著者
森嶋 俊行
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.102-117, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
14
被引用文献数
5

本稿では,文化庁による「近代化遺産総合調査」と経済産業省による「近代化産業遺産群」認定事業を取り上げ,独自のデータベースを構築し,産業の地域構造史との関連を踏まえつつ,近代化産業遺産の地域的特性を明らかにした,その上で,両者の政策を比較するとともに,近代化産業遺産をめぐる政策的課題を検討した.文化庁の調査の対象は全国を網羅する形で,産業遺産のみならず,交通,建築,土木,軍事施設など,幅広い分野にわたり,文化財として価値のある遺産を数多くリストアップしている.これに対し,経済産業省による「近代化産業遺産群」では,近代工業化に関わるストーリーをもとに,遺産群を線で結ぶように認定しており,産業観光を含め,遺産の経済的価値を重視する傾向が認められる.産業遺産の意味のある保存と活用には,文化的価値と経済的価値の両者を考慮することが重要であり,省庁間の連携を進めるような政策展開が求められる.
著者
岩本 晃一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.89-101, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
1

経済産業省は,2009~2011年度の3ヶ年にわたって,総予算額1,461億円(当初予算)の「低炭素型雇用創出産業立地推進事業補補助金」を交付した.本補助金は,経産省で約20年ぶりに復活した民間企業の生産設備に対する大型補助金である.本補助金による産業競争力や地域経済に及ぼす影響は大きいものがあった.本稿は本補助金が及ぼした効果について検討し,今後の課題を考察するものである.
著者
佐藤 正志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.65-88, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
48
被引用文献数
2

本稿では,「企業立地促進法」の基本計画策定過程の検討を通じて,地方分権下の地域産業政策形成において,政府間関係が果たす役割と課題を考察した.全国的な企業立地促進法の計画策定状況と四日市市,北上市の計画形成過程を検討した結果,都道府県が依然として主導的な役割を果たしていたことが明らかになった.一方で市町村は,過去に地域産業政策の策定に携わった経験を持つ自治体は独自に計画を策定していた反面,水平的関係を通じた政策情報の交換はみられず,他の市町村は補完的な役割にとどまり計画内容には大きな影響を及ぼしていなかった.
著者
松原 宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.33-36, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
18
被引用文献数
1
著者
村中 亮夫 埴淵 知哉 竹森 雅泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.1-11, 2014 (Released:2014-09-17)
参考文献数
32
被引用文献数
2 1

近年,社会調査における個人情報の保護に対する関心が高まっている.本稿では,日本における近年の社会調査環境の変化によってもたらされた個人情報保護の課題と新たなデータ収集法について解説することを目的とする.具体的には,①社会調査データを収集・管理するにあたって考慮すべき住民基本台帳法や公職選挙法のような法制度の変化や調査倫理,①個人情報そのものを取り扱うことなく調査データを収集できるインターネット調査データや公開データの仕組みのようなデータ収集法の活用可能性に着目した.
著者
海津 正倫 TANAVUD Charlchai PATANAKANOG Boonrak
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.2-11, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

タイ国アンダマン海沿岸において多大な津波被害をこうむったNam Khem平野において,上陸した津波の挙動を明らかにし,津波の流動と地形および地形変化との関係について検討した.低地部における津波の挙動は基本的には流れの方向の異なる押し波と引き波の組み合わせで説明されるが,個々の地点では低地の微地形の存在が大きく影響している.とくに,一部では上陸した押し波と廃土の盛土斜面に乗り上げた後の引き波が同方向に流れており,逆の方向性を持つ押し波と引き波の見られる多くの地域とは異なった特徴が見られた.また,津波堆積物の分布は,津波の流動が集中する部分で厚くなる傾向が見られたほか,堤間低地の部分で厚く,浜堤列の発達と密接に関係している.

1 0 0 0 OA 書評等

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.9, pp.601-605,i, 2005-08-01 (Released:2008-12-25)
著者
佐藤 浩
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.104-120, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
15
被引用文献数
1

パキスタンが実効支配しているカシミール地方で2005年10月8日,パキスタン北部地震(Mw7.6)が発生した.震源近くで撮影された1 m解像度のIKONOSカラー単画像を用いて斜面崩壊を判読したところ,11 km×11 kmの広さで約100箇所の斜面崩壊を認定した.単画像のため,崩壊が斜面横方向に連なる場合,個々の斜面崩壊を認定することは難しかった.さらに,2.5 m解像度の白黒SPOT5ステレオ画像を用いて55 km×51 kmを対象に斜面崩壊を判読したところ,2,424箇所の斜面崩壊を認定した.現地調査によると,ほとんどが岩石の浅層崩壊である.しかし,SPOT5の解像度と白っぽい画質のため,地すべりのタイプの分類や地形学的特徴を詳しく判読できなかった.IKONOS,SPOT5いずれの画像判読の場合も,斜面崩壊は起震断層であるバラコット-ガリ断層の上盤側で多発していた.2,424箇所の斜面崩壊は,断層から1 kmの範囲内にその1/3超が集中していた.1/100万地質図と重ね合わせたところ,最多(1,147個),最高密度(3.2個/km2),最大崩壊面積比(2.3 ha/km2)の斜面崩壊がそれぞれ,中新統の砂岩及びシルト岩,先カンブリア系の片岩と珪岩,暁新統と始新統の石灰岩と頁岩に見出された.2,424箇所のうち,約79 %の1,926箇所は小規模な崩壊(崩壊面積0.5 ha未満),大規模な崩壊(崩壊面積1 ha以上)は約9 %の207箇所だった.大規模斜面崩壊の分布を米航空宇宙局のスペースシャトル搭載レーダー観測(SRTM: Shuttle Radar Topography Mission)による90 m 解像度の数値地形モデル(DEM: Digital Terrain Model)と傾斜データ(SRTM-DEMから計算)に重ね合わせたところ,斜面崩壊は断面的に凸な斜面のほうが凹な斜面よりも,また,35°以上のほうがそれ未満よりも,わずかに多い傾向が見られた.
著者
藤原 智 飛田 幹男 佐藤 浩 小沢 慎三郎 宇根 寛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.95-103, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
8

地震に伴う地殻変動の面的分布を求めることで地震時の地下の断層の位置とその動きを推定することができる.2005年パキスタン北部地震について,人工衛星ENVISATの干渉SARおよびSAR画像のマッチング技術を用いて,地殻変動を面的かつ詳細に求めるとともに,断層モデルを作成した.1m以上の地殻変動は全長約90kmの帯状に北西-南東方向に広がり,最大の地殻変動量は6mを超えている.地震断層推定位置は,既存の活断層に沿ってつながっており,活断層地形で示される変動の向きなどとも一致している.これらのことから,今回の地震は過去に繰り返して発生した地震と同じ場所で発生していることがわかった.地殻変動のパターンから,大まかに見て2つの断層グループが存在する.大きな地震被害が発生したムザファラバード付近は,この2 つの断層グループの境に位置するとともに,最大の地殻変動量が観測された.
著者
熊原 康博 中田 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.72-85, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

本研究では,2005年10月に発生したパキスタン地震(Mw=7.6)の起震断層を明らかにするため,CORONA偵察衛星写真を用いて断層変位地形の判読をおこなった.その結果,長さ66km,北西―南東走向,右横ずれ変位成分をもつ北東側隆起の逆断層タイプの活断層が認められた.活断層の特徴が地震のメカニズム解と整合すること,断層トレースに沿って地表地震断層が生じていることから,この活断層は本地震の起震断層であると認定される.この活断層をバラコット―ガリ(Balakot-Garhi)断層と呼称する.断層破壊方向と断層トレースの分岐パターンの関係によると,震源付近から両端に向かって断層破壊が伝播したことが推定され,実際の震源過程と調和している.地震前後の衛星画像から地震に伴う斜面崩壊を抽出すると,震源周辺及び断層トレースから上盤側5km以内に斜面崩壊が多いことが明らかになった.
著者
熊木 洋太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.1, 2010 (Released:2010-06-10)

地理学は現実社会のさまざまな問題の解決に役立つ学問である。特に災害の研究は,地理学が社会に直接貢献できる分野である。このような観点から,日本地理学会災害対応委員会では,2003年の春季学術大会以来,これまで8回の公開シンポジウムを開催してきた。これらのシンポジウムでは,専門研究者の立場からの発表が中心であったが,自然災害を防止したりその被害を軽減させたりするには教育の役割が大きいということがくり返し言われてきた。 すなわち,自然災害が多発するわが国において,国民の「防災力」を高めるには国民の間に自然災害に関する的確な知識が共有されていることが必要であり,このためには,初等・中等教育の段階から自然災害について学ぶ防災教育が重要であるということである。自然災害は自然現象であると同時に,その地域の社会構造とも密接に関係するので,土地の自然的性質や,土地利用,地域の空間構造などを取り上げ,地域の自然と社会を総合的に扱う「地理」は,災害の学習に最も適した科目・分野であると思われる。2004年12月のスマトラ沖地震津波の際には,プーケット島に滞在中のイギリス人少女が「地理」の時間に習った津波の来襲だと周囲に告げたため,多くの人が助かったと報道された。近年ハザードマップの重要性が指摘されることが多いが,これはまさに災害の地理的表現にほかならない。災害を引き起こす自然現象について学ぶ分野として,高等学校では「地学」もあるが,それを履修する生徒がきわめて少数である現実を考えると,「地理」の果たす役割は大きい。 日本学術会議は2007年の答申「地球規模の自然災害の増大に対する安全・安心社会の構築」において,学校教育における地理,地学等のカリキュラム内容の見直しを含めて防災基礎教育の充実を図ることを提言している。また同年の地域研究委員会人分・経済地理と地理教育(地理教育を含む)分科会・地域研究委員会人類学分科会の対外報告「現代的課題を切り拓く地理教育」では,地域防災力を高め安心・安全な地域作りに参画できる人材の育成と,そのために必要な自然環境と災害に関する地理教育の内容の充実を提言している。これらを踏まえ,2009年8月に活動を開始した地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会では,12月に下部組織として環境・防災教育小委員会を発足させ,地理教育における防災教育のあり方について検討を始めた。 初等・中等教育に関しては,学習指導要領の改訂が行われたところであり,新学習指導要領は小学校が2011年度,中学校が2012年度,高等学校が2013年度から完全実施される。地理に関しては全体的に地図の活用が強調されている等の特徴があるが,高等学校「地理A」において,「我が国の自然環境の特色と自然災害とのかかわりについて理解させるとともに,国内にみられる自然災害の事例を取り上げ,地域性を踏まえた対応が大切であることなどについて考察させる」という記述が新たに加わったことが注目される。 このシンポジウム「『地理』で学ぶ防災」は,以上の状況を踏まえ,日本地理学会の災害対応委員会と地理教育専門委員会によって計画され,日本学術会議との共催で実施される。小学校,中学校,高等学校,大学の各段階での実践例に基づく発表を軸として,地理学・地理教育の立場から学校教育の中での防災教育のありかたや方法を取り上げて検討する。
著者
佐藤 正志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.216, 2010 (Released:2010-06-10)

1.はじめに 現在の日本においては,公部門の財政の縮小を狙いとした行財政改革が国の主導によって推進されている.地方行財政改革では NPM(New Public Management)と呼ばれる,効率化策と同時に,参加する主体も民間企業に限定されず,住民やNPOといった非営利組織との協働を図ることによって新たな公共空間の形成を目指す,公民連携の概念の導入が進められている. しかし,国によって進められている公共経営の方針転換が全国の自治体で画一的に導入されるわけではないと考えられる.各自治体は,内在する社会経済構造や,政治構造といった地域特性に応じて公共経営を展開するため,国の政策の受容は地域特性に応じて異なると考えられる. この点を踏まえ,本研究では,国が進めた行財政改革策が地方自治体によってどのように受け入れられているのか,導入状況や連携の構築状況の地域差を把握することによって,地域特性に応じた地方行財政改革の影響を予察する. 対象として,地方行財政改革の中で新たに導入され,行政と非政府組織の間での連携による公共経営を目指した「指定管理者制度」を取り上げる. 2.指定管理者制度の特徴と自治体での導入状況 指定管理者制度は,2003年9月に地方自治法を改正する形で導入された,公の施設管理運営に関する新たな公民連携の手法である.指定管理者制度の特徴として,(1)行政または公的な目的を持つ団体に限定されていた施設管理運営を,民間企業やNPO法人でも可能にした点,(2)民間企業やNPO法人が,サービスや料金を自由に設定できるように変更した点があげられる.すなわち,施設運営において民間企業やNPO法人を導入することで,効率化とサービスの効果の向上を両立させることを目指した策である. 本発表では,日経産業消費研究所が実施した2006年4月1日付調査「自治体における指定管理者制度導入の実態」を用いて,全国の都市および東京特別区715市区での導入動向を確認する.まず,各市区での導入状況および民間企業,NPO法人の選定状況を確認すると,導入状況やNPO法人選定状況では大都市圏に集中する傾向は見られなかった.対して,民間企業では,首都圏を中心にした大都市圏で選定比率が高まる傾向が見られた.この動向を踏まえると,民間企業の選定においては都市圏内での企業の存在が大きく選定に影響を及ぼすと考えられる. 3.自治体別の民間企業・NPOの選定状況と域内外関係 次に,本発表で対象とする都市を,都市圏および人口数別に9に類型化し,各類型の民間企業およびNPOの選定先の状況を確認した.結果として,三大都市圏をはじめとした大都市圏の都市では,近接した地域の企業との取引を行っていることが示される.反面,県庁所在地を中心に,地方都市では,100km以上離れた民間企業を選定する比率が高まることが示される(図1).この背景には,地方都市における専門サービス業者を中心とした民間企業の不在が同一市区外の企業との取引に影響していると考えられる. 他方,NPOの選定状況は,90%以上の選定先が同一市区内である.同一市区外のNPO法人の選定は,特定のNPO法人に限定されており,大半が地域に根ざした活動に対応していることが示される. こうした現況を踏まえるならば,分権化の理念において自律的かつ地域に見合ったサービスへの転換が図ることが望ましいとされる.しかし,実態としては専門分野を中心に域外への民間企業へ依存している点を踏まえると,他律的な公共経営に陥る可能性がある点が示される.
著者
島田 周平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_1-16, 2009 (Released:2010-06-02)
参考文献数
35
被引用文献数
1 1

脆弱性理論は,脆弱性概念の多義性のために未だ有効な分析概念とは認められていない.しかし,アフリカの貧困問題や農業の持続性の理解のための学際的研究分野においては,大きな可能性を持つと考えられている.本稿では,アフリカ農村社会の分析にとって適切な脆弱性の定義を試み,次に個人,世帯,社会集団という主体の違いによって現れる脆弱性の多様性を整理した.その上で,ナイジェリア,ブルキナ・ファソ,ザンビアで行った農村調査の結果をもとに,個人,世帯,社会集団の脆弱性がどのような過程で増大してきているのか考察した.その結果,個人,世帯,社会集団の脆弱性は,相互に密接な関連を持ち影響しあっていることが明らかとなった.たとえば,ブルキナ・ファソから南部諸国への出稼ぎは,干ばつ常襲地域の世帯の脆弱性を緩和するものであったが,2000年にコート・ジボワールで起きた外国人排斥運動に遭い,突然中止せざるを得なくなった.このことで国外追放された個人,世帯はもとより,彼らが帰った先の故郷の農村社会の脆弱性にも深刻な影響を与えた.このような複雑な脆弱性を理解するためには,主体間の脆弱性増大の影響やそのプロセスを明らかにした上で,次にそれらの間の相互関係を解析する必要がある.
著者
祖田 亮次
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1_1-17, 2008 (Released:2010-06-02)
参考文献数
73
被引用文献数
1

本稿は,マレーシア・サラワク州(ボルネオ島)での調査をもとに,イバンと呼ばれるエスニック集団の農村―都市間移動の一端を紹介した上で,彼らの移動を考察するための三つの視角を提示する.具体的には,地方都市と後背農村を含んだ調査対象地域の設定,都市と農村の区分を曖昧化する移動者そのものへの注目,そして,農村社会の安定性・定住性を前提とした考え方(セデンタリズム sedentarism)に対する批判の3点である.これらは,イバンの生活世界の総体を現代的文脈のなかでとらえることを可能にするだけではなく,東南アジアにおける諸エスニック集団の農村―都市間移動を再考するために不可欠な視点である.そして,こうした視点は,特定のエスニック集団を考察対象とする場合の,地理学的研究と人類学的研究との接合可能性をも示唆するものである.
著者
荒木 一視
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.52-68, 2010 (Released:2010-04-06)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

中国からの輸入農産物や食品は食の安全性や品質に関わって近年大きな関心を集めている.その反面,中国の農業生産や流通の実態に関する情報や知識は決して十分とはいえない.とくに巨大な国土を持つ中国の農業生産や食品流通は決して一様ではなく,それらの地域的なパターンを認識することが,中国からの輸入農産物・食品に対する理解の上で求められているのではないかと考えた.こうした観点から筆者のこれまでの中国調査で得られた情報の一端を報告する.1960年代以降中国の農業生産は拡大を続けてきたが,とくに果実や野菜,畜産物などで1990年代以降に飛躍的な伸びが認められ,その過程で短期間での新興産地の台頭,首位産地の入れ替わりなど産地の地域的なパターンにも変化が起こっている.これは主食食材や工芸作物での変化が比較的緩慢なこととは対照的である.さらに,農産物・食品の各部門,品目別の国内市場の取引額および輸出額の省別の集計からは,双方の地域的パターンと生産の地域的パターンがそれぞれ異なるものであることが明らかになった.
著者
春山 成子 辻村 晶子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-20, 2009 (Released:2010-02-24)
参考文献数
11
被引用文献数
3

河川洪水による被害を軽減するためには,堤防・ダムなどの防災施設の構造物建設を先行させる工学的手法とともに,地形条件を勘案した最適な土地利用計画を編み出すための手法を開発すること,災害時に速やかに活動しうる社会構造・社会組織母体を形成させること,これらの活動を通して災害時の避難活動を円滑にさせることも重要な課題である.減災にむけた社会組織の活動を円滑に進めるためには,ハザードマップ,リスクマップを作成し,地域住民に災害ポテンシャルを周知させるような住民参加型の防災計画の樹立が求められている.本研究では2004年豊岡洪水の現地調査から社会組織の最小レベルである地区内に設けられた「隣保」と自主防災組織に着目して,速やかな防災活動を進める地域の工夫を確認した.

1 0 0 0 OA 書評等

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.10, pp.693-694,i_1, 2004-09-01 (Released:2008-12-25)
著者
竹村 一男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.182-198, 2000-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
41
被引用文献数
2

本稿では,末日聖徒イエス・キリスト教会の受容と定着の様相の地域的差異について山形・富山地域を中心に考察した.富山地域においては教会員の生家の檀家宗派は浄土系宗派が多く,禅系仏教地域の山形県米沢地域においても同様な傾向がみられた.浄土系宗派の寺院分布が卓越している富山・魚津地域においては布教が難しいが,教会員の定着率は高い.山形県と富山県の受容形態を比較すると,山形・米沢地域においては宗教体験を経て教会員となる場合が多いが,富山地域においては論理的に教義を解釈して教会員となる場合が多い傾向がある.これらの理由として,地域の基層宗教の大枠を構成する仏教では,宗派によって,住民の宗教観に影響を与える教義や地域社会への浸透度が異なるためと考えられる.とくに,浄土真宗地域における末日聖徒イエス・キリスト教会の定着率の高さは,浄土真宗と末日聖徒イエス・キリスト教会を含むキリスト教が教義構造において類似性を持つためと考えた.なお,両地域において教会員の属性には大きな偏りはみられない.1990年代に入り,同教会においては布教の手法と受容に至る過程に分散化・多様化が進んでいる.