著者
山本 芳久
出版者
上智大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、一言で言うと、近世のスコラ学という世界的に未開拓の分野における「人間の尊厳」という概念の構造を詳細に探求することによって、従来の思想史の空白部分を埋めるとともに、人間の尊厳という問題に関する哲学的な議論の土俵を広げていくような新たな視点を提示していくことである。「人間の尊厳」や「人格」といった概念に関する中世と近代の連続性・非連続性の具体的な詳細を明らかにするための最大の手がかりは、中世末期から近世初頭にかけてのスコラ学における人間論の探求にある。だが、本邦においては、近世のスコラ学に関しては、社会思想史に関する若干の研究を除けば、哲学的に見るべきところのある研究は未だ殆ど為されていない。また、世界的なレベルで見ても、この分野は未開拓の分野であり、そこには哲学的探求のための非常に豊かな鉱脈が埋もれていると言える。それゆえ、本研究は、そのような鉱脈の中においても、とりわけ、近世スコラ学における「人格(persona)」概念と法哲学(自然法と万民法)に着目し、人間の尊厳の存在論的な基礎づけに関する哲学的探求を、近世スコラ学のテキストとの対話の中で遂行することを目的としている。本年は、とりわけ、トマス・アクィナス(1225-1274)とスアレス(1548-1617)における自然法と万民法概念の構造を哲学的に分析しつつ、更に、現代の社会哲学のなかでスコラ的な法理論の持ちうる積極的な役割を明らかにした。
著者
サーラ スヴェン 川喜田 敦子 工藤 章 田嶋 信雄 ヴィッピヒ ロルフハラルド 加藤 陽子 石田 勇治 萩谷 順
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、近代日本とドイツの関係史において、両国の相互イメージの形成とその形成要因、そして、このような相互イメージが二国間関係に与えた影響を明らかにしようとするものであった。2010・11年の日独修好150周年の催し物として、この研究をまとめる国際会議が2010年12月に行われ、20人の研究者が日独相互イメージを分析し、そのイメージを表象する視覚的資料を紹介した。なお、日独関係史の研究者のネットワークが深化された。日本とドイツは現在では、強い友好関係で結ばれているとはいえ、過去には、両国のメディアにおいて歪曲された他国のイメージが浮かび、そして、現在でも浮かぶことが明らかになり、多様な啓蒙活動の必要性が指摘された。
著者
児嶋 由枝
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

12世紀後半の北イタリアでは、ロンバルディア・ロマネスクが独自の様式・図像を展開していた。すでにこの時期の北イタリア中世都市国家の聖堂に関わる美術の展開については研究が進められている。しかし、この展開に重要な役割を担ったとされる北イタリアの修道会美術に関してはいまだ多くが詳らかでなかった。こうした状況をふまえ、本研究では、エミリア地方の三修道院(キアラヴァッレ・デッラ・コロンバ、フォンテヴィーヴォ、カスティオーネ・ディ・マルケージ)に焦点をあてて調査を実施した。特にゴシック様式の導入、都市聖堂との関係、そしてアダムとエヴァ彫刻図像について新たな視点を提起することができた。
著者
山崎 福寿 浅田 義久 井出 多加子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

公共投資の効果については,マクロ的な観点から有効需要に対してどのような影響を及ぼすかという点や,ミクロ的な観点から、産業関連の公共事業によって生産関数がいかなる影響を受けるかについての研究がなされている。しかし、生活関連投資が人々の効用にどのような影響を及ぼすかについては、これまで十分に研究されてこなかった。本研究では,生活関連投資による地域経済への影響を分析した。本研究では、第一に、米国における理論的研究をもとに、消費者と企業の行動をもとにした社会資本整備の影響を都道府県別のパネルデータを用いて計測した。その結果、生活関連の社会資本ストックは、人々の居住地選択に大きく影響することが明らかとなった。反面、企業は産業基盤整備の状況にそれほど影響されず、むしろ企業同士の集積のメリットや購買力の高い人口密集地帯に立地することが明らかとなった。生活関連資本の充実した東京周辺地域に消費者や企業が集中してきたのは、このようなメカニズムによるものと考えられる。第二に,道路,鉄道といった公共資本サーヴィスの地域間における最適配分について検討した。具体的には、各公共資本サーヴィスの供給手法を検討し,需要関数を推定し、現状での都心部と地方の公共資本サーヴィス供給のあり方を批判的に検証した。公共資本サーヴィスのひとつである鉄道サーヴィスの混雑料金推計においては、JRの中央線を対象にして分析を行なった。各利用者が感じる混雑による不効用は地価や地代に反映されることを利用して、ヘドニック・アプローチを用いて混雑料金を推計した。これによると、中央線では混雑時においてはおよそ4-5倍の料金を課すことが必要であるとの結論が得られた。さらに、道路の混雑料金モデルを構築し、混雑料金を推定した。その結果,高速道路の通行車両に混雑料金を課金することによって、交通量がどの程度変化し、その結果、環境負荷や都市構造がどのように変化するかを検討した。
著者
勝西 良典 中谷 常二
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

3年間の研究のなかで、ビジネス倫理の教科書を出版し、アメリカの主要な研究書を翻訳し、カントの実践哲学のもつ形式主義がかえってビジネスと倫理の関係にかんする多様なモデルを提供することが示された。また、経営学者と哲学・倫理学者と実務家の交流、および日米独の研究者の交流が確立された。その理論的成果の一端は2010年8月出版予定の書物で公表される。また、実際的活動としては、経営倫理実践研究センターにおいてホールディングス形式の企業形態における共通の規範の醸成法等の各論において継続される。
著者
有村 俊秀
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

初めに、昨年度収集した情報をもとに、排出量取引の利点である排出削減費用の抑制効果が、米国二酸化硫黄(SO_2)排出承認証取引制度において発揮されているかどうかについて、実証的な観点から計量分析を行った。具体的には、企業の主な排出削減手段である排出承認証取得、低硫黄石炭への発電燃料の転換、脱硫装置の設置に焦点をあて、州ごとに行われている地元炭鉱の産業保護や排出承認証売買による費用や利益に関する規制などがこれらの選択に対して及ぼす影響を、1995年のデータをもとに多項選択モデルを用いて推定した。燃料購買の長期契約による影響についても分析を行った。結論として、主に3つのことが実証された。第一に、高硫黄石炭の産業保護が低硫黄石炭の選択を減少させることが示された。第二に、排出承認証取引で生じた費用/利益を消費者に転嫁/還元しなくてはならないとする規制によって、排出承認証の需給が減少したことが明らかになった。第三に、排出承認証取引で生じる費用や利益の取り扱いについて不確実性がある場合は、排出承認証の購入が減少することが確認された。次に、昨年度行った脱硫装置の技術・費用に関する情報収集および、パラメータ推計に関する情報収集をもとに、発電所における脱硫装置設置行動を離散的投資モデルとして定式化し、排出量取引の動学的市場均衡モデルを構築した。発電所の離散動学モデルを解析的に明らかにすることは困難なため、数値解析法により発電所の投資モデルを求めた。そして、それらをもとに排出承認証の均衡価格と、均衡下での発電所の行動モデルを明らかにした。最後に、これらの数値解のモデルを用いて、脱硫装置導入の補助金(承認証ボーナス)の効果を定量的に分析した。数値解により、承認証ボーナスの付与がなければ、脱硫装置の投資は行われなかったことが示された。
著者
石澤 良昭 上野 邦一 菱田 哲郎 一島 正真 VERIATH Cyiril 丸井 雅子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

上智大学アンコール遺跡国際調査団は、2001年3月と8月に仏教遺跡バンテアイ・クデイから274体の廃仏と千体仏石柱を発掘した。歴史上初めての大量廃仏発掘であった。この大発見は国内外の各紙に報じられた。仏像の大きさは大きいもので1.8mほど、小さいもので20cmほどの大中小があった。仏像は砂岩製で,青銅製の小物2体も見つかった。これら仏像は蛇神ナーガの上に結跏跌座したブッダ坐像であり、仏陀を守っている彫像(以下ナーガ坐像と略す)である。時代は11世紀から13世紀である。<インドからヒンドウ教と仏教が到来>カンボジアには1~2世紀頃インドから海のシルクロードを通じてヒンドゥー教と仏教が入ってきたが,カンボジアで土着した大乗仏教は、観世音菩薩のナーガ坐仏を信仰していた。<政治抗争と廃仏事件>これら廃仏はほとんどが首を切られていた。13世紀半ば頃ヒンドゥー教を信奉するジャヤバルマン8世(1243-1295)が命じて全国の仏教寺院に安置されていた仏像を引っ張り出し、首を切断して埋納抗に埋めたのであった。本研究は、この274体の廃仏事件から始まるものである。<バンテアイ・クデイ遺跡周辺調査>バンテアイ・クデイ遺跡発掘を再開し、アンコール遺跡群および地方の仏教系遺跡(バンテアイ・チュマール、コンポンスヴァイ、プリヤ・カンなど)の遺跡調査を実施。<マトゥラー地方の発祥ナーガ坐仏の歴史背景調査および東南アジアとの比較研究>マトゥラー地方ではクシャン朝(BC2世紀~AD6世紀)からグブタ朝(4~7世紀)にかけて多数のナーガ坐仏が製作された。これらナーガ坐仏は力強く量感に富む造形を持ち、インド各地、そして海外のカンボジアなどに伝播した。インドとカンボジアに共通するナーガ坐仏が何故時を超えて存在したかを問い、両地域に存続した仏教的精神価値体系の結晶を探ろうとする初めての試みであった。<カンボジア・インドのナーガ坐仏の図像学的特相調査および比較考察>(1)肉髷相、(2)衣相、(3)耳朶相、(4)自毫相、(5)手足の千幅輪相、(6)印層、(7)宝冠飾り、(8)身広長等相、(9)真青眼相などについて調査し、両地域における図像解明を実施し、信仰における受容状況とその展開、さらにその時代の仏教精神の比較検討をした。加えて両国におけるヒンドウ教徒と仏教の政治的背景と歴史展開をそれぞれ詳解に考究し、大きな学術研究の成果をおさめた。
著者
加藤 守通 井ノ口 淳三 相馬 伸一 大田 光一 下司 裕子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は、コメニウス中期の思想を代表する主著『光の道』に焦点を当て、彼の教育思想の多義的・重層的性格を明らかにすることであった。成果は以下の通りである。(1)教育思想史のみならず科学史における基本文献である『光の道』の本邦初訳を完成した。(2) コメニウスと新プラトン主義およびルネサンス思想との関連を明らかにした.(3)コメニウス教育思想が学校教育を超えた生涯学習論へと展開していく過程を明らかにした。(4)『光の道』啓蒙思想との関連を明らかにした。(5) オランダ、チェコなどでの調査や発表を通じてUwe Voigt教授をはじめとした世界的なコメニウス研究者との連係を確立した。
著者
加藤 浩三
出版者
上智大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

平成12年度は、昨年度に収集した阪神淡路大震災および米国ノースリッジ地震に関する資料を分析し、その分析から得られる論点を整理し、そしてその論点を米国での現地調査で確認することに重点が置かれた。日本で収集された資料から得られた論点は、日本の危機管理の特徴は、その管理を司る組織形態が、集中的か分散的かという点ではなく、国家と社会との間で危機意識を共有する政策形成過程が、欠如しているということである。通常、日本の危機管理は、情報管理、指示系統が分散し、中央集中型の組織形態をとっていないため、特にその初動体制に問題が多いといわれてきた。官邸に設置された首相のリーダーシップを発揮するための危機管理室は、その点を考慮されたものである。しかしながら、中央管理的な危機管理のお手本とされた米国の意志決定システムは、日本でいわれるほど連邦政府による集中管理ではなく、実際には、連邦レベルの危機管理は、州レベル、郡レベルの管理体制と共生している。したがって、危機発生時のリーダーシップは、州知事、郡保安官、市長、そしてかれらの意志決定に日頃から深く関与している非政府組織らによって、発揮されている。連邦レベルの危機管理は、国家安全保障に係わる問題を除き、地方政府の要請なくしては発動されないのが基本である。本研究の焦点である地震災害では、連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、危機管理の主役ではなく、被災地域救済、復興に必要な物資・経費を見計らう少数の専門家集団であった。日本の危機管理が、米国のそれと決定的に異なるのは、国家と社会との間の危機意識を共有する度合いである。日本の場合は、自然災害について、中央・地方政府と社会集団との間で、危機意識を共有していることは希で、災害ヴォランティアの人々も、平常時には、国家と社会との仲介者とはなっていない。日本経済成功の要因として指摘されてきた、国家と社会との間の緊密なネットワークは、少なくとも災害管理の問題では、ほとんど存在しない。
著者
角皆 宏 都築 正男 梅垣 敦紀 森山 知則 陸名 雄一 星 明考 小松 亨
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ガロア理論とは一言で言えば数の対称性の理論であり、中でも構成的ガロア理論は、狙った対称性を具体的明示的に作ることを主眼とする研究である。特に本研究課題では、非可換な対称性(ガロア群)を持つ場合を取り扱い、幾何的な対称性を利用する手法を中心として、主に5次・6次の多項式に関わる場合に対し、様々な特色ある対称性を持つ多項式を具体的に構成した。得られた多項式が簡潔な表示を持つことも意味があり、それにより幾らかの数論的性質も明らかにすることが出来た。
著者
綿貫 譲治
出版者
上智大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

第1年度(平成2年度)には、まず、各種のサーベイ・データの時系列的再分析を行い、有権者の政治関与(政治関心などの心理的関わり)と政治参加(投票参加、選挙運動への参加)の変化を見た。その結果明らかになったことは、女性有権者の政治関与の増大であり、とくに、60歳以上の実年後期と老年グループの女性における政治関与の増加が顕著であることである。さくに、平成元年7月の第15回参議院議員通常では、女性立候補の増加が刺激となり、女性の政治関与も顕著に増加し、中年や実年前期では男女差が消滅し、また、実年後期や老年でも、男女差が縮少したことがはっきり見られた。第2年度(平成3年度)では、衆議院議員公設祕書にたいするアンケート調査を行い、選挙区の変動の筆頭として、女性有権者の活発化が筆頭に挙げられているというデータを得た。現代日本社会における社会構造の変動として、最大のものは、性役割の規定や規範の変化であることが、ここから結論された。現在行われている政治改革論議では、この点への対応が全く欠落しているのである。衆議院議員公設祕書にたいするアンケート調査では、私設祕書を含めた祕書総数推定についてのデータ、公設祕書の職務配分についてのデータなども得ることができ、アメリカ連邦議会の議員のパーソナル・スタッフの職務との比較も行った。平成5年度予算に具体化した「政策祕書」設置についても、それが「政治改革」の一環であるとはいえるとの判断を引出した。「社会構造と政治改革」というテーマでの残された問題は、マス・メディアの発達のインパクトの分析であり、それは今後の課題としたい。
著者
赤堀 雅幸 黒木 英充
出版者
上智大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ユーフラテス川中流域ビシュリ山系で展開されている領域研究全体の調査と連携しつつ、人類学、歴史学による従来の部族研究を再評価し、通時代的、通分野的に適用可能な概念的洗練を行うべく、下記のような活動を展開した。1. 現地調査 : ビシュリ由系における第7次調査の一環として研究協力者である高尾賢一郎(同志社大学大学院神学研究科博士後期課程)が10月、第8次調査の一環として、赤堀、黒木および研究協力者、森山央朗(日本学術振興会特別研究員(PD))が3月に現地調査を実施した。黒木、高尾、森由はあわせてシリアでの文献調査に従事した。2. 比較対照調査 : 理論面での成果発表と比較対照調査を兼ねて、9月に赤堀がモンゴルで学会発表と騎馬遊牧民の調査を実施し、また連携研究者である錦田愛子(東京外国語大学・アジア・アフリカ言語文化研究所・非常勤研究員)がレバノンで政治的な離散状況下での父系紐帯のありように関する調査を実施した。3. 文献資料の探索、収集、読込 : それらのうち厳選して購入した26冊については、設備備品として上智大学アジア文化研究所図書室他に所蔵することとした。なお、討画調書上には研究補助業務等に謝金を充てる予定であったが、上記研究協力者他大学院学生らの自発的な協力により支払いが生じなかったため、この分を別費目に充てることで、調査等を充実させることができたのは幸いだった。当該年度中にすでに複数の研究発表を実施しているが、平成21年4月には領域研究の合同研究会で赤堀、黒木、高尾が成果発表を行っており、11月開催予定の国際シンポジウムでも赤堀が発表するのに加え、その他複数の成果物刊行が決定しているなど、領域研究全体の最終年度である平成21年度においても、貢献を継続する予定である。
著者
伊達 聖伸
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、フランスのライシテの歴史を批判的に見直す一方で、ケベックのインターカルチュラルなライシテの分析を進めた。その結果、政教関係の国際比較のツールとして、また新たな共生の原理としてライシテを再定式化するためには、ライシテの構成要素がさまざまな社会でどのように編成されているのかをとらえることが重要であることがわかった。また、日本の政教関係史をライシテの観点から読み解くための見通しが得られた。
著者
堀坂 浩太郎
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,2年間にわたりブラジル,アルゼンチン,ウルグアイ,チリ,ボリビアからなる南米部地域を対象に,「市場統合」の推進と補完的な関係にあるインフラ部門や通関システムなどの"物的統合"がどのような形で進展しているかとともに,その促進に影響を及ぼすと考えられる「地域公共財」的発想の観点を検証することを意図して行ったものである。「南米南部共同市場」(メルコスール)や南米地域インフラ統合計画」(IIRSA)がうたうエネルギー網や輸送網,通関制度などからなる,かなり幅広い分野の現地調査を行った。その成果を踏まえながら,本報告書では,調査期間中にボリビア新政府が天然ガスの「国有化宣言」を行う等,当初予期されなかった事態が発生したこともあり,事例研究として天然ガスを集中的に取り上げ,経済自由化、市場開放過程でのインフラ(ガスパイプライン網)の整備状況,ネオリベラリズムの反動ともいう形で発生した「エネルギー(天然ガス)危機」,その後の各国の対処法,および南米南部地域としての解決策の模索を取り上げた。その中で,天然ガスおよび同パイプラインは「非排除性」および「非競合性」からみて純然たる公共財(pure public goods)とはいえないものの,市場の原理には完全に任せずに,公益性を有した半、公共財と認識し,地域構成国が納得し遵守しえる規範づくりが早急に必要とされる点,およびそうした発想を再確認することによって初めて,安定した供給体制の確立に道が開かれる点を指摘した。世界的に天然資源の需給逼迫が言われるなかで,地域の方向性を検討する上で不可欠な視点の一端を示した研究といえる。
著者
伊藤 直紀 野澤 智 和南城 伸也
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,相対論的Sunyaev-Zeldovich効果に関して,十分な成果を上げることができた。相対論的Sunyaev-Zeldovich効果は,銀河団内部の高温電子の熱運動による熱的効果と,銀河団全体が宇宙背景放射に対して運動することによる,運動学的効果の二つの効果がある。本研究において,われわれは,この両方の効果に関して,非常に精度の高い結果を導出することに成功した。われわれの理論的研究の成果は,すでに,世界各国で始まっているSunyaev-Zeldovich効果の精密観測の結果の解析に取り入れられている。本研究の過程で,研究代表者は,各国のこの分野の研究者を訪問し,非常に有意義な討論を行うことができた。2004年には,5ケ月にわたって,Cambridge大学Cavendish研究所に滞在し,同研究所の多くの研究者たちとSunyaev-Zeldovich効果に関して詳細な討論を行うことができた。その後,同研究所の定期的な訪問者として,2005年,2006年,2007年の夏に同研究所を訪問して,討論を継続している。また2005年9月と2007年4月に,ドイツ国GarchingのMax-Planck-Institut fuer Astrophysikを訪問し,所長のSunyaev教授と,懇談する機会をもつことができた。Sunyaev教授は,言うまでもなく,Sunyaev-Zeldovich効果の研究の創始者であり,同教授と2回にわたって懇談できたことの意義は,計り知れないほど大きい。これ以外にも,本科研費により,Princeton大学,Roma大学,CERN研究所を始めとする,多くの研究機関を訪問し,招待講演を行った。このことにより,本研究は国際的に非常に高い評価を受けるにいたった。
著者
田頭 章一
出版者
上智大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

1 倒産企業への投資に関する内外の実務および研究の状況の整理(1)外国の状況文献調査および英国での現地調査により、次の知見を得た。米国では、少数の特別な投資家が倒産企業への投資によって莫大な利益を得るという一昔前の状況から、大規模の投資銀行系のファンドなどが競争しあう、より洗練された投資環境が整備されつつある。他方、ヨーロッパでは、米国系のファンドによる倒産企業への投資活動が日常的になってきてはいるが、このような投資活動への社会的な拒否反応もないではなく(とくに、独仏)、あわせて、法制の不備や専門家の育成の遅れなどもみられる。(2)わが国の状況わが国では、投資事例が重なるにつれ、わが国独自の投資スタイルが形成されてきている。その例としては、(1)わが国の倒産手続では、裁判所、管財人等手続機関の倒産手続への関与が強く、時として、その存在が、投資家側からすれば、円滑な投資を阻害する要因にもなること、(2)わが国では、企業再建プロセスで雇用関係の維持が重視されること、(3)私的整理における投資には、簿外債務の存在など、障害が多いこと、などがあげられる。2 わが国における法的問題点と法的規律の在り方(1)倒産法に関する問題点スポンサー選定過程の透明化、債権者の手続的地位の弱さ、などが問題点としてあげられる。これらの問題については、さしあたり現在進行中の会社更生法改正の論点と重なる。(2)その他の法制上の問題点投資ファンドの組織形態、租税(とくに外資系企業にとって)、アドバイサリー業務等と投資業務との間の利益相反関係などが、問題点として存在する。
著者
加藤 昌英 辻 元 田原 秀敏 横山 和夫 青柳 美輝 山田 美紀子 谷口 肇
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本年度(補助金が交付されてきた期間を含む)に行った研究によって得られた結果は以下のとおりである。1.複素3次元射影空間のある種の領域(「広い領域」)の商多様体の分類に関して次のことが分かった。すなわち(1)この問題を(複素1次元の)クライン群理論の高次元化(奇数次元のみ可能)と考えた。特に複素3次元の場合には、Grassmann多様体G(4,2)に作用する群と考えることによって、うまく問題の定式化(2)クライン群理論における初等型の群に対応する部分の複素3次元版がほぼ完成した。ここで初等型の群とは3次元射影空間の稠密な領域に作用する「端点(end)」が有限である群と定義する。特に固有不連続な開集合の商空間が正の代数次元を持つコンパクトな成分を少なくともひとつ持てば、固有不連続な開集合は3次元射影空間の稠密な領域であって、クライン群は初等型になることが示された。同時に商多様体も有限不分岐被覆を除いて分類された。ここの議論では、(非Kaehler多様体を含む)複素多様体への正則写像の、S.Ivashkovichによる拡張定理が有効に用いられる。現在、発表のための草稿の作成と、証明の改良(なるべく概念的な証明に直すこと)を行っている。が出来ることがわかった。これによって基礎になる種々の概念が固まった。2.複素多様体がprobableになるための良い十分条件を求める問題についてはまだ手がついていない。複素射影構造が特異点集合の持つ場合の考察についても進歩がなかった。ともに今後の課題である。