著者
大川 浩司 菅原 眞冶 高市 益行 矢部 和則
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.449-454, 2007-07-15
参考文献数
19
被引用文献数
3

施設内における高温および低温条件が,単為結果性トマト'ルネッサンス'の着果および果実肥大特性に及ぼす影響について検討した.日最高気温の平均値が39.2℃の高温条件において,'ルネッサンス'は単為結果性の安定した発現により100%着果し,発育不良果の発生もみられなかった.同条件において,非単為結果性トマト'桃太郎ヨーク'は受精できず,4CPA液の処理なしでは果実が正常に肥大しなかった.一方,日最低気温の平均値が5.9℃の低温条件においても,'ルネッサンス'は単為結果性の安定した発現により100%着果し,発育不良果も発生しなかった.同条件における'桃太郎ヨーク'は,受精が不完全となって,発育不良果が61%発生し,果実の正常な肥大には4CPA液の処理が不可欠であった.上述したような高温および低温条件において,'ルネッサンス'は受粉や合成オーキシン処理を省略しても果実は正常に肥大したことから,非単為結果性トマトに比べて栽培適応性か広く,生産性の高い栽培が可能と考えられる.
著者
小野崎 隆 八木 雅史 棚瀬 幸司
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.399-405, 2009-10-15

ポットカーネーション42品種の花について、花持ち性、エチレン生成量、エチレン感受性を調査した。ポットカーネーション品種中に、花持ち性やエチレン生成量に関して大きな変異の存在することが明らかになった。'ポラリス'、'カミーユピンク'、'シフォン'、'バンビーノ'、'ニーニャ'は平均花持ち日数9.7日以上と花持ち性に優れていた。これらの花持ち性の優れる品種では、老化時のエチレン生成量が極めて少なく、通常の品種で生じる花弁のインローリング、萎凋を示さずに、花弁の縁から褐変する症状で観賞価値を失った。花持ち性と老化時のエチレン生成量、自己触媒的エチレン生成量との間には有意な負の相関関係が認められた。また、エチレン感受性についても二倍体品種で大きな品種間差異のあることが明らかになったが、エチレン感受性と花持ち日数との間に有意な相関は認められず、エチレン低感受性品種の花持ち性が優れる傾向はみられなかった。倍数性と花持ち性、エチレン感受性との間に関連性は認められなかった。本研究により、ポットカーネーションにおける花持ち性の品種間差異が明らかになり、花持ち性の向上を目指した交雑育種の可能性が示された。
著者
浜本 浩 嶋津 光鑑 池田 敬
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.307-310, 2003-12-15
被引用文献数
2

1〜2日間隔の時期中断が数種の葉菜類の生育に及ぼす影響について検討した.実験1では,ホウレンソウに対して0.4〜1.2μmol・ m^<-2>・s^<-1>の白熱灯による深夜の時期中断を毎日51分(毎日処理)か,月,水,金曜日に2時間(間隔処理)行った.実験2では,ホウレンソウとコマツナを白熱灯を用い1.0〜1.5μmol・m^<-2>・s^<-1>の強度で間隔処理を行った.実験3では,ホウレンソウ,サラダナ,コマツナに対して,LEDを用いて0.5〜L8μmol・m^<-2>・s^<-1>の強度で間隔処理を行った.実験1では処理26日目で毎日処理区の22%の株に抽だいを確認したが,間隔処理区では確認できなかった.実験2と3では,白熱灯およびLEDによる間隔処理でホウレンソウの生育が抽だいを抑えつつ促進され,無処理の対照区に比べて草丈,葉数,地上部乾物重が大きくなった.しかし,サラダナおよびコマツナに対しては,間隔処理による生育促進はみられなかった.
著者
安藤 敏夫
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.213-218, 2002-09-15
参考文献数
40

ペチュニア属遺伝資源の評価に関連する筆者らの研究経過を取りまとめた.広義のペチュニア属には, 互いに交雑できない3群が存在し, その3群は種子表面形態・核DNA量などで識別できた.ウルグアイには花器構造の異なるP.axillarisの2亜種がすみわけており, 中間型の分布する地域を特定し, 園芸的に重要な形質をもつ群落を抽出した.野生種の花に新規物質11を含む, 30種類のアントシアニンを確認し, 遺伝資源としての可能性が議論された.ペチュニア属とカリブラコア属の全種に関して自家(不)和合性が調査され, 自家和合種が降水量の少ない地域に分布する実体を示した.基本的に自家不和合であるP.axillarisの亜種axillarisには自家和合個体を希に交える群落があり, 自家不和合性の崩壊現象を研究する素材として使われた.このほか園芸学と植物学の学際領域としての園芸遺伝資源学の研究領域を紹介した.
著者
宮城 淳 家壽多 正樹 日坂 弘行 本居 聡子 若生 忠幸
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.101-107, 2011
被引用文献数
5

ネギの食味品質に関する化学的,物理的分析法を確立するため,「辛み」,「甘み」,「硬さ」の観点から,調理法を考慮した官能評価と生ネギの化学的成分および物性値の関係を明らかにした.生ネギの「辛み」評価とピルビン酸生成量には,強い正の相関関係(<i>r</i> = 0.94**)が認められた.加熱ネギの「甘み」評価と糖度との間には正の相関が得られなかったが,ブドウ糖含量,果糖含量,遊離糖総量および甘味度との間にはそれぞれ強い正の相関関係(<i>r</i> = 0.98**~0.99**)が認められた.焼きネギおよび煮ネギの「硬さ」評価は,円柱プランジャー(&Phi;3 mm)を用いた貫入抵抗値と,強い正の相関関係(<i>r</i> = 0.90*~0.99**)が認められた.以上,ネギの「辛み」および「硬さ」はそれぞれ,ピルビン酸生成量および貫入抵抗値で表現できた.「甘み」は,屈折糖度計で測定することは適切でなく,ブドウ糖含量,果糖含量,遊離糖総量および甘味度で測定することが適していた.<br>
著者
島田 武彦 白鳥 利治 羽山 裕子 西村 幸一 山口 正己 吉田 雅夫
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.984-986, 1999-09-15
被引用文献数
1

RAPD (Random amplified polymorphic DNA)法により, 56品種・系統のオウトウ・サクラの類縁関係を検討した.クラスター分析の結果, 供試材料は大きくオウトウ品種群, サクラ品種群に分かれ, 両者は遺伝的に類似性が低いことが確かめられた.中国オウトウ, Lithocerasus植物は日本在来のサクラと比較的類似性が低いことが確かめられた.
著者
艾乃吐拉 木合塔尓 壽松木 章 小森 貞男
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.439-443, 2005
参考文献数
9
被引用文献数
2 10

エチレン作用阻害剤の1-MCPが我が国のリンゴ果実の貯蔵性に及ぼす影響について, 早生品種の'さんさ', 中生品種の'ジョナゴールド'および晩生品種の'ふじ'の収穫適期の果実を用いて検討した.その結果, 3品種とも1-MCP曝露処理により果実のエチレン生成は顕著に抑制されたが, 貯蔵品質に及ぼす効果は品種により異なった.早生品種の'さんさ'では, リンゴ酸含量の低下はやや抑制したものの, 果肉硬度の低下は抑制せず, 鮮度保持効果は処理後1か月程度であった.また, 1-MCP処理は収穫後3日以内に行わないと効果が認められなかった.それに対し, 中生品種の'ジョナゴールド'では収穫当日処理から収穫後7日目処理まで, 果肉硬度, リンゴ酸含量とも処理後2か月まで保持効果が認められた.特に, 果皮の油あがりが顕著に抑制された.晩生品種の'ふじ'では, 'ジョナゴールド'と同様, 1-MCP処理果実は貯蔵後2か月目まで収穫時の硬度を維持しており, また, みつ入りも当日処理では2か月後まで, 収穫後3日目および7日目処理でも対照区より多く維持する傾向にあり, 鮮度保持効果が認められた.この結果は, 従来CA貯蔵など長期貯蔵が困難であった暖地型の完熟'ふじ'果実の長期鮮度保持が可能になることを示しており, 今後の貯蔵技術に大きな影響を及ぼすことが示唆された.
著者
土井 元章 陳 忠英 斉藤 香里 住友 恵美 稲本 勝彦 今西 英雄
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.160-167, 1999-01-15
参考文献数
15
被引用文献数
4 1

アルストロメリアの地中冷却栽培における秋季収量および切り花品質の向上を図ることを目的として, 温度処理および地温制御法について検討した.1. 冬季最低10℃で育苗して自然の低温に引き続いて地中冷却(夜間14℃に設定)を施す場合, 'レジナ'では5月21日, 'カルメン'('カナ')では6月20日までに冷却ベッドに植え付けると, 開花シュートの発生が継続した.この地中冷却ベッドへの植付け限界は, それぞれの品種の開花に有効な低温('レジナ'15℃以下, 'カルメン'17℃以下)が出現しなくなる時期とほぼ一致した.ただし, この方法では秋季に切り花は得られたものの, 初秋の収量および切り花品質が劣っていた.2. 'レジナ'に2℃10週間の低温を処理し6月10日に14℃を目標に冷却したベッドに植付けると, 秋季に採花することができた.この際, 最低20℃で育苗してきた苗を用いると, 最低10℃で育苗してきた苗を用いた場合に比べて, 植付け後栄養シュートの発生が多く, 初秋の収量が増加して切り花品質が向上した.3. 'カルメン'に対して, 冷却液の循環時間を夜間に制限して17℃以下の経過時間が1日6時間となるように地温制御を行うと, 連続冷却した場合に比べて, 栄養シュートの発生が促され, 秋季の切り花品質が向上した.4. 'カルメン'の据え置き株に対して, 6月12日からの地中冷却に先立つ8&acd;20週間を地温20℃に設定して地中加温を施したところ, 夏季から秋季にかけて栄養シュートの発生が促され, 初秋の収量が増加するとともに切り花品質が改善された.
著者
東出 忠桐 後藤 一郎 鈴木 克己 安場 健一郎 塚澤 和憲 安 東赫 岩崎 泰永
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.523-529, 2012-10-15

キュウリ短期栽培においてつる下ろし法および摘心法が乾物生産や収量に及ぼす影響を収量構成要素から解析した。太陽光利用型植物工場内で噴霧耕方式の養液栽培により,3品種のキュウリについて,4本の側枝を伸ばしてつる下ろしを行う場合と,主枝を第20節および側枝を第2節で摘心する場合とを比較した。2011年7~10月に比較実験を行ったところ,果実生体収量は,すべての品種でつる下ろし区に比べて摘心区の方が多かった。収量の多少の原因について収量構成要素から解析すると,果実生体収量が多かった摘心区および品種では果実乾物収量が多かった。果実乾物収量が多い理由は,果実への乾物分配率およびTDMがともに多いためであった。実験期間全体のTDMの違いは光利用効率の違いに関係していた。ただし,定植後40日までは積算受光量の違いがTDMや収量に影響していた。
著者
小野崎 隆 山口 隆 姫野 正己 池田 広
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.974-978, 1999-09-15
被引用文献数
5 17

Pseudomonas caryophylliにより発生するカーネーション萎ちょう細菌病は, 日本でのカーネーション栽培上最も重要で問題となっている病害であり, ほとんどの栽培品種は本病害に対しり病性であることが知られている.本報では, 野菜茶試で維持保管しているダイアンサス属野生種の萎ちょう細菌病に対する抵抗性を, 浸根接種法による検定により評価した.接種から91日後の発病率によって, 抵抗性を極強(発病率 : 0%), 強(発病率 : 0<&acd;≦20%), 中(発病率 : 20<&acd;≦40%), 弱(発病率 : 40<&acd;≦70%), 極弱(発病率 : 70<&acd;≦100%)の5つに分類した.検定試験の結果, 本病害に対する抵抗性が極強(発病率 : 0%)の野生種2種, D. capitatus ssp. andrzejowskianusとD. henteriを見いだした.これらの2種は, 実験期間を通じて全く病徴を示さなかった.さらに, 抵抗性が強(発病率 : 0<&acd;≦20%)の野生種7種類を見いだした.4菌株を用いた再試験の結果, D. capitatus ssp. andrzejowskianusが最も強い抵抗性を示す野生種であることが明らかになった.
著者
矢羽田 第二郎 野方 仁
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.202-207, 2000-03-15
被引用文献数
2 5

結果節位の異なるイチジク'蓬莱柿'秋果の発育および形質の変動と発育期間中における気温の影響について, 1996年から1998年までの3カ年にわたって検討を行った.1. 第3節, 第8節および第13節の秋果の結果日から収穫日までに要した日数は80&acd;89日で, 果実の発育期間中の積算温度(基準温度0℃)は年次, 節位にかかわらず, ほぼ2, 100℃前後であった.横径, 縦径および果実重は第3節の果実が顕著に大きく, 節位の上昇とともに果実が小さくなる傾向が認められた.果皮色のE値は, 節位の高い果実ほど低下して着色が優れた.小果の可溶性固形物含量には, 節位間に一定の傾向が認められなかった.2. 結果後の気温は第3節と第13節で対称的な変化を示し, 第3節では結果初期の気温が低く, その後は収穫期まで上昇したのに対して, 第13節では結果初期の気温が高く, その後は収穫期まで低下した.第8節は, 第3節と第13節の中間的な気温変化を示した.果実の発育期間中の気温は各節位ともおおむね最低気温15℃以上の範囲で推移したが, 果実が未成熟であった1996年の第13節では, 結果後76日以降の最低気温が13℃に低下した.3. 果実の横径, 縦径, 果実重は, 結果後30日までの気温との間に有意な負の相関が認められた.また, 横径, 縦径, 果実重は収穫前5&acd;15日間の平均気温, 最低気温との間に有意な正の相関が認められ, とくに収穫前5日間の最低気温との相関が高かった.果皮色のE値も, 収穫前15日までの平均気温, 最低気温との間に有意な正の相関が認められた.小果の可溶性固形物含量は, 果実発育期間中の各時期とも気温との間に有意な相関が認められなかった.
著者
福地 信彦 本居 聡子 宇田川 雄二
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.277-281, 2004-09-15
参考文献数
18
被引用文献数
2

トマトにおける摘果処理と摘葉や葉面積を増やすための側枝利用などの整枝が、果実糖度と収量に与える影響を検討した。1果房当たりの着果個数を制限しても、総収量、上物収量は増えず、果実糖度の向上には結びつかなかった。摘葉や葉面積を増やすための側枝利用などの整枝を異にしても、総収量、上物収量に差はみられなかった。摘葉は果実糖度を低くし、各果房直下の側枝を利用し1果房当たりの葉数を増やすと、糖度の向上が図られた。
著者
藤原 隆広 吉岡 宏 熊倉 裕史
出版者
園芸学会
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.169-173, 2002 (Released:2011-03-05)

キャベツセル成型苗の育苗後期に、徒長抑制と順化を目的にNaCl処理を行う場合の処理濃度、処理開始時期および処理回数が苗質に及ぼす影響を調査した。1)NaCl濃度が高くなるほど、生育抑制効果は高く、NaCl濃度を1回処理で1.6%、5回処理で0.4%とすることで、草丈を対照区の80%程度に抑制することができた。2)5回処理区では、NaCl処理によって地上部の乾物率が高くなった。3)NaCl処理濃度が高くなるほど苗体内のNa含有率は増加した。4)NaCl処理による定植後の生育への影響は小さかった。5)苗の耐干性を評価するために断水処理を行った結果、苗の生存率は、NaCl処理によって大きく向上し、1回処理よりも5回処理で高かった。以上の結果、草丈20%減少を目的にNaCl処理を行う場合、液肥へのNaCl添加量は0.4%が好ましく、処理回数を1回とする場合は1.6%程度の濃度とすることで、0.4%を5回行った場合に準ずる苗質改善効果が得られることが明らかとなった。
著者
池澤 和広 福元 伸一 遠城 道雄 吉田 理一郎 岩井 純夫
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.35-40, 2014
被引用文献数
4

湛水処理がサトイモ'大吉'の生育,収量および蒸散に及ぼす影響について,ポット栽培において検討した.湛水処理開始後約120日目の'大吉'の葉柄長は1.3~1.9倍に伸長し,地上部の生育が促進された.また,蒸散量も約2倍に増加した.収量は,畑地栽培用品種の'大吉'は親芋重が1.3~4.4倍,分球芋重が1.6~3.7倍と増収し,湛水栽培用品種の'田芋'同様,湛水栽培における適応性が高いことが示唆された.
著者
越智 靖文 伊東 正
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.43-48, 2012-01-15

果実内発芽し難い1系統と果実内発芽し易い2系統を供試材料とし, 果実内発芽と内生アブシジン酸含量の関係を明らかにするために,カリウム濃度の異なる3種の培養液(2.4,4.2および6.0me・L-1)で栽培した. その結果,果実内発芽し易い系統では,カリウム濃度の低下により1果当たりの種子数が明らかに減少した. しかし, 果実内発芽し難い系統では,カリウム濃度は種子収量に影響を与えなかった. 葉柄ならびに胎座部周辺の果汁中のカリウムイオン濃度は,果実内発芽し易い系統より果実内発芽し難い系統で高かった. 果実内発芽はカリウム施肥量の減少に伴い,果実内発芽し易い系統で増加したが,果実内発芽し難い系統では,いずれのカリウム濃度でも果実内発芽は認められなかった. 胎座部周辺の果汁中のABA含量は,カリウム施肥量の減少に伴い減少した. ABA濃度が異なる水溶液を用い,種子の発芽試験を行ったところ,果実内発芽し難い系統ではABA濃度の増加に伴い種子の発芽が著しく抑制された. 以上の結果から,カリウム施肥量の減少により胎座部周辺の果汁中のABA含量が減少し,その結果として果実内発芽が増加すること,また,果実内発芽し難い系統は,低いABA濃度閾値で種子の発芽抑制があらわれるものと推察された.
著者
山口 訓史 後藤 丹十郎 小日置 佳世子 大谷 翔子 田中 義行 吉田 裕一
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.161-167, 2014
被引用文献数
1

最低気温がシュッコンカスミソウ'アルタイル'の形態異常花序発生および切り花形質に及ぼす影響を調査した.形態異常花序を異常の特徴と程度に基づき3つのタイプ(1:茎が短いもの,2:2本の茎が癒着,3:ひどく湾曲し変形したもの)に分類した.形態異常花序の発生は初冬から早春にかけて増加した.軽度なタイプ1とタイプ2による形態異常は,開花時期に関係なくほぼ一定の割合で発生が認められたのに対して,切り花の外観を大きく損なうタイプ3は3月開花の個体で大幅に増加した.最低気温(7°C, 11°C, 15°C)が形態異常発生に及ぼす影響を調査したところ,タイプ3は最低気温が低いほど発生率が高かった.一方,切り花長,切り花重は最低気温が高いほど劣ることが明らかになり,形態異常花序発生を抑制したうえで,十分なボリュームの切り花を得るためには11°Cの加温が有効であると考えられた.栽培期間中の低温への積算遭遇時間とタイプ3の発生割合の関係を分析したところ,発蕾から開花までの積算低温遭遇時間と形態異常花序発生の間に相関は認められず,摘心から発蕾までの積算低温遭遇時間と形態異常花序発生との間には有意な相関が認められたことから,摘心から発蕾の期間における9°C以下の低温遭遇が重度の形態異常花序(タイプ3)の発生に関与することが示唆された.
著者
下中 雅仁 細木 高志 冨田 因則 安室 喜正
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.623-631, 2002-09-15
被引用文献数
6

電気細胞融合により, ネギ(Allium fistulosum L., 2n=2x=16)とタマネギ(A. cepa L., 2n=2x=16)との種間体細胞雑種を育成した.ネギのプロトプラストからのコロニー形成を阻害するためのヨードアセトアミド(IOA)濃度を明らかにした.IOA処理を行ったネギプロトプラストと分裂能を持たないタマネギプロトプラストを混合し, ヘテロカリオンのみが選択的に発達するための細胞融合法を構築した.その結果, 培養45日目には417個のコロニーが得られ, その内の約80%がカルスへと発達した.325個中の33個(10.1%)のカルスからシュートの発達が認められた.これらの個体の中には奇形を示すものもあったが, 2個体はガラス温室で生育した.細胞遺伝学的およびDNA解析を行った結果, ガラス温室内の個体はネギまたはタマネギの葉緑体を有する複二倍体(2n=2x=32)の体細胞雑種であることが明らかとなった.さらに, 他の3個体はネギの核ゲノムとタマネギ由来の葉緑体を有していた.これらの個体のネギの育種上での利用について考察した.
著者
小泉 丈晴 山崎 博子 大和 陽一 濱野 惠 高橋 邦芳 三浦 周行
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.205-208, 2002-09-15
被引用文献数
3

アスパラガス促成栽培における若茎の生育に及ぼす品種, 低温遭遇量, 株養成年数および性別の影響を検討した.曲がり症は, 低温遭遇にともない発生率が低下し, 曲がり症を発生した若茎に立枯病の病徴である導管褐変がみられなかったことから, 促成栽培における曲がり症は休眠覚醒が十分でないことにより発生すると推定された.2年生株の供試品種いずれにおいても, 販売可能若茎重および若茎収穫本数は低温遭遇量が多い区で増加した.'バイトル'および'ウェルカム'は, 低温遭遇量が少なくても曲がり症発生率が低下し, 販売可能若茎重および若茎収穫本数が増加し, 'グリーンタワー'および'スーパーウェルカム'より休眠が浅いと考えられた.'グリーンタワー'の1年生株の雄株および雌株並びに2年生株の雄株では, 曲がり症発生率および販売可能若茎重から判断すると, 伏せ込み開始時期は2年生株を用いた従来の栽培よりも約2週間の前進が可能であることが示された.
著者
稲葉 幸雄 吉田 智彦
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.219-225, 2006-09-15
参考文献数
27
被引用文献数
2 6

栄養繁殖作物のイチゴでは,限られた育種材料間での交配を繰り返すため近親交配が問題となる.そこで,近年育成されたイチゴ品種の近交係数を計算した.また,近交係数と収量との関係を調べた.近交係数の計算は推論型言語Prologとパーソナルコンピューターを利用した手軽な処理系で計算プログラムを作成した.交雑実生の近交係数と実生の選抜率との間に相関関係は認められなかった.栃木県農業試験場栃木分場の育成系統(3次選抜系統)の近交係数と収量の関係を調べたところ,-0.37(危険率1%)の有意な負の相関が認められた.また,イチゴでは近交係数が0.3程度までであれば,近交弱勢による収量の低下は見られないことが明らかになった.近年育成されたイチゴ品種の近交係数は,一季成り性品種では0.2を超えるものが多く,'とちおとめ','章姫','さがほのか','あまおう','さつまおとめ','ひのしずく','やよいひめ'はそれぞれ0.261, 0.222, 0.257, 0.213, 0.257, 0.247, 0.346であった.一方,四季成り性品種では'サマープリンセス'と'きみのひとみ'の2品種がが0.183と0.195でやや高い値であったが,それ以外はいずれも0.1以下であった.代表的な一季成り性品種15品種の総当たり交配による雑種の近交係数を計算した結果,自殖を除いた近交係数の値は0.067〜0.440で平均は0.210となり,近親交配の程度が高くなることが明らかになった.