著者
河岸 美穂 綿引 伴子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.48, pp.23, 2005

<B>(目的)</B>少子化が進み、児童虐待や育児放棄などが多発している中、子どもについて理解し、乳幼児に適切に対応できる力をはぐくむことは大切である。先行研究より、乳幼児に対する興味・関心や理解を深めるために、保育体験をすることは有効であることがわかっているが、家庭科の単位数が減少している中、家庭科の授業の中で保育体験の時間を確保することは難しい現状である。そこで、幼児に対する興味・関心や理解を深めるとともに、生徒の自己理解を深め、進路選択の一助になることを期待して「総合的な学習の時間」において幼児と接するための学習と保育体験を行った。この体験が生徒の自尊感情や社会的スキルを高めることに役立つかどうかを考察することと、高校生だけでなく、参加した高校教員、保育士、幼稚園児の意識調査から、保育体験の有効性と課題を検討することを目的とした。<BR><B>(方法)</B>2005年に県立高校普通科2年生273名(男71名、女202名)を対象に総合的な学習の時間において幼児と接するための学習と保育体験を行い、保育体験学習前と体験後に乳幼児や保育体験に対する意識と、自尊感情及び社会的スキルに関する調査を行った。また、保育体験後に生徒と共に参加したクラスの担任・副担任14名、受け入れ先の保育士18名、幼稚園児365名に意識調査を行った。<BR><B>(結果と考察)</B>(1)生徒の自尊感情の平均得点は、保育体験後の方が有意に高かった。この結果から保育体験によって自尊感情が高まることがわかった。(2)社会的スキルについては体験前と後において有意差は見られなかった。短い体験時間では社会的スキルの変化までは難しいと考えられる。しかし、社会的スキルの高い生徒群ほど「子どもに対する興味・関心」「関わる自信」「成長を知ることの大切さ」が高く、子どもに対するマイナスイメージが低いことがわかった。(3)3才から5才の幼稚園児1人1人に聞いた結果、361人(99%)が「高校生と遊んで楽しかった」、359人(98%)が「また遊びたい」と答えた。(4)保育士は18名全員が園児にとって「良かった」「わりと良かった」と答えた。具体的には「大人とは違う、きょうだいとも違う年代の人と過ごす経験は大切だと思うから」「園児が自分のことを話そう、わかってもらおうとする姿がたくさん見られたこと」等と答えている。保育士さん自身は楽しかったかという質問に対しては、15名(83%)が「楽しかった」「わりと楽しかった」と答えている。その理由として「園児の違った一面を見ることができた」「つまらなそうな顔をしていた高校生が子どもと触れ合うことにより明るい表情に変化するのを見て」「普段、高校生と話す機会がないので」「若い子には負けられないといつも以上にハッスルできた」等と答えている。保育体験を続けたら良いかについては17名(94%)の保育士が続けたら「良い」「わりと良い」と答えた。保育体験の課題として、園児の安全を十分に考える、おしゃべりや私語を慎む、返事や自己紹介をしっかりする、積極的に子どもと関わる等をあげている。(5)参加した教員は回答しなかった1名を除く全員がこの体験が高校生にとって「良かった」「わりと良かった」、園児も「楽しそうだった」「わりと楽しそうだった」と答えている。意見・感想として「幼児との接し方がわからなく、幼い命が奪われてしまうことが多い中、十代のこの体験はとても意味があると思う」「実習の後、授業でもわがまま言う生徒が減った気がする。意外な生徒の意外な一面が見られて、教師側からも生徒理解を深めることができた」「園児は片づけや身支度『こんにちは』『さようなら』という基本的なことがきちんと出来ていたので、今の高校生が忘れている大切な基本を振り返る時間となった。この体験が保育に関しての知識を深め、進路決定に役立つことだろうと思う」と答えている。保育体験を続けたら良いかについては8名(57%)の教員が続けたら「良い」「わりと良い」と答えた。他の教員も保育体験をすることを否定しているのではなく改善が必要と述べている。改善点として、時期や時間帯、回数の見直し、教科との関連を探る、体験が生かされる総合的な学習の時間全体の「流れ」が必要、事前学習と身なり指導の徹底等があげられた。(6)総合的な学習の時間で行うことのメリットは、担任の引率で実施することで生徒の実習態度が良くなったこと。教室では見られない生徒の表情をみることができたこと。教員の生徒理解が深まること。デメリットは、事前事後の学習時間が確保しにくく、幼児の心身の特徴・行動パターン・接し方などの理解が充分とは言えないことである。
著者
福井 典代
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

【目的】<br>東日本大震災による原子力発電所の事故の影響から,昨年度の夏期には厳しい節電要請があった。企業とともに各家庭での協力が不可欠であり、節電に関する個人の意識を高めるきっかけとなった。学校現場においても環境問題の観点から、節電の必要性が高まっている。そこで本研究では、環境教育を取り入れることが可能な小学校家庭科において、節電に対する意識を高め、実践する能力の育成をめざした教材の開発を行った。<br>【方法】<br>1.大学生が考える環境問題について実態調査を行い(2012年12月)、類似した内容に分類して環境問題の大枠を捉えた。<br>2.小学校学習指導要領解説および小学校家庭科の教科書で取り扱われている環境教育に関する記述内容を分析した。<br>3.「環境教育指導資料(小学校編)」(国立教育政策研究所教育課程研究センター)の中から実践事例を教科別に調査して、小学校における環境教育の取り組みを把握した。<br>4.節電に関する教材を作成するために、一般家庭で用いられる電気製品の待機電力量(電子レンジ、パソコン、エアコン、テレビ、炊飯器)と消費電力量(冷蔵庫、エアコン、電気ポット、電気ケトル)を測定した。用いた測定器は、ワットメーター(SANWA SUPPLY TAP-TST9)である。<br>5.4で得られた測定結果を活用して、節電に関する小学校家庭科の授業案を作成した。 <br>【結果および考察】<br>1.大学生を対象として、環境問題として考えられることについて質問調査を行った。その結果、環境問題は「地球温暖化」、「ごみ問題」、「エネルギー問題」、「大気汚染」、「森林破壊」、「海洋汚染」、「生態系の攪乱」の7つに分類された。「エネルギー問題」では、「電力不足」、「原子力問題」、「自然エネルギー」、「資源の枯渇問題」の4つにまとめられた。<br>2.小学校では、家庭科、生活科、社会科、理科、道徳、総合的な学習の時間において環境教育に関する内容が取り上げられていた。家庭科では「D身近な消費生活と環境」を軸として、A~Dのすべての項目において環境教育が関連づけられていた。小学校家庭科教科書の比較では、K社の教科書が環境教育に関して充実した内容を記述していた。<br>3.「環境教育指導資料(小学校編)」の実践事例では、すべての学年において取り組まれており,調べ学習を行ったものが多い。家庭科では「ごみ」や「生活排水」を題材とした実践事例が多く,「節電」を題材とした実践事例は少なかった。<br>4.一般家庭で用いられる電気製品の待機電力量を測定した結果、テレビ、パソコン、電子レンジの待機電力量が、炊飯器、エアコンの待機電力量より7~9倍多い結果となった。電気製品の消費電力量では、冷蔵庫の強弱設定を強くすると消費電力量も増加し,冬場よりも夏場の方が消費電力量は多い。エアコンでは、暖房の設定温度を高くすると消費電力量も多くなった。電気ポットでは,水量1.0リットルの場合、電気ケトルで11回沸騰させる消費電力量と電気ポットを24時間保温しておく消費電力量がほぼ同じであった。<br>5.本研究で提案する小学校家庭科の授業案は、「C(2)快適な住まい方」と「D(2)環境に配慮した生活の工夫」との関連を図り題材を設定した。<br>本研究にご協力いただきました平成24年度卒業生の矢野由姫さんに感謝いたします。
著者
入江 和夫 (田結庄 順子 猪野 郁子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.8, 2003

<研究目的および概要><br> 本研究は小学4年生の衣食住等に関する生活技能の参加や意欲・関心,消費生活の実態や生活管理,家庭科の学習経験,問題解決能力等からなる調査票を用いた中国地区三県の児童・生徒への調査で得られたデータと全国データを比較し,地域の課題に対応したカリキュラム開発の基礎資料としたい。[二次分析]に当たり,日本家庭科教育学会「家庭生活についての全国調査」(科学研究費基盤研究(A)(1)課題番号13308005)の個票デー夕の提供を受けました。<br><研究方法>全国調査と同様の調査方法を用いた児童・生徒に対する自記式アンケート調査で,実施期間は9月1日から9月3日である。 本研究に用いたデー夕は全国データに反映した調査票(1264名)に加えた中国地区で協力が得られた学校の全ての調査表を再集計・再分析した。調査地点は大都市部,中小都市部,町村部の人口比より学校数を抽出し,小学校:9校,中学校:6校,高校校の計21校。配布数,有効回収数等は表1である。データ入力は,日本リサーチセンターに依頼した。集計・解析はSPSSを用いて,広島大学学校教育学部生の板口元気さん,窪田笑さん,上ノ原玲奈さんの3名には,言葉に尽くせない多大な協力をしていただいた。記して深謝申し上げる。第1~3報の集計・分析は,性別で考察を行った。<br><研究結果>中国地区三県の小学4年生の主な特徴は次である。<br>1、基本的な生活技能の実態と意欲・関心について<br>1)衣食住生活技能の実態と意欲・関心---食生活およびパソコンに関する仕事への参加度は、「いつも+ときどき」の割合は一様に低く、日常生活の中でほとんど実践されていない。衣生活に関する仕事の参加度は、「季節や気候にあった服装を自分で決める」の実践率が全体で60.1%と高く、その他「洗濯物をたたむ」が若干高かった以外は、食生活・パソコンに関する仕事と同様に低い実践率であった。全国の結果と比較すると、中国地区の小学4年生の仕事の参加度は低く、生活技能はあまり身についていない。<br>2)住生活・環境および対人関係---実践度は全体的に低い。「ゴミを決められた方法で捨てる」に関しては例外で,全国に比べてよく実践していたが,その他の環境に関する項目において全国を下回ったため,環境問題に積極的に取り組んでいるとはいいがたい。特に,対人関係3項目について,実践度の低さが目立った。<br>2.待間,金銭,消費生活についての自己管理 <br>1)時間についての自己管理---「朝の起き方」では,全体的に自己管理ができていたが,「いつも一人で起きる」は男子に多い。<br>2)生活についての自己管理---外出時の所持金については,「お金は持たなくてもいい」「わからない」と答えた児童が多い。<br> 3)コンビニヘ行く目的---「食べ物を買う」,「飲み物を買う」は60%前後で圧倒的に高い。全国と比較すると,コンビニの普及率及び利用率が低いせいか,回答の選択率が全体的に低かった。<br>3.幼児とのかかわり---子どもの遊び相手を頼まれた時「よろこんで遊んであげる」で男女で顕著な差があった。「あげたくない」「わからない」は男子が多い。全国との比較では,中国地区の男子の「幼児とのかかわり」に対する意欲が全国に比べて低いことが判明した。
著者
牧田 利枝 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>1 目的</b><br><br>近年、路線バスの廃線や減便などにより、「買い物弱者」といわれる日常の買い物にも困る人々が出現している。今後急速に進展する高齢社会では、クルマを運転できない高齢者が増加し、健康・福祉問題にも大きな影響を及ぼすと考えられる。また、環境保全からも公共交通を利用する社会のほうが望ましく、公共交通の確保は喫緊の課題である。<br><br>「交通すごろく」は「自らの日常生活の行動が周辺環境に影響を与える事実に気づき、環境との観点から自らの暮らし方を変える必要性の気づきになる」ことを意図して遊びながら行動変容を促すものである(松村2006)。先行研究では小学校の総合的な学習の時間や社会科で「交通すごろく」を実施し、「CO2削減に役立つから公共交通を利用すべき」というような環境学習の側面が強い。しかし、CO2削減からのアプローチでは徒歩や自転車通学の高校生に対する公共交通利用の動機づけは弱い。よって、家庭科の「まちづくり」や「高齢者福祉」「共生」などの領域を学習したうえで環境学習を絡めた「交通すごろく」を実施することが望ましいのではないだろうか。<br><br>そこで本研究では、「交通すごろく」を活用した授業実践とそれによる生徒の意識変容等をとおして、高等学校家庭科で地域の「公共交通」を扱う意義について考察する。<br><br><b>2 方法</b><br><br>・実施時期 平成27年2月10日~24日<br>・対象クラス 商業科2年生全クラス(7クラス)256名<br> <br>・地域の「公共交通」を扱う授業は以下の手順で実施された。<br>(1)家庭科教師による「交通すごろく」の実施<br>(2)交通政策室による出前授業の実施(バス利用等の意識についてのアンケート)<br>(3)家庭科教師による「交通すごろくの仕組み」の再確認(振り返りの実施)<br><br><b>3 アンケート結果</b><br><br>「交通すごろく」をやってみて、もっとバスを使ってみようと「とても思った」「少し思った」と回答した生徒186名について利用意向の増加数を算出した。<br><br>・交通すごろくをきっかけに、もっとバスを使ってみようと思った人数186名(72.7%)<br>・これからバスを使おうと思う回数の平均0.148(回/人・日)<br>・普段バスを使っている回数の平均0.169(回/人・日)<br>・(0.169-0.148)&times;186(回/186人・日)<br>=0.021&times;189(回/186人・日)<br>=3.906(回/186人・日)<br>&rArr;1426(回/186人・年)となり、商業科2年生全体で年間約1400回バス利用が増える見込みとなった。また、自由記述では公共交通は環境に優しいといった感想が多かった。<b></b><br><br><b>4 生徒の振り返り</b><br><br>「交通すごろくの仕組み」を再確認し、振り返りをさせたところ、バス利用促進に肯定的な記述が多くみられた。しかし、生徒は高齢者の「移動のしにくさ」について教師が期待するほど記述できていなかった。<br><br>また、自転車通学の生徒は、費用負担の割にはバス便の数が少なく混雑するバス利用にさほど魅力を感じていないが、バス利用の必要性がわかったと記述している。出前授業のアンケートからはわかりにくいが、振り返りからは、現状をすぐには変えることができない生徒の葛藤を読み取ることができた。<br><br><b>5 結果と課題</b><br>アンケートや振り返りから、生徒は「交通すごろく」を通して、地域の「公共交通」の重要性に気づき、利用促進についての実践的態度が育まれたことがおおよそ確認できた。<br><br>また、生徒は「交通すごろく」により、買い物、通院、通学などの生活基盤を踏まえて「わがまち」を捉えることができた。つまり、「公共交通」を切り口として高齢社会における「まちづくり」を身近に感じることが期待される。<br>以上のことから、家庭科で地域の「公共交通」を学習することで領域横断的な学習が可能であることが示唆された。次年度(平成27年度)は、高齢者・障がい者、子育て中の若い親などの「移動のしやすさ/しにくさ」を考えさせるように改善する。<br><br>&nbsp;参考文献<br><br> 西田純二ら(2014)まちづくりDIY,pp.118-124,学芸出版社<br><br>桐谷正信(2014)小学校社会科におけるモビリティ・マネジメント教育の特質,埼玉大学<br><br><br><br><br><br><br><br><br>
著者
吉本 敏子 小川 裕子 星野 洋美 室 雅子 安場 規子 吉岡 吉江 吉原 崇恵
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

<目的>家庭科の学習は、基礎的・基本的な学習が実生活の場面で実践できる力となることを目指している。そこで、日常の具体的な生活場面を想定し課題解決ができる力がどの程度身についているかを把握するための調査を行った。本調査の設計については、日本家庭科教育学会2013年度例会にてすでに報告をしている。調査の内容は、消費生活・環境、食生活、衣生活、住生活、家族・家庭生活の5つ問から構成されているが、今回報告するのは、消費生活・環境に関する結果である。<方法>調査時期:2013年3月~10月調査対象者:愛知県、静岡県、三重県の中学校1年生(小学校6年生を含む)298名、高等学校1年生(中学校3年生を含む)456名、大学1年生567名調査方法:質問紙法による集合調査 回収率:100 分析方法:1)回答の記述内容を読み取り、データベースを作成した。2)そのデータを集計(エクセル統計、&chi;<sup>2</sup>検定)し考察した。<結果> 消費生活・環境の調査内容は、インターネットを利用して靴を購入する場合の代金の支払いと、靴のサイズが合わないというトラブルが発生した時の対応の仕方、およびこれまで履いていた靴の処理の仕方について回答を求めている。そしてこの調査内容から読み取りたい内容を、a)靴の購入にかかる費用が分かり、情報を正しく読み取ることができる、b)インターネット上の情報から、返品交換の可否や条件が理解でき、その情報を基にトラブルへの対応ができる、c)モノを大切にする気持ちや環境への配慮ができる、の3つとした。aとbは、科学性(知識・技能の応用力)を、cは生活合理性(状況把握、姿勢や態度、価値観)を読み取ることができると考えた。 調査の結果は以下の通りであった。1)インターネットを通じて商品を購入した経験のある者は、中学生41.9%、高校生68.2%、大学生78.0%であった。2)靴の購入価格(販売価格+送料+振込手数料+後払い手数料)の正答率は、中学生45.6%、高校生41.7%、大学生52.6%であった。高校生は中学生に比べて正答率が低く、特に高校生男子の正答率は34.0%と低かった。振込手数料や後払い手数料が計算されていないと思われる誤答が多くあった。3)「靴のサイズが合わないというトラブルが生じた場合にどのように対応するか」(本調査の設問では返品交換ができる)については、「返品・交換ができることがわかり、自分で返品・交換をする」と回答したものが最も多く、中学生で80.5%、高校生で83.3%、大学生で87.1%であった。次に多かったのは「少しくらい小さくてもしばらく我慢して履く」であった。4)「今まで履いていた靴をどうするか」という問に対して最も多かった回答は、「友人や知人にあげる」で、中学生34.2%、高校生28.7%、大学生32.8%であった。その他にも「フリーマーケットに出す」「弟が履けるようになるまで取っておく」「予備の靴や思い出の靴として、しまっておく」「雨の日や作業などのときに履く」「放置する」「ごみとして捨てる」など多様な意見が出されていた。以上の結果から、科学性すなわち課題解決のために知識や技能を総合して活用できる力は、発達段階に応じて徐々に身についてきているが、大学生においても十分であるとは言い難い。また「今まで履いていた靴をどうするか」に見られた多様な回答は、モノを大切にする気持ちや環境への配慮という生活合理性に基づくものであるのかについて慎重な検討が必要である。
著者
一色 玲子 鈴木 明子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.26, 2007

<B><BR>【目的】</B></BR> 家庭科の調理実習は一般的にグループ活動として展開されており,その学習環境が多様な学びを構成している。実習台を取り巻く場の共有は,調理実習固有の「相互作用のある対話(transactive discussion:TD,以下TDと略記)」を誘発する。TDとは,「自分自身の考えをより明確にしたり,相手の考え方や推論のしかたにはたらきかけ相手の思考を深めたりするような相互作用のある対話(Berkowits&Gibbs,1983)」である。調理実習では調理の分担等,異なるモノや他者との関係性にもとづいた対話がみられる。本報告では中学校の調理実習を対象に,抽出班の授業過程におけるTDに着目し,対話の実態を探ることを目的とした。<B><BR>【方法】</B></BR> 授業分析の対象はF中学校の2年生2学級であった。対象授業は平成18年5月11日(1組),同16日(2組)に2時間構成の授業として実施された。実習題材は炊き込みご飯,だし巻き卵,すまし汁であった。<BR> 実習授業のVTR記録にもとづき,各学級抽出班5名のプロトコルおよび行動分析をおこなった。高垣ら(2004)の「TDの質的分析カテゴリー」にもとづき,他者の考えを引き出したり表象したりする表象的トランザクション(representational transaction)と互いの考えを変形させたり認知的に操作したりする操作的トランザクション(operational transaction)を検討した。さらに,個人意識および実習自己評価を質問紙により調査し,分析の資料とした。個人意識調査は,平石(1990)の自己肯定意識尺度をもとに対自己領域17項目(因子:自己受容,自己実現的態度,充実感)と対他者領域20項目(因子:自己閉鎖性・人間不信,自己表明・対人的積極性,被評価意識・対人緊張)計37項目を設定し,5段階評価で回答を得た。</BR><B>【結果および考察】</B><B><BR> 1.対話の量的分析および質的分析</B></BR> 抽出班一人当たりの対話平均回数は1組131.4回(対班員117.2回,89.2%),2組197.2回(対班員169.8回,86.1%)であった。そのうちTDを含む場面は1組10回,2組11回であった。両抽出班とも一人ずつだし巻き卵を焼く場面にTDが含まれていた。また,失敗や完成する場面では象徴的な表象的トランザクションが発現していた。さらに,他者の見守る中で作業する場面や他者を補助する場面等では,学習者相互に場の共有を認識したTDがみられた。<B><BR> 2.個人特性と対話との関連性</B></BR> 個人特性と調理実習の対話の質に関連がみられた。対人的積極性が高い生徒は他者評価が多く,自己受容が高い生徒は指示や指摘を与えることが多いこと,被評価意識が高い生徒は作業の確認が多く,自己閉鎖性が低い生徒は指示を受けることが多い傾向がみられた。<B><BR> 3.調理実習に対する評価と対話との関連性</B></BR> 実習後の自己評価アンケートより,「班員との協力」,実習の調理体験や他者のサポートにもとづく「役立ち感」,料理のできばえや他者からの称賛による「満足感」,先生や班員等「他者とのかかわり」から調理実習を肯定的に評価していた。これらは他者との対話に内在しており,両トランザクションによる認知的葛藤が知識・技能の習得にそれぞれ関与していることが推察できた。 具体的な調理操作を伴う調理実習において,対話におけるTDが活動や思考の方向性に影響を与えるだけでなく,学習者の認知的葛藤を引き起こすことが示唆された。中でも操作的トランザクションを含む他者間葛藤は学習者の情緒面と連動し,個々の学習評価に有用な役割をもつと考える。
著者
松岡 裕美 高木 直 大森 桂
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.77, 2003

<b><目的></b> 現在、高齢社会の担い手である若者が家庭や地域で高齢者と関わる機会は大変少なくなっている。しかし、若者が生活していく上で、他世代との共生は不可欠である。現行の学習指導要領では、高等学校家庭科においては、高齢者学習が位置づけられているが、中学校は選択領域であり明確には位置づけられていない。しかし、高齢者理解は中学生にとっても重要であり、著者らは、病床にある介護の必要な高齢者と関わるよりも、健康な高齢者と一緒に活動したり、高齢者の知恵や技に触れたりすることが高齢者理解により有効だと考えている。そこで、本研究では、中学生を対象に高齢者との直接体験等を通して、高齢者に対する感想の変化をとらえ高齢者理解を分析することを目的とする。 <br><b><方法></b> 対象は、山形大学教育学部附属中学校3年生であり、選択家庭科履修1クラス35名(男子 9名・女子26名)である。授業実践時期は2003年5月~7月である。具体的な方法は、? 単元導入時に高齢者に対するイメージ調査をする。 ? 高齢者と直接かかわる機会を持ち、感想文を書かせる。? 高齢者が活躍するビデオ(番組「鉄腕DASH」)の鑑賞後に感想文を書かせる。 以上の活動から得られたイメージ調査結果及び二つの感想文の分析をおこなった。なお、イメージ調査のカテゴリー分類は、山形大学教育学部3・4年生40名を被験者として2003年7月に実施した。 <br><b><結果></b> <b>(1)高齢者に対するイメージ</b> 「おとしより」をキーワードとして与え、このことばからイメージすることばを自由に書かせた。そのことばを大学生に判定させ、プラスイメージ・ニュートラルイメージ・マイナスイメージに分類した。「お茶」「早寝早起き」「物知り」「やさしい」などはプラスイメージに判定され、「白髪」「めがね」「つえ」などはニュートラルイメージに判定され、「ボケ」「入れ歯」「病院」などはマイ ナスイメージに判定された。各生徒について、その生徒がイメージしたことばを3つのイメージ群に分類し、各イメージ群のことば数の多い者をグルーピングした。プラスイメージの多い群をA群、ニュートラルイメージの多い群をB群、マイナスイメージの多い群をC群とした。その結果、A群は13人、B群は11人、C群は10人であった。<br><b>(2)高齢者と直接かかわる機会後の感想文</b> 「活動内容」だけを書いている生徒はC群に多く、「高齢者」について書いている生徒はA群に多かった。また、「活動の感想」について肯定的な感想を書いた生徒はA群に多く、特に「高齢者と会話をして楽しかった」という内容の感想を書いた生徒はC、B、A群の順に人数が増加した。<br><b>(3)高齢者が活躍するビデオ鑑賞後の感想文</b> 感想文中、高齢者に言及している字数は、A・B群に多く、C群が少なかった。感動を表わした感想を書いた生徒はA群に多く、消極的な感想を書いた生徒はC 群に多かった。しかし、「今後の展望」についての感想はC群が多かった。「高齢者」そのものに言及している生徒はA群に最も多く、次いでB群、C群の順であった。全体的に、A群は肯定的な感想や高齢者自身に着目している生徒が多く、C群は高齢者には着目せず活動内容のみの記述が多くみられた。しかし、C群のみの感想文の変化をみれば肯定的な感想や「今後の展望」への言及が増加し、健康な高齢者と直接かかわることの有効性が示唆された。
著者
田中 宏子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

【目的】内閣府の有識者会議は、東海・東南海・南海地震が今世紀前半にM9として発生すると想定している。さらに、日本全国には約2,000に上る活断層があると言われており、それらの活断層の中にはM7クラスの地震をもたらすものが確認されている。大規模地震発生の切迫性が高まっている中、生徒たちも自分や家族の命は自分たちで守るという重要性を強く自覚し、その実効性が今緊急に求められている。先の東日本大震災では津波防災教育を受けていた岩手県釜石市の子ども達の多くが生き残った。津波防災教育の有効性が確認されたが、これらは地震発生時の津波を主としたものである。本研究は地震災害全体を取り上げ、山崎<sup>1)</sup>が提案する、教科を主軸とする減災教育カリキュラムの理論に基づき、地震災害という非常時に生徒が即時に有効に対応できる家庭科授業の開発と強化を目的とする。<br>【方法】まず、学習指導要領の中に分散している減災の要素を全て拾い集めて整理し、児童・生徒の発達段階を考慮しながら、家庭科授業に於ける地震災害対応授業の内容とそのねらいを明らかにした。次に2009年11月に滋賀県公立の小学校90校と中学校40校の教諭と2011年7月に開催された滋賀県学校安全研修会防災教育指導者研修に参加した教諭を対象として、減災教育に関する調査を実施した。以上を踏まえ、既往の防災・減災教育に関する実践報告を参考にしながら、家庭科教育に於ける地震災害対応授業案を作成し、その一部の実践を試みた。<br>【結果及び考察】<br>1. 教科の中に組み込む地震災害に関する学習<br> 2009年の調査では、小学校で約4割、中学校で約5割の教室で大型備品の転倒・落下防止対策がなされていなかった。中学校においては自然災害の内容を含まない教科を担当する教諭は備災行動が遅れがちであり、教諭の担当教科と対策の間に関連がみられた。学校の減災を推進するには、全ての教科に災害に関する学習を組み込むことが有効であると考えた。そこで災害に関わる学習を、どの学年の何の教科で、どのような内容でできるかを自由記述で教諭に尋ねたところ、2009年、2011年の調査とも、どの教科においても授業案がだされ、全教科に災害教育を組み込むことができることを確認した。家庭科はその特性から、学校の災害対応力を強化するための先導的役割を果たしていきたい。<br>2.東日本大震災を経ての災害教育の変化<br> 2009年と2011年の調査から得た授業案を精査した結果、震災前と震災後で、生徒自身が自分で対応方法を「考える」指導方法をとる授業案が25.2%から55.6%へと増加した(p<0.001)。そこで地震災害対応授業では、生徒自身が自分で対応方法を「考える」ことを重視した。<br>3.災害状況のイメージ<br> 2009年の調査より、被災地に赴いての体験が減災行動に影響することを確認した。従って全ての教職員、児童・生徒が被災地を訪れることが望ましいが、時間的、空間的、経済的制約がある。また、女性教諭は現地に赴く比率が低いという性差もみられた。そこで現地体験が困難な場合、災害状況を感性で捉えて実体化するために映像による疑似体験を地震災害対応授業に導入した。<br>4.家庭科授業案<br> 災害時に対応できる冷静で俊敏な行動性を高める避難訓練授業をベースに、非常持ち出しベストのポケットに入れる物、家族災害計画、家庭にある危険要素、地震に強い家や地盤、地域の危険、エネルギー依存型のライフスタイルを考える授業などを作成した。これらの授業は宿題を通じて家庭と協働し、生徒自身に加え、家族や地域住民の減災に対する意識や行動を促すことをねらいとする。<br>1)&nbsp; 山﨑古都子、田中宏子:滋賀県における巨大自然災害にともなうリスクについての総合的研究、滋賀大学教育研究プロジェクトセンター報告書、2010.
著者
西岡 里奈 阿部 睦子 金子 京子 倉持 清美 妹尾 理子 望月 一枝
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

<背景と目的><br> 学習指導要領の改訂により、平成29年3月に告示された小学校学習指導要領から、小学校家庭科でも「A 家族・家庭生活(3)家族や地域の人々との関わり」の中で幼児又は低学年の児童との関わりができるよう配慮することが求められている。中学校や高等学校では、幼児や小学校低学年児との関わりは行われている。しかし、小学校では特別活動などで異学年との交流は行われているものの、家庭科の授業では少ない。そこで、本研究では六年生と一年生でスイートポテトを作る交流調理実習を行うことで、新たに小学校低学年児との関わりを取り入れた授業を開発し、小学校家庭科で異なる世代の人々との関わりを学ぶことの効果を検討する。<br><br><br><br><方法><br><br>①対象: 東京都内国立小学校六年生全3クラスのうち、1クラス34名を対象とした。このクラスについて全7時間(一年生との交流は2時間)の授業を開発した。<br><br>②ナラティブ分析:交流調理実習後に六年生が交流を思い出してナラティブを作成した。書かせる際には「文章で書くこと。時間の流れに合わせて、始めから終わりまで書くこと。そのとき自分が思ったことや、相手の様子・思っていることを書くこと。」とした。 <br><br> 一クラス分のナラティブを6人で読みあい、児童によるナラティブの特徴と、授業の効果をカテゴリーのまとまりとして確認した。カテゴリーは、中学校で小学校低学年児と交流を行った論文(倉持ら,2009)を用い、他のカテゴリーが抽出できる場合は、その点について話し合った。<br><br><br><br><開発した授業><br><br> 六年生と一年生の交流を取り入れた学習として、以下のような授業を開発した。<br><br>第一次:一年生の特徴を考えると同時に、自分の成長を実感できる授業を設定した。一年生との縦割り班(特別活動の異学年交流)やお世話での経験をふまえて、自分たちと一年生の違いを考えると同時に、自分が一年生だった頃の写真を見て自分の成長を実感する場を設けた。<br><br>第二次:六年生だけで試し調理としてスイートポテト作りを行った。自分たちで試し調理を行うことで、一年生と一緒に行うときに気をつけることやどのように関わっていったらよいかを実際に調理を通して考えられるようにした。(2時間)<br><br>第三次:試し調理をふまえて、一年生を楽しませるために交流調理実習を行うときのポイントや関わり方を考える場を設定した。<br><br>第四次:一年生と一緒にスイートポテト作りを行った。(2時間)<br><br>第五次:ナラティブを記入し、一年生と交流調理実習をして、一年生の様子で気付いた点等や自分の関わり方についてまとめを行った。<br><br><br><br><授業の効果><br><br> 中学生のカテゴリーに当てはめて、六年生の記述を分類した結果、「問題解決」に関わる内容として、「接し方」「調理安全」「前次の学び」に細分化することができた。「接し方」とは、一年生との関わり方に言及したもので「待ち時間にあきてしまわないように、たくさん話しかけるようにした」などで、「調理安全」とは調理の際の安全に関わるもので、「前時の学び」とは「前回の授業で、一年生に楽しんでもらうために、調理器具の名前クイズをするとあったので、実際にやってみました」など既習事項を活用したものである。このことから、六年生が一年生との交流を通して様々な問題に直面したが、一年生に楽しんでもらうために自分達で課題に対して向き合い、解決していったことが分かった。
著者
小野 恭子 大竹 美登利
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.25, 2009

〔目的〕商品経済が発展した今日、多重債務などの金融に関連する諸問題は、私たちに身近な生活問題となっている。そうした商品経済社会や金融経済社会は子どもたちにとっても遠い存在ではなく、カードや携帯電話やインターネットなどの普及により、知らずに金融商品を利用していることも多い。そうした現代では、子どもたちが主体的な経済生活を行うために、金融知識の学習や、実践力を身につけることが求められていると言えよう。多重債務などの消費者被害に巻き込まれる第1の要因は、必要最低生活費が保証されないことである。すなわち、生活の経済的な側面を主体的に営むためには、生活費の意味や構造を学ぶことが必要と考える。家庭科では、経済に関する学習として、これまで消費者教育を基軸に据え、消費者被害にあわないため、あるいは巻き込まれた場合の対処方法を学習するノウハウを学習することが多かった。そこで本研究では収支バランスを取り上げ、生活費の構造を学ぶこととした。 今回は、子どもたちも関心が高く、選択幅と金額幅が大きい衣服の購入を教材とした。その際、子どもたちが身近で具体化できる題材として、今度行く移動教室でのハイキング場面で着用する衣服を選び、各人が必要とした購入金額合計額から、被服費が高い場合低い場合によって、食費や娯楽費などの他の費目の金額を節約したりする必要があることを確認し、生活費には収支バランスがあることを学ぶ授業を展開した。〔方法〕1.授業展開 小学校5年生1クラス(男子19名・女子20名)を対象に、2008年7月に行った。授業の流れは、_丸1_移動教室に持っていた服を振り返り、良かった所と改善できるところを考え、ワークシートに記入する。_丸2_各班に1セットずつ用意されている長袖メリヤスシャツ、長ズボン、レインウェアー、それぞれ価格・機能・デザインがそれぞれ異なる3種ずつ、計9種のカードから、それぞれ1枚、3種選択する。_丸3_選択した理由とその合計金額をワークシートに記入する。_丸4_ある生活費の例を提示し、被服費が増加すると食費、娯楽費などの他の支出を減少させなくては、収支のバランスがとれないことを確認する。_丸5_購入を決定した服の購入金額を3パターンに分け、金額が高い場合と低い場合によって、外食や遊園地などに行ける回数といった子どもたちに身近に感じられる具体的な食生活と娯楽内容3パターンを示したプリントを提示し、金額の増減の具体的イメージを確認した。_丸6_授業全体の感想を、ワークシートに記入する2.分析データ ワークシートの記入内容と、授業を記録したビデオの児童の発言や呟きをおこしたプロトコルから、児童の学びの内容を分析した。〔結果〕1.服を選択した理由として、男子は「デザイン」を女子は「活動的機能」を最も多く挙げていた。各班で、自分と友だちの選択理由を確認したその結果、自分はあげておらず友だちがあげていたものは「価格」であるとする児童が38%と最も多く、この活動によって「価格」が選択要素のひとつであることを気づくことになった。2.生活費の収支バランスの学習をした後には、被服費が増えると食費や娯楽費など他の支出を減らさないといけないことに気づいた児童が23%いた。収支のバランスを取るために、被服費を減らすことを考えた児童が25%、被服費ではなく食費や娯楽費を減らすことを考えた児童が23%いた。3.授業全体の感想からは、「洋服などを買うときに大きなサイズを買って長持ちさせる」など今後の被服購入について記述してあるものが67%と一番多かった。次に「バランスを考えながら生活しなくてはいけないことがわかった」や「洋服を買うときには、ほかのことも考えて買わなくてはいけない」など収支バランスに関するものも54%書かれていた。被服費を減らすことだけでなく、収支バランスについての考えも書かれていることより、収支バランスを理解できたことがわかった。
著者
大下 市子 鈴木 明子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

【目的】<br>&nbsp; 小学校,中学校および高等学校の家庭科学習によって,自立した生活主体としての生活実践力を身に付けさせることが必要である。布を用いた製作の経験が,生活実践力にどのように影響を及ぼしているのか,大学生の家庭科における製作体験と生活実践力との関係を検討することによって明らかにしておくことは,今後の教員養成の指導のあり方を考える上で重要なことと考えられる。 現在の大学生は,中学校での製作は選択内容であり必ず学んでいるとは言えない。また, 高校では「家庭基礎」履修の場合,被服の製作は行わないという教育課程で学んでいる集団である。日常生活でも裁縫経験が乏しい現状を勘案すると,製作体験の精査を行うことは不可欠である。<br>&nbsp; &nbsp;そこで,まず,小学校,中学校および高等学校家庭科でどのような教材を製作し,どのような意識をもって学んできたかという実態を把握した上で,生活実践力との関係を検討することを本報告の目的とした。<br>【方法】 <br>&nbsp; &nbsp;調査時期:2012年1月,2013年1,7月 <br>&nbsp; &nbsp;調査対象者:広島市私立総合大学女子大学生1年生142名,2年生53名,3年生10名,4年生6名,合計211名。広島県内出身者 約85%。 <br>&nbsp; &nbsp; 調査内容:小学校,中学校および高等学校家庭科において製作した布を用いた教材と製作への興味・関心・意欲,製作物の使用実態についての質問紙調査を行った。同時に生活を実践する力10項目について問い,製作体験や意識との関係を分析した。<br>【結果】 <br>&nbsp; &nbsp;家庭科での製作体験有りは,小学校96.7%,中学校75.4%,高等学校50.2%であった。小中高を通しての製作教材数は,3種類が最も多く28.0%,ついで4種類20.9%,2種類19.4%であった。小学校での主な製作物は,袋類(ナップサック・リュックサック・巾着など)であった。体験有りの76.0%が袋類,60.3%がエプロン類を製作していた。中学校では,小物類(クッション・ティッシュケース・刺繍など)がもっとも多く,体験有りの55.3%が製作していた。ついでズボン類(ズボン・ハーフパンツ・短パンなど)で23.9%,エプロン類17.0%であった。高等学校では,袋類(トートバック・手提げ・巾着など)が32.1%,衣服類(ジャケット・シャツ・ワンピースなど)が25.5%,エプロン類が23.6%であった。 これら製作物への興味・関心,製作への意欲は高く,いずれの校種も肯定的な回答が8割みられた。しかし,「製作物をよく使用した」は高等学校34.1%,小学校32.0%,中学校27.8%であった。その後の製作経験を問うたところ,小学校68.2%,中学校64.7%,高等学校67.4%が作っていなかった。<br> 小学校,中学校および高等学校で重複して小物類,エプロン類,袋類を作成している実態が明らかになった。それぞれの校種における教材の種類,布の種類及び製作方法などの検討を行う必要があると考えられる。小学校と中学校において,興味・関心,製作意欲が高いのは小物類であった。中学校のパンツ類製作への興味・関心,製作への意欲は他の製作教材に比べて低く,使用頻度も低い傾向にあった。高等学校では,衣服類製作への興味・関心,製作の意欲は高いものの,使用頻度は低い傾向がみられた。<br> また,小学校,中学校および高等学校を通じての製作教材数と生活を実践する力の「成果」の項目の関係をみたところ,製作数が少なくても成果がみられ,製作数が増えるに従い成果が上がっていることが明らかになった。<br>&nbsp;&nbsp;
著者
土橋 由紀 志村 結美 斉藤 秀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.99, 2011

<BR>【目的】 グローバル化する社会の中で、国や環境の異なる人を理解し、共に生活していくためには、自分の国や地域の伝統や文化についての理解を深め、尊重する態度を身に付けることが重要である。高等学校家庭科の学習指導要領(2009)では、高校生が家庭や地域の生活を主体的に創造していく主体として、生活文化の伝承と創造を担う必要性が述べられ、伝統と文化に関する教育の充実が求められている。<BR>そこで本研究では、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた地域の伝統産業と連携した家庭科の授業開発を行い、検討を行うこととした。本研究は、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、小・中・高・大学といった教育機関の三者、すなわち産官学が連携し、甲斐絹の伝承と発信をめざしたプロジェクトの一環として行われている。本研究を通して、児童・生徒が具体的に地域や日本の伝統、生活文化を把握し、継承していくことの意義を認識するとともに、継承、発展させていくための実践的な態度の育成を図ることを目指している。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる体験ができ、さらには、自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考えている。<BR>本報告では、甲斐絹の生産地である山梨県郡内地域にある山梨県立F高等学校において実施した家庭科の授業実践を分析・検討し、今後の教育プログラムの開発の一考とすることを目的とする。<BR>【方法】 山梨県立F高等学校1学年7クラス約280名を対象に、家庭科(家庭基礎)において、2011年2月に各2時間授業実践を行った。授業前後のアンケートや授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ティッシュケース)等を分析対象とした。<BR><BR>【結果及び考察】 第1次の授業は、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品の紹介をしながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹復元への想い等の講義を行い、地域の伝統や文化の伝承の意義等について生徒の認識を高める授業展開とした。第2次では、手縫いによる甲斐絹の小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。<BR>分析の結果、授業後には伝統と生活文化を後世に伝えていく活動について意欲的に参加したいとの回答が有意に多くなり、自由記述の中にも甲斐絹を自らが伝えていきたいと考える意見が多くみられた。授業後には、食文化・衣文化・住文化のいずれに関しても興味・関心が高くなり、さらに、ものづくりに興味・関心を持った生徒も多くなっていた。<BR>また、第1次の甲斐絹座メンバーによる講義後の感想では、地域の伝統文化への誇りに関する記述が多く認められた。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としても、甲斐絹の商品開発や商品販売、マスコミの活用等、積極的な回答が多く認められ、地域の伝統産業である甲斐絹についてより身近に、具体的に捉えることができたと考えられる。<BR>甲斐絹を使った小物製作については、事前には4割の生徒が否定的に捉えていたが、事後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹の特徴である手触りや高級感を感じることができたためと推測される。しかし、手縫いでは縫いづらいという意見も多く認められ、実際、甲斐絹は手触りが良い分、手縫いでは滑りがあり上手に縫い合わせることができない生徒が多くみられた。また、ほつれやすく、縫ったところからほどけてしまう様子も見受けられた。<BR>そこで今後の課題として、小物製作の実習として、手縫いによる基礎的裁縫技術の習得を含め、学習後、日常生活でより活用できるものとして、ミシンを利用した小物製作を行うことを検討している。また、小・中・高校と発達段階に即した山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムの開発・検討を行う予定である。<BR>
著者
山本 紀久子 佐藤 麻子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

Abstract:【目的】   社会が大きく変化する中、教員養成課程の充実のためには教員の資質向上の方策の見直しは緊急の課題となっており、教科指導を行う実践的指導力を身に付けた教員の育成は重要である。家庭科の衣生活技能として、なみ縫い、返し縫い、玉結び、玉どめなどの基礎縫いとならぶボタン付けは、基本的な技能である。そこで、小学校教員養成において、小学校の家庭科の授業実践を想定し、学習指導要領 2内容 C 快適な衣服と住まい (1)衣服の着用と手入れ イに記載がみられるボタン付けを取り上げ、ボタン付けの実習・作品の製作で基礎的な技能を身に付けるとともに、実践的指導力を身に付けるために、教材の内容分析、さらに、ボタン付けの内容分析に関連する内容を含む学習指導案と評価問題の作成として具現化することを受講生に求めた。そして、授業後にアンケートを実施した結果を分析することなどを通して、この授業デザインの教育効果を明らかにすることが目的である。【方法】   2011年度I大学後期教職に関する科目「初等家庭科教育法研究C・ D」において、2年次を対象に、90分1コマの講義を3回にわたり実施した。調査対象者は、3回の授業に参加して全てに回答した63人(男21人、女42人)である。具体的内容としては、1)ボタン付けの目標、ボタン付けの要素分析(ボタン・糸・布・針)、ボタン付けに関する目標達成のための教材分析(ボタン付けの下位目標・ボタン付けの教材の分析)、2)ボタン付けの実習、この授業で扱うものと扱わないもの、ボタン付け関連の学習指導案の作成、作品の製作(一部家庭学習)、3)評価問題の作成・まとめである。その後、受講生に、ボタン付け関連の授業デザインについて、5件法による受講生の評価と授業イメージ、自由記述法による感想を求めるとともに、ボタン付けの作品・評価問題の分析を行った。【結果】  教師教育としての授業への導入について、各項目の平均値(標準偏差)を求めた結果、評価問題の作成は4.60(0.53)と最も高く、次にボタン付け・作品の製作4.35(0.70)、ボタン付けの要素分析・教材分析4.17(0.94)、学習指導案の作成4.14(0.78)の順で、平均値で4点以上と、教師教育への導入に好意的評価が得られた。自己評価の平均値(標準偏差)を求めた結果、ボタン付け・作品の製作は4.05(0.83)と最も高く、次に学習指導案の作成3.51(0.88)、評価問題の作成3.40(0.77)の順であった。評価問題の作成の自己評価に比べ、教師教育としての授業への導入は高かった。自由記述法による感想では、評価問題の作成の難しさと初めての評価問題の作成の記述をあげたものが多くみられた。ボタン付け・作品の製作では、ボタン付けの練習のみ16件、小物入れ24件、ティッシュケース7件、ペンケース4件、ブックカバー2件、その他10件で、ボタンは、丈夫に丁寧に付けられていた。自由記述法による感想では、ボタンの内容分析から順を追って子どもの立場、教師の立場の両面から考えることができた、示演用見本についての記述の順で多くみられた。小学校の家庭科授業を想定し、ボタン付けの実習、教材分析・学習指導案・評価問題の作成を取り入れた授業デザインは、有効と考えられる。今後、授業改善に向けて課題を見つけ自分の実践を振り返るなど実践的指導力を向上させる授業デザインとして、相互評価を評価問題に取り入れるなどが課題である。
著者
永田 智子 藤原 容子 山本 亜美 潮田 ひとみ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】<br>&nbsp;&nbsp;家庭科の研究指定を受けている小学校の教員でさえ,ミシン指導に不安を抱えている(永田・鈴木2014).そこで永田ら(2015)は,将来の小学校教員である初等教員養成課程の学生に対し,ミシン使用の技能と指導の自信を高めるよう工夫した授業を実施した.その結果,ミシン使用の技能と指導の自信を一定程度高めることができたものの,改善の余地はあり,より詳細に検討する必要性が示唆された.そこで授業を改善し,その効果を詳細に検討することとした.<br>&nbsp;【研究方法】<br>&nbsp;&nbsp;研究対象は,2015年度にH大学で開講された小学校教諭の普通免許状授与のための必修科目「初等家庭科教育法」である.この科目を履修した学生(学部2~4年生,大学院生,計217名)のうち,被服実技に関する授業を3単位時間(1単位時間=90分)受講し,事前・事中・事後アンケートのすべてに回答した117人を分析の対象とした.また2014年度受講生の171人分を比較対象とした.<br>&nbsp;&nbsp;2014年度は,第1校時には,基本的なミシン操作に重点をおくため,糸をつけずに紙を空縫いさせる練習をした.第2校時には,糸の通し方から説明をはじめ,糸調子や裏表がわかるようにするため,上糸と下糸で色の違う糸をつけて紙を縫う練習をした.その後,ポケットティッシュケース作りをした.ティッシュの出し口は,手縫いで並み縫いと返し縫いさせ,両端はミシンで直線縫いさせた.<br>&nbsp;&nbsp;2015年度は2014年度に実施した授業の前に,手縫いを中心とする授業を1単位時間増やした.並み縫い・返し縫いに加えて,玉結び・玉どめ・ボタン付けを学習内容として新規に追加した.<br>&nbsp;&nbsp;また2015年度は事中・事後アンケートの質問項目を詳細にし,自信の程度を4件法(自信がある4~自信がない1)で尋ねた.<br> 【研究結果】<br>&nbsp;&nbsp;2015年度は,ミシンに関する自分自身の技能について,授業後は,直線縫いの自信が大きく向上した.一方で,糸かけや糸調節については,事前よりは自信は高まったといえるものの,直線縫いほど大きくは高まらなかった.またミシン指導に対する自信についても同様の傾向であった.直線縫いに関しては,紙の空縫いから始めて,練習を繰り返したことが奏功したと思われる.<br>&nbsp;&nbsp;手縫いに関して,2015年度は自分自身の技能についての自信は,授業後はどの項目も平均3点以上に高まった.これは2014年度に比べて授業時間を1単位時間分増やしたためと思われる.また,指導に対する自信についても,どの項目も高まったが,特にボタンつけについて3点以上に高まった.これは,ボタンのつけ方のみ児童用ビデオ教材を視聴させたことに起因していると考えられる.<br>&nbsp;&nbsp;以上のことから,今回行った3単位時間の授業を通して,ミシン縫いと手縫いの技能およびその指導に対して自信が高まったといえる.特に,紙の空縫い,紙の直線縫い,布の直線縫いと回数を重ねたミシンの直線縫いは,技能への自信を高めることがわかった.また手縫いは,時間を増やしたこともあり,全般的に技能に対する自信が高まった.特に児童用ビデオ教材を用いて説明したボタンつけは指導に対する自信も高まったことがわかった.一方で,実際に体験しなかったミシンの糸かけや糸調節,手縫いの返し縫いについては指導の自信が低いままであった.<br>&nbsp;&nbsp;今後,技能及びその指導に対して自信が低かった内容について効果的な指導法を検討し,さらなる授業改善を図りたい.<br>【引用文献】<br>&nbsp;&nbsp;永田智子・鈴木千春(2014)小学校家庭科教育研究指定校の教員が抱える不安,日本家庭科教育学会第57大会(岡山大学)<br>&nbsp;&nbsp;永田智子・藤原容子・潮田ひとみ(2015)ミシン使用の技能と指導の自信を高める初等教員養成課程『初等家庭科教育法』の工夫,日本家庭科教育学会第58大会(鳴門教育大学)
著者
永田 智子 藤原 容子 潮田 ひとみ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>【研究目的】</b>永田・鈴木(2014)の研究において,家庭科の研究指定を受けている小学校の教員でさえ,ミシン指導に不安を抱えていることが示された.現職研修も必要であるが,本来は教員養成課程の段階で自信を持ってミシン指導できる知識や技能を身に付けている必要がある.しかし家庭科の学習内容における教育学部生のつまずきで最も多いものが「ミシンの使い方(54.8%)」であり,その要因として,「機会が足りない」「方法・手順が複数ある」「教え方が不適切だった」「コツが分からない」「役割やしくみが分からない」「内容や作業が複雑だった」などが挙げられた(小林・伊藤2013).<br>&nbsp; そこで本研究では,将来の小学校教員である初等教員養成課程の学生に対し,ミシン使用の技能と指導の自信を高めるため,つまずきの要因をできるだけ排除した授業を工夫し,実践を通して効果を検証することとした.<br><b>【研究方法】</b>研究対象は,2014年度にH大学で開講された小学校教諭の普通免許状授与のための必修科目「初等家庭科教育法」である.この科目を履修した学生(学部2~4年生,大学院生,計217名)のうち,被服実技に関する授業を2単位時間(1単位時間=90分)受講し,事前および事後アンケートの両方に回答した171名(2年137人,3年4人,4年1人,大学院29人.男78人,女93人)を分析の対象とした.<br>&nbsp; 被服実技に関する授業では,第1校時には,縫い始めたい場所にミシン針をおろしてから押さえをおろすといったミシンの縫いはじめと縫い終わりの動作説明に重点をおくため,糸をつけずに紙を空縫いすることから始めた.第2校時には,糸の通し方から説明をはじめ,上糸と下糸の色をかえ,糸調子や裏表がわかるようにするなど,ミシンの仕組みや役割がわかるように,2段階で指導することとし,最終的に直線縫いでポケットティッシュケースを完成させる授業展開とした.<br><b>【研究結果】</b>事前アンケートより,小学校家庭科における手縫いやミシン縫いは多くの学生が経験していたが,中学,高校と校種が上がるにつれ減少していた(小学手縫い88.9%,小学ミシン88.3%,中学手縫い58.5%,中学ミシン57.3%,高校手縫い25.7%,高校ミシン26.9%).また,針と糸は自分のものを所有している学生は多いが(80.1%),自分のミシンを所有している学生は少なく(3.5%),家族所有もないとする学生も4分の1いた(26.9%).一方,家庭でミシンを作った物づくりは半数強が経験していた(52.6%).<br>&nbsp; 授業の理解度について「わかった」を4点,「わからなかった」を1点とした4件法で尋ねた,平均点を算出したところ,手縫い3.3点,ミシン3.2点と,おおむね授業は理解できたことがうかがえた.<br> &nbsp; 手縫いとミシン縫いの技術と指導の自信について,授業前後でのアンケート結果を比較した.手縫いは2.8点から2.8点,手縫い指導は2.1点から2.7点,ミシン縫いは2.5点から2.7点,ミシン指導は1.9点から2.5点へと向上した.事前において他の項目に比べて高かった手縫い以外の3項目が有意に高くなった(p<.01).以上のことから,今回行った授業において,手縫いおよびミシン縫いの技術と指導の自信が高まったことが検証された.しかし,授業後も自信がないとする学生が少なからずおり,さらなる授業の改善が求められる.<br><b>【引用文献】 </b><br>&nbsp; 小林歩,伊藤圭子(2013)家庭科における子どもの「つまずき」要因の検討一大学生の学習経験をもとに一,初等教育カリキュラム研究 (1), 69-79, 2013-03-31,広島大学大学院教育学研究科初等カリキュラム開発講座<br>&nbsp; 永田智子・鈴木千春(2014)小学校家庭科教育研究指定校の教員が抱える不安,日本家庭科教育学会第57大会(岡山大学)
著者
志村 結美 斉藤 秀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.26, 2010

<B>目的</B><BR><BR> 現代の子どもたちは、生活実感すなわち、生活を自らのものとして具体的に捉える力が欠如し、自らの生活に関心が薄いと言われている。このような子どもたちの現状に対し、家庭科教育は、日常生活の営みである生活文化に目を向け、その歴史あるいは先人の知恵や技術を理解し主体的に生活を捉えることで、新たな生活文化を創造し、生活をより豊かにしようとする心を育むという役割を担っている。特に、学習指導要領の改訂(2008・2009)において、伝統と文化に関する教育の充実が謳われている現在、家庭科教育も果たすべき役割は大きいと言えよう。<BR> そこで本研究では山梨県の児童・生徒を対象に、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた、地域の伝統産業と連携した家庭科の教育プログラムの開発を行うこととした。本プログラムの開発には、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、教育機関が一体となった産官学が連携して携わっており、甲斐絹の商業的展開の発展をも目指している。もちろん、教育プログラムとしても児童・生徒が現実的に甲斐絹の発展や継承について捉え、より具体的に地域、日本の伝統や文化を継承していくことの意義を認識し、実践的な態度を育成することができるため、有効である。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる経験ができ、さらにはプログラム全体を通して自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考える。本報告では、Y大学附属中学校で試行的に実践した家庭科の実験的研究授業を分析・検討し、山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムのあり方を探ることとする。<BR> <BR><B>方法</B><BR><BR> 実験的研究授業は、Y大学附属中学校3年生1クラス40名を対象に、2010年1月13日、20日の各1時間、計2時間実施した。授業前後のアンケート、授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ポケットティッシュケース)等を分析対象とした。<BR><BR><B>結果及び考察</B><BR><BR> 実験的研究授業の第1次では、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品を紹介しながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹の現状等の講義を行った。その講義を踏まえて、地域の伝統と文化の意義を理解し、実践的に継承していくための方策をグループで話し合い、発表した。第2次では、甲斐絹の素晴らしさを実感できる小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。<BR> 授業の分析の結果、伝統と文化等に関する学習への興味・関心は、学習後に有意に高くなり、特に衣文化に関して、食文化と同様に9割以上の生徒が興味・関心があると答えている。また、甲斐絹を使った小物製作については、学習前に3割の生徒が否定的に捉えていたが、学習後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹座による講義や、甲斐絹の色、光沢、手触りの素晴らしさに触れ、しっかりとした製品を創り上げたいという意欲がわいたためと推測される。性別による比較では、学習前は女子の方が意欲・関心が高い傾向が見られたが、学習後には有意な差が認められなくなり、男女ともに興味・関心を高めながら、その差を縮める結果となった。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としては、マスコミの活用や本授業のような体感する機会の増加、その他、具体的な商品開発のアイディア等が積極的に述べられた。また、自らが伝統と文化に興味・関心を持ち、学び、伝えていく意義、甲斐絹を含めた地域や日本の伝統と文化に対する誇り等の自由記述も認められた。<BR> 今後の課題として、短時間で完成する小物の開発、小・中・高校と発達段階に即した教育プログラムの開発、小物製作キット等の作成等があげられ、今後も教育現場で活用できる教育プログラムの開発の検討を行う予定である。
著者
風岡 百穂 財津 庸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.71, 2010

1.目的<BR> 高校生の多くは、まだ家庭を創ることを遠い将来のように捉えている。そのような生徒たちに家族についての学習をより主体的に取り組ませたいと考え、本研究では「家族シミュレーションゲーム」を用いた授業実践を試みた。班をひとつの家族とみなし、生徒たちを親の立場に立たせて考えさせることを通して、家族の一員として話し合うこと、助け合うことを擬似的に体験させた。その際に、将来の家族について理想モデルを描くのではなく、少子化や家庭内暴力が社会問題・病理現象となっている現状を踏まえ、危機予測もしくは危機回避の力をつけさせることも意図した展開を考えた。擬似体験とはいえ予想外の出来事に対して対処でき得るという自信と、具体的な対応策を検討することにより、前向きに家庭を築こうとする態度を培いたい。以上のような、危機的状況を含む「家族シミュレーションゲーム」による体験的家族学習の効果を検討することを本研究の目的とする。<BR>2.方法<BR> 研究対象は大分県内の私立高校2クラス(A,B)、県立高校1クラス(C)である。「家族シミュレーションゲーム」の方法としては、班ごとに1~6のポジティブな特徴を記した赤色のカードを渡し、自分の家族に特に望む特徴3つを選ばせる。これら6枚のカードの内容は、1.家族形態・2.育児不安・3.親の性質・4.性別役割分業及び夫婦不和・5.子どもの性格的特徴・6.孤立状況といった実際の家庭の中で起こり得る状況を文章化したものである。同様にこれら6項目にそれぞれ対応するネガティブな特徴を記し、青色の1~6のカードとする。各班で選択されなかった数字の赤色カードを回収し、代わりに同じ数字の青色カードを渡す。これが「予想外の問題」が起こる、このゲームにおける家族にとっての危機的状況とする。それら3つの「予想外の問題」に対して対処法を考えさせる。<BR>3.結果<BR> 事前と事後のアンケート調査を比較したところ、育児の社会的支援についての項目でA・B・Cの3クラスとも同傾向の結果が得られた。「子どもを育てるとき、育児支援サービスや制度を利用することができる」という質問項目において、事前と事後の結果をt検定にかけたところ、全てのクラスで有意に意識が高まっていることがわかった(A:p<0.05、B:p<0.001、C:p<0.1)。 自由記述をみると、事前・事後共に「将来どんな家族・家庭を築きたいですか。」という質問項目において、「明るい」「楽しい」という表現は多くみられ、ポジティブな家族イメージをもつ者が多数であった。また事前では、「金銭面」の安定を挙げた生徒も少なくなかった。しかし、事後では、金銭面に関わる記述がほぼ無くなり、「助け合う」「話し合う」の記述が増え、更には「問題が起こっても解決できる」という回答が顕著に増加し、特にクラスBとCにおいては上位になっていた。収入の安定だけではなく、家庭内の人間関係の重要性も意識できるようになったためと考えられる。<BR> 以上より、危機的状況を含む「家族シミュレーションゲーム」を取り入れることで、家庭内で予想外の問題が起こっても家族で協力して乗り越えようとする積極的態度が意識できるようになると考えられる。また、状況に応じて社会的支援を利用することの必要性も理解できていた。6場面という高校生にとって少なくはない、また簡単ではない危機的状況を提示したにもかかわらず、家庭を創ることに後ろ向きになる生徒も見られず、どんな状況でも家族で協力して解決したいという前向きな姿勢が多く見られたことは成果と考える。
著者
桑原 智美 藤田 智子 倉持 清美 阿部 睦子 菊地 英明
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

【研究目的】<br /><br />厚生労働省の2016年食中毒統計資料によるとノロウィルス、カンピロバクター、植物性自然毒などの食中毒の患者総数が多く挙げられている。小学校家庭科の調理実習で作ったカレーのジャガイモのソラニンによる食中毒(2015年読売新聞)や、高校における冷やし中華によるカンピロバクター食中毒(1992年)なども報告されている。後者では鶏肉に付着したカンピロバクターが手指、器具などを介して調理食品を汚染する二次汚染が発生要因として推定(群馬県伊勢崎保健所)されている。このように調理実習で生じる食中毒は度々報告されており、衛生に関する授業開発は喫緊の課題である。学校現場での衛生管理の問題点を明らかにするために調理室や手洗い後の細菌検査を行った研究(石津、大竹、藤田他 2016)はあるが、生徒の食材の扱い方や食材管理上のリスクついては十分に検討されていない。本研究では、まず、調理実習で使用する食材に付着する菌について調べ、教師が食材管理上気を付ける点を整理する。次に、生徒の食材の扱い方の実態を把握し、衛生面についてどのような指導が必要なのかを明らかにする。生徒が衛生を意識した行動をとれているのかも検討する。<br /><br />【研究方法】<br /><br />1.食材調査:小学校、中学校、高校の教員9名に、調理実習時に使用する食材、衛生面で気になる点について調査した。それを基に、頻回に使われる食材について、培地を使用し菌の発生を調査した。<br /><br />2.調理実習時の生徒の食材の扱い方:都内S中学校、第3学年4クラスで、バナナケーキ調理時にバナナの皮を触った手で、そのまま触る場所を調査した。バナナは皮に菌が付着していることが多いため食材として選定した。2016年11月家庭科の授業(50分)で行った。実習グループ4人のうち1人は、バナナの皮を触った生徒が、その後に触れた箇所を、調理器具や調理台など17箇所を写真で示したチェックシートにシールを用いてチェックした。もう1人はバナナの皮を触った生徒の動きをiPadで録画した(アプリケーションソフト「ロイロ・ノート」使用)。バナナの皮を触った生徒が皮を捨てて手を洗った時点で記録の終了とした。<br /><br />【結果と考察】<br /><br />食材管理の観点から、食材配布時のトレーおよび食材について細菌検査を行った結果、肉には細菌が付着していることが明らかになったが、他の食材については結果にばらつきがあった。食材購入時にすでに細菌が付着している可能性があると考えられ、教員は細菌付着の可能性を踏まえたうえで食材管理をすることを再認識する必要があるだろう。また、細菌検査の結果を、他の教員および児童・生徒向けの教材として用いることは有効ではないかと考えられた。<br /><br />調理実習時の生徒の食材の扱い方について、バナナに触れた38名が、手を洗わないまま触った箇所は、17箇所のうち、0~15箇所、平均は6.9箇所であった。触ったのべ回数は、0~68回、平均は22.2回であった。バナナを触った直後に皮を捨てて手を洗った生徒もいれば、手を洗わずに多くの箇所を触る生徒もいるといったように、個人差が大きかった。触る回数が多い箇所は、蛇口、カップ側面、まな板、カップ内側、包丁であった。食材を触った手で様々なものに触れる生徒もおり、食中毒予防には生徒側の衛生に関する理解が必要であると考えられた。生徒の衛生面に関する配慮は個人差があると推察され、安全に調理実習を行うためには、教育の必要性が再認識された。また食材の扱い方調査において、記録をした生徒の衛生意識が高まっていることが授業後の感想から見て取れた。生徒たちの実態把握の方法としてだけでなく、授業方法としても今回のシールと映像を使った記録方法の有効性が示唆された。<br /><br />なお、本研究は東京学芸大学平成28年度教育実践研究推進経費「特別開発研究プロジェクト」の研究成果の一部である。
著者
得丸 定子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

<b>【目的】</b>超高齢社会を迎えている現在の日本において、高齢者の持つ経験や知識は貴重な財産であり、それを他世代に受け継いでいく意義は大きい。また、他世代との交流は高齢者にとっても生きがい感を増すと考えられる。しかし、核家族化が進む現在の日常生活では、高齢者と他世代との交流は希薄になっている。このような現状下、子供の高齢者イメージは年齢が上がるにつれてマイナスイメージに傾くという報告がなされているが、小学校児童の高齢者イメージの変化については触れられていない。ゆえに本研究では、高齢者と児童との世代間交流の実態把握、児童の高齢者イメージ変化把握、世代間交流実践の試みより、世代間交流の在り方を探ることを目的とした。 <br><b>【方法】</b>1.世代間交流の実態調査は新潟県J市内国公立48小学校のHPに記載されたグランドデザイン(H25.3現在)と同J市社会福祉協議福祉会のHPに掲載された「社協だより」(2008年~2013年)を分析対象とした。2.児童の高齢者イメージ調査は、J市内小学生77名(男子39名、女子38名)を対象。高齢者イメージは中野(1991)らの研究に基づいたSD法としての評定尺度を改変して使用。尺度は対称性を持つ形容詞ペアを17項目、5段階評価とした。3.世代間交流実践は、放課後児童クラブが設置されていない地区の児童を対象にしたボランティア活動「ねごしの寺子屋」の中で行った。調査統計処理はjs-STARを用いた。<br><b>【結果】</b>対象全小学校のグランドデザインでは「世代間交流」との用語を用いた記述は0校であったため、検索内容を拡大した結果、「高齢者との交流」記述は2校、「地域との交流」は48校であった。しかし、「地域との交流」の対象者は読み取れなかった。一方「社協だより」では「世代間交流」という用語は明確に使用されており、5年間で計32件の世代間交流活動記事が掲載されていた。 高齢者イメージ調査は、項目ごとの全サンプルの標準偏差に有意なばらつきが無く高齢者イメージは個人によって異なるものではないことが分かった。男女差は見られなかった。また、「髪の毛が白いー黒い」「大きい―小さい」の2項目を除き、他の15項目すべて中立点よりもポジティブ側に寄っていることが示された。次に、学年が上がるにつれイメージがネガティブなものへと変わっていくという報告があるため、本対象者を低学年、中学年、高学年にグループ化して分散分析を行った。全てポジティブ側での結果であるが、「うれしそう―かなしそう」「きちんとした―だらしない」「いそがしそう―ひまそう」「たのしそう―つまらなそう」「すなおな―いじっぱりな」の5項目で、様々なケースでのグループ間有意差が表れた。 【考察】「社協だより」では多くの世代間交流の取り組みが紹介されていたが、小学校のグランドデザインでは、世代間交流の用語は皆無であった。推測の域では「地域との交流」の取り組みの中に「世代間交流」が紛れているとも考えられるが、今後「世代間交流」との言葉を前面に出したグランドデザインの掲載が期待される。 高齢者イメージは、学年が上がるにつれてネガティブなものへ変わると予想していたが、今回はその結果は見られなかった。また学年グループ間比較で5項目の有意差が示されたが、一概に高学年になるにつれてポジティブイメージが下がっている結果ではなかった。本調査対象児童の半数以上が高齢者と同居しており、高齢者と日常的に接する機会が多いため、高齢者イメージはポジティブ側に寄った結果が表れたのではないかと考えられる。幼いころから日常的に高齢者と接することの意義の大きさが示された。 世代間交流実践では、児童と高齢者双方の笑顔が印象的であった。 以上のことから、小学校段階だけでなく、大学まで継続的に高齢者と関わることのできる機会を増やすことが大切であり、そのことが超高齢社会を支える重要な教育の1つであると提言できる。
著者
若月 温美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【研究の背景と目的】教師は自らの専門的力量を高めるために不断の学習が必要とされ、授業に関する力量を高めるためには日々の授業実践から学ぶ必要がある。高校家庭科の教師は一校に1人であることが多く、自分の授業について一人で振り返ることになるが、独り善がりにならずに他者の視点から授業をとらえ直すことで授業をより高い質へと改善することが可能となると考える。高校家庭科の調理実習で教師は事前に調理や献立のねらいの学習指導を行い、限られた時間の中で実習を安全に実施しなければならない。その時間に生徒が学んだことを確認することが難しく、事後指導で十分な振り返りをしなければならないが、「やりっぱなし」になっているのではないかという不安が残る。高校家庭科の調理実習の授業の課題を発見するための方法として授業リフレクション研究の効果について検討する。<br><br>【研究方法】対象の授業は2017年6月に筆者が高校2年生に行った調理実習の授業である。「麻婆豆腐とごはん」の献立を中華料理用の調味料と材料を使って作り、レトルトの素で作ったものと食べ比べ違いに気づくことを目的とした。この授業をビデオ録画した記録と生徒の実習後の記述をもとに自己リフレクションを行い一人称で記述した。自己リフレクションは「自己分析シート」(家庭科の授業を創る会2007 をもとに作成)に記入して行った。録画された授業記録と自己リフレクションの記述をもとに8月に集団リフレクション(千葉県の高校家庭科教師19名)を行い、ICレコーダーで録音した発話のスクリプトを分析した。<br><br>【結果と考察】自己リフレクションの内容は次のとおりである。事前指導では、示範により実際に作るところを見せ、その後班ごとに役割分担を決めさせた。材料と道具は事前にできる準備を行った。これらの準備は「やり過ぎか」と思ったが、実習がスムーズに進むために必要であるため時間をかけて行った。実習中の教師の発話は①作業内容と片付けの指示 ②生徒のふざけ、失敗への注意 ③生徒からの質問への返答 に分類した。①の最も多かった発話は「片付けの指示」であった。②は悪ふざけや致命的な失敗に対してははっきりと注意をし解決策を伝えた。③は説明したことでもその都度答える、またはレシピを見るように指示した。実習を安全にできるだけ失敗なく、時間内に終えることにこだわって授業を進めており、実習中に学ぶことを意識させていなかったことがわかった。事後指導では①作り方②作業③試食についてそれぞれ振り返り記述をさせた。①は調理のねらいについて意識して作業した様子を伺うことができた。②に時間内に終わらせるという目標も達成できていたが、作業手順について十分理解できていなかったことがわかった。③は食べ比べの目的を十分理解させていなかったことがわかった。集団リフレクションでは「事前準備が徹底しており『失敗しないこと』に主眼を置いている授業」との感想や「失敗からも学べるので失敗しても良いことを生徒には知らせている」など日頃の授業の在り方について意見が交わされた。この他者の視点は授業者が意識していなかった視点であり、実習中に生徒に学ばせたいことを問い直し、事前準備から考え直す必要性を示している。<br><br>実施した授業についての自己リフレクションにより①実習中の指示、②授業の目的を理解させること、に課題があることに気づいた。さらに授業でこだわっていたことを明らかにすることができ、その後の集団リフレクションよりこの「こだわり」ついて自分が意識できなかった課題を明らかにすることができた。以上より、授業リフレクションの効果が明らかとなった。これらの課題を解決しより質の高い調理実習の授業を実践するために、さらに対話リフレクションを行い解決方法研究し、教材研究とリデザイン、実験授業の実施とさらなる分析と考察を実施することを課題とする。