著者
初澤 敏生 天野 和彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.216, 2020 (Released:2020-03-30)

1.コミュニティFMとは コミュニティFMは1992年に市区町村単位の地域を対象として制度化された半径10〜20km程度の範囲を受信エリアとする地域限定のラジオ放送局である。地域に密着した放送局であることから、地域の災害対応などで大きな役割を果たすことが期待されている。しかしその活動の実態に関しては十分に把握されていない。本研究では福島県須賀川市のコミュニティFMであるULTRA FMを事例に、令和元年台風19号への対応を検討する。 2.ULTRA FMの概要 ULTRA FMはまちづくり会社「こぷろ須賀川」が運営するコミュニティFMである。「こぷろ須賀川」は須賀川市、須賀川商工会議所、地元企業等の出資によって2017年に設立された第三セクターで、中心市街地の活性化に取り組んでいる。ULTRA FMは2019年1月11日の開局であるが、2018年11月12日に須賀川市との間で「災害時における放送要請及び緊急放送等に関する協定」を結んでいる。設立当初から災害対応が期待されていたと言える。 運営に当たる職員は営業を含めて5名であるが、パーソナリティは30名を超える。年間運営経費は人件費を除き約1500万円、このうち約800万円が須賀川市からの補助金である。放送時間は24時間であるが、独自番組(生放送)は月〜金曜日は6時間、土・日曜日は2時間で、残りの時間は東京FM系のMusic Birdから番組を購入して放送している。 3.ULTRA FM設立の背景 ULTRA FMの設立に当たっては、何人かのキーパーソンがいた。その一人が「こぷろ須賀川」副社長のA氏である。A氏は東日本大震災の際に須賀川市の災害FMの運営に当たったが、これは短期間で閉局を余儀なくされた。A氏はその後もラジオを用いたまちづくりを追及し、ULTRA FMの開局につなげた。 局長を務めるB氏は地元の地域紙である「マメタイムス」の記者を長く務め、地域の事情に精通している。 ディレクターを務めるC氏は東京FM系の制作会社に勤めていたが、ふくしまFMの設立にともなって移籍、その後独立して活動していたが、2010年に郡山市のコミュニティFM設立に携わり、その後郡山市に避難していた富岡町のコミュニティFMを運営し、ULTRA FMの設立にともなって現職に就いた。 このように、ULTRA FMではキーパーソンがいずれも東日本大震災を報道・放送の場で経験し、その後の災害FMの運営などに関わっていた。災害対応に強い思いを持つ人々がこの放送局の核となっている。それが令和元年台風19号への対応に活かされた。 4.令和元年台風19号への対応 ULTRA FMは通常は夜間は無人で放送を行っているが、台風19号は夜に来ることがわかっていたので、10月12日から13日にかけてはA・B・C3氏と急を聞いて駆け付けた市内のパーソナリティの方、計4名で24時間体制で放送を行った。 放送にあたって課題になったのは情報収集である。前述のとおりULTRA FMは市と災害協定を結んでいた。市としては風雨が強い際には防災無線が聞こえない恐れがあるため、ラジオ放送でそれを代替したいと考えていた。そのため、災害時には市が情報を提供することになっていたが、十分な情報が伝えられなかった。そのため、A氏とB氏が市内を取材して、C氏とパーソナリティの方が放送を担当した。A・B両氏は市内の状況を熟知していたため、どこが被災しやすいかを知っており、そこを取材した。取材内容は電話を通して放送された。 5.今回の対応の課題 ULTRA FMの今回の対応で最も大きな課題は情報収集である。従業員数5人のFM局の取材能力は限られる。そのために市と災害協定を結んで情報提供を受けることになっていたが、市からの情報提供は滞りがちになり、独自の情報収集を強いられた。発災時、市には様々な情報が集まる。それを市民と共有することが必要である。 また、放送に関する課題もある。ULTRA FMは通常の番組の途中に臨時ニュースを流す形をとったが、このような放送では、より多くの情報を求める人々は他の手段を求めることになろう。従業員数から見ればやむを得ないことではあるが、災害時の番組編成を再検討する必要がある。行政等と連携した日常的な準備を期待したい。
著者
朱澤 大二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.389-408, 1989-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
97
被引用文献数
2

Since Darwin's report on the Pampa grassland appeared, various opinions have been presented onthe problem (Grisebach 1872; Hann 1911; Köppen 1900, 1918 etc.). However, until the 1920's, the Pampa problem did not attract great attention in world academic circles. It was Schmieder's (1927) paper which marked the turning point in research on this problem. On the basis of various materials, he concluded that the Pampa is not a natural but a culturally induced grassland. His thesis became a focus of attention and, at the same time, of serious criticism. Kühn (1929), one of the reviewers, refuted the “evidence” referred to by Schmieder point by point, and concluded that the Pampa should be considered a natural grassland. Thereafter, hydroclimatic water balance, vegetation ecology, and regional ecology have been intensively studied, and the Schmieder's thesis has lost the backing of major researchers. Hydroclimatological research has contributed much to research on the Pampa problem. On the basis of intensive research on the relationship between the distribution of hydroclimatic water balance and the representative natural vegetation in the USA, Thornthwaite (1952) hypothesized the presence of a grassland climate. Similar results were obtained by his collaborators on the Pampa. He is of the opinion that the grassland is a natural phenomenon, in equilibrium with its climatic environment, and that it is possible to explain the presence of grassland on the basis of climate alone without bringing in other aspects such as human activities or fire; this is an openion in opposition to the thesis of Sauer (1950, 1956). Recent hydroclimatological research concluded that the Pampa should have a forest climate, i.e.mesophytic forest growth in the NE region, a transitional forest in the central region, and treeless steppe-like grassland in the W region, and extensive natural grassland which corresponds with an edaphic climax formation confined in the widespread azonal sites (Henning 1988). The concurrence between root systems of grasses and trees in the soil at given sites has also been intensively investigated, and as a result, it has become clear that the dominance in such a situation lies with the soil condition. In general, grasses dominate if soils are heavy, and trees dominate in light soils. In the Pampa, the boundary between grassland and woodland is approximately in accordance with that of heavy (in the east) and light (in the west) soils. Microscopic research on the soil, especially the humus, also gained remarkable results considering the former vegetation on the Pampa (Walter 1966, 1967; Wilhelmy and Rohmeder 1963; Troll 1968 etc.). Surrounding the Pampa are woodlands whose physiognomies are quite similar; however, their adaptabilities to climatic and hydroclimatic environments differ greatly, which complicated the Pampa problem (Walter 1967). It is certain that the results obtained by research on the Pampa problem contributed to the promotion of grassland studies elsewhere in the world and in turn on the Pampa. However, various problems regarding grassland have been raised with time. As is generally known, there are many research papers on the origin of savannas of the world, including Kadomura's (1984), Haruki's (1984) and Tamura's (1988) papers. The identification of climatic types on the basis of the effective method (for instance “savanna climate”) has been seriously criticized (Waibel 1948; Parsons 1955; Puson 1963; etc.). This and other methods must be re-examined.
著者
岩本 廣美 河本 大地 板橋 孝幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.320, 2020 (Released:2020-03-30)

奈良県南部の野迫川村を事例に、山間地域で小中学校の統廃合が進行した結果発生した空き校舎を地域社会がどのように活用しているのか、を明らかにしようとした研究である。山間地域における地域社会のあり方の一端を探ろうとする研究であり、教育地理学の延長に位置付けられると考えられる。
著者
辰夫 辰夫 研川 英征 吉田 一希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<br><br>平成28年(2016)4月16日にM7.3の内陸直下型の熊本地震が発生し、地震断層・亀裂、液状化などの地表変状、多数の建物の倒壊が生じた。そこで、被害の集中した益城町市街地から熊本市にかけて地震直後の地形分類図の作成と共に、地震後の空中写真により液状化、亀裂などの地表の変状、建物被害の判読、これらの分布と地形との関係について調査を行った。
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000065, 2018 (Released:2018-06-27)

I 研究の背景・目的 モータリゼーションの進展の結果,自家用車の普及に伴い,東京・大阪の二大都市圏以外では,自家用車が最もよく通勤に利用されている(Nojiri, 1992).一方,自家用車利用の増大は二酸化炭素排出量の増加に繋がるため,1998年に閣議決定された第5次全国総合開発計画では,環境負荷が少ない交通体系の形成が提唱され,公共交通機関や自転車,徒歩での移動を促進する方針が示されている.しかし,1990年以降を対象とした通勤・通学時の利用交通手段に関する研究は,個別都市の事例分析を除けば管見の限りなく,その後の変化は十分には把握されていない. そこで,本発表では,日本における1990年から2010年までの通勤・通学手段の変化の動向を都市圏単位で整理する.総務省による国勢調査結果に基づく大都市圏・都市圏は数が少なく,地方都市の分析が不十分となるため,本発表では,金本・徳岡(2002)による大・小都市雇用圏の枠組みを利用する.また,国勢調査において常住地と従業・通学地間の利用交通手段別の集計がなされているのは,常住人口が10万人以上の市に限られ,すべての都市雇用圏について検討することができない.そのため,都市雇用圏の中心市町村(以下,中心都市とする)のみに注目し,従業・通学地ベースの利用交通手段別の通勤・通学者比率を求め,その変化を分析する.対象地域は,2010年時点の229の大・小都市雇用圏の中心都市であり,複数の中心都市からなる都市雇用圏は1つの中心都市として合算して扱う.なお,都市雇用圏の大小は,中心都市のDID人口で分けられており,1万人以上5万人未満が小都市雇用圏,5万人以上が大都市雇用圏である.II 利用交通手段別通勤・通学者比率に基づく類型化 まず,利用交通手段別の通勤・通学者比率をもとに,都市雇用圏の中心都市を類型化する.2時点間の変化を検討するために,1990年と2010年の2時点のデータを同時に類型化する.類型化に用いる指標は,「徒歩だけ」,「鉄道」,「乗合バス」,「自家用車」,「自転車」によるそれぞれの通勤・通学者比率である.このうち「鉄道」に関しては,1990年と2010年で集計方法が異なるため,1種類または2種類の交通手段を利用するもののうち,JR又はその他の電車・鉄道を用いるものを集計し,2時点で求める.類型化には,Ward法のクラスター分析を用い,各指標値を標準化したうえで類型化する. 類型化の結果,5類型が得られた(表1).公共交通機関の利用が卓越するのは公共交通機関型のみであり,その他の類型では,自家用車の利用が半数以上を占めている.III 都市雇用圏中心都市における利用交通手段の変化 所属類型の変化を示した表2によれば,1990年時点では半数以上が自家用車半数/自転車型(144都市:静岡,新潟,浜松など)に属し,公共交通機関型は11都市(東京,大阪,名古屋・小牧など)に過ぎない.2010年では,自家用車の利用が自家用車半数/自転車型よりも多い,自家用車卓越/自転車型(60都市:前橋・高崎・伊勢崎,浜松,宇都宮など)や自家用車卓越型(106都市:富山・高岡,豊田,福井など)の増加が顕著である.自家用車半数/自転車型と自家用車半数/徒歩型,自家用車卓越/自転車型から,それぞれ自家用車利用の比率が高い類型に変化してきており,自家用車利用のさらなる高まりが確認できる. 一方,1990年で公共交通機関型であった11都市のうち,9都市は2010年でも公共交通機関型であった.残り2都市(北九州,日立)は,自家用車半数/自転車型に変化した.いずれも,期間内に市内を走る鉄道の廃止が行われており,それによる鉄道利用の減少が類型の変化につながったものと考えられる.参考文献金本良嗣・徳岡一幸 2002. 日本の都市圏設定基準. 応用地域学研究7: 1-15.Nojiri, W. 1992. Choice of Transportation Means for Commuting and Motorization in the Cites of Japan in 1980. Geographical Review of Japan 65B(2): 129-144.
著者
本合 弘樹 原山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100032, 2016 (Released:2016-11-09)

1. 上高地の活断層  長野県松本市にある上高地は中部山岳国立公園の南部に位置し,山岳観光地として有名かつ人気が高いエリアである.また,今年の8月11日に『第1回「山の日」記念全国大会』が開催された際には注目が集まった.  その上高地において,南北に延びる活断層の存在が本合ほか(2015)により報告されている.明神地域南部から徳本峠周辺,島々谷南沢にかけて延びる上高地黒沢断層と徳本峠断層である.これらの断層は地形図および赤色立体地図で判読されるリニアメントの形成と密接な関係があると考えられる.  今回,本合ほか(2015)の研究結果を踏まえ,活断層の運動とリニアメントとして表れている活断層地形の形成との関係について考察した結果を報告する.2. 研究手順  本合ほか(2015)では研究地域において,赤色立体地図を用いてリニアメントを判読し,その結果を踏まえ,断層の存在が推定された沢を中心に地表踏査が行われた.そこで明らかになった活断層とリニアメントの位置を比較し,活断層地形の形成との関係について考察した.3. 上高地黒沢断層と徳本峠断層  上高地黒沢断層は本合ほか(2015)により命名された活断層であり,黒沢から稜線の鞍部を通り島々谷南沢にかけて延びている.1998年飛騨山脈群発地震(和田ほか, 1999)の発生に関係したと考えられている上高地断層(井上・原山, 2012 ; 本合ほか, 2015)を切っており,破砕帯露頭で見られる地層の引きずりから逆断層と考えられている.  また、徳本峠断層も本合ほか(2015)により命名された活断層であり,稜線上で鞍部になっている徳本峠を通り島々谷南沢にかけて延びている.上高地断層と接していると推定され,破砕帯露頭で見られる地層の引きずりから逆断層と考えられている.4. 活断層の運動と活断層地形との関係  黒沢が流れる谷地形や徳本峠(稜線の鞍部)の形成に関しては,活断層の運動による破砕帯の形成が関係していると考えられる.破砕帯の内部には断層粘土などが存在し外部より強度が劣るため,雨や雪などによって優先的に浸食が進むと考えられる.  また,上高地黒沢断層の上盤(西)側および徳本峠断層の上盤(東)側それぞれにおける斜面の勾配に違いがあるが,これには美濃帯中生層の沢渡コンプレックスが北東‐南西走向・北西傾斜であることが影響していると考えられる.逆断層の運動で地表に張り出す上盤の地層は不安定になる.上高地黒沢断層の上盤は受け盤,徳本峠断層の上盤は流れ盤であり,後者は地表に張り出す分の地層が層理面で滑動しやすくなるため,前者よりもやや緩やかな斜面を形成していると考えられる.【引用文献】本合弘樹・井上 篤・原山 智(2015) 日本地質学会第122年学術大会講演要旨,一般社団法人 日本地質学会,R5-P-17.井上 篤・原山 智(2012) 2012年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨,公益社団法人 日本地理学会,P015.和田博夫・伊藤 潔・大見士朗・岩岡圭美・池田直人・北田和幸(1999) 京都大学防災研究所年報 第42号 B-1,京都大学防災研究所,p.81-96.
著者
坂井 宏子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.31, 2019 (Released:2019-09-24)

1.はじめに 2004年新潟県中越地震で「新潟県中越地震復旧・復興 GIS プロジェクト」がスタートした。さらに2007年新潟県中越沖地震では、県対策本部地図作成班が(EMC:Emergency Mapping Center)設置された。 にいがた GIS 協議会は、必要なハードウェア、ソフトウェア、データ、人材等を無償で提供し、京都大学防災研究所、新潟大学災害復興科学センターと連携し、被災状況をリアルタイムに地図化した。2.EMC におけるデータについての課題 (2007/11 時点)(1)防災施設情報等のデータの不整備 地図化するための基礎データ(台帳データ)のデータベース化がされておらず、位置情報が整備されているデータもほとんどなかった。被災データ(Excel)を作成するための事前処理に時間がかかった。(2)被災情報のとりまとめブロック図の不整備(正式地名と通称の存在) 被災情報が、一般に使用されている字・町丁目単位ではなく、市町村独自の行政区やコミュニティNo毎で、それらのブロック図の整備がなされていなかったため、文字情報と地図情報をリンクさせるために対応表を作成する等事前準備に時間がかかった。(3)地図等の電子データの著作権・ライセンスに対する理解不足 提供物(地図データ、主題図)の著作権に関して、事前に正式な協定がなされていなかったため、活動終了後の活用において課題が残った。電子地図データの利用範囲(紙で大量印刷、庁内LAN利用、インターネット配信)が拡大される都度、無償提供者側とライセンスの使用許可範囲の交渉が必要となり時間を要した。3.EMC 活動を通しての提案 (2007/11 時点)(1)平常時における基礎データの整備1)基本的データの整備(市町村) 最低限必要な基本的データ(共用空間データ等)は、行政で整備しておく必要がある。また、取り纏め単位に使用するブロック図(行政区、コミュニティ区、小中学校区等)も整備しておくべきである。2)基本的データの整備及び国、市町村データの集約(県) 災害時には被災市町村との広域連携が必須となるため、あらかじめ統合型 GIS で整備された市町村の空間情報データ及びその他の機関が所有するデータを、県単位で集約することが望ましい。また民間地図も有効であるため事前に協定等結んでおくとよい。なお、広域で情報を集約するには、災害時必要な情報(水道、下水、道路等)の市町村の状況を事前に調査の上ルール化しておくことが望ましい。(2)利用者へのGISリテラシー教育 データベースの概念、GIS の基礎知識等研修会を実施する。(3)地域のGISセンター構築の検討(データセンターの活用) 平常時から基礎データを整備し、データの管理は、365日監視体制、セキュリティ、耐震性を備えた、リモートコントロールが可能で安全の保証確度が高いデータセンターの利用を考えるべきである。4.現在の取組と課題(1)新潟県との「災害時の応援業務に関する協定」 の締結 (2017/11) ①災害時における、応急対策のための電子地図の作成 ②平時における、防災訓練、研修等における連携 等を目指すもの 県内は約 6 割の市町村で「統合型 GIS」を整備しているが、まだ十分な状況ではない。新潟県では、災害時に必要となる基礎データの整備を行ったが、データの更新に課題が残っている。県内すべての自治体がデータを整備できているわけではないため、統一フォーマットでデータを集約更新するには限界があるようだ。現在、新潟県では統合型 GISの整備はなされていない。(2)N²EM(National Network for Emergency Mapping)の設立 (2019/5) 防災科学技術研究所が設立した N²EM(当協議会も参加)が、西日本豪雨の際、鹿児島県等の避難所オープンデータ作成を支援した。5.今後 GISは地域経営を支援する情報プラットフォームとして、災害時には「被害状況の見える化」、平常時には「地域の課題の見える化」を可能とする。産官学民で地域の GIS センターを構築し、データを共有・流通できる仕組みの確立を目指していきたいものである。
著者
荒 瑞穂 横山 ゆりか
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.86, 2019 (Released:2019-09-24)

Ⅰ はじめに近年,アニメやマンガの聖地巡礼という現象が話題になっている.新聞記事やテレビ番組などでも特集されるなど,アニメやマンガに興味がない者もこれらのコンテンツに触れる機会は多い.アニメ聖地巡礼に関する先行研究は数多く存在するが,『らき☆すた』を扱った谷村(2011)や『ガールズ&パンツァー』を扱った石坂ほか(2016)など,以前から対象となる作品が多く存在し研究対象として注目されてきた,作品中に現実に存在する背景が描かれている作品の研究が主である.しかし,ファンの間ではそれらの形態以外の作品での聖地巡礼も行われている.例えば,『刀剣乱舞』や『薄桜鬼』などの作品中に背景が描かれていない作品でも聖地巡礼が行われている.そこで本研究では,アニメ聖地巡礼を作品中の描写などとの関連から4種類に分類し,そのなかで特に,先行研究で着目されてこなかった形態の聖地に焦点を当てて分析を試みる.Ⅱ 聖地の分類の仮説本研究では,作品に関連しファンの間で行われている聖地巡礼を,作品の描写の中で一つの実在する町が細かに再現され舞台の探訪を可能としている「狭義聖地」と,描写の中で実在する町の再現がない「広義聖地」の2種類に大きく分類する.さらに,町を再現した描写がない「広義聖地」を「モデル地」「ゆかりの地」「依り代」の3種類に分類する.「モデル地」とは作品中の町の雰囲気が現実のいくつかの町に似ているために聖地となったもの,「ゆかりの地」とは歴史上の人物などをモデルにしたキャラクターが登場する作品で,キャラクターのモデルとなった人物などに関連する場所が聖地となったもの,「依り代」とはモノをモチーフとしたキャラクターが登場する作品で,キャラクターのモチーフとなったモノがある場所が聖地となるものと定義する.なお,ここでは「依り代」という言葉をキャラクターの魂の宿るものとして使用している.Ⅲ 調査の目的と方法本研究では,前述の4種類の聖地の分類方法の妥当性を確かめ,その特徴を調査するために,アニメやマンガに関連するサークルに所属する者とそれ以外とに向けてそれぞれgoogleフォームによるwebアンケートを行った.前者をサークル向けアンケート,後者を一般向けアンケートと呼ぶ.Ⅳ 結果と考察サークル向けアンケートは75件,一般向けアンケートは126件の回答が得られた.以下ではサークル向けアンケートの結果を述べる.回答では,「作者ゆかりの地」「制作会社所在地」や名前が共通する地などの可能性が指摘されたが,今回調査の対象とした作品中の描写やキャラクターのルーツに関連する聖地の分類については概ね意見の一致が得られた.また,各聖地についての特徴なども得られたが,ここでは特に今後の分析の対象とする「依り代」型の聖地について,従来型の聖地である「狭義聖地」と対比しつつ分析を行うこととする.回答によると「狭義聖地」の巡礼では,巡礼中の行動として,作品に関連する写真を撮ることや作品関連施設の利用,巡礼後の行動として,SNS,または身近な人との共有があがった.これは「依り代」型でも共通で,巡礼者は同様の行動を起こしている.一方で聖地巡礼先での観光の広がりについては,「狭義聖地」では1つの町に対していくつかの場所の描写があり,それらを巡る行動がみられるのに対し,「依り代」型聖地の特徴は,依り代であるモノのみに巡礼者が集中し,広がりがみられなかった.今後の調査では,「依り代」型の聖地巡礼を誘発したゲーム『刀剣乱舞』についてのキャラクター「山姥切国広」とコラボし刀剣「山姥切国広」の展示を行った足利市の事例を取り上げ,イベント運営側,巡礼者側両者へのヒアリング調査を行う.それにより,「依り代」型聖地での巡礼者の巡礼行動と「依り代」型聖地の活用方法についての具体的な検討を行いたい.謝辞調査に参加いただきましたサークル関係者の皆様,大学生の皆様,また,ご協力くださいました東京都市大学都市生活学部の諫川輝之先生に心より感謝申し上げます.参考文献石坂愛,卯田卓矢,益田理広,甲斐宗一郎,周宇放,関拓也,菅野緑,根本拓真,松井圭介 2016.茨城県大洗町における「ガールズ&パンツァー」がもたらす社会的・経済的変化:曲がり松商店街と大貫商店街を事例に.地域研究年報 38 : 61-89.谷村要 2011.アニメ聖地巡礼者の研究(1)―2つの欲望ベクトルに着目して.大手前大学論集 12 : 187-199.
著者
阿部 信也 志村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.24, 2020 (Released:2020-03-30)

1.はじめに:災害は地域的な現象であり,防災教育は地域に根ざした実践が求められる。防災教育が積極的に「自校化」を提唱している理由はここにある。 本研究は,自校化された防災教育の学習構造を,村山(2016)等の先行研究をもとに第1図のように設定している。この学習構造モデルでは,防災教育が「防災学習」(前半)と「防災指導」(後半)に大別される。防災学習の部分では,災害発生のしくみを構造的に整理し,学区を対象とした「素因(自然環境と人間生活)」の事実認識と,一般的な災害発生の仕組みである「誘因→素因→災害」という概念認識を関連付けて生徒は学ぶ。続く後半の防災指導では,防災学習で得た知識をもとに生徒自身が避難訓練計画を立案する。本モデルは,社会科(地理的分野)を中核とすることで,防災学習と防災指導が連携した効果的な防災教育実践がなされることを示しており,実践成果は志村・阿部(2019)で報告した。 本発表では,防災教育の自校化を進めるための本学習構造枠組をふまえて実施した防災教育の小中学校現場実態に関するアンケート調査結果について,主に教員の認識実態に焦点を当てて報告する。2.アンケート調査の概要:新潟県三条市内の全市立小学校・中学校を対象に,2018年2月20日(火)〜2月28日(水)に実施した。回答者は小・中学校ともに,社会科主任を含めた社会科担当2名,理科主任を含めた理科担当2名,(保健)体育科主任1名,家庭科主任1名,防災計画作成者を含めた安全(防災)担当職員2名である。回答者数は,小学校135名,中学校53名で,合計188名であった。3.アンケート調査結果:防災学習では,「自分自身が学区の地域特性を理解していないため,自校化が難しい。」といった課題が多くあげられ,特に素因理解である事実認識の獲得に難しさを抱いていた。しかし,素因を理解する必要性も感じていないことも読み取れた。この背景には,多くの教員が防災教育の目的を災害発生後の対処的なものと考え,予防的な防災教育という意識が低いことがあり,国が目指す防災教育の目的と現場教員が認識している防災教育の目的との違いが明らかとなった。さらに,どの地域でも使える『新潟県防災教育プログラム』に依拠した概念的な防災学習指導が中心となっており,これも学区の素因理解(事実認識)を疎かにしている一因になっていた。 防災指導に関しては,現在実施されている避難訓練での想定災害と,教員が学区で起こる可能性があると考えている災害に違いがあった。避難訓練の内容も防災学習とは関連しておらず,第1図のような学習構造をもった指導とはなっていなかった。さらに,多くの学校では「教員が子どもをどのように避難させるか」といった教員にとっての訓練になっており,子どもが主体的に避難行動を考えるような指導場面はみられなかった。 防災教育全体では,防災教育計画の整備が不十分で,防災教育と教科・領域との関連が不明な学校が多い。各校の防災教育計画は一般・汎用的な計画等を参考に作成されており,教育計画を見るとその内容が似通っている学校も多かった。 以上のような調査結果からは,防災教育が自校化されていない現状とその背景・理由が理解された。 本研究成果の一部はJSPS科研費16H03789(代表:村山良之)による。文献:志村喬・阿部信也 2019.自校化された防災教育の中学校社会科地理的分野での授業実践−新潟県三条市における単元開発と実践成果−.日本地理学会発表要旨集.95:239. 村山良之 2016.学校防災の自校化を推進するために—学校防災支援と教員養成での取組から—.社会科教育研究.128:10-19.
著者
淡野 寧彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b>1.はじめに</b></p><p></p><p> 各地域に存在する中心商店街は,その衰退や今後のあり方について幅広い研究分野から関心がもたれ,かつ身近な地域を知る具体例として教材にもなりうる。報告者もまた,愛媛県松山市の大街道・銀天街商店街を対象として,愛媛大学生に手描き地図を作成してもらい,その特徴についてグループワークなどを通して学生自身に分析・発表させるといった授業を展開している。また,その手描き地図にみられる諸特徴について報告者自身も分析を行い,愛媛大学により近接する大街道商店街に立地する店舗等の記載が多いことや,買物だけでなく娯楽目的の来訪も多いこと,商店街のメインストリート部分がL字状に強調されることなどを示した(淡野,2015)。</p><p></p><p> こうした傾向は毎年継続してみられるものであったが,2019年10月の授業にて作成された手描き地図には,明らかな変化がみられた。すなわち,その作成時点で全国的なブームのなかにあり,数多くの店舗が出現したタピオカドリンク(以下,TD)店に関する記載の増加である。さらに,TD店周辺部に関する描写も,過去のものと比較して詳細になる傾向がみられた。</p><p></p><p> そこで本報告は,全国的なブームを背景としたTD店の相次ぐ立地が,特定地域に対する若年層の意識や行動にどのような影響をもたらしたのかについて考察することを目的とする。主な研究方法は,2018年と2019年の愛媛大学生による大街道・銀天街商店街に関する手描き地図の内容に関する比較と,2019年の受講学生についてはTDの消費に関するアンケート調査も別途実施した。</p><p></p><p><b>2.大街道・銀天街商店街におけるタピオカドリンク店の分布と</b><b>特徴</b></p><p></p><p> 分析対象とした9店のうち8店は,銀天街商店街東端の「L字地区」と通称される場所ないしその近辺に集中立地している。また,9店中7店は2019年の開業であり,ブームの影響を強く感じさせる。各店舗の開店時間は11〜20時頃である。店舗内に15席程度の喫茶スペースを設ける店舗が2店存在したが,商品購入後は店舗外でTDを飲むこととなる店舗のほうが多い。</p><p></p><p><b>3.大街道・銀天街商店街の描かれ方とその変化</b></p><p></p><p> 2019年の手描き地図において,地図中に記載されたTD店舗数の1人あたり平均と標準偏差は,男性(45人)が0.3±0.7店,女性(48人)が1.5±1.3店となり,t検定による1%有意水準においても女性による記述のほうが有意に多い結果となった。なお,手描き地図中に示されたTD店の場所は,実際の立地とおおむね合致していた。</p><p></p><p> 次に,2018年と2019年の手描き地図中に記された全業種の店舗数の平均と標準偏差をみると,大街道商店街では10.4±4.4店から11.4±6.2店に増加したものの有意な差異は認められなかったのに対して,銀天街商店街では5.3±4.6店から7.8±6.1店と有意な増加がみられ(検定方法は同上),TD店の立地が銀天街商店街への来訪や認知の向上に影響していることが推測された。</p><p></p><p> 一方で,2019年受講学生にTDの消費について尋ねたアンケート結果では,女性において消費機会が多いものの,月2・3回以上の消費は女性全体の3割弱にとどまり,分析対象とした店舗の利用割合も30%前後の店舗が多く,必ずしも頻繁にこうした店舗を訪れているわけではない様子もみられた。なお報告当日には,Instagramに投稿された写真からTDと当該地域の関係についての検討も示すこととしたい。</p><p></p><p><b>4.おわりに</b></p><p> TD店の新たな立地は,これまで若年層が訪れる機会の少なかった場所への訪問を促し,その近辺を含む場所への認知向上に結び付きうることが,分析を通じて明らかとなった。ところで今日,社会の変化はますます急速となり,これに対して学術研究がいかに寄与しうるのか,期待と同時に厳しい視線が送られている。本抄録作成時点で,TDと地域の関係性について論じた学術的な分析は管見の限りみられない。一方で,本報告で用いた分析手法は,地理学においてオーソドックスなものが主である。社会における関心が急速に高まる現象に注目し,客観的なデータの獲得を前提としつつも,なるべく速やかに研究分野からの視点やとらえ方を広く示すことに,報告者は学術研究の1つの将来性をみたいと考えている。</p>
著者
小林 護 村上 優香 大槻 涼
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.151, 2020 (Released:2020-03-30)

外邦図とは、明治以降第二次世界大戦終戦まで、旧日本軍参謀本部・陸地測量部などが作成した、日本領土以外の地域の地図である。外邦図の多くは軍事用に制作されたため、実情は秘密にされてきた。また、大戦末期のひっ迫した状況や終戦時の混乱によって多くの資料が消失したため全体として何種類、何枚作られてきたかというようなデータは残っていない。また日本の敗戦直後、連合軍が進駐してくる前に多くの外邦図が焼却された(塚田・富澤2005)。 戦後70年以上が経過し、現在の景観と比較すれば、環境や土地利用、都市域など様々な変化を長期的な視点で読み取ることができると考えられる。 駒澤大学には9481枚の陸図外邦図が所蔵されている。しかし、これまでは一覧形式の目録しか作成していなかったため所蔵地図の分布や網羅状態の直感的な把握は難しかった。また、外邦図と現代では地名が大きく異なる地域が多いため、必要な地図を探すには緯度経度の数字から探すほかなかったため活用するのに多大な労力がかかっていた。そこで、目録に掲載されている図郭範囲の緯度経度データを基にインデックスマップを作成した。駒澤大学以前には岐阜図書館によるものや、それを元に発展させた東北大学附属図書館/理学部地理学教室による外邦図デジタルアーカイブ内で公開されているインデックスマップが知られている。 インデックスマップの作成にはGISソフトであるArcGIS10.7.1(ESRI)を使用した。駒澤マップアーカイブズ(2015)の各図幅の緯度経度情報を基に四端のポイントを自動処理で作成し、ArcGISの追加ツールである「ジオメトリ変換ツール」を用いてその4ポイントをつなぐ四角形のポリゴンを作成した。外邦図の中には陸地測量部が一から作成したものの他に占領時に現地で徴用しそのまま複製したものも多く含まれる。それらの地図には本初子午線を一般的な英グリニッジではなく独自の子午線を用いているものがある。それらはいずれも英グリニッジを基準とした経度に補正して用いた。また、測地系はWGS84を用いた。戦前に作られた外邦図は当然WGS84ではなくベッセル楕円体などの旧来の測地系を採用しているため多少の誤差が予想される。(1)所蔵外邦図の分布や傾向が明らかになり、面的把握が容易になったことによって従来の目録ではわかっていなかった様々な事実が後述のように明らかになった。(2)ESRI社が提供するベースマップと重ね合わせたところ予想の通り数100mの誤差が確認できた。これは前述の通り測地系の違いによるものと、当時の未熟な測量技術による測量誤差が複合して発生したものと考えられる。 駒澤大学の外邦図コレクションは東北大学らのコレクションと比較すると不完全なものであることは経験則で把握されていたが、地図の形になったことによりはっきりとわかるようになった。 従来全図幅がほぼそろっていると考えられていた地域についても実際には相当量の歯抜けがあることが判明した。 駒澤大学が所蔵する外邦図の中には緯度経度の情報がないものも一定数存在している。座標がない地図はGISを用いた処理でインデックスマップを作成できないため今後、手作業での同定が必要となる。 また、目録作成時の入力ミスと考えられる不自然な形状の地図も幾分か発見された。従来は目視による確認のみとなっていた目録記載情報の新たな確認方法としての活用も期待できる。
著者
伊藤 修一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.34, 2020 (Released:2020-03-30)

Ⅰ.はじめに 都道府県より大きなスケールでの地名認知の研究では,認知率の分布パターンの特徴に留まらず,その要因解明にも強い関心が寄せられてきた.要因を刺激中心要因群と被験者中心要因群,被験者刺激中心要因群とに整理すると,刺激中心要因群には位置や面積などの,通時的にみて変化しにくい項目が含まれる.よって,他の要因群が統制されているならば,認知の時系列的傾向は安定的なはずである.一方で人口のような,比較的変化しやすい刺激中心要因群の変動があれば,他の要因群が統制されていたとしても,時系列的な認知傾向が変化するはずである.認知の時系列傾向は,地域の変化の行動地理学的説明の一証左となりうることから,本研究では地名認知の時系列的傾向を把握するために,反復横断調査から得られた認知率の推移とその分布パターンの特徴を統計的な裏付けを基に検証する.Ⅱ.研究方法 調査は2003〜2013年の9月に1度ずつ,質問紙を用いて50分程度で行われた.対象地域は東京都の島嶼部を除いた53市区町村である.調査期間中に市区町村数の増減や名称の変更はない.調査は市区町村の名称と位置の認知を中心に問う内容で,名称については50音順に並べた市区町村名について,「知っている」と「聞いたことがない」との2択での回答を求めた.位置については市区町村名を「知っている」と回答した者に対して,白地図上の各市区町村に付された番号と,回答用紙の市区町村名とを対応させる方法で回答してもらった.この「知っている」と回答した者の割合や正しい位置を指摘できた者の割合を認知率とする. 回答者は本学の教養教育科目の一つで,筆者が担当した「人文地理学」の当日の受講者である.全11回の調査から623人の有効回答が得られた.対象者の平均年齢は2003年の20.5(s.d.=1.86)歳が最高で,2005年の19.2(s.d.=0.94)歳が最低である。都外に4年以上の居住者が40.1%を占めており,2003〜2011の各年ではその傾向がχ2検定で10%水準以上の有意性が認められるなど,被験者中心要因群は比較的統制されている.Ⅲ.名称認知の特徴 全調査年次で認知率が平均90%以上の市区町村は本学の位置する世田谷区とその近接区が多く,ローカルモランI統計量に基づく検定から,世田谷区と近接する7区からなるホットスポットが認められる.一方で瑞穂町とそれに近接する4市1町によるクールスポットが認められるなど,市町村の認知率が相対的に低い.認知率の年次間の相関係数はいずれも0.93以上(p<0.01)と高く,分布パターンは安定的である.ただし28市区町村の認知率の年次間の差は,χ2検定により10%水準以上で有意である.うち24市区でRyan法による多重比較で2003年と2009年との間に有意差が認められ,両年の対象者の特徴が関係したとみられる.Ⅳ.位置認知の特徴 全年次で認知率が25%以上の市区町村は世田谷区と渋谷区,町田市,目黒区,奥多摩町,江戸川区,八王子市,大田区の八つである.ローカルモランI統計量に基づく検定によれば,世田谷区とそれに近接する4区によるホットスポットが形成されているが,いわゆる「パースの法則」の統計的有意性は認められなかった.対照的に,認知率が10%未満の24市区町村のうち23は市町村であり,武蔵村山市と東大和市,瑞穂町によるクールスポットが形成されている.認知率の年次間の相関係数はいずれも0.73以上(p<0.01)で,分布パターンは比較的安定的で,χ2検定により認知率の年次間の差が10%水準以上で有意なのは13市区である.このうち8市区でRyan法による多重比較で2004年と2011年との間で有意差が認められ,両年の対象者の特性が認知率の推移に影響した可能性がある.Ⅴ.認知傾向の要因分析 認知率を被説明変数として,大学敷地(駒沢キャンパス)重心—各市区町村重心との直線距離と,各市区町村の住民基本台帳に基づく人口数と国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調」に基づく面積の3項目を説明変数とした重回帰分析を各年次で行った.名称認知率の分析結果をみると,各年次とも上記3項目で6割程説明される.偏回帰係数は各年次とも直線距離,人口の順に影響力が大きく,認知率の安定的な推移に寄与している.位置認知の分析結果も決定係数は名称認知と近似するが,変動は大きい.さらに位置認知では面積の影響が直線距離と同等に大きく,認知過程での視覚的効果の重要さを確認できるが,これが全年次で確認できる特徴とはなっていない.このため,地図の読図習慣といった被験者刺激中心要因群が年次によって異なることが示唆される.
著者
山中 蛍 後藤 秀昭 竹内 峻 中田 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.244, 2020 (Released:2020-03-30)

地形学の研究では,地表面の様子を記録するために,現地での地形計測が実施されることが多い。等高線表現を用いた中〜大縮尺の地形図や空中写真の判読・分析のほか,近年では,航空レーザ測量などによる精緻な数値標高モデル(DEM)を用いた研究が主流となりつつあるとはいえ,より詳細な分析や,説得力ある情報収集のためには,現地での地形計測は欠かせない。 地形計測では,オートレベルやトータルステーションなどの多様な測量機器が用いられてきたが,近年では,GNSS(全球測位衛星システム)が重要な社会インフラとして整備されつつあり,地形研究でも広く利用されるようになってきた。その一方で,精度のよいGNSS受信機は,その価格や機材の大きさから,誰でも,どこでも,気軽に使えるほどではないのが実情である。しかし,近年,GNSSモジュールやアンテナの高性能化,小型化に伴い,センチメートルオーダーの測位が可能なパーツが廉価で販売されはじめ,農業や土木などの実業的な分野でこれらの応用が進みつつある(中本,2018)。 本研究では,それらのパーツを組み立てた小型で廉価なRTK-GNSS計測機器を作成し,地形学的な研究での利用について検討を行った。その結果,可搬性に富み,現地での作業が簡便なうえ,これまでのRTK-GNSS受信機と同等の精度で地形計測が可能であることが解った。発表では,機器の構成や使用方法および測位精度を報告するとともに,断層変位地形での現地計測を通して,地形研究への適用の可能性について報告する。
著者
山内 啓之 小口 高 早川 裕弌 飯塚 浩太郎 宋 佳麗 小倉 拓郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.96, 2020 (Released:2020-03-30)

GISを用いて空間的思考力を向上させるための教育は,地理学を通じた人材の育成に有効である。最近では,2022年の高等学校における地理総合の必修化を背景に,中高生を対象とするGIS教育の実践に関心が集まっている。一方で,中高生が実際に地理情報を取得する手法や,GISを操作してデータを処理する手法を学習できる機会は限られている。そこで演者らは,中高生が,GISや関連機器の活用を体験するプログラムを企画して実施した。 本プログラムは,日本学術振興会の「ひらめき☆ときめきサイエンス」の一環として,「デジタル地図とスマホ,ドローン,3Dプリンタで自然環境と人間生活を調べよう!」と題し,2018年8月3日,17日と2019年8月17日に実施した。受講者はインターネットを通じて応募し,中学1年生〜高校2年生までの計82名が参加した。 本プログラムは講義と4つの実習で構成され,1日でGISの基本や関連技術を網羅的に体験できるようにした。講義では,電子地図と紙地図の違いやGISの基礎知識を30分程度で解説した。受講者がより身近にGISを理解できるように,スマートフォンの位置情報ゲームや企業でのGIS活用の事例も紹介した。 実習は,1)データ解析,2)データ取得,3)アウトリーチ的活用,4)WebGISの活用の4つを体験するものとし,各1時間で実施した。1)のデータ解析では,無償で利用できるQGISと,基盤地図情報数値標高モデルを用いた地形の分析手法を解説した。受講者は,講師の指示とスクリーンに投影した操作画面に従って,標高データの段彩表現,陰影図の作成,傾斜角の算出,土地利用データの重ね合わせ等を体験した。2)のデータ取得では,主にドローンによる写真測量を取り上げた。受講者は屋外でドローンによるデータ取得を見学した後,室内でトイドローンの操作を体験した。3)のアウトリーチ的活用では,3Dプリントされた地形模型やスマートフォンのVRアプリを活用して,地形学の研究手法や,研究成果を効果的に伝達する手法を紹介した。受講者がより関心を持って学べるように,3Dプリンタでの模型の製作工程や,反射実体鏡による地形分類の手法等も解説した。4)のWebGISの活用では,防災をテーマに,Web地図上で洪水に関する情報を重ね合わせ,地域の脆弱性を読み取った。実習の冒頭では,受講者に洪水時の状況を伝えるために,対象地域の概観,水害の歴史,被害状況等について簡単に解説した。次に受講者が3〜6人のグループに分かれ,ノートパソコンやスマートフォンでWeb地図を閲覧しながら,洪水時に危険な地域や避難所に関する各自の意見を付箋にまとめ,A0の大判地図に貼り付けた。実習の後半では,討論の結果を模造紙にまとめ,グループごとに発表した。 本プログラムの効果を検証するために,受講者を対象とするアンケートをプログラムの終了後に実施した。アンケートは講義と各実習を5点満点で評価する設問,該当する項目を選択する設問,回答を自由に記述する設問で構成した。各受講者がアンケートに5点満点で回答した難易度,理解度,満足度の平均値を用いて,本プログラムを評価した。難易度については,2)のデータ取得や3)のアウトリーチ的活用のような直観的に理解しやすい実習を易しいと評価する傾向があった。一方で,講義,1)のデータ解析,4)のWebGISの活用のように,既存の知識との連携,複雑なPC操作,空間的思考力を要するものには難しさを感じる者が多かった。特に,1)のデータ解析は,他の実習に比べ難しいと感じる傾向があった。理解度は,難易度と全体的に同様の傾向を示したが,難易度よりもやや肯定的な評価となった。一方で満足度は,全ての内容について受講者の回答の平均値が4以上の高評価となった。以上の結果から,本プログラムは受講者が部分的に難しさを感じたものの,講義および実習の内容を概ね理解でき,高い満足感を得たと判断される。今後は,その他のアンケート項目の結果も参考に,プログラムの構成や教授法を改善する予定である。
著者
若狭 幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.67, 2020 (Released:2020-03-30)

無人航空機(Unmanned aerial vehicle: UAV)を用いた地理学、地形学的研究は、昨今、数多く実施されている。UAVを用いて取得された画像は、衛星画像に比べると高解像度であり、任意の時に取得できるため、災害時の状況把握や早急な原因究明のために有効な手法であるとして活用されている。活用されている手法の多くは、動画取得による現状把握、可視カメラを用いた高精度地形図の作成などであり、いずれも可視画像を用いている。しかし、UAVを利用したリモートセンシング研究以外の衛星リモートセンシング研究やその他の航空測量研究分野などでは、可視画像のみならず、マルチスペクトル、ハイパースペクトルなど多波長画像が用いられたり、赤外線カメラやレーザーを用いた測定、測量など、種々のセンサーを搭載した研究が実施されている。そこで、本研究ではマルチスペクトルおよびハイパースペクトル画像を用いたUAVマルチ/ハイパースペクトルリモートセンシングを用いた災害調査の可能性について検討し、その結果を報告する。マルチ/ハイパースペクトルカメラは大型でさらに高価あることが多く、これまでUAVに搭載され、災害調査用に利用されることはなかった。しかし、超小型衛星用の液晶波長可変型フィルタ(Liquid Crystal Tunable Filter: LCTF)搭載型マルチ〜ハイパースペクトルカメラが開発され、それをUAV用に適用させたカメラが開発されたことにより、その可能性が高まった(Kurihara et al., 2018)。マルチ/ハイパースペクトル画像は、地表面物質のスペクトル情報が入っており、地表面に存在するものの識別を多種化することができる。例えば、単なる裸地だけでなく、どのような土壌が存在するのか、そこに含まれる粘土鉱物の種類などを識別することができる。斜面崩壊時、その崩壊面や崩壊発生源となった原因である地質、特に粘土層の存在やその範囲等を推定する必要がある。しかし、崩壊面は危険であったり、広範囲であったりするため、すべての地域の調査には時間を要する。一方で、前述したようなマルチ/ハイパースペクトル画像を取得できるカメラを用いることにより、UAVリモートセンシングでこれらの問題が解決できる可能性がある。広範囲に粘土鉱物が含まれる層の位置や、その量の推定などが、リモートで調査できるため、これまで困難であった問題に着手できることが期待される。そのために、災害調査に適したカメラの開発と、実際に災害が発生した際に速やかに撮影ができるような撮影システムを整えておくことが必要である。そこで本研究では、第一に、2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震で発生した土砂災害地の土壌試料のスペクトル特性を分析し、土砂災害調査のために必要な反射スペクトルの波長域を推定した。次に、カメラの開発後に速やかに調査撮影ができるように、撮影システムを構築し、試験飛行を実施した。北海道胆振東部地震により発生した斜面崩壊地から採取した土壌試料の反射スペクトルには、1400 nm、1900 nm周辺に大きな吸収帯が存在した。このスペクトル特性は、モンモリロナイトの特性に類似しており、土壌中にモンモリロナイトが含まれていることが示唆された。崩壊面にはモンモリロナイトのような膨潤性の高い粘土鉱物が含まれていることが多いため調和的である。一方で、試験飛行はLCTFが搭載されたカメラを用いて実施された。試験飛行は概ね成功し、実際の土砂災害地の撮影にあたって考慮すべき注意点がいくつか抽出された。規格化するために置いた標準板が見える高さで撮影をする必要があることと、標準板を置いた場所でなければ撮影ができないということである。また、撮影はバンドごとに実施するため、位置補正が難しいことなどである。以上のようなことにより、本研究では、UAVを利用したマルチ/ハイパースペクトルリモートセンシングが災害調査に利用可能かどうかを検討した。その結果、1400 nm、1900 nmの波長域を含めた粘土鉱物を識別できるカメラを開発することにより、UAVを用いて広範囲に粘土の分布を調査することが可能となり、本手法が災害調査研究に活用できることが示された。引用文献:Kurihara, J., Y. Takahashi, Y. Sakamoto, T. Kuwahara, K. Yoshida, HPT: A High Spatial Resolution Multispectral Sensor for Microsatellite Remote Sensing, Sensors, 2018, 18, 619.
著者
吉岡 美紀 澤柿 教伸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.61, 2020 (Released:2020-03-30)

2019年10月12日に関東地方に上陸、通過した台風19号の降水により、多摩川の水位はデータのあるほとんどの地点でそれまでの既往最高水位を上回った。台風による増水がひいた後に、変化した河川敷を見て、どの程度、堆積あるいは浸食したのか興味を持ち、計測、調査をした。対象地域は多摩川中流域、東京都羽村市の玉川上水取水堰付近の河川敷で、植物が茂っていた部分の広範囲が、台風後には砂礫堆積物におおわれた。台風後の計測は、GNSS受信機(GeosurfのSP60)を使用して標高と緯度経度データを入手した。台風前のデータについて、なるべく同程度の精度のよいデータを探した。国土地理院がホームページで公開している「地理院地図」では、画面左下にmで小数点1桁までの標高が表示される。データソースがDEM5Aであれば、標高精度は0.3m以内と表示されているが、注に「0.3m以内という値は地表面測定値がある標高点に限る」とある。国土地理院ホームページにある「航空レーザ測量による数値標高モデル(DEM)作成マニュアル(案)」によると、地表面測定値がない場合の精度は2.0m以内であり、精度0.3m以内との差が大きい。「地表面測定値がある標高点」がどの位置にあるのかの情報は地理院地図上では入手できないため、地理院地図用に編集される前の、航空レーザ測量で計測された元のデータにあたることになる。
著者
黒木 貴一 岩船 昌起
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.19, 2020 (Released:2020-03-30)

指定避難所は,基礎自治体が所有する既存施設が利用されることが多く,立地の安全性,特に地形条件については,十分に考慮されているとは言い難い.このため危険な場所の施設が避難所に指定された場合,発災時に,避難行動に障害が生じることがある.避難所と避難経路に関しての地形条件が評価され,かつ災害想定が的確になされれば,各施設の安全性が事前に確認でき,防災・減災に繋げることができる。筆者らは,2019年に鹿児島市での避難所の安全性評価に関わった.そこでの地形及び地形量指標を評価の根拠として重視した事例を紹介する.
著者
佐藤 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.300, 2020 (Released:2020-03-30)

Ⅰ はじめに これまで,多くの地理学者が地域間の経済格差と地方自治に関心を向けてきた.その潮流の中で,地方財政問題にも焦点が当てられている.1980年代に財政地理学を展開したBennett(1980)は地域間の公平性の観点から地方財政問題に地理学的視点を導入する意義を示し,英国の財政調整制度であるレイト支援交付金の配分問題に焦点を当てて実証分析を行った. その後,国内において地理学者が財政問題を扱う際には,我が国の財政調整制度である地方交付税に対して関心が向けられてきた.主に,その関心は地方交付税への依存度が高い地方圏の(特に小規模な)自治体に向けられており,税収が豊かな大都市圏の自治体が注目されることはなかった. しかし,大都市圏の自治体における財政状況を分析すると,バブル景気崩壊後,自主財源の大部分を占めている地方税の滞納の影響が大きく,その金額は決して無視できるものではない.実際に,各自治体は徴収率の向上に積極的に取り組んでいる. 経済学の分野では,地方税の滞納に関してモデルを用いた研究があるが,管見の限り,国内において空間的な観点から地方税の滞納の問題を扱った研究例は存在しない. そこで本研究では,地方税の徴収率の低下が地方財政にもたらす影響の検討を行った.さらに,その結果を踏まえて大都市圏に着目し,地方税の徴収率と他の指標との比較を行い,その特徴について計量的に分析した.Ⅱ 分析対象地域の概要と調査内容 本研究における分析対象は,東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県の1都3県の基礎自治体とした(税制度の異なる東京23区は除く).地方財政状況調査,国勢調査などの統計をもとに,地方税の徴収率の低下が自治体の財政に与える影響を分析した.さらに,相関行列の作成や重回帰分析などの計量的な手法を用いて,滞納の発生と,失業率,生活保護率,犯罪認知件数などの都市問題との関係を分析した.Ⅲ 結果と考察 大都市圏の基礎自治体における地方税の徴収率と財政状況を分析した結果,地方税は自治体の自主財源額の約8割を占めている.地方税の滞納額は約1,578億円(平成29年度)に上り,徴収率が1%上がると,歳入が約541億円増加する状況にある(当該自治体における同年度のふるさと納税の合計受入額は約150億円である).特に財政力指数が高い(地方交付税が少ない)自治体ほど,滞納が発生した場合の影響が大きくなる.自主財源額と比較して,滞納額が約15%に相当する自治体(千葉県八街市)も存在している. そこで,計量的な手法を用いて地方税の徴収率を様々な指標と比較した.相関行列の作成および重回帰分析による分析から得られた主な知見は次の2点である.①地方税の徴収率が低い(滞納率が高い)自治体はブルーカラー従業者割合,外国人割合,犯罪認知件数,生活保護率,失業率などの貧困問題と関係の深い指標と正の相関がある.②平均年収,税務職員数に対しては負の相関がある. 各指標における自治体の分布の考察により得られた主な知見は次の3点である.①平均年収が低い自治体やブルーカラー従業者割合が高い自治体は都心から同心円状に分布するが,地方税の徴収率が低い(滞納率が高い)自治体は,同心円状には分布しない.②貧困問題と関係の深い指標と徴収率の分布が一致しない自治体がある.③平均年収が高いが,徴収率が低い自治体においては,住民の納税に対する意識に何らかの問題が生じている可能性がある. 上記の分析結果より,地方税の滞納という現象は,確かに貧困問題と関係しているが,それだけでは説明できない部分も多くみられた.これらの解明については今後の課題としたい.参考文献Bennett,R.J.1980.The Geography of public finance:Welfare under fiscal federation and local government finance.London:Methuen.
著者
松原 宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.294, 2020 (Released:2020-03-30)

本発表は、2019年の台風15号と19号による被害の特徴を指摘するとともに、国土政策や産業立地政策との関係を考察しようとするものである。台風15号の被害は、千葉県を中心に、停電が長く続いたが、これには森林の荒廃が関係している。台風19号の被害は、広域にわたる大河川の氾濫を特徴としており、これには戦後の国土政策の歴史が関わっている。また、郡山の工業団地の水没には、テクノポリス政策の進め方と関わっているように思われる。今後の国土政策を考える上では、災害に備えることを重視する必要がある。
著者
長尾 謙吉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.289, 2020 (Released:2020-03-30)

1.研究の背景と目的日本の地域間人口移動は,高度経済成長期には3大都市圏へ職業を問わず幅広い階層の人々が移動したが,1980年代のバブル経済期には高学歴層が移動の中心となり,さらに1990年代後半には高学歴女性の東京圏への移動が顕在化した(中川2005).地域間で移動するのは,高学歴層に偏り,彼ら彼女らは東京圏へ選択的に移動している.こうした人口移動の傾向を「選択的」人口移動と称すことができよう.豊田哲也を代表者とする科学研究費助成研究「地理的多様性と地域格差問題の再定義に関する研究」「所得格差の要因と影響に関する地理学的研究」「所得の地域格差とその要因に関する地理学的研究」の共同研究メンバーであった中川(2005; 2015; 2017)は,こうした人口移動の傾向について許育歴・コーホート別にみた推計を行い,経済格差の再生産は個人間や世帯間だけでなく,東京圏とそれ以外での地域の間でも進行していることを指摘してきた.さらに,発表者ら共同研究メンバーとは,関西の大学卒業生たちの動向をみても就職時だけでなく就職後の転勤などの移動をみても「選択的」人口移動の傾向が一方ではみられ,他方で東京圏以外の地域におけるさらなる活力低下は就業機会の面から再び「選択的」ではなく幅広い人々の移動の誘因となる可能性をあることを意見交換してきた.まことに残念ながら中川は2019年10月に急逝した.中川が持ち続けてきた問題意識をふまえて,「選択的」人口移動と就業機会の地理との関連について考察するのが本発表の目的である.人口移動と地域格差との関係について,どちらが要因でどちらが結果なのかというのは「鶏が先か,卵か先か」系統の古くからの研究課題である.就業機会の地域格差は仕事を求める人々が仕事の多い地域に移動することによって調整メカニズムが働き,地域格差が縮小すると新古典派経済学によるアプローチでは想定されている.日本における経験的事実に目を向ければ,県間移動者は20歳前後から30歳代が多くを占めている(大江2017).さらに,「女性の労働市場,とりわけ有配偶女性については,人口移動によって地域間の労働市場の不均衡が調整されるというメカニズムは働きにくいことが想定される」(坂西2018: 118).それゆえに,人口と就業機会の地域格差について世代差や男女差にも留意した研究が求められよう.2.分析枠組みと論点人口移動の要因と年齢や職業をはじめとする移動者の属性を絡めて考察できるのがベストではあるが,分析の要求を満たすデータを得ることは簡単ではない.本発表では,国勢調査のデータを用いて人口分布を世代別・男女別・職種別に東京圏(東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県)とその他の地域というある種「大雑把な」区分を基にして地理的状況を検討し知見を得たい.世代別については,大江(2017)や中川(2015; 2017)で用いられている出生コーホート別に人口分布をみるコーホート・シェアが有用である。高度成長期には若年期において東京圏のシェアがかなり上昇し,1960年代コーホート以降は、東京圏生まれが増加するとともに,20代前半にかけてシェアが増加している(大江2017).本シンポジウムにおける豊田報告や中澤(2019)でも焦点となっている1970年代生まれに着目すると,それまでの世代に比べて25歳以降においても東京圏のシェアが低下しないことが注目される.男女別にみると,東京圏シェアは女性の方が若干低い.仕事の東京圏シェアは,職種別にみると専門的・技術的職業や事務職では高いが,従業上の地位でみると派遣社員の比率が高い.「さまざまな仕事」の偏在(橘木・浦川2012; 長尾印刷中)や仕事の「質」の差異(高見2018)と「選択的」人口移動との関連性は高いと考えられるが,「選択的」人口移動との結びつきだけでは東京圏の労働市場は説明できないであろう.人口集積と就業をうみだす産業活動との関係を論じた加藤(2019)は,「人が住むから働く場所がある」傾向への「風向きの変化」を提起している.豊田(2015)が指摘してきた「水準の地域格差」についてある程度は収斂するなかでの「規模の地域格差」の拡大とともに,就業機会の地理の行方を見定める論点となろう.