著者
中橋 雄 寺嶋 浩介 中川 一史 太田 泉
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.373-382, 2010
参考文献数
14

本研究は,「電子黒板を活用して学習者が考えを説明する学習活動」で生じる相互作用を調査し,学習者同士の思考と対話を促すために教師が行った指導方略をモデル化して捉えることを目的としたものである.学習場面をビデオで撮影するフィールド調査により,学習者および教師の発話と行動について分析を行った.その結果,教師の指導方略として,「対話のための場を整える」,「説明方法を指導する」,「自らモデルを示す」,学習者の説明に対して「受け答える」,「思考を促す問いかけをする」といった事象のカテゴリーが生成された.そして,それらを構成する要素の中には,<提示画像を準備する><説明を書き込むよう注意する><印の付け方を注意する><色を変えて比較させる><書き込みを保存させる><立つ位置の見本を示す><身振り手振りの見本を示す>といった電子黒板を活用することによる特徴的な所作・動作を伴う事象が確認された.
著者
畔田 暁子 鈴木 佳苗
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.85-88, 2012

本研究の目的は,美術科の鑑賞学習の授業において利用できる可能性がある学習コンテンツの1つであるウェブ上の画像に関して,鑑賞学習の授業での現在の利用状況,利用の際に必要な機器や機能・要素,教員の意識と利用の際の課題を明らかにすることである.現職の中学校美術科担当教員を対象として質問紙調査を行った結果,1)ウェブ上の画像は第3学年対象の鑑賞学習の授業において利用頻度が高い傾向があり,2)いずれの学年の授業においても「絵画など平面作品」の画像が利用されることがもっとも多く,3)美術科担当教員は,ウェブ上の画像には画質とともに「歴史・文化的背景」や「素材や技法の説明」などの情報が必要だと考えていることが示された.
著者
田口 真奈 半澤 礼之 杉原 真晃 村上 正行
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.327-337, 2012
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究は,FD(Faculty Development)業務を担当する若手教職員を対象とした調査結果から,担当者が業務上,連携を取る必要のある部局との連携の程度,ならびに担当者のキャリア展望が,FD業務へのやりがいや不安といった感情にどのような影響を与えるのかを明らかにするものである.大学教育センター等に所属する教員,FD委員会に所属する教員,事務職,組織の代表者といったポジションによる違いを検討したところ,センター所属の教員の方が委員会所属の教員よりも,また代表者は,若手教員よりもやりがいが高いことが明らかとなった.次に,こうしたやりがいや不安に影響を与える要因として,委員会所属の教員においては,連携が取れていることと,FD業務を自身のキャリア展望に位置づけられることがやりがいを増すことにつながる可能性が示唆された.センター所属の教員については,キャリア展望と,やりがいにのみ関連がみられた.事務職については関連はみられなかった.
著者
中原 淳 八重樫 文 久松 慎一 山内 祐平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.437-445, 2004-03-20
被引用文献数
7

近年,多くの高等教育機関がeラーニングに注目している.一般的なWebベースのeラーニングシステムには,学習者同士が相互作用を行うための電子掲示板が実装されている.学習者は,それを活用し,相互に情報交換や討論を行い,協調的な問題解決に取り組むことができる.本研究では,電子掲示板における相互作用の状況を,個々の学習者が所有する携帯電話の待ち受け画面に可視化することで,電子掲示板における学習者の諸活動を促進することを目的とした携帯電話ソフトウェア「iTree」を開発した.iTreeは,「木の成長をメタファとした表現」を用いて,電子掲示板の相互作用を携帯電話の待ち受け画面に可視化する.この画面を見ることで学習者は,PCから電子掲示板の様子を,頻繁にチェックしなくても,そこで進行している相互作用の状況を把握することができる.評価の結果,iTreeを利用する学習者は,電子掲示板のメッセージを,より積極的に閲覧する傾向があることがわかった.また,iTreeの機能全般に関して,多くの学習者が肯定的な主観的評価をよせていた.
著者
岡本 雅子 村上 正行 吉川 直人 喜多 一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.35-45, 2013

プログラミングの学習では,サンプルプログラムを使って,プログラムの記述(命令)とその実行結果(動作)から各処理概念を学んでいく経験学習の方略が用いられる.しかしながら,各命令と動作の関係そのものを暗記するだけで,概念あるいは機能の理解といった段階にまで到達していない学習者が散見される.こうした事例に関し,本研究では,「現在使用されているカリキュラムや教材が,経験学習の構造的特性に合致していない」ことが,理解を妨げている要因の一つであるのではないかと考えた.そこで,経験学習を構成する「対象の認知と現象の把握」の過程に注目し,プログラムと動作の関係を視覚的に「顕在化」することに配慮したカリキュラムおよび教材を開発した.また,これらを評価するため,授業において運用を試みた結果,視覚的顕在化の側面において受講生への効果を確認するとともに開発した教材およびカリキュラムの有効性が示唆された.
著者
齋藤 昇 中浦 将治
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.215-225, 1999-03-20
参考文献数
14
被引用文献数
10

コンピュータを利用した個別学習支援システムの開発に際しては,個々の学習者の学力に応じた問題をどのように選定し,与えるかが重要である.そこで,本研究では,学習者の学習の進捗状況を評価し,次時点に与える最適な問題レベルを選定する新しい方式を以下にしたがって開発した.1)問題の回答に対する部分点の数値化の手法.2)得点の変動傾向を計量化する手法.3)得点の変動傾向を算出する際,現時点からいくつ前までの得点データを使用するかを決定する使用得点データ数打ち切り方式.4)平均点に得点の変動傾向を加味して総括評価値を算出する手法.5)総括評価値に基づいて,次時点に与える問題レベルを選定する手法.最適問題レベル選定方式は,ファジィ理論を利用しており,次の特徴がある.(1)得点の変動傾向を算出する際,得点のゆれを加味できる.(2)個々の学習者の学力に適した問題を選定し与えることができる.
著者
神邊 篤史 永井 久美 松原 行宏 岩根 典之 岡本 勝
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.143-150, 2009

運動学習による動作訓練は,新たな身体技能の獲得や日常生活における身体機能の再獲得において重要である.本報告では上肢の大きな動作の学習のための仮想環境について提案する.本システムにおいて,学習者は環境内に提示されるポインタの位置を視覚や触覚を通して確認することで,動作を修正しながら目標位置に向かって上肢を動かしていく.具体的には,cube型環塊と三次元迷路環境の2つの環境での訓練により,上肢の大きな動作を行う際の運動の計画,運動の実行と修正や,問題のある筋の特定が可能である.健常大学生を対象とした実験では,本システムを用いた動作習熟の可能性を確認できた.
著者
森田 健宏
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.87-94, 2002-09-20
被引用文献数
7

保育所におけるパソコン利用の問題点について,保育士を対象に評定尺度を用いた調査を行い,その内容から保育士の抱く問題点の因子構造について検討した.因子分析の結果,解釈可能な4因子(第1因子「子どもの心身の発達への影響」,第2因子「保育実践利用の意義・方法」,第3因子「職員間のコンセンサス」,第4因子「職員のメディアリテラシー」)を抽出した.さらに,各因子を構成する項目の評定について検討したところ,子どもが自然とふれあうなどの直接経験の機会が少なくなることや人間関係の発達に影響を及ぼすことなど,従来の研究から多く述べられてきたことに加え,実際に保育で利用するための環境構成が困難であることや,職員のスキル習得及び実践事例研究のための研修機会が持ちがたいことなどについても,高く支持されていることが明らかになった.
著者
後藤 康志 Gotoh Yasushi
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.111-118, 2014-05-17

教員免許状更新講習選択領域では6,000を越える講習が開設されているが,受講者側からはどのような講習が受講できるか見えにくく,開設側からはトータルとしてどの領域がどれだけカバーできているかモニタリングしにくい.選択必修領域の新設の提言に伴い,選択頒域の講習を整理する枠組みについて検討する.
著者
北村 智 脇本 健弘 松河 秀哉
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.129-132, 2013

本研究では実践共同体としての学術共同体に対するネットワーク分析によるアプローチを試みる.特に学習としての正統的周辺参加に着目し,共同体における参加者の「位置」を定量的に表現する手法として中心性を採用する.中心性からみた共同体における参加者の「位置」の変化と,共同体における参加者の役割獲得の関係を分析し,実践共同体に対するネットワークアプローチの妥当性について検討する.
著者
田口 真奈 西森 年寿 神藤 貴昭 中村 晃 中原 淳
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.19-28, 2006
被引用文献数
10 9

大学教員初任者に対して「何に不安を抱き,どのようなサポートを必要としているのか」に関する調査を行った.また,高等教育機関に対して「どのような初任者研修を必要と感じ,実施しているのか」に関する調査を実施した.前者の調査からは,初任者が教育方法に関してもっとも不安を感じていることが明らかになった.ただし教育方法に関する研修に対する教員の必要性は必ずしも高くはなく,有効なサポート方法の検討が課題であることが示唆された.後者の機関調査からは,教育方法やITに関わる内容について機関による十分なサポートが提供されていないことが明らかとなった.特に,小規模な機関においては,その必要性が認められているにもかかわらず,サポートが十全でない状況が推測され,そうした機関の初任者をサポートする手だての必要性が示唆された.
著者
張 セイ 森本 康彦 宮寺 庸造
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.177-180, 2012
参考文献数
9

近年,自己調整学習を支援するシステムが開発されているが,初歩の自己調整者に特化した支援が不十分なため,自己調整学習に不慣れな学習者には扱いにくいシステムとなっていた.そこで,本研究では,この問題点を解決するため,初歩の自己調整者の学習プロセスを通して自己調整学習を支援するシステムを開発した.本システムは,足場かけ/足場外しを半自動化することで自己調整者の上達を促すことを特徴とする.評価の結果,本システムは,自己調整学習を効果的に支援することが示され,問題点の解決の可能性が示された.
著者
森 玲奈 北村 智
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.309-318, 2013

ワークショップは教育工学の研究対象として認識されてきた.しかしながら,教育工学研究としてのワークショップの評価について,十分な議論が行われていない.そこで本稿では,第一に,ワークショップの教育評価について,ワークショップと学習目標との関係に着眼し,検討を行なった.第二に,教育工学研究としてワークショップを評価する方法について,都市計画研究における方法と認知科学研究における方法を参照し,検討を行なった.検討の結果,第一に,ワークショップの教育評価では,我々は明示された学習目標と明示されていない学習目標を分ける考えを示した.加えて,「予期されなかった学習」の重要性を指摘した.第二に,都市計画研究における評価方法を検討した結果,研究の妥当性・有用性を考える上で,実践の置かれた文脈と同様に,実践に対する研究者の立場を詳述することが重要であることと,参加者・研究者のみならず,企画者・運営者を含めた多様な関わりを踏まえた多面的な分析に,有用な知見を見いだせる可能性があることを示した.第三に,認知科学研究における相互作用分析の研究を踏まえると,言語行動のみならず,非言語行動を含めたマルチモーダルな分析を行うことが有効ではないかと提案した.
著者
松波 紀幸 永井 正洋 貴家 仁志
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.111-123, 2012

児童にデジタルペンとマインドマップを用いて協調学習を行わせ,他者の意見と自身の意見を比較検討させた後,意見文を書かせることを通して,表現の論理性を高める授業を展開した.また,協調学習の後に,遠隔地と結んだエキスパートを授業に参加させることで,さらに児童の表現の論理性が向上すると考えた.実践の結果,児童の意識調査(回答選択)からは,エキスパートが意見文の推敲に最も影響を及ぼしていることが分かるとともに,授業の事後意見文を分析した結果からも,その影響を認めることができた.また,事後意見文の質的分析からは,「具体性」,「妥当性」,「明確さ」に改善が見られ表現の論理性が向上しており,エキスパートによる学習支援の有効性が示唆された.この他,マインドマップを利用した学習支援については,意識調査(自由記述)や意見文,教員評価から児童が表現の論理性を高めており,有効であったことが認められた.