著者
西島 真美 吉原 崇恵
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.49, pp.45, 2006

<br><b>【目的】</b><br> 現代の子どもたちは高度に発達した文明社会に生まれ、便利で快適な生活をしている。しかしその反面、生活感が乏しく、依存性が強く自己中心的な生活をしているとも言われており、このような生活をしている生徒たちに家庭科を通してどのようなことを伝えていくのか、どのような力を育成していくのか、様々な方向から家庭科教育の学習について見つめ直したいと考えていた。生徒の日常生活は、様々な選択の連続である。無意識的に選択していることも多いのではないだろうか。この選択の連続は生き方やライフスタイルを決めることにつながっていく。生徒が主体的に生きていく生活者として育っていくためには選択の仕方を通して、情報の必要性や自分の価値観の見直しが求められていると考えた。つまり、意思決定プロセスについて学習する必要性があると考えた。そこで本研究は、意思決定プロセスの3つの方法と3つの課題を設定して中学生にとって効果的な方法を検討すること、中学生が学びうるものは何かを明らかにすること、意思決定プロセスを導入した授業計画の提案を行うことを目的とした。<br><b>【方法】</b><br> 2005(平成17年)年11月15日~28日に三島市Y中学校1,2,3年生から1クラスずつ抽出して95名を対象に調査した。それぞれ異なる3つの課題を設定し、方法1・方法2・方法3の3種類の方法を用いた。生徒は、3つの方法でそれぞれ異なる3つの課題について、価値項目、資源、選択方法、メリットやデメリットを考え課題解決に取り組んだ。そのプロセスについて、生徒一人ひとりのカルテを作成し、追跡調査を行った。なお、方法1は自由記述の形、方法2は価値や資源との照合ができる形、方法3はデシジョンツリーの形である。<br><b>【結果と考察】</b><br> 各学年ごとの集計結果から、分かりやすい方法は方法2,3であると評価され、課題の違いには関係がなかった。また、生徒一人ひとりのカルテを追跡調査した結果、方法2は、どの学年においても価値項目や資源について考え合わせた問題解決を行っている生徒が多いことがわかった。方法3は、多くの選択方法を考えることはしやすいが、価値項目や資源を考え合わせるという点についてはできない生徒もみられた。方法1は、1つの選択方法について詳しく考えることはできるが、それ以外の選択方法については考えが広がりにくいことがわかった。生徒の感想にも多く書かれていたが、新たな選択方法に気づいたり、今までの生活を見直したり、親のありがたさや、お金の大切さなど、わかっていたつもりであったことを改めて感じ、考えるきっかけとなったようだ。<br> 方法1,2,3についてそれぞれ3学年のカルテを見てきたが、これからの生徒の生活や学習に生きる可能性を見つけることができた。<br><b>【課題】</b><br> 今回の研究では、決定した内容を生徒自身が診断するプロセスについては実践できていない。教師側から、よりよい問題解決ができたという診断を行った。この点はこれからの課題としている。これからは、意思決定プロセスを組み入れた単元構想をもとに「食分野」「消費生活分野」での授業実践を行い、授業後意思決定プロセスの実践が生徒の生活にどのように生きるのか追跡する。単元構想では、1時間の授業や単元のまとめなど様々な場面を使い、生徒自身が自分の決定内容の見直しや診断を行っていくよう計画した。そこまでを意思決定プロセスであると考えている。<br> また、カルテからは生徒の生活実態についての間題点も浮き彫りになった。この点についても授業では、個人の生活と社会との関連が学べるように実践したい。
著者
中屋 紀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.34, 2009

(研究目的)教員養成大学において、教育実習と連動した指導が最近特に求められるようになった。大学に入学したばかりの1年生から、実際の家庭科の授業を観察する機会を作り、それを生かした大学での講義作りが求められている。ただ授業観察するだけでは話にならず、せっかくの観察機会を生かすためには明確な「視点」が必要である。しかし、学生たちに授業を観る「視点」をつけることはそれほど簡単ではない。(研究方法および経過)そこで、本報告は「観察」することを重点においた指導を試みた。それをもとにした考察を行う。1.宮城教育大学附属小学校の校内研究授業を3台のビデオ記録したものを編集し、1本のテープとした。授業は2008年6月30日、5年2組、齋藤憲子教諭によって行われた。テーマは「家族と生活」である。2.その映像をCDに焼き付け、資料とした。3.同時に、ストップモーション方式で活字記録化した。ストップモーション方式について補足をすると、以下である。「教師(T)-子ども(C)」の記録に教師や子どもの非言語的な行動についても加えて記述する。その点は「T-C型+ト書き」形といえる。さらに、子どもの非言語的な行動や非言語的なニュアンスも加えた文章を加える。「地の文+発言」である。またさらに、「一時停止」を利用して若干の補足や解説を加える。(藤川「授業記録を書く」『授業分析の基礎技術』(二杉・藤川・上條 編著 学事出版 2002)4.家庭科教育実践研究という授業観察が必須である講義で、受講生各自にCDと活字記録のコピーを配布した。5.CDを再生しながら、活字記録の余白に受講生の「ストップモーション」を挿入させた。6.記入が終わったら、活字記録のファイルを配布し、それに記入させた。7.それを集めて、検討資料とした。受講生各自がどこで、どんなストップモーションを入れたかが分かるように色分けをした資料とした。どんなところにストップモーションを入れるか(視点を明確にする)は、この取り組みの前にレクチュアをした。8.最後に授業者からのコメントを入れて、受講者に返却した。(検討結果)1.受講生たちは教師の教授行為の積極的な側面をしっかり評価することができた。たとえばある受講生は「おへそをこちらへ向けてください」という指示はわかりやすくて子供たちも素直に聞ける指示であると感じた。」と、記していた。2.同時に、教師の教授行為の課題も見つけることができた。たとえば、「発言しない子どもも授業に参加しやすいように、「同じ意見の人は?」というような問いがあると、より多くの子どもが授業に参加できると思う。」と、自らの意見も同時に述べることができている。3.同様のことが教材についても言えた。評価した点として例をあげると「児童が食いつきやすい内容の絵の提示はとても良かった。実際の生活の中で考えられる場面であるのも良い。」と、絵を用いて問題を追及する方法の積極面をあげた。他方、採用したビデオレターについて「ビデオレターというアイディアは良いと思う。しかし、なぜ先生なのかわからなかった。今まで自分自身や家族からの視点で成長をしたことをまとめてきたのなら、親など身近な家族のほうが題材にあっていると思う。」と、ビデオレターに登場した高学年担当の教師について厳しい意見も出せた。同じところにストップモーションをしながら、異なった意見も多々あり、意見分布の多様性も興味深かった。4.いくつか、今後解決したい課題が残った。例をあげる。「授業という場面で、「発表」することができる「力」とは、どんな力でしょうか?それを考えて普通、教師は発問をします。答えやすい問いを投げかけて、たくさんの児童から引き出したいときと、わかる児童が少なくても、答えを引き出したいときの二つに分かれます。それぞれ、教師は何を考えるのでしょうか?」などである。
著者
小守 友里恵 山田 忍 仙波 圭子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.16, 2010

【目的】経済状況の悪化により、日本の貧困率は15%となり児童扶養手当受給者は年々増加する一方、家計簿の売上げは2008年、前年比1割増で、やりくりへの関心の高さを反映していると言える。平成20年高等学校家庭科新学校学習指導要領においても、細やかな家計管理の学習が求められていることから、本研究は、高校生の高校生のライフマネジメントと金銭管理の関係を明らかにし、今の時代に求められている家計の教育をさぐることを目的とした。【方法】1.2008年12月に市販されていた家計簿23冊を入手し、記述内容を調査をした。2.市販家計簿の費目が生活実態を反映していることに着目し、高校生の個計の費目について検討した。3.「家庭基礎」の消費生活の授業で、費目に着目したワークシートを用い、「各費目の負担者」、「欲しい物があった時の消費行動」、「貯蓄目的」について分析した。【結果・考察】方法の3から得られた結果は以下の通りである。 費目の負担者については、「映画・娯楽」「書籍(漫画)」の自己負担が多かった。他の「飲食代」「携帯代」「化粧品」「洋服・靴」「文具・雑貨」「交通費」は、家族の一定の理解があり、家族が負担しているものと考えられる。欲しい物があった時の消費行動は、「諦める」「親に頼る」「自分の力で購入する」の3パターンであった。貯蓄については、将来なにかしら必要であると考え貯蓄する生徒や、目の前にある欲しいもののために貯蓄する生徒が多いということが分かった。 そこで費目の負担と「消費行動」及び「貯蓄行動」の関係について、SPSSを用いてコレスポンデンス分析を行った。 その結果「消費行動」に対する回答パターンでは、「自己負担している女子」は、「自分で購入する」「バイトする」の回答パターンに、「自己負担している男子」は、「貯めて購入する」の回答パターンに、「自己負担していない女子」は、「親に購入する」の回答パターン、「自己負担していない男子」は、「諦める」の回答パターンに類似している。このことから、「自己負担している男女」は、他人には頼らず自分の力で入手していると分かった。 また、「貯蓄目的」に対する回答パターンは、「自己負担している女子」及び「自己負担している男子」は、「長期的目的がある」「長期的目的はない」「短期的目的がある」の回答パターンに、「自己負担していない女子」は、「短期的目的はない」の回答パターンに、「自己負担していない男子」は、「無回答」の回答パターンに類似している。このことから、男女とも自己負担のある生徒は、貯蓄に対してある程度具体的な目的を持ち、また、将来的に使う目的で貯蓄をイメージしていることが読み取れる。以上の結果、高校生は「自己負担をしている、していない男女」で異なる金銭管理を行っていることが明らかとなった。 高等学校家庭科においては、「自己負担をしている、していない男女」がそれぞれ異なる「消費行動」と「貯蓄目的」をすることを踏まえ、それぞれに必要な指導を明確にする必要があると考えられる。 「消費行動」では「自己負担をしている男子」は、「貯めて購入する」、「自己負担をしている女子」は「自分で購入する」「バイトする」回答パターンとの類似から「意思決定」が必要であろう。また「自己負担していない男子」は、「諦める」回答パターンとの類から、「自己投資」が必要であると考えられる。また「自己負担していない女子」は、「親が購入する」パターンとの類似から、「資金管理」が必要であると考えられる。 「貯蓄目的」では、「自己負担をしている男子」及び「自己負担している女子」は、「長期的目的がある」「長期的目的はない」「短期的目的がある」回答パターンとの類似から、「生活の見直し」「生活設計」が必要であると考えられる。「自己負担していない男子」は、「無回答」回答パターンとの類似から、「資金管理」が必要であると考える。「自己負担していない女子」は、「短期的目的はない」回答パターンとの類似から、「生活設計」が必要であると考えられる。
著者
鈴木 智子 得丸 定子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.49, pp.17, 2006

<br><b>【目的】</b><br> 近年のインスタント食品、加工食品の増加、外食産業の普及等の食生活環境は、現在の中学生の食生活や味覚に影響を及ぼしている。昨年度の第48回本大会では、食行動と味覚の識別能の関連について、味覚の識別能が高い生徒は「栄養バランス性」が高く、味覚の識別能が低い生徒は「ファスト・濃厚味志向性」が高い食行動であること、生徒の食行動には本人の食への関心と共に食事担当者の意識との関係があることを報告した。今回は昨年の調査を基に、食生活や食体験および食への関心について聞き取り調査を行い、生徒の食意識や食行動に影響を及ぼす要因を探り、今後の食教育の在り方について示唆を得ることを目的とした。<BR><b>【方法】</b><br> 新潟県上越市内の大学法人中学校1年生12名(味覚の識別能高群生徒6名、識別能低群生徒6名)を対象に、1,主食・主菜・副菜の摂取について、2,インスタント食品・ファスト食品・惣菜・スナック菓子等の摂取について、3,味について、4,団らんや食を通したコミュニケーションについて、5,食生活への関心について、等の内容について、半構成面接法による調査を実施した。調査は2004年9月におこなった。<BR><b>【結果と考察】</b><br> 生徒の食生活は、母親の手作り中心の食生活を送る生徒と、インスタント食品などを利用する食生活を送る生徒に二分された。味覚の識別能が高い生徒の家庭では手作り中心の食生活を送っている生徒が多く、識別能が低い生徒の食生活は様々であった。また、手作り中心の食生活を送る生徒は、ファスト化された食品よりも手作り料理の味を美味しいと述べているが、インスタント食品などの利用が多い家庭の生徒は、インスタント食品やコンビニ食品の味が美味しいとの回答が多かった。ファスト化された食品の頻繁な利用により、それらの味への好み形成と味覚識別低下をきたしていると推測された。<br> 「天然だしと合成だしの味の違い」や「旬の野菜とそうでない野菜の味の違い」といった食品の味の識別については、味覚の識別能の高低にかかわらず、実際の食体験の有無に左右されていた。意識的な味覚経験の積み重ねが食品の微妙な味の識別力を育てることが示唆され、素材本来の味や多様な味に触れることの重要性が示された。<br> 味覚の識別能が高い生徒は食への関心が高く家庭の食事の手伝いに関わる生徒と、食への関心が低く親任せの食生活を送る生徒に二分された。一方、味覚の識別能が低い生徒は、家庭の食事の手伝いへの関わりが少なく、食への関心が薄かったり、偏ったりといった傾向にあった。このことにより、味覚の識別能の高低には保護者の食意識と生徒自身の食意識・食行動が関連していることが示された。<BR><b>【今後の課題】</b><br> 生活の根幹である食教育は、本来家庭が中心になり行われることが望ましい。しかし、生活状況の多様化は食生活にも影響を及ぼし、保護者が子どもに豊かな食教育を施すことが難しい家庭があることも現実である。したがって学校教育、とりわけ義務教育における食教育の役割は大きいと考える。今後の課題としては、五感を通した食体験学習と、自立的・自覚的食生活を送るために必要な関心を育て、食に対する基礎的な知識、技術、食事観を教育していくための教材開発が挙げられる。
著者
土屋 善和 千葉 眞智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

<b>1.研究の背景及び本研究の目的</b><br> 現在の日本は、高齢化率27.3%と、約4人に1人が高齢者という超高齢社会をむかえている。そうした時代の中、中学校の新学習指導要領解説家庭編(2017)には、「A家族・家庭生活(3)家族・家庭や地域との関わり」の中で、「高齢者との関わり方について理解すること」、また内容の取扱いでは「高齢者の身体の特徴について触れること」と明記された。つまり、現行学習導要領では高校段階の学習内容であった高齢者について学ぶことが、学習指導要領の改訂に伴い中学校段階にも位置づけられたことで、系統性を持たせてより深く学ぶ必要があることが読みとれる。<br> そこで、高齢社会に関する内容の深い学びを促すために、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた授業が望ましいと考えた。アクティブ・ラーニングは主体的・協働的・対話的な学びであるため、学習者にとって身近に感じることが困難である高齢者及び高齢社会について深く学ぶ上で、有効な手立てと考えられたからである。<br> 以上を踏まえ、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた高齢社会を題材とした授業を考案し実践した。そして、今後の家庭科における高齢社会の学習の充実に向けた、深い学びにつながる新たな授業提案が、本研究の目的である。<br><b>2.研究方法</b><br> 神奈川県内の私立中高一貫女子校に通う高校2年生を対象に、2時間構成の授業を行った。実施時期は、2018年2月中旬である。本実践では、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた学習として、「知識構成型ジグソー法」及び「KP法」を取り入れた。そして、授業の効果を把握するために、「高齢社会を生きる上で,私たちは何をすべきでしょうか」という問いに対する学習前後の生徒の記述を分析・考察した。<br><b>3.授業概要</b><br>(1)知識構成型ジグソー法(1時間目)<br> 高齢社会及び高齢者に対する基礎的な理解を促すために、知識構成型ジグソー法を取り入れた。メインの問いは「高齢者はどのような暮らしを望んでいるだろうか」と設定し、問いに迫るために4種類のエキスパート資料を用意した。なお、エキスパート資料のテーマは以下に示す。<br>・エキスパート資料A:日本の高齢化の動向…高齢化率など<br>・エキスパート資料B:高齢者の暮らし…高齢者の世帯構成など<br>・エキスパート資料C:高齢者の身体的特徴…バリアフリーなど<br>・エキスパート資料D:活躍する高齢者…高齢者インタビューなど<br>(2)KP法(1時間目)<br> メインの問いに対する答えについて生徒同士が協働で考えるために、KP法を取り入れた。KP法(紙芝居プレゼンテーション)は、グループの意見を端的に用紙にまとめ、紙芝居形式で発表をする手段であり、グループの思考整理のツールとしての機能を持つ。本実践ではメインの問いに対する答えをグループで考え、A4用紙4~6枚にまとめ、3分程度で発表をするという方法をとった。<br><b>4.結果および考察</b><br>(1)発表内容の分析<br> 発表内容をみると、それぞれのエキスパート資料に記載されている用語が用いられており、ジグソー学習で得た知識や意見を取り入れて考えている様子がみられた。それだけではなく、若者と高齢者の共生や地域とのつながりなどエキスパート資料を統合した考えも表出されていた。さらに、高齢社会を生きる上で必要なことや課題・問題に対する解決方法にまで思考を巡らしていたこともうかがえた。<br>(2)生徒の記述の分析<br> 学習後の記述における抽出語をみると、「関わる(関わり)」、「コミュニケーション」、「交流」といった語が学習前に比べて頻出しており、人(地域の人、家族、若者と高齢者)との関わりに着目した意見が挙げられるようになった。また、「地域」、「身近」、「近所」といった単語も頻出するようになり、生徒が自身の身の回りの生活にも目を向けるようになったことがうかがえる。生徒が学習内で得た知識や意見を取り入れ、新たな考えを創出しており、本実践で取り入れたアクティブ・ラーニングが、生徒の深い学びにつながったものと推察される。
著者
高取 逸子 増澤 康男
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.32, 2010

1 研究の背景と目的<br> 中央審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(1999年12月)の中で「高等学校における生徒の能力・適性・意欲・関心に応じた進路指導や学習指導の充実」が明記され、「高大連携」は飛躍的に拡大した。勤務校では、京都高大連携研究協議会「2006~2008年度実践研究共同教育プログラム」*による授業を「家庭基礎」で実施した。本研究の目的は、この実践の成果を検証し今後の方向性を探ることである。<br> 今回の学習指導要領の改訂において、「家庭科」では、生徒自身が考える場面を設定し、科学的根拠に基づいた学習指導を行うことが従来にも増して大切になると考える。一方、昨今の「食の安全」に関わる社会問題の増加は、「家庭科」の授業内容を理解し生活に生かすことが、21世紀を生きる生徒にとってますます重要となっていることを浮き彫りにしてきた。現代人の食生活にスポットをあて、飽食の時代に生きる高校生が自らの栄養事情を考えることができる授業を構築することが、家庭科に求められているといえよう。<br> 以上を踏まえ、本研究では、高大連携授業を通じて大学での専門的で、かつ先端的な知識を学ぶことにより、現在の若年層の中でスポーツ効果やダイエット等注目を浴びているサプリメントや機能性食品について、どのような知識・情報を持って選択していけばよいか、またその科学的効果について考えることを目標に授業を構築し、以下の4点が達成できたかどうかを検証することとした。<br>(1)探求的学習として興味・関心が得られたか。<br>(2)授業への積極的な参加が促されたか。<br>(3)教科内容の理解は向上したか。<br>(4)進路希望実現への「学び」の広がりはできたか。<br>2 高大連携授業の内容<br>(1)連携大学:京都府立医科大学・京都府立大・同志社大学<br>(2)対象生徒:2006・2007年度3年生、2008年度2年生「学力伸長コース」<br>(3)学習内容:題 「サプリメントを科学する。 _I_・_II_・_III_」<br>日常摂取する食材や市販サプリメントについて の実験・調査研究。<br>(4)学習目的:データ収集と分析、考察、科学的根拠に基づいての検証。<br>(5)授業回数:2006・2007年度 6回10時間、2008年度8回14時間<br> 3 結果と考察<br> 主として、2年生を対象とした2008年度における生徒アンケートにもとづいて評価・考察を行った。アンケート結果においては、検証目的であった4点について、ほぼ達成出来たことを示していると考えられた。特に教科内容の理解向上については、大学の先生より現代人における食生活の実態やその問題点、生活習慣病との関わり等、現代の「食」についての理解を深める講義を受け、その中で自分の食生活についても問題点はないのかを考え、毎日の食事の大切さとバランスの良い栄養摂取方法についての理解も深めた。<br> 講義レポートでは70%の生徒が自分の理解できた具体的な内容を書いており、次の講義に向けて、20%の生徒が質問を投げかけている。大学の講義内容に不安を持って臨んだ生徒も、前向きに大学の講義内容を理解しようという姿勢が見られたことが評価される。生徒たちは、「調査・研究」という新しい授業に対して、興味を示しつつも最初は戸惑いも多い。しかし内容を理解するにつれ、楽しんで積極的に取り組む生徒が大半になった。「仮説」「実験」「検証」というプロセスを通して、思考方法や、学びに対する視野が広がり、また「地域・保護者授業公開」という大きな場での発表で、良い評価を得て自信になった。同時に、プレゼンテーションの難しさを経験することも出来た。<br>「進路希望実現」という課題においては、大学で学ぶ目的を、早期から具体的に考える生徒が多く見られ、本校での進路指導にも大きく貢献することも出来た。<br> 今回の取り組みは、生徒の「学習意欲向上」につなげることが大きな目的であった。この点については所期の目的を達成したと考える。そして、高校と大学双方の教員が互いに影響し合いながらともに高め合える関係が構築されるようにすることも大切な課題であるが、高校と大学が共通理解を持って連携教育プログラムを開発するには、事前準備等の時間的確保や校内での周知徹底と授業時間確保などに対する学校体制の整備、予算面での行政支援等が望まれる。そのためには的確なコーディネーターの存在が必須であると考える。<br>(謝辞)2006年度~2008年度までの3年間にわたる高大連携授業の実施では、京都高大連携実践研究プログラム総括責任者を務めていただいた京都府立医科大学吉川敏一教授をはじめ、同志社大学市川寛教授、大妻女子
著者
小林 裕子 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

&nbsp;【研究目的】自然災害大国の我が国において,児童生徒に対し実践的かつ継続的な災害学習の実施は必要不可欠である。本研究の目的は中学校家庭科で「災害時の食」を扱った授業を開発し,授業実践を通して有効性と適切性を評価することである。研究の第一段階として,小林・永田(2015)は中学生に災害に関する質問紙調査を実施した。その結果,中学生は「災害時の食」への不安は大きいが,災害に関する知識や家庭での備えが不足していることが明らかとなった。この結果を基に,小林・永田(2016)は,「災害時の食」を扱う3時間構成の授業を開発し,実践した。実践は兵庫県公立中学校2学年の生徒5クラス164人を対象に,2016年2月に行った。 【授業評価の結果】 開発した授業の有効性と適切性を検証するため,以下の4つを実施した。 1)授業前後に行った「災害時の食」に関する知識アンケート 「「災害食」と「非常食」の違い」,「ローリングストック法」を「分かる」と回答した生徒は,事前3.7%から事後61.8%へ,事前2.5%から事後70.4%へとどちらも授業後大幅に増加した。 2)授業終了1ケ月後自由記述感想 「各時間の授業」,「学習の内容・活動」に関してカテゴリに分類した。また生徒の「~したい」の記述は,「災害時の食」と主体的にかかわろうとする意欲の表れで重要ととらえ,これも抽出しカテゴリに分類した。「各時間の授業」について記述した生徒は70.1%であった。その内2時間目について記述した生徒は59.3%で最も多く,次いで1時間目が50.0%で,3時間目は1.9%と少なかった。「学習の内容・活動」を記述した生徒は72.7%であった。その内「災害食」・「ローリングストック法」を記述した生徒が50.0%と最も多く,次いで「ツナじゃが調理」,「ポリ袋を用いた炊飯」が各40.2%,36.6%であった。「献立作成」は4.5%と少ない結果であった。「~したい」を記述した生徒は66.9%で,「作りたい」28.2%,「備えたい」20.3%,「実践したい」11.7%,「家族で話し合いたい」11.7%であった。 3)授業終了1カ月後アンケート 「授業後,本授業について家庭で話しあった」生徒は65.1%で,思春期の中2としてはかなり多い結果であった。「授業後,「災害時の食」に関する意識や考えに変化」があったと答えた生徒は75.7%と多く,変化の内容は「節水の大切さを考えるようになった」74.8%,「「非常食」より「災害食」が便利で役立つと考えるようになった」66.1%が上位であった。 4) 有識者対象アンケート調査 家庭科教育を専門とする大学教員7人に,開発した授業のアンケートを実施し,5段階尺度で各授業の「目標設定」,「内容や方法」,「生徒の興味・関心」の適切性,「開発した3時間の授業の総合的な適切性」を尋ねた。3つの項目の平均値がほぼ4以上の評価を得,総合的な適切性も平均値は4.6と高評価であった。 【まとめと今後の課題】 1)~3)の結果から,「災害時の食」の基本的な知識の習得,備えや対策を考えること,学習内容を家庭で共有することについては,大半の生徒が達成したと考えられる。また多くの生徒が本授業を積極的に評価し,「災害時の食」について主体的に考えることができるようになったことが分かり,授業としての有効性が認められたと言える。有識者からは本授業を家庭科で扱うことは適切であるという評価を得ることができた。以上のことから,本研究で開発した授業は有効であり適切であることが示唆された。今後の課題は,まず災害時の献立を考える授業の難しさを解消するべく,授業内容や活動の改善を図ることである。家庭や地域と連携した「災害時の食」の授業開発や実践を行うことも目指したい。
著者
表 真美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第55回大会・2012例会
巻号頁・発行日
pp.52, 2012 (Released:2014-02-01)

【目的】 瀧井宏臣は子どもたちのライフハザードとして「悲しき食卓」をあげ、母親が市販のベビーフードを利用することを批判している(註1)。一方、子育て不安に関する最近の調査では、「離乳食」を不安に思う母親が増加していたことが報告された(註2)。離乳食は、食べる量が少量であるにもかかわらず、準備に手間と時間がかかるが、せっかく手作りしても子どもが食べてくれないことも多い。市販のベビーフードを「よく」あるいは「ときどき」使ったと回答した母親は合わせて68.8%だが、「手作りを与えたい」との回答も6割にのぼることが、1歳半の子どもを持つ母親を対象とした調査でわかった(註3)。また、厚労省の調査では、8割以上の対象者が「愛情」面で手作りの方が優れていると回答した(註4)。母親は罪悪感を抱えながらベビーフードを使っている。大日向雅美は、子育て期の母親が、「無頓着過ぎる親とがんばり過ぎる親」に大きく二極分化していることを指摘する。がんばり過ぎる母親は完璧に出来ないと傷ついてしまうという(註5)。筆者が2009年に行った幼児を持つ保護者を対象とした調査では「家庭科で離乳食の作り方を詳しく教えて欲しかった」との声がきかれた。 そこで本報告では、「手作り」と「ジェンダー」に注目して、これまで家庭科で離乳食に関する教育がどのように行われてきたかを明らかにし、今後のあり方を考察することを目的とする。【方法】 戦後から現在までの中学校・高等学校家庭科教科書における保育領域、食生活領域の記述から「離乳食」に関する内容を抽出し、家庭科における離乳食についての教育の変遷を明らかにした。また、キーワードに「離乳食」を含む雑誌記事、著書における記述と家庭教科書における内容との関連を検討し、今後の教育のあり方を考察した。【結果】 得られた結果の概要は以下のとおりである。1)1950年代から1970年代に発行された高等学校家庭科教科書(G社)には、離乳の必要性、進め方、離乳食の作り方などが、比較的詳細に述べられる傾向にあった。1985年から1991年に発行された教科書(G社)には、「市販の離乳食製品は、加工法・添加物・味などの点でも問題がある」「味覚の形成上常用はさけたい」、との記述がみられる。同時期に「手抜きママ」がベビーフードを使うことを批判する雑誌記事がみられた。一方、現行の教科書(G社)では、乳幼児を含む「子どもの食生活」全体について1頁があてられているなかで、離乳についての4行の説明のみである。2)中学校教科書(K社)では、職業・家庭時代は母乳・人工栄養、離乳、離乳食、幼児の間食が詳細に説明されていたが、1966年の技術・家庭以降は間食を中心とした幼児食のみになり、離乳食の記述はみられない。3)「離乳食」をキーワードにもつ国立国会図書館の収録数は、食育推進連絡会議が設置された(2002年11月)後に件数が急増し、前後5年間の年間平均収録数は、1997年から2002年までの5年間は10.6件、2003年から2007年までは24.2件と倍以上に増加していた。その多くを占めるは手作り離乳食のレシピ本であった。手作りブームのなかで、母親を追いつめることのない指導が望まれる。【註】 1.瀧井宏臣(2004).悲しき食卓 こどもたちのライフハザード 岩波書店 2.原田春美・小西美智子・寺岡佐和(2011).子育て不安の実態と保健師の支援の課題,人間と科学.11(1),53-62 3.天野信子(2011).1歳半健診受診者の母親を対象とした離乳食に関する実態調査.帝塚山大学現代生活学部紀要.7.55-63 4.厚生労働省(2005)平成17年度乳幼児栄養調査5.大日向雅美(2009).離乳食で保護者を追い詰めないために‐指導ではなくエンカレッジを.食生活.103(12).56-59
著者
野池 知枝美 飯野 由香利
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

1.研究の背景と目的<br><br> 住生活は生徒にとって身近なものであるが、日常生活において住環境を整えるのは主に家族であり、生徒は日頃あまり意識せずに生活を送っているのが現状である。そこで生徒の住生活への関心を高めさせ、家族との生活の中でも生徒が住環境を整えることができるように指導計画や指導方法の工夫を図りながら授業を進めた。具体的には、生徒間での「協働学習」や専門的な立場から科学的な視点に基づいた「講座」を実践し、家庭での追究活動を行った。<br><br>2.授業の内容<br><br>(1)住生活の学習における導入段階で、住まいの役割や働きを考える際に住生活への興味・関心を高め学習が進められるように、生徒間でのファシリテーションを実施した。グループ毎に住まいの役割や働きについて各自が付箋に記入した事項を分類した。さらに「健康に必要な物」、「過ごしやすさ」、「安全性」などの生活における快適な住まいの条件を考案し、ポスターを用いて発表した。<br><br>(2)考案した快適な住まいの条件の学習を基に、住まいの構造についてワークシートにまとめた。自分の家の見取り図を描き、自分の家にある空間や構造について見直し、快適な住生活を送る上で住まいに必要な基本的な構造や空間及び設備等を考えた。<br><br>(3)快適な住生活を送るために必要な基礎的な室内環境の整え方や家庭内の安全や災害への備えについて調べ学習を行い、ワークシートにまとめた。<br><br>(4)住生活における「涼しく・暖かく住まう」について、専門的な立場から科学的な視点に立ち、原理・原則を学ぶための体感型実験等を取り入れた「講座」を行った。生徒達は身体と周辺環境との科学的なかかわりを理解し、快適に住生活を送るための工夫の仕方を学んだ。「講座」の前後にアンケート調査を実施した。<br><br>(5)上記学習を通して、自分の家庭で快適に安全に住まうために実践できる「我が家の快適・安全プラン」の課題を2~3種類挙げて、ワークシート(計画表)を作成した。<br><br>(6)追究活動として、夏休みに家庭でワークシートに基づいて「我が家の快適・安全プラン」を実践した。実践後プランを評価し、家族からも実践の評価を得た。<br><br>(7)夏休み終了後の授業で、「我が家の快適・安全プラン」で実践したことを発表し合い、互いの実践内容を共有する「協働学習」を行った。なお、(4)と(6)以外の授業において、毎時間家庭科学習カードを用いて授業の振り返りと自己評価を行った。<br><br>3.結果<br><br>(1)家庭科学習カードにおける自己評価<br><br> 毎授業後に振り返りを記述することで、自身の学習の成果や次の学習に向けての課題を考えることができた。積極的に学習に取り組み、授業を通して知識や技術を習得でき、学習活動で創意・工夫することができた。生徒と家族の今後の生活での課題を見出し、生かそうとする傾向が見られた。<br><br>(2)「協働学習」における効果<br><br> 生徒間での「協働学習」を実施することで新たな視点を見出し、住生活に対し徐々に関心を持ちながら学習を進めていくことができた。実践内容を共有することで、生徒や家族の今後の生活の新たな課題や実践方法を見つけることができた。「協働学習」の有効性が示された。<br><br>(3)アンケート調査の結果<br><br>①住生活に関する情報源と興味及び住まい方の工夫<br><br> 約半数の生徒はテレビと家庭科の授業により住生活の知識を得ており、自身の生活と住生活との関連性を約83%の生徒が認めている。住生活への興味は約58%に留まっているものの、83%の生徒は「講座」前の学習からより快適な住まい方への関心を持っていた。<br><br>②「講座」の理解度と意識の変化<br><br>伝熱や気化熱の原理を学習して、人体と周辺環境との熱や水分のやりとりの仕組みについて70%以上の生徒が理解した。「講座」後に、住生活の学習が生活の向上にとても役に立つと思う生徒の割合が高くなった。住生活の学びは学習している現在や将来の快適な生活に生かすことができると74%以上の生徒が回答した。「講座」の実践を通して、生活を科学的にとらえることにより家庭実践に繋がることを確認できた。
著者
鈴木 昌代
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.62, 2003

【目的】最近携帯電話の普及により、高校生の金銭感覚が変化している。実際に本校の1年生(72名)と2年生(63名)に、携帯電話に対する意識調査を行った。その結果、ほとんど(93%)の生徒が所有しており、使用頻度が高く、中には月々の使用料金が5万円という生徒もいた。さらに携帯電話の料金は、小遣いとは関係なく両親が支払っており、携帯料金が家計に及ぼす影響について質問したところ、約半数の生徒が「家計に全く影響していない」「わからない」と回答していた。その上、大部分の生徒が、携帯電話は必要であると答えていた。したがって、高校生に携帯電話の欠点をよく認識させ、正しい金銭感覚を養い、限られたお金を効率よく使用しなければならない家庭経営の難しさを教育・指導してゆく必要がある。さらに、家族各々が満足し、豊かな家庭生活を営むには何が大切かを生徒に教えて行きたいと思う。そこで本研究では、将来の生活設計を視野に入れた家庭経済を考えさせるために、家庭経営のシミュレーションを授業に取り入れ、実践的な授業を行った。 <br>【方法】本校生徒2年126名(男子64名 女子62名)を34グループに分け、親と高校生がいることを条件に家族を設定し、家族経営をシミュレーションさせた。具体的には、父親、母親、娘、息子等の役割を分担し、家族の将来設計や職業、趣味等の家族像を作らせた。その後、それぞれの家族で予想される1ケ月の収入を決めさせ、それに対し、諸費用(公共料金、食費、住居費、被服費、教育費、教養・娯楽費、通信費、預金、予備費等)を分配して家庭経済の検討をさせた。その際、家族の短期・長期生活設計に基づいて趣味やイベントに費やす購入希望品や小遣い、財産について検討させ、1ケ月分の予算を決定させた。そしてこの予算に対し、それぞれの立場から自分の満足度と自分以外の家族の満足度を、?軸とY軸の座標上にポストイットを貼ることで評価させた。さらに、シミュレーションによる効果をアンケートにより評価した。<br>【結果】家庭経営のシミュレーションにより、70%以上の生徒が家庭経営を理解でき、その難しさも把握できたと答えていた。その中でも、実際に生徒の家では共働きの家庭が多いため、家事と仕事を両立する母親の方が父親より苦労していると答えていた。そのため、家計に協力したいと答えた生徒の約半数は、家事を手伝いたいと述べていた。鈴木は昨年度の日本家政学会で、家事労働には「家族のきずな」を深める効果があると報告している。したがって本研究によっても、最終的には家族のきずなの形成に結びつくと思われる。 <br>座標軸により、個人の満足度と家族の満足度を比較した場合、お互いが話し合い、理解し合った家族は、家庭経営による家族全員の満足度が一致していた(18/30 家族)。これらの家族に所属した生徒は、お金よりも家族間のコミュニケーションの方が家庭経営に重要だ、と述べていた。その他、両親と子どもの間に満足度が二分化されたものが4家族。子どもたちの満足度は一致しているが、両親がばらばらであるパターンが2家族。1人を除く家族の満足度が一致しているものが6家族。家族全員がばらばらなものが4家族であった。 <br>さらに、シミュレーションの勉強をした後に、携帯電話の使用について調査すると、大部分の生徒が必要だが、使用頻度を減らすことが大事だと答えていた。 以上のことから、家庭経営のシミュレーションを授業に取り入れ、実践的な授業を行うことは、高校生の金銭感覚を養い、さらに家族のきずなを深め、豊かな家庭生活を営ませるのに効果的であると結論づけることができる。
著者
牧田 利枝 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.77, 2011

目標に準拠した評価では、「めざす姿」(行動目標)として、到達規準を設定し、ルーブリックによって評価基準を明確にし、教育評価がなされている。しかし、「意欲・関心・態度」のような情意面の「見えにくい学力」は、行動目標として表すことに適さず、評価しにくいという問題が指摘されている。また、中村ら(2006)は調理実習おける教師の情意面での評価が行動観察に偏り、ワークシートの記載内容の判定については、指導者より、生徒を知らない教師が判定したほうが客観性が高かった事例があったことを報告している。本研究では、高等学校家庭科における調理実習に対する「意欲」を学習の意義認知という認知的な動機づけ理論にもとづいて、調理実習に強く関連している興味(内発的動機づけ)を自律的に発達させ、さらに活用力に繋がる高度な認知領域である「思考・判断・表現」の学力形成とともに「動機づけ」が継続される様な授業デザインを実証的に検討することを目的としている。1年目(08年度)は高等学校家庭科における実習―実習以外の学習における価値づけを「主観的課題価値(subjective task value)」理論にもとづいて調査し、「役立ち感」「有用感」を高めることで調理実習の意義を認知させ、価値の内在化を促すことで意欲向上が期待できるという仮説をたてた。2年目(09年度)はこの仮説にもとづき、自己評価と組み合わせる「意義認知ワークシート」を開発し、その効果を検証した。3年目(10年度)は「意義認知ワークシート」を改良し、調理実習の意欲を高める「意義認知ツール」としての生徒の記述活動を構造化しその全体像としての授業デザインに取り組んだ。「意義認知ツール」における「意義認知ワークシート」への記述の質の変化が確認され、意欲の向上とともに、家庭での実践的態度に結び付くと考えられるような記述も見られたことから、調理実習が授業だけでなく、日常生活にいかされていると考えられた。また、教師が評価基準表を作成し、点数化した「意欲」と「テストの点数をとる」こととは、必ずしも一致しないことが確かめられた。さらに、09年度と10年度の「授業評価(自己評価)」をそれぞれクラスター分析した結果を比較すると、09年度では、「授業規律class rule」は協調性や公共心とは独立しており、教師が行う提出物や忘れ物チェックといった外的な統制の影響をうけていたが、10年度は「授業規律」が「協調性」「公共心」と相関がみられた。このことは、10年度においてクラス・グループの関係性依存的な学習態度が形成され、その結果、生徒の実習に対する意欲が向上したためと推測された。以上のことから、調理実習の「楽しさ」は情意面で強く表れやすいが「意欲」が高まった生徒の姿は生徒の自己統制的かつ主体的な学習態度と重なっており、「楽しい」といった初発の内発的興味を持続・発達させるためには、クラス・グループの関係性に依存した学習形態であることに配慮した授業デザインが望ましいことが確認された。また、「意義認知ツール」では生徒が1学期末の成績以降、意欲を減退・消失するような問題が生じなかったため、「関心・意欲・態度」の向上を見通した計画的な指導―評価が可能となり、日常生活で活用するなどの活用型の学力向上が期待される等、「意義認知ツール」の有効性が示された。
著者
花輪 由樹
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

【研究背景と目的】我が国では男女共同参画社会の推進と少子高齢化等への対応から、『学習指導要領』でも家庭のあり方や子育ての意義などをより一層充実させるように改訂する動きがあり、家庭科教育における保育領域が重視されるようになっている1)。家庭科の保育領域に関する既往研究には、家庭科教師(中・高校)と保育者(幼稚園・保育所)へのインタビュー調査により教育的課題を明らかにした研究2)や、短大生の紙芝居製作において製作者の学習効果を指摘した研究3)や、保育体験学習が子どもへのイメージと自己効力感を変容させることに注目した研究4)等があるが、保育所での交流内容について究明したものはあまりみられない。そこで本研究は、高等学校家庭科の保育領域で、保育所訪問時に、食領域の五大栄養素をテーマにした紙芝居を披露させることにより、披露する生徒がどのような感想を抱くのかを明らかにし、食と保育の領域横断的な実践の可能性を探ることを目的とした。<br> <br>【方法】対象は関西圏にある某高等学校衛生看護科で、訪問日時は2015年1月末の5,6校時、訪問場所は高等学校より徒歩15分のエリアにある保育所に訪問した。紙芝居製作は、2学期の食に関する知識学習と並行して製作させ、その際、保育所訪問することを念頭に5グループに分かれて五大栄養素をテーマに取り組ませた。このような中で当日は、4,5歳児の3クラスを対象に1グループ3回の紙芝居披露を行い、その後園児達と自由に遊び、最後に園児達からピアニカ演奏の披露を受けるという内容を実施した。訪問後に行った3学期の期末テストにおいて、以下の7点の質問を行った。本稿では、紙芝居披露に関するものとして、1,2,7の回答を分析した。(1.紙芝居をつくる際に工夫した点、2.紙芝居を披露してみて感じたこと、3.子ども達と何をして遊んだか、4.子ども達と遊ぶ際に気をつけたこと、5.子ども達から演奏を披露してもらい、何を感じたか、6.もし保育園に再度訪問できるとしたら、紙芝居以外にどのような企画を実施したいか、7.今回の保育園訪問の経験を、あなたの将来の職業生活・家庭生活にどのように生かしていきたいか)<br> <br>【結果】1.紙芝居づくりで工夫した点については、主に「言葉」と「絵」をあげていた。「言葉」については、ひらがなで書いたり、なるべく難しい表現を使わないように気を使っており、「絵」については、色合いを鮮やかにしたり、ひと目で見てすぐ分かるような工夫をしていた。2.披露して感じたことは、喜んでくれて嬉しかったというように園児の反応に自分の感想を重ねている者が多く、また難しい漢字を読めていたことや静かに聞いてくれたことへの驚きを感じている者もいた。7.今後の生活への応用については、多くの生徒が子どもの接し方や触れ合い方を知ることができたと述べており、これを将来子どもが産まれた時に生かしたいと答えている者や、看護師として小児科等で子どもに接する際に絵本の読み聞かせなどをしていきたいと述べている者もみられた。今回の分析では食をテーマとした紙芝居の保育実践により生徒達の保育領域への深化が明らかになったが、食領域に関する学習効果はうかがうことができなかったため、これは今後の課題としてあげておきたい。<br> <br>1)岡野雅子,宮澤愛,赤塚みのり:高等学校家庭科「保育領域」についての現状と課題 : 長野県家庭科教員に対する調査から,信州大学教育学部紀要 114,pp.13-24,2005<br> <br>2)伊藤葉子:中・高校生の家庭科の保育体験学習の教育的課題に関する検討,日本家政学会誌,Vol.58,No.6,pp.315-326,2007<br> <br>3)芝静子:「調べてつくる」家庭科の紙芝居製作指導―5年間の実践とその評価―,広島大学教育学部紀要<br>第二部 第42号,pp.139-149,1993<br> <br>4)鎌野育代,伊藤葉子:子どものイメージと自己効力感の変容からみる保育体験学習の教育的効果, 日本家庭科教育学会誌 52(4),pp.283-290,2010.1
著者
杉浦 なぎさ 藤田 智子 大竹 美登利 菊地 英明
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

<strong>【目的】</strong><br /><br /> 男女が協力して生活することの重要性が謳われている現代において、男女がともに家庭科を学ぶ意義を感じられることは重要である。しかし、高校生は、家庭科の必要性は「現在」ではなく、「将来」の家庭生活にあると感じており(中西 2006)、中学生においても「現在」学ぶことに意味があると感じられるかは疑問である。また、高校生において、家庭科の有用性を認知することが食生活行動に結び付いていることが明らかにされており(藤田 2012)、実感をともなう学びにすることこそ、子どもたちが生活実践につなげるために有効なのではないかと考えられる。本田(2004)は、「子どもが学習にどのような意味や意義を感じているか」を「学習レリバンス」と定義し、学習そのもののおもしろさを示す「現在的レリバンス」と、学習が将来何かに役立つ感覚を示す「将来的レリバンス」の2つがそろうことで、男女ともに学習を長期にわたって継続したいと思えることを明らかにした。本研究では、中学生が家庭科を学ぶ意義を感じているかを明らかにするとともに、家庭科を学ぶ意義の感じ方の違いに着目して、生活実践行動を分析する。<br /><br /><strong>【方法】</strong><br /><br /> T大学附属中学校2年生、3クラス89名(男性31名、女性58名)を対象に、アンケート調査を行った。実施時期は、9月(単元前)、10月(単元後)、1月(単元後の追跡調査)の計3回である。単元については、2時間×3回の計6時間の授業構成として、「洗剤や柔軟剤の性質の理解を踏まえた選び方」「消費者が洗剤購入に必要な情報を考える」など実験や実習を取り入れた。3回の調査すべてに回答した86名(男性31名、女性55名)を分析の対象とする(有効回答率96.6%)。また、授業者が積極的に授業に取り組んでいると思う生徒を有意抽出してもらい、各クラス男女1名の計6名(男性3名、女性3名)にインタビュー調査を行った。10月に2回(単元途中と単元後)実施した。<br /><br /><strong>【結果】</strong><br /><br /> 学習レリバンスに関しては、家庭科全般と洗濯の学習において、「好き・おもしろい」を現在的レリバンス、「将来、役に立つ」を将来的レリバンスとして、単元学習後に聞いた。まず、家庭科全般に対して肯定的に回答をした生徒は、現在的レリバンスは5割以上、将来的レリバンスは9割以上であった。一方で、洗濯の学習に対して肯定的に回答をした生徒は、現在的レリバンスは40%に満たず、将来的レリバンスは9割以上であった。<br /><br /> 中学生の生活実践状況は、洗濯物を「しまう」は男女ともに実践度が高かったが、「洗う」は低かった。次に、学習レリバンスの感じ方による生活実践行動の違いをみるため、一要因の分散分析を行った。その結果、家庭科全般、洗濯の学習ともに「好き・おもしろい」と思う人ほど、学習後、有意に生活実践得点が高かった。<br /><br /> また、質問紙の自由記述(家庭科の学びの中で自分が成長できたと思う点)やインタビュー調査(授業でおもしろかったこと・新たに気付いたこと)から、中学生は洗剤のパッケージデザインを通し、消費者の立場からデザインや表記の仕方を工夫することで、洗剤の表記にも様々なアイデアがあることに気付き、「おもしろさ」を感じていた。また、実験を通して、洗剤の液性によるダメージの受け方や量による汚れの落ち方の違いを目で見て、「実際にお店で洗剤を見比べたい」「洗濯をおこなってみたい」など、科学的知識を基に自分の生活で試したいと考えており、「役に立つ」感覚が育まれたと考えられる。以上のように、授業で「おもしろい」「役に立つ」と感じることは、中学生の生活実践につながるきっかけになると考えられる。<br /><br /> 本研究は,東京学芸大学「日本における次世代対応型教育モデルの研究開発」[文部科学省平成28年度特別経費(プロジェクト分)]の研究成果の一部である。
著者
神山 久美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

[ 研究の背景と目的 ] 大学では、家庭科における生涯の生活経営に関する内容をさらに発展させ、深く高度な内容の学習が必要である。 ファイナンシャル・プランニング技能士(FP技能士)とは、職業能力開発促進法に基づく、FPの技能に関して包括的で専門的な知識・技術をもつことを証明する国家資格である。導入資格である3級FP技能士の資格取得を目指すことにより、生涯の生活設計で必要となる6分野(ライフプランニングと資金計画、リスク管理、.金融資産運用、タックスプランニング、不動産、相続・事業承継)についての幅広い内容を、体系的に学ぶことができる。FP技能士試験には、学科試験及び実技試験の2つがあり、学生にとって、これらの知識・技能を獲得することは生涯の生活設計のために役立ち、また、FPに関する上位資格を取得することにより、金融関係の仕事(銀行、保険、証券、不動産など)にも役立つものとなる。 2012年12月に「消費者教育の推進に関する法律」が施行された。消費者教育を「消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育及びこれに準ずる啓発活動」と定義し、特に、「消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む」と加え、消費者の消費者市民社会形成の参画を重視していることが特徴である。この消費者教育の定義より、大学における消費者教育は、学生に、消費者の自立に必要な消費生活知識の修得や実践的能力を育成し、消費者市民社会の形成への参画を意識させることが目標となる。このような視点での大学における授業開発が必要であり、特に、大学生に自主的・積極的な消費者市民社会への参画意識を持たせることが重要と考えられる。 そこで本研究は、大学授業において、国家資格のFP技能士資格取得に関わる内容を導入して学生の金融経済に関する幅広い知識・技能の獲得をめざし、その学生の学びを、社会参画のためにも活かすという展開の実践を試みることを目的とした。[ 方法 ] 2012年度、私立A大学家政学部家政経済学科2年生の専門科目である前期授業の「ファイナンシャルプランニング論」及び後期授業の「ファイナンシャルプランニング演習」において、1年間に渡り実践を行った。前期授業では、FP技能士の9月試験の合格を目指した内容の授業を実施し、後期授業では、子どもを対象としたおこづかいに関する内容について、学生が企画・運営した、地域の消費生活展の参加や児童館での講座等を実施した。 これらの授業過程と授業記録などの結果から、大学における金融経済教育としてのFP技能士試験の導入とその展開のあり方について、考察を行った。[ 結果と考察 ] 今回の前期授業の終了後に、授業の前に金融経済教育を受けたことがあるか質問したところ、「受けたと思うがよく覚えていない」、「ほとんど受けていない」を選んだ学生が80%を超えた。前期授業で行った内容について、大学生として学ぶ必要があると思うか尋ねたところ、全員が「とても必要」、「少し必要」を選択し、「あまり必要でない」、「全く必要でない」を選んだ学生はいなかった。その理由としては、「自分の普段の生活に役立つ」、社会人として知っておくべき内容」、「就職活動で役立つ」などが挙がり、これらの内容の導入の意義があると考えられた。 前期授業と後期授業を組み合わせた今回の取組については、学生全員が肯定的に捉えていた。その理由として、「前期に学んだことが活かせてよかった」と書いた学生が多かった。学生は、単に自分たちが知識をつけることのみを重視したのではなかった。今回の取組を通して、社会に貢献する自分たちの役割の自覚や学ぶ動機づけにもつながっていると考えられた。消費者市民として社会への参画意識を持たせるような実践をしていくことが、大学教育における展開として重要なことが示唆された。
著者
○村上 由季 池﨑 喜美惠
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

【目的】 日本人学校では日本国内の公立小・中学校と同等の教育がおこなわれている。しかし、様々な理由から日本国内と現地との環境には差が多く、教科書の記述と学習環境の不一致が生じることが予想される。本研究では、そのような状況下で、日本人学校ではどのような家庭科教育がおこなわれているのかを明らかにし、今後の日本人学校における家庭科教育の指導の在り方について検討、提言することを目的とした。【方法】 2010年11月~2011年1月にかけてアンケート調査を実施した。日本人学校88校に質問紙を郵送し、家庭科の授業を担当している教師に記入を依頼し返送してもらった。本報告では、調査協力を得られた48校の小学部の家庭科担当教師の調査票を分析対象とした。主な調査内容は、次のとおりである。1)家庭科担当者の属性、2)家庭科のカリキュラム、3)家庭科の教育環境、4)家庭科の指導方法、5)指導上の問題点や要望【結果及び考察】 1)日本人学校小学部で家庭科を担当している教師のうち、家庭科を専門として学んだ教師は10.2%であり、専門外の教師が指導していた。また、日本人学校での家庭科指導年数は1~2年が67%と最も多く、派遣教員が全体の55%を占めていた。このことから、日本人学校では安定した人員配置をすることが難しい状況にあるということが明らかとなった。 2)家庭科の授業時数に関しては、複式学級であるなどの理由から学校毎に多少のばらつきは見られたものの、多くが学習指導要領に定められた時数で授業を行っていた。複式学級の組み合わせは多様であるが、中には小学第5学年~中学第3学年までという組み合わせで授業をしている学校もあり、通常の家庭科指導を日本人学校で行うことの難しさの一因はここにもあると思った。また、現地理解教育の一環として、ペルー料理や韓国料理等の現地料理や、グアテマラ織りなどの題材を取り入れて、日本の教科書に準拠しながら実習を指導している場合が多かった。  3)小学部の家庭科室の保有率は85.7%であり、そのうち18.4%が理科室や他教室と併用していた。しかし、施設・設備については45%の教員が不足を感じていた。教科書について、家庭科担当教員の85.7%が使用しているものの、日本国内と海外では家庭科の基盤となる生活そのものに違いがあるため、実際は教科書どおりに授業をすることが難しいことも日本人学校の課題であることが教師の自由記述から読みとれた。 4)家庭科の指導方法の一つとして、現地理解教育を行っている学校が57.1%と多いことが、日本人学校の特色といえた。家庭科をイマージョン・プログラムの一環として英語で授業を行っている学校も少数派ではあるものの、増えてきていた。そして、現地理解教育では、実体験をとおしてその土地の習慣や生活の仕方を知り、学んでいくため、9割以上の教師が調理実習や被服実習などをまじえて指導していた。 5)家庭科を指導する上で、教員の家庭科免許の有無や海外にあるという日本人学校の立地条件が問題の要因となっている。例えば、調理実習においては、地域によって日本の食材がそろわなかったり、現地の食材には衛生面で問題があったりする。また被服実習においては、日本から製作キットを取り寄せると輸入という形になるため、予算の都合上困難であるとの記述が見られた。【提言】 本調査を考察した結果、ほとんどの教師が家庭科を専門としない中で、現地の環境や状況を受け入れ、工夫して指導していた。そこで、日本人学校が抱える共通の問題、例えば複式学級、現地理解教育、さらには実習材料の問題など、多くの問題を教師間で共有できる場を作ることが、家庭科を専門としない教師たちの指導における不安を軽減することになるのではないかと考える。また、日本人学校出身の児童・生徒の側から見た日本人学校での家庭科の学習経験を調査し現状を精査することにより、よりよいあり方を模索することができるのではないかと考える。
著者
林 淑美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【<b>目的・方法</b>】子ども食堂は経済的に困窮していたり、ひとり親で食事の支度が思うようにできなかったりするなどの事情をもつ家庭の高校生以下の子どもに無料、あるいは低価格で食事を提供する場所とされている。その始まりは東京都内で2012年頃と言われており、それ以降全国各地に開設され、増加する傾向にある。子ども食堂の現状と今後期待される影響の可能性について調べるために資料および文献検索を行った。【<b>結果</b>】食育基本法が制定され、食育推進活動が学校、食品製造業、流通業、公共団体など社会の食物や食事に関わる様々な領域で行われるようになり、日常の食事内容や状況を見直して、より良くしようとする意識は人々の間で高まった。しかし、近年国民の経済格差の拡大に伴い、食事の見直しをしても、経済的あるいは時間的制約により改善の余地が厳しい現状にある家庭が増えつつある。文部科学省の調査では就学援助制度の支給対象となった小中学生の割合は2012年に15.6%で過去最高を更新したとされた。また、厚生労働省の調査でも、平均的所得の半分未満で生活する子どもの割合は2012年に16.3%で6人に1人が貧困状態にあり、過去最悪を更新したことが報告された。また貧困状態の子どもの割合はひとり親世帯に限ると54.6%となっていた。経済協力開発機構(OECD)の調査でも、加盟34カ国の平均値を上回る水準で推移している。このような世帯の子どもは家庭で野菜を食べる頻度が低く、週3日以下である割合が一般世帯の2倍となっている。またインスタント麺やカップラーメンを週1回以上食べる割合が一般世帯の2.7倍と高くなっており、家計が子どもの食生活にも直接影響することを示している。子ども食堂の開設をめざす協力団体は地域住民のボランティア団体、町内会、NPO法人、社会福祉法人などのほかに私立大学なども加わってきている。また大分県や福岡市では行政からの助成も予定され、堺市では自治体自らが民間団体から依託先を公募して子ども食堂の開設をめざしている。子ども食堂の開設を予定する団体や協力者のための情報交換会や講演会として「こども食堂サミット」が東京や九州で開催されるようになった。子ども食堂は経済的理由で十分な食事が与えられない子どもに栄養のバランスのとれた食事を提供すること以外に、家族と食事をとる機会が少ない子どもの孤食を改善することを目的として始まったが、支援の内容は食事だけでなく、地域住民やボランティアの人々と交流しながら、遊びや学習面に及ぶ場合もある。また、調理や片付けなどを大人と子どもとの共同作業で行われている所もあり、日常生活に必要な知識や技能を家族以外の人々との交流の中から伝授される機会を与える場所ともなっている。核家族化が進む社会で、ひとり親世帯や共働き世帯が増えつつある長時間労働を前提とした社会では子どもが家族と交流する時間は減少する可能性が考えられる。そのような状況で子どもが家族以外の様々な複数の人々と日常的に関り合いながら、学習や遊び、共同作業などを通して知識や技能、コミュニケーション力を身に付けていく場所が存在することは、子どもだけでなく社会にとっても非常に意義深く、重要である。子ども食堂は地域や社会全体で子どもを守り、育む場所として今後ますます様々な可能性が期待されるであろう。
著者
表 真美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.136-146, 2004-07-01 (Released:2017-11-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

Home economics schoolbooks and supplementary textbooks for Finnish comprehensive schools were investigated. The findings were follows: 1. Three kinds of schoolbooks and 12 kinds of supplementary textbooks for home economics are published from 3 companies in Finland. 2. The home economics teacher decides whether or not to adopt these books. The schoolbooks and the supplementary textbooks that they adopt are distributed to all students for free of charge. 3. The schoolbooks were composed of contents about family relationships, food, washing and cleaning, consumer education, and environmental education. 4. The pages with content about food are 68〜74%. Especially, the recipes for many kinds of dishes, such as bread, and cake are included in these schoolbooks. 5. The contents of the schoolbooks are concrete and practical. 6. Most of the supplementary textbooks are about food. 7. The schoolbooks and supplementary textbooks of home economics for Finnish Comprehensive schools correspond to the purpose of Finnish basic education and also to the framework curriculum for the comprehensive schools in 1994.
著者
永田 智子 赤松 純子 榊原 典子 鈴木 真由子 鈴木 洋子 田中 宏子 山本 奈美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

1.問題の所在と研究の目的  家庭科教員を取り巻く現状は厳しい。小学校においては継続的に家庭科の実践研究を行う教員は少なく,家庭科授業の手本を示してくれる先輩教員や情報交換できる同僚が身近にいないことが多い。別の方法で小学校家庭科の授業者を支援する手立てが必要である。  小倉ら(2007)は,全国の小中学校における日々の理科授業の改善に役立てるため,優れた特徴をもつ理科授業をビデオ収録するとともに,その実践の何が優れているかを具体的に示すことによって,理科を指導する教師が参考にすることを目的とした研究を行った。本研究の基本的な発想は小倉らの研究に依拠する。つまり家庭科授業をビデオ収録し,その指導案を集めるだけでなく,家庭科教育の有識者が,その授業の何が優れており,何が課題なのかを具体的に示すことによって,家庭科の授業実施や改善を支援できると考えた。  ただし,小倉らの研究では,授業ビデオと報告書に掲載された評価コメントを,視聴者自身が対応付けながら視聴しなければならない点で不自由がある。そこで,共有された授業風景動画の特定場面と討論中の発言内容の対応を明示化する動画共有システムVISCO(小川ほか2009)を利用することにした。VISCOではコメントを具体的な映像場面に直接付与すると,吹き出しのように表示することなどが可能になるため,視聴しやすくなることが期待できる。  そこで,小学校家庭科授業の実施・改善を支援することを目指し,優れた点や課題点などのコメントを授業ビデオとともに閲覧することのできる動画共有システムと家庭科授業ビデオを一つのパッケージとして開発することを本研究の目的とした。 2.パッケージの開発手順と特徴  今回開発したパッケージには,VISCOおよび7本の小学校家庭科授業の動画ファイル,各授業の指導案が含まれている。   VISCOはWindows7を推奨環境とするシステムで,動画の映像場面にコメントを付与すると,インターネットを通じてコメント情報がサーバに蓄積される。視聴時には,インターネットを通じて,蓄積された複数人のコメント情報を動画上に吹き出しの様に重ねて表示させることができる。またコメントはリスト表示され,そこからコメントを挿入した場面に動画を移動させることもできる。  小学校家庭科授業およびその指導案は日本家庭科教育学会近畿地区会の有志によって収集・編集された。授業は学習内容A~Dから各1本以上とし(A=1本,B=2本,C=3本,D=1本),題材(テーマ)は重ならないように調整した。授業は学校長の許諾を得た上で撮影し,かつ子どもの名前や顔にはモザイク加工を施した。音声が聞き取りにくい場面にはテロップを付け,授業内容がわかる程度の長さにカットした(最短約16分,最長約38分,平均約24分)。  このように編集された7本の授業ビデオに,教員養成系大学・学部で家庭科教育に携わる研究者7名が分担して,VISCOを使って優れた点や課題・助言,解説等のコメントを付与した。1本当たりのコメント者数は3名,コメント数は平均48.3±11.5件であった。 3.今後の課題 小学校と同様の手続きで中学校・高等学校家庭科教育のパッケージを開発するとともに,研究者の付与したコメントの妥当性や有効性を検証することが今後の課題である。 本研究はJSPS科研費 24531124の助成を受けたものである。参考文献 小倉康ほか(2007)優れた小中学校理科授業構成要素に関する授業ビデオ分析とその教師教育への適用,平成 15 年度~18 年度科学研究費補助金 基盤研究(A)(1) 研究成果報告書 小川修史・小川弘・掛川淳一・石田翼・森広浩一郎(2009)協調的授業改善を支援するための動画共有システムVISCO 開発に向けた実践的検討,日本教育工学会論文誌,Vol.33, Suppl., 101-104
著者
林 淑美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第59回大会・2016例会
巻号頁・発行日
pp.57, 2016 (Released:2017-01-13)

【目的・方法】子ども食堂は経済的に困窮していたり、ひとり親で食事の支度が思うようにできなかったりするなどの事情をもつ家庭の高校生以下の子どもに無料、あるいは低価格で食事を提供する場所とされている。その始まりは東京都内で2012年頃と言われており、それ以降全国各地に開設され、増加する傾向にある。子ども食堂の現状と今後期待される影響の可能性について調べるために資料および文献検索を行った。【結果】食育基本法が制定され、食育推進活動が学校、食品製造業、流通業、公共団体など社会の食物や食事に関わる様々な領域で行われるようになり、日常の食事内容や状況を見直して、より良くしようとする意識は人々の間で高まった。しかし、近年国民の経済格差の拡大に伴い、食事の見直しをしても、経済的あるいは時間的制約により改善の余地が厳しい現状にある家庭が増えつつある。文部科学省の調査では就学援助制度の支給対象となった小中学生の割合は2012年に15.6%で過去最高を更新したとされた。また、厚生労働省の調査でも、平均的所得の半分未満で生活する子どもの割合は2012年に16.3%で6人に1人が貧困状態にあり、過去最悪を更新したことが報告された。また貧困状態の子どもの割合はひとり親世帯に限ると54.6%となっていた。経済協力開発機構(OECD)の調査でも、加盟34カ国の平均値を上回る水準で推移している。このような世帯の子どもは家庭で野菜を食べる頻度が低く、週3日以下である割合が一般世帯の2倍となっている。またインスタント麺やカップラーメンを週1回以上食べる割合が一般世帯の2.7倍と高くなっており、家計が子どもの食生活にも直接影響することを示している。子ども食堂の開設をめざす協力団体は地域住民のボランティア団体、町内会、NPO法人、社会福祉法人などのほかに私立大学なども加わってきている。また大分県や福岡市では行政からの助成も予定され、堺市では自治体自らが民間団体から依託先を公募して子ども食堂の開設をめざしている。子ども食堂の開設を予定する団体や協力者のための情報交換会や講演会として「こども食堂サミット」が東京や九州で開催されるようになった。子ども食堂は経済的理由で十分な食事が与えられない子どもに栄養のバランスのとれた食事を提供すること以外に、家族と食事をとる機会が少ない子どもの孤食を改善することを目的として始まったが、支援の内容は食事だけでなく、地域住民やボランティアの人々と交流しながら、遊びや学習面に及ぶ場合もある。また、調理や片付けなどを大人と子どもとの共同作業で行われている所もあり、日常生活に必要な知識や技能を家族以外の人々との交流の中から伝授される機会を与える場所ともなっている。核家族化が進む社会で、ひとり親世帯や共働き世帯が増えつつある長時間労働を前提とした社会では子どもが家族と交流する時間は減少する可能性が考えられる。そのような状況で子どもが家族以外の様々な複数の人々と日常的に関り合いながら、学習や遊び、共同作業などを通して知識や技能、コミュニケーション力を身に付けていく場所が存在することは、子どもだけでなく社会にとっても非常に意義深く、重要である。子ども食堂は地域や社会全体で子どもを守り、育む場所として今後ますます様々な可能性が期待されるであろう。
著者
赤塚 朋子 佐々木 和也 横山 弘美 大原 弘子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<目的><br>&nbsp;&nbsp;衣生活領域の消費者教育を発達段階に応じて教材開発するための課題を抽出し、授業案を作成することを目的とした。<br><br><方法><br>&nbsp; 衣生活における消費者問題の把握と、衣服に関する知識を知るためのイメージマップ法と衣生活に関する実態を調査するためのアンケート調査を行った。<br><br><結果><br>1.衣生活における消費者問題の把握 <br>&nbsp; 県消費生活センターによれば、平成26年度の苦情相談件数上位5位の商品・サービスでは、19歳以下では1位「放送・コンテンツ等」、2位「履物」、3位「他の身の回り品/レンタル・リース・賃借」、5位「健康食品/書籍・印刷物/自動車/補習教育/役務その他」、20歳代では1位「放送・コンテンツ等」、2位「融資サービス」、3位「レンタル・リース・賃借」、4位「自動車」、5位「インターネット通信サービス」となっている。19歳以下で、2位、3位と上位に衣生活関連の消費者問題があることがわかった。<br>&nbsp; 衣生活に関する相談では、クリーニング・トラブル(しみ・変色・形状変化・破損・紛失など)、購入した商品に関する苦情(組成、耐久性、着心地など)、その他(柔軟剤、購入時および売却処分時のトラブル、製品に起因する事故など)があがった。関連して紹介があった事例では、着用で体にしみができたブラジャー、手にはめたところヌルヌルした手袋、詰め物が表示と違っていたこたつ布団など具体的であった。こうした衣生活における消費者問題が存在することの事例は、当事者にならなければ気が付かないことが多い。また実際に話を聞かなければ、原因が身に着けていた衣服であることも想像できない。県消費生活センターと連携することの重要性を痛感することとなった。<br><br>2.衣生活実態調査<br>(1)イメージマップ法 <br>&nbsp; 小学生、中学生、高校生、大学生に対して、衣服を中心に置き、そこから派生してイメージするワードをつなげてもらった。年齢が進むにつれて、アイテムの単語が多かったのが、衣服の成り立ちや手入れ、布の性質に関連する単語の出現が多くなり、大学生は衣服を環境面でとらえる割合も増えている。<br>(2)アンケート調査 <br>&nbsp; 主に中学生と高校生を対比して検討した。中学生から高校生へと年齢があがるにしたがって、衣生活での自分での行動が増えているようである。しかし、衣服を選ぶのは誰かの問いに対して、最も多いのは、両者ともに「自分と保護者」であることから、衣生活消費の面での自立が遅いことがうかがえる。衣服をインターネットで購入したことがあるかどうかの問いに対しては、中学生は半数に満たないが、高校生は約6割近かった。スマフォの所有率に比例すると考えられる。成長期のこの時期は、「服のサイズが合わなくなって着られなくなったから」、「長い間使用していてもう着られないと感じたから(例:布が薄くなるなど)」という理由で処分の対応をしていることがわかり、衣生活の消費の側面では、堅実さが垣間見られた。衣服の再利用やリメイクにも関心がないわけでもないこともわかった。<br><br>3.教材開発のための課題<br>&nbsp; 衣生活領域の消費者教育を発達段階に応じて教材開発するためには、1)衣生活をいつから自分で成り立たせているか、つまり衣生活の自立がいつから始まるかに大きく関係するため、その把握が重要であること、2)衣服の消費は既成品の中から選択することが多いため、その衣服がどのように作製され手元に届き、身に着け、最後はどうなるのかという一連の衣服のライフサイクルへの理解を知識としてどのように押さえるのか、3)購入時の知識は教材化しやすいが、管理・保存の知識・技術は実感を伴った教材になりにくいこと、4)ITの進展によるネットショッピングの普及により、身に着けるものでありながら、素材の安全性や繊維そのものの性質を知る機会をどう保障するのか、5)授業時間のない中、製作の場面を想定できる教材が必要だが、どうすればいいか、などの課題が抽出された。<br><br>4.授業案作成 <br>&nbsp;&nbsp;課題を受けて、発達段階に応じた授業案を検討した。