著者
東野 史裕 進藤 正信 戸塚 靖則 北村 哲也 安田 元昭
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、腫瘍細胞で増殖し、正常細胞ではほとんど増殖しない腫瘍溶解アデノウイルスの開発を試みた。我々は、アデノウイルスの特定のタンパクを欠損したアデノウイルス(AdΔ)が、がん細胞では増殖でき、正常細胞では増殖できないことを解明した。さらに、AdΔはがん細胞で強く細胞死を誘導し、ヌードマウスに作成した腫瘍にも効果を持つことがわかった。これらの結果は、AdΔが腫瘍溶解ウイルスとして利用できることを示している。
著者
坂本 雄児
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1. 目的多視点画像の撮影システムや、3Dディスプレイなど、3次元画像の様々な収集、表示システム間の3次元データを正規化する方法の一つである波面記述法において, 以下の点を明らかにする. (1)データ間の変換法のより深い理解 : 特に、多視点画像より波面記述データへの変換, (2)実空間への応用 : 実写多視点画像より波面記述データへの変換法の検討2. 平成19年度の研究実績開発した多視点画像撮影システムにより撮影された3次元画像より任意視点画像およびホログラムによる3次元像の表示を行い、変換法が有効であることを示した。3. 平成20年度の研究実績(1)多くの視点での撮影が必要とされていた従来のアルゴリズムを発展させ、撮影点数が少なく, かつ高分解能な立体画像の波面記述データに変換する新アルゴリズムを開発。(2)撮影位置に自由度が無かったものを, 比較的自由な位置からの撮影が可能な新アルゴリズムを開発。(3)上記, (1)(2)のアルゴリズムについてホログラムによる立体表示により有効性を確認。4. 今後の課題(1)連続的な視差と奥行き情報の内在が理論的にどう解釈されるべきか。(2)提案したアルゴリズムの特性や適応限界等の理論的, 実験的検討が必要。
著者
稲場 純一
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

我々は、Cucumber mosaic virus (CMV)を改変したウイルスベクターであるA1ベクターに野生型ペチュニアV26系統のchalcone synthase (CHS)遺伝子のpromoter領域を挿入したA1-CHSproを用いて、CHS遺伝子を標的にTGSを誘導することが出来た。またA1-CHSproを用いて誘導されたTGSはこのウイルスベクターが存在しない、自殖後代個体においても維持されることが前年度の研究で明らかにした。これまでpotato virus X (PVX)ベクターなどを用いて内在性遺伝子に対するTGS誘導の試みがなされたが、成功事例は報告されていない。今回CMVベクターでは内在性遺伝子に対するTGS誘導を行うことが出来たことは特筆すべきことである。今年度は、なぜ「CMVベクターを用いて内在性遺伝子を標的としたTGSが誘導できたのか」という点に着目し研究を行った。すなわちCMVベクターが持つ2bタンパク質の役割がTGS誘導の促進に大きく関わっていると考えた。この仮説を証明するため、本研究ではプロトプラストassay systemを用いた。まずCHS promoter領域の配列に相同な二本鎖RNA(dsCHSpro)を作製した。dsCHSproと2bを同時に花弁から得られたプロトプラストに対し導入したところ、dsCHSproのみの対照に比べ、CHS mRNA量がより大きく減少し、大きなヒストン修飾の変化が観察された。つまり2bタンパク質はTGSを促進する能力を持つと考えられる。2bタンパク質は宿主細胞の核に局在する。またRNA silencingの引き金となるsmall interfering RNA (siRNA)と結合するという特徴をもつ。CMVベクターから発現する2bタンパク質がTGSを誘導するsiRNAと結合することによって宿主細胞の核への移行を促進することが明らかとなった。
著者
牧口 祐也
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

魚類の心拍変動は、代謝を最適化するために外部刺激や内的変化に対応し自律神経系により高度に制御されている。数種の動物において振動や視覚刺激により、一時的に徐脈が引き起こされ心停止が起こることが報告されている。Makiguchiら(2009)によってシロザケ(Oncorhynchus keta)が産卵の瞬間、雌で7秒、雄で5秒間心停止し、これに副交感神経が関与していることが報告された。しかし、産卵の瞬間に心停止が起こる機構に関してはほとんど明らかとなっていない。本研究ではECG(Electrocardiogram)およびDT(Depth Temperature)ロガーを用いた行動観察および自律神経系アンタゴニストを用いた薬理学的実験により、シロザケの産卵の瞬間における心停止機構を明らかにする目的で実験を行った。標津川河口で捕獲されたシロザケ雌10尾の背部にECGロガー(W400-ECG:リトルレオナルド社)、腹腔内の圧力変化を調べるためにDTロガー(M190-DT:リトルレオナルド社)を挿入し、交感神経および副交感神経の薬理的遮断効果のあるソタロール(2.7mg/kg:N=3)およびアトロピン(1.2mg/kg:N=2)、さらにコントロールとしてサーモンリンガー(N=5)を投与し、産卵行動をビデオカメラで記録し観察した。産卵行動観察終了後に、産卵床を掘り起こし、放卵された卵の数を計数した。アトロピンを投与した個体以外のすべての個体で産卵の瞬間に心停止が観察され、この結果は従来の報告と同様であった。産卵の瞬間に腹腔内の圧力は産卵前後に比べて上昇していたが、投与した薬によって腹腔内の圧力は変化しなかった。また、放卵数も投与した薬によって変化しなかった。つまり、心停止は産卵の瞬間における放卵に伴った圧力変化とは関係がない可能性が示された。
著者
清水 康行 馬場 仁志 泉 典洋 関根 正人
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.混合粒径の材料で構成された一様湾曲流路が外岸方向ヘシフトしていく過程に関する数値計算モデルの構築を行った.流路の変動とリンクする形で土砂の分級が生じ,内岸側に細流土砂が堆積することでテラス状の地形ができることを確認し,考察を行った.2.1999年8月に発生した阿武隈川洪水の後,福島盆地下流端の梁川橋付近の河川敷において現地観測を実施し洪水による高水敷上への細粒土砂分の堆積量を調べた.それによると堆積している土砂は0.1mm程度の通常はウォッシュロードと呼ばれるような非常に細かい砂であり,低水路側から堤防側に行くにつれて粒径が小さくなっていることがわかった.また堆積のピークは低水路から10m程度離れたところに流れと平行方向に帯状に分布していることが明らかとなった.これによって洪水時に輸送される浮遊砂あるいはウォッシュロードの堆積が洪水敷の発達及び川幅維持に大きな影響を与えていることが示唆された.3.混合粒径河道で、緩やかに蛇行している実河川(一級河川鵡川、穂別橋地点)において、融雪期と夏期の洪水観測を行い、掃流砂および浮遊砂の移動実態を観測した。流速についても、ADCPを用いた洪水中の観測に初めて成功し、蛇行による二次流の発生を3次元的にとらえることができた。4.粘性河岸による自由蛇行の模型実験を行い,河床および河岸材料に粘性土が混入した場合の耐侵食性および河岸侵食形態の変化について考察を行った.5.河床と河岸の両方の変化を同時に扱うことが可能な数値計算モデルの開癸を行った.計算モデルの検証は,自由蛇行の模型実験を用いて行った.この結果,計算モデルは実験結果における,河岸侵食を伴った自由蛇行の時間経過を精度良く再現可能であることが示され,砂質河道の自由蛇行を定量的に解析可能なモデルであることが確かめられた.
著者
田中 章
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

再生核ヒルベルト空間に対する標本化定理に関する理論的な解析を行った.具体的には,所与の再生核ヒルベルト空間と所与の標本点集合によって,当該再生核ヒルベルト空間に属する任意の関数が完全再構成可能となるための必要十分条件を与え,また完全再構成可能でない場合については誤差の上限を与えた.また,機械学習への適用を想定し,種々の再生核ヒルベルト空間の族に対して,標本点や採用する空間に対する解の挙動を理論的に解明した.
著者
芳村 康男 蛇沼 俊二 前川 和義
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

船体の左右に一対のフィンを船首あるいは船尾付近に装備し、このフィンの角度を効果的に制御することによって、横揺れだけでなく、縦揺れ、および船首揺れをも減少させようとする新しい統合型減揺フィンの開発をめざして研究を行い、本年度は以下の成果を達成した。1)既存の漁業調査船を供試模型船(全長:約2m)とし、フィンの取付け位置を前年度の理論検討結果を用いて、より効果的な場所に変更し、水槽実験を実施した結果、縦揺れ・横揺れの双方に有効な結果が得られた。2)上記の模型実験は、20年度と同様、船を曳航する方式で減揺性能を確認したが、最終年度にあたる21年度は、模型船に舵・プロペラを装備して模型船を波浪の中を自走させ、向波だけでなく、横波斜波中の実験を実施した。使用した水槽は(株)IHI横浜研究所の大型角水槽である。また、模型船は無線操縦によって操船を行った。この実験の結果本減用システムは、種々の波向きの航走でも有効なことが確認できた。3)上記の実験を行う中で、減用フィンが操縦性能に及ぼす影響についても調査した。その結果、船首フィンの場合は、波浪中を直進するに際して、舵角を大きくとり、やや操船しにくいが、逆に船尾フィンの場合は、保針に要する舵角も小さく、操船し易いことが明らかとなった。4)以上の実験結果から、統合型の減用フィンは船尾に装備することが望ましいことが判明した。5)上記の研究成果は総合的に評価を行い、その結果を21年度の北海道大学の修士論文1件、および卒業論文1件としてまとめた。
著者
日浦 勉 陶山 佳久 彦坂 幸毅 熊谷 朝臣 内海 泰弘 陶山 佳久 彦坂 幸毅 熊谷 朝臣 内海 泰弘
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

日本列島に広く分布するブナは光合成窒素利用効率、窒素生産力、窒素滞留時間、夏場の蒸散速度、水利用効率、リター分解速度、摂食機能群ごとの葉の食害度など様々な機能的性質に地理的な変異を持つことが明らかとなった。これらの形質は遺伝的にも固定されていると考えられることから、現在のブナ林生態系は環境変動に対してある程度可塑的に応答するものの、温暖化など急速な変化に対しては脆弱な側面もあると考えられた。
著者
高見 勝利
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

この2年間、国立国会図書館憲政資料室所蔵の入江俊郎および佐藤達夫の両文書から採取した日本国憲法制定に関する原資料をほぼ時系列的に整理し、全15巻(第90回帝国議会議事録等を含む)の資料集にまとめる基礎を固めることが出来た。また、憲法問題調査委員会の調査資料についても、これまで公刊されていない会議議事録を含め、第1巻の資料集を公刊することが出来た。更に、それと関連して、憲法問題調査委員会委員であった宮沢俊義の私蔵文書(現在,立教大学法学部図書室で保管)から、上記、入江・佐藤の両文書において欠落している資料を採取することができた。この作業の中で、日本国憲法判定前後において、宮沢が東京帝国大学法学部で行った講義および講演等の草稿を入手し、また、当時、宮沢の憲法講義を聴講された五十嵐清北海道大学名誉教授、芦部信喜東京大学名誉教授からも1944年度および1946年度の講義ノートの提供を受け、雑誌論文としてまとめることができた。本研究のまとめとして、1998年3月23日、九州大学大学院比較文化研究科主催の九州大学比較文化研究会(責任者横田耕一教授)において、「憲法制定過程において入江俊郎と佐藤達夫の果たした役割」と題した報告を行い、二年に及ぶ本課題の研究活動を終了した。なお、資料の整理は本課題研究終了後も継続し、現在、資料集第2巻について、第二校の段階にあり、資料解題を付し、本年中に刊行する予定である。
著者
櫻井 義秀 土屋 博 櫻井 治男 稲場 圭信 黒崎 浩行 濱田 陽 石川 明人
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

社会貢献活動を行う宗教団体・宗教文化の特徴を比較宗教・比較社会論的視点から明らかにする調査活動を実施し、共生・思いやり・社会的互恵性・公共性の諸理念を形成することに宗教の果たす役割があることを明らかにした。その成果の一部は稲場圭信・櫻井義秀編『社会貢献する宗教』世界思想社、2009年で明らかにされ、分担・協力研究者たちの研究により、宗教と社会貢献の関連を研究する研究分野を宗教社会学に確立した。
著者
笹谷 努 高井 伸雄 鏡味 洋史 笠原 稔 安藤 文彦 早川 福利
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

都市部での地震観測において,そこでの人工ノイズを避けるためにボアホール地震観測が必要なことは広く認識されている.しかし,大きな問題は,その設置にはボーリング掘削等に多額の費用を要することである.本研究は,その問題を回避するために,既存の深層井戸(500m以深)を利用したボアホール地震観測システムの開発とその実用化を目指したものである.平成12年度の研究においては,ボアホール地震計を鉛直に設置するために,以下の開発を行なった:(1)二重ケーシングと井戸孔底の特別仕上げ方法,(2)ケーシングを伝わる地表からのノイズの除去方法(免震機能),(3)それに対応した地震計の開発.二重ケーシング構造は,井戸本来の目的を損なうことなく地震観測を行なうために考案された.また,地震計は,既存の井戸の孔底にさらにボーリングした孔に設置される.平成13年度においては,本システムの性能チェックとそれによるデータを基に以下の研究をすすめた.(1)本研究で開発されたシステムが正常に作動していることをチェックするために,本システムによる記録と札幌市が市内に展関している3点のボアホール地震観測による記録とを比較した.微動記録と震度2の記録について比較し,本システムが正常であることを確認した.(2)札幌市と本研究による全部で6点のボアホール地震観測点と郊外2点の地表地震観測点のデータを用いて,札幌都市域直下の最近4年間の微小地震活動について調べた.その結果,北西-南東方向に線状に配列した震央分布を得た.(3)地表とボアホール地震記録との比較から,堆積層による増幅特性について研究した.その際に,PS検層の行なわれていなかった地層についてS波速度を推定した.本研究により,既存の深層井戸を利用したボアホール地震観測システムの開発・実用化に成功したと言える.
著者
亀田 達也 結城 雅樹 中島 晃 ウェア ポール
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

「人間の共感能力とは何か」という問いは、人文・社会科学の共通の根本問題であると同時に、進化生物学などの自然科学領域にもまたがる巨大な問いであり、社会的存在としての人間を理解する上で極めて重要である。本研究では、「原初的共感」という人間の基礎的な感情作用に着目することで、「高次の共感」、「感情の本質的社会性」といったより大きな問題群を考究可能にするための、概念的な整備を体系的に行った。3年間にわたる研究を通じて、二者間での感情の同期化に関する理論構築に力を注ぎ、表情模倣と呼ばれる現象の特定に成功した。表情模倣とは、ターゲットの感情的な表情表出を、受け手が自分の表情表出に引き受ける(再現する)現象を指す。この現象については、母子間の表情模倣に関する古典的な研究が存在するものの、非血縁の成人間の模倣については断片的な知見の蓄積に留まっており現象の再現性やその規定因はほとんど明らかにされていない。本研究では、表情模倣現象が相手の感情理解のための機能を有するという作業仮説を立て、顔筋の活動電位(EMG)を計測することで一連の検証実験を行った。実験の結果は、この仮説をおおむね支持するものであった。これらの知見は、「原初的な共感」のエンジンとしての表情模倣現象の重要性を示唆するもので、人間の共感能力の理論化に向けて有意義な出発点となる。
著者
三枝崎 剛
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

符号,格子及び頂点作用素代数について,組合せ論の立場から考察し,研究を行った.格子から構成される球面デザインの非存在を証明した.球面t-デザインとは,球面上の有限集合で,ある条件を満たすものである.一般に,t-デザインならば(t-1)-デザインになり,高いtのt-デザインを見つけることが,目標である.例えばE8格子の原点から等距離にある点集合は,球面上に存在しており,その集合は,7-デザインになっている事が知られている.では,8-デザイン以上になるか否かは,非常に興味ある問題である.ここで,非常に面白い事に,この問題は数論で古くから未解決である,レーマー予想と同値になっているのである.今年度,特別なの2次元整数格子に対して,デザインの非存在を証明出来た.具体的には,2次元整数格子は虚二次体の整環とみなす事が出来るが,類数1,2の整環に対応する格子に対して,デザインの非存在を証明した.4次直交群の有限部分群から構成される球面t-デザインのtの値を決定した.直交群の有限部分群の軌道は,自然に球面上に存在していると考えられるが,そうして構成されるt-デザインの,tの値は余り高くならない事が予想されている.この予想を確認するべく,今回は,最近になって分類が完成した4次直交群の有限部分群全てに対して,t-デザインとなるtの値を決定した.共形デザインの非存在を証明した.近年,頂点作用素代数(以下VOAと略す)上に共形t-デザインという概念が定義された.例えば頂点作用素代数の最も重要な例である,ムーンシャインVOAは,共形11-デザインを構成する事が知られている.更に,球面デザインの時と同じく,12-デザインになるか否かは,レーマー予想と同値になる.研究代表者は,自由ボゾン型VOAに関して,デザインの非存在を示した.更に,格子VOAに関しても,非存在を示すべく研究中である.
著者
平野 高司 文字 信貴 鱧谷 憲 町村 尚 高木 健太郎 岡田 啓嗣
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

北海道苫小牧市のカラマツ林を対象とし,現地での連続観測およびデータの解析を行なった。2001〜2003年の3年間の結果をまとめた結果,CO_2交換量の年積算値の平均(±標準偏差)は,純生態系生産量(NEP),総生態系生産量(GEP),生態系呼吸量(RE)でそれぞれ499±26,1595±65,1095±52gCm^<-2>y^<-1>と推定された。また,REがGEPに占める割合は67〜70%であった。このように,CO_2交換量の年積算値における年次差は比較的小さかったが,季節変化には大きな違いが認められた。特徴的なのは,2002年のGEPであった。この年は冬から春にかけて気温が高かったため,融雪と開葉が他の年より2週間ほど早く,光合成も早く始まった。しかし,2002年の夏期はP_<max>が小さく,PPFDも低かったため,GEPが他の年より小さくなった。結果として,成長期間が長いにもかかわらず,2002年のGEPは他の年より小さくなった。2002年におけるP_<max>低下の原因として,多雨による光合成酵素(Rubisco)の損失や早期の開葉による窒素利用効率の低下が考えられた。なお,2003年7月の気温は他の年より2〜3℃低かったが,GEPが減少することはなかった。低温は大気飽差を低下させ,結果としてGEPを増大させた。成長期間の土壌水分は0.2〜0.4m^3m^<-3>で推移したが,土壌水分の変化がGEPやREに大きな影響を与えることはなかった。カラマツ人工林は,北海道や世界の他の森林と比べて高い炭素固定能力を示した。これは,冷温・湿潤・多雨な気候により,カラマツの持つ高い生産能力が維持されるためであることが示唆された。
著者
覚幸 典弘
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度において,ヘルムホルツ分解定理に基づく動画像のフロー推定法を実現した.従来手法では,過去に推定された動きの推定誤差が現時刻の動きの推定精度を低下させる問題が存在した.そこで提案手法では,ヘルムホルツ分解定理に基づくパーティクルフィルタを新たに導出することで,従来手法の問題を解決し,高精度な動き推定を可能とした.その成果を,信号処理の分野において世界最大規模の国際会議であるICASSP 2009(IEEE International Conference on Acoustics, Speech, and Signal Processing)で発表した.さらに,本手法の気象データへの適用を行い,北海道大学およびソウル大学共催のジョイントシンポジウムで報告した.また,本研究課題とは別の研究ではあるが,グローバルCOE異分野共同「新種探索プロジェクト」に参加し,SVDDに基づく顕微鏡画像解析法を実現した.画像処理を用いて顕微鏡画像の解析を行うことは,これまで実現されておらず,それを可能とした提案手法は,独創的であるといえる.そして,その成果をGCOEのシンポジウムおよびワークショップで報告した.最後に,これまで実現してきた自己相似性および回転・発散に基づく画像モデルを博士論文にまとめ,北海道大学情報科学研究科における論文審査において発表を行うとともに,博士(情報工学)の学位を与えるに相応しい成果であるという評価を頂いた.
著者
渡邊 陽子
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は、前年度に選定した北海道内のエアロゾル濃度の異なると思われる地域(都市中心部、都市郊外および冷温帯林)における樹木に対するエアロゾルの影響を明らかにするために、エアロゾル濃度の測定および測定地域に生育する樹木の葉に対する影響について分析を行なった。エアロゾル濃度測定はフィルターパック法を用いて分析を行なった。その結果、都市中心部よりも冷温帯林ではエアロゾル濃度が低いことが明らかとなった。さらに、越境大気汚染物質の1つであるブラックカーボンについても葉面沈着量の分析を行ない、その結果、都市部で最も高く、冷温帯林で最も低かった。都市域におけるエアロゾルやブラックカーボンは都市内部に発生源が存在するが、冷温帯林については近くに発生源がないため、越境大気汚染物質由来であると考えられる。エアロゾルによる樹木への影響を明らかにするために、エアロゾル測定地域に生育するカバノキ属(シラカンバおよびダケカンバ)を選定し、着葉期間中に葉を定期的に採取し、SEM-EDXにより葉の表面に付着している粒子の顕微鏡観察および元素分析を行なった。その結果、都市中心部では葉に影響を及ぼすことが報告されているエアロゾル粒子が付着していることが明らかとなった。また、都市郊外では燃焼起源と考えられる粒子も観察された。これらの粒子は都市内部から発生したエアロゾルが付着したと考えられる。一方、冷温帯林の試料では土壌粒子が多く付着していたが、植物に影響を及ぼすと考えられる粒子は観察されなかった。また、各地域の供試木の葉のクロロフィル濃度を測定したが、地域による違いはみられなかった。本研究の結果から、北海道内では越境大気汚染物質由来のエアロゾル粒子が樹木の葉に付着していることが確認されたが、現時点では樹木への影響はみられないことが明らかとなった。
著者
金子 勇 高野 和良 園部 雅久 森岡 清志
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

高齢化の研究では、高齢者の所得、健康、職業、定年退職などが主な分野として焦点を受けてきた。加えて、日常生活におけるQOL(生活の質)の重要性とコミュニケーション能力の荒廃についての解決策が問題になる。ミクロ社会学に強く志向してきた高齢化研究に、私たちはマクロ社会学のパラダイムを導入する時期だと考えて、それを実践した。現代日本には6種類の「高齢者神話恐怖症」があるように思われる。すなわちそれらは、(1)65歳以上はすべて老人である。(2)大部分の高齢者は健康を損ねている。(3)高齢者は若い人々に比べると理解がのろい。(4)高齢者は非生産的な存在である。(5)高齢者は魅力に欠け、性的な関係に乏しい。(6)すべての高齢者はほぼ同じである。しかしながら、これらの「神話」は私たちの具体的な調査結果では否定されている。ライフコース理論の観点からは、縮小する活動や相対的な責任の喪失に伴って高齢者の役割が僅かなものになることは否定されるわけではない。私たちの調査研究の諸データによれば、高齢者の主観的な生きがい満足感は、ほとんどが高齢者自身の集団選択に依存している。要するに、高齢者が友人、知り合い、諸集団への関係をもてばもつほど、60歳以降に惚けることはほとんどないのである。換言すれば、人間関係面への先行投資や社会システムそのものに参加することは、高齢者にとって健康という利息を確かなものにする。適切な関係を保つことは当然に重要であり、高齢者の健康を促進するためにも、毎日の生活において、ラジオ体操をしたり、ウオーキングやジョギングやカラオケで歌ったりしつつ、社会システムとの多方面での関連をもつように努力することが重要なのである。
著者
森本 裕二 MARSOLEK Ingo
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

人工呼吸に特化している医療法人井上病院におけるリスクマネージメントの現況の人間工学的分析を行った。トップダウン式の管理方法ではなく、ボトムアップ方式による安全管理が行われているかどうかを検討した。スタッフレベルによる勤務交代ごとの人工呼吸器チェックリストによる確認の徹底、インシデント・アクシデント発生時の速やかなレポートとその提出頻度を調査した。チェックリストマニュアルに従った点検は守られており、リスクマネージメント会議における、インシデント・アクシデントレポートの提出数も20-30/月と、約60床の人工呼吸器病棟からの提出頻度としては高いものと考えられた。また、インシデント・アクシデントレポートの情報も会議および院内LANにより情報開示されていた。人工呼吸関連肺炎を予防するための、気管吸引マニュアルの整備、積極的監視培養(active surveillance culture)がスタッフレベルで実施されていた。標準感染予防策(standard precaution)の徹底は医師・看護師のみならず患者介護に関与する看護助手にも浸透していた。業務プロセスの改善に関しては業務改善委員会を通じて、温度板の大幅な改訂が行われ、看護師の記録記載業務の効率化が図られると同時に、物品請求業務と連動し、請求漏れの防止効果も見られた。この温度板改訂も委員会で作成したプロトタイプを現場の病棟スタッフが実際に試用し、意見を委員会にフィードバックし、改訂を重ねるボトムアップ方式が取られていた。MRSA・多剤耐性緑膿菌の保菌患者は3年前に比べ減少していた。抗生物質の使用量も減少しており、ボトムアップ方式の感染管理が効果を挙げていると考えられた。北海道大学病院においては麻酔科による術前評価外来でのプロセス分析を施行した。外科系病棟から術前外来への患者・資料の流れは必ずしも効率的とは言えず、時間分析において不要な待ち時間が多いことが判明した。今後、北海道大学病院での改善材料となるものと思われた。
著者
飯田 浩二 康 燉赫
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究課題である"計量魚群探知機を用いた日本海におけるスルメイカの資源量推定の高精度化に関する研究"の2段階目として,平成15年4月から平成16年3月までの研究進行状況および概要を以下に述べる。1.2003年6月,北海道の南西海域である奥尻島周辺において,北海道大学練習船うしお丸搭載の38,120,200kHzセンサーにより,スルメイカの音響データを収集した。3周波数で得たデータは,周波数別のスルメイカの音響散乱特性を基準として,エコーグラム中でスルメイカのみを抽出するために,2周波数間の体積散乱強度差法を利用して,分析用である。2.2003年7月,北海道大学野外実験場において,18個体の生きたスルメイカを利用して,27時間,自由遊泳状態の遊泳角度を測定した。この測定結果は,スルメイカのTS算出および現場での音響データ解析における重要なパラメータとして適用可能であろう。また,外套長15-19cmの生きたスルメイカのTSを,70,120kHzのセンサーを用いて,姿勢角と共に測定した。3.2003年11月,"time of flight method"によりスルメイカ体内の音速を,重量と体積から密度を測定した。また,超音波カメラを利用して,スルメイカ体内の構造を観察した。この実験結果は,スルメイカTS推定のための音響散乱モデルにおける重要なパラメータとして利用可能である。4.2003年12月,韓国麗水大学の海水水槽において,麻酔したスルメイカを用いて,姿勢角変化に伴うTSの変化を,38,120kHzのセンサーにより測定した。生きている状態での実験はTS備に偏りがあるため,任意の角度でスルメイカを固定して得た正確なTSは,自由遊泳状態のTS実験結果を補充できる。全般的に事前に計画した実験は実施したが,生きたスルメイカを扱わなければならないため,海上実験において多くの資料を得るのが困難であった。平成16年には1,2年目に得られた資料の不足分を補充し,得られた資料から研究結果報告書および論文を作成する予定である。