著者
倉本 香
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 1 人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-16, 2009-09

本論文は,モノローグ的と批判されるカント実践哲学の再検討を行う。カントによれば,理性的存在者はフェノメノンとヌーノメンという二つの性質を持っているのだが,それがいかにして同一の主体において「二重に」現れてくるのか,という点に焦点を当てて論じている。この「二重性」は,道徳法則の働きによって他者の「均質性」と「異質性」としてあらわれると解釈することで,カント実践哲学のモノローグ性を克服する可能性を示し,実践的複数主義としてのカント解釈のあらたな問題圏を切り開いてみたい。This paper tries to reconsider Kants' practical philosophy sitting in judgment upon a monologue. According to Kant, rational being has the dual natures, one is homo noumenon,the other is homo phaenomenon. Therefore the attention is focused on this dualism to examine how the dual natuers appear on the same subject. We can interpret this dual function of rational being appears the 'homogeneity' of others and the 'heterogeneity' of others by the effect of the moral law. Through this interpretation, it is possible too that there may be one different reading of Kants' practical philosophy from monologue and there is no difficulty to open up a new subject of Kantianism as the practical pluralism
著者
住谷 裕文
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. I, 人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.195-205, 1986-12

外国のある作家を真に理解するというのは決して容易なわざではない。その作家の作品の理解だけでは,およそ十全な把握をなしえたとは言いえないからである。その国の文化的特色や時代的状況,その他さまざまのことに深い知識が必要である。そうしてはじめてその作家の独自性が浮かび上がって来る。私が研究対象としているスタンダールについては,ことにその感が深い。いまここに取り上げようとしている作品の筆者は,スタンダールとわずか18年の期間をこの世で同じくしたに過ぎず,政治的にもスタンダールが共和主義者であったのにたいして,王統派,スタンダールが青年時代ナポレオンのイタリア遠征に参加して以来,熱烈なイタリアびいきになったのにたいし、終始変わらぬフランスびいき,とまったく正反対の人物である。しかもその文学観もほとんど対蹠的である。けれどもこの人物のフランス文学にたいする見解は,フランス語の特質をめぐる議論とともにフランス語およびフランス文学史のさまざまの問題を浮かび上がらせてくれると同時に,スタンダールのフランス文学史における姿を,幾分かは我々に明瞭にさせてくれるようにも思うのである。そしてその結論については後日,また別の論考で明らかにしたい。En 1782,l'Academie de Berlin a mis au concours le sujet suivant:Qu'estce qui fait la langue francaise la langue universelle de l'Europe?Par ou merite-t-elle cette prerogative?Peut-on Presumer qu'elle la conserve?Elle a couronne le<<DISCOURS SUR L'UNVERSALITE DE LA LANGUE FRANCAISE>>d'Antoine Rivarol en 1784.Ici,nous examinons son<<DISCOURS>>.
著者
小野 恭靖
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. I, 人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.71-98, 1993-09

「隆達節歌謡」は五一九首の歌と五〇種を超える歌本の存在がこれまでに確認される。このことは研究者が「隆達節歌謡」を引用する際に、きわめて複雑な手続きを要求されたことを意味している。筆者はかつて、「「隆達節歌謡」諸本索引」(『梁塵 研究と資料』第二号<昭和五十九年十二月>)を編集し、「隆達節歌謡」の各歌がどの歌本に収録されているかを示したことがあった。本稿では五一九首の歌謡すべてについて改めて校訂本文を作成し、適宜漢字をあて、読点を付して読み得る詞章とした。また、その歌謡が収録される歌本とその位置を略号を用いて示し、諸本索引としての機能を持たせた。本稿は前稿「「隆達節歌謡」諸本索引」に新資料を増補して大幅に改訂したものである。There are 519 songs and more than 50 song books in"Ryutatsubusi-kayo".This means that complicated procedures were needed when reserchers quoted the songs of"Ryutatsubushi-kayo".I have edited"The Index of Ryutatsubushi-kayo"("Ryojin"Vol.2(December,1984))before,and have shown in which book each song of"Ryutatsubushi-kayo "is contained.I collated all the 519 songs and made a text.It is added to the index in this report.This report is a revision of"The Index of Ryutatsubushi-kayo".
著者
亀井 一
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、18世紀後半ドイツの諷刺作家ジャン・パウル、リヒテンベルク、ヒッペルのテクストを取り上げ、テクストの主体という観点から、作者とテクストの関係を考察した。本研究で、テクストの主体というのは、広い意味で、客体としてのテクストに対する発話者をさし、その主体が実在しているのか、虚構なのかは、さしあたって問わないことにする。語る主体は、登場人物、あるいは、語り手としてテクストに現われるが、テクストの作者とは区別される。テクストの主体は、作者をとおしてテクストに入り込んだ他者であるかもしれないし、作者のなかにある無意識(他者)であるかもしれない。たしかに、テクストは作者によって書かれたものであるが、書かれたものは、しばしば、作者の意図を超えたなにものかになっている。テクストの主体と作者のあいだのズレはここから生じる。本研究で取り上げた作者たちは、自分がテクストに書き込んだ「わたし」に他者を見出し、それぞれの観点からテクストの主体を主題化することになった。ヒッペルが社会との緊張関係のなかで、自己と書く主体のあいだの亀裂を明確に意識していたとするならば、ジャン・パウルはテクストの虚構性との戯れのなかで、ヒッペルと同じ問題に直面した。ジャン・パウルは、自己の真実を追究してゆくなかで、作者としての自己が虚像の「わたし」であることを認めざるをえなかった。一方、リヒテンベルクが銅版画解説において目指していたのは、本来、虚構化ではなく、銅版画の厳密な再現だった。にもかかわらず、そこに恣意性が生じるのは、視覚芸術の記号体系と物語の記号体系の構造的な差異によると考えられる。本研究では、ラファーター、ジャン・パウルの図像解説テクストとの比較分析で、テクストの主体が意識化されてくる過程を追跡した。
著者
菊野 春雄
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

第一に、本研究では、これまでの目撃記憶の研究を評論した。目撃記憶の研究を予防的研究、診断的研究、回復的研究の3つのタイプに分けて考察した。さらに、これらの研究を展望することにより、予防的研究と診断的研究は多く行われているが、回復的研究が少ないことを考察した。特に、モンタージュ法や似顔絵法が、回復的研究の手法のひとつと考えられることを示唆した。第二に、幼児と大人を対象に顔認識の実験を行った。この研究の目的は、似顔絵を描くことが顔の再認にどのような影響を及ぼすのかを発達的に検討した。そこで、被験者にはビデオでターゲットの登場人物を呈示した。ターゲットの記銘は、偶発記憶課題であった。被験者がビデオを視聴した後で、半分に被験者である似顔絵呈示群には、実験者が顔を描いて、先程見たターゲットの顔を思い出すように促した。残り半分の被験者である統制群には、家の絵を描いて、家を思い出すように促した。その後で、数枚の顔写真を見せ、その中からビデオの人物がどれであるのかを再認させた。その結果、幼児では、統制群よりも似顔絵呈示群で、再認成績が有意に優れた。他方、大学生では似顔絵呈示群よりも統制群で、再認成績が優れた。この結果は、幼児と大学生で似顔絵が顔記憶に及ぼす効果が異なることを示している。幼児では、似顔絵を呈示することによって、ターゲットについて視覚的リハーサルが促されたのであろうと仮定された。他方、大学生はターゲットについて自発的に視覚的リハーサルを行っているが、似顔絵を呈示することによって妨害されたのではないかと仮定された。このことは、事件を目撃した後で、犯人についての似顔絵を描くことが、大人にとっては負の効果があるが、幼児には促進的効果があることを示唆している。
著者
永浜 明子
出版者
大阪教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

【目的】本研究の目的は,大学で体育実技に参加する障がいのある学生の状況を把握することであった.また,学生本人及び体育実技担当教員からの聞き取りにより,大学及び義務教育課程における障がいのある児童生徒の体育のあり方を検討することも目的とした.【対象と方法】対象は、滋賀県内の大学で障がいのある学生が参加する体育実技の学生(1クラス),障がいのある学生本人,体育実技を担当する教員3人であった.対象者には,研究の目的を十分に説明し,同意が得られた者のみを対象とした.対面式インタビュー,自由記述及びグループディスカッションを行った.障がいのある学生本人には,これまでの体育への参加方法,大学での体育実技参加に対する思いや不安,参加した感想を聞き取り,障がいのない学生には,障がいのあるクラスメイトと共に体育実技を行った意見・感想を自由記述及びディスカッションで表現してもらった.体育実技担当教員には身体的あるいは知的な障がいのある学生を担当した経験,障がいのある学生を担当した時の気持ちや困った点,障がいのある学生と障がいのない学生がともに「体育実技」に参加することのメリット・デメリットなどを述べてもらった.分析は質的記述的分析手法を用い,障がいのある学生及びクラスメイトの体育実技に対する思い,参加への阻害要因などをまとめた.調査期間は,平成19年4月〜平成19年9月であった.【結果と考察】障がいのある学生は,これまで体育実技に参加したことはなく,ほとんどが別室学習を行っていた.自身が体育実技に参加できる(その能力や機会がある)ことへの驚きが多く語られた.反面,他者に対する心配や不安(迷惑をかける)も述べられた.一方,クラスメイトの多くからは戸惑いが語られた.力加減や怪我をさせるのではないかという心配が戸惑いの一番の原因であった.しかし,障がいのあるクラスメイトが楽しんでいる姿を見て,一緒にしたい,一緒にできることを探したいというように変化したとの意見も多く見られた.実技を担当する教員からもやはり怪我に対する戸惑いが語られた.また,障がいのある学生を障がいのない学生が共に実技させたいと思う反面,障がいのない学生の運動量が減ってしまうことに対するジレンマも語られた.これらの心配や不安は,障がいに関する情報や障がい児者と接した(特に体育)経験の少なから生じると考えられる.学生・教員共に障がいのある学生とない学生が共に体育実技を行うことの意義は十分に感じており,幼少期から全児童生徒が共に体育実技を行うことが児童生徒のみならず,教員の授業展開に役立つことが示唆された.
著者
土井 秀和
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. IV, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.77-87, 1982-10-31

ハンドボールでは,直接得点につながるシュート技術の良否が勝負を決定する重要な要素となる。また,シュートを行なうと見せかけて相手を引きつけ,味方にシュートのチャンスを開くためのパスも得点をあげるために重要である。本研究では,シュート及びパスを取り上げ,それらの動作の形態的特徴や機能について,運動形態学的な考察を加え,シュート及びパス技術を探ろうとするものである。運動習熟の異なる3名の被験者(右利き)を選び,シュート及びパスを行なわせた結果,シュートの準備局面において,熟練者達(2名)は,胴体のねじり動作を伴いながら,右腕を後方に伸ばし,助走のスピードと同調することによって大きなバックスイングを行なっている。さらに主要局面において,右ひじをボールより先行させ,胴体を後方に反り,そのあとねじり戻し動作を行なっている。それらは,助走のスピードや胴体の運動をボールに伝導させる働きをしている。パスの準備局面において,熟練者は右ひざを曲げ,上体を後方に傾けることによって,助走のスピードをコントロールしている。さらに主要局面において,上体を前方に起こしながら,左足を正面に向けて踏み出し,パスを行なっている。それは,パスを行なおうとする方向への先取りを抑える働きをしている。Concerning the Hand Ball game, shoot technique is the most important factor to win. So, how to take a chance for good shoot is the task for all hand ball players. A player takes a chance for his partner to shoot by deceiving his enemies, for example, with motion pretending to try shoot, and then, his success of the passing the ball to the partner. The purpose of this study is to analyze the reasonable technique of shoot and pass by investigating the forms and the functions of shoot-motion and pass-motion on morphological method. Subjects of this investigation are 3 women who are selected by the skilled level of shoot and pass (all of them are right hand throwers). This investigations leaves much to be further studied, but following tendencies can be observed from the results obtained so far; The shoot-motions of skilled subjects (2 women) have tendencies as follows; 1) In preparational phase of shoot-motion, their backswing motion of right hand is accompanied with twisting the trunk backward, and is harmonized with the speed of running approach. 2) In main phase of that, their right hand elbow always goes ahead of the ball just being thrown, and also their trunk are bended like a bow and twisted forward. Those motions transmit speed of running approach and trunk movement to the ball. The pass-motion of skilled subject (1 woman) has tendencies as follows; 1) In preparational phase of pass-motion, she controls her speed of running approach by the motions, leaning her upper part of body backward and bending the right knee. 2), and in main phase of that, she passes the ball her partner by the motion stepping out her left leg toward the goal post, raising her upper part of body foward. Those motions have the function to deceive the enemy's deffence.
著者
松山 雅子 畠山 兆子 土山 和久 田中 俊弥 香山 喜彦
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

最終年の本年度は、二度の予備調査を踏まえ、2003年2月〜3月にかけて、国語科メディア・エデュケーションを標榜した単元学習を開発、実施、検討を行った。また、前年度から継続研究である英国映画研究所教育部門開発の教授法の考察ならびにドイツにおけるメディア教育の検討を基礎研究として行い、教授法ならびに教材開発を多角的に行うよう努めた。合わせて、予備調査を踏まえた子ども用国語科学習ソフト作成への見通しをつけた。具体的には、大阪府下・兵庫県下の公立小中学校ならびに大阪教育大学附属中学校の計10校の協力を得て、大阪教育大学との連携システムを構築し、テレビ・アニメーションを用いた読解表現単元を構想し、指導法ならびに教材資料の開発、指導前、中、後指導を行い、実施、検証した。パイロット授業は、作り手の立場に立って読む・表現することを目的とした単元学習「新しい国語「名探偵コナン」の予告編を作ろう」(全8時間)で、「子どものメディア環境アンケート」を補助調査として実施した。授業展開の大要は、動画の基礎読解→動画粗筋の作成→粗筋と予告編の違いに気づく→予告編の意図、機能および視聴者を意識した予告編案の作成→大学において子どもの予告編案の映像化→相互批評会→オリジナル予告編の批評→アンケート調査であった。短編中心の物語小説教材を扱うことの多い国語科にあって、30分番組という中篇物語を作り手の立場に立って読解し、受け手を意識して予告編に再構築するという学習活動は、学習者にとって予想外の困難さを伴う、新鮮な活動と映ったようであった。動画リテラシーを全面に取り立てた授業に対する子どもの反応と学習のさまは、ワークシートの学習記録ならびに事後のヒアリングによって検証した。大学において映像化をサポートした本研究の授業法によって、設備面で困難な学校でも実施が可能になり、小中校の実践者の方々にとって具体的な意欲付けになった。
著者
後藤 健介 金子 聰 藤井 仁人 奥村 順子 Panditharathne N. G. S. Gunasekera Deepa
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、スリランカにおけるデング熱の実態を把握するとともに、同国でデング熱の対策として実施されている、環境負荷のない、地域レベルでの地域清掃プログラムについて、エビデンス度の高い評価を行う研究を展開し、持続可能なデング熱対策を構築するために必要な基礎情報を収集することとした。研究成果として、実際に地域清掃プログラムが実施された、および拡大されている地域においてはデング熱患者が減少していることが分かった。この減少は自然環境の変化によるものではなく、本プログラムによるものであることも判明し、かつ、リサイクルや住民の協力、政府の指導の下、本プログラムが持続可能性が高いものでることが分かった。
著者
中馬 真里亜
出版者
大阪教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

1、研究目的国立美術館の現状分析と美術館との連携による企画展覧会を想定した教育カリキュラムを開発・実践する。2、研究方法(1)国立美術館との連携国立美術館(今年度は2館を抜粋)の設立経緯と教育普及活動の情報収集を行った。今年は京都国立近代美術館の学習支援担当者より、研究に対して多大な理解を得られ、積極的に情報交換ができた。その結果、生徒がテキストに迫る鑑賞教育を美術館で体験することによって、美術作品やその作者、学芸員からの学びを授業に還元できないか検討するに至った。そして、美術館との協同を基盤として、授業で子どもが作品について語る活動に効果が期待できるプロジェクトの計画を立てた。(2)学校・美術館・アーティストの協同京都国立近代美術館(1F講堂、3F企画展示会場、4Fコレクション・ギャラリー)を会場にして、子ども達が学芸員や作家の作品についての語り方の多様性に触れ、語り手の見方や作品への理解がどのようなテキストとなって現れるのかを知ることを目的としたギャラリートーク(館長と、5人の学芸員による10分間の作品解説)を展開する活動を実施した。実施期間美術館では企画展が開催されることになっており、その出品参加であるやなぎみわ氏が参加の意向を示した。会場に展示されてある作品の作者による45分間のアーティストトークが実現した。(3)アーティストのワークショップの授業導入美術館担当者から、授業の目的に近いと判断されるアーティストの活動の紹介を受けて、生徒活動に効果が期待できるアーティストのワークショップを授業の導入で行った。生徒が美術館の作品や実際に会ったアーティストの活動に触れながら、そのよさを、生徒自身が学校の授業に還元していくカリキュラムを実践した。3、研究成果美術館教育活動との具体的な連携を実践し、授業とのリンクの仕方を検討する上で必要な記録を得られた。今後、美術館のコーディネート力が学校教育に様々な働きかけとなる活動の具体的な方法を立案できる。
著者
山田 正行
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. IV, 教育科学 (ISSN:03893472)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.113-126, 2005-02-21

前号の考察を承けて,ここではまず学習者の自己決定や自主性に主眼を置くとされるM.ノウルズのアンドラゴジーを取り上げ,その実践にM.フーコーが論じた監視と処罰の支配抑圧装置であるパノプチコンが現象したことを批判し,ノウルズとは異なるヨーロッパ的な「人間教育学」としてのアンドラゴジーの意義を示す。そして,近代性批判の脈絡で成人学習論におけるいくつかのブルデュ研究を考察し,その中で,前号で批判したC.アージリスとD.ショーンの「自省」と理論的に異なる「自省」への接近を述べ,P.フレイレやJ.メジロウの「批判的自省」に視点を向けるべきことを論じる。
著者
竹井 瑤子 井奥 加奈
出版者
大阪教育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

包装による食品の劣化防止法は、近年の工業技術の進展による多機能を有する包装資材の開発により利点が多い重要なものとなった。反面、これらプラスチック類のごみ問題も放置できないものとなった。そこで、食品に求められる包装材の機能を食品学の立場から見直し、食品の品質低下を抑制できる最小限の機能を持ち再生しやすい包装資材を検討する基礎的データを得る事を目的とした。包装により遮断可能な劣化要因のうち透明プラスチックフィルムが遮断しにくい光に着目し、劣化作用が大きい紫外線が食品の品質に及ぼす影響を検討した。脂質モデルとしてリノール酸メチルを用い、3種の波長の紫外線を照射し生成した過酸化物を高速液体クロマトグラフィーで分離、定量した。その結果、波長が短い程、過酸化物の生成も分解も速いことが分かった。次に、β-カロチン、ヘモグロビン、クルクミン、インジゴカ-ミンに対し脂質と同様の紫外線照射実験を行い退色度を測定したところ、カレ-粉の色素クルクミンは365nmの紫外線でも退色がみられ、波長が短い程退色が激しかった。そこで、クルクミンの退色に対し、365nmの紫外線をカットする機能があるフィルムの防止効果を検討した。その結果、365nmの紫外線に対する退色防止効果が明かとなったが、蛍光灯のもとでは、効果が見られなかった。更に、実際の食品として匂いが大切なすりごまを取り上げ、4種のフィルムで包装して1カ月間保存し、ガスクロマトグラフィーにより香気成分を分析し、含有脂質を超音波をかけて抽出後その過酸化物価を測定した。アルミラミネートフィルムでは品質保持効果が最も高く、365nmの紫外線カットフィルムでは異臭成分の生成防止効果が見られ、酸素遮断フィルムでは脂質酸化防止効果が見られた。
著者
小野 恭靖
出版者
大阪教育大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

今年度は昨年度に引き続き、諸図書館・文庫などに所蔵されることば遊び関連文献資料の閲覧調査、及び複製の収集を行った。具体的には国立国会図書館、東京都立中央図書館、早稲田大学図書館、京都大学附属図書館、京都府立総合資料館、京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター図書室、大阪府立中之島図書館、大阪市立中央図書館を訪ね、ご所蔵のことば遊び関連文献(写本・版本)の閲覧と複製の収集を実施した。今年度はきわめて多岐にわたることば遊び資料の閲覧が叶った。また、自ら古書店を訪ね、研究費の一部を用いて、貴重な江戸期のことば遊び文献資料(文字絵関係資料、三段なぞ関係資料を中心とした諸種のことば遊び資料)を購求し、大阪教育大学図書館に蔵書として収めることができた。そして、それらの一部については『学大国文』誌に翻刻紹介をし、広く公開を図った。ことば遊び研究に関わるその他の実績としては、高校生向けの啓蒙的な文章を執筆し、大阪桐蔭高等学校発行の教育研究誌『桐』に二度(「回文・倒言・アナグラム」と「早口ことば」)にわたって発表した。また、今年度も、歌謡文学に見られることば遊びの分析を文献調査と並行して行った。中でも昨年度に引き続き、ことば遊びときわめて関連の深い子どもの歌謡(以下、「子ども歌」と呼ぶ)を対象として研究を実施した。この「子ども歌」の研究成果の一端は、医療生活協同組合編『comcom』誌上に連載エッセイの形で発表した(本成果についてはエッセイのため裏面の「雑誌論文」からは除外した)。また、NHKラジオ第二放送「私の日本語辞典」に出演し、「子ども歌の系譜」と題して40分の番組を4本収録した(放送は平成20年4月)。
著者
松山 雅子 土山 和久 住田 勝 井上 博文 畠山 兆子 香山 喜彦 羽田 潤
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

現職教員向けメディア学習実践理論書と学習ソフトをセットした『自己認識としてのメディア・リテラシーPARTII』(学習ソフトDVD付)(松山雅子編著・香山喜彦プログラムデザイン、畠山兆子、羽田潤、粟野志保、増田ゆか、松尾澄英、土居安子分担執筆)』(教育出版、2008年8月20日、全262頁)を刊行し実践現場に寄与するべく、平成18年度から継続的行ってきた学習プログラム試案とそれに基づく小中学校および大学におけるパイロット授業、学習者反応の検討、現職研修ワークショップと指導者反応の考察を行った。
著者
真野 祐輔
出版者
大阪教育大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究における主要な成果は次の2点である。一つは,概念変容という角度から,カリキュラムや領域の構成を検討することを通して,具体的な概念変容場面として「変数性に関する概念変容」を同定したことである。もう一つは,「式」のコンセプションの変容を捉える枠組みに基づく授業を設計・実施し,理論的枠組みの妥当性やその実践的有効性を検討したことである。
著者
佐藤 虎男
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. I, 人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.161-170, 1975

人間の生活は言語の生活であり、言語の生活は音声生活(音声による生活)と見ることができる。意味の形である音声に表現する生活、音声化生活であると見られる。音声化には地方的傾向がある。個々人の音声化行為は、日本語方言音声を母胎とするそれぞれの地方的傾向に立脚して営まれる。じっさい,そのようにしか音声化しえないのである。筆者はさきに、伊勢大淀(おいず)方言のアクセントをとりあげたが、それはまさに、上述のような音声生活上の地方的傾向を明らかにしようとしたものであった。とくに当該方言は、アクセントの面においていちじるしい特色を見せていることを、文アクセント・語アクセントの両面にわたって報告したのである。もっとも、このアクセント特色は、近隣方言アクセント状態の中において対比的に看取されたものであった。一段と巨視的な観察によれば、じつは、これが、熊野路一帯に見られる特色アクセントと系脈を等しくするものであって、突然変異の異端などではないと考えられるものだったのである。アクセント面においてしかりとすれば、音声生活上の他の面においても、同似の事態がおそらく認められるであろう。表現法や語詞語彙の面においてもまた,熊野路の方言、まぢかくは、志摩地方方言と同系脈の諸事象を種々見いだしうるに違いない。本稿は、そのような意向のもとに、アクセント報告の続報として、当該方言の音声生活一般を、要約的に記述しようとするものである。(表現法その他は後日に譲る。)Once I reported the result of my study of the accent of Ise-Oizu dialect. And this time, I report the phonetical study on the pronuncation of Ise-Oizu dialect. This report says that in this dialect there are various features which are similar to that of the southern part of the Kinki district on the point of the vocal sounds as well as on the accent.
著者
榎木 泰介 今井 唯 山中 にな子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第3部門, 自然科学・応用科学 (ISSN:13457209)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.49-55, 2014-02

本研究は,大学体育会アメリカンフットボール部に所属する男子大学生70名を対象として,スポーツ活動における障害と外傷の発生について検討を行った。集計を行った2011年と2012年に発生した障害および外傷を対象に,発症の部位について,負傷者の属性(ポジション・学年)と調査年度による比較を行った。発症部位の分類は,1)頭・頚部,2)体幹(腹部・背部)および腰部,3)肩,4)腕および手・指部,5)大腿部,6)膝関節,7)下肢および足部である。調査対象の集団について,それぞれの身体組成を反映する所属ポジションから3群に分け,バックス群(B群),ミドル群(M群),ライン群(L群)とした。 集計を行った2年間における総受傷件数では,2011年と比較して2012年で2.2倍に増加した。1人当たりの平均受傷件数をみると,B群とL群において,2011年と比較して2012年で有意に高い値を示した。学年間の比較では,M群において高学年群が有意な高値を示した。受傷部位では,2012年に膝関節の負傷が増加しており,特にM群で顕著であった。 今回の対象集団では,2012年度において運動(練習・試合)の強度・頻度・時間が高まり,受傷件数が増加したと考えられる。そのような状況において増加する可能性のある受傷部位は,L群では脳震盪を含む頭・頚部,M群では前十字靱帯損傷を中心とした膝関節,B群では肩関節であった。これらのスポーツ障害および外傷を未然に防ぐには,テーピングや可動域を固定する装具などの活用,ポジションおよび競技固有の技能を支持する骨格筋群を中心としたトレーニング,学年や運動能力を考慮した練習強度と年間計画の設定などが重要である。This study investigated the occurrence of sports injuries and disorders in 70 students who belong to the collegiate American football team. We collected and surveyed a large number of sports injuries, trauma, failure and disorders occurred in 2011 and 2012. The case reports were divided into 7 groups according to following body sites, 1) head and neck, 2) body trunk(abdomen, lib and back), 3) shoulder joint, 4) arm, hand and finger, 5) femoral region, 6) knee joint, 7) lower leg and foot. These data were compared by the year, position in football and school grade. In addition, we set three groups from the position reflecting their body composition profile. There were bucks group(B), middle group(M), and lines group(L). The total number of injuries was increased to 2.2 times in 2012 compared to 2011. The average number of injuries per player, L and B group were significantly higher in 2012 compared to 2011. In the M group, the upper grades(senior and junior)showed a significant higher injury rate than lower grade(junior and freshmen). Moreover, M group had a tendency that injured risk of knee joint site was increased in 2012. It is considered that increased playing time, intensity and frequency in practices and games in 2012 had strong correlation with significantly increased number of injuries. Distinctive injuries related with the football position were 1) head and neck damages including a concussion in L group, 2) knee ligament damages in M group and 3) shoulder joint damages in B group. To forestall these sports injuries, utilize of the equipments and sports taping for fixing the range of motion, introduce the physical training, athletic rehabilitation and physiotherapy with a focus on the playing movement that supports for position-oriented football skills.
著者
新福 祐子 与野 留美子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. II, 社会科学・生活科学 (ISSN:03893456)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.57-70, 1988-08

最近の社会の発展と物資の豊富さは,従来の家庭生活の在り方や様式まで変えてきた。このことは,児童の家庭生活における基礎能力にまで影響してきている。それは今までのものと違ってきており,また一般には低下しているといわれている。しかもその能力養成も次第に学校教育に求められようとしている。最近の改訂の中でも小学校低学年に「生活科」が設置されようとしている。そこで児童の年令別の家庭生活基礎能力の実態を調べて,同時にその両親達のこれに関した意識とも比較しながら,その学習時期にも検討を加えた。Recently our abundant lives change manners and style of the home life.This influences on the children's basic abilities of doing family affairs.Those abilities become different from the traditional ones and it is said that the level of abilities grows weak.Now we investigate the practice of children's abilities of doing family affairs and ask to parents in what school year children should be trained for getting the abilities.We discussed that what kind of and when those abilities should be given to children.
著者
小野 恭靖
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. 第Ⅰ部門, 人文科学 = Memoirs of Osaka Kyoiku University (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.81-86, 2014-02

江戸時代から明治時代にかけて"三段なぞ"にかかわる出版物が多く刊行された。一方、江戸時代末期から明治時代初期を中心に"おもちゃ絵"と呼ばれる子ども向けの錦絵版画が多く摺られた。そして、三段なぞがおもちゃ絵として出版された資料もあった。すなわち、同時代を彩った三段なぞとおもちゃ絵という両者が出合った記念すべき資料ということになる。それら三段なぞのおもちゃ絵資料は日本の伝統文化のひとつでありながら、今日では忘れ去られていると言っても過言でない。本稿では"∧や"という版元から出版された三段なぞのおもちゃ絵資料である『新作なぞなぞ合』『新撰なぞなぞ尽』の二種を翻刻紹介し、その意義を明らかにする。Many published matters about riddles were printed between the Edo era and the Meiji era, while many colored prints called Omochae appeared in the same period. Some prints are combination of riddles and Omochae. Today they are forgotten although they are one of Japanese traditional culture. "Sinsaku Nazonazo Awase(新作なぞなぞ合)"and "Sinsen Nazonazo Zukusi(新撰なぞなぞ尽)" are prints of Omochae with riddles, which were published with ∧ya(∧や). These prints are introduced in this report.