著者
池田 紘一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

トーマス・マンは自ら『魔の山』を錬金術的と称し、主人公ハンス・カストルプの人間的成長を錬金術的「昇華」と呼んでいる。従来単なる比楡としてさほど真剣には受けとめられなかったこの発言の意義と射程をユングの錬金術心理学との関連において明らかにする。その要点は以下のごとくである。1)ハンス・カストルプは「原質料」としてマダム・ショーシャをはじめとする諸元素ないしは物質との「分離」と「融合」を繰り返しながら「賢者の石」への道を辿る。この「精神」と「肉体」の錬金術的・エロス的結合の試みは失敗に帰する。それは錬金術の場合と同様、ヨーロッパ近代合理主義の批判を意味し、同時にその克服による新たな人間愛の模索を意味する。2)物語のこのプロセスは、マンの「錬金術的物語術」と表裏一体をなしている。マンの語りは、諸元素を密封して火にかけ、昼夜を分かたず繰り返される錬金術の分離・融合の試みに等しい。諸々の偶然的出会いや偶然的出来事から必然の糸(真の結合の可能性)を紡ぎ出すその錬金術的物語技法の特質を明らかにした。3)以上の『魔の山』の特質は、その現代的装いにも拘らず、『ファウスト』と見事に照応している。『ファウスト』もいわば、現世では失敗に帰する錬金術的実験の試みである。マンの『ファウスト』の現代的パロディーの試みは、錬金術心理学的観点を導入してはじめて、より根源的な意味での「まねび」であることが判明する。
著者
徳永 幹雄 川崎 晃一 上園 慶子 橋本 公雄
出版者
九州大学
雑誌
健康科学 (ISSN:03877175)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.107-120, 1989-03-31

一般公募によって応募された軽症高血圧者11名を対象に, 講義と実技を組み合わせたテニス教室を3カ月間に26回(週2回, 1回90分)実施した。本教室の開始時と終了時に身体面, 医学面.心理面, 生活面から諸検査を実施し, その変化を分析した。得られたおもな結果は, 次のとおりである。1. 身体面では皮下脂肪厚(肩胛骨下部), 体脂肪率の減少と柔軟性の向上が認められた。その他筋力, 瞬発力, バランス, 全身持久性は顕著とはいえないが, 向上傾向がみられた。1日の平均歩行数から活動量をみると, 月別では1.20倍, 曜日別では本教室の実施日は他の曜日の1.41倍に増加し, 1日平均の活動量の増加が認められた。自転車エルゴメーターによる運動負荷時の血圧・脈拍はテニス教室の開始時と終了時で顕著な差は認められなかった。携帯型連続血圧測定装置で測定した運動中の血圧・脈拍の反応は, 高齢者では中年者に比べ血圧が上昇しやすく, また女性は男性より脈拍が早くなった。2. 医学面では血圧に対する作用は有意ではなかったが, 前報告と同様に, 腎機能・肝機能・糖・脂質代謝の指標となる血中変数は著明な改善を示した。また副腎皮質ホルモンであるコーチゾールも有意に増加した。3. 心理面では日常生活での不安, 血圧に対する不安, 競技に対する不安のいずれも減少し, 血圧の自己評価でも45.4%(5名)が下降したことを認め, 不安傾向が減少したものと思われる。健康度検査では身体的愁訴の減少が認められ, 全体的には精神的健康の評価が高くなった。スポーツ行動診断検査では肥満傾向の減少が認められたが, その他には顕著な差は認められなかった。4. 日常生活の変化の評価では便通, 睡眠, 食欲, 健康, 体力ヘの自信, からだの動きについて6〜7割がよくなったことを認めた。また, 精神的安定度, 生活の活気・楽しさでは8割がよくなったことを認め, 家族の励ましや協力のもとに教室への参加が継続されたことが認められた。5. テニス教室への評価では指導のしかた, グループ内の雰囲気や対話に好意的態度がみられ, 「楽しかった」と全員が回答した。ただ, 技術の進展と共に恥ずかしい思いや嫌な思いが若干みられ, 課題が残されるが, 全体的には好意的評価が得られた。
著者
中別府 雄作 作見 邦彦 土本 大介 岡 素雅子 盛 子敬
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

DNAおよびRNAの前駆体であるヌクレオチドは放射線や生体内外の環境ストレスにより多様な化学修飾を受けるが、その放射線生物影響における意義は不明で、早急に解決すべき課題である。本研究では、環境ストレスによる修飾ヌクレオチドの生成が引き起こす生体障害を「ヌクレオチドプールの恒常性の破綻」としてとらえ、以下の5つのアプローチで多様な放射線生物応答の制御機構を明らかにする目的で研究を開始した。[1] 放射線照射により生じる修飾ヌクレオチドを同定し、in vivoでの活性酸素や金属等の存在による生成への影響を解析した。[2] 放射線照射等で生成される修飾ヌクレオチドの細胞への影響を解析することで、Bystander effectsのメディエータとして機能する可能性を検討した。[3] 修飾ヌクレオチド分解酵素を網羅的に探索する目的で、新規修飾ヌクレオチドの調製を始めた。[4] DNA中の修飾ヌクレオチド修復酵素を網羅的に探索する目的で、アッセイ系の確立を進めた。[5] 神経変性の病態モデルマウスの導入を進めている。
著者
二神 泰基
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

Desulfitobacterium hafniense Y51株は、還元的デハロゲナーゼ(PceA)により環境汚染物質であるテトラクロロエテン(PCE)とトリクロロエテン(TCE)をcis-ジクロロエテンへと脱塩素化する。この反応はPCEとTCEを最終電子受容体とする脱ハロゲン呼吸でエネルギー生産系と共役する。平成17〜19年度に、Y51株の継代培養後に脱塩素化能を失った2種類の株が出現することを見出し、SD株(Small Deletion)とLD株(Large Deletion)に分類した。Y51株、SD株、およびLD株のpceA遺伝子の周辺構造を解析した結果、Y51株のpce遺伝子群は2つの相同な挿入配列(ISDesp1とISDesp2)に挟まれており、複合トランスポゾンを形成していた。一方、SD株はISDesp1を欠失しており、LD株はpce遺伝子群をすべて欠失していた。次に、クロロホルム(CF)存在下でLD株が高頻度に出現する現象を見出した。本年度は、この原因が、CFがY51株のフマル酸呼吸を阻害し生育を阻害するのに対して、LD株の生育を阻害しないことにより、Y51株から自然誘発的に発生するLD株が優占種となるためであることを明らかにした。また、CFによるY51株のフマル酸呼吸の阻害は、PceAの基質であるTCE、あるいはPceA活性を阻害する2塩素化メタンの存在下では無効化された。従って、CFによる阻害効果は、Y51株でのみ発現するPceAへのCFの結合により生じると考察した。以上の研究成果は、脱ハロゲン遺伝子群の機能進化を考察する上で興味深く、また、CFとクロロエテン類の複合汚染時のバイオレメディエーションを効率よく遂行するための知見として重要である。
著者
廣島 文生 伊東 恵一 寺本 恵昭 島田 伸一 廣川 真男 松井 卓
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度-19年度科学研究費申請時に掲げた研究目標(a)-(e)にそって研究成果の概要を述べる.(a)基底状態の縮退度の評価:埋蔵固有値の縮退度の上からの評価を与える一般的な方法を構築した.またスピンを含む場合には対称性から基底状態の縮退度が少なくとも2以上であることを示した.スピンを含むハミルトニアンが生成する熱半群を「スカラーな積分核」で表現し,新しいエネルギー不等式を発見した.(b)基底状態の高次regularityと非存在:新井,廣川との共同研究で任意次数のregularityを示した.また赤外発散があるときには個数作用素の1/2乗の定義域に含まれる基底状態が存在しないことを示した.(c)Gibbs測度の確率論的解析:確率2重積分を含む連続パス空間上の確率測度の族のtightnessをV.Betzとの共同研究で示した.(d)くりこみ理論:場の理論の模型には有効質量が定義される.結合定数で展開したときの係数の発散のオーダーの物理的な予想は対数発散であるが伊東との共同研究で多項式的に発散することを示した.(e)全運動量を固定した模型の解析:ハミルトニアンを汎関数積分表示して解析した.全運動量=ゼロでの基底状態の存在が知られている.我々はこの基底状態が一意的であることを証明した.スピンがある場合には非連続なパス空間上の測度をつかった汎関数積分表示をJ.Lorincziとの共同研究で得た.その結果ある種のエネルギー不等式を示した.またその応用としてスピン-ボゾン模型の基底状態の一意性を廣川と共同で示すことが出来た.
著者
中村 泰彦 山藤 一雄
出版者
九州大学
雑誌
九州大學農學部學藝雜誌 (ISSN:03686264)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.119-125, 1968-03

In vivo ascorbic acid exists in two forms of oxidized dehydroascorbic acid and reduced ascorbic acid. It is reported that ascorbic acid decreases the mortality of mice bearing Ehrlich ascites tumor, but we have no information as to dehydroascorbic acid. We synthesized dehydroascorbic acid by improved method of Kenyon et al. and isolated it as crude crystal. Aqueous solution immediately after dissolution showed no selective absorption in ultraviolet wave length, and it came to have a peak at 295 mμ with the lapse of time. By means of hydrazine method, crude crystal was calculated to be composed of 2% ascorbic acid, 66% dehydroascorbic acid, 1.0% 2, 3-diketogulonic acid and 22% others. Crude crystal solution kept at 30℃ for 70 hours (70-hrs-solution) consisted of 25% dehydroascorbic acid, 58% 2, 3-diketogulonic acid and 17% others. There was similar tendency in paperchromatography. Crude crystal and 70-hrs-solution inhibited the growth of transplantable mouse tumor Sarcoma 180, solid type and the inhibition rates were 45% and 51% respectively with the dose of 150 mg/kg/day for 6 days. With the same dosage, ascorbic acid showed weak antitumor activity. Although crude crystal and 70-hrs-solution went by contraries on the content of dehydroascorbic acid and 2, 3-diketogulonic acid, both inhibited the growth of tumor to similar extent. So we presumed that dehydroascorbic acid and 2, 3-diketogulonic acid had antitumor activities respectively.1. Kenyonらの方法を一部変えてアスコルビン酸よりデヒドロアスコルビン酸を調成し粗結晶として分離した.粗結晶の溶解直後の水溶液は紫外部にほとんど選択的吸収を示さないが,時間がたつにつれて295mμに吸収極大を持つようになり別の物質に変化することを示した.この変化はペーパークロマトグラフィーによつて確かめられた.ヒドラジン法によると粗結晶の組成はデヒドロアスコルビン酸66%, 2,3-ジケトグロン酸10%,アスコルビン酸2%,その他22%であり,70時間放置水溶液はデヒドロアスコルビン酸25%, 2,3-ジケトグロン酸58%,その他17%であつた. 2. 粗結晶およびその70時間放置水溶液は,可移植性マウス腫瘍Sarcoma 180に対して抗腫瘍性を示し,腫瘍の増殖は粗結晶投与群では対照群の55%,70時間放置水溶液投与群では対照群の49%に抑えられた.この抗腫瘍性はデヒドロアスコルビン酸,2,3-ジケトグロン酸によるものと推定した.
著者
宇賀田 順三
出版者
九州大学
雑誌
法政研究 (ISSN:03872882)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.83-90, 1944-01-30
著者
古賀 徹
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は、デザインに関する前年度の調査・研究を引き継ぐ形で、これを補充すると共に、主に理論的な面からの考察を発展させることに重点を置いた。倫理に関する基礎理論の研究としてはレヴィナスの他者論に立脚する論文「死と残余」を日本現象学会の学術誌『現象学年報』に発表したほか、アドルノのデザイン論である「今日の機能主義」にかんして、これを翻訳・解説した文章を本学の紀要『芸術工学研究』に発表し、それにもとづいて、西日本哲学会にて「象徴と機能-アドルノの啓蒙批判を通じて」という題目にて研究発表を行った。また、九州大学哲学会にて、「プログラムとしての僕らの生き方-映画『マトリックス』の超越論的考察」という題目にて、メディア論の観点からの講演も行った。11月には、「日本におけるドイツ年」の一環として、ヘッセン州のデザイン系の大学より、教員と学生が来日し、デザインに関する研究成果の発表を行った。この発表会を古賀が組織し、その内容を記録した。これと並んで、福岡市内の知的・情緒障害者の無認可作業所である「工房まる」におけるデザインを中心としたあらたな試みについてのインタビューを行った。また、デザインやアートを中心とした都市構築の試み、共同体再生の試みなどについても主に福岡を中心として幅広く研究した。これと並んで、公立美術館の役割の変化など、アートとデザインの役割の変化についても研究した。これらの現実の活動を哲学・倫理学的観点から深く掘り下げて検討し、その研究成果は、九州大学出版会より、『アート・デザイン・クロッシングVol2-散乱する展示たち』というかたちで、古賀の編著として出版された。以上が本年度の研究実績の概要である。
著者
萩島 理
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

空調発停行為を含む居住者の生活行為のタイムスケジュールの多様性を考慮し住戸の電力,熱,水等のユーティリティデマンドを高時間分解能で予測する枠組みTotal UtilityDemand Prediction System(TUD-PS)の構築を行った。また、集合住宅を対象としたTUD-PSによる数値計算により冷暖房負荷の確率特性についての検討を行い、平均値で基準化した全熱負荷の確率密度分布が住戸条件や家族構成の違いによらず概ね普遍的な傾向を示し, LDKにおける暖冷房の基準化全熱負荷の確率密度がアーラン分布で近似できることを明らかにした。
著者
菊地 成朋
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

五島列島のキリシタン集落は,明治以降も隠れキリシタンであり続けた集落と,明治期に名乗り出て教会に属しカトリックとなった集落とがある。隠れキリシタン集落「月の浦」の事例検討では,「クルワ」と呼ばれるキリシタン組織がもともとは血縁にもとづく属人的な集団であったと考えられ,その領域が父系の血縁集団ごとに定められ,その中で分家が展開されていったことがわかった。分家は本家を中心に放射状に展開しており,その際,段状に広がる耕地のエッジに屋敷を構えている。生産優先の原則と険しい地理条件との中で分家が慣行的に行なわれ,独特の村落景観が形成されたと解釈される。カトリック集落「大水」の事例検討では,隠居分家を基本とするイエワカレ慣行が一貫して持続され,その際,平等配分を原則とする分割相続が行なわれてきたことがわかった。ただし,明治から大正にかけてのイエワカレでは,集落エリアの外側に新たにイエと耕地をセットにして居住地を開発し,そこに分家を排出していったのに対し,後期のイエワカレは,屋敷近傍の耕地を宅地化することによって行なわれるようになった。そのため,集落景観は以前の散村的状況からやや集村的な状況へと変化してきている。両者の村落景観を比較すると,キリシタン集落は斜面に形成された段々畑の中に家々が散在する景観をもつのに対し,カトリック集落ではその焦点に教会を配した統合的な景観がみられ,空間構成は一見大きく異なっている。しかしながら,これらを領域モデルで比較すると,その構成は基本的に類似しており,さらに形成過程の分析によって両者は同じ原理で展開してきたことがわかった。五島キリシタン集落の独特の村落景観は,キリスト教徒という属性に直接起因するのではなく,斜面という立地特性をベースに,分割相続型のイエワカレ慣行とその具体的分与システムによって形づくられたとみることができる。
著者
木村 拓也
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

近年、高等教育の質的保証が求められてくる中、今後、継続的な大学生調査が学内外で行われることを前提とし、学内外での調査同士の結果を比較可能なように等化したり、異なる年度に行われた調査を等化したりして、学習成果の経年変化を統計的に妥当な方法で検証できるようなアセスメント・モデルを構築した。試みに、大学満足度を例に、その経年変化及び学年毎の変化する満足度の状況を明らかにした。その結果、全国的な傾向として、満足度が1年次から2年次に向けて落ち込むことが分かった。ただし、1年次には、大学満足度が低くとも、学年進行が進むにつれて上がっていく大学も見られた。
著者
藤光 康宏 江原 幸雄 西島 潤
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、まず熱収支法の中で用いられる地熱流量係数の正確な決定のために、微気象データを連続的にかつ自動で測定する装置を製作した。この微気象連続観測装置を用いて、雲仙地熱地域内の旧八万地獄で観測を行い、熱収支法による放熱量の高精度評価を試みた。その結果、地熱流量係数を連続的に求めることに成功し、得られた地熱流量係数は、時間変化が非常に激しく、分単位もしくは秒単位で変化する値であるということが示された。ヘリコプターに搭載した装置で雲仙地熱地域上空から赤外熱映像を撮像し、得られた地熱流量係数を用いて放熱量を求めたところ、旧八万地獄5.82MW、清七地獄8.87MW、八万地獄9.96MW、お糸地獄9.72MW、大叫喚地獄2.18MW、小地獄1.84MW、雲仙地獄全体では38.39MWとなった。Yuhara et al.(1981)により評価された1978年の放熱量と比較すると、雲仙地獄全体では今回のほうが約5倍大きな値となった。本研究では、地熱流量係数の変動を考慮しているため、今回算出した放熱:量は現在の値を精度よく見積もっていると言える。また、地熱異常面積と放熱量の両者には一般的に良い正の相関が認められるが、今回の結果にも良い正の相関が見られた。さらに、微気象観測で測定される各項目や地熱流量係数の時間変化を把握するために、大分県小松地獄、熊本県阿蘇火山、福岡県九州大学箱崎キャンパスでも微気象観測を行った。その結果、地熱流量係数は短時間に変化しながら日変化が現れるが、地熱異常地域と通常地域とでは日変化のパターンが異なる傾向が見られた。地熱流量係数は時間と共に大きく変動することが判明したため、熱収支法による放熱量測定における過大評価、過小評価を避け、高精度に見積もるためには、現段階では本研究で製作したような微気象観測装置を用いる必要があると考える。
著者
遠城 明雄 日比野 利信
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、門司市(福岡県)、下関市(山口県)、仙台市(宮城県)を主なフィールドにして、建造環境(インフラ)の建設過程と各種選挙における地縁集団、実業団体、政党、民衆などの対立と協同の諸関係を検討することによって、近代日本の地方都市における支配構造と地域政治の具体的諸相とその変容を明らかにしようとした。その結果、各集団はその社会経済的位置に規定され、また各都市は中央政府との関係に影響を受けつつ、都市空間の生産をめぐって対立と協同を繰り返しながら、再編成されていく過程が明らかとなった。
著者
吾郷 眞一 柳原 正治 野田 進 中窪 裕也
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

国際労働法の分野においてある程度市民権を持ちつつある「企業の社会的責任」(CSR)が実定法として機能する余地はあるのかどうか、という問題意識を出発点とし、国際公法と国内労働法の二つの観点から実態を分析し、帰納的手法を用いてCSRの法的位置づけを行った。国際公法の視点からソフトローの一つとして、あるいはまた実定法を補完するものとして一定の役割を果たすと同時に危険性もはらむものであることがわかった。
著者
矢幡 久 城田 徹央 小林 善親
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

根においてアポプラスト経由で侵入したイオンは内皮や下表皮に細胞壁にある疎水性のカスパリー帯に阻止されるが、これが欠如すればバイパスフローの原因になり有害イオンが吸収され、耐塩性が低下すると推測される。この仮説を検証する目的で塩感受性のキンモクセイと強耐塩性のマサキの挿木苗を用い、バイパスフロー量を調べた。1)樹木の苗木は、文献の草本性作物と比べてバイパスフロー量がかなり大きかった。またキンモクセイはマサキよりバイパスフロー量が大きかった.バイパスフローが大きければ受動的に吸収される水とともにNaイオンの吸収量も大きくなると推測されたが、現実のNaイオンの吸収量はこの予測値より少なかった。このために、根は吸収したNaイオンを積極的に排出している可能性が示唆された。また、バイパスフロー量は側根の発達程度が異なる季節によって変動する可能性も指摘された。2)蛍光顕微鏡による根の観察から、木本植物においても内皮やコルク形成層の発達によるバイパスの修復が行われていること、キンモクセイの根にもマサキと同様に根にカスパリー帯をもつ下表皮(エキソダーミス)が存在すること、根の腐朽部が大きなバイパスフロー量の原因になっていると推測された。3)冬季の温室で1ヶ月間、塩処理と乾燥処理をそれぞれ遮光と補光の二つの光環境条件で行った結果、葉の最大の光量子収率(Fv/Fm)は、キンモクセイでは乾燥処理の低下より、塩処理で大きく低下し、塩感受性であった。マサキは塩処理の影響が小さく、強耐塩性を裏付けたが、乾燥処理に弱かった。塩及び乾燥のストレスによる影響は、補光条件で大きく光阻害が認められた。ESRで求めた葉内のフリーラジカルは顕著な処理間差は認められなかったが、キンモクセイの遮光・塩処理区では増大した。これはストレスによって葉内で増大した活性酸素の影響によってフリーラジカル量が増大したと推察した。
著者
丸田 起大
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

我が国企業におけるフィードフォワード管理会計としての原価企画の生成過程について,そのルーツと考えられてきたトヨタ自動車では,官主導の国民車育成政策が目標価格の設定に影響を与え,航空機開発におけるチーフデザイナー制度が主査制度として導入され,航空機開発経験のある主査が航空機開発における重量計画のノウハウを原価管理へと応用したことによって,パブリカの開発時に原価企画という新たな管理会計技法が形成された。
著者
京谷 啓徳
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、ルネサンス期の宮廷祝祭の構成要素たる美術、すなわち山車行列とそれを飾ったタブロー・ヴィヴァン(活人画)、沿道に設置された各種アッパラート(仮設建造物、仮設仕掛装置、既存の建築物の仮設装飾)、そして祝祭を記録するメディアであったフェスティヴァル・ブック(宮廷や市当局等の祝祭主催者が当日もしくは後日に発行する公式記録)等に関して、美術史の側からの包括的な研究が従来行われてこなかった現状に鑑み、研究の基本的な枠組みの構築を試みた。