著者
林 良嗣 加藤 博和 〓巻 峰夫 加河 茂美 村野 昭人 田畑 智博
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

社会基盤整備プロジェクトのLCAにはSocial/Dynamic LCA概念の具体化が必要であることを示し、各社会システムに対してLCAを実施したところ、以下に示す成果を得た。1.交通・流通システム:1)道路改良事業の事業計画段階において、環境負荷削減効果を自動車走行への波及効果を含めて定量的・包括的に評価するための方法論を構築し、自動車走行状況に応じた削減効果の発現条件を明らかにした。2)航空路線を削減し新幹線輸送に転換させることの有効性について、LCAを導入して検証を行う方法を提案し、新幹線整備をCO_2排出量の観点から評価した。3)容器入り清涼飲料水の流通段階の環境負荷排出の内訳をLCAにより詳細に分析し、流通・販売形態によってLC-CO_2が大きく異なることを明らかにした。2. 廃棄物処理・上下水道システム:1)ごみ処理事業を対象とし、中長期視点から処理施設の維持・更新とごみ処理に係るLCC、LC-CO_2を算出することで、将来からみた現在のごみ処理施策の実施効果を評価するモデルを開発した。地方都市でのケーススタディでは、現在のごみ処理施策実施に伴うLCC、LC-CO_2を積算し、これらを削減するための処理政策を提案・評価した。2)生活排水処理システムについて、計画段階でLCAを適用のするために必要な原単位を整理・分析し、実際の計画へ適用したところ、排水処理技術の進展についても考慮が必要なことが明らかになった。3. 都市システム:1)地域施策や活動にLCAを適用する際の課題を整理し、地域性の表現、地域間相互依存の考慮といったLCAの手法面で検討が必要な項目を明らかにした。2)郊外型商業開発のLCAを用いた分析の枠組みを整理し、時系列的な変化を考慮することの必要性や統計データの精度に改善の余地があることを示した。なお、日本LCA学会誌Vol.5 No.1(2009年1月発行)において、研究分担者・加藤博和が幹事を務めた特集:「社会システムのLCA:Social/Dynamic LCAの確立を目指して」は、本研究の成果公表の一環として位置づけられている。
著者
西村 浩一 阿部 修 和泉 薫 納口 恭明 伊藤 陽一
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「地震と豪雪」の複合災害の中で、「冬に地震が発生」した際の雪崩災害危険度の評価手法を開発し、被害軽減に資することを目的とした。今年度は、主に地震時の積雪の破壊強度とその挙動を調べる目的で、防災科学研究所の雪氷防災実験棟において小型振動台を用いた積雪の破壊実験を実施した。実験にはロシアのAPATIT雪崩研究所殻からChernouss博士も参加し、共同で実施された。加速度計を埋め込んだ積雪ブロックを凍着させ、一定振幅のもとで2次元の振動数を増加し、積雪がせん断破壊した時点の加速度、上載荷重、断面積から、「新雪」、「しまり雪」、「しもざらめ雪」の「高歪速度領域の積雪破壊特性」とその密度依存性が求められた。また2次元振動に伴う、法線応力の効果についても議論を行った。さらにこの破壊特性を積雪変質モデル(Snowpack)に組み込んで、対象領域の地震発生時の雪崩発生危険度予測図を作成した。一方、こうした一連の取組みに対して、トルコの公共事業省災害監理局から共同研究と技術支援の依頼があり、研究協力者2名とともに現地視察を行ったほか、地震による雪崩発生の現況および危険度評価と災害防止手法開発に関する意見交換を実施した。現在、今後の共同研究策定に向けて調整を実施中である。
著者
澁谷 誠二 若山 吉弘
出版者
昭和大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

平成16年度・17年度進行状況と本年度(平成18年度)成果平成16年度はMDXマウスへのゲンタマイシン薬物治療単独で、平成17年度はMDXマウスへの正常マウス臍帯血移植とG-CSF投与正常末梢血輸血を施行した。これらでは、治療群MDXマウスにおいて、一般筋病理組織像の変化はみられず、また、免疫染色標本による骨格筋ジストロフィン発現の解析においても、対照マウスと比較して明らかな変化はみいだせなかった。平成18年度は、ゲンタマイシン薬物治療と正常マウス臍帯血移植の併用療法を中心に、特に、マウス骨格筋のジストロフィン陽性線維の割合を治療群マウスと未治療群マウスにおいて統計的に比較検討した。生後1ヶ月および2ヶ月のmdxマウス各々6匹ずつにゲンタマイシンを投与し、投与終了4週後に免疫抑制剤(サンデユミン)で前処理した後、正常マウス臍帯血を尾静脈に静注し、静注後4週後の筋組織を解析した。その結果、治療群のmdxマウスでは未治療群のmdxマウスと比較して、その一般筋病理組織像に変化はみられなかった。一方、ジストロフィン免疫染色による解析において、未治療群のマウスでは1%以下のrevertant線維(ジストロフィン発現が明瞭な線維)が認められ、治療群のmdxマウスでの発現増加を期待したが未治療群のmdxマウスと違いは見られなかった(p>0.1、T検定)。ジストロフィン発現が明瞭な線維以外の筋線維のジストロフィン発現状態も観察したが、平成16年度と平成17年度の結果とどうように、ジストロフィンがごくわずかに発現していると思われる筋線維は治療群のmdxマウスで多いように思われたが、明らかな違いはみられなかった。
著者
滝 充 惣脇 宏 大槻 達也 宮下 和己 滝 充
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

(1)19年度末に実施した「小学校学級担任調査」では、愛知県A市の協力を得て、6つの小学校の4〜6年生の学級担任から、暴力行動等で気になる児童26名の情報を収集した。その中の6年生11名(母集団は850名あまり)に着目し、彼らが中学1年生になった20年度の変化を追跡した。2年間分のデータからは、次のような知見が得られた。(1)11名中6名については、軽度の発達障害や規範意識の未熟さ等の問題から、小学校教諭によって「暴力的」と評価された可能性が高い。必ずしも積極的に他人を攻撃しているわけではなく、行為を自制できないことで、結果的にトラブルを起こしていると見られる。(2)一方、残る5名については、ストレス症状が顕著に見られ、それがいじめ等の攻撃的な行為に向かわせている可能性が高い。中学に進学してストレス状態が緩和された場合には、暴力的な行動がなくなった事例も見られた。(3)中学校の「暴力」の把握は、後者の事例が中心となっていることからと、小学校の把握との間にズレがあることがわかった。(2)ヨーロッパの学校における暴力事情の調査からは、以下の知見が得られた。(1)欧米のbullying概念が、日本で言うところの「いじめ」と「暴力行為(校内暴力)」を明確に区別しないまま論じられている。(2)その背景にあるのは日本とは比べものにならないほど激しい「暴力行為」が日常化していること、等が分かった。
著者
澤井 志保 暁 清文 秦 龍二 出崎 順三 朱 鵬翔
出版者
愛媛大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

虚血性難聴モデル動物に骨髄造血幹細胞を用いた再生治療を試みた。内耳虚血負荷を加えた砂ネズミに骨髄造血幹細胞を内耳に移植すると、聴性脳幹反応(ABR)の虚血性障害が有意に改善した。更に蝸牛を摘出し、有毛細胞の細胞死の有無を検討すると、幹細胞治療群で有意に内有毛細胞の虚血性細胞死が抑制されていた。次いで細胞死抑制機構における骨髄造血幹細胞の役割を検討するために、骨髄造血幹細胞を蛍光色素でラベリングし経時的に細胞動態を調べると、内耳に移植された骨髄造血幹細胞は鼓室階に留まっており、内有毛細胞に再分化したり、障害を受けた内有毛細胞と融合した骨髄造血幹細胞は見いだせなかった。従って内耳虚血障害では、骨髄造血幹細胞が有毛細胞に再分化したり障害有毛細胞と融合して、有毛細胞を再生する可能性はほとんどないと考えられた。一方幹細胞は多分化・自己再生能以外に各種栄養因子を分泌することが知られている。そこで各種栄養因子を調べてみると、骨髄造血幹細胞治療群の蝸牛では有意にglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)のタンパク量が増大していることが明らかとなった。以上のことより、骨髄造血幹細胞は内有毛細胞に再分化したり、障害を受けた内有毛細胞と融合するのではなく、内耳でのGDNFの発現を増大させることで虚血性内耳障害を軽減させることが明らかとなった。今回の検討では残念ながら骨髄造血幹細胞からは有毛細胞の再生は認められなかった。そこで現在有毛細胞自身の再生を目指して、胚性幹細胞を用いた分化誘導実験を行っている。これに成功すれば有毛細胞を直接再生することが可能となり、再生治療の新たな手法を開発できるものと考えられる。
著者
佐藤 尚弘
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

1.光硬化型ペースト陶材の開発本研究のスタートは,光硬化性のリキッド(マージンポーセレンPLC、(株)ジーシー)をペースト陶材に混和して用いる方法であったが,これではペーストの稠度が変化し、賦形性が悪くなった。また,この液を大量に用いた場合には焼成後の灰分残留が大きな問題となった。ペースト陶材は元々焼成時に有機成分の抜けが悪く、その分灰分残留に一層の拍車をかける結果となった。以上の理由から、新たに光硬化型ペースト陶材そのものを開発する方向に転換し,現在試作ペーストを作製して実験を行っているが、操作性の優れたペーストの完成にはいま少し時間が必要である。2.ペースト陶材とオールセラミックスを用いた審美修復法の開発金属焼付ポーセレン用に開発したペースト陶材を,オールセラミックスに応用できれば審美性に優れた修復物の簡便な作製が可能となる.そこで,2種類のオールセラミック試片(In-Ceram Alumina.In-Ceram Spinell)にペースト陶材をレヤリングし,その強度を粉末陶材でレヤリングしたものと比較検討した.ISO 6872:1995 Dental Ceramicsに準じて3点曲げ試験を行った結果,ペースト陶材は従来型の粉末陶材よりもわずかに高い値を示した.このことからペースト陶材がオールセラミックスのレヤリングに有効である事が示唆され,2003年6月にスウェーデン・イエテボリのIADRにおいて,Flexural Strength of All Ceramics Layered with Paste Porcelainの題名で発表した。現実的な審美修復法としてメタルフリーのオールセラミックスにペースト陶材をレヤリングするのが適切であると結論されたが、光硬化性ペースト陶材も開発の可能性が十分確認されたことから、引き続き本研究を継続する予定である。
著者
櫻井 幸一
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

電子投票では現行の投票制度では発生しない無証拠性問題を検討した。票の販売を防止するために,独立的な二つの機関を利用して,投票内容は二つの機関の公開鍵で暗号化する手法を提案した.とくに、研究では、提案する無証拠性手法と他の方式を比較すた.最近提案されている無証拠性手法は複数の通信路複数のセンターを利用する.これらの提案方式は電子投票の実現が複雑になる.電子投票では,投票者が政党でも候補者に自身の投票内容を証明することが出来なくなければならない.また,無証拠を実現するために,二つの独立機関を利用した二重暗号を基盤とした.これにより,シンプルで効率的なシステムが実現することができた.さらに,不在者投票のための票-取消手法も検討し、票-取消手法は機密性を維持しながら,投票を取消すことができようになった。これらの結果は、国内外の暗号と情報セキュリチティの学会において発表した。
著者
菅谷 純子 弦間 洋 瀬古澤 由彦
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度は、果実発育および成熟時の内生ABA量とその代謝産物であるファゼイン酸(PA)およびジヒドロファゼイン酸(DPA)の定量を行い、ABA生合成遺伝子である9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase(NCED)遺伝子、PpNCED1とPpNCED2について、その果実と樹体における発現特性について詳細に検討し、果実発育、成熟時のABAの機能について解析した。その結果、前年度も確認された内生ABA量の果実成熟時における増加とそれに続く減少は、ABAの代謝、すなわちABA→PA→DPAという速やかな変化により制御され、それによりABAの一過的な上昇が認められることが強く示唆された。また、PAは果実発育の初期に多く、その後減少することが示された。さらに、定量PCRによりNCED遺伝子の発現解析を行った結果、ABAの上昇はPpNCED1遺伝子の発現上昇を伴って起こることが示された。その上昇は、エチレン生合成酵素遺伝子の前に認められ、果実の成熟開始の初期にPpNCED1遺伝子が関わる可能性が示された。また、PpNCED1遺伝子の樹体における発現量を比較したところ、PpNCED2は茎で発現量が高いのに対して、PpNCED1遺伝子は茎頂や葉での発現に比較して成熟果実における発現が著しく高いことが明らかになった。ABAの生合成は乾燥ストレスにより誘導されることが知られているため、葉に乾燥ストレスを与えた際のPpNCED1遺伝子の発現量を調べた結果、約50倍の著しい発現上昇が認められ、本遺伝子が乾燥ストレス誘導性の遺伝子であることが明らかになった。また、プロモーター領域をクローニングした結果、複数の重要なシス因子の存在が示された。これらの研究により、果実におけるABAの生合成の制御様式について遺伝子レベルの制御機構が存在することが示され、成熟シグナルとの関与が示唆されたと考えられた。
著者
小椋 たみ子 松尾 雅文 松嶋 隆二 常石 秀一 竹島 泰弘
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1.Duchenne型筋ジストロフィー児165名に対して知能、発達評価を行なった。(1)IQ69以下の精神発達遅滞は25,6%、IQ 70-89が39.6%、IQ 90-109が28.7%、IQ 110以上が6.1%で精神遅滞が1/4であった。知能(IQ, DQ)の平均は80.2であった。(2)PIQとVIQの差はWISC(94名)、新版K式(26名)においては有意差なし、WPPSI(45名)においてはPIQIQ(84.8)がVIQ(74.2)より有意に高かった。(3)下位検査の評価点はWISCでは類似問題が最低点(7.0)、迷路が最高点(11.0)、WPPSIでは理解問題が最低点(5.2)、迷路が最高点(9.1)であった。言語概念化能力と言語表出能力が低かった。(4)32名の1年以上後の再検査(平均26.6ヶ月間隔)でFIQ, PIQ, VIQとも有意差はなかった。進行に伴う知能の低下はないと考えられる。2.Duchenne型筋ジストロフィー児43名(平均7.1歳)にITPA言語学習能力検査を実施した。「ことばの表現」「ことばの類推」の評価点が低かった。3.サザンプロット法、PCR法、RT-PCR法、直接塩基配列解析法により遺伝子異常を同定した症例について、遺伝子異常と知能との関連を検討した。欠失・重複例(97名)と微小変異例(53名)で、IQの平均値の差はなかった。欠失・重複例と微小変異例について大脳、脊髄をコントロールするエクソン44と45の間にあるdp140のプロモーターと知能の関係をみると、両例とも遺伝子異常がイントロン44より上流にとどまる群はイントロン45より下流に及ぶ群に比べ、IQ、VIQ、PIQとも有意に得点が高かった。なお、欠失・重複例はイントロン45より下流に及ぶ群(65.4%)、微小例はイントロン44より上流にとどまる群(74.1%)で出現率に有意差があった。ITPAにおいてはdp140のプロモーターとの関係は見出されなかった。4.筋ジス児の言語音の有標性を検討するために構音検査を実施したが、誤構音は少なかった。
著者
田代 学 藤本 敏彦
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

健康な日本人若年男性を対象として、一過性の全身運動直後の急性効果および数日間の継続的運動による慢性効果が細胞性免疫機能(ナチュラルキラー細胞活性 : NKA)および局所脳活動にいかなる影響を与えうるかを本研究で調べた。NKAは一過性運動終了後に軽度上昇し、その後低下する傾向を示した。継続的運動後ではNKAが軽度上昇する傾向が観察された。全身運動に伴う局所脳活動とNKAの関係については、急性運動時および慢性運動時の影響に差異が観察された。一過性運動後にNKAの値と有意に正の相関を示した脳領域は、中心後回および前回、上側頭回、小脳半球であり、負の相関を示した領域は前および後帯状回、頭頂葉であった。継続的運動後の安静時測定では、NKAの値と有意に正の相関を示した領域は前頭葉、側頭葉、頭頂葉にわたる広い範囲であり、負の相関を示した領域は側頭葉、後頭葉、小脳虫部であった。また、全身運動前後に心臓、肝臓、筋肉などの各臓器におけるエネルギー消費の再分配がおこっていることも本研究で明らかになった。健常人においてNKAと局所脳活動との間に相関が示されたことは重要な所見と考えられた。前頭葉の活動とNKAの正の相関が継続的運動の実施後のみで観察されたことから、継続的運動後のNKA値の変化に高次脳活動が関係し、側頭極および下前頭回が情報伝達路として機能している可能性が示唆された。本研究において、全身運動による脳-免疫相互作用が明らかになっただけでなく、全身運動により多様な全身機能の調整が起こり、脳が調節機能を発現していることが示唆された。上記の成果により、PETの健康科学への応用がより現実的となった。
著者
山本 博 渡邉 琢夫
出版者
金沢大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、細胞膜上にヘム蛋白性酸素感受性イオンチャンネルを持つPC12細胞を用い、その細胞膜画分のヘム蛋白をプロファイリングすることにより、新規酸素感受性分子(酸素センサー)を同定することである。平成14年度中の研究により、Lithium Dodecyl Sulfate (LDS)を用いた低温下ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(LDS-PAGE)と、ヘム分子団のペルオキシダーゼ様活性に基づきヘム蛋白を特異的に検出するルミノール化学発光反応を組み合わせた、高感度ヘム蛋白検出法を確立した。平成15年度の研究は当初計画通りに遂行され、以下の成果を得た。1.PC12細胞の粗精製細胞膜画分蛋白を低温下LDS-PAGEにより分離後、ルミノール化学発光反応液中でインキュベートしフルオログラフィーをとることにより、粗精製細胞膜画分に含まれるヘム蛋白のバンドを同定した。さらに、同一試料を並行して泳動したレーンをクマジーブリリアントブルーで染色することによって得られた全蛋白の染色バンドと、フルオログラム上のヘム蛋白のバンドの位置を比較することにより、ヘム蛋白を含むと推定される蛋白のバンドを同定した。2.1.によって同定された蛋白のバンドを切り出し、そこに含まれる蛋白を、液体クロマトグラフィー・マススペクトロメトリー法によって同定した。その結果、約50種の蛋白が同定された。3.現在、2.によって同定された蛋白の中から、構造や推定される機能などに基づいてヘム蛋白である可能性の高いものを抽出し、ヘムとの結合性を検討中である。すでに、ソーレーバンド(蛋白とヘムとの結合により見られる波長400nm付近の特異的吸収帯)などにより、ヘムとの安定した結合が確認されている蛋白もある。今後、これらの新規ヘム蛋白の機能の解析を進めていく予定である。
著者
吉岡 尚文 権守 邦夫
出版者
秋田大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

様々なアナフィラキシーショックのうち、抗原・抗体反応に起因するショックは例えば、IgA欠損症や他の血漿蛋白欠損患者への輸血でしばしば経験されることである。本研究はこれに類似するモデルをin vitroで作成し、肺動脈由来内皮細胞の挙動を検索することにより、その病態の解明と治療への応用を検討することを目的とした研究である。平成14年度の実験では、ヒト肺動脈由来の市販内皮細胞を培養し、コンフルエントになった時点で、抗ヒトハプトグロビン(Hp)を加えインキュベートし、次いで抗原液(ヒトHp)を添加後、細胞培養上清中に放出されると予想される様々な物質を経時的に測定した。その結果、ICAM-1とVCAM-1に放出量の変化が認められたことから、平成15年度は抗原や抗体の容量依存性の検討、さらに培養液中に白血球細胞やTNFαを加え、炎症反応を促進させる系を作成した。この系を用い、ICAM-1とVCAM-1の濃度を1時間ごとに6時間迄、12時間ごとに48時間迄経時的に測定し、抗原や抗体の量、白血球細胞や、TNFαの影響を検討したが、再現性のあるデーターは得られなかった。むしろ、細胞培養液に異物(ある種のヒト血清蛋白や抗体であるウサギ血清)を加えることで、細胞は刺激されてICAM-1とVCAM-1のような物資を放出したのではないかということが示唆される結果を得た。肺動脈の内皮細胞は何らかの物質を放出している可能性が示唆されたが、今回の研究からはアナフィラキシーショックと関連ある重要因子の特定や内皮細胞の確定的反応を確認することは困難であった。
著者
甲斐 雅亮
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本研究課題の目的は、DNA検出用の新たな超高感度プローブを創製することである。研究代表者らは、昨年度の研究において、多糖分子に、水溶性を損なうことなく低分子量の化学発光物質であるルミノールまたはイソルミノールを多数結合させる強発光性高分子の合成手法を確立した。本年度は、平均分子量200万のデキストラン分子[(Glc)_<12300>]に、まずルミノール(Lu)、又は、イソルミノール(Ilu)を結合させた(Ilu)_<3700>-(Glc)_<1230>及び(Lu)_<1900>-(Glc)_<12300>を合成し、分光学的測定値を比較した。その結果、両高分子の蛍光強度は遊離のルミノールやイソルミノールの約60-80倍の強度しか得られなかったが、化学発光強度は、(Ilu)_<3700>-(Glc)_<12300>では遊離のイソルミノールの7700倍を示し、(Lu)_<1900>-(Glc)_<12300>では遊離のルミノールの210倍を示した。このことから、デキストランに導入する低分子量化学発光物質としてはイソルミノールの方が優れていることが示唆された。また、溶液中のこれらの発光性高分子の化学発光の検出感度は、蛍光のそれよりも約100倍高く、約2×10^<-16>molの検出限界(S/N=2)を示した。次に、イソルミノールとビオチン(Bio)の結合数をコントロールした3種の化学発光性デキストラン分子、(Ilu)_<850>-(Bio)_<330>-(Glc)_<12300>、(Ilu)_<600>-(Bio)_<660>-(Glc)_<12300>及び(Ilu)_<400>-(Bio)_<1100>-(Glc)_<12300>を合成した。DNAのハイブリダイゼーションアッセイ用のナイロン膜にスポットした時、等モルのそれらの化学発光強度は、分子中のイソルミノールの結合比にほぼ相応していた。さらに、これらの化学発光性デキストランは、分子中のビオチンを介して膜上のアビジンと結合して、特異的に化学発光スポットを与えた。以上のことから、本研究で開発した化学発光性デキストラン分子は、アビジンに特異的に結合し、超高感度な発光プローブとしての適用が期待できる。
著者
岩井 芳夫 下山 裕介
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

超臨界二酸化炭素+エタノール系の電流-電圧特性を系統的に測定した。測定には縦4mm、横4mmの銅製電極を用い、電極間を2mmで測定した。温度308、318K、圧力8.0〜20MPa、エタノールの濃度を0〜2.63mol/Lに変え、直流電圧を0〜5000V印加して電流値を測定した。その結果、一定の印加電圧では温度が高いほど、圧力が低いほど、またエタノール濃度が高いほど電流値が高くなることがわかった。これにより、電流のキャリアはエタノール分子であり、二酸化炭素分子は電流を妨げるように働くと推察された。すなわち、温度が高く、圧力が低くなると電流を妨げる二酸化炭素の密度が減少して電流値が上がり、エタノールの濃度が増加すると電流のキャリアであるエタノール分子の密度が増加して電流値が上がると推察された。電極間に麻糸をたらし、超臨界二酸化炭素+エタノール系308K、8.0MPaにおいて5000Vの直流電圧を印加したところ、麻糸は正極のほうに傾いた。超臨界二酸化炭素のみのときは同様の実験をしても麻糸は動かなかったことより、超臨界二酸化炭素+エタノール系に直流電圧を印加すると流動が発生することが確認できた。ナフタレンをエタノールに溶解させた試料を容器の底に入れ、超臨界二酸化炭素で加圧して308K、8MPaにした。また、容器の底にはあらかじめ電極を挿入した。そして、容器上部のナフタレン濃度を紫外分光器で測定した.電圧を印加しない場合は30分経過しても容器の上部にはナフタレンは検出されなかった。次に、同じ実験条件で徐々に直流電圧を印加したところ、1000V印加した20分後から容器の上部にナフタレンが検出されるようになった。これにより、超臨界二酸化炭素+エタノール系に直流電圧を印加すると系内が撹絆されることが確認された。
著者
澤田 元 尾野 道男
出版者
横浜市立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究の特徴である、臓器を皮下に移植することにより、生体内で再生現象を起こさせた場合の変化について調べ、いくつかの重要な知見を得た。本年度に新たにわかったことを以下に記す。(1)気管の上皮細胞は移動に際し、重層扁平化(扁平上皮化生)したが、電子顕微鏡レベルでの観察では、移動先端の細胞は上層の扁平な細胞層と、下層の立方状の細胞層が区別できた。最上層の細胞の上面には徴絨毛が見られるなど、細胞極性は一部維持されていた。細胞間隙は開いており、そこに多数のヒダを出して隣の細胞と結合している。接触面にはデスモソームが見られる。移動先端では不規則な形と大きさのBleb状の構造が見られ、移動にとって重要な役割をしていることが推察された。この構造は中に差相棒ない小器官をほとんど持たずアクチンの断面と思われる点状構造のみが見られた。(2)気管は皮下に空間を作り、上皮の断端が宙に浮くように移植しても上皮間に薄い膜が張って、その内側に上皮が移動、再生した。この膜は上皮が移動した先端部を境にして、フィブリンが主体の中心部分と各種コラーゲンが主体の周辺部に区別される。そこで人為的にコラーゲン膜やフィブリン膜を作成して、この膜上で気管の上皮再生を促したところ、コラーゲン膜では良好な再生が見られたが、フィブリン膜には細胞は接着できなかった。なお、細胞接着タンパクのフィブロネクチンは細胞外マトリックス全体に幅広く分布していた。
著者
上田 博史 橘 哲也
出版者
愛媛大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

二者択一の選択試験は,飼料原料の嗜好性や動物の栄養素摂取調節能力を調べるために有効な方法である.しかし,単飼したヒナに同じ飼料を2つの給餌器から与えると,試験開始直後,半数のヒナは右側の給餌器から(右利き),残りの半数は左側の給餌器から飼料を摂取する(左利き).右利きと左利き,あるいは同じ利き腕をもつヒナを2〜4羽群飼して改めて選択試験を行うと,単飼のとき右利きだったものが右側から,左利きが左側から食べるということはなく,常に連れ添って食べる.好みの給餌器の位置が群飼するとリセットされるということは,右利き・左利きが先天的な行動というよりは他の因子によって引き起こされている可能性を示唆する.特定の給餌器に対する固執は時間の経過に伴い消失するが,例外も存在する.単飼ケージは10〜12個が一つの棚に配置されているが,両端にあるケージで飼育されたヒナでは固執の解消が見られないことがある.両端に置かれたヒナの左右の一方にはケージが置かれていない.一般に,体重の等しいヒナを並べて選択試験を行うと,両端のヒナは隣人のいる内側の給餌器から摂食する.しかし,体重の大きなヒナを内側のケージに入れると,内側の給餌器からの摂取量は減少する.したがって,隣人との社会的な関係によって,好みの給餌器は変わるものと考えられる.このような行動は,塩酸キニーネを添加した嗜好性の低い飼料を選択させたときにも見られ,選択試験の精度を低下させることも明らかになった.本研究課題では,脳質内投与法を用いたヒナの摂食調節物質の検索も同時並行して行ってきたが,脳内のガラニンやノルアドレナリンが摂食促進作用をもつこと,また一酸化窒素の食欲促進作用が副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンと関連していることも明らかにした.
著者
原 純輔 秋永 雄一 片瀬 一男 木村 邦博 神林 博史
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

これまでの研究の過程で、社会調査データアーカイブに関する整備体制と利用実態の国際比較を通して、わが国の現状を検討するという課題が、浮上してきた。そこで、世界最初の国勢調査実施国であり、データの整備と公開が進んでいるアイスランド国立大学およびアイスランド国立博物館における聴取調査を実施した(秋永雄一・原純輔)。また、昨年度に引き続き、社会調査データアーカイブについてのケルン大学社会調査データ・アーカイヴ、マンハイム社会科学方法論研究所での再調査(木村邦博・秋永雄一)を実施するとともに、ケルン大学におけるセミナーに参加した。この結果についても研究会で検討を行った。その結果、「公共財」としての社会調査データという理念が、両国に共通に存在しており、わが国との大きな違いとなっていることが明らかになった。また、過去2年間の実績をふまえて、SSM調査(報告者・片瀬一男。以下同様)、国民性調査(海野道郎)、生活時間調査(三矢恵子)、青少年の性行動全国調査(原純輔)、宮城県高校生調査(神林博史)に対象を絞り、調査の概要・成果に加えて、とくにデータの保存およびデータの公開・利用可能性に焦点をあてながら研究会における再検討を行った。その結果、企画者側の調査データの公開に関する姿勢は多様であるが、とりわけ社会的評価の高い調査では、データのとりかたに独特の工夫がされていることが多く、他の研究者がそれを利用することには相当の困難が伴うことを、具体的に明らかにした。以上の成果は、現在報告論文集としてとりまとめ中である。
著者
長友 和彦 森山 新 史 傑 藤井 久美子
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本年度の計画に基づき研究を進め、マルチリンガリズム研究会(http://jsl-server.li.ocha.ac.jp/multilinualism/index.html)(本科研のメンバーで設立)で、研究成果の一部を公表するとともに、主な研究成果をスイス・フリブールで開催の「The Fourth International Conference on Third Language Acquisition and Multilingualism」(http://www.irdp.ch/13/linkse.htm)で発表した。この国際学会では、本科研グループで、個別発表とともに「Multilingualism in Japan」というコロッキアを主宰し、日本社会における多言語習得の実態およびそこにおける課題に関する議論を展開した。研究の主なテーマは以下の通りである。1.中国語・韓国語・日本語話者によるコードスイッチングとターンテイキング2.中国語・韓国語話者による第三言語としての日本語の習得3.One Person-One Language and One environment-One Language仮説検証4.韓国語・日本語・英語話者における言語転移5.マルチリンガル児童のアイデンティティの発達6.多言語話者による言語管理7.環境の違いが多言語能力へ与える影響このような多角的な観点からの研究によって、日本社会における多言語習得の実態の解明に迫った。本研究の成果は報告書にまとめられる予定である。
著者
定永 靖宗 坂東 博 竹中 規訓
出版者
大阪府立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

平成20年度では、都市大気中の有機硝酸エステルの総量(ANs)を求めることを目的として、熱分解レーザー誘起蛍光法(TD-LIF)を用いて、有機硝酸エステルの総量を測定するシステムの構築を行なった。都市大気中の有機硝酸エステルの総量(ANs)を求めることは、都市域での有機硝酸エステルの濃度の目安となる情報を与える点で有益である。熱分解レーザー誘起蛍光法とは、試料大気に350℃程度の熱をかけることで、有機硝酸エステルとパーオキシアシルナイトレート(PANs)が分解し、NO_2を生成する。そのNO_2をレーザー誘起蛍光法で測定することにより、NO_2+PANs+ANsの濃度が測定できる。一方、試料大気に150℃程度の熱をかけるとPANsのみが熱分解するので、この場合、NO_2+PANsの濃度が求まる。両者の差分をとることにより、ANsの濃度が求まる。まず、レーザー誘起蛍光法によるNO_2測定装置の構築および、装置の最適化を行なった。その結果、本装置でのNO_2の検出下限がS/N=2,積算時間1分で50pptvとなり、実大気測定をするにあたり十分な性能が得られた。また、石英管とヒーター、SSRを用いて、自動でANsの測定を行なうためのシステムを構築し、1分毎にNO_2+PANs+ANsライン、NO_2+PANsラインを自動で切り替えるようにすることに成功した。
著者
荒木 勉 安井 武史
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究ではテラヘルツ(THz)電磁波による金属蔓塗装剥離の遠隔検出を目指している。このような剥離の非破壊検査では、内部の様子を階層的に検査できる断層画像撮影技術は極めて有効である。そこではじめに機械走査によるTHz断層画像計測システムを試作し、剥離検出を行なった。しかし実用性を考慮すると高速で2次元断層イメージを取得する必要がある。そこで、次にTHz波の光としての並列性に注目し、電気光学的時間一空間変換と線集光THz結像光学系を利用して、機械的走査機構を用いることなく、高速で2次元断層分布の取得が可能になる手法を考案した。このアイデアに基づいた実時間2次元THzトモグラフィー装置を試作し、塗装された移動基板の表面変化の様子、ならびに塗装直後から乾燥にいたる膜厚の経時変化を追跡し、試作装置の性能を評価した。以下に成旺を列挙する。(1)1mmごとのビーム移動による点計測によって10mm四方のアルミ基板上の白アルキド樹脂塗装剥離を検出できた。剥離に対する奥行分解は40μmで最大500μmの剥離が確認できた計測時間は5分であった。(2)実時間2次元トモグラフィーにおいては、300μm厚に塗装された物体を5mm/秒で移動させた場合、ムービー上に順次塗装膜に対応した1Hzエコー像が表示された。膜厚に関する分解はさきほどと同様40μmである。(3)20分間の連続した乾燥による塗装膜厚の変化がムービー上に記録され、塗装完走に対する情報が検出できた。(4)膜厚に対する分解能向上のため新たに重回帰アルゴリズムを適用し、20μmの分解能を達成した。なお、以上の成旺はNHK教育テレビ「サイエンス・ゼロ」(2007.2.23)で放映された。