著者
渡久地 健
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

サンゴ礁地形を中心に、漁師の漁場知識と漁撈活動の関係について話題提供し、地域社会とサンゴ礁生態系の繋がり考えるきっかけとしたい。
著者
中林 一樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.209, 2007

<BR>(1)復興対策の事前準備の重要性<BR> 阪神・淡路大震災(1995)では、全壊全焼家屋11万棟(195千戸)に及ぶ被害からの復興を、住宅戸数では概ね5年間で、基盤整備事業による都市復興は18地区300haで10年を超える長期の都市復興を進めている。阪神・淡路大震災の多くの教訓の一つが、「復興準備対策」あるいは「事前復興対策」である。防災基本計画の改定(97)では復興対策の充実が示されたが、進展していない。<BR> 復興対策は起きてから考えるのでは遅い。震災前に街づくりを進めていた街では復興が早い。これらは、阪神・淡路大震災の教訓である。阪神大震災を遙かに上回る被害が想定される首都圏では、復興の迅速性は首都機能被害(間接被害)の規模を規定する。復興が長引けば、東京の地域社会・地域経済がもたらす間接被害が増大する。<BR><BR>(2)「災害からの復興」の理念<BR> 阪神・淡路大震災・新潟県中越地震や台湾921大震災などから学ぶ地域復興対策の理念は、次の4つである。<BR>1)連続復興<BR> 避難生活から応急仮設住宅・仮設作業所などの応急復旧へ、そして本格復興までを連続的に進める。第1は「地域社会(生活・暮らし)」、第2は「地域空間」、第3は「地域経済」の連続性である。<BR>2)複線復興<BR> 被災家族、被災事業所の復興需要は多様である。その多様な復興需要にどのように対応するか。その鍵は、「復興基金」制度の活用である。<BR>3)地域こだわり復興<BR> 被災した地域社会と地域経済を支えてきた地域の仕組み」にこだわる復興である。やはり、第1は「地域社会」、第2は「地域空間」、第3は「地域経済」への『こだわり』である。とくに、高齢社会における災害復興では、地域社会へのこだわりが被災者の多くにとって、重要な要素となる。<BR>4)総合復興<BR> 都市-街-住まい-生活-しごと(暮らし)-文化・教育などの復興を如何に連続的に地域で展開できるか。「地域の復興」は総合的な街づくり・都市づくりとしての取り組みが重要である。<BR><BR>(3)東京直下地震の被害想定<BR> 内閣府中央防災会議による東京湾北部地震の被害想定によると、東京を中心に南関東で全壊全焼85万棟、死者11千人、被害金額112兆円(うち間接被害46兆円)に達する。自宅喪失世帯160万世帯と想定され、住宅再建あるいは都市的復興に係る被害は阪神・淡路大震災7~8倍に達する。<BR><BR>(4)東京都における事前復興対策<BR>1)都市復興マニュアル・生活復興マニュアル<BR> 東京都は、阪神・淡路大震災の教訓を受け、阪神・淡路大震災を遙かに上回る被害が想定される東京の地震災害では、復興が重要な課題となるとして、1997年に「都市復興マニュアル」を策定公表した。復興へのプロセスでは、都市計画的に被災市街地の復興の取り組みが最も早い取り組みとなる。震災から2週間で復興事業区域を選定し、2か月で都市計画決定するためのマニュアルを策定した。翌98年に、復興体制・住まい・生活・暮らし・教育文化・経済雇用の復興のための行政対応をとりまとめた「生活復興マニュアル」をとりまとめた。<BR>2)震災復興グランドデザイン<BR> マニュアルは手続きに過ぎず、東京の都市復興はどんな都市像・街像を目指すのか。「復興とは、その地域のトレンドに戻すことが基本」であるから、都市のトレンドを踏まえて、震災復興で目指すべき都市像を検討し、2001年に「震災復興グランドデザイン」を公表した。<BR>3)震災復興マニュアル(プロセス編・施策編)<BR> 2003年都市復興と生活復興のマニュアルを改定し、都民向け「プロセス編」と行政職員向け「施策編」とした。<BR><BR>(5)震災復興を規定する事前の街づくり<BR>1)東京都「復興市民組織育成事業」<BR> 膨大な被害からの復興には、地域や個人による自助・共助と公助との「協働」による取り組みが不可欠と『地域協働復興』を震災復興の基本概念に設置し、その事前推進として、地域に復興時に主体となるべき「市民組織」を育成していこうと復興市民組織育成事業(2004~06年度)を実践してきた。「復興まちづくり模擬訓練」である。<BR>2)「防災都市づくり推進計画」と防災生活圏整備<BR> しかし、究極の『事前復興対策』とは、震災復興時の苦労と原資を集中して事前に被害軽減を実現することではないか。2003年防災都市づくり推進計画を改定し、密集市街地で6,500haの整備地域、うち2,400haを特別整備市域に指定し、防災街づくりを推進しつつある。<BR><BR>(6)間接被害の軽減と企業BCP(事前復興対策)<BR> 首都中枢機能も連続復興が重要である。とくに国家の政治・行政機能、世界経済の一翼を担う経済中枢機能は、大震災時でも「機能継続」が不可欠の部門がある。その業務継続計画(BCP)は事前復興対策でもあり、災害からの緊急復旧そして迅速な本格復興を可能とする。
著者
遠藤 匡俊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.79-100, 1994-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
53
被引用文献数
3

漁携・狩猟・採集生活をしていたアイヌが和人の影響を受けるようになった段階で,家の構成員が流動的に変化していた現象が確認されている.しかし,家の構成員が流動的に変化する原因とメカニズムは不明であった.天保5 (1834) ~明治4 (1871) 年の高島アイヌでは,多くの家が高島場所内にとどまっていたが,家単位の居住者を追跡した結果,個人の家間移動が激しく,家の構成員は流動的に変化していた.家間移動回数を比較すると,家構成員が流動的に変化していた高島・紋別場所では2回以上の移動者が多く,家構成員が固定的であった静内場所と樺太南西部ではほとんどが1回であった.すなわち,家構成員の流動性はおもに2回以上の移動者によって惹き起こされていた.高島アイヌで個人の家間移動が激しく生じたおもな原因は,高い死亡率と離婚である.とくに配偶者との死別・離別によって,親子・兄弟姉妹の居住する家へ移動したり,再婚のたあに他家へ移動するために2回以上の移動が生じ,家構成員は流動的に変化していた.家構成員の流動性は,必ずしも狩猟・採集という生業形態や遊動性とはかかわりなく生じていた.
著者
遠藤 尚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

1.はじめに<br> 1980年代以降,多様な分野において,発展途上諸国農村におけるグローバリゼーションや市場主義経済化による影響に関する研究が蓄積されてきた。しかし,発展の先発地域では,非農業部門における開発と経済成長が数10年間継続し,農業経営や自然資源の利用状況についても発展当初とは変化しているものと推察される。このような地域における農業と自然資源利用状況との関係を解明することは,今後の発展途上国における経済開発と環境保全との関係を検討するためにも不可欠である。インドネシア,ジャワ島では,近年都市部を中心に食の多様化が進み,生鮮野菜の需要も拡大している。ジャワ島西部の中南部に位置するプリアンガン高地は,ジャカルタやバンドゥンなどの大都市に近く,比較的冷涼な気候のため,大都市向けの生鮮野菜の生産地となっている。しかし,西ジャワ高地地域の野菜栽培については,藤本・三浦(1997)など経済成長前半の1990年代に行われた研究以降,実証的な研究がほとんど行われていない。そこで,本研究では,都市向け温帯野菜産地の一つであるレンバン郡の一農村を事例として,近年の西ジャワ高地地域における野菜生産の現状とそれによる自然資源への影響について明らかにすることを目的とした。<br><br>2.対象地域の概要と研究方法<br>本研究の調査対象地域は,西バンドゥン県レンバン郡スンテンジャヤ村である。当村は,州都バンドゥン市中心部の北約8kmに位置している。また,当村を含むレンバン郡は,標高1,000m以上の高地に位置し,都市向けの野菜生産や酪農が盛んな地域となっている。しかし,当村を含むチタルム川上流部では,1990年以降,畑地面積と年間土砂流出量の増大が指摘されている(Noda et al. 2014)。<br> スンテンジャヤ村においては,2013年9月に,120世帯を対象とした調査票を用いた聞き取り調査を実施した。調査項目は,世帯構成員の属性,就業状況,世帯の動産・不動産所有状況,農地経営状況等である。また,2017年9月に,60世帯の農家を対象とした農業経営状況および自然資源利用状況に関する調査票用いた聞き取り調査を行った。加えて,同時期に,農民グループ長に対する村周辺の土地利用に関する聞き取り調査を実施した。<br><br>3.スンテンジャヤ村における野菜生産と自然資源への影響<br> 2013年の調査において,スンテンジャヤ村では,2000年代以降,野菜作が拡大したことが明らかとなっている。また,西ジャワ州の水稲生産地域と比較して,比較的若い世代が農業に就業していた。2017年現在の主な作物はブロッコリー,キャベツ,トマトなどであり,これらの野菜が資本的にも労働的にもかなり集約的に生産されていた。これらの野菜作では,水源として主に湧水が利用されているが,一部の農家では湧水の減少による水不足がみられた。また,当村には,野菜生産に関する農業技術指導がほとんど実施されておらず,傾斜地における適切な野菜栽培が必ずしも行われていなかった。例えば,畑地の畝が,斜面の傾斜と平行に作られている場合も多く,多くの農地で土壌浸食が発生していた。このような状況は農家自身も認識しており,2009年には,一部の農家により水資源保護と収入確保の両立を目指したグループが結成され,2017年現在までこのグループによる活動は継続していた。<br><br><付記>本研究は,JSPS科研費(15K21207)による成果の一部である。<br>参考文献<br>藤本彰三・三浦理恵 1997.西部ジャワ高地におけるトゥンパンサリ野菜栽培の経営評価-チパナス地域における1年間の農家継続調査結果-.東京農業大学農学集報 41(4):211-228.<br>Noda, D., Shirakawa, H., Yoshida, K. and Oki, K. 2014. Evaluation of ecosystem services regarding soil conservation in Citarum River Basin. International Symposium on Agricultural Meteorology 2014, 18 March 2014, Hokkaido University, Sapporo, Japan.
著者
田村 俊和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.12, pp.763-770, 1993-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2

地形学の研究とは,地表面の形態を一つの重要な手がかりとして,地表面各部分の性質およびその変化傾向を知るための,成因論的アプローチである.その対象としての地形には,「かたち」,「もの」,「うごき」,「とし」の,相互に関連した4つの属性がある.地形学研究は,主として「うごき」に着目した地形営力論あるいはプロセス研究も,主として「とし」に着目した地形発達史あるいは編年的研究も,それぞれ,地表面の環境にかかわるさまざまな学問分野と密接に関連している.それらから地形学をきわだたせている特徴は,大きさや形のある現実の地表空間としての地形を扱うことであり,また,対象とする地形が,地表面の複合的な諸性質を統合した可視的な指標となることである.これらの特徴こそ,地形学の自然地理学としての特性を如実に表わしたものではなかろうか.それは,環境とはその主体にとっては何よりも空間的実体であり,自然地理学は「自然環境を空間的に統合して捉えるたあの方法とその統合した知見の総体である」ことに存在理由をもち,その空間的統合にあたって地形の指標性とその認識を可能にする地形学の方法が大いに有効性を発揮するからである.
著者
渡邊 三津子 古澤 文
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<B>1. はじめに</B><BR><br> ソ連崩壊後のカザフスタン農業については、マクロな視点からのすぐれた研究蓄積がある一方で、個別地域における市場経済化がミクロな市場(バザール)や地域の農業にどのような影響を与えたのか、といった点については実態的な調査が行われていないのが現状である。本研究では、人々の生活に最も身近な市場と地域農業との関係に焦点を当てる。ソ連崩壊後20年を経て、地域の市場が市場化やグローバル経済をどのように受容してきたか、また市場の変容が地域農業や土地利用にどのような影響を与えたかを明らかにすることを目的とする。 本発表では、市場の小売店や農業生産者へのインタビューを通じて、近年の青果物の輸入増加に目を付けた農業生産者たちによる新たな取り組みとしての施設栽培の導入について紹介する。 <BR><br><B>2. 青果物輸入量増加と施設栽培の導入</B><BR><br> カザフスタンにおいて、1991年のソ連崩壊後、計画経済から市場経済へと移行する過程で農業生産の大幅な縮小が生じた事はよく知られている(錦見、2004など)。その後、1999年ごろまで農業生産は停滞していたが、その後穀物生産に牽引されて回復過程に入ったとされている(野部、2008)。 しかし、野菜や果物に関しては季節的な変動が大きく、夏場には大量に市場に出回るものの冬場には不足する。アルマトゥ市内の市場やジャルケントの市場での聞き取りでは、冬季に市場に出回るものの多くは、海外(特に中国)からの輸入品である。近年、当該地域では、こうした現状に目を付けて施設栽培を導入する農業生産者も現れた。以下、アルマトゥ市近郊、パンフィロフ地区ジャルケント周辺の2か所における聞き取りの内容を紹介する。<BR><br>1) パンフィロフ地区の農業者の事例<BR><br> アルマトゥ州パンフィロフ地区は、中国と国境を直接接する辺境である。2012年末、中国の青島からカザフスタン共和国のアルマトゥを結ぶ大陸横断鉄道が開通したことにより、現在では経済活動の結節点としての重要性が高まっている。 Sさんは、ソ連時代にはジャルケントの銀行に勤めていたが、2005年に農業企業(有限会社)を設立した。Sさんの農場では、現在25棟の温室を所有し、9月以降冬場にかけてキュウリやトマトを栽培している。 ジャルケントのコーク・バザールで青果物の小売店を営むZさんによれば、現在ジャルケントにはSさんを含む3軒の農家が施設栽培を行っているが、冬場の需要を満たすには至らず中国産のものを仕入れている。<BR><br>2) カスケレン地区の農業者の事例<BR><br> &nbsp; アルマトゥは、1997年にアスタナに遷都されるまでの首都であり、現在でも国内最大人口を抱えるカザフスタンの経済活動の中心地である。アルマトゥから西方約25㎞のカスケレンにおいて農業企業を営むAさんは、もともとエコノミストであり農業経験はなかったが、中国産の野菜の輸入量や品目、価格について調査し、2012年に企業に踏み切った。現在2棟の温室を有し、キュウリとトマトを栽培している。温室自体は韓国製で、その他の栽培技術や種、土などはオランダのものを使っている。Aさんの農場では、農薬は使わず有機栽培を行っている。露地栽培に比べてコストは割高になるが、カザフスタンではまだ有機野菜などの付加価値が認められていないので、他の露地物と同じ価格で販売している。 <BR><br><B>3. まとめ</B><BR><br> &nbsp; ソ連時代以降の食生活の変化に伴って、冬場にも青果物の需要がある一方で、カザフスタンにおける冬場の生産は少ない。ソ連崩壊後、特にカザフスタン南東部においては中国から輸入青果物が大量に出回るようになった。それに目を付けた、農業者が独自に施設栽培を導入し始めたが、技術面やコスト面での課題が多い。 &nbsp; <BR> &nbsp;<br>錦見浩司(2004):農業改革-市場システム形成の実際-.岩﨑一郎・宇山智彦・小松久男編著『現代中央アジア論-変貌する政治・経済の深層-』201-226./野部公一(2008):再編途上のカザフスタン農業:1999~2007年-「連邦」の食料基地からの脱却.「専修経済学論集」43(1)、73-91。
著者
内海 真希 春山 成子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.72, 2003

1.はじめに(背景) わが国の環境問題を解決するためには、廃棄物投棄・処理による汚染をいかに抑制するかが大きな問題である。産業廃棄物は都市部で大量に排出される一方で、周辺地域の近郊農村あるいは遠隔地農村へと運ばれながら処理・処分される過程で、大気・土壌汚染など自然・生活環境に多大な悪影響を及ぼしている。とりわけ、首都圏近郊において、所沢周辺(「埼玉県西部地域」)には、最も多くの産業廃棄物処理業者が長期にわたって集中してきたため、ダイオキシン問題が発生した。 局地的で大きな環境汚染を引き起こす産業廃棄物の集中を抑制し、問題の早期解決を図るために、こうした立地・集中の空間要因を分析し、把握することが不可欠であると考える。2.研究目的 産業廃棄物集中の要因を、都市近郊農村地域における農業的土地利用変化と、「土地」に帰属する社会的な要因を軸に評価する。具体的には、_丸1_立地要因として、産業廃棄物の集中・分布形態と土地環境(土地利用・市街化調整区域ほかゾーニング)との関係 _丸2_社会要因として、産業廃棄物業者の集中に大きな影響を与えた、地域内の土地税制などの個別農家の土地問題および、共有地としての入会林野についての問題等を明らかにする。3・対象地 首都圏30km圏にある所沢市と隣接市町村(川越市・狭山市・三芳町など)。産業廃棄物処理業者が日本で最も多く密集して集中している地域である、三富地域と関越道所沢IC周辺を対象とした。4.研究方法 社会問題を生じさせることになった、産業廃棄物処理施設・不法投棄の分布調査を行い、最近20年間を時間軸として分布域を特定する。得られた分布データと周辺の細密数値情報(10mメッシュ土地利用)との関係をGISにより分析し、ヒアリングや統計資料とあわせて、土地環境から立地(集中)要因を明らかにする。 さらに、埼玉県庁・所沢市役所などの自治体や所沢の農業従事者・周辺住民へのヒアリングや行政資料調査から、立地のプロセスと要因を総合的に把握し、その中で特に土地問題に焦点を当てて、社会要因を分析する。5.考察 産業廃棄物処理施設の立地には、「排出地からのアクセス」と「業者による用地取得」が容易であることが前提となる。まず、所沢地域は「関越自動車道」や「川越街道」に隣接し、排出地・東京から大量の産廃を大型のトラックやダンプカーで運搬してくるには都合がよい環境にある。また、高速道路のインター(所沢IC)の存在は、東京からの産廃の出口の機能としてだけでなく、一度中間処理や保管積み替えを経て、北関東や東北地方の最終処分場へと送り出すルートの「入口」としても機能してきた。さらに、地元住民(農家)による土地所有の維持困難から、「業者による用地取得」の容易性が確保される。そのような土地所有に関する問題として、農業形態の変化による平地林の管理放棄と荒廃化、入会形態の消失による個人所有形態の卓越、さらに相続税問題・農業外収入確保の必要性、といった問題が複雑に絡み合い、それらによって平地林や一部農地の売却・賃貸を余儀なくされる。それらに加え、業者による土地取得と操業を容易にするのが、「市街化調整区域」のゾーニングである。「市街化を抑制すべき区域」である調整区域内では、商業施設や宅地開発が法制度上難しく、地主にとっても宅地開発に面倒な手続きがかかる」が、例外的に建設できる「第一種工作物」や大規模な開発を伴わない小規模な焼却炉は許可を必要としなかったことが業者にとって、産廃施設誘致に好都合であったといえる。
著者
小口 高 早川 裕弌 佐藤 英人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.57, 2010

<B>I.東京大学空間情報科学研究センターの概要</B><BR> 東京大学情報科学研究センター(Center for Spatial Information Science;以下,CSISと記す)は,1998年に発足したGISの研究組織であり,地理学,都市工学,経済学,土木工学,電子工学,情報工学といったGISに関連した多分野の研究者で構成されている.CSISは,1988年に日本学術会議が議決した「国立地図学博物館」(仮称)設立の勧告に対応し,地図学博物館の研究部門を具現するものとして設立された.同時に,大学に所属する機関として,大学院生や学部生の教育にも積極的に関与してきた.<BR> 現在CSISは,文部科学省が認定した共同利用・共同研究拠点になっており,全国のGIS関連の研究者に共同研究の仕組みを提供している.具体的には,GISのデータをCSISが多数収集して「研究用空間データ基盤」を構築し,その利用を,研究者による申請と共同研究審査委員会による承認を経た後に可能としている.CSISがデータを収集・購入する際には,データの提供元と覚え書きを交わすことによって,全国の研究者がデータを利用する可能性を確保している.この仕組みにより,個人がデータを入手する際の経済的な負担や手間を軽減できる.<BR> 上記のような利点のために,CSISの研究用空間データ基盤は全国の多数の研究者によって利用されてきた.研究用空間データ基盤は,デジタル地図情報の集積ともみなされ,ある意味ではCSISが地図学博物館の所蔵部門としての役割も果たしていることを意味している.<BR><BR><B>II.研究用空間データ基盤の概要</B><BR> 2010年1月現在,CSISの研究用空間データ基盤には次のデータが収録されている.<BR>・数値地図(各種),細密数値情報[国土地理院提供]<BR>・工業統計[経済統計情報センター]<BR>・国勢調査(各種),事業所・企業統計,住宅・土地統計調査など[(財)統計情報研究開発センター]<BR>・気象庁天気図,アメダス観測年報,1 km メッシュ気候値,世界気象資料など[(財)気象業務支援センター]<BR>・パーソントリップデータ[複数の都市交通計画協議会と札幌市]<BR>・Zmap-TownII[(株)ゼンリン]<BR>・国勢調査地図データ[(株)パスコ]<BR>・GISMAP(各種)[北海道地図(株)]<BR>・CityScope首都圏データ[(株)インフォマティクス]<BR>・ライフマップル[(株)昭文社]<BR>・東京23区中古マンションデータ[(株)リクルート]<BR>・地価公示・地価評価データ[(有)RITS総合研究所]<BR>・東京都都心部標高データ,東京地名データ,東京市大字界ポリゴンデータ ,天保14年天保御江戸絵図データ [研究者による独自作成]<BR><BR><B>III.研究用空間データ基盤の活用状況と今後の展望</B><BR> CSISの研究用空間データ基盤を利用して共同研究を行った人の数は,平成16年度には37機関の87名(延161名)であったが,平成20年度には86機関の291名(延325名)に増加した.利用者の多くは大学の研究者で,シニア,中堅,大学院生を含む若手を含んでいる.このことは,研究用空間データ基盤が,日本のGIS研究の発展に重要な役割を果たしていることを意味している.<BR> CSISでは今後,道路に関するデータや高解像度の地形データなどを研究用空間データ基盤に追加し,その利用を一層促進していく予定である.また,データの更新を通じて,異なる時期のデータが蓄積されていけば,地域における新旧の状況を比較するような研究の発展にも寄与するであろう.<BR>
著者
鎌倉 夏来
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

Ⅰ はじめに<BR> 経済地理学においては,製造業大企業を分析対象とする「企業の地理学」が見直され(近藤2007),企業の動態を捉えるにあたっては,組織の慣性などを分析に取り入れる進化経済地理学が注目されている(外枦保 2012).日本の製造業では1980年代後半以降,生産機能の海外移転が急速に進展する一方で,研究開発機能は,国内に集中してきたといわれてきた.しかしながら2000年以降は,海外の進出先に現地対応の開発拠点を新設する企業が増え,研究開発機能におけるグローバルな空間分業が徐々に進展しつつあるといえる.また研究開発活動においては,知識のフローが重視されるため,組織部門間の知識フローに影響を与える,部門間の地理的な配置も重要とされる(太田2008).<BR> そこで本研究では,専ら国内の生産体制における製品間・工程間分業に焦点を当ててきた従来の空間的分業論に対して,新たな分析視点として「新空間分業」の考え方を導入した.具体的な観点は,①国内外の拠点を一体的に取り上げ,②組織や立地の慣性,経路依存などを重視し,③知識フローに注目することである.<BR><BR> Ⅱ 対象企業の概要と分析方法<BR> 本研究では,海外顧客への対応やM&Aによってグローバル化を進める日本の化学企業9社を対象とし,(a)財閥系,(b)繊維出身,(c)スペシャリティの3グループに分類して分析を行った(表1).具体的には,主に社史,新聞記事,IR資料を用いて研究開発機能の立地履歴を明らかにし,聞き取り調査と拠点ごとの特許の出願状況から,現在の研究開発活動における中核拠点を摘出し,拠点間の関係について考察した.<BR><BR>Ⅲ 分析結果<BR>まず「新空間分業」の①国内外の分業関係に関して,現地生産子会社の機能変化やM&Aなど,地域間において進出形態が異なっており,国内拠点との知識フローの方向性に相違が見られた.<BR> 次に②の慣性や経路依存に着目すると,特に立地形態において経路依存的な変遷をたどる企業と,組織や周辺環境の変化によって経路を転換する企業があった.前者のタイプの企業の多くは創業地を研究開発機能の中核拠点としている傾向があり,後者の企業は合併や都市化によって分業形態を大きく変化させていた.<BR> 最後に③の知識フローに関して,特許の出願状況を分析すると,企業外の組織との関係について企業間で差がみられたほか,企業内の拠点間において,一拠点内部で大半が完結している企業と,複数の拠点間での共願関係が多くみられる企業があった.<BR><BR> Ⅳ 議論<BR> 以上にみた企業間の差異をいかに解釈するかが問題となるが,事業戦略や企業文化の違い,合併や子会社化などの組織変更の有無などの点から検討を試みることにしたい.<BR><BR>参考文献<BR>太田理恵子2008.研究開発組織の地理的統合とコミュニケーション・パターンに関する既存研究の検討.一橋研究32(4): 1-18.<BR>近藤章夫2007.『立地戦略と空間的分業―エレクトロニクス企業の地理学』古今書院.<BR>外枦保大介2012.進化経済地理学の発展経路と可能性.地理学評論85(1): 40-57.
著者
古屋 辰郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

<b>問題の所在</b> <b> </b>2011年に発生した東日本大震災やタイ・チャオプラヤ川における大洪水の発生により,製造業の生産活動において緊急時を想定したリスク管理の重要性が高まっている.特に,JITシステムをはじめとした在庫削減を指向した取り組みは脆弱性を露呈した.生命関連性を有する特性上,いかなる欠品も許されない医薬品においても,供給・在庫に関して効率化が進められていた. そこで,本研究では,大手製薬企業3社を事例として製薬企業における工場と物流センターの立地変遷に着目し,有事に対する製薬企業の意識との関連性と非常時における医薬品備蓄に関する優先度の意思決定を検討したうえで,医薬品流通構造における非常時の代替流通経路を明らかにすることを目的とする. <b>対象企業と分析方法</b> <b> </b>研究対象企業として選定したA社(同族経営企業)・B社(経営統合により発足)・C社(外資系企業)の3社はいずれも売上高が国内10位以内に入る大手製薬企業であり,それぞれ企業の性格・企業体質が異なった企業である.分析方法は対象企業の社史,新聞記事,有価証券報告書,IR資料を用いて工場・物流センターの立地変遷や分業体制を明らかにし,聞き取り調査で非常時に対する対象企業の意識と非常時における代替流通経路についての考察をおこなった. <b>分析結果</b> 対象企業3社それぞれの工場・物流センターの立地変遷を考察した結果,それぞれの企業で集約・分散などに異なる傾向が生じた.具体的には,(A社):工場・物流センターともに諸施設の閉鎖移転を伴う効率化が行われていない,(B社):生産量拡大のために工場の積極的な設置と近接工場間で間接部門(工場の管理部門)の統合による工場の集約化・1990年代における物流センターの東京・大阪2拠点への集約,(C社):特定の生産品目に関する設備の増強・一般医薬品(ドリンク剤,医療機関・処方せんを介さず流通する商品)を生産する工場の閉鎖である. 非常時における医薬品備蓄に関する優先度の意思決定に関して,3社それぞれ異なる傾向がみられた.聞き取り調査から明らかになったことは,3社とも非常時の際は医薬品卸との連携を図っていることである.近年,製薬業界においても「物流業の外部委託」,「医薬品の直販」が注目されているが,東日本大震災において「輸送手段の奪い合い」や「情報の混乱」が生じたため,対象企業3社に関しては医薬品供給において安全性を最重視しているといえる.非常時における医薬品代替流通経路の構築に関しては,生産ラインの切替えなど水平的な連携が最も重視されているといえる.
著者
井上 孝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.87-100, 2018
被引用文献数
5

<p>筆者は,2015年6月に「全国小地域別将来人口推計システム」の試用版を公開した.このシステムは,小地域(町丁・字)別の長期(2015~2060年)にわたる日本全国の推計人口(男女5歳階級別)を,初めてウェブ上に公開したものである.システム構築にあたっては,小地域の人口統計指標を平滑化する新たな手法を提案した.その後,本システムにはさまざまな改良が加えられ,2016年7月に正規版が公開されるに至った.本稿では,まずこのシステム開発の経緯に言及したあと,システムの理論面の根幹である,新しい平滑化法の概要を述べる.つづいて,推計方法と推計精度を中心に本システムの概要を述べたあと,その操作方法について解説し,最後にむすびに代えて今後の展望を示す.</p>
著者
山田 功 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.151, 2003

<U>はじめに</U><BR>雲の存在は日射の遮蔽や放射を通して大気に影響を与えるため、雲量に関する研究は気象学、気候学にとって非常に重要である。水平スケールの小さな雲であっても大気放射への影響は大きい.しかし,陸上に出現する小さな雲は,大規模な雲に比べ衛星による観測が難しく十分な解析が行われていない。また下層にできる積雲は、地形の影響を強く受けると考えられるが、空間分解能の制限から数値モデルでの取り扱いも難しい.このため観測データを用いて小さな雲の雲量について明らかにすることが重要である。<BR>これまで、晴天日の山岳域を対象とした日照率(一時間のうち日照があった時間の割合)の研究がなされており、日照率は山では午後に急激に低下すること、盆地では一日を通して高いことが指摘されている(木村、1994)。しかしながら平地を対象とした日照率の研究は行われていない。そこで本研究では夏季晴天日の関東平野における日照率について明らかにすることを目的とする。<BR><U>解析方法</U><BR>データはアメダス日照時間の一時間値を用いた。解析に用いた晴天日は、対象領域内のアメダス観測点における一日の日照時間の平均が6時間を超える日とした。また観測点を地形によって沿岸、内陸(平地)、山、及び盆地の4種類に分類し、日照率を比較した。さらにゾンデ観測のデータから相対湿度の鉛直プロファイルと日照率との関係について考察した。<BR><U>結果</U><BR>各観測点における晴天日の平均的な日照率を地形別に平均した(図1)。以前から指摘されていたような山岳域における地形依存性に加え、平坦な地形であっても日照率に有意な差のあることが明らかになった。平坦な地形である沿岸(COAST)と内陸(INLAND)の日照率を比較すると沿岸のほうが一日を通して高い。特に銚子のような岬で高い傾向にあった。<BR> ゾンデ観測データにより輪島と館野の相対湿度について比較したところ、より内陸に位置する館野では下層で相対湿度のピークを持つことが多かった。このことから日照率の差と混合層の発達との関係が推測される。<BR>しかし、沿岸と内陸の日照率の差は山と盆地の日照率の差より小さい。また夕方以降は山沿いで日照率の低下が強く見られた。<BR><U>参考文献</U><BR>木村富士男 1994. 局地風による水蒸気の水平輸送-晴天日における日照時間の地形依存性-. 天気 41:313-320.
著者
吉村 健司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100096, 2017 (Released:2017-10-26)

周囲を海に囲まれた日本では、海洋生物を食糧資源に限らない多様な利用がなされ、また、それらを弔ってきた。 海洋生物に関する供養碑に関する研究はウミガメやクジラに関する多くの研究がある。また、ウミガメやクジラも網羅した水生生物全般に関しては田口ら(2011)の研究がある。田口らの研究では、全国の漁業協同組合などへのアンケートや文献資料などを利用しながら、計1,141基におよぶ供養碑が確認されている。そのなかで岩手県における供養碑は33基が確認された。 こうした供養碑は、多くは沿岸地域に建立されるケースが多い。岩手県沿岸地域は、2011年3月11日の東日本大震災の津波の影響を受けた地域である。よって、供養碑も大きな影響を受けた。 報告者は2017年4月より岩手県に拠点を移し、三陸におけるサケのプロジェクトに従事している。その過程で、地域と生き物の関係を見るひとつの指標として動物供養碑に着目している。田口らの研究をもとに、現地に足を運ぶなかで、新たな供養碑の存在が判明したり、津波の被害を受けた供養碑を再建されたり(されなかったり)、さらには、その供養碑の存在そのものが地域の中でほとんど認識されていないものも少なくない。このように、震災を契機に供養塔への眼差しが変化した事例も見られ、こうした信仰に対しても震災は影響を与えている。 岩手県内で確認できた供養碑の対象および数は、サケ(12基)、魚類(11基)、ウミガメ(7基)、クジラ(3基)、アワビ(1基)、イルカ(1基)、ウナギ(1基)、オットセイ(1基)、トド(1基)、ノリ(1基)、コイ(1基)、合計で11種、40基となっている。岩手県において最も多いのはサケの供養塔である。岩手県は北海道につぐサケの生産量を誇る、岩手県を代表する魚種である。また、サケの供養塔は建立されている場所に「孵化場」があるというのも他の供養塔とは異なる特徴的な点といえる。 供養塔は時代とともにその位置づけが変化している事例も見られる。例えば、重茂漁協内に建立されている魚霊塔は、魚霊塔建立当時はブリの供養塔であったが、その後、サケへと供養対象が変化している事例も見られ、地域におけるサケの位置づけが窺える。 東日本大震災による津波によって、沿岸部の供養塔が被害を受けたケースも見られる。茂師漁港に建立されていたサケの供養塔は津波によって流失した。また、地域内4カ所に分散して建立されていた神碑もあり、それも流失した。しかし、漁港内に供養塔と神碑を集中させ、慰霊祭を行うようになった。重茂漁協管内にはアワビの供養塔が存在しているが、津波によって流失した。しかし、流失した直後に供養塔が発見され、再建に向けて動いている。種市南漁協の有家川孵化場に建立されていたサケ供養塔も津波によって流失したが、孵化場の再建が済んだばかりで、供養塔の再建は行われていない。また、それに向けた動きも出ていないのが現状である。 震災後、沿岸部の供養塔は流失するケースが見られたが、すべてが再建されているわけではない。幸いにも供養塔が発見されたケースもあれば、そうでないケースもある。また、震災の復興の進捗状況や地域的な問題も影響している。本報告では、岩手県内の震災を経験した供養碑の現状について報告を行う。 【参考文献】 田口理恵、関いずみ、加藤登(2011)「魚類への供養に関する研究」、『東海大学海洋研究所研究報告』(32):pp.53-97
著者
児玉 恵理
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1.はじめに</b><br><br>人口の減少や高齢化が進む中、市街化区域における都市農業への住民の評価が高まっている。市民農園では農業との触れ合いが求められ、農業ボランティアでは農家との交流を求める都市住民のニーズがある。それと同時に、都市農地の保全と都市農業の維持の機能が期待されている。埼玉県志木市では、小規模な都市農業が行われている。本研究の目的は、都市農業における生産者の役割に着目することで、持続可能な農産物供給機能の向上、担い手の育成・確保の仕組みを明らかにすることである。<br><br><b>2.志木市における都市農業の展開</b><br><br>JAあさか野によると、志木市は、もともと水稲が盛んな地域であった。稲作中心の宗岡地区では、荒川沿いの水田を中心にコシヒカリの早場米の生産を行っている。約20戸の米農家が「宗岡はるか舞」というブランド米を有機栽培し、出荷している。露地野菜中心の志木地区は、ホウレンソウ、にんじん、大根、キャベツ、里芋などの生産が盛んである。<br><br>農家の高齢化や後継者不足の問題から志木市役所が市民農園を整備し、市民が農業と関わりをもつようになっている。また、志木市役所で毎月第4土曜日に「しきの土曜市」が開催され、地元の農産物を販売する取り組みがある。<br><br><b>3.ボラバイトを活用した労働力確保</b><br><br>志木市のA農園は、ボラバイトを活用した労働者の確保をしている。ボラバイトとはボランティアとアルバイ<br><br>トの中間形態とした造語であり、今回は張り合いのあるボランティアの意味とする。ボラバイトを行う人々をボラバイターと呼び、ボラバイターは外国人実習生の代わりとなる重要な農業労働力である。<br><br>志木市のA農園は、無農薬野菜を近隣のスーパーや志木市役所で開催される「しきの土曜市」で地産地消を行い、あわせて有機野菜専門の宅配業者に出荷している。特に近隣のスーパーではA農園専用コーナーが設置されており、生産者が直接出荷・陳列することから「顔の見える」農業を自ら実践する。収穫・出荷・スーパー等での陳列を分担し、携帯電話で随時連絡を取り合うことで無駄の出ないように柔軟に農作業をしている。<br><br>家族経営だけでは、約20種類の無農薬野菜の栽培が困難になり、人手が必要になる。融通が利く都市住民をボラバイターとして農業に巻き込むことができる。A農園は、埼玉県か東京都在住で日帰りのボラバイターに手伝ってもらうことで、高品質で無農薬野菜を栽培することで農産物ブランド化を進めている。<br><br><b>4.おわりに</b><br><br>志木市は、宅地化が進む地域でありながら、行政が主体となり、生産者の販路拡大の手助けを行っている。地産地消を促すために、「しきの土曜市」という朝市や「アグリシップしき」という、年に2回開催の農産物直売所が志木市によって企画・運営されている。また、ボラバイトやシルバー人材を活用して、非農家出身者が農業に携わる機会がある。志木市における都市農業生産者は、新鮮な農産物の供給と農業体験の場の提供の役割を果たしているといえる。
著者
石原 肇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.61, 2018 (Released:2018-12-01)

Ⅰ はじめに毎日フォーラム(2017)によれば,地方自治体と企業が協力しながら地域が抱える課題に取り組む「包括連携協定」などの連携協定が,全国で急速に増えているとされている.経営学の津久井(2017)は,包括連携協定とは,地方自治体と企業とが,経済・観光・教育・災害対策・環境保全等,幅広い分野で協働することを協議して決定するものと定義している.また,津久井(2014)は,包括連携協定は,企業からはCSRとして,地方自治体からはコミュニティ政策として捉えられるとし,神奈川県とコンビニエンスストア(以下,CVS)のサークルK(当時)とのそれを事例として課題を見出している.国の「PPP/PFI」担当者であった町田(2009)は,横浜市の企業との包括連携協定についてCVSのローソンやセブンイレブンとの協定を事例として記している.また,行政学で児玉(2018)は,公民連携の先駆的取組みを行っている地方自治体として神戸市を取り上げ,企業との包括連携協定の具体的な事例として,CVSの大手三社(セブンイレブン,ローソン,ファミリーマート,以下同様)それぞれとの包括連携協定を取り上げている.これらでは,個々の事例として取り上げられており,包括連携協定が締結された市区の地域的特性は把握していない.そこで,本発表では,地方自治体,特に基礎的自治体である市区とCVSとの包括連携協定に着目し,全国的にみた締結の状況と地域的特性を把握することを目的とする. Ⅱ 全国的な締結状況業界誌『Franchise age』のCVSの包括連携協定特集記事を2009年以降収集し,都道府県および基礎的自治体とCVSとの包括連携協定の締結状況を全国的に把握した.その結果,大手三社が全国的な展開をしていることから,各社HPより現状を把握した.地方自治体とCVSとの包括連携協定がなされたのは,都道府県では和歌山県とローソンが2003年8月に,市区町村では神奈川県藤沢市とセブンイレブンが2003年11月に,それぞれ締結したのが始まりである.大手三社のその後の都道府県との締結状況をみると,ローソンは2017年5月1日現在で1道2府42県と,セブンイレブンは2017年5月31日現在で1道2府39県と,ファミリーマートは2016年9月1日現在で1道2府42県と,それぞれ締結している.また,同様に市区との締結状況をみると,ローソンは7市と,セブンイレブンは36市3区と,ファミリーマートは6市と,それぞれ締結している.なお,各社の上記のとりまとめ以降の進展について各社のニュースリリースから捕捉した結果,ローソンとファミリーマートでは新たな締結はないが,セブンイレブンは2018年6月30日までの間に14市1区と締結していた.大手三社を比較すると,都道府県との締結に大きな差はないが,市区との締結はセブンイレブンが圧倒的に多い状況にある. Ⅲ 包括連携協定の協定事項とそれらの優先順位Ⅱより,セブンイレブンが基礎的自治体と包括連携協定を締結したニュースリリース(場合によれば基礎的自治体の公表資料)を収集し,包括連携協定の協定事項の優先順位を把握した.1番目の事項として最も多くあげられているのは地産地消で約4割を占めており,大都市近郊や地方都市に多い.次いで2番目に多い事項は,市内産品の販路拡大となっている.大都市の市区においては,地産地消の項目が無い市区が見受けられるものの,市内産品の販路拡大をあげている市区は多い.これらの情報を基に,セブンイレブンに聞き取りを行ったところ,協定事項の取捨選択や優先順位については,当該市との協定締結に向けた協議の結果であるとのことであった.なお,発表時に大阪府八尾市の事例について簡単に触れる. Ⅳ 今後の課題基礎的自治体とCVSとの間で結ばれる包括連携協定数は,大手三社のうちセブンイレブンが突出しており,同社が提案できる地域資源のある市区と包括連携協定が結ばれる傾向にあるともとれる.基礎的自治体は選ばれる立場とも考えら,地域資源の有無で左右されるとも考えられる.地方自治体とCVSとの協定は,包括連携協定にとどまらない.都道府県とCVSとの間では災害時の協定が締結されている.近年は,基礎的自治体とCVSとの間で見守り協定や宅配協定が結ばれ始めており,これらがいかなる地域で締結されているかを今後把握していくことも必要と考える.
著者
齋藤 万里恵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

近年日本では、人口急減・超高齢化の課題に直面しており、特に仕事や生活の利便性を求めて都市部への人口流出が多い地方部で深刻になっている。一方で地方移住といった田園回帰の動きもみられるようになってきた。中には、地域のコミュニティの再生や交流人口の拡大といった地域の課題解決に積極的に取り組む者も現れ、地方移住者による地域振興への寄与が期待されている。本研究では、地方移住者の視点から、移住者が地域振興に関わる動機・プロセスを調査し、移住者による地域振興を推進する方策について明らかにすることを目的とする。宮城県内で地方移住者にヒアリング調査を行った結果、移住者は移住当初は地域との交流は少ないが、仕事などを通じて徐々に地域住民との交流が生まれ、地域への高い関心から、地域振興に関わるようになることが分かった。また地域振興に関わることにより、地元住民との交流が深まり地域愛着が増すことにより、定住意識にも影響を与えていることが分かった。これらの結果から、「移住者と地元住民の交流」が移住者による地域振興を推進する方策として重要であることが明らかになった。特に移住者側は地域の風習や伝統を意識すること、地元住民は移住者の意見や企画を受け入れ協力する姿勢が必要であると考えられる。 また、地元の自治体や企業などの第三者のサポートも大切であることが分かった。具体的には、移住者と地元住民の交流の機会を提供したり、移住者が活動しやすい支援体制を整えたりするなどの役割があると考えられる。以上のことから、移住者と地元住民の交流を軸に、移住者と地元住民、自治体・地元企業が連携することで、移住者による地域振興を推進し、地方の活性化を行うことが可能であると考える。
著者
戸谷 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.39-47, 1968

ケニヤの首都Nairobiの北方に位置するAberdare山地の東および南東斜面の下半部には, Kikuyu族の小村落が異常な高密度で分布しており,周囲といちじるしい対照を示している.これら小村落の集中には,曽ての英国による植民政策も一役買っているが,自然条件を検討した結果,人口を支える主要な因子はこの場合,地形性降雨にあること,そして,その分布下限は年平均降水量1,000mm, 年800mm以上の降水信頼度が1955~62年についてきわめて高いこと,一方,その上限は年平均気温15&deg;C (高度2,300m) であることが判明.同時に,両条件が齟齬することから,北東斜面や西崖下のKinangop台地に村落のないことも説明される.
著者
後藤 秀昭
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100167, 2017 (Released:2017-05-03)

1. はじめに 中央構造線活断層帯は,四国だけでも190kmに及ぶ日本で最も長大な活断層であり,平均変位速度は10mm/yrにも達する可能性があるとされてきた(Okada,1980)。しかし,説得力のある変位基準で,高精度に変位速度を求めたものは極めて少ない。GPS による測量では,中央構造線の横ずれ変位速度は約5mm/yr(Tabei et al., 2002)や0~5.5mm/yr(Aoki and Scholz, 2003)とのされており,これらとの対比を行うためにも,地形学的な時間スケールでの高精度な変位速度の検討が求められている。 中央構造線の古地震学的な研究では,最新活動時期について,中世を中心に歴史時代の活動が多数の地点で報告されている(後藤ほか,2001など)。しかし,それより前の活動時期や活動間隔についてはほとんど分かっていない。地震危険度の評価において大きな問題となっており,高精度な変位速度の提示が求められているといえる。 一方,地形学の研究では,多視点の写真データから作成された高密度な点群データなど,デジタル化された地形情報が用いられるようになっている。人工改変の激しい地域では,撮影年代の古い空中写真を用いて地形を復元して分析することが可能となり,変動地形でも積極的な利用が進みつつある(後藤,2015など)。 本研究では,中央構造線の池田断層,父尾断層に沿って認められていた後期更新世の変位地形を,1970年代の空中写真を用いて数値標高モデルとして復元し,変位ベクトルを検討するとともに,堆積物から得た試料の放射性炭素年代測定値に基づき,高精度な変位速度の算定を試みた。 2.地形モデルの作成と地形面区分 1974年撮影の約8000分の1カラー空中写真(CSI-74-8および9)を20μm(1,270dpi)の解像度でスキャンした画像を用い,国土基本図を評点として1m間隔のDEMとしたものを用いた。空中写真を実体視したのと同じ程度の判読が可能な画像となるよう測量間隔やブレークラインが設定されている。 対象とした地域周辺では,後期更新世以降の段丘面は中位面,低位1面,低位2面の3面に区分できる。 3.池田断層の東部の変位速度 池田断層東部の馬来谷川付近では中位面,低位1面が変位を受け,中位面で43m,低位面で7mと累積的な上下変位量が認められる。中位面の段丘崖の横ずれが複数地点で確認でき,断層崖の両側で明瞭な段丘崖が認められる場所では数値標高モデルから145~155mの横ずれ量が計測された。断層に平行な地形断面図からは上下変位量は横ずれ量の8%であり,横ずれが卓越していることが解った。低位1面の構成層上部から得られた木片から17,212~16,792 cal BPの放射性炭素年代値が得られた。これらに基づけば,横ずれ変位速度は8.5mm/yrよりも大きいことになる。 4.父尾断層の変位速度 父尾断層中央部の日開谷川西岸では,後期更新世以降の河成段丘面が発達し,典型的な横ずれ変位地形をなす(岡田・堤,1997など)。徳島自動車道の建設によって変位地形は改変されたが,1974年の空中写真によって復元された数値標高モデルによる地形をもとに多段化した地形を詳細に検討した。その結果,低位1面および沖積面はそれぞれ2面に細分されることがわかった(ぞれぞれ,上位面,下位面とする)。これらの段丘崖の基部を基準にすると,上下変位量は横ずれ変位量の6~8%でほぼ同方向に変位してきたと考えられる。低位1上位面の段丘崖の横ずれ量は140~150mと計測された。 地形面の年代を示す新たな試料は得られなかったが,低位1下位面は急傾斜であり,日開谷川下流西岸で沖積面に埋没することから,最終氷期極相期の地形面と考えられる。池田断層の馬来谷川付近の低位1面に対比されるが,約35km下流に位置し,より早くに離水したと考えられることから,低位1面下位面は18ka以降,17,122~16,639 cal BPまでに形成されたと推定される。これらに基づくと,父尾断層の変位速度は7.8~9.1 mm/yrと算定される。 5.おわりに 池田断層,父尾断層の変位速度とも,測地学的な検討により求められた変位速度より優位に大きく,地形学的検討によってこれまでに提示されてきた値よりも大きい。最新活動時の変位量(岡田・堤,1997など)に基づけば,活動間隔はこれまでの想定よりも短い可能性がある。日本で最も長大な活断層の評価にはさらなる古地震学的な調査が必要性と考える。