薄板を通過させたレーザー光で観察する.1. この装置を利用して点接触変形をおこした際のデータと比較するために,まず応力解放後点接触面の2次元マッピングを行い,接触痕と残留圧力分布の関係を解析し,その結果を論文投稿した(投稿中).2. 点接触面の点分析により,石英とは異なる複数のピークが観察された.これは,点接触により,石英とは異なるSiO2相が掲載されたことを強く指示する.現在このピークの同定および,加重のキャリブレーションを行っている.3. ラマン分光分析の鉱物学的研究への適用例として,Enami et al.(2007)によって提唱されたラマン残留圧力計を,三波川変成帯高温部に適用し,エクロジャイト相変成作用の痕跡を検出する試みを前年度に引き続き行った.その結果,(1) 従来はエクロジャイト相変成作用の痕跡が報告されていなかった変泥質岩も,エクロジャイト相の圧力に対応する残留圧力を保持している場合があること,(2) そのような岩石中には,エクロジャイト相を代表すると思われるオンファス輝石やアラゴナイトが,ざくろ石中の包有物として産する場合があることが明らかとなった.これらの成果に関する論文2編を投稿中である.
著者
鶴田 隆治
出版者
九州工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

物理現象の素過程を解明するに有効な解析ツールである分子動力学シミュレーションを用いて,準平衡状態にある単純分子アルゴンおよび多原子分子水のナノバブルの生成と消滅機構について検討した.まず,三次元計算系に対する分子動力学シミュレーションによりナノバブルを発生させ,その界面構造を観察するとともにYoung-Laplaceの式の適応について検討をした.その結果,Young-Laplaceの式ならびに古典的核生成理論はナノバブルへの適応は妥当ではないことが分かった.次いで,ナノバブルが存在できる気液界面の力学平衡条件を探るために,周囲流体,特に液体側の界面構造に着目し,気泡の生成過程または平衡状態において,気液界面における界面構造と圧力・温度挙動を解析した.また,極座標解析を行い,ナノバブルの半径方向における気泡周りの数密度分布と力分布を求めた.さらには,強制的に外圧を加えた際のナノバブルの消滅過程を調べた.以上の解析結果より,ナノバブルの気液界面層において,分子が平衡状態よりも周期的に変化する大きな力を受け,気泡界面層の位置の遷移とともに界面層近傍の構造が気泡挙動と強く関連していることが分かった.すなわち,気泡外部の液体分子からの分子間力によって気液界面をつくるためのエネルギーが供給され,球形の気泡界面が形成・維持されていると考えられる.また,水分子においては,ナノバブルの界面は配向により負に帯電することを見出した.
著者
加藤 久典
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

昨年度の研究において、転写因子ATF-4およびボスファターゼPP1cのノックダウンがアミノ酸情報伝達を減弱させることを見いだした。本年度はこれらのさらに上流に位置する伝達経路の関与を明確にする目的で、mTOR経路の上流因子として最近見いだされたhvps34と、これを調節することが示唆されているp150に着目した。ノックダウン効率の検討では、HEK293細胞において、hvps34のmRNAレベルは約30%に、タンパク質レベルは約40%に減少した。一方HepG2においても同程度のノックダウン効率を得ることができた。何れの細胞株においても、p150のmRNAは約30%に減少した。アミノ酸によるmTORの下流にあるp70S6キナーゼのリン酸化はhvps34とp150の何れのノックダウンよっても大きく減弱した。これらのことから、各細胞におけるアミノ酸シグナルの認識にvps34が関わっていることを明らかにし、認識機構の全貌解明に本実験系が有効であることが示された。一方、前年のDNAマイクロアレイによる解析で、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)の遺伝子をアミノ酸欠乏に対する高応答遺伝子として見いだしたが、この遺伝子の上流域に既知のアミノ酸応答配列に類似した配列が存在することがわかった。この領域を含むレポーターベクターを作成し、転写因子ATF-3やATF-4と共発現させたところ、この領域がこれら因子によって強力な制御を受けていることが示された。このことから、PEPCKはこれまで用いてきたIGFBP-1同様にアミノ酸情報伝達を解析する上での有用なツールとして利用できることがわかった。
著者
松山 郁夫
出版者
佐賀大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

質問紙調査により、特別養護老人ホームの介護職員における認知症高齢者のコミュニケーション等の状態に対する認識を検討した。独自の質問項目からなる質問紙による調査の結果、346人の有効回答について俳徊の有無別に実施した因子分析の結果、「身体」「不適応」「コミュニケーション」「表現」の4因子から構成され、4因子各々の項目は同一であった。また、因子スコアを使用して各因子間の相関係数を算出すると各因子間において相関が認められた。このため、俳徊の有無に関わらず、介護職員は認知症高齢者の状態を「身体」「不適応」「コミュニケーション」「表現」の視点から捉えていると考察した。また、昨年度に引き続き、太田ステージの評価方法であるLDT-R(言語解読能力テスト改訂版)を用いて、89人の認知症高齢者の表象能力を段階別に分類できるのかを検討した。認知症高齢者の表象能力は、LDT-Rによって認知発達の低い順から段階別に分類できたため、太田ステージによる評価は認知症高齢者の表象能力を段階別に示していると推察した。認知症高齢者の表象能力を評価できれば、理解できるコミュニケーション方法を見出すことが可能になり、援助者との間にコミュニケーションが成立し、認知症高齢者の安定した生活につながると考えた。さらに、認知症の進行で表象能力や言語能力が低下し、物事への興味・関心が薄れることも考慮して、表象能力の段階が低いものには視覚的手がかりがあるパズル、高いものにはカルタを使ったレクリエーションを行った。各々集中して一定時間取り組むことができ、介護職員や利用者とのコミュニケーションをとることが増えたため、意欲的な生活につながっていると推察した。
著者
石井 研士
出版者
国学院大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

俗信や民間信仰は、表現形態は変わっても、日本人の基層信仰に深く関わる領域として認識されてきた。しかしながら、一部の民俗学研究の成果や、日本人の宗教意識・宗教行動の変化に関する研究から、基層的な信仰形態に大きな変化が生じていることが指摘されている。こうした俗信・民間信仰の変化に関する資料は、ごく一部を除いて存在しない。日本人の宗教性は、欧米のような教会帰属型の、自覚的意識的な宗教ではなく、日常生活の中で発揮される。こうした日常生活における宗教性の総体の変化を知ることが重要であると考えられる。本研究目的は以下の二点である。第一は、過去に行われた比較可能な俗信・民間信仰に関する調査結果の収集を行う。第二は、収集した資料を基にして、数量的な変化を把握することを目的として設定したときに有効な調査項目(質問文と回答のための選択肢)を考察する。俗信や民間信仰の現状に関する研究を概観すると、そうした現象があたかも「現代日本社会」において「誰でもが関与」しているかのように分析されていることに気づく。友引の葬儀、仏滅の結婚式、葬儀の際の清め塩、北まくら等、こうした現象に言及することで、あたかも現在も広く日本人の間に見られるかのようである。しかしながら世論調査の結果によると現在は少数派である。他方で、口割け女、ピアスの女、走り女、学校の二宮金次郎など、メディアに景況されながら、新しい都市伝説、民間信仰が生まれているのも確かである。世論調査によって明らかになる日本人の基層信仰はきわめてわずかであって、時系列上で比較なデータはさらに僅少である。日本人の宗教性のもっとも日常的で基層となる宗教性に関するデータの蓄積は研究の基本である。定時的で計測可能な世論調査によるデータ収集の実現が望まれる。
著者
加納 純也 張 其武 齋藤 文良 加納 純也
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

自動車のマフラーに使用される触媒は,自動車が寿命になると,白金などの貴金属を回収するために,積極的に回収される.しかしながら,その中から貴金属のみを効率的に回収する方法は,いまだ確立しておらず,その効率的な回収法の開発が望まれている.マフラーの中にはアルミナに白金などの貴金属が担持されており,そのアルミナから貴金属のみを分離するのが回収の重要な鍵を握る.そこで本研究では,メカノケミカル法を利用して自動車廃触媒からの貴金属を分離し,回収技術の開発を行う.すなわち,メカノケミカル法により,自動車廃触媒を微粉化し,活性化状態にし,その後,抽出処理により,貴金属のみを回収する.メカノケミカル法では,転動ボールミルあるいは遊星ボールミルを使用し,自動車触媒を粉砕し、得られた粉砕産物に対し王水を用いて抽出処理を行った。王水に溶解した貴金属をICPで濃度を測定し,評価した。自動車廃触媒中の白金などの貴金属はメカノケミカル法を適用しなくてもある程度は王水により抽出できる.ただその回収率は極めて低い.そこで、貴金属の回収率を向上するために抽出処理を行う前に転動ミルを用いて粉砕処理を行い、粉砕産物をいくつかの粒径ごとに分級処理を行った。その結果,粒径の小さなグループほど貴金属の回収率が高まることが確認された。このことを利用すれば、白金族金属の回収がより効果的に行えると考えられる。また、他の粒子サイズのグループにも貴金属が含まれているので,そのグループからも金属を回収する技術が今後の課題である.
著者
田口 信教 田中 孝夫 荻田 太
出版者
鹿屋体育大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

【目的】本研究は、昨年度の成果をもとに、低圧環境下を用いて一流選手にスプリントトレーニングを施し、エネルギー供給能力、泳パフォーマンスに対する有効性について検討することを目的とした。【方法】被検者は、年齢20±2歳、身長165.6±1.7cm、体重57.7±5.1kgの全日本学生選手権3連覇中の水泳部に所属する選手であり(女子4名、男子2名)、うち3名はリレーにおける日本記録保持者、1名はヨーロッパサーキットグランプリ出場、その他も全日本選手権、全日本学生に出場する選手であった。トレーニングは加減圧調整可能流水プールを用い、1日1回、週5回の頻度で4週間、海抜4000m相当の低圧環境下において行われた。トレーニング内容は、5秒の運動を10秒の休憩を挟み5回繰り返す間欠的運動とし、これを20分の休憩をはさんで2セット行った。強度は、常圧環境下において10秒程度で疲労困憊に至る強度とした。トレーニング効果は、常圧環境下における最大酸素摂取量、最大酸素借、最大推進パワー、50m、100m自由形泳記録の変化によって評価した。【結果および考察】4週間のトレーニング後、最大酸素摂取量に有意な変化は見られなかったが、最大酸素借は27%増加(前:2.85±3.57、後:3.57±1.56l)、さらに最大推進パワーも18%増加(前:90.1±45.2、後:106.4±40.4W)し、いずれの有意であった(P<0.01)。さらに泳記録についても50m(前:27.33±1.64、後:26.78±1.46秒)、100m(前:59.40±3.22、後:58.15±2.94秒)ともに有意に向上した(P<0.01)。以上の結果より、低圧環境下におけるスプリントトレーニングは、エリート選手に対してもエネルギー供給能力および泳成績の向上に有効であることが示唆された。
著者
小川 知之 亀高 惟倫 永井 敦 小川 知之
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本研究では工学に登場する非整数階微分方程式の解析およびその差分化を行った。また高階微分方程式の境界値問題のグリーン関数についてソボレフ不等式の最良定数計算への応用を中心に調べ、さらにパターン形成の問題と関連して分岐解析法を整備した。得られた結果は以下の通りである。1.流体力学に登場する非整数階微分方程式であるチェン方程式において、ピューズー展開法を用いてミッタークレフラー関数解を求めた。またこれらの初期値問題は、ミッタークレフラー関数の漸近挙動を用いることにより、(非整数階微分を含まない)2階および4階常微分方程式の境界値問題で近似されることを証明した。2.地球内部のマントルの運動に関連して,球面上でのラプラス作用素の有限要素法による差分化を行い、反応拡散系でのパターン形成の数値シュミレーションを行った.この問題はレーリー・ベナール対流のパターン形成などとも関連し,分岐理論による解析法を整備した.球面上に現れたパターンの球面調和関数による分岐解析などは今後の課題である.2.弾性理論に登場する4階常微分方程式の境界値問題のグリーン関数の区間長依存性を調べた。その結果、4階特有の興味深い現象が現れることを発見、解析的に証明した。同時に2M階常微分方程式のグリーン関数があるヒルベルト空間の再生核であることを証明し、この結果をソボレフ不等式の最良定数計算に応用した。
著者
米山 忠克 藤原 徹 林 浩昭
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

マメ科植物では篩管を移行する物質が窒素固定する根粒数を決めていること、これにはhar1遺伝子が関与していることを示している。しかし根粒数を制御する物質は未だ不明である。本研究で用いた植物ステロイドホルモンであるbrassinosteroidsは植物の成長において様々なはたらきを行なうだけでなく、最近は病害ストレス応答に関与し、病害抵抗反応をシステミック(全身的)に誘導することが報告されている。このbrassinosteroidsの最も生理活性の強いbrassinolideのダイズ野生株(エンレイ)および根粒超着生ミュータント(En6500)の地上部への処理と、brassinosteroidsの合成阻害剤のbrassinozoleをエンレイの葉部と培地から処理をして、葉部の成長と根粒の着生を調査した。Brassinolideの葉への処理はEn6500の根粒数を23-62%に低下させたが、エンレイでは根粒数は変化しなかった。Brassinolideの処理によって、節間は伸長した。葉にBrassinozoleの処理を続けるとエンレイの根粒数が増加した。また培地へのbrassinozoleの処理は節間を短くし、根粒数を増加させた。このような結果から葉部の,brassinosteroidsが篩管を通じてシステミックに根粒着生を変化させることが始めて明らかとなった。イネ篩管液からメタルの鉄、亜鉛、カドミウム、ニッケル、銅、モリブデンなどを検出した。とくにカドミウムと亜鉛については遊離のイオンでなく、大部分がリガンドと結合していていることを明らかにした。篩管内鉄またはその結合物質は鉄のシグナルとなっていると予想された。本年度から日仏共同研究「植物の炭素、窒素同化のシグナリングと代謝ネットワークの分子基盤とその応用」(代表 長谷俊治、Suzuki Akira)の日本側の研究協力者となった。ここでは代謝とそれを制御するシグナリングを研究することとした。また12月8〜9日と大阪大学蛋白研究所で開催された「植物代謝のネットワークとシグナリングの分子基盤とその応用」セミナーで「植物成長とC/N移行:^<15>Nと^<13>Cによる追跡」と題して本萌芽研究のテーマの長距離シグナリングメタボライトの存在とその重要性について講演した。
著者
藤崎 和彦
出版者
岐阜大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

異文化を背景に持つ外国人患者がわが国の医療現場でも増加してくる中で、日本人医師・医学生による診療現場での異文化コミュニケーションの医療人類学的視点からの現状把握や分析は殆んど行われていなかった。研究代表者は自らが10年来開発研究してきた模擬患者によるアプローチを使い、異文化を背景に持つ外国人患者と日本人医師・医学生の異文化コミュニケーションのありようと問題点を明らかにするために、医療人類学的視点から分析検討を行った。異文化を背景に持つ外国人(アジア系、ヨーロッパ系、中南米系の3グループ)を対象としたフォーカスグループインタビューを行い、患者-医師間の異文化コミュニケーションにおいて起こりやすいコミュニケーションギャップを抽出した。そこで抽出されたのは、1、システムの相違と医師の誠意の示し方の問題(「ここは小児を診ませんので他をあたってください」南米系女性ほか)、2、出産への認識の違い(「病気でもないのに出産後7日も何をしていればいいの?」南米系女性ほか)、3、民族的伝統治療法と生物医学治療のギャップの問題(「coca(コカインの原料)をください」南米系女性)、4、生物医学治療の土俗化と治療要求スタイルの相違の問題(「ステロイドの注射を打ってください」アジア系男性)、5、リスク・コミュニケーションのあり方の問題(「分かりきったことを言わないでください、分からないことを教えてください」複数より)6、保険システムの違い、経済負担、予防観の違い(「虫歯になっていないのに、何故治療をするの?」アジア系女性)、7、薬物療法のあり方の問題(「お弁当箱みたいに薬はいらない」南米系女性ほか)、8、医師-患者間の説明責任の問題(「先生は『はい、薬ね』と言ったきり、喉の組織を採取するわけでもありません」ヨーロッパ系アメリカ人女性ほか)、9、IT医療の問題(「ロボットに診てもらっているみたい」南米系女性ほか)これらに基づいて模擬患者用のシナリオを試験的に開発し、開発されたシナリオに基づき、模擬患者のトレーニングと養成を行い、模擬患者との医療面接セッションをビデオテープに記録し分析を行った。
著者
丸山 哲夫 梶谷 宇 長島 隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

昨年度に引き続き本年度は、哺乳類胚発生のメカニズムならびに胚の個体発生能を含めた質的ポテンシャルを、非侵襲的に解明し評価することを目的とした。そのために、マウス胚発生過程において培養液中に分泌されるタンパク質のプロファイル(secretome)を明らかにし、そのデータベース構築を目指すとともに、agingや機械的受精操作などがsecretomeにどのような影響を及ぼすかについて検討するための実験システムの整備を行った。まず、secretomeと胚発生・発育の関連を検討する際に、十分な胚盤胞到達率が得られなければならない。一方、プロテインチップ解析に供するためには、出来るだけ少量の培養液で行う必要があり、これは胚発生・発育にとって厳しい環境となる。このように、両者は相反するため、至適条件の確立が極めて重要である。そこで、培養液の変更など種々の検討を行った結果、60μ1の培養液量で約90%の胚盤胞到達率を再現性良く得られる培養システムを確立し、引き続いてその実験システムにより得られた各時期の培養液をプロテインチップ解析に供した。その結果、コントロール培養液に比較して、胚存在下の培養液では、複数の特異的蛋白ピークが検出され、また時期に応じてそのプロファイルは変化した。これらの一連のsecretomeのプロファイリングと胚盤胞到達率との関連を検討するとともに、今回検出された複数の特異的蛋白の同定を目指し、MALDI/TOF-MS質量分析計への解析に供するに必要な実験システムの更なる構築を行った。昨年度より引き続いて本年度得られた上記の成果は、マウスのみならずヒト胚のqualityの非侵襲的評価システムを確立するうえで、重要な基盤データになると考えられる。
著者
鈴木 英一
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

最終年度の本年度には,過去二年間の研究を踏まえ,インターネット上の英語データから作製する言語データベースを英語研究・英語教育に利用し易いフォーマットに変更する方法を検討し,インターネットから良質の英語のウェブページを収集し,それから英語のデータベースを作成するための方法を検討した.このような方法をできる限り容易に実現できるように次のような検討を行った.(1)どのようなフォーマットをもつ言語データベースが一般的に最も柔軟で多目的であるかの検討(2)これまでの言語データベースを使用した経験に基づいた,言語研究・言語教育に最適なフォーマットの検討(3)データベースのフォーマットを使用者の希望に応じて再構成できるプログラムの検討(4)英語データの検索→英語文の抽出→英語データベースの作製→データベースのフォーマットの変更という手続きを簡単に行う方法の検討英語研究と英語教育に最も適切なデータベースの形式は,一つの文が一行になっている,すなわち,一つの英文が改行によって複数の行に分けられていないフォーマットであることが確認された.このような形でインターネットのウェブページを最も容易に利用できる方法は,MicrosoftやGoogleやYahooが提供する,いわゆるDesktop Searchと呼ばれるものである.これは,使用者のハードディスクの内容とインターネットのウェブページをシームレスに検索してくれるものである.また,データベースを作成するためにはhtmlファイルを効果的にテキストファイルに変換する必要があるが,最近,「html→テキスト変換」のソフトウェアがフリーウェアを含めて,かなりのものが出回っているので,どれがより使いやすいかを詳細に検討した.Desktop searchや「html→テキスト変換」によって得られたデータは,出典をタグとして付加し,さらに,行数も付け加えることによって,使い易くなることが明らかになった.今後は,3年間の研究を踏まえて,データベースの作成のためのプログラムの紹介や利用方法,作成された英語データベースのサンプル,英語データベースを利用した英語研究や英語教育への応用にいてまとめて,公刊したいと考えている.
著者
大柿 久美子 吉川 邦夫 石川 本雄 藤野 貴康
出版者
東京工業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

平成17年度にモニターとして募集した現在子育て中の母親達を対象にエネルギー環境教育を行ない、その前後約3週間ずつ計6週間にわたって、それぞれのモニター家庭において次の記録を依頼した。(1)毎日朝または就寝前のどちらかを各自で選択し、1日1回ほぼ同時刻に、電力、ガス、水道のメータを記録する、(2)ごみ収集日には搬出前に焼却ごみの重量を計測する、(3)家族の一人ひとりについて、家にいなかった時間と睡眠により活動しなかった時間を記録する、(4)来客についても来た時刻、帰った時刻、睡眠時間帯を記録する、(5)使用した暖房器具類を記録する、(6)その他エネルギー消費量等に大きく影響する出来事を記録する、という内容で、協力を得ることが出来た。本年度は、これらの記録に気象データを加えたものを用いて、エネルギー消費量がエネルギー環境教育以降どのように変化したかを数値的に解析することで、教育効果が人の行動にどのような変化をもたらしたか評価を行なった。特に電力消費量について、エネルギー環境教育を実施する前3週間の毎日の電力消費量をそれぞれのモニター家庭における生活のパラメータと気象データを説明変数として重回帰分析を行い、その結果得られた回帰係数を用いてエネルギー環境学習会以後の電力消費量を予測し、実測値との残差を求めることで、教育が電力消費量にどのような変化を与えたかを数値的化した。また、教育効果が有意な行動変化をもたらすことが確認された事を受けて、エネルギー環境教育を個人の生活の中だけでなく、社会構造の変革につなげることが重要であると考え、知識社会への変革を持続可能な社会を実現するDriving Forceとすることが出来たと仮定し、一次エネルギー供給量、最終エネルギー消費量、二酸化炭素排出量の将来予測計算を行なった。この計算にはAim-Trendモデル(国立環境研究所)を用いた。本年度の研究成果として、20名のうち8名のモニター家庭で教育効果が電力消費量の減少という行動変化として確認された。データ数の多さに依存しなくても丁寧な分析を行なうことができれば、教育がもたらした行動の変化を数値的に得られることが示され、今後教育のあり方などに関して定量的な議論が行なえる事を示した。エネルギー環境教育を個人生活の中だけでなく、社会構造の変革につなげることが持続可能な社会の形成につながる。その環境負荷低減効果を知識社会モデルに基づいて試算した。
著者
梅津 光弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本年度は3か年におよぶ研究の最終年として、これまでの研究成果をふまえた日米の比較およびまとめをおこなった。4月には日本経営学会関東部会,8月にはアメリカ経営倫理学会、9月には日本経営学会大会、慶應義塾商学会例会、10月にはアメリカ企業倫理担当者会議においてそれぞれ研究発表を行った。日本における不祥事にはいくつかのパターンが見られるが、その誘因としては組織内における営利を最優先する組織文化やそのなかで慣例とされている多くの業務遂行方式があげられる。そうした慣行が放置されると現場の従業員は倫理や法令遵守よりも営利を優先して当然とする錯覚に陥り、無自覚なまま不正行為を行い続けることになる。また不正行為がはびこる職場ではコミュニケーションの悪さが目立ち、管理者に対する隠ぺい工作などが行われ、現場と管理者との認識や価値観の乖離を招く傾向がある。欧米においてもこのような傾向は見られるものの、法令や倫理を経営トップが重視する方針が明示されると、従業員はそれに従う傾向があるのに対し、日本の企業においてはより現場にちかい監督者やその部署の風土、同僚の影響などが大きな要因となる。こうした、日本的な組織の特徴を考えると、法令遵守や契約を重視する企業倫理プログラムよりも、価値共有を浸透させる組織内制度の構築が重要であることが分かる。本研究の成果として、日本の組織における組織内不正行為の防止およびその再発防止策としてはリーダーシップの重要性や細かいルールの策定もさることながら、より現場に密着した組織文化の構築や、分かりやすい原則を徹底することが重要かつ効果的な施策であると結論付けることができる。ここ数年、日本の企業においても企業倫理プログラムを導入するところが増加しており、以前に比べると改善が見られるものの、法令遵守を強調する倫理プログラムが多く、また一部の企業では表面的な制度の導入にとどまり、組織内における価値観の共有、浸透・徹底が不十分である。また現場に対する教育・訓練野実施も不十分である。今後は日本の企業をはじめとする各種の組織において、より自発的な浸透への努力がなされるべきであり、そうした能動的な倫理や法令遵守にかんする理解と取り組みなしでは、真の意味での再発防止にはつながっていかない。今後いっそうこの分野における研究と日本的な組織風土にあった制度化のイノベーションが求められている。
著者
大久保 功子 百瀬 由美子 玉井 真理子 麻原 きよみ 湯本 敦子
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

看護への示唆を得るためCohenらの解釈学的現象学を用い、当事者の視点から遺伝子診断による選択的中絶の意味を記述した。浮かび上がった主テーマである「つながりの破壊と障害者の存在に対する相反する価値との直面」をもとに物語を再構成した。I.知るということ、「1.夫婦の心のすれちがい、2.不幸の上にもっと不幸:障害の差異化、3.家族の中での犯人探し、4.自己疎外」II.選ぶということ、「1.身ごもった子どもの存在を宙吊りにしておく辛さ、2.障害者の存在の肯定と否定に引き裂かれて、3.中絶した子どもを忘れてしまうことの罪悪感と、亡くしたことを悲しむことへの嫌悪感というジレンマ、4.内なる優生思想との遭遇」III.つながりへの希求、「1.夫婦と家族の絆、2.必要なうそ、3.子どもに受け継がれ再現される苦悩への懸念」出生前遺伝子診断では、遺伝病という衝撃が生んだ夫婦の心のすれ違いと、障害の差異化によって人とのつながりが破壊され、家族の中での犯人探し、自己疎外、障害者の存在の肯定と否定とに直面化を招いた。選択的中絶によって自分の中での合い入れない価値観に自らが引き裂かれ、内なる優生思想が自分や家族の中に露呈するのを目の当たりにしていた。どのように生きるかを選ぶことは当時者の実存的問題であり、医療が決めることではない。しかし未来の中に苦悩が再現される可能性が出生前遺伝診断の特徴であり、その人の生き方ならびに人とのつながりを診断が破壊、支配もしくは介入しかねない危険性をはらんでいる。生きていくのを支えていたのもまた、人とのつながりでありであった。医療者自身が障害と選択的中絶に対する価値観を問われずにはおかないが、同時に中立的立場と判断の止揚を求められている。世代を超えた継続的なケアと、人と人とのつながりへの細心の配慮と、看護者自身がその人とのあらたなつながりとなることが必要とされていることが示唆された。
著者
正村 和彦 目黒 玲子
出版者
弘前大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

ウイスターラットに拘束水浸(23℃)ストレスを2.5時間与えた後、われわれが開発した三価の非ヘム鉄および二価の非ヘム鉄を組織化学的に証明する高感度灌流パールス法と灌流タンブル法(Meguro et al.,2003)で可視化し、胃粘膜の非ヘム鉄の動態と胃粘膜傷害との関連を光学および電子顕微鏡で調べた。水浸ストレスによって胃の小弯側に生じた粘膜褶曲の凸部に胃粘膜傷害が生じた。胃粘膜傷害では胃の壁細胞が他の粘膜細胞よりも早期に傷害されることが観察された。壁細胞は細胞および核の膨化と核クロマチンの凝集による核質の淡明化を示した。正常の壁細胞はおもにミトコンドリアに非ヘム鉄を蓄積しているが、胃粘膜傷害部位では、壁細胞における非ヘム2価および3価鉄の増加が見られた。これに関連して、傷害された壁細胞にヘムオキシゲナーゼ 1およびフェリチンの発現が増加した。これらの所見から、ストレスによる胃粘膜の局所的虚血によりミトコンドリアの膜傷害、ミトコンドリアの非ヘム鉄およびヘム鉄の細胞質への遊離、ヘムはヘムオキシゲナーゼ 1によって酸化/分解されて非ヘム鉄が遊離、これに対応して非ヘム鉄を隔離するためにフェリチンの発現が起きたと考えられた。また、再灌流によって生じたスーパーオキサイドと遊離の鉄イオンが反応してヒドロキシラジカルを生成し、これが壁細胞および周囲の他の細胞の膜脂質、蛋白質、DNAなどを酸化して傷害を起こし、広範な胃粘膜傷害を結果すると考えられた。水浸ストレスによる胃粘膜傷害は胃粘膜の褶曲部に生じることから、胃の筋層の局所的収縮が粘膜血管を圧迫して虚血を生じることが考えられた。
著者
徳安 健 廣近 洋彦
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

イネの二次壁セルロース生合成に係る酵素遺伝子を部分的に改変したものを導入し、遺伝子組換えイネを作出することにより、茎葉の細胞壁のセルロース構造を部分的に改変し、酵素糖化性が向上した植物体とする可能性を検討することを目的として、本萌芽研究を実施した。イネ二次細胞壁セルロースの生合成に関与する三種類のセルロース合成酵素(OsCesA4,OsCesA7及びOsCesA9)をコードする遺伝子に対して、部位特異的変異が導入された配列をもつ3種類のベクターをイネに導入し、形質転換株を得た。その結果、表現型として、カマイラズ形質の株やそうでない株が混在することとなった。大量発現により、遺伝子発現そのものが抑制されている株が存在する可能性が示唆された。今回の実験では、ノーザンブロット法によりセルロース合成酵素遺伝子の発現量が多い株を選抜することとした。選抜株の茎葉を回収したのち、亜塩素酸処理と水酸化カリウム処理により粗セルロースを精製し、その酵素糖化特性を評価した結果、コントロールイネの茎葉と比較して、有意な効率化は観察されなかった。その一方で、組み換えイネ由来セルロースのX線散乱データでは、結晶化度には差は見られなかったものの、セルロースミクロフィブリル繊維の配向性には差が観察された。細胞や細胞壁構造の構築速度やバランスが異なっているものと推察された。予備的検討としての本研究では、結晶構造そのものが破壊されたことを示すデータは得られなかったが、プロモータの検討、セルロース合成酵素遺伝子の部位突然変異導入場所、セルロース合成酵素複合体形成の有無の確認手法の開発、選抜基準の確定などの各要素を検討することにより、研究を着実に前進させることが可能となる。また、酢酸菌のセルロース合成系等を活用した低次元の実験モデルで、その戦略の妥当性を確証し、植物へ活用することが望ましいと考える。