著者
毛利 透 土井 真一 曽我部 真裕 尾形 健 岸野 薫 片桐 直人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

まず、ジョン・ロールズの正義論において世代間正義の占める意義を検討した。世代間正義の観点から、市民的不服従の許容性について格別の考慮が求められることになるとの指摘は、世代間正義と民主主義の関係を考えるうえで、大変示唆的である。世代間正義の観点から代表民主政に制度的変革を迫るべきかどうかという重大な問題については、ドイツでの議論を参考にして詳しく考察を行った。この結果、制度的改革で政治に長期的視点を導入するという試みには大きな難点があるといわざるを得ないことが分かった。さらに、財政赤字の限界を憲法上定めるといった手法にも、実効性に加えてその政策的有用性について疑問が残ることが分かった。
著者
北澤 直宏
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本研究の目的は、宗教事情を通した、ベトナム近現代史の再考である。本年度は、特に以下の2項目で進展が見られた。1つ目は、南ベトナムの大統領であり、宗教の弾圧者として知られるゴー・ディン・ジェム政権(1955-1963)の宗教政策の分析である。そもそも、共産党の独裁体制が続くベトナムにおいて、公定史観以外の視点は把握し難い。特に共産党に敵対し滅びた南ベトナムは、今日においても否定的な言説が目立つ。新たな視点を提供は、より相対的な歴史事情を把握する上で不可欠と言えるだろう。新資料の分析により明らかになったのは、ジェムの政策が、当時のベトナムには馴染みのなかった「政教分離」の導入を図っていた点である。しかしこれは宗教勢力から反発を招き、やがて彼は弾圧者として否定的な評価が強調されていくことになる。2つ目は、宗教者の交流を通した、日本-ベトナム関係の考察である。これは歴史資料の分析に加え、各地にある在日ベトナム人宗教施設での調査を主としている。そこで明らかになったのは、20世紀から始まる両国宗教者の交流が、互いの無関心により成り立っていた事実である。そもそも日本の宗教者が示していたベトナムへの関心は、1940年代の南方進出及び1960年代以降に激化したベトナム戦争という、時勢に左右されたものであった。一方ベトナム側では、1950年代以降日本留学を経験する宗教者が続出している。しかし彼らの目的は、日本で学位を取得することであったため、彼らは70年代以降その拠点を欧米に移し始める。このような漠然とした友好関係は、互いが交流しないからこそ可能であった。訪日ベトナム人数が増え続け、在日共同体も拡大を続けていった近い将来、この見せ掛けの関係が破綻する可能性は否定できないだろう。
著者
山水 康平
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1.ヒトiPS細胞由来血管内皮細胞の誘導 これまで申請者らは、血管系列の分化発生過程を段階的にかつ単一細胞でも解析を可能とするマウスES細胞・マウスiPS細胞の新しい分化誘導法を確立した。また、この分化誘導系を用いて、セカンドメッセンジャーであるcAMPの分化発生過程における様々な役割を解明してきた。そこで我々は、これまでのマウスES細胞・マウスiPS細胞からの血管内皮細胞の誘導のノウハウを生かし、ヒトiPS細胞からの血管内皮細胞の誘導を試みた。様々な条件検討の結果、まず血管内皮細胞の前駆細胞を効率的に誘導することに成功した。血管内皮細胞の前駆細胞のマーカーであるVEGFⅡ型受容体(KDR)陽性の細胞を80%以上誘導できる系を構築した。このKDR陽性細胞をFACSまたはMACSで純化し、cAMPやVEGFといった血管内皮細胞を誘導する因子を処置することにより、100%に近い血管内皮細胞の誘導に成功した。2.ヒトiPS細胞由来ペリサイトの誘導 上記の血管内皮細胞の誘導法を応用し、ペリサイトの誘導を試みた。KDR陽性細胞を血清条件(血管内皮誘導因子なし)で培養することによりペリサイトを約100%誘導することに成功した。3.ヒトiPS細胞由来神経細胞の誘導 ヒトiPS細胞より神経細胞を効率的に誘導する分化誘導系の構築を試みた。笹井先生らが開発した神経細胞誘導を参考にしてヒトiPS細胞からの神経細胞誘導を行い、効率的な神経細胞の誘導に成功した。4.ヒトiPS細胞由来アストロサイトの誘導 ヒトiPS細胞よりアストロサイトを効率的に誘導する分化誘導系の構築を試みた。笹井先生らが開発した神経細胞誘導を参考にしてより長期培養およびPassageを繰り返すことでヒトiPS細胞からのアストロサイト誘導を行い、効率的なアストロサイトの誘導に成功した。
著者
宮宅 潔 佐川 英治 丸橋 充拓 佐藤 達郎 鷹取 祐司 藤井 律之 陳 偉 金 秉駿 ギーレ エノ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究はまず(1)中国古代史における民族の問題-「漢民族」はいかにして形成されたのか、中国王朝はさまざまな帰属意識を持つ人間集団をいかにして統合したのか、新たな民族集団の流入が王朝にいかなる影響を与えたのか、など-について共同研究者間で討議したうえで、それら民族問題と軍事の相関関係について各自の研究課題を設定し、定期的に研究発表を行った。その過程で(2)中間年度に韓国・ソウル大学で国際シンポジウムを共催した。そこでの討議をふまえてさらに議論を重ね、(3)参加者全員の寄稿を得て成果報告書『多民族社会の軍事統治 出土史料が語る中国古代』を京都大学学術出版会から刊行するに至った。
著者
安平 弦司
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

昨年度後半に引き続き、本年度はその全期間を通じて、ユトレヒト大学のJ・スパーンス博士の指導下で在外研究に従事した。本年度前半は、昨年度から行ってきた、都市ユトレヒトの財政問題解決に向けた交渉におけるカトリックの主体性に関する研究を綜合した。分析を通じ、都市のカトリック名士が当該の交渉の中で、《公》なるものを独自に定義づけ、カトリック共同体、特にその貧民の生存の余地を積極的に創り出していたことが明らかになった。この研究成果に関して、2016年4月に古カトリック学国際研究会で口頭報告(ボン大学)を行い、同年9月にはオランダ史専門の学術雑誌BMGN - Low Countries Historical Reviewに英語論文を投稿した(2017年4月現在においてまだ査読結果は得られていない)。本年度後半は、ユトレヒト市裁判所に残された史料を用いて、カトリックに関する言説や彼らが用いた言説を分析した。分析の結果、自らの生存可能性や権利を護持するため、カトリックが多様な種類の戦略を駆使していたこと、そして彼らは時に良心の自由という観念の言及して自己弁護を図っていたが、その観念に関して異なる複数の理解があったことが明らかになった。注目すべきは、良心の自由を拡大的に解釈することで、自らのあるいはカトリック共同体全体の公的領域での権利を積極的に擁護し、時に拡大しようとするカトリック名士たちがいたことである。彼らは時に、都市共同体における合法的かつ傑出した自らの公的地位を掲げ、独自の《公》認識に基づいた主張を展開することで、都市共同体において共有された《公》なるものの境界線を揺るがし、カトリックが宗派的アイデンティティを捨てずに生き残るための余地を創り出していた。この研究成果に関しては、2016年10月にオランダ宗教学会で口頭報告(アムステルダム大学)を行い、英語論文の執筆も進めている。
著者
白石 隆
出版者
京都大学
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.262-266, 2003-09

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
堤 浩之 平原 和朗 中田 高 杉戸 信彦 DELA CRUZ Laarni. S. RAMOS Noelynna T. PEREZ Jeffrey S.
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

フィリピン断層の地形・歴史地震・古地震調査に基づき,この断層から発生する地震の規模や頻度が走向方向に大きく変化することを明らかにした.フィリピン断層のほぼ全域の縮尺5万分の1の活断層分布図を作成し,フィリピン火山地震研究所のホームページで公開した.完新世隆起サンゴ礁段丘の調査により,海岸部を数m隆起させるような巨大地震がフィリピン海溝やマニラ海溝で繰り返し発生してきたことをはじめて実証的に明らか
著者
和田 利博
出版者
京都大学
雑誌
古代哲学研究室紀要 : hypothesis : the proceedings of the Department of Ancient Philosophy at Kyoto University (ISSN:0918161X)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.26-40, 2006-06

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
臼井 二尚
出版者
京都大学
雑誌
京都大學文學部研究紀要 (ISSN:04529774)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-181, 1959-03-31

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。The 15th Meeting of the International Institute of Sociology was held at Istanbul in 1952,where I had the privilege of assuming chairmanship of the section on Rural Sociology. There I also made my own report on the Japanese village community. ("Actes du XV^e Congres International du Sociologie, 1952,vol. 1,p. 181 ff.), and discussed briefly, from my sociological viewpoint, eleven aspects of the Japanese village community. The aim of the present paper is to make a more detailed study of the first of the eleven aspects, namely the closedness or openness of a community. For our research on this particular theme I am deeply indebted both to the Japanese government which has subsidized it for almost a dozen years, and to the Rockefeller Foundation for a five year grant which has enabled me to continue it since 1957 and will enable me to complete this survey on a national scale. The country is divided roughly into several districts according to climate, geographical features, and cultural patterns. According to modes of subsistence the Japanese villages may be divided under the three categories of the agricultural, the fishing, and the forestry (mountain) village. Our sociological research was made by selecting a number of villages from each subsistence category in each district. The Japanese village is now finding itself in a transitional period from an older type of village to a new one. To understand the Japanese village in transition, it is necessary to ascertain to what extent the main characteristics of the old and new types are increasing or decreasing with the lapse of time. In this article I have tried to specify 18 major factors which either determine or represent the opened or closed nature of a village, i. e., the degree of its contact with the outside world, whereby one may know to which type the village in question belongs. Our analysis of these factors has been based on concrete objective materials. With regard to each factor full account has been taken of the changes the agricultural, mountain, and fishing villages in each of the districts have undergone in the course of time. And in respect to the mobility of people, differences in sex and age have been duly taken into consideration. Let us begin with the factors relevant to the closed village community : (1) The peculiar way of earning a livelihood in a village is closely related with the degree to which it may be considered closed. In an agricultural village, the extreme difficulty of reclamation makes its people cling to their present strips of land and the small-scale intensive labor of cultivation makes it difficult for them to leave their farms. In a mountain village the inhabitants have hardly any leisure to go out of the village, being always busy with the work of forestry, trimming, lumbering, carrying down lumber, making charcoal, etc. In a fishing village, as its fishing area is limited to the sea immediately off its shore, its inhabitants seldom have a chance to go out of their village. Thus it may be seen that in these cases agriculture, forestry, and fishing all have the effect of closing a village community to the outside world. (2) We must consider the fact that there are certain properties and facilities commonly and equally shared by the villagers. The kinds of such common goods, the economic contents of these, and their importance for the economic life of each villager have been specified. Leaving one's village means, therefore, losing one's share in the benefits drawn from the common goods of the community. This situation also deters villagers from going away from the village. (3) Strangers are not easily permitted to make use of the common properties and establishments of the village or to join the village shrine festivals. They are required to fulfill certain qualifications such as a specified number of years of residence before they are admitted as villagers with full rights, and they must go through certain formalities before they are admitte
著者
冨永 望
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2005-11-24

新制・課程博士
著者
荒木 茂 山越 言 王 柳蘭 原 正一郎 村上 勇介 柳澤 雅之 北村 由美 舟川 晋也 水野 啓 梅川 通久 竹川 大介 有川 正俊 池谷 和信 竹川 大介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

諸科学が提示するグローバルな認識、イメジと、地域研究で集積されるミクロな情報とのギャップを埋め、両者を統一的に理解してく道筋の一つとして、可変的なスケールをもつ『仮想地球空間』を想定し、地域情報をインタラクティブに集積していくツールの開発と、データ集積を行なった。地域研究が提示する地域のメッセージを、地点情報、主題図の形で地球上に貼り付けていくことによって、地球を多様な世界観からなる地域のモザイクとして描き出し、グローバルな認識と接合させる道が開かれた。
著者
川添 信介
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2003-11-25

新制・論文博士
著者
柴田 悠
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2011-07-25

新制・課程博士(人間・環境学)
著者
藤原 勝紀 田畑 治 岡田 康伸 皆藤 章 一丸 藤太郎 下山 晴彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

こころの問題が複雑化・深刻化している現代において、臨床心理士をはじめとする専門家、心理臨床家には、高度な専門性が求められている。心理臨床家の養成の難しさは、内面的な心と心の使い方、あるいは全人格に関わる生き方について、いわゆる教育指導が可能かという本質的な課題を提起する点にある。直接の人間関係による臨床実践をつうじて生成する学問、学問を基盤に臨床実践を行う心理臨床家、という学問と臨床実践の相互不可分な専門性の中で、従来の知識伝授型の教育過程とは異なる「臨床実践指導」の在り方に焦点を当てることになった。そこで、臨床心理士の養成と資格取得後の教育研修、ならびに臨床実践指導者の養成に関する教育訓練、教育研修の仕組みや在り方と、その指導内容や方法について検討がなされ、大学院附属心理教育相談室など臨床実践指導機関の役割や位置づけ、大学院教育カリキュラムにおける臨床実践指導の位置と在り方を討議する中、新しい臨床実践指導のパラダイム(従来の「講義-演習-実習」から「実習-演習-講義」への変換)が示された。これは、高度専門職業人として不可欠な倫理教育も含んでおり、臨床実践に根ざしたボトムアップ型の重要性が認識されることになった。このような技術だけではない臨床実践技能の質をどう担保し高めるかという点が、心理臨床家の養成において焦点であり、かつ臨床心理士有資格者にとっては生涯学習的なテーマである。本研究を通して、臨床実践指導の本質が問い直され、その特徴として、指導を受ける側と指導者側との双方向的な視点の重要性も明らかにされた。なお、京都大学大学院教育学研究科では、平成16年度から「臨床実践指導者養成コース」という独立した博士課程が設置され、「臨床実践指導学講座」が新設される運びとなっている。