著者
市川 厚
出版者
京都大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1984

研究実施計画に従い、以下の研究成果を得た。1. 融電電気泳動による細胞融合条件の検討:融合用装置を組み立てた。装置の概略は、白金電極をプラスチック製スライドに距離200μMの間隙で固定し、一定の周波数とサイン波形を出力するファンクションジェネレーターと、高出力パルス(方形波)を1MHz,20μsecで放出するパルスジェネレータの順に連撃する。細胞の前処理としては、緩衝液の替りに0.32Mマニトールを用い、0.1mM Ca【Cl_2】存在下、プロナーゼ0.5〜1.0mg/mlで室温10分間インキュベートを行って、遠心洗浄をくり返して細胞を洗浄する。融合反応条件は、【Ca^(2+)】存在下に0.5〜1又は2MHz、5〜20μsec範囲で細胞によって条件を選択し用いる。融合の可否は、用いる細胞と組み合させる細胞によって異なる。一般に、同種細胞同士の方が高い融合効率を得ることができる。しかし、異種細胞間においては、融合は可能であるが条件の選択性に晋偏性が認められない。細胞の回収はマニュピレーターを用い、庶糖密度勾配遠心法で密度の高い肥満細胞と細胞密度を利用して 分離する。肥満細胞同上の融合細胞は、増殖能を有さないのでコロニーを形成しないことから、癌化肥満細胞と肥満細胞の融合体のみを回収する。線維芽細胞やリンパ球と肥満細胞の融合についても検討を加えた。2. 融電電気泳動によるリポゾームの細胞への封入:癌化肥満細胞より、S-アデノシルホモシスチンヒドロラーゼを精製し、膜よりPG【D_2】レセプターを単離して、各々を酸性リン脂質含量の低いリポゾームに包含させる。細胞内への融電電気泳動による移行は10%内外でとくに高収率ではなかったが、細胞への傷害を考えると他の薬剤を用いる方法よりも明らかに優れている。1),2)を通じ、異種細胞間の融合条件が確定できなかった点は今後の問題である。
著者
上本 伸二
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ラット同種間強拒絶肝移植モデルを用いて、肝移植術前にレシピエントの骨髄細胞をドナーに移植することにより、拒絶が軽減するかどうか検討した。肝移植術前に骨髄細胞移植を行うことで肝移植術後の拒絶反応が軽減された。肝グラフト内に移植骨髄由来の細胞の生着を認め、それらはKupffer細胞に分化していた。ドナーに対するレシピエント由来の骨髄移植によるKupffer細胞置換は肝移植後の拒絶抑制に有用な治療となる可能性がある。今後、異種移植モデルで検討を行っていく。臨床でのブタ/ヒト異種移植を想定し、ハムスター/ラット間の異種肝移植モデルの手技を確立した。
著者
久保田 正和
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

我々は在宅療養中の10名の糖尿病患者を対象に、看護師によるテレビ電話を用いた定期的な交信が、日常生活における患者・家族の食事や運動、服薬等の自己管理をサポートし、血糖コントロールにどのような影響を与えるかを検討した。介入3ヶ月後、10名の平均HbA1c値は、介入前に比べ有意に減少した(p<0.005)。また、介入3か月後の体重も介入前に比べ有意に減少した(p<0.0005)。対照群は外来通院のみ行った患者で、HbA1c 値、体重に変化は見られず、介入群のデータとは対照的であった。看護師による糖尿病患者遠隔指導は平均HbA1c値、体重を変化させ、血糖コントロールの改善に有効であることが分かった。
著者
大津 宏康 立川 康人 小林 晃 稲積 真哉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

インドシナ地域で斜面崩壊が最も多発している風化花崗岩(まさ土)からなる斜面での原位置計測の分析結果より,降雨は表面流出,地中への浸透に加え,表面貯留の3成分に分類され,この内表面貯留は,斜面表層部でのインク瓶効果により,降雨浸透が抑制されることで生じることを確認した.また,解析で算定された浸透量を流入境界とした飽和・不飽和浸透流解析と実測値との比較から,同手法は,表面貯留量の概念を導入することで,浸透量を適切に表現可能となることを示した.さらに,降雨に起因する斜面崩壊機構として,降雨浸透に伴う飽和度の上昇による有効粘着力の減少により,安全率の低下が生じることを明らかにした.
著者
高橋 由典 伊藤 公雄 新田 光子 吉田 純 河野 仁 植野 真澄 高橋 三郎 島田 真杉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

当初の計画に従って、戦友会関係者へのインタビュー調査を行うとともに、全国に散在する戦友会関係文献資料の収集・分析を行った。これらの調査結果と戦友会に関する統計調査(2005年、未公刊)の結果とを合わせ、戦友会に関する総合的研究の成果報告書として『戦友会研究ノート』(青弓社刊、2012年)を刊行した。同書によって戦友会をめぐる諸問題が網羅的に解説されるとともに、戦後日本社会における戦友会の意味も明らかにされた。
著者
加藤 誠
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

平成29年度の研究計画ではWebにおける意見の誘出を主な課題としていた.特に,あるユーザの行動や特定の事象への反応から,そのユーザが持っている意見を推定することを課題としていた.平成29年度は下記の3テーマについて研究成果を得た:1.ソーシャルメディアからの意見誘出: ソーシャルメディア上において,特定の属性(e.g. 学生や高齢者等)を持ち,ある話題に関して意見を発信しているユーザから意見を誘出する方法について研究を行った.ソーシャルメディアにおいて,ある話題に関する意見は発信者の属性と合わせて記述されることは少なく,単純な文字列マッチングによる検索では先述の問題設定に沿うような結果を得ることは困難であった.そこで我々はソーシャルメディアかが構成するグラフへ適合フィードバックを伝播させることによって,特定の属性を持つユーザを効果的に発見する方法を提案した.2. レビューからの意見誘出: レビューからある商品に関する意見を抽出することで,商品を任意の性能順に並び替える方法について研究を行った.我々は相対的な評価(e.g. カメラAはカメラBより夜景が綺麗に撮れる)が絶対的な評価(e.g. カメラAは夜景が綺麗に撮れる)より正確に意見を誘出できる情報であると仮定し,これに基づいて商品を並び替える方法を提案した.実験の結果,相対的な評価による順位付けは絶対的な評価による順位付けよりも正確であることを示した.3. 質問投稿サイトの検索ユーザからの意見誘出: 質問投稿サイトの検索において,複数のランキングを混合することによって,どのランキングが検索ユーザに好まれるかを効率的に推定する方法を提案した.特に,ヤフー知恵袋において3ヶ月間の評価実験を実施し,どの程度のフィードバックを得れば統計的有意にランキング間の差を得られるかを明らかにした.
著者
庄垣内 正弘 藤代 節 大崎 紀子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ウイグル漢字音成立過程の解明について、ベルリン所蔵ウイグル文字表記漢文本U5335を中心的に扱い、加えていくつかのウイグル文字表記の漢文断片を同定し、資料とした。いずれもこれまでほとんど研究されたことのない文献であった。ウイグル漢字音が10世紀代の「プロト体系」から徐々にウイグル語音化し、やがてU5335に見られるような元朝時代の簡素化した体系に発展してゆく過程を記述し、庄垣内がかつて体系として再構、提出したウイグル漢字音を検証し、その成立、発展を包括的に記述することができた。
著者
齋藤 邦明 山本 康子 村上 由希 齋藤 ゆみ
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ストレスは精神神経疾患や生活習慣病など様々な疾患の引き金の一つとして考えられているが、ストレスによる疾患発症の詳細なメカニズムは未だ解明されない部分が多く残されている。本研究では個々のストレス状況を把握し、負荷が少ないIT 技術を用いた利便性の高い設問形式を用いて、ストレス評価法の構築と新規ストレスバイオマーカー検索の可能性について検討した。設問集を用いたストレス解析については、CES-D、GST28などをベースとして、データをIT 技術による算出する方法を確立し、同時に種々の臨床データと経時的に血清等のバイオリソースを高品質で保管管理できるシステムが構築された。本システムが構築された事により、健常人および慢性疾患患者の個々人レベルでの追跡が可能となり、データ解析の際に臨床で問題となるノイズの軽減が可能となった。さらに、高ストレス群と低ストレス群でのプロテオーム解析の結果より、両群間で差のあるいくつかのタンパクが認められた。すなわち、高ストレス群と低ストレス群共に例数を重ねてターゲットタンパクを絞り込み、特異性のあるタンパクを詳細に解析して複数のターゲットタンパクを組み合わせることでストレス度を判定できる新しいバイオマーカーを確立できる可能性の充分ある事が判明した。設問紙を利用することにより、ストレスの総合的解析が可能となり、ストレス軽減方法の開発に寄与できるものと考えている。すなわち、客観的側面からの分析(類似回答パターンの有効性の検討)として、回答から類似の回答パターン(数種類)に分類し、ストレス度が高いパターン、ストレス度が低いパターンを構築したシステムから抽出し、クラスタ分析など統計的解析と血液等のストレスバイオマーカーを加える事による精度の高いシステム構築が可能であることが示唆された。
著者
榎田 竜太
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

25年度では【免震建物用積層ゴム支承に対するリアルタイムサブストラクチャ実験】に関して, 以下の2課題に取り組んだ.(1)積層ゴム支承に対するリアルタイムサブストラクチャ実験用システムの設計・組立(2)リアルタイムサブストラクチャ実験の実施(3)ナイキスト安定判別法によるシステムの無駄時間と安定性の検証(1)においては, 積層ゴム支承を実験部分であるサブストラクチャとして, 地震時における上部構造物などの影響を数値解析的に評価するリアルタイムサブストラクチャ実験用のシステムを構築した. また, 地震時においては地動によって生じる加速度と上部構造物の質量によって積層ゴム支承の水平方向には大きな慣性力が作用する. そのため, 本リアルタイムサブストラクチャ実験では, 鉛直荷重(構造物の重量)と水平荷重(地震による慣性力)の二つを模擬するアクチュエータを積層ゴム支承にさせた. (2)においては, 積層ゴム支承に対するリアルタイムサブストラクチャ実験を目的としていた. この実験の前に, アクチュエータと計測機器を含む実験システム全体に対するシステム同定によって, 6.0msのむだ時間があることが明らかとなった. このシステムを用いて, JMA神戸波(兵庫県南部地震)を用いたサブストラクチャ実験を実施し, Fig. 2 (a)の実験結果が得られた. 数値解析部分の上部構造物の応答と実際の実験部分の積層ゴムの応答が同じ応答を示しており, リアルタイムサブストラクチャ実験を実現することができた. (3)の無駄時間を考慮したナイキスト安定判別法によって, このシステムが無駄時間20msの場合に不安定化することが示された. そのため, 無駄時間を19msと20msに設定した実験を実施した, 19msでは安定した挙動を示したが, 20msでは不安定化した. これによって, 安定性評価の有効性が実験的に示された。
著者
棟方 涼介
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

これまでの研究で得られていたセリ科アシタバ由来のクマリン基質O-プレニル基転移酵素遺伝子(AkPT1)について、詳細な酵素機能解析を行った。その結果、AkPT1は非常に小さいKm値を有すること、基質特異性が高くクマリンの一部の誘導体のみ基質として認識すること、ならびに広いpHで高い活性を保持することなどを明らかとした。また細胞内局在の解析では、AkPT1のN末端領域がプラスチド移行シグナルとして機能することを示した。さらに、昨年度文部科学省支援事業「植物科学グローバルトップ教育推進プログラム」の支援の下で作製したミカン科グレープフルーツ外果皮のRNA-seqデータを基に、新たにO-PT遺伝子CpPTを見出した。酵素機能解析の結果、CpPT1はグレープフルーツを含め柑橘類で最もメジャーなO-プレニル化クマリン誘導体であるベルガモチンの生成を担うO-PTであることが分かった。今後、AkPT1とCpPTの結果を取りまとめて論文を執筆・投稿する。上記と並行して、植物の化学防御物質であるアンギュラー型フラノクマリン(FC)の生合成経路の解明についても研究を進めた。セリ科パースニップより得られていたアンギュラー型FC生合成の初発酵素を担うクマリン基質C-PT遺伝子(PsPT)について、詳細な酵素機能解析、発現誘導の解析、系統解析等を行い、一連の研究成果を論文にまとめた。そのほか、クワ科イチジクからもFC生合成の初発反応を担うクマリン基質C-PT遺伝子(FcPT)を新たに取得した。興味深いことに、PsPTとFcPTは同様の酵素機能を有するにもかかわらずアミノ酸配列の相同性が低く、系統解析により、互いに期限が異なる酵素であることが示唆された。今後、FcPTについても一連の結果を取りまとめて論文を執筆・投稿する。
著者
村嶌 由直 大田 伊久雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1990年世界農林業センサスは林業離れの実態を全体的に明らかにしたが,その中で地域的に新たな発展の動きも見られた。本研究は,'90年代の全体像を地域的に解明するとともに,地域的にあるいは経営体として確立している"地域林業"および林家・法人に焦点をあて,その成立基盤を解明した。高度産業社会においては都市への人口流出,不在村所有・サラリーマン林家の増加,こうした状況は零細所有者の森林管理を困難にしている。一方では、森林のもつ多機能の発揮のために森林管理が緊急に対処されなければならない課題になっている。木材生産局面からみると、戦後造林が利活用段階に入った南九州(宮崎・熊本など)およびまだその段階への移行過程にある東北(宮崎・岩手など)の林業に地域区分が可能であるが,林業発展へのベクトルがみられるのは一つのまとまりをもつ地域単位を基礎とした場合であり,そこに上層組合員に支持された森林組合が果たしている役割が極めて大きい。加えて地方自治体による側面的な支えによって前進を確実にしている。しかし,林業経営が成立する地域は限定的で,試算される林業の内部収益率の低さから言えば全地域的である。60年代半ばから70年代にかけて公的造林が森林造成に,あるいは地域振興に大きく寄与したが、21世紀を迎える今日,放棄され森林管理を公的に進める手だては見い出し難い。一部で模索されているのが、下流の「水」の受益者・市町村が上流域の森林整備のために財政的に支援するものであり,「流域」を単位とした森林管理の道である。
著者
岩崎 奈緒子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、幕府が「鎖国」をヨーロッパに対する外交体制として採用する歴史段階を確定し、「鎖国」体制の特質を明らかにすることを課題とした。この研究により、ロシアの出現という事態が日本人の世界認識に転換を促した事実を発見できた。すなわち、広大で強大なロシアの存在が認知された結果、そのようなロシアが存在する世界とはどのようなものなのか、という問いが生まれ、その探究によって、ヨーロッパが一つの勢力として、世界を席巻しつつある事実が認知されたのである。「鎖国」の語は、このような世界認識の転換のダイナミズムの中で生まれた語であり、ヨーロッパ概念抜きには成り立ち得ない認識であったといえよう。
著者
佐藤 宏樹
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は、4月から1ヶ月半、マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園でチャイロキツネザルが採食する餌資源のサンプルを採取し、帰国後、霊長類研究所で栄養分析を行った。この分析により、チャイロキツネザルが水分の乏しい乾季に、積極的に水分の多い多肉質の葉を採食し、夜間はエネルギー源となる果実を採食することを示唆する結果を得た。2006年12月から1年間行ったアンカラファンツィカ森林でのチャイロキツネザルの行動観察データと環境要因との関係を分析した。乾季の昼間は、乾燥と日射による熱のストレスによる体温上昇と水分損失を回避するため、体温調節として休息することが示唆された。この内容は2010年9月に行われた第23回国際霊長類学会において発表し、優秀発表賞を受賞した。また、霊長類学雑誌に論文を投稿し、査読中である。上記にある暑熱ストレスによる日中休息、水分摂取のための日中の葉の利用、エネルギー摂取のための夜間果実採食は、霊長類の中でもチャイロキツネザルを含むEulemur属に特有である日中も夜間も活動する「周日行性」の適応意義を説明する新たな仮説となる。この周日行性に関する新仮説を2011年3月に行われた第58回日本生態学会において発表した。また、1年間の野外調査ではチャイロキツネザルの糞中に含まれる種子の種類や個数を調べた。この糞分析データと行動観察データを対応させた分析を進めた結果、乾季の暑熱ストレスで葉の利用に切り替わることで糞中に含まれる種子数が減ることが明らかになった。散布動物の環境への行動的な適応が種子散布機能に影響することが実証された。チャイロキツネザルの採食戦略とその種子散布者としての重要性に関する研究をまとめ、全9章からなる学位申請論文(地域研究博士)を執筆した。審査の結果、平成23年3月に学位を取得した。
著者
小池 郁子
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、アメリカ黒人の社会運動において、性(ジェンダーとセクシュアリティ)がどのように位置づけられてきたのかを、アフリカ由来の神々、オリシャを崇拝する運動を事例に考究した。そのうえで、「少数派のなかの少数派」として強調されることの多い黒人女性や、黒人の男性同性愛者が、オリシャ崇拝運動といかに関わってきたのかを文化人類学的視点から考察した。また、彼らが運動と関わることで、宗教文化の実践や運動の実践形態がいかに変容したのかを分析した。
著者
平島 崇男 中村 大輔 苗村 康輔 河上 哲生 吉田 健太 大沢 信二 高須 晃 小林 記之 臼杵 直 安本 篤 Orozbaev Rustam Svojtka Martin Janák Marian
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

本研究課題では、世界で最も冷たい超高圧変成帯であるキルギス、最も温かい超高圧変成帯であるチェコ、その中間型である中国東部に分布する超高圧変成岩を対象とし、地下60-100kmでの流体活動の実態を明らかにし、超高圧変成岩の上昇駆動に関与する深部流体の役割の解明を目指した。超高圧時の温度が1000Cを超えるチェコの研究では、超高圧変成岩が上昇中に減圧部分溶融し浮力を獲得したことを見出した。超高圧時の温度が800C以下のキルギスや中国では、超高圧時でもローソン石・クロリトイド・Ca-Na角閃石等の含水珪酸塩が安定であり、ローソン石などは減圧時に脱水分解し周囲に水を供給していたことを見出した。
著者
東 浩司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

花の匂い特性の異なる近縁種の雑種個体が両親種とは異なる匂い特性(および花形態)を示すことにより、種分化が起こることが期待される.花の匂い特性が異なるアケビとミツバアケビ、およびそれらの雑種であるゴヨウアケビの匂い特性を調べた.ゴヨウアケビの匂い特性は両親種の中間的であったが、いくつかの個体は親種であるアケビ・ミツバアケビに見られない匂い物質を放出していることが分かった.セキショウは種内分類群として開花期が異なる二つの系統が知られている.両者の匂いを調べた結果、特に違いは無かったが、これまで天然物として知られていない匂い物質を放出していた.
著者
野村 理朗 野村 靖幸
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究課題は、認知科学領域において関心の高まっている「衝動性」という心理行動的現象の制御メカニズムについて、脳領域間の情報伝達を担うセロトニンの機能、およびこれを調節する遺伝子の塩基配列の個人差(遺伝子多型: gene polymorphism)に着目し、その個人差に関わる包括的な視点から、衝動的行動の制御メカニズムを明らかにした。具体的には、行動実験、脳機能計測、遺伝子解析により基盤となる脳内機構、およびこれへのセロトニントランスポータ、セロトニン2A受容体遺伝子多型の影響を示すとともに、こうした制御機構の基盤としての前頭前野腹外側部の関与を明らかにした。
著者
松森 昭 佐藤 幸人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

サイトカインは、ウイルス性心筋炎における病因において重要であり、その抑制性サイトカインを発現させる事で有用な治療効果が得られるのではないかと考え、In vivo電気穿孔法により、IL-1ra、vIL-10、可溶性c-kitの遺伝子をマウス心筋炎モデルに導入した。IL-1ra、v IL-10導入の結果については、HUMAN GENE THERAPY 12:1289-1297に報告しているが、生存率、組織、サイトカイン等すべてにおいて、治療効果を認める結果を得た。さらに、サイトカイン遺伝子導入による血中レベルを長期に持続するため、サイトカインと免疫グロブリンのFc部分を隔合した蛋白を発現するプラスミドの作製を試みた。vIL-10+免疫グロブリンにFc隔合遺伝子導入により、血中vIL-10濃度は隔合しない場合に比べ100倍上昇し、ウイルス性心筋炎の治療効果がみられた。また、同じくマウス心筋炎モデルにおいて、可溶性c-kitプラスミドを導入することにより治療効果を見た。可溶性c-kitを発現させる事により、幹細胞因子(肥満細胞増殖因子)の活性を阻害し、肥満細胞の増殖、活性化を抑制することが狙いである。まず4週齢のDBA/2雄マウスで心筋炎モデルを作製し、ウイルス投与と同時に、マウス両前頚骨筋に、可溶性c-kitプラスミド100μg、対照群としてベクタープラスミド100μgを筋肉内に注射し、In vivo電気穿孔法にて遺伝子発現を増幅させた。その結果、7日目までの生存率は、可溶性c-kitプラスミド注射群で明らかに良好であった(可溶性c-kitプラスミドVSベクタープラスミド:100%VS50% P<0.05)。また、7日目の心臓組織の評価では、心筋炎の病勢を反映する炎症細胞浸潤、心筋壊死領域は、明らかに可溶性c-kitプラスミド投与群で軽度であった(炎症細胞浸スコア0.90±0.46VS1.37±0.65 p<0.05、心筋壊死スコア0.85±0.22VS1.61±0.23 p<0.05)。以上の結果より、マウスウイルス性心筋炎モデルにおいて、In vivo電気穿孔法による可溶性c-kitプラスミドの導入は有効な治療法であり、新しい遺伝子治療として非常に有用であると考えられた。