著者
吉原 直毅
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.373-401, 2003-12-16

経済的資源配分の公正性の問題(分配的正義論)に関する、社会的選択理論と厚生経済学を軸とした理論経済学的なアプローチの近年の展開を概観する。分配的正義に関する従来の支配的見解は、人々の主観的効用の達成度の均等性を要請する「厚生の平等」論であった。対して、人々の主体的責任の問われ得る選択の結果とは見なし得ないような、天賦の才能や資質の格差に起因する、配分上の社会的格差への是正を動機とする「資源の平等」論を提起したのが、ロナルド・ドゥウォーキン(1981b)である。本論は、ドゥウォーキンの「資源の平等」論を、ミクロ経済理論と公理的交渉ゲーム理論の分析装置を用いて公理体系として定式化し、かつ批判したジョン・E・ローマーの研究、ドゥウォーキンの「資源の平等」論以降の政治哲学における分配的正義論の一潮流となった「責任と補償」アプローチを、ミクロ経済理論の分析装置を用いて公理体系として定式化し、その隠れた含意を明示化する事に貢献したマーク・フローベイやウォルター・ボッサール等の研究を概観し、その意義についてコメントする。
著者
吉原 直毅
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.63-98, 2006-11-29

アナリティカル・マルクシズムの,数理的マルクス経済学の分野における労働搾取論に関する主要な貢献について概観する。第一に,1970年代に置塩信雄や森嶋通夫等を中心に展開してきたマルクスの基本定理についての批判的総括の展開である。第二に,ジョン・E・ローマーの貢献による「搾取と階級の一般理論」に関する研究の展開である。本稿はこれら二点のトピックに関して,その主要な諸定理の紹介及び意義付け,並びにそれらを通じて明らかになった,マルクス的労働搾取概念の資本主義社会体制批判としての意義と限界について論じる。
著者
清藤 秀理
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

本年度は、以下の2項目について行った.1.スルメイカ漁業の環境影響評価手法の開発スルメイカ漁業は、夜間に集魚灯を使用する漁法である.この集魚灯には、光量規制が行われているが、発電のための使用重油量や排出二酸化炭素量について明らかとなっていない.そこで、スルメイカ漁業が周辺環境に与える影響を評価する第一段階として、夜間可視衛星画像と現場レーダー観測から、北海道南西海域におけるスルメイカ漁業の使用重油量と排出二酸化炭素量の算出を行った.その結果、2003年7月23日の北海道南西海域には、約315隻のスルメイカ漁船が漁業活動を行っており、使用重油量は、約189.000リットル、排出二酸化炭素量は、約509.9トンであった.また、同様の方法を用いて、7月の北海道南西海域における排出二酸化炭素量を算出した結果、約21400トンであった.これは、2001年度二酸化炭素量運輸部門の約0.03%を占めており、スルメイカ漁船が排出する二酸化炭素量は決して少なくない結果を示した.今後、スルメイカ資源の持続的利用と周辺環境への影響を考慮に入れた漁業開発が必要である.2.海色衛星データに基づく日本海におけるクロロフィルa分布の時空間特性日本海におけるスルメイカ漁場の予測を行う第一段階として、生態系の底辺に位置する植物プランクトンに含まれるクロロフィルa分布の時空間特性を海色衛星Orbview2/SeaWiFSデータを用いて調査した.従来、植物プランクトンの動態を明らかにする方法として、生態系モデルと海流モデルとを組み合わせて研究が行われてきた.しかしながら、それらは決定論的な方法であることから、モデル結果の解釈には慎重な議論が必要不可欠である.そこで、本研究では、それらの方法論とは異なる時系列解析を応用した時空間統計モデルを開発し、適用した.時空間統計モデルは、時点t毎に任意の空間上の点の変動が真北より45度毎の異なる4つの方位毎の線形結合によって表現されるものとみなしてモデルを定義した.その結果、春季ブルームのような変化の激しい時期の再現が難しいことが示唆された.逆に、変化の顕著でない時期の再現は概ね成功し、今後、春季ブルーム期の再現を可能にするモデルの開発が課題として残った.
著者
柳町 智治 岡田 みさを
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本科研調査では、日本語の「学習」を「学習者と周囲とのコミュニケーションが環境中の様々なリソースに媒介され変容していくプロセス」として捉え、目本語の使用、学習といった実践のあり方を「具体的な文脈に属する複数の人間、道具のやりとりのダイナミクス」と見なし再考した。具体的には、第二言語話者あるいは日本語母語話者が日常的な実践を行っている場面(理系大学院における実験場面やボクシングの練習場面)をとりあげ、そこで見られるインタラクションをビデオデータの微視的な分析やフィールド調査を通じて詳細に記述、分析するということを行った。その際、(1)人の行動がその場の言語、非言語行動、人工物の使用といったマルチモダルなリソースの並置を通してどのように成し遂げられているのか、(2)何かを学習するということをその文脈で特有のものの見方(professional vision)を学ぶことと捉えた場合、個々の文脈においてそうした「vision」が当事者たちによってどのように提示されその理解が達成されているのか、の2点を分析考察の中心とした。日本語によるインタラクションを「マルチモダリティ」および「vision」の視点から考察した研究はまだほとんど行われていないが、3年間の本プロジェクトでは、日本語第二言語話者と日本語母語話者の相互行為が当該文脈においてどのように成し遂げられ、組織化されているのかの一端を具体的なインタラクションの分析を通して明らかにした。
著者
深港 豪
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究課題では、真の単一分子デバイスの実現に向けて、情報を読み出す光とスイッチを行う光刺激がそれぞれ独立に作用する "非破壊読み出し"機能を有するフォトクロミック蛍光スイッチング分子の開発をめざした。紫外領域でのみフォトクロミズムが起こる不可視型ジアリールエテン分子を開発し、その不可視型ジアリールエテンと蛍光色素を連結した分子を用いることで、分子内電子移動を利用した可逆的な蛍光スイッチングおよび完全な非破壊読み出しが達成できることを実証した。
著者
小崎 完 水野 忠彦 大橋 弘士
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

申請書の研究計画・方法に従い、購入機器のセットを行い、あわせてそれらを一括制御するためのコンピュータプログラムを作成し、電解研磨中の電流あるいは電位変動の連続的な測定記録を可能するシステムの構築を行った。つぎに、このシステムを用いて、放射性腐食生成物を模擬した酸化皮膜を形成した304ステンレス鋼を燐酸溶液中で定電位電解研磨した際の電流変動の観察を行った。この場合、燐酸濃度は28vol%とし、ステンレス鋼はあらかじめ電気炉において600℃で一定時間酸化させたものを用いた。電解研磨の際に観察された電流変動スペクトルを、最大エントロピー法(MEM)によって解析した結果、0.01Hz〜10Hzの周波数範囲で、比較的再現性のある周波数スペクトルが認められた。特に、0.1Hz〜10Hzの周波数範囲においては、両対数グラフ上で直線関係を示し、その傾きが-1から-4となった。この傾きは電解研磨開始直後には比較的高い値を示すが、研磨が進行するにつれて徐々に-3以下の低い値に落ち着く傾向のあることを見い出した。それらの傾きと測定電流値の平均あるいは分散値との相関については今後の課題である。以上の観点から、電解研磨除染時の電流変動を観察しその周波数スペクトルの傾きに着目することにより、除染進行状態をモニターできる可能性が認められた。ただし、現段階においては、ステンレス鋼試料上の酸化皮膜の厚さ、撹拌、温度、電解液濃度などのパラメーターについて十分に把握していないので、今後これらについてのデータを精力的に収集するとともに、従来用いられてきた除染条件の再評価及び最適除染条件の提案を行う。
著者
吉田 邦彦 早川 和男 人見 剛 池田 恒男 今野 正規
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

震災、水害、火山活動などの各災害における被災者の災害復興政策において、住宅補償・生業補償の否定という従来からの負の遺産による居住福祉法学的配慮の手薄さは、比較法的考察からも先進諸国でも群を抜いて目立ち、災害救助法及び被災者生活再建支援法の現状では問題は山積し、さらに原発リスクにおける安全性チェックの制度的陥穽は事態を深刻化させることを、3.11以前に指摘したが、そうした中で東日本大震災が生じ、危惧が的中し、かつその後の災害復興における居住福祉法学的配慮のなさを指摘している。
著者
眞柄 泰基 大野 浩一 亀井 翼
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、札幌市の水道水源である豊平川流域で発生する自然由来の有害無機物質の水道・下水道という都市水循環システムにおけるフローを定量的に把握し、リスク管理限界を明らかにすることを目的とした。豊平川上流部の河川調査により、ヒ素、ホウ素の河川への負荷量のほとんどを定山渓の温泉水(平均濃度:ヒ素3mg/L、ホウ素37mg/L)が占めており、温泉から直接河川に流入するヒ素及びホウ素の平均負荷量は、それぞれ一日21kg、245kgであることが明らかになった。ヒ素の形態別分析により、温泉水中のヒ素はその90%以上が毒性の強い3価の無機ヒ素であった。温泉流入後の河川水中のヒ素は、3価が約22%であった。豊平川を水源としている浄水場の調査より、凝集沈殿-中間塩素処理-砂ろ過においては、原水中で5価の状態であるヒ素しか除去できず、また原水の濁度を指標としたような凝集剤注入量では溶解性5価ヒ素除去には不十分であることが明らかとなった。一方ホウ素は全く除去されず浄水場でのリスク低減は望めない。水道原水として浄水処理システムに取りこまれるヒ素量は一日約7kg強であり、処理により汚泥に移行する量が6kg近いことが把握できた。水道水由来の下水に流入するヒ素量は一日平均1.6kgと試算されたが、実際の下水中のヒ素量は一日約5kgであることが明らかとなり、下水の詳細な調査により、このヒ素量の増加はヒ素を含んでいる地下水が下水管に浸透したことによる可能性が高いことが明らかになった。また、ヒ素を含んだ定山渓温泉街の排水を受け入れている下水処理場の汚泥由来のヒ素量は、札幌市全体の下水汚泥由来のヒ素量の約75%も占めており、ヒ素含有量の低い他の処理場の汚泥と混合され焼却処理されていることから汚泥の有効利用を困難にしていると言える。
著者
金子 純一 藤田 文行 本間 彰
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

今年度は前年度良い結果の出たリフトオフ法を北海道大学に導入することを第一目標として研究を行った。Ib型基板を使用して連携研究先である産業技術研究所と同一の合成条件でCVD単結晶の合成を行った。合成した試料をリフトオフ法により自立膜化した。さらに化学処理ならびに電極製作を行い、検出器とした。製作した検出器に対してI-V測定、α線応答測定を行った。十分な印加電圧がかかり、α線に対して16%程度ではあるがピークの立つ応答を示す検出器の製作に成功した。今後、高品質基板を使用し、合成条件の最適化を進め実用的な人工ダイヤモンド放射線検出器の実現を目指す。また合成した結晶中の電荷捕獲準位を同定するための積極的電荷捕獲を利用した光I-V測定法の改良をすすめ、ある程度信頼性のあるデータが取得できる状況に達した。
著者
齊藤 晋聖
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

光ファイバのクラッド領域に微細構造を有する微細構造光ファイバにはいくつかの種類が存在するが、本研究では、ソリッドコアフォトニックバンドギャップファイバの有する特異な光学特性に着目し、その複雑な構造パラメータと光学特性との関係を詳細に調査し、高度利用のための基盤技術を確立した。特に、コア径拡大と単一モード動作、および低曲げ損失特性の両立という観点から、複数のバンドギャップにおける光学特性を総合的に評価し、大コア径ファイバとしての最適な透過帯域(フォトニックバンドギャップの次数)を明らかにするとともに、ファイバ製造上の構造制御技術、およびファイバ使用時のコイル径等を考慮に入れたコア径拡大の理論的限界を特定した。
著者
鏡味 洋史 鈴木 有 宮野 道雄 岡田 成幸 熊谷 良雄 中林 一樹 大西 一嘉 多賀 直恒
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

本研究では地震災害事象について発災を出発点とし、緊急対応、復旧対応、復興、そして次の災害に対する準備に至る時系列の中で、対象としては個人・世帯を出発点とし、地域社会、地域行政体、国、国際に至る空間軸でできる限り広く問題設定を行った。個別の災害情報管理の問題を情報の受信者である被災者・被災地の側からのアプローチと情報発信側となる行政体など各組織・セクターからのアプローチで展開し、情報管理のあるべき姿、ガイドライン構築を目指した。各分担課題は、全体の枠組みを整理するもの、情報システムの視点を被災者側におく課題、視点を対応組織の側におく課題の3種類に区分してすすめ、最終年度には研究の総括を行った。被災者側の視点からは、被災者の住環境からの情報ニーズの把握、災害弱者を対象とした情報伝達・収集システムの提案、郵便配達システムを活用した情報システムの提案、地域の震災抑制情報の有効性、住民主体の復興まちづくりにおける情報ニーズの把握がなされた。対応組織の側からは、地方行政体による被災情報の収集状況に関する時系列モデル化、地震火災については消防活動訓練システムの構築、災害医療情報については阪神・淡路大震災の事例を分析したシステム化の方向、ライフライン停止に伴う生活支障を計量化の提案、都市復興期における情報の役割、が明らかにされている。各課題では、既往の地震災害に基づく情報ニーズの整理、それに基づく情報管理のあるべき姿の提示、プロトタイプシステムの提案へ統一した形で進めた。課題によっては、問題の大きさ、複雑さなどにより到達度の差は大きいが、大きな方向を示すことができたと考えている。本計画研究は単年度の申請であるが継続して4年間研究を行い、最終年度には報告書の刊行を行った。
著者
島村 英紀 SELLEVOLL Ma EINARSSON Pa STEFANSSON R 末広 潔 金沢 敏彦 塩原 肇 RAGNAR Stefansson MARKVARD Sellevoll PALL Einarsson MARKVARD Sel PALL Einarss RAGNAR Stefa 岩崎 貴哉
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

大西洋中央海嶺は、いまプレ-トが生まれている場所である。アイスランドは、その海底山脈がたまたま島になったところである。海嶺については、いままで精密に地下構造が調べられたり、地震活動が詳しく調べられたことはなかった。たとえば地震活動については、何千キロメ-トルも離れた陸から中央海嶺に起きる地震を研究するのが唯一の手段だった。一方、日本の海底地震計は小型軽量で高感度に作られており、数十台という多数の海底地震計を投入する結果得られる、従来よりもはるかに精密な微小地震活動の研究と、精密な三次元地下構造の透視など、地下構造の研究についても、他国をリ-ドしている。このように中央海嶺付近は、その地球科学的な重要性にもかかわらず、いまだ、精密な観測のメスがはいっていなかった。今回の研究は中央海嶺上にあるアイスランドという希有な場を足がかりにして、世界でも初めて成功裏に行われた海底地震研究である。大量のデ-タが得られたために現在まだ解析が続いているが、画期的な成果が得られつつある。具体的には1990、1991の両年とも日本から約20台という大量の海底地震計を運び、アイスランド近海で高感度の海底地震群列観測を行った。同時にアイスランド陸上には臨時に十数点の高感度地震観測点を設置して海と陸、双方から地震を追った。1990年夏には、アイスランドから南西に伸びるレイキャヌス海嶺で長さ150キロ、幅40キロにわたる海域に18台の海底地震計を展開した。観測にはアイスランド気象庁とレイキャビック大学の全面的な協力が得られ、また海底地震計の設置と回収にはアイスランド側の全面的な協力を得て、同国の海上保安庁の船が借りられた。また設置した海底地震計の近くでは、同国のトロ-ル漁業を一カ月の観測期間中、遠慮してもらった。このため海底地震計すべてを順調に回収出来た。この観測の結果、微小地震は海嶺軸に沿ってだけ分布しており、その幅はわずか5キロメ-トル以下であることが分かった。海嶺の両側では全く地震は発生していないことも分かった。そして微小地震は海嶺軸に沿って一様に分布しているのではなく、地震活動の高いところと低いところが発見され、しかも過去の海底火山地震活動との関連が明らかになった。一方、微小地震の震源の深さは、海嶺軸から鉛直下方に伸びているのが分かり、しかもその深さは地下12キロメ-トルまで伸びていることが分かった。従行、海嶺軸下でプレ-トを生むマグマ活動がどのくらいの「根」の深さを持っているかはナゾであり、漠然と2、3キロメ-トルに違いないと考えられていたが、今回の研究によって、海嶺の「根」はずっと深いことが初めて明らかにされたことになる。また一カ月の地震観測期間中、二度にわたって群発地震が捉えられ、そのいずれもがごく細い煙突状の筒の中を震源が移動したことも確かめられた。このような海嶺の群発地震の詳細が捉えられたのも世界で初めてである。1991年にはアイスランドの反対側、北側で海底地震観測を行った。この海域は新しいプレ-トを生んでいる大西洋中央海嶺が、複雑で百キロメ-トル以上もの幅にひろがったトランスフォ-ム断層をなしているところで、世界的にも地球科学の大きなナゾを残している場所である。このアイスランド北側から北大西洋にかけての大西洋中央海嶺で21台の海底地震計と約15台の陸上地震観測点が連携した微小地震観測に成功した。全ての地震計は無事に回収された。また、地下構造を研究するための人工地震実験も行って、従来ナゾだった地下構造を調査した。デ-タは現在、解析中である。この両年度の研究で、従来の地震観測では把握することのできなかったアイスランド周辺の大西洋中央海嶺で何百個という微小地震を捉えることが出来て、地震活動がはじめて精密に分かり、また未解明だった地下構造が知られた。捉えた地震のマグニチュ-ドは1とか2とかの微小地震である。また、アイスランドの南北で明瞭に違う大西洋中央海嶺のそれぞれの活動について、世界でも初めての詳細な知見を得ることが出来た。
著者
田中 伸哉 西原 広史
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

これまでの研究で、アダプター分子Crkの癌化における役割を解析し、癌腫、肉腫、脳腫瘍など様々なヒト癌細胞株を用いてsiRNA法にてCrk knockdown細胞株を樹立した。何れの種類のCrk knockdown細胞においても、接着能、浸潤能、足場非依存性増殖能、in vivo造腫瘍能など、癌細胞の悪性化を示す指標に、著明な減少がみられ、Crkはヒト卵巣癌、軟部肉腫、脳腫瘍において、悪性化に必須の分子であることが明かとなった(Oncogene, 25,2006 : Mol.Cancer Res., 7,2006)。また、Crkの癌化におけるシグナル伝達メカニズムを詳細に解析するために、NMRを用いた構造解析を行い(Nature Struct.Mol.Biol., 2007)、昨年度は、Crkのシグナル伝達を抑制する薬剤開発する前段階として、単一の遺伝子変化に対応する薬剤スクリーニングの系を確立した(BBRC,373,2008)。この系を用いてCrkを発現させたアストロサイトに対して、dual luciferase assayを行い96wellプレートで薬剤をスクリーニングして、Crkシグナル阻害薬を同定した。以後の研究では、真にCRKシグナルを抑制する薬剤か否かを個別に判定していき臨床応用可能か否かをin vivoの系で解析していきたい。また、今年度の研究において癌細胞の浸潤能にはシグナル伝達アダプター分子CRKが必須であることが判明しているが、CRKによるGab1のY307のチロシンリン酸化制御が重要であることが明らかとなっていたが、本年度の研究ではY307F変異体により細胞接着斑の形成異常が誘導されることが明らかとなった(Watanabe, et al.Mol.Cancer Res., 2009)。さらにCrkはDock180を介して細胞の運動を制御するが、その際にDock180結合蛋白であるElmoのりん酸化が必要であることが判明した。
著者
小野江 和則 岩渕 和也 小笠原 一誠
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

NK-T細胞の分化と機能について研究を行った。先ずリンパ節、パイエル板を欠くaly/alyマウスにおいて、NK-T細胞の分化障害があり、これはaly/alyマウスの胸腺構築異常に起因することを、骨髄キメラを用いて初めて明らかにした。次に、NK-T細胞がVα14を発現しないTCRトランスジェニックマウス(DO11.10)においても産生されること、これらはクローン消去、及びアナジーによるnegative selectionを受けることを明らかにした。さらにNK-T細胞の分化にはチロシンキナーゼのZAP-70の存在が必須であることを明らかにした。また、ZAP-70ノックアウトマウス胸腺には、NKl.1^+TCRαβ^-細胞が増加しており、これらをPMAとイオノマイシンで刺激するとVα14NK-T細胞に分化することを明らかにした。従ってZAP-70ノックアウトマウスのNKl.1^+TCRαβ^-細胞は、NK-T細胞の前駆細胞であることが判明した。さらにaly/alyマウスにおけるNK-T細胞分化欠落の原因を明らかにする研究を行い、NIK突然変異の影響が、胸腺髄質細胞の機能不全を誘導し、その結果NK-T細胞のpositive selectionが生じないことを明らかにした。従って、NK-T細胞の分化には、CD4^+8^+肺腺細胞上のCD1分子と、胸腺髄質上皮細胞からの第2シグナルが必要なことが判明した。最後に自己免疫マウスのNK-T細胞を解析し、1prマウスでは異常がないこと、(NZB/NZW)F1マウスでは加齢とともにNK-T細胞が減少することを明らかにした。NK-T細胞の減少は、自己抗体によることを示唆する結果が得られつつある。
著者
高井 伸雄
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

これまでに提案してきた破壊パターンは内部空間の損失を反映した指標であるが、さらに定量的に評価するために、内部空問の損失を評価するW-値を導入し、建物の破壊パターンとW-値との関係を明らかにした。ここで、人的負傷とを関連づけることで、建物被害とは独立した、人間への外力と傷害度との関係が導き出される。ここでは人間の負傷度を医学で用いられる指標(傷害度スコア)を引用し、医学研究者との議論を重ね、内部空間損失と人的負傷との関係を明らかにした。以上で地震時の建物被害による人的被害発生のメカニズムが明らかになったが、パターンと傷害度スコアとの関係は、東灘区のデータを利用していることから、一般化を目指し他地域での適用に関して議論した。そこで、対象地域を木造パラメーターの異ならないと思われる地域として、同地震で被害を受けた神戸市長田区を新たに対象地域都市として、GIS上に同様のデータベースを構築し、人的被害を予測した。その結果これまでに利用されてきた手法より精度の高い予測が可能となっている。これまでは木造に関しての解析であるが、1999年トルコ地震におけるRC建物造に関しての建物破壊パターンとW値との関係も議論可能とするべく、一次解析としてRC造の破壊パターンと主要な破壊階と死傷者の関係のデータベースを構築した、RCに関してはさらに詳細な解析を行う準備がある。ここで注目する点は精度の向上よりも、メカニズムに踏み込んだ議論をしていることであり、以上により明らかとなった木造建物の地震被害による人的被害発生メカニズムを基に、より安全性の高い破壊パターンを考慮した建物形式、及び既存不適格建物の補強方法を議論することが可能となった。
著者
山崎 孝治 小木 雅世
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

北極振動または北半球環状モード(Northern Hemisphere annular mode : NAM)は冬季北半球で卓越するモードであるが、その季節変化は十分調べられていなかった。当研究では、客観解析データを用いて、北半球の月平均・帯状平均高度場の主成分分析を各月ごとに行うことによって各月ごとに卓越する環状モードを抽出した。それにより夏季のNAMは冬に比べて南北スケールが小さく北極側にシフトしており、対流圏に閉じられたモードであることがわかった。2003年夏、ヨーロッパは熱波に襲われた一方、日本は冷夏であった。このときの気象状況を夏のNAMという観点から解析した。7月初めまでは夏のNAMはやや負であったが、7月中旬〜8月中旬に大きな正となった。このとき、ヨーロッパでは高気圧偏差が卓越し、大気下層気温は大きな正偏差となった。一方、東シベリアでも大きな正の高度偏差となり、オホーツク海高気圧が発達した。このため日本では冷夏となった。NAMが大きな正であった期間には北半球の対流圏上層でダブルジェット構造となったが、その成因を波と平均場の相互作用の観点から解析した。その結果、擾乱が低緯度に伝播し波の運動量輸送により高緯度のジェットを加速しダブルジェット構造を生成することが明らかになった。このダブルジェット構造の北極海沿岸のジェットに沿って欧州からロスビー波が伝播し、東シベリアで砕波し、オホーツク海上空にブロッキング高気圧を形成したため、日本付近での異常気象が持続した。夏の異常気象を理解するうえで、夏のNAMが有益な概念であることが示された。NAMの冬と夏のリンクに関しては、ユーラシアの雪だけでなく、成層圏オゾンの輸送を通じたリンクがあることが示唆された。
著者
菊地 勝弘 太田 昌秀 遠藤 辰雄 上田 博 谷口 恭
出版者
北海道大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1987

今日まで研究代表者によって報告された低温型雪結晶は, ー25℃以下の比較的低温下で成長し, その頻度は, 時には結晶数全体の10%を占めることが明らかにされたが, これらの結晶形は, 複雑多岐で, まだ, 十分分類もされておらず, 「御幣型」や「かもめ型」は便宜上名付けられたもので, 正式の名称はない.一方, 極域のエアロゾルはその季節変化, 化学成分に注意が払われてきてはいるが, 降水粒子の核としての性質, つまり低温型雪結晶の結晶形, 成長との関連については全く注目されていない. この研究では, 低温型雪結晶を極域エアロゾルの性質を加味して総合的に研究し, 低温型雪結晶の成長機構を行らかにしようとするものである.昭和62年12月17日成田を出発した一行は, オスロで機材の通関を行い, ノールウェイ極地研究所で研究計画の打合せを行った後, 12月22日アルタおよびカウトケイノの研究観測予定地に機材と同時に到着した. 両観測地点共, 翌12月23日より観測を開発した. 第1図に観測地の地図を示した.今冬のヨーロッパは, ノールウェイを含め暖冬で, 観測期間中気温がプラスになったり, みぞれが降ることもあり, 必ずしも低温型雪結晶の観測に恵まれた条件とは言えなかったが, 以下に示すような膨大な試料を得ることができ, 必ずしも低温型雪結晶の観測に恵まれた条件とは言えなかったが, 以下に示すような膨大な試料を得ることができ, 成功であった. 得られたデータは次のようなものである. 偏光顕微鏡写真35ミリカラーフィルム65本, 35ミリモノクロームフィルム:2本, レプリカスライドグラス:340枚, 電顕用レプリカフィルム:205枚, ミリポアフィルターによるエアロゾル捕集:110枚, テフロンフィルターによるエアロゾル捕集:40枚, 降雪試料瓶:60本.この内, 低温型雪結晶を110個観測することができた. 特に今回は, 低温型雪結晶の「御幣型」に特徴的な成長がみられた. 即ち, 結晶成長の初期の段階であると考えられている凍結雲粒が1対の双晶構造をもって凍結し, それから両側に御幣成長したと思われる結晶が数多く発見された. 第2図はアルタで, 第3図はカウトケイノで今回新らたに観測された御幣型の雪結晶である. 更に地上気温が高かったためであろうか, それぞれのスクロール(渦巻状)から板状成長しているものも認められた.極域エアロゾルに関するアルタの観測では, 南側の内陸からの風系で直径0.3μm以上の粒子濃度は10個/cm^3であったが, 強風の場合は1個/cm^3まで減少し, カナダ北極圏よりやや少な目であった(第4図). 一方, 北側の海からの風系では, 1μm以上の粒子が増加した. これらの風系に対するエアロゾルと低温型雪結晶の中心核との関係については, 昭和63年度の調査総括により解析され, 明らかにされるであろう.
著者
堀口 薫 水野 悠紀子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

着氷力の評価としては、半世紀以上もの間、低い温度(例えば-5℃や-10℃)での付着面のセン断凍着力が採用されてきた。そして、水との接触角の大きい物質がセン断着氷力が小さいことから、難着雪氷材料として撥水性材料の開発研究が行われ、現在接触角が150度以上の塗料が存在する。我々は氷が付着するメカニズムを解明するために、セン断着氷力の温度依存性を詳しく調べた。その結果、次のことが明らかになった:(1) 撥水性材料(テフロン)の場合、氷の付着面でのセン断着氷力は、温度が高くなると僅かに減少するが、付着面での破壊の型はbrittle failureであった。(2) 親水性材料(ガラス)の場合、撥水性材料に比べて、セン断着氷力の温度依存性は大きく、破壊の型は低温領域(マイナス数度以下)ではbrittle failureであるが、マイナス数度以上の温度領域では破壊はviscou failureであった。(3) セン断着氷力の値自身は、低温領域ではテフロンの方がガラスよりも小さかった。しかし、高温領域では逆にガラスの方がテフロンよりも小さかった。(4) 界面での破壊に必要なエネルギーは、同じ温度では、viscous failureの方がbrittle failureよりも多い。以上の結果から、着氷力のメカニズムは材料と温度に依って異なることが分かった。したがって、着氷防止対策も状況に合わせて異なる。例えば、融点に近い温度での着雪氷の除去を例に取ると、小さな力で除去したいときには親水性材料を用いた方が経済的であるが、少ないエネルギーで除去したいのであれば撥水性材料を用いた方がより経済的であることが分かった。
著者
若浜 五郎 小林 俊一 成田 英器 和泉 薫 本山 秀明 山田 知充
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

温潤積雪の高速圧密氷化過程は、野外観測と実験室における定荷重圧縮実験によって研究した。野外観測では、温潤な平地積雪と雪渓の帯水層に長期間浸っている積雪とに着目して、その圧密状態や過程を観測した。その結果融雪開始時期から全層濡れ雪になるまでの時期に、積雪は急激に圧密されてその密度を増し、2mを超えない自然積雪では、およそ濡れ密度0.46ー0.5g/cm^3に達した後、消雪までの間この密度に保たれることが分かった。雪渓下部帯水層の水に浸った積雪は、そのすぐ上部の濡れ雪に比べると圧密速度が約3倍も大きいこと、帯水層に長期にわたって大きな上載荷重がかかっているため、最終的には乾き密度の0.75g/cm^3濡れ密度にして、0.83g/cm^3以上にまで圧密され、これが初冬の寒気により凍結し氷化することが明かとなった。定荷重圧縮実験は、水に浸った積雪について集中的に実施した。圧力は温暖氷河や雪渓の帯水層内の積雪に、実際に作用している0.1ー2kg/cm^2の範囲を用いた。実験の結果、歪速度は積雪の粒径にほとんど依存しないこと、圧力の増加と共に増加し、圧力が1kgf/cm^2を越えると急激に圧密され易くなることなどが定量的に明かとなった。歪速度の対数と密度の間には直線関係が成り立ち、かつ、直線には乾き雪の定荷重圧縮実験と同様、ある密度に達した時点で折れ曲がりが認められた。氷化密度0.83g/cm^3に達するまでに用する時間は、簡単な理論的考察から、上載荷重を与えることにより推定可能となった。実験結果をいくつかの経験式にまとめると共に、実験結果から、氷河や雪渓の帯水層における圧密氷化機構を説明出来るようになった。圧密機構のより詳細な理解のために、圧密過程を圧密に進行に伴う積雪内部構造の変化と関連付ける計画である。また相対的に実験の困難な濡れ雪の圧密特性の研究は今後に残されている。
著者
佐倉 緑
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

コオロギを用い、体表物質によって引き起こされるオス同士の闘争行動の発現に触角からの入力が関与することを明らかとした。また、脳内の一酸化窒素(NO)とオクトパミン(OA)シグナルの阻害により、敗者の攻撃行動の回復がそれぞれ促進、抑制されることがわかった。触角への体表物質の刺激により脳内でNOが増加すること、NOにより脳内のOA量が減少することから、体表物質-NO-OAというシグナル経路が脳内に存在すると結論づけられた。