著者
荒木 俊之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-11, 2017 (Released:2017-06-09)
参考文献数
20
被引用文献数
1

立地適正化計画は,コンパクトシティ・プラス・ネットワークを実現するために,2014年に創設された.本稿は,立地適正化計画の創設の背景とその概要を概説するとともに,地理的な視点からとらえた立地適正化計画の作成と運用の問題点を整理することを目的とする.本稿では三つの視点,すなわち立地適正化計画の区域の範囲,都市機能誘導区域の階層構造に関連する機能設定,土地利用規制とそれにともなう地域差から問題点を整理した.これらに共通するのは,立地適正化計画の区域の範囲に関することである.立地適正化計画は都市圏の範囲での作成が求められるが,都市計画区域が都市圏と一致しないことにより,コンパクトシティの実現に向けた取組みも,作成主体である市町村内にとどまる可能性が想定される.これは,都市計画の根本をなす都市計画区域の問題でもあり,都市計画区域の再編や変更が柔軟に行えない都市計画制度の硬直化といえよう.
著者
田村 均
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.216-236, 1985-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30

秩父織物業の衰退は,機械工業とくに下請工業の展開によって促進され,大企業主導による垂直的・専属的な下請構造の形成を一つの重要な背景としている.本稿では,この点に着目しながら,埼玉県秩父地方で最大の生産規模と組織をもつキャノン系A社の下請関係を取り上げ,専属的な関係を基軸に,機械工業の垂直的な下請構造がいかにして形成されてきたかについて考察し,その地域的編成と機能を明らかにした. 1960年代の後半以降,秩父地方では急速な産業交替,すなわち在来織物業の衰退と機械エ業の展開が,織物業者の業種転換による後者への下請従属化をともなって,ドラスティックなかたちで進展した.機械工業による在来織物業の地域的再編は,前者による若年男子を中心とする,織物業とは相対的に異なる労働力編成を通じて,当地方工業の賃金体系が改編される過程であった.この過程で拡大再編された低賃金は,秩父地方の他地域との賃金格差を拡大し,機械工業の下請構造を支えることになった.そこでは,A社による厳しい外注・下請管理が展開されるが,低賃金基盤の上に専属的下請企業層として育成・拡充された小零細企業群と,これを補強するべく同社の「衛星エ場」として編成された生産子会社・系列会社とが,工場群編成のうえで一定の空間的秩序をもって地域内に「合理的」に配置され,機械エ業の下方への負担転嫁を地域的に支えている.
著者
大貫 礼史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.40, 2008 (Released:2008-11-14)

_I_ はじめに 日本列島,とりわけ関東平野の内陸部では,1990年代半ばから盛夏期に著しい高温が頻繁に観測されるようになった.その要因として,高温をもたらしやすい総観場の状況になることが多くなり,太平洋高気圧から吹き出す南西風が関東山地越えのフェーンとなることと,東京都心周辺の排熱によって暖められた海風が内陸部まで到達することの2つが考えられている.しかし,これらには矛盾点もあり,まだ正確に要因は特定されていない. 本研究は,とくに南高北低型気圧配置下の高温観測日に注目し,関東山地を吹き下ろす南西風と,東京湾から関東平野内陸部に侵入する海風を中心に解析して,夏季の関東平野内陸部で著しい高温が観測される要因を明らかにすることを目的とする. _II_ 使用資料・解析方法 AMeDAS日別値,時別値および10分値(気温,風),気象官署観測資料(湿度),高層気象観測資料(地上,850hPa面,500hPa面),地上天気図,大気汚染常時監視測定局データ(気温,風)を使用した. 対象地点は関東平野のAMeDAS観測点45地点,関東平野内陸部の南西方向に位置する気象官署3地点,大気汚染常時監視測定局6地点の計54地点である.対象期間は1996~2005年の7,8月,全620日である. 対象日選出にあたり,南高北低型気圧配置日の抽出,著しい高温観測日の抽出,当日に関東平野のAMeDAS対象地点で降水の観測がない日の抽出を行った.その結果選出された計7日を研究対象日とした. _III_ 結果 気温と風の分布,関東山地風下フェーンと関東平野内陸部の高温の関係,海風と関東平野内陸部の高温の関係についてそれぞれ解析をした結果,おもに以下のことが明らかになった. _丸1_気温と風の分布に注目すると,午前中には八王子~練馬~越谷にかけて高温域が形成されるが,午後にかけて高温域の中心は館林,熊谷などの内陸部となる. _丸2_関東山地風下のフェーンに注目すると,関東平野内陸部における著しい高温の発現にフェーンが影響していることもあるが,フェーン現象が生じているとはいえない高温日も多く,現時点ではフェーン現象は内陸部で高温が発現する際の絶対条件ではないと考えられる. _丸3_東京湾からの海風に注目すると,東京都心周辺の排熱は,海風によって内陸方向へ移動し,越谷や練馬付近に高温をもたらす一因となっている可能性が高い.一方で関東平野内陸部の館林,熊谷,伊勢崎などは,暖まった海風が越谷や練馬付近で上昇流が生じるため,東京都心周辺の排熱が直接的に高温化の原因になるのではなく,海風による冷涼な大気が内陸部まで届かなくなったことと,内陸部の都市化による土地被覆の変化や排熱の増加が高温化の一因になっていると考えられる.
著者
佐野 浩彬 田口 仁 花島 誠人 伊勢 正 佐藤 良太 高橋 拓也 池田 真幸 鈴木 比奈子 李 泰榮 臼田 裕一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>報告の背景と目的</b> <br>2016年4月14日21時26分に発生した震度7の地震(Mj6.5)と,4月16日1時35分に発生した地震(Mj7.3)およびそれ以降に続く余震(2016年熊本地震)に対して,防災科学技術研究所(防災科研)では災害対応の一環として,地図情報の作成・集約・共有による情報支援を実施した.防災科研が独自に行っている地震や液状化,降雨,火山,土砂災害などの観測・予測データや,熊本県庁から提供された道路規制情報や避難所情報,通水復旧のインフラ情報などをWeb-GISに統合し,俯瞰的な被害状況を把握できる仕組みを構築した.各種情報が集約された地図は,防災科研が構築した熊本地震のクライシスレスポンスサイト(http://ecom-plat.jp/nied-cr/index.php?gid=10153)において公開したほか,避難所情報などの公開が難しい一部の情報については,熊本地震災害対応にあたる特定機関向け地図を構築して提供した. 本報告では,熊本地震における地図情報の作成・集約・共有における災害対応支援のなかで,熊本県庁をはじめとする各種機関が集約・発信する情報が,どのように地図情報として一つの地理空間情報基盤上に整理されたのかについて報告する. <b><br>熊本地震における地図情報支援</b> <br>4月14日に発生した震度7の地震を受けて,防災科研では地震による被害状況把握ならびに情報集約のためのWeb-GISを構築した.当初は防災科研が観測した震度分布や推定全壊棟数分布のデータをWeb-GISに統合した.また,地震発生翌日の4月15日には,熊本県庁に防災科研研究員が派遣され,熊本県や中央省庁などと連携し,各機関から提供される災害情報を,構築したWeb-GIS上に統合した.直接Web-GIS上に取り込める形で提供された情報には,国土地理院の「被災後空中写真」やITSジャパンの「通れた道マップ」,地震推進本部の「活断層図」などが挙げられる.また,熊本県庁から提供された道路被害情報や避難所情報などはテキスト形式やExcelで整理されたもの,独自の地図で描画されたものなど,Web-GISに直接地図情報として取り込むことができなかったものもあり,それらは住所情報などを頼りにして位置情報を付与することでWeb-GIS上に統合した.各機関から集約・整備したデータは約45種類,データ数として424を数える(6月27日時点).Web-GIS上で集約されたデータは,利用者がニーズに応じて必要な情報を適宜選択して表示することができる.例えば,通水復旧状況のレイヤと避難所情報のレイヤを組み合わせることで,給水支援が必要な避難所を分析できたり,避難所と推定全壊棟数分布,道路規制情報の3レイヤを重ね合わせることで,生活支援が必要な地域と,支援に向かうためにたどり着くための最適ルートを事前に検討することが可能となる. <b><br>地図情報作成・集約・共有における課題</b> <br>被害情報をWeb-GIS上に統合することで、災害対応支援への活用が可能となるが、情報の統合化においては様々な課題が明らかとなった。例えば、避難所情報については国土交通省があらかじめ国土数値情報のなかで整備している避難所情報もあれば、DMATが独自に収集し整理している広域災害救急医療情報システム(EMIS)の避難所情報、また熊本県庁で集約されたものや熊本市で集約されたものなど、災害発生直後に各種機関が独自に情報収集を始めてしまったため、一つの情報として集約することが困難な状態だった。また、避難所情報の統合にあたっては、各機関が整理する情報の避難所名称に差異があったり、本来は指定されていない避難所が開設されているなど、単純な統合化・集約化が難しいという課題があった。こうした各種機関が独自に情報を収集、集約すると、その後の情報統合化が難しくなるため、あらかじめ共有情報の標準化(COP,Common Operational Picture)を検討しておくことが重要となる。今後の課題としては、地図情報の作成・集約・共有における自動化や高度化、災害情報におけるCOP実現に向けた検討が挙げられる。 &nbsp; <br> <b>謝辞:</b>本報告の一部には、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(先着的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:科学技術振興機構)の予算を活用した。
著者
福岡 義隆 丸本 美紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1.はじめに<br> 日本では福井(1933),関口(1959)の区分をはじめ,鈴木(1962)や吉野(1980)らによる種々の気候区分図が考案されているが,各種の気候図にみる瀬戸内気候の範囲は微妙に異なっている。瀬戸内沿岸はGISによる環境容量図などでも特異な位置づけにある。しかし,瀬戸内気候についての定量的な評価はいまだされてない。本研究では福井英一郎(1966)による地中海気候発達度の計算法に倣って瀬戸内気候の発達度を算出することを試みた。一方,ローマやギリシャなどの高度な文明を生んだ地中海気候のように,奈良や京都の古代文明が瀬戸内気候のたまものかどうかを再認識するために,奈良と京都の瀬戸内気候度を求めることを試みた。局地気候災害的には旱魃の奈良の方が洪水の京都よりも瀬戸内気候度が高いと予想される(丸本,2014)が,そのことを確証付けてみたい。本研究の真の目的は福井気候学の哲学を再考・再興することにもある。<br>2.&nbsp; 研究方法<br> 福井英一郎編著『日本・世界の気候図』(1985)のうち,年平均散乱比図,年降水量図,年合計流出高図,郡別干害率図の4図における瀬戸内気候区の範囲(瀬戸内海沿岸線に平行に走る等値線など)を重ね合わせてみた。次に,『The Climate of Japan』(Ed.E. Fukui, 1977)に掲載されている気候区分図(関口武による図,1959,ソーンスウエイト法による気候区分図,1957)と対照させ,瀬戸内気候区の範囲を特定してみた。それらの定性的な分布をより定量的に評価するための福井(1966)の地中海発達度における三角関数を適応させてみた。瀬戸内沿岸では夏季の降水量に対して8月降水量がかなり少ないという特性から考えて,本研究では地中海気候発達度のtan&theta;を6-8月降水量R<sub>s</sub>に対する8月降水量R<sub>8</sub>の比で表わした。対象地域については,福井,岐阜,名古屋,津,和歌山,奈良,大阪,彦根,京都,神戸,岡山,広島,米子,松江,下関,高松,松山,徳島,高知,福岡,大分の21地点を選び,各地方気象台における各月降水量の1954~2014年平均値を使用した。m=瀬戸内気候度,&nbsp;<br> 3. 研究結果<br>関口の気候区分図では奈良盆地が瀬戸内気候区内,京都盆地は区外となっている。4つの気候要素の等値線は第2図のとおり瀬戸内気候区分内に収まっている。<br>&nbsp;瀬戸内海沿岸の主要都市の瀬戸内気候度mについては,値が大きい順に松山92.3,広島91.6,大阪・岡山・神戸・下関で90.0であった。奈良のmは87.3,京都は86.4であり,瀬戸内気候度は,奈良盆地が京都盆地よりも大きく,すなわち奈良の方がやや夏乾燥であることが示された。
著者
荒木 一視 岩間 信之 楮原 京子 熊谷 美香 田中 耕市 中村 努 松多 信尚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.526-551, 2016 (Released:2017-03-29)
参考文献数
40
被引用文献数
2

東日本大震災を踏まえて,広域災害発生時の救援物資輸送に関わる地理学からの貢献を論じた.具体的には遠くない将来に発生が予想される南海トラフ地震を念頭に,懸念される障害と効果的な対策を検討した.南海トラフ地震で大きな被害が想定される西南日本の太平洋沿岸,特に紀伊半島や南四国,東九州は主要幹線路から外れ,交通インフラの整備が遅れた地域であると同時に過疎化・高齢化も進んでいる.また,農村が自給的性格を喪失し,食料をはじめとした多くを都市からの供給に依存する今日の状況の中で,災害による物資流通の遮断や遅延は,東日本大震災以上に大きな混乱をもたらすことが危惧される.それを軽減するためには,迅速で効果的に物資を輸送するルートや備蓄態勢の構築が必要であるが,こうした点に関わる包括的な取組みは,防災対策や復興支援などの従来的な災害対策と比べて脆弱である.
著者
石川 菜央 岡橋 秀典 陳 林
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.502-515, 2016 (Released:2017-03-29)
参考文献数
12

筆者の3人は,広島大学大学院の分野融合型のリーディングプログラムであるたおやかプログラムにおいて,現地研修の企画,実施を担当してきた.筆者らは,ともに地理学を学問的バックグラウンドとしてもっている.本稿では,地理学で培われた地域への視点や調査法が,分野融合型教育における現地研修にどのように貢献し,そして実施後にいかなる課題が残されたのかを考察した.検討の結果,事象を地域内の文脈でとらえ,さまざまな要素と関連づけて地域を総合的に把握する視点や,現地調査でオリジナルなデータを得る方法などが研修にも有効であった.また,これまでの地理学的研究では控える傾向があった,地域内の現象の比較的早期の一般化や,課題を解決するための具体的提案も研修という見地から学生たちに積極的に行わせた.今後は,長期間にわたって地域に繰り返し足を運び,さらに研究を深めることや,より長期の現地研修と効果的に結びつけることが課題である.
著者
菊地 俊夫 田林 明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.460-475, 2016 (Released:2016-12-10)
参考文献数
27
被引用文献数
2

本研究の目的は東京都多摩地域の立川市砂川地区を事例にして,農産物直売所の存在形態と農村空間の商品化の関連性から,都市農業の維持・発展メカニズムを明らかにすることである.立川市砂川地区における都市農業の維持・発展は農産物直売所の立地に大きく依存している.それは,農産物直売所が都市住民に農産物を直接販売する施設であり,その施設を都市住民のニーズに応えるかたちで維持することで,農産物生産が行われているためである.結果として,農村景観や農業的土地利用が維持されるだけでなく,農村コミュニティも維持されることになる.また,農産物直売所を都市住民が訪れて購買することにより,それを核とする農村空間は生産空間としてだけでなく,消費空間としても意味づけられるようになる.
著者
田林 明 菊地 俊夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.425-447, 2016 (Released:2016-12-10)
参考文献数
32
被引用文献数
1

現代の日本では,農村本来の機能である食料生産を存続させ,持続的に発展させることが重要な課題となっている.この報告は,稲作が卓越する北陸地方において存続・成長の可能性の高い農業経営事例を検討し,その特徴と役割を明らかにする.ここで取り上げた三つの大規模借地経営は,利潤を追求するとともに,農地活用・管理のみならず,地域社会の維持,雇用創出といった役割を果たしている.それぞれは,大規模化と多角経営化と企業的性格を強めるという方向に進んできている.今後,ますます生産物を多様化し,加工・流通部門も加えて,規模拡大を進めるものと考えられる.しかし,すべての地域の農業がこれらの企業的経営によって維持されるのは困難であり,利潤追求というよりも一定水準の農業を継続し,農地を管理し,地域社会を持続させていこうとする集落営農が,大規模借地経営の隙間を埋めるように機能していくと考えられる.
著者
高橋 昂輝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

本発表の対象は,トロントのポルトガル人街である。当該地域の出現とその空間的移動,および質的変容の過程を明らかにすることが本発表の目的である。トロントにおけるポルトガル系移民の歴史は,1950年代以降に確認される。単身男性を中心とした初期のポルトガル系移民は,トロントに定着するとポルトガルから家族を呼び寄せた。これにより1960~70年代において,トロントのポルトガル系移民は急増する。同時期におけるポルトガル系移民急増の背景には,ポルトガル国内の政治情勢が大きく関係した。1930年代以降,ポルトガルではサラザールを中心とした独裁的政権体制が執られており,ポルトガル国民は貧困に窮していた。さらに,1961年アフリカ植民地において開戦された独立戦争は74年まで続き,ポルトガルの財政および国民生活を苦しめた。また,徴兵制度により,多くの若年男性は戦地に出兵することとなった。このようなポルトガル国内の政治的・社会的問題を背景とし,貧困からの脱出,サラザール政権への反発,出兵の回避を目的としてポルトガル人は国外への移住を選択した。1950年代および60年代において,ポルトガル系移民はケンジントンマーケットに集中して居住した。ケンジントンマーケットは,移民集団の最初の居住地として著名な地区であり,ポルトガル系移民の到着以前はユダヤ人,アイルランド人,イタリア人などが居住した。1960年代後半,ポルトガル系移民の居住地域は約2Km西方に位置するリトルポルトガル周辺に移動した。現在,同地区を中心とするトロント市中西部は,ポルトガル系人の集住地区である。リトルポルトガルは商業地区であり,ポルトガル系地区の核心部として位置づけられる。1960年代末以降,同地区にはポルトガル系経営者による商店が相次いで開業した。ポルトガル系人にとって居住,商業の中心地となったリトルポルトガルは,集団内外においてポルトガル人街として認識されていった。2003年において,トロント市からBIA(Business Improvement Area)の指定を受けると,同地区はリトルポルトガルと命名された。リトルポルトガルにおける経営者の過半数は,依然ポルトガル系人である。これらの商店では,従業員としてポルトガル系人が雇用される。このことは,顧客の大半が英語を十分に解さない,ポルトガル系一世であることを示す。移住最盛期から約50年が経過した現在,一世は高齢化しており,トロントのポルトガル系コミュニティは二世または三世へと世代交代しつつある。リトルポルトガル周辺には一世が集中する一方,二世以降は郊外に居住域を拡げる。また,近年ポルトガル系経営者による商店は減少し,新たに発生した空き店舗には非ポルトガル経営者が出店している。先述したBIAは官民一体の地域経済活性化事業であり,地元経営者・土地所有者の参画が求められる。有志の経営者らはBIA委員会を組織し,月次会議において活動内容を策定する。2003年の指定以来,ポルトガル系二世の経営者Rが,BIA委員会の代表を務めてきた。しかし,2012年において代表は非ポルトガル系経営者Kに交代した。BIA委員会の人選は,地域の発展の方向を左右する重要事項である。近年における非ポルトガル系経営者の進出,および域内における権力の掌握は,リトルポルトガルの性格を変容させる要因として捉えられる。
著者
阪上 弘彬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.401-414, 2016 (Released:2016-11-16)
参考文献数
20

本研究ではドイツ・ニーダーザクセン州ギムナジウムを事例に,ESD(持続可能な開発のための教育)の視点を入れた地理カリキュラムおよび学習の構造ならびに特質を明らかにするために,同州中等地理カリキュラム『コアカリキュラム』ならびに教科書TERRA Erdkundeを分析した.分析結果から,カリキュラムならびに教科書の特質として,学習プロセスに対応して持続可能性および持続可能な開発を反復して学ぶ構造となっていることと,持続可能性および持続可能な開発のもつ価値観を,所与のものとして学習を展開しない構造が明らかとなった.この分析により,日本の地理教育におけるESDの学習にとって,多様な学習プロセスを通じて,ESDの学習を繰り返し学ぶ地理カリキュラム作成,および持続可能な開発の起源あるいは概念を学ぶ機会を設定する必要があることを指摘した.
著者
下池 克哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.390-400, 2016 (Released:2016-11-16)
参考文献数
45

動態的地誌学習の授業設計において,多くの社会科教員が単元を貫く問いの設定に困難を感じている.先行研究では,地域における中核事象を取り上げ,「なぜ,このような特徴がこの地域にみられるのか」という「なぜ疑問」のもと,中核事象を成り立たせている原因を追究させるというのが一般的な見解となっている.そこでは,中核事象を結果として位置づけて,単元を設計するという方法が取られることになる.しかし,平成20年版の中学校学習指導要領[社会]の中核とする内容に基づく中核事象には,自然環境や歴史的背景のように,結果として位置づけられないものがある.したがって,中核事象を結果として位置づけ,中核事象を成り立たせる原因を探究させるケースと,中核事象を原因として位置づけ,中核事象がもたらす結果を探究させるケースの2パターンに分けて,単元を貫く問いを設定する必要がある.
著者
矢野 桂司 鎌田 遼
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<br>&nbsp;本研究の目的は、国内外の図書館・博物館などが所蔵する日本で作製・出版された過去の地図・絵図などの古地図を、総合的・横断的にインターネット上で検索、閲覧、分析することができる、オープンソースによるWebGISベースでのポータルサイト『Japan Old Maps Online(仮)』を構築し、ボランタリーなクラウドソーシングを活用しながら、伝統的な人文学の「蛸壺的な」研究スタイルを、学際的・国際的な協働でのプロジェクト型研究に革新することにある。<br>&nbsp;近年、人文学で扱う紙ベースの学術資料のデジタル化と、それらのによる公開が急速に進んでいる。日本においても、『国立国会図書館デジタルコレクション』がその代表で、国立国会図書館に所蔵されている多くの学術資料がデジタル化され、インターネット上に公開されている。その学術資料の中には、本研究が対象とする日本の地図・絵図などの古地図も含まれる。例えば、『国立国会図書館デジタルコレクション』には2,644件もの絵図が含まれている。この他、国土地理院の『古地図コレクション』(300件)をはじめ、東京都立図書館、国際日本文化センター、歴史民俗博物館、各大学図書館など多くの古地図を所蔵する機関が独自に公開を積極的に進めている。しかし、それらインターネット上に公開されたデジタル古地図を総合的・横断的に検索できる効果的なWebGISベースのポータルサイトは日本に存在していない。<br>&nbsp;2000年代中葉から、伝統的な人文学においても、ICTを活用して学術資料のアーカイブ構築、文化コンテンツの分析、学術成果の公開や展示の方法などを、文系・理系の連携・融合・統合によって複数の研究者によるプロジェクト型の研究スタイルをもつデジタル・ヒューマニティーズが展開している。その中で、地理空間情報を扱う歴史GISは、人文学の空間的ターンとしての地理人文学(GeoHumanities)あるいは空間人文学(Spatial Humanities)などの人文学の新しい学問分野の形成において中心的な役割を果たしている。日本における歴史GIS、ひいては伝統的な人文学を、学際的・国際的な協働による新たなプロジェクト型の研究スタイルに飛躍的に展開させるためにも、その基礎資料となる日本の古地図を総合的に・横断的に検索し、さらにGIS分析を可能とするポータルサイトの構築が急務である。 <br>&nbsp;本研究が目標とする国内外に散在する日本の古地図のポータルサイトを構築するためには、大きく、1)ポータルサイトそのものを構築し運営するための基盤づくり(オープンソースによるシステム開発)と、2)そのポータルサイトに取り込む日本の古地図の情報収集(各機関が所蔵する地図目録とメタデータ、デジタル化、さらには権利関係の処理など)が必要となる。 まず、ポータルサイトのシステム開発に関しては、全てを新たに独自開発するのではなく、Harvard大学空間解析センター(CGA)のWorldMapを拡張したHarvard HypermapやMapWarperなどのオープンソースソフトウェアと、古地図を共有するための既存のプラットフォームであるOld Maps Online(OMO)などのコンテンツを活用し、日本の古地図に特化した多言語対応型のポータルサイトを構築する。 <br>&nbsp;本研究が対象とする日本の古地図は、基本的に、日本で作製され、日本を描いた紙地図である。時代的には、近世以前と近代のものを順に整備するが、最終的には、現在のボーンデジタルなものをも含めて運用できるものとする。<br>&nbsp;前述したOMOには、すでに多くの地図が登録されているが、日本の古地図は必ずしも多くない。さらに、OMOに地図画像を提供している機関のすべての地図がデジタル化され、公開されているわけでもない。例えば、OMOに参加している大英博物館には約600件の日本の古地図があるが、それらは未だデジタル化されていないし、Harvard大学図書館が所蔵する122の日本の古地図のうちデジタル化され公開されているものは現時点で25件に過ぎない。また、UCB東アジア図書館が所蔵する三井コレクションの中には江戸時代から明治にかけての日本の古地図2,200件余りが含まれているが、デジタル化が完了しているものは800件で、今後、残りのデジタル化が必要である。ポータルサイトの構築の過程には、図書館・博物館の地図部門のキュレータと古地図を対象あるいは活用する研究者、そしてそれらをICT技術でつなぐ3者の協働でのプロジェクト型研究が必須で、このような国際的・学際的な協働は、伝統的な人文学を革新する原動力となる。
著者
今村 友則
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

1. はじめに 多雪山地の自然斜面には,積雪グライドや雪崩などの雪食作用で植生が剥ぎ取られた裸地が存在する。本稿では,これらの裸地を雪食裸地と呼ぶ。雪食裸地は,多雪山地の景観を特徴づけるだけでなく,斜面侵食の影響評価を行う上でも重要である。雪食裸地の侵食プロセスについては,土砂災害防止や森林保全を目的に研究が行われてきた。侵食量を定量化する方法として,雪崩堆積物や流出水に含まれる土砂量を測定するのが一般的であるが,侵食量の直接的な算出は困難であった。本研究では,三国山脈平標山の雪食裸地について,SfMを用いて作成したDSMの標高変化値を調査し,雪食裸地に働く夏季の侵食プロセスを考察する。 2. 調査地域と研究方法 調査地域は,上越県境に位置する三国山脈平標山 (1983.3 m) の南西斜面である。対象とした雪食裸地は,地表面の粒度組成や傾斜が異なる4つの裸地 (A1, A2, B1, B2) であり,2016年の夏季に2~4回の調査を行った。 調査には,多数のステレオペア写真から被写体の3次元構造を復元するSfM (Structure from Motion) という方法を用いた。自撮り棒を用いて裸地を多方向から撮影し,高解像度DSM (Digital Surface Model) を作成した。この方法での,実際の地形とDSMの標高誤差は1 cm未満である。異なる撮影日から得たDSM同士の差分をとり,裸地の標高変化値とした。解析結果を,裸地に設置した定点カメラデータや,付近の気象データ等と比較し,雪食裸地の夏季における侵食量と,その要因について考察した。 3. 裸地A1の標高変化 裸地A1 (7月, 8月, 9月, 10月に撮影) は,全体が茶褐色の風化土層に覆われ,3~10 cmほどの亜角礫が散在する。裸地上部の傾斜は20 &deg;以上,下部は10 &deg;未満で,明瞭な傾斜変化がある。差分解析の結果,7~8月にかけて,裸地上部で2~3 cmの侵食,下部で2.5~3.5 cmの堆積が生じていた。侵食域と堆積域は,傾 斜20&deg;の線で区分される。一方,8~9月,9~10月の差分値は1 cm未満であった。山麓の新潟県湯沢町 (340 m) では,7月28日に日最大1時間降水量42.5 mmが記録されていた。定点カメラには,7月28日前後で,礫に被さっていた土壌が削り取られる様子が確認された。また,Google Earthによる2010年と2015年の空中写真を比較すると,裸地面積が2倍以上に拡大していた。 4. 裸地A2, B1, B2の標高変化 裸地A2 (6月, 10月) は,風化土層の上を3~15 cmの亜角礫が覆い,傾斜25 &deg;以上の直線型斜面を呈す。差分解析の結果,1 cm以上の侵食・堆積は見られず,礫移動による3~10 cmの断片的な標高変化が多数確認された。また,Google Earthの2010年と2015年の空中写真を比較すると,裸地面積が縮小していた。 B1 (7月, 8月, 10月) ,B2 (6月,10月) は,全体が5~20 cmの亜角礫で密に覆われる。B1は傾斜30 &deg;以上の直線型斜面である。B2は裸地上部の傾斜が25 &deg;以上,下部が5 &deg;未満であり,明瞭な遷緩線が見られる。差分解析の結果,B1, B2とも1 cm以上の侵食・堆積は見られず,礫移動による断片的な標高変化も数地点で確認されるに過ぎなかった。 5. 考察 以上の結果より,雪食裸地は夏季において,主に短時間豪雨による雨水ウォッシュで侵食されるが,その量は,地表面の粒度組成と傾斜に規定されると考えられる。裸地A1のように,雨水で削られやすい風化土層に覆われている場合,急斜面での土壌侵食と緩斜面での土砂堆積が行われ,裸地面積は拡大傾向にある。一方,裸地B1, B2のように,地表面が礫で密に覆われる場合,雨水で削られにくいため,わずかに生じる礫移動以外では,ほとんど地形変化が起きない。裸地A2では,風化土層に覆われているものの,雨水ウォッシュによる侵食は見られず,裸地面積は縮小傾向である。この要因については,礫の被覆割合や,裸地発生後の経過時間が関係すると考えられるが,現時点では不明である。
著者
馮 競舸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100243, 2017 (Released:2017-05-03)

1.はじめに 近年、遠隔操作により無人で空中を進むことができるドローン(Drone)に注目が集まっている。従来ドローンは軍事用、農薬散布等の産業向けに使われていたが、近年の技術革新に伴い、商用物流ドローンの活躍にも関心が高まっている。 本研究では、現代都市地域の特徴と自然農村の特徴を兼ね備え、日本の先進技術を代表するつくば市を事例に、地理学の視点から、GISを援用した土地利用解析手法を用い、商用物流ドローンの配達航路と飛行リスクを解析する。 2.方法 本研究では、商用物流ドローンを配達する際に、飛行の安全及び離着陸に影響する因子を対象として、「飛行禁止空域」及び「離着陸禁止地域」を導出する。ユークリッド距離とラスタ演算解析により、因子の影響力を推定し、つくば市における飛行リスクコストを導く。新たな最小コストパス解析方法を導入して、配達状況と目的に応じて、多様な飛行航路モデルを構築する。 3.分析 「飛行禁止空域」と「離着陸禁止地域」に関する分析では、因子の影響範囲の面積が全体面積に占める割合を算出し、因子影響力を評価した。 研究対象地域の面積約293k㎡のうち「飛行禁止空域」が約79.6k㎡、「離着陸禁止地域」が約167.4k㎡を占める。特に、都市地域では、人口が集中しているため、「飛行禁止空域」と「離着陸禁止地域」が複雑に分布する。 飛行空域のリスクを求める際に、従来の一般的リスクコスト研究ではなく、本研究ではユークリッド距離を飛行リスクとして解析することで直感的に飛行リスクを地図化することが可能になる。計算も容易である。 ラスタ演算で影響因子を統合した「飛行空域のリスク分布」から、人口集中地域では飛行リスクが高いことが明らかになった。この分布をコスト評価モデルに適用し、コストパス解析手法を通して、商用物流ドローン配達航路の解析に応用した。そして、実用化に向けて実際の荷物を配達する際に発生する様々な状況を予測し、異なる目的と場面の配達航路をモデル化した。本研究では、特に緊急医療運送を対象に、コリドー解析手法による配達圏の解析を行った。 最後に、構築したモデルの有効性を実証するためにシミュレーション分析を行った。その際、最もリスクが高いと見られる都市中心部の人口集中地域において、複数の安全飛行航路をランダムに設定し、衝突が発生する状況を検証した。その結果、すべて安全航路で衝突が発生せず、本研究の有効性が実証された。 4.結論 本研究では、商用物流ドローンの配達において、「離陸」から「飛行」、続いて「着陸」、又は「帰着」のプロセル全体を視野に入れ、リスク分析による独自の航路解析モデルを考案した。 本研究で構築したモデルでは、他の地域においても応用が可能である。また、専用のプログラム構築により、自動的に飛行航路を計算することもできる。 商用物流ドローンの実用化に向けて、地域と配達の安全を守ることにより、商用物流ドローンに対する規制について検討することが重要である。
著者
阿部 智恵子 若林 芳樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

地理学における保育サービスの研究は、主として保育資源の空間的配分や保育ニーズの地域的多様性の面から研究が進められてきた。それらの研究で対象になったのは、主として認可保育所である。しかし、子育て支援は働く母親を主たる対象にした認可保育所だけで充足されるわけではない。政府の子育て支援策でも、近年では全ての家庭を対象に地域のニーズに応じた多様な支援が進められている。その一つが全国に配置された子育て支援センターである。本研究は、従来の研究ではほとんど注目されることがなかった地方都市の子育て支援センターを対象にして、そこでのサービス供給と利用にみられる地域的特徴と課題を明らかにすることを目的とする。<br> 研究対象地域のかほく市は、石川県の中央部に位置し、2004年に河北郡のうち北部の3町(高松町、七塚町、宇ノ気町)が対等合併してできた人口34,659人(2010年国勢調査)の新しい市である。全国的にみて北陸地方は、女性の就業率が高く出生率も全国平均を上回ることから、比較的子育てに恵まれた環境にあるといえるが、かほく市も例外ではない。じっさい、かほく市の認可保育所待機児童数は長年ゼロが続いており、年少人口比率も24.1%と高い。また、3世代同居世帯が18.8%を占めることから、親族からの育児支援も受けやすいと考えられる。<br> 本研究は、質的・量的研究方法を併用した混合研究法を用いた。市内の子育てに関する情報は、かほく市役所での聞き取りと同市のWebページなどから収集した。子育て支援センターの利用実態については、2013年9月に、市内の3カ所のセンターを利用する母親を対象とした質問紙調査を実施し、80名から回答を得た。回答者のうち7名に対しては聞き取り調査を実施した。また、センターの職員7名(全員が女性)への聞き取り調査を通して、支援する側からみた利用実態と課題について検討した。<br> 子育て支援センターは、厚労省の地域子育て支援拠点事業の一環として設置されたもので、育児相談や子育てサークルの支援などを主たる任務としている。市内には公共施設の一部を使って3カ所のセンターが設置され、それぞれ複数の職員が配置されている。認可保育所については、合併後に新たに保育所整備計画が策定され、統廃合が進められた結果、現在10ヵ所ある認可保育所は、2015年には9ヶ所になる予定である。市の方針として、合併前の旧3町の融和と一体化に努めており、地域的バランスに配慮したまちづくりが進められてきた。こうした方針は、ゾーニングによる保育所配置計画や、旧町単位での子育て支援センターの設置にも反映されている。他の自治体では公設民営が多い中、かほく市の認可保育所や子育て支援センターはすべて公設公営という点に特徴がある。<br> 子育て支援センターを利用する母親の年齢は20~30代で、利用頻度は週3~4回と月1~2回が大部分を占め、複数のセンターを利用する人もいる。利用する理由の上位は、閉じこもり予防、親子の友達づくり、ストレス解消であった。当該施設を選んだ理由は、家が近い、雰囲気、スタッフの順に多く、9割以上の回答者がセンターのサービスに満足している。結婚や出産を機に退職した母親の割合は約半数にのぼるが、再就職や復職をめざしている人も少なくない。自由回答で挙げられた要望には、日曜日のセンターの開所、職場復帰後の病時保育、ベビーマッサージなど乳幼児でも参加できる行事、園庭の設置などであった。聞き取り調査からは、専業主婦は子どもの世話に専念できるとはいえ、地域の人の目や世の中から取り残されることへの不安がセンターの利用につながっていることも明らかになった。6.支援する側からみた子育て支援の課題子育て支援センターの職員は、親子の居場所、特に母親がリラックスできるような関わりに配慮しており、子どもの成長や発達を身近に感じられることが仕事のやりがいになっている。子育て情報の提供や育児相談にも丁寧に対応し、それらが利用者の満足度の高さにつながっていると考えられる。また、市外からの利用者も受け入れており、近隣の市町のほか、実家に帰省中の母親が利用することもあるという。一方、職員の大半は保育士の経験があるため、保育所との違いからくる自分の立ち位置や、親子との距離感に戸惑いを覚えていることがわかった。そこにはセンターの職員に資格の厳格な定めがなく、職務の専門性が不明確であることも影響している可能性がある。施設のハード面でも、別の公共施設を転用したセンターでは、設備とサービスが適合していないところがあるという。また、育児サークルの支援を行っているものの、親同士の人間関係の煩わしさから、サークルが拡大しにくい実態が示唆された。
著者
卯田 卓矢 矢ケ﨑 太洋 石坂 愛 上野 李佳子 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.282-298, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
40

本稿は茨城県常総市のきぬの里を事例に,郊外ニュータウン居住者における初詣行動について検討した.その結果,きぬの里の居住者の多くは地元外の有名な社寺を初詣対象としているものの,具体的な行動をみると,以前の初詣対象を踏襲する者が一定数存在し,そこでは前住地との近接性や明確な祈願内容,また実家とのつながりから初詣対象を選択しているなど,居住者個々において多様な行動がみられた.とくに,ニュータウンでは様々な地域からの転入者が多く居住しているという性格上,行動の多様性は顕著であると考えられる.したがって,人口移動が進行した戦後の初詣行動を解明するためには,先行研究で論点とされた氏神との関係の変化や有名社寺への初詣の集中化だけでなく,本稿で明らかにしたような多様な行動パターンについても関心を向ける必要がある.
著者
新井 悠介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

下総台地はMIS5eの高海面期に形成された木下層から構成される下総上位面が最上位の段丘面を形成する(杉原1970).MIS5eの海進最盛期の古東京湾は太平洋側に湾口が向いており,下総台地は浅海底で堆積した木下層上部砂層が広く堆積した.MIS5eの海進最盛期以降に,房総-銚子と松戸-四街道の離水軸及びバリアー島に挟まれたMIS5eの段丘の分布高度が低い印旛沼南部地域は,海退期の泥層が堆積したとされている(岡崎ほか1992).MIS5eに形成された海成段丘の高度分布の差の成因を解明することは活構造を推定するうえで重要な役割を担うが,この海退期の泥層はテフラに乏しいため上岩橋層の泥層(小島1959,杉原1979),竜ヶ崎層の泥層(青木ほか1971),木下層上部層の一部(岡崎ほか1994)と異なった解釈がされている.そこで本研究は層序関係の再検討・テフラの追跡・堆積環境の推定を行った.その結果に基づき,本発表は印旛沼南部地域に分布する泥層を木下層最上部泥層と仮称し,この地域でMIS5eに形成された海成段丘の離水期における陸化過程を報告する.<br> ①露頭観察及び地質断面図において,八街や富里では清川層の上位に木下層上部砂層が堆積する.印旛沼南部地域は木下層上部砂層と木下層下部泥層を欠き,木下層最上部泥層が清川層を覆う.地質断面図から,木下層最上部泥層は木下層上部砂層の上位に堆積すると考えられる.<br> ②木下層最上部泥層は未風化のテフラが堆積し,鉱物屈折率と全岩化学組成がHk-KmP1に類似することから対比が可能である.また,富里の木下層上部砂層最上部と,木下層最上部泥層下部はKlP群に対比可能なテフラが堆積する.<br> ③木下層最上部泥層の下部の堆積環境は,総イオウ含有量が0.3%以下と低い値を示し,汽水域に生息するヤマトシジミと淡水域に生息するマメシジミが産出することから河口域の堆積環境が推定される.一方,木下層最上部泥層の上部の堆積環境は,総イオウ含有量が0.5-1.3%と還元的な堆積環境を示すこと,含泥率が高いこと,色調が青灰色であることから内湾の堆積環境が推定される.<br> 以上のことから,木下層上部砂層はMIS5eの海進最盛期以降に離水し,印旛沼南部地域で木下層最上部泥層の分布する地域はHk-KmP1降下以降,すなわちMIS5eからMIS5dにかけての海退期に離水したと推定される.
著者
斎藤 久美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.710-723, 2005-10-01
参考文献数
27

本研究は,韓国の地方中心都市である清州市を対象とし,都市における血縁組織の形成とその変容を,村落から都市への人口移動との関連から明らかにすることを目的とした.韓国の都市における血縁組織の形成は,1960年代以降,首都ソウルに人口が集中するとともに同族集落からの転入者によって,ソウルなどの大都市に形成される動きがみられるようになった.清州市の血縁組織は,清州市への人口集中が著しくなった1970年代以降活発に形成されたという.一方,清州市の血縁組織は,1970年代に忠清北道内の同族集落から清州市に転入した経済的・社会的成功者たちを中心に,同族集落との連絡を補うために形成された.その後,都市の血縁組織は,各同族集落からの転入者を会員に迎え入れ成長したが,その中で,就職の斡旋や住居地の紹介など,転入者の都市定着支援などの役割も補う例もあった.都市の血縁組織は都市居住者が増大するにしたがって,都市住民のニーズに応じ,血縁組織が細分化されるなど,社会状況に応じて変容し続けている.
著者
小笠原 洋子 野口 佳一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.459-467, 2000-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
8

日記中の天気記録には,日記記主の主観や観測場所・時刻が明記されていないといったあいまいさが反映されている.従来,古日記を利用した気候復元では,これらのあいまいさの影響を排除して復元する方法が検討されてきた.本研究では,日記記主の主観に起因するあいまいさを包含して推定気温を示す手法を検討した.ファジィ線形回帰式を導入すると,可能性としての幅を持たせて気温の推定値を表現できる. 冬季の京都について,1カ月の降雪日数と各月の平均気温との関係を調べた.その結果, 1・2月において両者の間に高い負の相関関係が存在することが確認された.3種類の日記から得た京都の天気記録を利用して,この関係を応用した降雪日数による気温推定を行った.1856年から1865年を対象期間とし,ファジイ線形回帰式を導入して1・2月の月平均気温を推定幅を持たせて復元した.