著者
長谷川 陽子
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

ハンナ・アーレントの1920年代から1958年までの論考が、その後の著作に重要な影響を与えていることを論証するため、当該期間に著された論考の原文による読解をおこなった。今年度は主として『全体主義の起源』、草稿である『カール・マルクスと西欧政治思想の伝統』と、同じく草稿である『政治の約束』の前半部を中心的に読み解くことで、アーレントの思想が、『人間の条件』執筆以前に完成された形で提示されていたことを論証することができた。1920年代のアーレントの思想から、連綿と受け継がれてきた「実存哲学」思想が、『人間の条件』以前までの論考の中に主軸として発展させられていたことを確認した。従来の研究ではこのアーレントの「実存哲学」思想には、全体主義につながる契機となるのではないかとするマーティン・ジェイを代表とする指摘を受け、重要視されることはなかった。しかし、この「実存哲学」こそが、アーレントの人間の『複数性』と「個別性」とを訴えかける貴重な契機となっていることが了解されたのである。この成果をもとに、前年度までに学会報告等において知り合うことができた、国内の他のアーレント研究者の協力を求めて話し合うことで、より多面的な見地から、意見を伺うことができた。また、1920年代から1930年代にかけてのアーレントの思想を改めて追う中で、「公的空間」における「創造の契機」こそが、アーレントにとって最も重要であったことを再確認した。このことは、アーレントの「公的空間」が、その中での問題解決を最初から見込んでいるものではないとする、思想射程を明確化する機会ともなった。上述してきた研究成果を、発展させ、アーレントの思想における「他者存在」と「政治的公共空間」とがどのようにその思想の中核となっていったかを明確化した上で、博士論文の執筆を行った。
著者
石川 敬史
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

平成15年度科学研究費補助金(特別研究員奨励費)によって行った研究活動は以下である。1.本年度の研究を経て、以下の知見を得た。(1)18世紀の政府理論形成は、この時期英国で発達していたモラル・フィロソフィーを知的背景としていた。すなわち、教会秩序にたいする、世俗秩序を確立するという観点から、政府理論が発達し、アメリカ諸邦政府および連邦政府もこの流れの中に属していた。(2)アメリカの単独主義外交の起源は、第二代大統領ジョン・アダムズ政権期になされた、米仏同盟解消交渉にあった。この時期に、ヨーロッパ諸国の政治情勢に関与しながら、相互の国益を調整するアレクザンダー・ハミルトンの路線が、アダムズの単独主義外交の方針に破れたことが後のモンロー・ドクトリンにつながるアメリカ外交の基礎となった。(3)アメリカ政党制は、米仏同盟解消交渉の過程で明らかになった、外交方針の違いがきっかけとなって、構成されるようになった。すなわち、内政上の争点は政党分裂の根本要因ではなかった。2.調査旅行(1)神戸大学国際文化学部の図書館にて資料収集を行った。(平成15年5月29日〜平成15年6月2日)(2)東京大学大学院総合文化研究科附属アメリカ太平洋地域研究センターにて、資料の収集および、資料批判作業に従事した。(平成16年2月8日〜平成16年2月11日)3.関係資料の購入(1)18世紀英国における、財政軍事国家への変容過程を知るために、英国史関連の書籍を購入した。(2)アダムズ政権が対応したフランス総裁政府の政治史を理解するため、同時代のフランス政治史に関する文献をそろえた。4.博士論文の執筆平成15年度の研究活動は、博士論文の執筆を中心に進められた。公刊論文が無いのはこのためである。博士論文は、ほぼ完成に至り、教官の許可を得しだい提出予定である。
著者
山田 美和
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

初年度に構築した乳酸(LA)ユニットとヒドロキシブタン酸(HB)ユニットからなる乳酸ポリマー、P(LA-co-HB)の生合成経路を利用して、ポリマー中のLA分率向上を目指した。嫌気条件下で菌体を培養し、乳酸の供給量を増加して、モノマーであるLA-CoAの供給量増加を促した。結果、共重合ポリマー中のLAユニット分率が飛躍的に上昇したP(47mol% LA-co-HB)を合成した。続いて、さらなるLA分率の向上を実現するために、乳酸重合酵素に変異を導入し、LA重合能力の高い乳酸重合酵素を創製することを目指した。そこで、HB-CoA重合能力をさらに向上させれば、LA-CoA重合能力の増強につながるのではと考え、これまでにHB-CoA重合能を向上させると報告されていた変異を乳酸重合酵素に導入した。結果、従来の乳酸重合酵素よりも、LA分率が向上した新規乳酸重合酵素を創製することに成功した。本重合酵素と嫌気培養を組み合わせることで、62mol%まで向上した乳酸ポリマーを合成した。さらに、見出した新規変異点におけるアミノ酸飽和変異導入を行うことで、16~45mol%と幅広い範囲でLA分率が調節されたP(LA-co-HB)を合成することができた。これらの乳酸ポリマーの熱的性質分析から、乳酸ポリマーは、これまでPLAの課題であった柔軟性を持つポリマーである可能性を示唆することができた。
著者
宮本 太郎 山口 二郎 空井 護 佐藤 雅代 坪郷 實 安井 宏樹 遠藤 乾 水島 治郎 吉田 徹 田中 拓道 倉田 聡
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究は大きく三つの領域において成果をあげた。第一に、日本の政治経済体制、とくに日本型の福祉・雇用レジームの特質を、比較政治経済学の視点から明らかにした。第二に、レジームを転換していくためのオプションを検討し、各種のシンクタンクや政府の委員会などで政策提言もおこなった。第三に、世論調査でこうしたオプション群への人々の選好のあり方を明らかにし、新しい政党間対立軸の可能性を示した。
著者
肥前 洋一
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

どのような市町村どうしであれば合併が住民に賛成されやすいかを政治経済学の理論を用いて分析し、その理論的帰結を平成の市町村大合併のデータを用いて検証した。合併の是非を問う住民投票での賛成票を増やす効果があるのは、合併後の65歳以上人口比率・可住地面積・一人当たり所得が大きいこと、人口や公債費比率が小さいことであることが確認された。また、合併協議開始後の経過年数が長いとき、もしくは合併支援金が交付されないとき、賛成票のシェアが大きいことも観察された。
著者
岡田 信弘 高見 勝利 浅野 善治 只野 雅人 笹田 栄司 武蔵 勝宏 常本 照樹 佐々木 雅寿 加藤 一彦 稲 正樹 木下 和朗 新井 誠 齊藤 正彰
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

衆議院と参議院の多数派が異なる、いわゆる「ねじれ国会」が出現した結果、日本の国会における立法活動は混迷状態に陥った。本共同研究は、この混迷状態の制度的・政治的要因を探りつつ、そうした状態を解消・克服するための方策を従来の二院制に関する憲法学的研究とは異なった視角からの分析を通して明らかにすることを試みた。具体的には、従来の類型論的・解釈論的研究に加えて、統治構造論を視野に入れた実証的な比較立法過程論的研究を実施した。
著者
岡田 信弘 高見 勝利 小早川 光郎 林 知更 常本 照樹 佐々木 雅寿 前田 英昭 岡田 信弘
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1 夏季研究集会における諸報告とその成果の公表(1)2002年8月19日(月)〜21日(水)の日程で、研究分担者と本共同研究への協力を依頼した部外の実務家が北海道大学に参集し、研究会が開催された。部外の実務家からの報告として、橘幸信氏(衆議院憲法調査会事務局)「『実践的立法学』の構築に向けて-法律(案)のつくり方・つくられ方-」と山岡規雄氏(国立国会図書館憲法室)「憲法調査会の活動」とがあった。なお、山岡氏の報告を補完するものとして、橘氏による追加報告(「衆議院憲法調査会の活動」)がなされた。これらの報告をめぐる活発な討論を通して、一方で、「立法過程」の現場体験に基づいた「立法事実」に関する新たな知見が得られるとともに、他方で、現在進行中の「憲法改正」に関わる議会内部の動きを正確に理解することができた。(2)研究分担者からは、岡田信弘「改正内閣法に対する評価」、常本照樹「アイヌ新法の実施状況」、佐々木雅寿「司法制度改革の推進体制」、小野善康「国旗・国歌法制定後の学牧の状況」、高見勝利「政治腐敗と政治倫理-英米独仏等の国会議員の政治倫理に関する制度」の各報告があり、分担者間で意見交換がなされた。(3)以上に概観した夏季研究集会の成果の一部は既に公表もしくは近々公表予定であるが、それらを含む研究分担者の研究成果を、本共同研究グループが従来行ってきたように、1冊の著書にまとめるべく作業を進めている。2 その他の研究会活動2002年10月29日(火)にジャック・ロベール氏(元フランス憲法院裁判官)、12月20日(金)に孝忠延夫氏(関西大学教授)を招いて、ヨーロッパとアジアにおける最近の立法動向についての報告を受けた。
著者
KIKOMBO Andrew Kilinga
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

半導体デバイスの発展は個々の素子の微細化により進められてきた。しかし、素子の寸法が小さくなるにつれて量子効果(通常の回路動作にとっては望ましない影響)が顕著になり、近い将来に微細化の限界が避けられないとも言われている。その一方、量子効果を積極的に利用する研究も盛んに行われる様になり、CMOSに代わる次世代量子デバイスの候補として単電子デバイスが注目を浴びている。単電子デバイスを用いれば、超高集積かつ極低消費電力な集積デバイスの実現が可能である。しかし単電子デバイスの動作は現用のCMOSデバイスと異なるため、CMOSデバイスとは異なる新しい回路構成と信号処理の方法を考える必要がある。本研究では、量子ドットを用いた集積デバイスの一例として、量子ドットの構造的特徴と動作原理を生かした高空間分解能のフォトン位置検出センサの構築を行う。そしてその情報処理方法を画像処理サブ・プロセッサに拡張する。本研究は、フォトンの入射位置を正確に読み取る(空間的に高い分解能をもつ)センサの開発を行うことを目的とする。現在、フォトンの入射位置を検出するためには、Micro-channel plate(以下MCP)が用いられる。MCPの入射面に向かってくるフォトンは光電子増倍チャンネルの内面の伝導層に当たって光電子を発生させる。さらに発生した電子が多くの2次電子を発生させて光信号を増幅する。出力面から出てくる電子を観測することで、フォトンの入射位置を特定することが可能である。MCPの空間的分解能はチャンネルの配列ピッチで決まり、製造プロセス上、10μm前後が限界である。一方で、量子ドット集積体のドットピッチは数十ナノメートルであり、これをセンサとして用いることで空間的に高い分解能を得ることが可能である。そこで、これまで解析した量子デバイスの非線形特性を生かして、フォトンの(入射)位置を正確に検出可能なセンサデバイスを提案する。
著者
西 信康
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究課題は、古代儒家思想における人性論の歴史的展開と、儒家道家の思想交渉の歴史的展開に関する研究を進めた。具体的には、(1)『孟子』所載の仁内義外説を再検討し、「義」に対する告子の倫理思想を明らかにした。(2)郭店楚簡『性自命出』に見える「性」「命」「勢」「物」といった概念の意味内容と比喩表現を再検討し、その思想的特徴を明らかにした。(3)上博楚簡『民之父母』に見える「五至」について、『老子』『荘子』『淮南子』の記載を手がかりにその意味内容を検討し、儒家と道家の思想的交渉の様子を明らかにした。
著者
宇山 智彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

中央アジアに関してはこれまで国単位の研究とコミュニティ・レベルの研究が主流であったが、本研究ではその中間である州レベルの史料を集め、分析した。中でも特色ある地域としてタジキスタン東部のパミールとカザフスタン西部の旧ボケイ・オルダに注目し、両地域における諸文化の交流や共存の様相を明らかにした。また、タジキスタン内戦やクルグズスタン革命において地方意識が持った多面的な意味を分析した。
著者
望月 哲男 亀山 郁夫 松里 公孝 三谷 惠子 楯岡 求美 沼野 充義 貝澤 哉 杉浦 秀一 岩本 和久 鴻野 わか菜 宇山 智彦 前田 弘毅 中村 唯史 坂井 弘紀
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

ロシア、中央アジア、コーカサス地域など旧ソ連圏スラブ・ユーラシアの文化的アイデンティティの問題を、東西文化の対話と対抗という位相で性格づけるため、フィールドワークと文献研究の手法を併用して研究を行った。その結果、この地域の文化意識のダイナミズム、帝国イメージやオリエンタリズム現象の独自性、複数の社会統合イデオロギー間の相互関係、国家の空間イメージの重要性、歴史伝統と現代の表現文化との複雑な関係などに関して、豊かな認識を得ることが出来た。
著者
横山 敦郎 安田 元昭
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究においては,歯根膜幹細胞の種々の細胞への分化に関する成長因子の同定および分化した細胞の遺伝子発現様式の差異を明らかにすることを目的に,以下の研究を行った.WKAウィスター系5週齢雄性ラットから,下顎切歯を抜去し,15%FBSおよび抗生剤を含むα-MEM中に静置し,2週後まで初代培養し,アウトグロースした細胞を歯根膜細胞として回収した.回収した細胞を,デキサメサゾン(Dex),アスコルビン酸(Asc),βグリセロフォスフェイト(βGP)を含む培地とこれらを含まないコントロールの培地の2種の培地で2週間培養し,骨関連タンパクであるオステオカルシンと歯根膜特有のタンパクであるXII型コラーゲンについてRT-PCRを行いmRNAの発現を検索した.XII型コラーゲンの発現は,コントロールとDexを含む培地の両者に同様に認められたが,オステオカルシンはDexを含む培地で著しく強く発現していた.この結果から,Dexで骨芽細胞に誘導される幹細胞が,採取された歯根膜細胞には含まれることが明らかとなった.この結果をもとに,Dexを含む培地,b-FGFを含む培地およびこれらを含まないコントロール培地の3種の培地で歯根膜細胞を3日培養した後,RNAを回収し,DNAマイクロチップで網羅的にmRNAの発現を解析した.その結果,mRNAの発現は,b-FGFを含む培地とコントロールの培地では,ほとんど差異が認められなかったが,Dexを含む培地とでは差異が認められた.この結果から,b-FGFは歯根膜幹細胞を分化させることなく増殖させ,またDexは,歯根膜幹細胞を骨芽細胞へ分化させることが示唆された.
著者
藤田 陸博 番匠 勲 橘 治国 長谷川 和義
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本研究で対象としたゴルフ場は、1992年調査、1993〜1994年造成期、1995年完成となっている。したがって、本研究の期間内では必ずしも十分な現地測定が出来ない。本研究の内容を、次に示すように分類できる。(1)現地での測定ゴルフ場の造成がどのように水文環境に影響を及ぼすかを直接知るためには、現地での測定が極めて重要である。本研究では、水位計2台、雨量計2台、濁度計1台を5〜11月の期間にわたって現地に設置し、測定を続けてきた。また、月に1度の頻度で現地河川水を採水して水質の調査をしてきた。上述したようにゴルフ場はまだ造成中なので各種の測定値に基づいて明確な結論を出す段階ではないが、河川流出量が若干変化しているようである。(2)理論解析ゴルフ場の造成にともなう流出機構の変化を求めるのに、貯留量〜流出量の関係を検討した。測定値は必ず誤差を伴うので、変化の程度が誤差範囲内のものであるか否かを判断する必要がある。誤差範囲といっても明確な基準があるわけではなく、これまで個人の経験に基づいて判断されてきた。本研究では、流出モデルとして貯留関数法を採用して流出量の確率応答を求めることによって、推定された流出量の信頼限界を得ようとした。流出量の確率密度関数が必要となるが、流出量の1〜4次モーメントを求める理論式を新しく誘導した。また、実測降雨量を解析より、時間単位の小さな降雨量は指数分布で表されることが分かった。降雨量を独立な指数分布に従う不規則関数として、流出量の1〜4次モーメントを得た。得られ主な結果を以下に示す。1.流出量の2〜4次モーメントには、流出モデルのパラメータ、降雨量の2〜4次モーメントの他に降雨量の平均値が関係している。したがって、降雨量の規模ごとに資料を整理する必要がある。定常・非定常の降雨系列について検討した結果、流出量はガンマ分布で近似できることを理論的に明らかにした。
著者
加藤 ひろし 岩並 和敏 坂上 竜資 本郷 興人 佃 宣和 川浪 雅光 向中野 浩
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

2年間にわたり歯周病患者のBruxismと咬合性外傷、歯周組織破壊の実態を明確にする目的で研究を進め、次の成果を得た。(1)K6Diagnostic Systemを用いて中程度以上の歯周病患者の顎運動と筋活動を分析した結果、歯周炎患者正常者に比べ閉口運動終末速度と咬みしめ時の筋活動電位が低下しており、歯周炎の進行と対合歯との咬合接触部位の減少にともなってさらに低くなる傾向を示した。(2)睡眠中の顎動運記録装置を作製し、睡眠中の顎運動、咬筋活動、咬合接触状態、咬合接触音を記録し分析した結果、BruxismはAタイプ(grindingに相当)、Bタイプ(clenchingに相当)、Cタイプ(A,Bタイプ以外)に分類でき、Bruxism自覚者はAタイプ、無自覚者はBタイプの出現率が高く、この差が自覚の有無と関係していると思われた。(3)患者が自宅でBruxism(睡眠中の咬筋活動・歯の接触・grinding音)を記録し分析するシステムの改良を行い、ディスポ-ザブルシ-ル型電極と発光ダイオ-ド表示モニタ-装置の使用により正確な記録が可能となった。(4)Bruxismによって生じる咬合性外傷と炎症が合併した場合の歯周組織の変化を明らかにするために,カニクイザル2頭の臼歯を4群にわけて、炎症と咬合性外傷を引き起こし、14週と28週間、臨床的ならびに病理組織学的に観察した結果、歯間水平線維が細胞浸潤により破壊された状態に、咬合性外傷が合併すると、炎症は急速に進行し、高度歯周炎となることが示唆された。(5)Bruxismの原因となる早期接触の客観的診査の目的で、Tースキャンシステムを歯周病患者で検討した結果、センサ-を咬合接触が不安定で誤差が生じやすく、咬合力の弱い者や動揺歯では咬合接触を正確に判定できないなどの問題があり、改良の必要なことが明らかとなった。今後さらにBruxismの客観的診断法と治療法の確立を目指して研究を進めていきたいと考えている。
著者
岩下 明裕 宇山 智彦 帯谷 知可 吉田 修 荒井 幸康 石井 明 中野 潤三 金 成浩 荒井 信雄 田村 慶子 前田 弘毅
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究の実践的な成果は、第1に中国とロシアの国境問題解決法、「フィフティ・フィフティ(係争地をわけあう)」が、日本とロシアなど他の国境問題へ応用できるかどうかを検証し、その可能性を具体的に提言したこと、第2に中国とロシアの国境地域の協力組織として生まれた上海協力機構が中央アジアのみならず、南アジアや西アジアといったユーラシア全体の広がりのなかで発展し、日米欧との協力により、これがユーラシアの新しい秩序形成の一翼を担いうることを検証したことにある。また本研究の理論的な成果は、第1にロシアや中国といった多くの国と国境を共有している「国境大国」は、米国など国境によってその政策が規定されることの少ない大国と異なる対外指向をもつことを析出し、第2に国境ファクターに大きく規定される中ロ関係が、そうではない米ロ関係や米中関係とは異なっており、米ロ中印などの四角形のなかで、構成される三角形が国境を共有するかどうかで異なる機能を果たすことを実証したことにある。
著者
藤田 健
出版者
北海道大学
雑誌
北海道大学文学研究科紀要 (ISSN:13460277)
巻号頁・発行日
vol.124, pp.103-135, 2008-02-15
著者
片岡 崇 TOLA EIKamil TOLA ElKamil
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,不耕起播種のための精密播種方法の確立である。平成19年度も,ロータリ耕うん機で耕うんしたほ場と2通りの硬さで締め固めた不耕起相当の計3ほ場を準備し,各ほ場における作物生育状況を観察,計測した。栽培した作物は,大豆(品種:テイスティ)とビート(品種:スコーネ)である。また,不耕起栽培に適した播種溝の形状を検討した。播種深さをアクティブ制御できる機構を播種機に取り付けた。1.作物栽培大豆について,1個体当たりの莢数と豆数は,耕起ほ場と比べて,不耕起ほ場の方では少なかった。しかし,単位面積当たりの収穫量(質量)には,ほ場間の統計的な有意差は認められなかった。ビートについて,根部の重量は,平均値では耕起ほ場が良かった。しかし,ほ揚間に重量,長さ,糖度に統計的な有意差は認められなかった。生育状況の視覚的観察では,明らかに両作物とも耕起ほ場の方が生育が良かった。平成19年は,暑い夏であり,作物の生長が良い年であった。このため,収穫量に差が現れなかったと考えられる。この観察と統計処理の結果の違いに関しては,今後検討する。2.不耕起用播種溝形成機構の評価供試した溝切り機は,ディスク型,ホー型,タイン型の3種類である。土壌を不耕起状態のように調整して,溝切り実験を行った。形成された溝の形状を,レーザーラインスキャナーで計測し,3次元表示した。結果,タイン型の溝切り機が,土壌硬度,溝切り深さに関係なく安定した溝の形を形成した。3.播種深さ制御システムの開発不耕起ほ場に播種をする際,ほ場表面の凹凸が作業性能に影響する。このために播種機構部分に油圧シリンダーを取り付け,ほ場表面の凹凸に対してアクティブに高さ方向の位置制御を行う機構を構築した。
著者
吉水 清孝 藤井 教公 細田 典明 沼田 一郎
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究において研究代表者は,研究分担者の協力の下に,『ミーマーンサー・スートラ』第2巻および第3巻の構成分析を行い,それを基にして以下の4点にわたる研究成果を発表した。1.ヴェーダ祭式の主要規定文(教令)は祭式開始に向けた命令を規定文動詞の語尾により発し,その命令が,他の個々の儀礼規定文に遷移する。この遷移によってヴェーダのテキスト内の階層的構造が成立する。2.「定期祭は昇天のための手段である」という見解と「定期祭は果たすべき義務である」という見解とは両立する。なぜならばこの規定文は「天界を望む者は祭式すべし」という教令(B)とは独立の教令だからである。この独立性は,テキスト解釈における簡潔性を重んずる解釈法によって証明される。AはBに従属し,Bで命ぜられた祭式の開催期間の規定であると仮定すると,Aの動詞は祭式挙行を命ずるのみならず,生涯に渡り挙行を反復することをも間接的に命じていることになり,動詞の果たす機能を複雑にしてしまうからである。3.クマーリラは,個人の意識における祭式遂行の側面とテキスト解釈の側面を区別している。彼は,場所・時間・機会・果報・浄化対象という5種の,個人により祭式挙行のうちに「統合し得ないもの」(anupadeya)を挙げ,規定文は原則として,これら統合し得ないもののうちの一つを前提(ud-dis)して,祭式のうちに「統合すべきもの」(upadeya)を規定する(vi-dha),と主張した。4.二つの祭式構成要素間の階層をテキスト解釈により確定することが「配属」(viniyoga)と呼ばれ,祭式の会場で実際に観察される「助力」(upakara)と対比される。事実関係に着目する「助力」の理論は,祭式の意義の相対化に繋がる恐れがあるとみなされ,「祭式の効力は人が来世でどこに生まれるかを決定できない」と主張した初期の解釈学者バーダリに帰せられた。
著者
永川 桂大
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

金や銀のナノ粒子に光を照射すると表面プラズモンと共鳴し、局所的な電場が発生する。特にそのサイズに依存した光学特性が注目され、細胞内への遺伝子薬剤の送達キャリヤーあるいは腫瘍組織に対する治療ツールとしての研究が盛んに行われている。本研究は申請者がこれまでに作製してきたウイルスカプセル表面での金ナノ粒子の三次元配列化と同時に、多様なタンパク質と金属ナノ粒子の複合体形成とその応用展開を目的とした。今年度の研究実施計画は、昨年度作製した金ナノ粒子内包型ウイルス構造体の特徴に着目した。本研究で取り扱うJC virusの感染能に注目すると、ウイルスタンパク質VP1の感染能が付与された金ナノ粒子は効率よく細胞内へ導入されることが期待される。さらに金属ナノ粒子の持つ光熱変換能を利用する事で、光刺激による細胞死の誘発というがん細胞における光温熱療法への応用が可能となる。そこでVP1を用いた金属ナノ粒子内包型ウイルス構造体の作製を検討した。ウイルスタンパク質のアミノ酸残基の分布に着目すると、内側表面のシステイン残基97番目のみが溶媒と接していることが予想された。金ナノ粒子とVP1を共存条件におくことで、金ナノ粒子表面にシステインと金原子の結合に起因したVP1の集合化が観察された。VP1被覆金ナノ粒子の細胞内導入において、粒径40nmの金ナノ粒子で最も効率よく取り込まれ、細胞に強い光を照射すると金属ナノ粒子由来の熱発散によって照射スポット内における細胞死誘導が見出された。以上の結果から、ウイルスタンパク質と金属ナノ粒子の複合体は各々の特徴を組み合わせることで光温熱療法の薬剤へ応用できることを示した。本研究の成果は今後の生物医学における金属ナノ粒子の利用に有用な知見を与えるものである。