著者
堀内 かおる
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.8, 2010

〈目的〉2006年に実施された「家族の法制に関する世論調査」(内閣府)によると、家族の役割として最も大事だと考えられることとして、「心の安らぎを得るという情緒面」と回答した者が最も多く44.4%を占め、「子どもをもうけ,育てるという出産・養育面」と回答した者は29.2%である。家族の役割として情緒面の充実が求められる今日、「心の拠り所としての家族」という認識は多くの人々の共感を得ていると考えられる。本研究者は、2009年度より、多様な家族の姿を描いた絵本に着目し、家庭科教材としての有効性を検討してきた。日本家庭科教育学会2009年度例会では、父親と子どもとの関わりが描かれている絵本を分析した結果を報告した。今回は、アメリカで出版されている同性カップルと子どもによる「家族」を取り上げている絵本に着目した。日本人の作家による同性カップルを描いた絵本はいまだ見られないことを鑑み、先行するアメリカの状況において、これらの絵本がどのように評価されているのかを調査するとともに、絵本の構造を分析し、絵本の中に込められたメッセージを明らかにするとともに、家族の在り方を問う家庭科教材としての可能性について検討することを本研究の目的とする。<BR>〈方法〉1.アメリカで出版された同性カップルとその家族を描いた児童書・絵本の変遷について、インターネットや文献資料から明らかにする。2.日本では無名であるが45冊を超える絵本を刊行しているアメリカ在住の著名な絵本作家であるパトリシア・ポロッコによる絵本<I>"In Our Mothers' House"</I>, Philomel Books, New York, 2009を取り上げ、登場人物の描かれ方と内容のメッセージについて考察する。3.家庭科教材として「多様な家族」を取り上げる際の着眼点について検討する。<BR>〈結果及び考察〉1.同性カップルとその家族を描いた児童書・絵本としては、1981年にデンマークで出版され1983年に英語で翻訳出版されたスザンヌ・ボッシュによる<I>"Jenny lives with Eric and Martin"</I> が最初である。その後、1989年にアリソン・ワンダーランド社より<I>"Heather has two mommies"</I>が出版され、続いて同社から1990年に<I>"Daddy's Roommate"</I>、1996年には続編となる<I>"Daddy's Wedding"</I>が出版された。これらの図書は、論争的テーマの作品として話題になり、政治論争にまで発展した。<BR>2.パトリシア・ポロッコによる作品<I>"In Our Mothers'House"</I> は、23のシーンから構成されており、女性の同性カップルが生後間もない3人の養子を次々に迎え、子どもたちとともに様々なイベントを楽しみ、地域の中で近隣の人たちと親しく暮らしている様子が描かれている。地域の人々の中には一人だけ、彼女たちを敵視する女性がいるが、この女性は例外的存在となっている。年月を経てカップルの女性たちが年老いて亡くなってからも、子どもたちの拠り所として、「母さんたちの家」はいつまでも位置づいている。子どもたちが成長しそれぞれの配偶者を得てからの姿までも描いているところに、本書の特色がみられ、「家族」は時とともに形を変えながら次世代に継承されていくという暗喩が示唆される。<BR>ストーリーは、「同性カップルによる家族」というテーマのみならず、人種や民族がそれぞれ異なる3人の子どもたち、インターナショナルな文化的背景を持った地域の人々との共生という「多様性」が主題となっている。「多様性」を前提とした「共生」について、示唆を与えうる絵本であることが確認された。同時に、「家族」が成立する必要十分条件として不可欠なのが「愛情」であるというメッセージが込められていた。<BR>3.絵本を「教材」として取り上げようとすると、教師には、その絵本に内在するメッセージ(イデオロギー)に対する解釈が問われることになる。特に、論争的なテーマに関しては、その教材を使用することによって「何を伝えたいのか」ということをめぐり、慎重な検討を要する。一つの家族形態のみを提示するのではなく、「多様な家族」の形を示す複数の絵本を提示し、それらの「家族」の共通性に焦点を当てるという方法が考えられる。
著者
大原 弘子 赤塚 朋子 友田 薫 萩原 葉子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第56回大会・2013例会
巻号頁・発行日
pp.18, 2013 (Released:2014-01-25)

<目的> 高等学校家庭科の学びが、高等学校の基礎学力の総体というシチズンシップ教育と関連が深く、「将来の多様な選択肢を提示し、その土台をつくり、踏み出す1歩を支える教科」という位置づけを提案してきた観点から、本研究では、高等学校家庭科と大学入試センター試験問題とのかかわりをさらに探り、高等学校家庭科の学びが高等学校の基礎学力の総体とどのような関係にあるのかを明らかにすることを目的とした。<方法> 2008年~2013年における大学入試センター試験問題のうち、2012年を基準に、国語、地理歴史、公民、数学、理科、外国語の各教科のうち、1000人以上の受験者があった24科目の問題を対象とし、高等学校家庭科教科書との関係に注目して、キーワード検索を行い、分析検討した。教科書は、栃木県の履修率が65.9%(「高等学校家庭科の履修単位数をめぐる現状と課題」日本家庭科教育学会誌 第54巻第3号)を占める「家庭基礎」を用い、教科書出版社の教育図書、大修館、実教出版、開隆堂、東京書籍、第一学習社の各社1冊ずつの計6冊を対象とした。<結果> 前回の大会で「高等学校家庭科の位置づけの再検討―大学入試センター試験問題とのかかわりから―」を研究発表した後、反響が大きく、年数を5年間として再度調査することとした。大学入試センター試験問題は、高等学校段階における基礎学力をはかる手段となる。そのため、実際に、センター試験問題と家庭科教科書を照らし合わせてみたところ、家庭科の学びが、24科目のうち平均9.6科目と関係があり、センター試験問題を解く際には、かなりの頻度で思考の助けになっていることが明らかとなった。 試験問題に関係するキーワードを、教科書の該当ページに領域別に色分けした付箋で貼っていく作業を行った。各社の教科書の編集方針によって、その違いはあるものの、概ねどの教科書にも領域別に色分けした付箋が貼られた。 キーワードの5年間の平均数は、65であった。そのうち、毎年出てきたキーワードは、「遺伝子組み換え」、「食の安全」、「世界の食生活」、「子育て」、「介護」、「社会保障」、「地球環境問題」、また「環境」、「家族」、「男女平等」に関することであった。4年間出てきたキーワードは、「消費者」、「少子高齢化」、「トレーサビリティ」、「年金」、「フェアトレード」、「ワークシェアリング」であった。近年の傾向としては、「NPO」、「世界の衣服」、「待機児童」があがってきた。今回の英語の試験問題には「まちづくり」が登場している。 教科としては、現代社会、地理、歴史、政治経済などの社会科や理科総合、化学などの理科について予想通り多く見られた。新学習指導要領から登場する理科の「科学と人間生活」とのマッチングが今後予想される。高校生に他教科と家庭科の関係が深いことを知ってもらうことで、家庭科に対する印象がかわることを示唆している。 高等学校家庭科の現状は、「家庭基礎」2単位履修を選択する傾向も否めず、高等学校の1学年のみの時間数という厳しさもみられる。教員配置も各学校に1名のところが多く、「受験に関係ない」教科という意識が大多数の学校では、家庭科の学びの意識そのものが停滞する雰囲気が学校全体を覆っているといわざるをえない。 本研究の結果をふまえ、家庭科の学びが、高等学校の基礎学力の総体と関連が深く、大学入試センター試験問題を解くうえで、総合的なヒントになることがわかった。高等学校家庭科の授業は、実は、大学入試センター試験問題を解くうえで、これまでの学びの総復習になるともとらえることができる。また、1学年より2学年や3学年での履修や、2単位よりも4単位の履修の方がより確実に学びが生かされるのではないだろうか。大学入試センター試験問題が、高等学校家庭科の学びと関係が深いことが明らかになったことで、この両者が現代生活に資するものであることも確認できた。
著者
三沢 徳枝 長山 知由理 松田 典子 石山 ゐづ美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.283-289, 2015-02-01 (Released:2017-11-17)

本研究で,家族対話と家族有用感から家族コミュニケーションを捉え,レジリエンス因子の意欲的活動性と内面共有性との関連性を検討した結果,家族コミュニケーションはレジリエンスに影響し,家族対話や家族有用感が高いとレジリエンスも高いことが明らかになった。また中学生は家族との関係性を評価する家族有用感がキャリア意識の向上に関連すると推察された。中学家庭科の学習指導要領では「これからの自分と家族とのかかわりに関心を持ち,家族関係をよりよくする方法を考える」ことが目標とされているが,この学習をすることは家族と向き合い,対話を深めることにつながり,ひいてはさらに社会と向き合えるレジリエンスを高め,生活者としての自立を育むと考察された。
著者
鄭 暁静
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【目的】<br>日本と韓国は、少子高齢化や家族形態の多様化、男女共同参画の推進等、家族をめぐる社会的な変化が激しく、その傾向が類似している。家族・家庭生活の学習を中心的に扱っているのは両国とも家庭科であり、相互の学習内容を学びあうことは、今後の両国の家族・家庭生活学習のあり方を検討する際に参考になるものと考える。そこで本研究では、日本と韓国の小学校家庭科における家族・家庭生活領域の学習内容を、教育課程及び教科書を用いて質的に比較分析し、類似点と相違点を明らかにすることを目的とした。<br>【方法】<br>日本と韓国の家庭科教育課程及び教科書の記述内容を質的に比較分析した。教育課程は、現在学校で使用されている教科書に基づき、日本は2008年告示の小学校学習指導要領、韓国は2009年告示の実科(技術・家政)教育課程を対象とした。教科書は、日本は2014年検定済みの小学校5、6年生用の家庭科の教科書2冊(開隆堂、東京書籍)、韓国は2014年検定済みの実科の教科書(5年生)4冊(Chunjae Education、Dong-a Publishing、Kyohaksa、Mirae-N)を対象とした。<br>【結果】<br>(1)教育課程において、日本の小学校学習指導要領解説家庭編では、「少子高齢化や家庭の機能が充分に果たされていない状況に対応し、家族と家庭に関する教育と子育て理解のための体験や高齢者との交流を重視する」と述べており、社会の変化に伴った家族・家庭生活領域の学習に重点を置いていることが分かる。韓国の実科(技術・家政)教育課程解説においても、「実科は多様な国家社会の要求に対応できるようにし、…(省略)…少子高齢社会、多文化社会での個人及び家庭生活に求められる自己管理及び自立的な生活の遂行管理能力を充足させる必要がある」と述べており、日本の家庭科と同様、少子高齢化等、社会の変化に対応した家族・家庭生活の学習が重点化して取り上げるようになっていることが分かった。一方、韓国では「多文化社会」というように、多文化家族(国際結婚家族)が増加している社会状況を踏まえ、家族・家庭生活領域の学習のあり方に多文化理解教育が明示されていることが日本と相違していた。<br>(2)両国の家族・家庭生活領域における内容要素を比較すると、日本の小学校家庭科の『A家庭生活と家族』は「自分の成長と家族」「家庭生活と仕事」「家族や近隣の人々とのかかわり」の3つの項目で構成されており、韓国の初等学校実科の『自分と家庭生活』は「自分の成長と家族」「家庭の仕事と家族員の役割」の2つの項目で構成されていた。両国とも自分の成長や、家庭生活における仕事に関しては同様に扱われていたが、韓国では地域社会を視野に入れた内容要素は扱われていなかった。さらに日本の「家庭生活と仕事」では、生活時間の有効な使い方について扱われているのに対し、韓国は、生活時間についての学習が家族・家庭生活領域では扱われておらず、住生活及び消費・環境領域である『快適な住居と生活資源管理』の「お小遣いと時間の管理」の項目で扱われている違いが見られた。<br>(3)教科書の記述内容をみると、両国とも扱っている「自分の成長と家族」「家庭生活と仕事」の項目についても、具体的な学習内容には違いがあることが明らかになった。例えば「自分の成長と家族」では、日本では、家族に支えられて自分が成長してきたことを理解するという学習内容であるのに対し、韓国では、自分の成長過程を乳児期・幼児期・児童期に分け、身体的・精神的・社会的成長の特徴を理解するという学習内容であった。全体的に韓国の小学校家庭科の教科書の方が、日本より内容量が多く、多文化家族等の様々な家族形態や、家族とジェンダー、家族・家庭生活と関連した職業(健康家庭士や家族相談士等)の紹介等、日本の小学校家庭科の教科書では扱われていない学習内容が多く見られた。
著者
中野 葉子 大竹 美登利
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.49, pp.34, 2006

<br><b>【目的】</b><br> 実験・実習などの体験的学習が多い被服や食物の領域に比べ、家庭経営領域は、生徒の関心が薄く、学習意欲も低い。現在は「家庭基礎」2単位を洗濯する学校も多く、家庭科の授業時数は少ない。そこで、生徒が興味関心を持って、楽しみながら短時間で学習でき、多様な学校での実施が可能な「生活設計ゲーム」を開発し、授業実践を行って、そのゲームから生徒が学ぶ内容を明らかにすることを研究の目的とした。<br><b>【新たな教材の開発】</b><br> 本研究では、「仮想生活ゲーム」(社団法人損害保険協会)のゲームを基にして、「生活設計ゲーム」を開発した。「仮想生活ゲーム」は、夫妻と2人の子どもの4人家族に設定され、生活の中でのリスクを体験しながら、そのリスク回避のために損害保険に入ることが有効であるとの認識が得やすいゲームとなっていた。大変わかりやすい教材であったが、損害保険に特化しているので、家族や就労、生活スタイルの相違によって、収入や支出が多様であり、また、生活のリスク回避として、様々な社会保障のしくみがあることなど、より総合的な生活運営の仕組みを学べるゲームを開発したいと考えた。<br> そこで、プリテストをしながら、「仮想生活ゲーム」を改良し「生活設計ゲーム」を完成させた。改良の主な点は、(1)多様な家族構成・就労形態の7つの家族パターンの設定および決め方、(2)家計費目毎の予算を立てやすいように選択肢を設定、(3)あらゆる計算を簡単に、(4)見やすいプリント冊子の作成、(5)イベント内容の精査、(6)言葉表現を簡単でわかりやすく、(6)2時間で実施可能なこと、(7)おみくじカードなどの教材キットの工夫である。<br><b>【本ゲームで生徒が学ぶ内容の検証】</b><br><b>1.方法:</b>都立5校(普通科3校、職業科2校)で「生活設計ゲーム」を実践し、その前後に、(1)家族に関する意識、(2)就業形態の指向、(3)生活設計への興味関心、(4)社会保障・資産の優先順位、(5)家庭経営の学習意欲、(6)ゲームの感想に関するワークシートを記入してもらい、このデータを分析した。<br><b>2.結果:</b>ゲーム実施によって(1)「家族に関する意識」は子どもを持つことへの負荷を感じるものが増加し、(2)常勤を希望する生徒が増加し、逆に、フリーターに対するプラスイメージが減少し、大変さを認識する生徒が増えた。(3)社会保障・資産に関しては貯金や社会保険、生命保険への期待が高まり、(4)「生活設計への興味関心」は増加し、(5)「家庭経営領域の内容」については、「正社員とフリー他の違い」「社会保障制度」「子育てに関するサービスやそれにかかる費用」などに関しての学習意欲が高まった。性別、学科別による相違は少なかったが、自分が取り組んだ家族パターンによって生徒の感想に相違があった。すなわち、一人暮らしやDINKSの家族だった生徒は子どもは居た方が良いという記述が、子どものいる家族であった生徒は預貯金の大切さに関する記述が、子どもの居ない家族であった生徒は保険や社会保障の大切さに関するの記述が多かった。<br><b>【まとめと今後の課題】</b><br> 将来の「家族に関する意識」では結婚願望が増加し、「就労形態について」では常勤志向が高まり、「社会保障・資産の優先順位」では社会保障を大切と思うものが増え、「生活設計への興味関心」は高まった。また「家庭経営領域」に対する学習意欲も向上した。「学科」「実施方法」によってこれらの傾向に相違は少ないことから、汎用性のあるゲームといえよう。なお、ゲームのなかで、就労形態や社会保障の種類と内容などを適宜説明する必要があり、これが、労働や社会保障の理解を促すが、一方で、教員がそれらを十分理解している必要もあり、教員向けの詳しいマニュアルの作成が今後の課題として残された。
著者
今村 律子 赤松 純子 山田 由佳子 潮田 ひとみ 與倉 弘子 深沢 太香子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

<b>1</b><b>.目的<br></b> 家庭科衣生活内容において、「衣服の手入れ」は、どの校種においても大きな位置を占めている。小学校学習指導要領解説家庭編の「洗濯ができる」は、手洗いを中心とした洗濯の基本について学習する、を意味するが、手洗いという表現は、「洗濯機で洗える物を手で洗う」と洗濯の絵表示にある「洗濯機で洗えない物を手で洗う」の2種類の解釈が可能である。そのため、児童・生徒だけでなく大学生にもこの2種類の手洗いを混同している者が多いようである。本研究では、取り扱い絵表示の方法が、JISからISOの規格に変更されるこの時期に、被服学を専門とする立場から、洗濯学習に関する授業ポイント(内容)を整理し、小学校で重点的に取り上げる必要のある内容を含んだ洗濯学習の教材化について提案したい。<br><b>2</b><b>.方法<br></b><b> </b>現行の小学校家庭科教科書(2社)における衣生活内容「洗濯」を省察し、学習内容(ポイント)を被服管理学の視点から整理した。次に、関西6府県の附属小学校及び県庁所在地の市立小学校を対象に、洗濯の学習内容及び実習の実態についてアンケート調査したが、ここでは和歌山県の結果の一部を記す。<br><b>3</b><b>.結果及び考察<br></b>(1)洗濯学習に関する授業ポイント(内容)と調査項目<br> 小学校において学習すべき内容を6分類:A.準備、B.「洗う・絞る・干す」に関すること、C.洗剤、D.汚れ、E.後片付け、F.手入れの必要性、に整理することができた。 A.準備は、衣服の点検、表示の確認及び洗濯物・洗剤液の準備に細分できる。B.では、洗濯の工程、原理(水・洗剤・力)、洗い方・絞り方・干し方、C.は洗剤の種類・使い方・量、D.は、汚れの種類・性質、E.は、用具の片付け方とアイロン、F.は、着心地であり、43項目の内容に整理できた。<br>(2)和歌山市(54校中26校、回収率48%)における調査結果<br> 1)学習内容の実態<br> 整理した43項目中、学習させている項目は、平均24項目であった。9割以上の小学校で取り上げている項目は、絵表示で洗い方を確認すること、洗濯の工程は、「洗う&rarr;絞る&rarr;すすぐ・絞る・干す」であること、干す時に洗濯物の形を整えてしわを伸ばすこと、洗剤の量は必要以上使うと環境に良くないこと、の4項目であった。逆に学習実態が2割未満であったのは、洗濯機を使った時は洗濯機の中や周囲を拭くこと、泥などの固形汚れは乾燥させてブラシなどで落とすこと、汚れによって洗剤液と固形石けんを使い分けること、汚れのひどい部分には固形石けんを使うと良いこと、石けんは冷水に溶けにくいことの5項目であった。石けんに関わる内容があまり扱われていないことがわかった。<br>&nbsp;2)洗濯実習の実態<br> 学校現場で洗濯実習を実施している小学校は84%と多く、2時間で実習している学校が多かった。靴下やハンカチを洗っている場合が最も多かったが、学校行事で使用されている鉢巻きやたすきを利用している学校もあった。使用洗剤の形状と種類を混合した設問で複数回答を求めた結果、粉末洗剤にのみ○を付けた回答が多く見られた。教師が合成洗剤と石けんの区別をあまり意識していないことがわかった。洗い方は、もみ洗いとつまみ洗いの両方を教えている学校が60%と半数を超えていた。<br>(3)手洗い教材への提案<br> 実生活では、洗濯機による洗濯がほとんどである。小学校における手洗い洗濯では、洗濯の工程及び原理を取り上げることにより、将来の効率的な洗濯機利用につなげたい。アンケート調査では、粉末タイプの合成洗剤を実習に用いている学校が多かったが、もみ洗いに加えて手洗いの利点である部分洗い(つまみ洗い)を効果的に指導するために、固形石けんによる手洗いを提案したい。小学校家庭科教科書には、洗剤液の水量が10~20倍であることが記載されているが、浴比が物理的な力に関連することは洗濯機による洗浄で取り扱うことなので、固形石けんを用いることによって取り上げる必要がなくなると考える。このことは、少量の水による手洗い学習となり、防災時の洗濯などにも応用することができると考える。
著者
三枝 惠子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

1.はじめに<br /> 高等学校家庭科教育の大きな改革は1989年(平成元年)改訂の学習指導要領で普通教育として「家庭一般」「生活技術」「生活一般」を設け、男女とも4単位必修となったことである。その後1999年(平成11年)学習指導要領の改訂では普通教育の「家庭」と専門教育の「家庭」がそれぞれ独立し、教科目標も明確に区別され示された。普通教育の「家庭」では、新たに「家庭基礎」2単位が設けられ、4単位の「家庭総合」「生活技術」とあわせ3科目の中から全ての生徒が1科目を選択履修することとなった。さらに2009年(平成21年)の学習指導要領改訂により普通教育の「家庭」は「家庭基礎」(2単位)に「家庭総合」(4単位)と新たに「生活デザイン」(4単位)の3科目が設定され、全ての生徒が1科目を選択履修することとなり、人間の生涯にわたる発達と生活の営みを総合的にとらえ、家族・家庭の意義、家族・家庭と社会との関わりについて理解させるとともに、生活に必要な知識と技術を修得させ、男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する能力と実践的な態度を育てることを目指している。<br /> 本発表はこのような高等学校家庭科教育の大きな変革の中で学ぶ高校生の家庭科イメージや教科観、学習内容の必要性・有用性、授業の楽しさ、授業への取り組み姿勢等について、アンケート調査を基に分析したものである。また、1998年高校生調査と比較し20年間の男女必履修の変化も考察した。<br />2.調査概要<br /> 調査は大学1.2年生を対象に2016年10月~2017年1月に実施した。有効サンプル数は303(男子86、女子217)。比較分析に用いた1998年調査は1998年2月東京・埼玉の高校1.2.3年生対象とした調査である。有効サンプル数618(男子347、女子271)。<br />3.結果の概要<br /> 履修科目については、高等学校家庭科の履修は「家庭基礎」2単位が65%を超え、学校選択により1.2年生で履修している様子がうかがえる。男女必履修が開始された1989年学習指導要領では全ての生徒が4単位履修と示されていたが、1999年の改訂により「家庭基礎」2単位が設けらてから家庭科を4単位から2単位科目へと単位数を減じる学校が増加してきた。文部科学省が公表している平成27年度使用高等学校用家庭科教科書図書需要数でみると「家庭基礎」は965496冊で全体の76.6%を占めている。家庭科の基盤は「生活」であり社会の変化やニーズに影響を受けやすくそうした背景が単位数の減少にあるものと考えられるが、家庭科教育の目標を確実に達成するためには授業時間の少なさに不安を感じる。<br /> 次に、高等学校で家庭科を男女で学ぶことには概ね違和感はない。家庭科の授業の楽しさでは、「調理実習」が最も楽しいと答えており、次いで「家族の人間関係や家庭の機能」「栄養学」が上位を占める。 家庭科で学ぶ必要性の高い内容は「調理実習」「青年期の生き方」「異性とのつきあいや避妊」「妊娠・出産」「乳幼児の発達や子どもの成長」に関心が高い。家庭科を学ぶことで、現在の生き方を考え、将来の家族や家庭生活を男女で共に築くことに思いをはせ、妊娠や出産、子どもの成長などを学びたいとの意欲がうかがえる。一方で、「被服製作」「繊維の性質や機能」「衣服管理」の領域には学ぶ必要性が低く、男女差が顕著にみられる。<br /> 生徒が男女で学ぶ家庭科の実現には成果を上げてきたものの、指導する家庭科教師は女性が圧倒的に多く、教員の男女構成に顕著な偏りがみられる。「10年後に家庭科も男性教師が5人に1人くらいに増える」と尋ねた結果では「あまり+全然そう思わない」と答えた割合は7割弱を占める。男女で学ぶ家庭科は概ね違和感なく実現しているが、男性と女性で共に指導する家庭科の実現にはほど遠い現状である。男性の家庭科教員が増えない現状には潜在化するジェンダー秩序が示唆されるが、男性の家庭科教員の育成は男女必履修の高等学校家庭科教育の充実のための大きな課題といる。<br /> なお、詳しい資料は当日配布します。
著者
髙木 直
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

<目的> 家庭科では,適量で栄養バランスのよい食事を摂取するために栄養所要量や栄養素の種類と食品との関係などを指導してきている。しかし,これらの学習内容を日々の食生活に活かすには難しい生徒も多く,実践に活かすために,概量を知る上で,針谷・足立が提唱した「3・1・2弁当箱ダイエット法」(以下,「3・1・2弁当箱法」と称す。)が有効であると考えられる。 「3・1・2弁当箱法」は,5つのルールに従って,主食・主菜・副菜を弁当箱に詰めることにより,1食に必要なエネルギーや栄養素を適量かつバランスよく摂取できるとされている方法である。また,弁当箱の容量(ml)とエネルギー量(kcal)がほぼ同値となる点も1食の食事の全体量が掴みやすく,どれ位食べればよいかの理解にとても有効だと考えられる。 しかし,実際には弁当の詰め方には個人差があることが予想され,5つのルールのうちの1つである「料理が動かないようにしっかり詰める」ということが,実際にどのように受け止められどのように詰めることができるのかを明らかにし,授業に活用する際の注意点として押さえることが大切である。 そこで,本研究では,弁当の詰め方に着目し,ばらつきの程度を明らかにすることを目的とする。<方法>  調査対象者は山形市内のY大学の学生36名(男女各18名)で,調査時期は2011年9~11月。調査方法は,630mlの弁当箱を用意し,1メニューに対し男女6人ずつ計12人,3メニューについて弁当詰めを実施させる。その際の指示内容は以下の3点である。①主菜・副菜は全種類使う。②主食・主菜・副菜を投影面積比で3:1:2にする。ただし,同グループ内での詰め方は自由とする。(例えば,主菜のスペースにハンバーグ4つと卵焼き1つでも,ハンバーグ2つと卵焼き3つでもよい。)③ふたを閉めてもつぶれない程度の高さまで,料理が動かないよう隙間なくしっかり詰める。なお,各メニューの内容は次のとおりである。メニューA:主食=米飯,主菜=豚の生姜焼き,卵焼き,副菜=きんぴらごぼう,小松菜とえのきのお浸し,ミニトマト,ブロッコリーメニューB:主食=米飯,主菜=ハンバーグ,卵焼き,副菜=ポテトサラダ,ほうれん草のごま和え,ミニトマト,ブロッコリー,メニューC:主食=米飯,主菜=サンマの竜田揚げ,ウインナソーセージ,副菜=ひじき煮,カボチャの煮物,ミニトマト,ブロッコリー<結果及び考察>  3メニューの全重量の平均と標準偏差は,メニューAが338±32g,メニューBが349±38g,メニューCが315±39gであった。足立らが「しっかり詰める」確認方法として弁当の重量(g)が弁当の容量(ml)の約7割程度としていることと比較してかなり少なく50%~55%であった。エネルギー量についてはメニューAは526±75kcal,メニューBは538±66kcal,メニューCは533±84kcalであり,630kcalに及ばない者が大半であった。主食,主菜,副菜の投影面積比率が3:1:2(50%:17%:33%)になっているかどうかについては,誤差を±5%とし,その範囲内に収まった者は主食30名(85.7%),主菜26人(74.3%),副菜23名(65.7%)であった。範囲未満者は主食5人(14.3%),主菜0人,副菜7人(20%)であり,範囲超過者は主食0人,主菜9人(25.7%),副菜5人(14.3%)であった。このことから主食は少なめに,主菜は多めに入れる傾向が見られた。主菜の米飯は3メニュー通してみると,男女で有意差が見られ,男子(174±31g)のほうが女子(150±31g)に対して多く詰めていた。弁当の容量(ml)=熱量(kcal)にするためには,いくつかの指示を与える必要のあることが明らかとなった。
著者
野中 美津枝
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

【目的】 現在、日本の少子高齢化は、深刻な社会問題となっている。その要因の一つとして、生涯未婚率の高さが挙げられており、2010年の国勢調査では、男性20.1%、女性10.6%に上る。平成20年中教審答申では、社会の変化に対応するため、高校家庭科では、高校生に家庭を築く大切さを学ばせることが明記され、家族や生活の営みを人の一生とのかかわりの中でとらえることができるように内容の充実が図られた。しかしながら、現代の高校生における家庭を築くことが大切と思う家庭形成意識について、十分に検討されて来たとは言い難い。そこで、本研究では、高校生に家庭形成意識に関するアンケート調査を実施して、高校生の家庭形成意識を把握するとともに、家庭形成意識を育成するための家庭科教育の内容について検討することを目的とした。【方法】 高校生の家庭形成に関する意識を把握するため、平成24年6月から7月に愛媛県のA高等学校344名、B高等学校188名の計532名にアンケートを実施した。調査項目は、1結婚、 2出産・保育、 3家庭形成意識、 4家庭科の内容の以上4点について調査し、分析した。【結果】(1)自分の結婚に関する意識をみると「自分が結婚できる」が54.5%と低く、高校生の2人に1人が結婚できないと思っている。男女差はみられず、高校生の時点で既に結婚難を意識している。(2)結婚願望は、「絶対したい」は38.2%に留まり、結婚願望がない者が13.4%で、男女に有意差はない。しかしながら、結婚したくない理由では、「仕事や学業に打ち込みたい」が女子の方が有意に高い。(3)結婚のデメリットは男女差が大きく、女子は「家事に縛られる」、男子は「責任が重い」が最も高く、ジェンダー意識が強い。(4)子育て観については、87.0%の者は子どもを望んでいるが、約1割の者は高校生の段階で将来的にも子どもを望んでいない。理由には、男女差がみられ、男子は自分の生き方を大切にし、女子は出産や育児への不安から親になる自信がなく子どもを望んでいない。(5)家庭を築くことを大切に思う家庭形成意識には男女に有意差は見られず、家庭形成意識が高い者は54.5%にとどまる。(6)家庭形成意識の高い者は自分の家庭が好きだと答えた者が大半であり、家庭形成意識の高さには、育った家庭環境が影響している。(7)家庭形成意識の高い者は、結婚願望が高く、家庭形成意識の低い者は結婚願望が低い。家庭形成意識の高い者は、結婚のメリットとして「人生の喜びや悲しみを分かち合える」が高く、自分の家庭での体験が結婚へのメリットに結びついていると考えられる。(8)「理想の子ども数3人以上」は、家庭形成意識の低い者20.8%に対して、家庭形成意識の高い者は、36.9%と高い。子どもがほしい理由として、家庭形成意識の高い者は、「子どもが好き」「夫婦間の絆を深めたい」が高く、子ども数や子育て観も家庭環境の影響が推察される。(9)家庭科の好きな内容や身につけたい力として、男子は女子に比べて、「保育」が著しく低い。特に家庭形成意識の低い男子が顕著であり、男子への保育分野の学習に対する動機づけが課題である。(10)家庭形成意識は、家庭環境による影響があることが指摘できるが、育った環境で家庭を築く大切さを体験的に感じることができにくい者にも、家庭科の授業を通して学習する機会が必要である。そのためには、「家族」「保育」を人の一生とのかかわりの中でとらえることも大切であるが、個人の問題である家庭を築くことの社会的意義を理解させることが必要と考える。
著者
武藤 八恵子 高橋 解子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.25-30, 1994-04-20
被引用文献数
2

This study, based on a questionnaire for students who had completed elementary school education, investigated the relation between their level of cooking knowledge and ability of menu planning learned in homemaking education. The result is that the level of students' cooking knowledge are related not to their nutrition assessment but to their favorite assessment.
著者
深谷 笑子 武井 玲子 難波 めぐみ 佐藤 典子 遠藤 恵
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

目的:家庭科の最も重要な特徴は、生活に密着していることである。また、生活という概念は、住むこと、生きること、暮らすことと大きくかかわっていることであり、それは、家や家族に人間が護り護られてこそ成り立つことでもある。そこで、家の役割と家族の意義について,東日本大震災に関する調査から家庭科「家族・家庭」の学習内容を検討することを目的とする。方法:1.2012年7月本学生311名を対象にアンケート調査を実施、2.学生の震災体験記録 3.2012年8月にKGCサマーリフレッシュプログラム(教員免許状更新講習)の教員を対象にしたアンケート調査 4.県内の高等学校家庭科教員対象アンケート調査の実施 結果及び考察:1.本学生を対象にしたアンケート結果から1)震災時、どのようなことを考えたか、の自由記述で一番多かったのは、「家族・友人の安否」「自宅の心配」と、自分自身のことではなく他人、身内などの安否を心配していたことがわかった。2)震災前後の意識の変化では、家族を思う気持ちが強くなった、が7割以上であった。このことから普段家族は空気のようなものだが、困難な時ほど家族の存在が大きいことがわかった。2.本学生の震災体験記録から1)大変なときこそ家族といることが安心だと実感した。2)家族と連絡が取れなかったが、家族は家があることで、遅くなっても帰ってきた。家は家族が帰ってくるところ、家があることのありがたさに気づかされた。3)家があるとことは、家族がひとつになれることでもある。4)家に家族がいたから安心だった。5)家に一人でいたので怖かった。6)家族間に政治の話題が多くなった、など家族を守る器として、また住むということは、どこに出かけてもまた戻ってくる所で根を張っている住まいと家の役割があげられていることがわかる。3.サマーフレッシュから(児童・生徒の変化)1)小学校教諭からは、家族を大切に思う子が増えた。2)中学校教諭からは、日々の生活に感謝。防災意識が出た。3)高等学校教諭からは、子供の生活に変化が見られなかったのは、母親がずーとそばにいることができたおかげと思う。4)特別支援学校教諭からは、何かあれば家の人を思い出し、助けてくれる頼りになる人は家の人、など生徒は、日頃考えないことが、この時を境に家族や防災意識そして正常の生活に感謝する気持ちがわいたことがわかった。4.家庭科教員対象アンケート調査結果から1)緊急時は夫婦それぞれ実家を優先に行動した。2)家や家族の大切さを改めて感じた。3)家族を大切にするようになった。4)より団結力が強くなった。5)連絡が密になったなど、教員自身も実家の親を心配したリ家族を意識したり家族の存在の大きさを実感したことがわかった。体験記録(2名)から1)津波の予測で避難所へ、その後まもなく原発で避難場所を次々移動、現在も落ち着いた生活ではなく、5人がばらばらに生活している。2)地震当時頭をよぎったのは、家族、友達、生徒のこと。生活の基盤は家族。離れ離れになった家族がたくさんいることは胸が痛い。家族と共に普通の生活を送ることがいかに幸せなことなのかを感じることができた。いずれも、福島県が他と異なる東日本大震災の特徴である、地震・津波・福島原子力発電事故によって、家族がバラバラに過ごさざるを得ない不安定な状況が述べられている。 今後の課題: 高校『家庭基礎』の内容を見ると、家や家族の意義についての記載が乏しい。そこで、家や家族の存在について、住むことの本質と上記のような非日常的なときこそ強さを持つ家族についての説明、そして体験記録の掲載を期待する。
著者
小松 国子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第59回大会・2016例会
巻号頁・発行日
pp.102, 2016 (Released:2017-01-13)

【目 的】 昨今「家庭基礎」2単位を履修する学校が増加した。「実習時間」 「調べ学習」などの活動が減少して、座学による一斉授業が増えて いる。そのため、知識・技術を習得させることが多くなり、活用・ 思考・表現の場が不足していることが指摘されている(野中ら,2011・ 2012,長澤ら,2011,松井ら,2011)。また、学習指導要領や秋田県学校教育の指針では、生活を主体的に創造する実践的な態度や適切な解決方法を探究する活動の充実が求められている。新学習指導要領においても、「生活の中で課題を設定し、解決する力」が目指す力となっている(中央教育審議会教育課程部会,2016)。そのため家庭科においても探究や協働の力を育む授業の再構築を検討する必要がある。そこで、課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学びを行う手法として「アクティブラーニング」を取り入れた学習を検討した。【方 法】(1)調 査:2015年7月~8月に、秋田県高等学校家庭科教員を対象に「仕事の負担度」「授業項目の重視度」「ホームプロジェクトについて」「技術検定」「施設訪問」「分野統合、他教科連携、他校種連携」「探究及び体験型の学習について」などのアンケート調査を実施した。(2)実 践:2016年4月から、秋田県立K高等学校の「家庭基礎」(1年生で実施)で授業実践を行った。 【結果および考察】(1)調査より県内でも共通教科の選択は「家庭基礎」が70%を超えており、「住生活」「ホームプロジェクト」「被服実習」「高齢者の生活と福祉」の順で教員の授業重視度が低いことが明らかになった。また「ホームプロジェクト」の実施に際しては、複数の課題を感じている教師が多いことや「分野統合」「他教科との連携」は、「やっていないが、今後取り組みたい」という回答が多かった。一方「ロールプレイ」など様々な手法を取り入れている教師は多いが、それが探究・体験型の学習として生徒の主体的な活動に繋がっているか否かまで、評価できていないことが明らかになった。  「家庭科の授業で悩んでいること」の自由記述では,KHcoderを用いて共起ネットワークによる分析を行ったところ、「検定」「時間」「不足」という語を中心とする共起から、悩みを抱える教師の姿が見て取れた。 (2)そこで「授業の振り返り」「探究型授業実践」に焦点をあて、授業のデザインを検討した。授業の振り返りとして、「リフレクションカード」(表裏14回分記載)を使用し、授業終了時の記入を定着させた。それにより、生徒・教師双方の気づきに繋がり、学びの向上が見られた。「社会保障について」の協働学習では、様々な意見を聞き、協議をしながらポスターをまとめることができた。しかし、全員の学習効果が高まっていない状態も見えた。グループ学習に参加することが苦手な生徒への対応も課題である。「高齢者について」のグループ学習では、ポスターセッションを導入することで、グループ全員が真剣にテーマと向き合っている姿があった。発表後に質問を受けることで、高校生である自分達が高齢化にどのように向き合うか、議論を深めている様子が窺えた。このようなグループ学習は、入学間もない生徒達が仲間を知るきっかけにもなった。【今後の課題】「ホームプロジェクト」については、冬季休業中に実施し、主体的・協働的学習の成果を考察したい。また、授業後の生徒の感想については、KHcoderを使った質的評価を検討する。4月に調査した「中学校で身につけた力」と今現在「身についた力」についても分析を行いたい。
著者
服部 晃次 鈴木 真由子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.105-105, 2011

<BR>【目的】<BR> 家庭科は、自分や家族の過去現在未来の生き方について考える「自分をみつめる」学習の機会が随所にあるという教科特性を持つ。しかし、授業の中でどこまで自己開示を求めるか、生徒たちが抱える問題の個別性やプライバシーへどう配慮するかなど、ある種の「やりにくさ」を感じている教員も少なくないと考える。<BR> そこで本研究では、中学校・高等学校家庭科教員の「自分をみつめる」学習とその中での自己開示への意識を明らかにし、そこに見られる課題を抽出することによって、「自分をみつめる」学習の展開の手がかりとすることを目的とする。<BR>【方法】<BR> 大阪府下の国立、公立、私立の中学校と高等学校731校の家庭科教員を対象に、郵送法による自記式質問紙調査を行った。調査期間は、2011年7~8月、有効回答数は190部、回収率は26.0%であった。調査の主な内容は、①家庭科学習の中で「やりにくい」と感じる内容とその理由について、②「自分をみつめる」学習の実施状況と重要性や配慮事項に関する意識について、③授業での生徒・教師の自己開示についての3点である。<BR>【結果及び考察】<BR> ①家庭科の中で最も「やりにくさ」を感じる内容を聞いたところ、家族(31.1%)、住生活(17.9%)が多かった。主な理由は、「複雑な家庭環境の子どもを傷つけてしまう恐れがある」、「家族の形が多様化している」、「正解不正解が無い」などが挙げられた。それ以外の内容に対する「やりにくさ」の理由についても、類似の記述がみられた。家庭科では、家族・住生活をはじめとする全ての内容について、多様な家庭環境の生徒や個々の問題を抱える生徒へのリスクを教師が感じていることが「やりにくさ」の原因の一つとなっていると推測できる。<BR> ②「自分をみつめる」学習を授業に取り入れている教員は、75.3%であった。実施時期は1学期の導入が多かった。内容は家族や保育が多く、「人生を展望する」、「ライフスタイルを考える」、「人生を振り返る」などの題材で行われていた。授業に取り入れていない教員は、「家庭環境の個人差」「時間数不足」「勉強不足」「道徳や総合でしている」等を理由に挙げていた。また、「自分をみつめる」学習の重要性については、「重要だと思う」「まあまあ重要だと思う」を合わせると96.2%であった。配慮についてはほとんどの教員が必要だとしており、配慮が必要な生徒としては、「父子母子家庭」「施設から通っている」「虐待されていた」等を挙げていた。具体的には、「お父さん」などの言葉を「保護者」と表現するといった教員の言葉遣いに関する配慮や、プリント記入などの時に「書くことを強要しない」、「開示しても良いかどうかを知っておく」等の授業の方法・準備の配慮が挙げられた。<BR> ③授業の中で「生育歴」「現在の家族」「将来」に対する生徒個々の考えをどの様に開示させるべきか、またはさせないべきかについて尋ねた。その結果、「生育歴」「現在の家族」については、約6割の教員が「教員しか見ない」と回答した。「将来」については意見が分かれたが、「授業で発表」が40.6%で最も多く、続いて「匿名にしてプリント配布」が29.1%、「教員しか見ない」が28.0%となった。過去、現在の自分に関しては自己開示させることに対して消極的だが、将来の自分に関して自己開示させることについては積極的な傾向が見られた。また、教員自身の自己開示について尋ねたところ、9割以上の教員がその必要性を認めていた。理由としては、「生き方の参考例の一つになる」「自己開示しにくい生徒に対して方法を示す」「自分ができないことを生徒には求められない」等が挙げられた。しかし、「教員の自己開示が生徒に与える影響が大きい」「教員にもプライバシーがある」など、自己開示の必要性を認めながらも教員自身の自己開示に抵抗を感じる記述があることも、「自分をみつめる」学習の課題の一つであるといえよう。<BR>
著者
井元 りえ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

【目的】西オーストラリア州の家庭科のカリキュラムと授業の内容を分析し、日本の家庭科と比較検討し、日本の家庭科の発展に資することを目的とする。 【方法】2012年9月に、オーストラリア、パースで以下の2つの調査を行った。(1)西オーストラリア州政府のDept Education and TrainingのMs. Yates Marilynを訪問し、家庭科教育行政について聞き取り調査、(2)Belridge Senior High SchoolのMs. Girvan Lynetteを訪ね、高等学校の家庭科の現状を調査(インタビュー調査及び授業見学)。それらの内容を日本の家庭科と比較検討する。 【結果及び考察】 (1)オーストラリアでは従来の州毎のカリキュラムが、全国統一カリキュラム(National Curriculum)に変わりつつある。すでに、4つの教科(History, Mathematics, English, Science)で全国統一カリキュラムが実施されている。家庭科(Design and Technology)の新しいカリキュラムは、アドバイザリーグループ(advisory panel)が作っている最中である。家庭科の中にdigital technologiesを含むことも課題となっている。 現在の西オーストラリア州の家庭科のカリキュラムは、例えばYear 11 – 12 (16 -17歳)(日本の高校2,3年生に当たる)では、学習内容に、「Stage1 UNIT 1AF」というように番号がふられて、分かれており、ひとつのUNITを1学期(semester)で学ぶことになっている。生徒によって学ぶ内容が異なり、A1~2を学ぶ生徒もいれば、Bを学ぶ生徒もいる。Year12の最後にはテストがある。 (2)ベルリッジ高等学校を訪問し、Lyn Girvan先生に家庭科の授業を見せて頂いた。 この学校のカリキュラムは、以下の通りである。 ・8年生(13歳)1学期(週に2時間、20週)、2学期(別のグループの生徒が同じ授業を受ける) 10週 食物、10週 被服(ミシンを用いたピローケース作り、ミシンを用いたペンケース作り、手   縫いのフェルトマグネット) ・ 9年生 1学期(週に2時間、20週)食物 ・ 10年生 3つのコースから選択(1年間に40週)(1)食物と文化、(2)職業における食品、(3)家族、地域と自分。3つすべてを選んでも良い。 ・ 11, 12年生 3つのコースから選択(週に4時間、1年間32-35週) 職業体験と卒業試験があるため、授業を行う週の数が少ない。 1)「食物・科学・技術」の中の「ホスピタリティー」と「製品」 2)「子ども・家族・地域」 実際の授業では、講義と実習を見学できた。講義は「子ども・家族・地域」の学習として「育児について」、調理実習は「梨のタルト」と「スパゲティー・カルボナーラ」の学習、被服実習は、「ペンケースづくり」と「ドレスづくり」を見学した。日本では、実習の場合2時間をとって行うが、本校では1時間で行っていたため、時間が短く、実習だけで終わってしまっていた。理論は別の時間に教えているということだが、理論と実践の学習をどのように関連させるのかが難しいのではないかと感じた。 「ドレスづくり」は大変高度な被服製作技術が必要な授業であった。日本では、高校の専門科目で行われているような内容であった。また、育児についての講義では、教師が作成したワークシートに沿った自主的な調べ学習が中心となっていた。 また、家庭科室に掲示してあった食品群別摂取量の目安については、パン・穀物が5+、野菜が4、果物が3、牛乳・乳製品が2、肉・それに代替できるものが2、嗜好品が2以下、とされていた。日本と比べると、果物の量が多いことと、嗜好品も載せていることが違いである。 なお、最近、Stephaney AlexanderのKitchen Garden Programというのがオーストラリア全国で盛んに行われており、本校の生徒も近くの小学校で児童と共にその活動をしたということである。このプログラムは、2001年に始まったもので、現在全国267校が参加している。 日本の家庭科においても、農産物の生産に関する学習を取り入れたりする試みもあるが、このように全国的な取り組みはないので、注目に値する。食生活に関する教育では、このような生産に関する教育が環境教育の視点から非常に重要だと考えられる。
著者
三田 コト 西内 久 松元 文子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
no.16, pp.79-84, 1975-03-31

Experiment was carried out to know the relations between the qualities and quantities of materials in making hamburg-steak and its finished products. Various kinds of samples were made, each weighing 100 grams, varying the quantities of minced beef, onions, eggs and bread crumbs. Four different kinds of beef were used; one of which was bought at the city market, and the other three were the different percentage of fat contents, i.e. the one is no fat, and the others are 20 percent fat, and 40 percent fat respectively. The National Electric Hot Plate (800 W) were used for roasting. The results were as follows : 1. The quantities of onions, eggs, bread crumbs, and fat contents in beef have some relations to the weight of finished products. 2. The quantities of eggs, bread crumbs and collagen in beef are important factors in determining the sizes of finished products. 3. The taste is generally influenced by the quality of beef and the fat used in mixing.
著者
中西 雪夫
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.217-225, 2011-01-01

The purpose of this study is to investigate the significance of coeducational home economics. In order to achieve this purpose, two surveys were carried out, before and after the introduction of coeducational home economics. The first survey was conducted in 1990, and the second in 1998. In both surveys, the same questionnaires were used. The major findings were as follows. 1. Male students who studied home economics accepted diverse family styles, had an intimate attitude towards their family, and had views toward sex roles less influenced by gender. And they participated in household work actively than male students who didn't study home economics. 2. Female students who studied home economics in a coeducational class room accepted diverse family styles, and had views toward sex roles less influenced by gender. 3. Male students who studied home economics in coeducational class room showed higher degree of "readiness for parenthood" than male students who studied home economics in male only class room. By surveys of university students and adults, impressions of home economics have been changing. They who studied coeducational home economics acknowledged studying home economics.
著者
石倉 菜穂 石井 智恵美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第50回大会・2007例会
巻号頁・発行日
pp.69, 2007 (Released:2008-01-08)

目的 アメリカ合衆国(以後アメリカとする)では成人の64%が過体重か肥満といわれており、大きな社会問題となっていることはよく知られている。近年、日本の食生活も欧米化され、野菜摂取量が減少したことによる健康上への負の影響が取沙汰されるなか、アメリカでは1980年代より1人当りの年間野菜供給量を着実に増やし、現在では日本のそれをはるかにしのぐ量の野菜を消費している。これはアメリカ人の健康と健全な食生活を守るために1980年より出され5年ごとに改訂されている「アメリカ人のための食生活指針」とその内容に忠実に従った学校教育における食物学習の効果であると推測できる。しかしながら、肥満の問題に明確な解決が得られた訳ではなく、それは依然としてアメリカが抱える大きな問題である。そこでアメリカ人の食習慣、アメリカ人のための食生活指針及び学校食物教育の内容を経時的に調べることによりその理由を検討すると共に、子供たちの食習慣に対するアメリカの新たな取り組みについても紹介する。 方法 アメリカ人の食習慣は文献及び国連の食糧需給表に示されるデータにより把握した。アメリカ人のための食生活指針は初版の1980年より最新版の2005年までの全ての指針を対象とした。学校教育における食物学習の内容は主にアメリカの小学校で必修である保健の教科書1~6学年までの教師用(Teacher’s Edition)を用い,学年別に3社の教科書の内容を比較検討した。 結果および考察 アメリカ人の食生活指針の中で特徴的なのは砂糖及び砂糖を多く含む食品と脂質を多く含む食品の扱いである。これは学校食物教育でも顕著に示されている。すなわち、これらは摂ってはいけない食品として扱われている。低学年の学習内容にあっては砂糖や砂糖を多く含む食品は虫歯になるので、中学年以上では更に肥満や心臓病の原因になるので摂ってはいけないと説明されている。砂糖及び砂糖を多く含む食品と脂質を多く含む食品はFood Guide Pyramid(My Pyramid)には示されるものの食品群には分類されず「食品ではない」という扱いである。野菜については1980年と1985年の食生活指針には特に記述はなく、1990年以降「穀物や野菜、果物を沢山摂りましょう」という記述がなされるようになった。この頃からアメリカ人一人当たりの年間野菜供給量に明確な増加が認められるようになった。小学校の教科書ではおやつの項目で生野菜のスティックを奨励するなど指針の内容に対応した学習が考えられた。 アメリカの「食」における主要な食品は肉類であることはよく知られていることであるが、食生活指針に肉に関する記述は1980年より2000年までない。2005年に改訂された指針には「肉や豆(乾燥)、牛乳、乳製品は、低脂肪、または無脂肪のものを選ぼう」という記述が見られる。Food Guide Pyramidの指導の中では1990年以降、1日の摂取目安量が示された。しかしながらアメリカ人1当りの肉の年間供給量は1961年の89.0kgから増え続け2003年には124.0kgになった。日本人1人当りの年間供給量は2003年で44.3kgであるので、その3倍近い肉を消費していることになる。1999年、FDAは大豆タンパク質の摂取は心臓病の予防に効果があるとして大豆タンパク質を含む食品のラベルに健康表示をすることを承認した。これ以後、アメリカ人による大豆消費は増大した。 アメリカ人の健康に対する意識は高く、健康にとって良いものを積極的に摂ろうとする姿勢も見て取れる。しかしながら肉の消費を抑制する積極的な指導があまりなされていないことが結果的に食事全体の量を増やし肥満の抑制に目立った効果がないように思われる。
著者
北島 光子 金子 佳代子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第46回日本家庭科教育学会大会
巻号頁・発行日
pp.15, 2003 (Released:2004-03-23)

目的】 地球環境問題に対する関心が増すなかで、環境に配慮しようという意識は持つものの環境配慮行動の実践には結びつかないことが多い。広瀬(2001年)は、環境配慮行動実践の意思決定をする前段階として、環境問題に貢献したいという態度を形成する段階があり、この態度の形成には「環境問題に関する認知危機感)」、「環境問題の原因に関する認知(責任感)」、「環境負荷への対処法に関する認知(有効感)」の強化が有効であるとしている。 本研究では、環境配慮意識を行動化する過程における意思決定能力育成の一環として、環境問題や環境と生活のかかわりに関する認知の強化をねらいとした授業を行い、認知の変容を明らかにすることを目的とした。具体的には、地球温暖化の原因につながるエネルギー消費の問題を取り上げ、身近な生活行動である家庭電気製品の使用について考えさせた。【方法】 高等学校2年生「家庭一般」住生活領域(16時間)の一部として、消費生活と環境についての授業(8時間扱い)を行った。家庭におけるエネルギー消費、特に家庭電気製品の消費電力量削減を取り上げ、生徒が日常使用している家庭電気製品の消費電力量測定などの体験的学習を取り入れ、生活行動と環境との関わりや環境配慮行動と省エネルギー効果の関連性などについて考えさせた。住生活領域の最初と最後の授業で、それぞれ「環境」を鍵概念とするイメージマップを作成させ(30分間)、認知の変容の分析には、これらを用いた。イメージマップは、認知構造の分析や学習ツールとして用いられており、学習者の認知構造について、その広がりなどの程度を把握するのに有効である。ここでは、鍵概念「環境」から連想された語句(ラベル)について、イメージの量的広がりを捉ることにした。鍵概念「環境」から派生する全てのラベルを対象に「環境問題に関する認知」「環境負荷要因に関する認知」「環境荷軽減に関する認知」に該当する内容を抽出し、その数及びそれらの関連性について検討した。【結果】授業の前後のイメージマップを比較したところ、次のような結果が得られた。・それぞれの「認知」に該当したラベルの数と関連性からは、「環境問題一環境負荷要因一環境負荷軽減の関連性」、「環境問題一環境負荷軽減の関連性」「環境問題」「環境負荷軽減」に有意な差が認められた。・「地球温暖化」について「環境問題一環境負荷要因一環境負荷軽減」の3つの認知を関連させたものが大幅に増加し、「環境負荷要因」から複数の「環境負荷軽減」へのつながりもみられた。「環境負荷軽減」に該当するラベルでは、「省エネ」「リサイクル」「ひかえる・減らす・減量」等の生活行動に関するものだけでなく、「京都議定書」「(家電)リサイクル法」等の社会の動きと関連するものも増加した。「環境負荷軽減」に関する認知に広がりが見られたことは、家庭科の環境教育の特徴である生活における実践力の育成に結びつくものである。また、この認知が、社会の動きとの関連と生活行動の変容の双方に現れたことは、環境配慮行動がその「行動の仕方」としてのみ習得されたものでなく、社会の動向や自然科学的な根拠に基づいた「環境負荷軽減に関する認知」として捉えられたものと考えられた。
著者
福田 恵子 後藤 真理
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.150-161, 2012-11-01 (Released:2017-11-17)

The purpose of this study was to investigate effective teaching methods for problem-solving in home economics of senior high school. For this purpose, home project employing problem-solving with practical reasoning was conducted, and the effectiveness of learning and incidence of employments of learning strategies was evaluated afterward. Our subjects were 220 students in a senior high school. Relationships among learning motives, mastery levels of tasks and learning strategy in the problem-solving were analyzed by the multiple regression analysis. The results were summarized as follows; (1) Before the home project, the cognitive strategies were mainly used, and they were improved among approximately 45% of students by the home project employing problem-solving with practical reasoning. This project improved the metacognitive strategies and the external resource strategies which were used among only 25-35% of students before the home project. (2) Multiple regression analysis suggested that the mastery level of task was elevated by increasing the cognitive motivation of attainment value which was elevated by ascending the metacognitive strategies. Learning strategy was increased by raising incidence of imitating strategies from another students and the mastery level of practice.
著者
中野 理恵 武藤 八恵子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.31-36, 1995-08-20 (Released:2017-11-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1

This study is based on a questionnaire for pupils who had completed elementary school education to examine the relation between their participation in housework and their ability in planning the menu learned in homemaking classes. The relations were found between their domestic chores and their nutrition assessment, color assessment and combination of chores assessment. And we found that the domestic chores engaged voluntarily by the pupils were related to their menu planning ability.