著者
正司 豪 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.3, pp.40-47, 2021-10-29 (Released:2021-10-29)

本研究の目的は,コロナ禍において修士課程に進学予定の大学生を対象に1年間にわたる研究内容の変容の契機を明らかにすることである.本研究では,大学4年生9名に対し半構造化インタビューを行なった.質的な分析の結果,研究内容の変容の契機は,(1)指導教員からの助言 (2)ゼミの先輩からの助言 (3)同じ関心を持つ学外の他者との対話,の3つに類型化することができ,「ゼミの仲間同士の学び」が不十分な事例が見られた.そこで,ゼミにおいて孤立化を防ぐ支援の必要性が示唆された.
著者
三井 一希 佐藤 和紀 堀田 龍也
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S46056, (Released:2022-09-02)
参考文献数
7

児童のICT 操作スキルに関して,教師が行った支援方法とその期間を,認知的徒弟制モデルのうち,熟達化を促すための方法に着目して調査し,実態を把握することを目的とした.小学校教師12名の回答を分析した結果,Web サイトの作成スキルのように,教師の手本を観察させて学ばせる期間が長くなるものがある一方で,地図アプリの操作スキルのように,支援を少なくしてすぐに自立の段階に移行できるものがあること等が示された.また,認知的徒弟制モデルに沿った順番どおりの支援が最適とは限らない可能性が示唆された.
著者
堀田 雄大 八木澤 史子 佐藤 和紀 堀田 龍也
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S47048, (Released:2023-11-24)
参考文献数
10

本研究では,教員5名に対して,動画視聴による研修への指向性と意識について実態を調査した.結果,肯定的に捉えている理由には,自分のタイミングで学習を進めることができる,学習の機会が増えたり繰り返し復習ができたりすることができる,という内容が抽出され,否定的に捉えている理由には,他者とのつながりが必要,一人で取り組むことが必ずしも集中につながらないといった内容が抽出された.このことから,今後,動画視聴による研修については,教員個別のペースを保障できる期間や学習環境を設けること,相互評価や交流を取り入れたりすることなどの研修内容の改善に繋がる視点について示唆を得た.
著者
稲木 健太郎 泰山 裕 大久保 紀一朗 三井 一希 佐藤 和紀 堀田 龍也
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S47055, (Released:2023-09-04)
参考文献数
8

本研究は,思考ツールの選択に関するメタ認知にクラウドで共有した他者の振り返りの参照が与える影響を検討することを目的とした.小学校第4学年児童を対象に,思考ツールの選択に関する振り返りをクラウドで学級内へ共有し,参照させ,改めて自覚したことがある場合は振り返りを追記させた.参照前の振り返りにおいてメタ認知に該当する記述数の多かった群を高群,少なかった群を低群とし,記述の分析とインタビューにより参照の影響を検討した.結果,参照が高群と低群のメタ認知を促すこと,参照により,低群では特に自覚が困難だった経験が,高群では特に無自覚になっていた経験が想起され,メタ認知につながったことが示唆された.
著者
鈴木 克明
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.43084, (Released:2019-10-29)
参考文献数
33

我が国の教育工学研究におけるインストラクショナルデザイン(ID)研究の位置づけについて概観し,教育革新が求められている今日の研究基盤としてID研究が果たすべき役割について述べた.我が国では初等中等教育における授業設計と企業研修の文脈でのIDに乖離が見られた時期があり,その後高等教育には教員の能力開発(FD)の文脈でIDの諸概念が浸透していった.今後研究基盤としてIDが果たすべき役割として,デザイナーになり革新的な実践を共創すること,デザイン研究でIDの知見拡大に貢献すること,脳科学の知見でIDを再解釈・精緻化すること,次世代の大学を創出する一翼を担うこと,教えないでも育つ教育を実現すること,ID専門家育成上級講座に参画することを提言した.
著者
佐藤 智文 平野 智紀 山本 良太 石橋 純一郎 山内 祐平
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S46094, (Released:2022-09-27)
参考文献数
7

本研究の目的は,GIGA スクール構想による1人1台端末整備直後におけるICT 活用の促進要因を明らかにすることである.川崎市内の小学校教員(N=997)を対象として,教員の年代,GIGAスクール構想推進講師(GSL)担当,ICT 活用歴,GIGA 以前からICT を活用していたこと,ICT活用に対する自信,がGIGA 後のICT 活用に対する認識に及ぼす影響を検討した.分析の結果から,GIGA 後のICT 活用には,「年次の若さ」「GIGA 以前のICT 活用」「自信」が有効であること,ICT 活用歴の長さだけではGIGA 後のICT 活用には寄与しないこと,年代の高い教員においてICT活用への自信を持つことの効果が高いこと,が示唆された.
著者
内田 佳途 三井 一希 浅井 公太 棚橋 俊介 佐藤 和紀
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S45063, (Released:2021-08-25)
参考文献数
10

小学校での1人1台端末を活用する場面において必要になる学習規律を分類・分析するため,小学校教師2名を対象に導入後2か月間で指導した学習規律に関する調査を実施した.結果,11項目の学習規律が指導され,学習規律を一覧表にまとめた書籍を参考に分類したところ,指導場面が一致する「学習上のルール」,一致しない「端末を扱う上でのルール」の2つに大別された.「学習上のルール」は1週間で定着が図られたことから,これまでの学習規律と同様の指導により定着が図られることが考えられるのに対して,「端末を扱う上でのルール」は定着に2週間以上時間を要すること,ICT スキルを伴う指導が必要となることから,これまでの学習規律と指導方法が大きく異なることが示唆された.
著者
森下 孟 谷塚 光典 東原 義訓
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.105-114, 2018-07-10 (Released:2018-07-10)
参考文献数
13
被引用文献数
8

教員養成学部生のICT 活用指導力の組織的な向上を図るため,教育実習でICT 活用授業を必ず1回以上行うことによって,教育実習生のICT 活用指導力にどのような効果をもたらすかを考察した.ほぼすべての教育実習生は,児童生徒の興味・関心を高めるために拡大提示装置やコンピュータを用いて教材などを拡大提示し,教育実習でICT を活用した授業を行っていた.また,児童生徒同士による発表や話合い,音声・動画などの資料準備でICT を活用していた.これらの場面に対応したICT 活用指導力が教育実習を通じて向上しており,教育実習でICT 活用授業を必ず1回以上行うことは教員養成学部生のICT 活用指導力の向上に効果があることを明らかにした.
著者
池尻 良平 山本 良太 中野 生子 山内 祐平
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S45057, (Released:2021-11-02)
参考文献数
6

本研究では,ICT を利用した,ジグソー法のエキスパート活動における知見の同期的収集が,教師のモニタリングと介入にどのような影響を与えるかを,机間巡視のみの場合と比較して調査した.その結果,内容を含めた俯瞰的なモニタリング,各専門家グループのキーワードのシェア度合いに関する俯瞰的なモニタリングと各グループ内のシェアを促す介入,普段は優先順位の低い上位層のモニタリングを促す可能性が示された.
著者
伏木田 稚子 永井 正洋
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.44143, (Released:2021-06-22)
参考文献数
35

本研究では,生涯学習を支える情報リテラシーの育成に着目し,シニア世代が大学開放事業において幅広く継続的に学知を学ぶ上で,授業内容にどのような観点を取り入れるべきかを探索的に検討した.具体的には,コンピュータの利活用に関する実態を幅広く把握した上で,性別や年齢,最終学歴など,学習者の基本情報を考慮しながら,コンピュータの利用目的,活用経験,利用不安の関係を分析し,授業実践の要件を明らかにすることを目的とした.TMUプレミアム・カレッジの履修生53名を対象に質問紙調査を行った結果,1) コンピュータの未所有者や初心者への配慮,2) 基礎を押さえた段階的な授業構成と初歩からの支援,3) 授業での活用機会の充実と日常的な利用の促進によるコンピュータの利用不安の軽減が,シニア世代の情報リテラシー教育に重要な観点であることが示唆された.
著者
向後 千春
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.2, pp.44-51, 2022-06-27 (Released:2022-06-27)

何を学ぶにしても人はひとりでは学ぶことはできない.独学で本から学ぶという場合であっても,文化的所産である書物に頼っている.人の学習を下支えするものとして,Ryan & Deci(2017)は基本的心理欲求理論の中で,関係性,有能,自律を挙げた.この中で重要な働きをしているのが感情制御である.感情制御のトレーニング手法は徐々に試行されつつある.本稿ではアドラー心理学に基づいた感情の捉え方をすることによって感情制御の新しいコースを設計し,その概要を示す.また,既存の授業や研修を感情制御のトレーニングとしてみたときにどのように改善できるかについての示唆をする.
著者
堀田 龍也
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.131-142, 2016-12-24 (Released:2017-03-23)
参考文献数
68
被引用文献数
5

我が国の初等中等教育における情報教育について,その定義,教育内容や教育課程における制度的な位置付け,関連する調査研究等の結果を示し,日本教育工学会における初等中等教育を対象とした情報教育の研究についてレビューした.これらのレビューから浮かび上がる教育工学に対する要請について,(1) 政策立案への継続的な関与,(2) 国が実施できない精緻な調査,(3) 情報教育の実践を評価する指標の開発,(4) 実践の長期化を支えるシステムの開発,(5) 実践的な研究を査読論文にするための知見共有の仕組みの5点に整理した.
著者
加藤 奈穂子 尾澤 重知
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.2, pp.32-39, 2021-07-03 (Released:2021-07-05)

本研究の目的は,大学入学後のどのような学習経験がアンラーニングを促し,学習観に影響を与えるかを明らかにすることであった.そのために,大学3年生7名を対象とし半構造化インタビューをおこないTEAによって分析した.その結果,本研究の対象となった学生は<一方向型>と<参加型>授業へのスパイラルな経験で,<一方向型>授業への批判的な問題意識が醸成され<強制的に知識を詰め込む必要はない>とアンラーニングが発生した.そして<学習とは社会で活躍するために行うこと>とする学習観が強化された.
著者
小野田 亮介 河北 拓也 秋田 喜代美
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.403-413, 2018-03-01 (Released:2018-03-16)
参考文献数
21
被引用文献数
2

本研究の目的は,付箋により意見を分類しながら共有すること(付箋分類介入)が議論プロセスに与える影響をシャイネスとの関連に着目して明らかにすることである.大学生32名を対象とし,シャイネス低群と高群のペアを,意見を書きながら共有する対照条件と,付箋を用いて意見を分類しながら共有する実験条件に半数ずつ割り当てた.条件間で発話傾向を比較した結果,対照条件に比べ,実験条件において「主張」や議論の方向性を決める「方針」の発話数が増加し,「つぶやき」の発話数が減少する傾向が認められた.議論プロセスの分析から,実験条件では,付箋を介して思考プロセスを共有していたのに対し,それができない対照条件では,つぶやきによって思考プロセスを共有する傾向にある可能性が示唆された.また,付箋分類介入はシャイネスの高さを補償し,既出意見と異なる新たな意見を提示する「新規アイデア」の発話を促していたことが示された.
著者
佐藤 和紀 小田 晴菜 三井 一希 久川 慶貴 森下 孟 谷塚 光典
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S45061, (Released:2021-11-02)
参考文献数
6

小学校高学年児童がクラウドサービスの相互参照を用いて,他者の文章を参照して意見文を作成する実践を行った.意見文の評価と意識調査の結果,他者の意見文を参照したグループ児童の意見文の評価は有意に高く,他者の意見文を参照していないグループの児童よりも読み手にどう伝わるか気をつけて書く,自分の考え以外の視点でも書く,主語と述語のつながりを注意して書く,形式的なミスを少なくする,ことを意識していた.
著者
山本 裕子 七田 麻美子 横矢 祥代 中西 良文
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S45047, (Released:2021-09-07)
参考文献数
6

本稿は三重大学の学部卒業生及びその就職先を対象に質問紙調査を実施し,当該大学の教育が社会的ニーズに合致しているかを検討することを目的とした.卒業生・就職先データの比較分析の結果,卒業生と就職先の評価にずれがあることや,就職先からの評価が卒業生の自己評価より高くてもジェネリックスキルや外国語の力について身についたとする評価が比較的低かったことから,この点をさらに改善する必要性等が見出せた.今後の課題として,カリキュラム評価や教学改革についてより精度の高い評価を行うために経年比較による分析の必要性が明らかとなった.
著者
風間 眞理 加藤 浩治 板山 稔 川内 健三 藤谷 哲
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.43046, (Released:2020-01-16)
参考文献数
35

本研究の目的は,スマートフォンの使い方を大学生が自ら評価できるスマートフォン行動嗜癖自己評価尺度を開発することである.首都圏の大学に在籍し,スマートフォンを使用している大学生を対象に,研究者で作成したスマートフォン行動嗜癖自己評価尺度の調査を実施した.探索的因子分析と共分散構造分析,使用時間等との相関を求めた.その結果,有効回答数は587.男子学生243名,女子学生344名であった.探索的因子分析後,5因子20項目となり,各因子名を「自己支配性」,「生活への侵食性」,「離脱症状」,「再燃性」,「非制御な通話」とした.共分散構造分析では,GFI=0.931,AGFI=0.909,CFI=0.932,RMSEA=0.052であった.また,スマートフォン行動嗜癖自己評価尺度総得点と利用時間で有意な相関がみられた.以上より,信頼性と妥当性が示された.
著者
梶本 秀樹 藤村 裕一
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.2, pp.9-16, 2023-07-21 (Released:2023-07-21)

高校生の不適応行動に関する要因は複雑で,改善が困難である.しかし,素手素足のトイレ掃除を行う事によって非認知能力をより効果的に育成する変容要因と非認知能力が育成されていることが明らかとなった.さらに,素手素足のトイレ掃除を繰り返し行う事によって,どのように育成されていくのかを明らかにするために,不適応行動を引き起こす生徒のエピソード記録と半構造化質問紙調査を分析し,その育成要因を構造的に明らかにした.
著者
瀬崎 颯斗 渡邊 智也 小野塚 若菜
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.3, pp.152-159, 2023-10-16 (Released:2023-10-16)

近年,海外の高等教育分野を中心に,学習者中心の考えに基づくフィードバック研究が進んでおり,フィードバック・リテラシーの概念が注目されている.本稿では,本概念の研究動向に関するレビューを通じて,学習者のフィードバック・リテラシーの定義と構成概念,それを高める介入方法としての学習活動に関する検討を行った.これまでの動向としては,理論研究による概念枠組み提案,学生調査によるカテゴリー生成,尺度開発研究への発展,という流れで研究が進展しており,介入方法としては学習者による評価活動やフィードバックに関するワークショップ等が存在することが示された.
著者
齊藤 智樹
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.281-296, 2021-03-10 (Released:2021-03-15)
参考文献数
78
被引用文献数
3

本研究は,STEM/STEAM 統合の本質である構成概念のシステムをもとに,統合的なSTEM/STEAM 教育の各類型についてレビューし,それぞれの類型において成される研究と,その課題を検討した.歴史的に示された類型に加えて,統合がどこで起こるのかに焦点を当てた研究を基に,ディシプリンを中心に考えるDisciplined Approach と,学習者のあらわれ(Appearances)を中心に考えるCreative Approach を提示した.