著者
中務 真人 國松 豊
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.313-327, 2009-03-31 (Released:2010-06-17)
参考文献数
87
被引用文献数
1 2

Recent discoveries of new hominoid species from the Late Miocene of Africa provide us various insights for the study of hominoid evolution and human origins. One of them, Nakalipithecus is a large-bodied hominoid from 9.8 my-old Nakali, Kenya. It has a close relationship with the slightly younger Ouranopithecus known from Greece and Turkey and is very likely the sister taxon to the extant African apes and humans among the currently known hominoids. More importantly, Nakalipithecus is accompanied with several other catarrhine taxa, including another large-bodied hominoid, small-bodied non-cercopithecoid catarrhines, and cercopithecid and victoriapithecid monkeys. In this article, we review the phylogeny of Late Miocene hominoids, morphological evidences to connect Nakalipithecus with Ouranopithecus, and paleoenvironments of Nakali and biogeography of Late Miocene hominoids. Also, we propose a scenario of competition in cercopithecoids and non-cercopithecoid catarrhines in the Late Miocene of Africa and its influence on hominoid evolution.
著者
河合 雅雄
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1-2, pp.1-3, 1985 (Released:2009-09-07)
被引用文献数
1 3
著者
橋本 千絵 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.17-22, 2000 (Released:2009-09-07)
参考文献数
6
被引用文献数
1 2

We captured 26 males for marking with tattoo using a blowpipe dart containing anesthetic. Individuals shot with a blowpipe got temporarily disabled. When these individuals were released still being disabled, members of the same troop showed various attitudes toward them. Only young males of 5 to 9 years old received aggressive behaviors. Aggressors were also young males of 7 to 8 years old, and they showed both aggressive and affinitive behaviors against the disabled individuals. An adult male and adult females showed only affinitive behaviors, and they protected the disabled individuals from the attack by young males. Close and unstable dominance relationships might cause the aggressive interactions between young males.
著者
B. Thierry E. L. Bynum S. Baker M. F. Kinnaird S. Matsumura Y. Muroyama T. G. O'Brien O. Petit K. Watanabe
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.203-226, 2000 (Released:2009-09-07)
参考文献数
88
被引用文献数
24 70

野生および飼育下の個体群から集められた資料にもとづいて,スラウェシマカクの社会行動のレパートリーのエソグラムを作成した。コミュニケーションのパターン,動きのパターン,性行動のパターン,幼児行動と遊び,三者間の社会交渉など社会的文脈で観察されている行動を記述した。これらの行動パターンのほとんどはスラウェシマカクの全種に見られた。ある種の行動パターンの形態や機能はほかのマカク種で報告されているものと著しく異なっていたが,その一方,別の行動パターンに見られた類似性は,マカク属内の系統的な類縁関係を反映している可能性があった。
著者
山田 文雄 大井 徹 竹ノ下 祐二 河村 正二
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.55, 2013 (Released:2014-02-14)

福島原発事故で放出された放射性物質による野生動物への蓄積と影響についての調査研究が開始されつつあるが,野生動物の管理については人間活動の制限もあり不十分な点が多い.今回の集会では,野生哺乳類のモニタリングや管理問題について,特にニホンザルや大型狩猟動物を対象に,研究成果や社会的問題を紹介し,今後のあり方を議論する.今後,行政機関にどのような働きかけが必要か,要望書の提出も見据えながら議論を行う.本集会は,2012年5月に開催した4学会合同シンポジウムを受けて,日本哺乳類学会保護管理専門委員会と日本霊長類学会保全・福祉委員会の共同開催とした.1.「福井県におけるニホンザルの生息状況と餌食物の歩車占領の実態、及び今後の保護管理の問題点」  大槻晃太(福島ニホンザルの会) サルの主要な餌を分析し,放射能汚染による餌への影響や放射能汚染に伴う耕作状況の変化によるサルの行動変化を明らかにした.人間活動の再開に向けたニホンザルの保護管理の問題点などについても話題提供したい.2.「福島市の野生ニホンザルにおける放射性セシウムの被ばく状況と健康影響」  羽山伸一(日本獣医生命科学大学) 世界で初めて原発事故により野生霊長類が被ばくしたことから,演者らの研究チームは,福島市に生息するニホンザルを対象に低線量長期被ばくによる健康影響に関する研究を 2011年 4月から開始した.サルの筋肉中セシウム濃度の経時的推移と濃度に依存した健康影響に関する知見の一部を報告する.3.「大型狩猟動物管理の現状と人間活動への影響  仲谷 淳(中央農業総合研セ)・堀野眞一(森林総研東北) イノシシやシカなどの大型狩猟獣で食品基準値を超える放射性セシウムが検出され,福島県を中心に獣肉の出荷規制が継続されている.狩猟登録者数が減少し捕獲数にも影響する一方,農業等の被害増加が懸念されている.最新の放射性セシウム動向と,震災地域における狩猟者の意識変化について紹介し,今後の大型狩猟獣対策の方向を考える.4.「福島件における野生動物の被爆問題と被害管理の現状と課題」  今野文治(新ふくしま農業協同組合) 東日本震災から 2年が経過したが,山林等の除染は困難を極めており,年間の積算線量が 100mSv/hを越える地域も存在する.多くの野生動物への放射能の影響が懸念されており,基礎的なデータの収集と保全に向けた対応が急務である.一方,避難指示区域の再編が進められており,帰宅が進むにつれて被害管理が必要となっている.新たな問題が発生する地域での野生動物と人間の共生に向けた情報の共有と整理が重要となっている.5.総合討論「今後の対応と研究について」  山田文雄・大井 徹(森林総合研究所),竹ノ下祐二(中部学院大学),河村正二(東京大学)企画責任者 山田文雄(森林総合研究所)・大井 徹(森林総合研究所・東京大学大学院農学生命科学研究科)・仲谷 淳(中央農業総合研究センター)・竹ノ下祐二(中部学院大学)・河村正二(東京大学)
著者
山田 文雄 友澤 森彦 中下 留美子 島田 卓哉 川田 伸一郎 菊池 文一 小泉 透
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.90, 2013 (Released:2014-02-14)

福島第一原発事故(2011年 3月)による放射性物質の生態系での動態や野生動物の影響を把握するため,地表や土壌中を生活空間とし短寿命のアカネズミなど小型哺乳類を対象に,1)原発から30kmの福島県川内村の国有林(高線量地,空間線量は平均 3.6 μSv/hr,2011年 10月測定)と,2)70kmの茨城県北茨城市の国有林(低線量地,空間線量 0.2 μSv/hr,2011年 12月測定)で継続調査を行った.放射性セシウム濃度(半減期約2年の Cs-134と約 30年のCs-137)は,1年目のアカネズミは高線量地(平均 4,415Bq/ kg生重,最大 18,034-最小 920Bq/kg, n=26)で低線量地(平均 1,124 Bq/kg,5,007-17Bq/kg,n=40)より 4倍,2年目は高線量地(平均 5,950Bq/ kg,最大 19,498-最小567Bq/kg, n=10)で低線量地(平均 370 Bq/kg,882-11Bq/kg,n=30)より 16倍高かった.ヒメネズミは高線量地(平均 5,360Bq/ kg,最大 26,218-最小 91Bq/kg, n=20)で低線量地(平均 221 Bq/kg,7,078-71Bq/kg,n=32)より約 24倍高かった.ヒミズは高線量地(平均10,664Bq/ kg,最大 29,061-最小 41Bq/kg, n=4)で低線量地(平均 650 Bq/kg,2,600-137Bq/kg,n=4)より 16倍高かった.高線量地のヤチネズミ(平均27,290Bq/kg,54,892-12,094, n=4)は高くアズマモグラ(1,017Bq/kg, n=1)は低かった.年変化(事故1年目と2年目)ではアカネズミは高線量地で変化は少ないが低線量地で70%減少し,アカネズミとヒメネズミの濃度は両地で類似し,アカネズミ,ヒメネズミ,ヤチネズミ及びヒミズが高濃度蓄積を示した.
著者
沢口 俊之 宮藤 浩子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.48-58, 1987 (Released:2009-09-07)
参考文献数
84
被引用文献数
8 5

Sociobiology and Japanese primate sociology are discussed to develop theories on evolution of social structures and behaviors in primates. Central problems on applying sociobiology to the primate evolution may be concepts of phenotype and selection pressure. Phenotypes for primate social structures and behaviors would be correlated each others (multi-polar), and be hierarchically organized (multi-level). For the selection pressure, “active selection pressures”, such as species recognition and sociality, may be critical for the primate evolution. Since the “active selection pressure” has properties of phenotype, we insist “dualism” of the active selection pressure and phenotype could be a critical mechanism of the primate evolution. On the other hand, primate sociology, which has been leaded by Imanishi, is characterized by its idea of “holism”that individuals serve the prosperity of species. Although Imanishi's primate sociology has been pointed out to differ from sociobiology in several points, we consider that it can be fruitfully reconstructed in the framework of neo-Darwinism when the idea of “holism” is abundant. Further, Itani has shown basic social units as the phylogenetic constraint. Since the phenotypic dynamic theory of neo-Darwinism involves phylogenetic constraint, it could reveal evolution of primate social structures. Thus, Imanishi's primate sociology and Itani's theory could be reconstructed in the framework of neo-Darwinism. The reconstruction would be fruitful to develop theories on evolutionary mechanisms of social structures and behaviors in primates.
著者
宮川 友博
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第22回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.87, 2006 (Released:2007-02-14)

雌の配偶戦略という面から群れの成り立ちを見ると、1、発情期が一時期に集中する雌の集団において、雄は発情期のみ必要である。(雌のみの集団)2、発情期が個体毎に違う雌の集団においては、一匹の優位な雄が常時群れに入ればよい。(一夫多妻の集団)3、2において、雌が群れの外の雄と時々浮気をすると、重層社会ができる。単雄複雌群れにおいて雌が群れの外の雄と浮気を行う社会でこそ重層社会が成立し、ヒトは進化のかなり初期からこの浮気性を持ち、重層社会を作っていたと考えられる。 また、テナガザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ビーリアを順に見ると、雌の浮気性(同一繁殖期内において 複数雄を誘う性質)がチンパンジーにおいて著しく増大し、ヒトはゴリラとチンパンジーの中間に位置している。すなはち、 テナガザル、オランウータン、ゴリラ、ヒト、チンパンジー、ビーリアの順となり、進化の過程において雌の浮気性(同一繁殖期内において複数雄のを誘う性質)が順に増大してきた可能性をうかがわせる。
著者
吉田 洋 新津 健 北原 正彦
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第27回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.98, 2011 (Released:2011-10-08)

長らくの間、富士山はニホンザル(Macaca fuscata:以下「サル」と称す)が生息しない分布空白地域とされ、その理由として地形がなだらかであることや、川がないからと説明されてきた。しかし現在ニホンオオカミ(Canis lupus)のような地上性の天敵のいないサルにとって、急峻な岩場や斜面が生息の必須条件とは考えにくく、植物質中心の雑食動物であるサルが、年間平均降水量が1,500mm~2,800mmもある富士山麓において、生存に必要な水分を摂取できないとは考えにくい。そこで本研究では、サルの分布を現在の自然環境要因のみでなく、分布の歴史的変遷とそれをとりまく人間の社会環境を要因に加えてとらえなおすことにより、今後のサルの保護管理に資することを目的とした。1735年~1738年頃に成立した「享保・元文諸国産物帳」には、駿河国駿東郡御廚領の産物として「猿」との記載があり、宝永大噴火(1707年)で少なからず損傷を受けたサル個体群が、約30年間後には産物帳に記載されるほど回復していたと考える。このことは御廚地方の周辺に、御廚地方への供給源となった大きなサルの個体群が存在していたことを示唆している。さらに1923年に東北帝国大学が実施した「全国ニホンザル生息状況アンケート調査」によると、静岡県富士市中里付近に少数の個体の目撃情報があり、静岡県富士宮市上井出付近には、「十数年前までは多数棲息していたが現今はその姿はない」と記載されている。これらのことは、富士山に生息していたサルの個体群が、江戸時代から大正時代にかけて大きく縮小し、明治時代後期はその縮小のさなかであったことを示唆している。さらに環境省自然環境局生物多様性センター(2004)によると、1978年の調査時には富士山にサルは分布していなかったが、2003年の調査時には富士山南斜面にサルの分布が確認されている。これは、1978年に生息が確認されていた愛鷹連峰の個体群が、北方に分布域を拡大し、富士山南斜面に移入しためと考える。以上のことから富士山においてサルは、近世以前には少なからず生息していたが、明治・大正時代にかけて絶滅し、近年は外輪山地の個体群からの移入により再び分布域を拡大していると考える。今後もし今の社会情勢が大きく変化しなければ、サルは分布を拡大し続け、水平方向では富士山の全周に、垂直方向では積雪期には冷温帯落葉樹林の上限である標高1,600mまで、非積雪期には森林限界である標高2,850mよりも高く、分布が拡大すると予測する。
著者
森脇 潤 下鶴 倫人 山中 正実 中西 將尚 永野 夏生 増田 泰 藤本 靖 坪田 敏男
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.242, 2013 (Released:2014-02-14)

動物が高密度に生息する地域において,集団の血縁関係を明らかにすることは,その地域を利用する個体毎の繁殖,行動および分布様式を解明する上で重要である.そこで知床半島ルシャ地区におけるヒグマの繁殖,行動および移動分散様式を解明することを目的として,個体識別調査および集団遺伝学的解析により,個体間の血縁関係を解析した.材料は,同地区でヘアートラップ,ダートバイオプシー等により収集された遺伝子材料 51頭(雄 21頭,雌 30頭)分と,周辺地区(斜里,羅臼および標津地区)で学術捕獲あるいは捕殺個体 164頭分の遺伝子材料および各種メディアの情報を利用した.遺伝子解析には 22座位のマイクロサテライト領域を利用した.その結果,ルシャ地区には 15頭の成獣メスと,その子供からなる集団が生息しており,血縁は大きく2つの母系集団に分かれていた.また,最大で 3世代が共存していた.ルシャ地区で繁殖に関与する父親は,現在までに 5頭認められ,近親交配やマルチプルパタニティーが存在することが明らかになった.ルシャ地区を利用する個体の中で,5頭の亜成獣オスが斜里および羅臼地区側へ移動分散して捕殺されていることも明らかになった.このように,高密度に生息する知床半島ルシャ地区でのヒグマ集団の血縁関係を明らかにすることは,従来の野外調査では明らかには出来ないヒグマの繁殖システムの解明に寄与するだけではなく,繁殖個体の周辺地域への移動分散を明らかにすることができる.尚,本研究はダイキン工業寄附事業 「知床半島先端部地区におけるヒグマ個体群の保護管理,及び,羅臼町住民生活圏へ与える影響に関する研究」の一環として行われたものである.
著者
松村 秋芳 藤野 健
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第23回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.120, 2007 (Released:2009-05-30)

二足行動をする哺乳類に関する情報は、直立二足歩行の進化を理解するためのヒントを与えてくれる。このような観点から、レッサーパンダ(Ailurus fulgens)の日常行動を観察した。成獣雌雄各1個体(千葉市動物公園)について、日常行動を観察するとともに自発的に行なう二足起立行動(6試行)、二足起立食餌行動(4試行)、木登り行動 (2試行)、懸垂行動(2試行)のビデオ画像の分析を行った。 レッサーパンダが二足で立ち上がる過程では、上体を起こしながら股関節と膝関節を伸展させる。十分な二足立位姿勢をとったときの股関節角度は146°、膝関節角度は148°と比較的大きかった。懸垂行動時には、両下肢は下垂しつつバランスをとる。二足行動および懸垂行動をとる頻度は、いずれも雄個体が高かった。観察の結果から、自発的な二足起立行動は、懸垂行動時における下肢の筋神経のコントロールと密接に関連している可能性が示唆された。さらに、この動物が自発的に二足歩行しないのは、類人猿に見られるような左右の腕を交替させて前進するブラキエーションを行なえないことと関連しているものと推測された。レッサーパンダは、枝を片手で把握できる手の構造を遺伝的に持たないため、類人猿型のブラキエーションは発達し得ず、鉤爪に依存した木登りや懸垂行動を発達させた。ヒトの祖先の類人猿では、ブラキエーションに伴って、下肢を左右交替で運ぶ神経コントロールへの適応が行なわれ、地上に降りた後のストライド歩行の発達に関与したと考えられる。二足起立行動を行なう動機として、頭部の感覚器の位置を高くすることで視覚、嗅覚、聴覚による外部環境情報を得やすくすること、他者へのアピール、オペラント条件づけの関与等が考えられる。その背景には、樹上行動によって獲得された二足起立にかかわる神経、筋機能の存在が想定される。生育環境によって、動機に関与する外部環境情報や身体機能のうちの何らかの条件が欠けると、二足起立行動が誘発されにくくなるであろう。これが二足起立行動の頻度に個体差を生じさせる要因となる可能性がある。
著者
横山 拓真 安本 暁 古市 剛史
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第35回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.33, 2019-07-01 (Released:2020-03-21)

野生ボノボの研究をしているフィールドサイトは多く、長期的な研究を継続しているフィールドがあるにも関わらず、ボノボがオトナボノボの死体に遭遇した際に示す行動を記述した報告はこれまでになかった。そもそも熱帯雨林に生息するボノボの死体は腐敗が早く、また死期が近い個体は集団遊動についてこなくなるため、発見・観察が困難になると考えられる。離乳前の子どもが死亡した場合、ボノボが死児運びを行うことは少なくなく、また共食いも報告されている。さらに、傷を負って消失した仲間を探すために、集団遊動をした事例も報告されている。また、ボノボは同種の死体だけでなく、他種の死体に対しても多様な反応を示すことがある。本発表の主な目的は、オトナボノボの死体発見時から2日間にわたる定点観察によって記録した、死体に対する仲間の反応を示すことである。死体発見時は、オトナメスとその子どもが死体を触っており、他の仲間は周囲から死体を眺めていたが、フィールドアシスタントが近づくとボノボたちは逃げてしまった。研究者の適切な指示のもと、死体は発見された場所に埋められた。しかし翌日、死体の仲間たちは計二回、その場所に戻ってきて数時間もの間、死体を探すような行動を見せたり、毛づくろい行動や休息をしたりしていた。死体に対する仲間の反応は、ボノボ以外の霊長類でも報告があり、時に情動的な行動を示すこともある。本発表の事例はボノボだけではなく、ヒトにおける死生観の進化について考察するためのヒントになるだろう。
著者
小川 秀司 伊谷 原一
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第21回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.47, 2005 (Released:2005-06-07)

タンザニアにおけるチンパンジー(Pan troglodytes)の生息地の現状について報告する。 1960年代に行われた調査によると,東アフリカのタンザニア西部にはヒガシチンパンジー(Pan t. schweinfurthii)がタンガニイカ湖に沿って,ゴンベ国立公園・リランシンバ地域・マハレ国立公園からカサカティやフィラバンガを経てチンパンジー分布の東限であるウガラ川に至る地域一帯(カロブワ地域・マハレ国立公園・ムクユ地域・マシト地域・ウガラ地域)・ワンシシ地域で生息しているとされていた(Kano, 1972)。われわれは1994年から2003年までにタンザニア各地で聞き込み調査やベッドセンサス等の広域調査を行い,これらの地域には現在でもチンパンジーが生息していることを確認してきた。またルクワ南西部のルワジ地域においてチンパンジーの新たな生息地を発見した(Ogawa et. al, 1997)。 しかしながら,現在タンザニアの国立公園以外の地域では,木材利用のための特定樹種の伐採とそのための道路の拡張,他国からの難民や道路沿いに移住してきた人達による畑の開墾・薪炭燃料確保のための樹木の伐採・チンパンジーや他の動物を対象とした密猟,鉱山会社による鉱物資源の調査等,様々な人間活動が活発に行われている。そのため,チンパンジーの生息密度や生息状況はこれらの人間活動から多大な影響を受け,チンパンジーの生息環境は悪化しつつあることが予想される。タンザニア西部の乾燥疎開林帯におけるチンパンジー存続の可能性を探り,早急に対応策を講じることが望まれる。
著者
鈴木 諒平 吉村 久志 山本 昌美 加藤 卓也 名切 幸枝 石井 奈穂美 落合 和彦 近江 俊徳 羽山 伸一 中西 せつ子 今野 文治 川本 芳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第33回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.37-38, 2017 (Released:2017-10-12)

2011年3月11日,東日本大震災の地震・津波による東京電力福島第一原子力発電所の爆発によって,周辺に生息する野生ニホンザル(Macaca fuscata)が放射線被曝(以下,被曝)を受けた。今後,既存文献から甲状腺の癌化などの増殖性変化が起こる事が予想される。本研究の目的は福島県福島市に生息するニホンザルの甲状腺濾胞密度を定量化により,組織形態学的変化の有無を明らかにすることである。材料として,被曝を受けた福島県福島市のニホンザル(以下,福島サル)95検体,被曝を受けていない青森県下北半島のニホンザル(下北サル)30検体の甲状腺のHE標本を用いた。これらを光学顕微鏡下で200倍にて観察し,CCDカメラを用いて画像を取り込み,cell Sensモニターにて1視野のうち500μm×500μmあたりの濾胞数をカウントした。左右甲状腺から無作為に選出した5視野ずつ,計10視野についてカウントを行い,この平均を各検体の濾胞密度とした。これらの結果を福島サル,下北サル各々において,年齢(幼獣,亜成獣,成獣),季節(4~9月,10~3月),性別(雌,雄)に関して比較を行ったところ,年齢差のみ有意差が得られた。さらに福島サルと下北サルの各年齢区分どうしを比較したところ,どの年齢区分においても有意差は認められなかった。つまり現段階では,被曝した福島サルと被曝していない下北サルの甲状腺濾胞密度に関しては有意な差は認められないという結果になった。
著者
豊田 有 丸橋 珠樹 Malaivijitnond Suchinda 香田 啓貴
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第35回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2019-07-01 (Released:2020-03-21)

音声には様々な機能があるが,その一つに発声個体の性的な魅力などの性質を他個体に「正直に」伝達する信号としての機能がある。特に発声個体の体の大きさは,音声の共鳴特性に反映されやすいため,繁殖競合条件下において同性競合者への威圧あるいは潜在的な繁殖相手への宣伝のために音声が用いられることがある。霊長類においても音声が性選択を受けて特殊化・複雑化したと推察される例はホエザルやテングザル,テナガザルなど種々の報告がある。こうした音声の中で,特に交尾の前後の文脈で生じる「交尾音声(CopulationCall)」として記載される音声は,社会構造のなかで機能する性戦略の一つとして重要である。本発表では,ベニガオザルのオスが射精時に発する交尾音声を分析した結果から,この音声の機能や進化的背景を他種との比較を通じで議論する。タイ王国に生息する野生のベニガオザル5群を対象とした18か月の調査によって得られた383例の交尾の映像データを分析に用いた。交尾オスの個体名と社会的順位および交尾音声の有無を分析した結果,交尾オスの順位が高いほど交尾音声の発声頻度は高く,低順位オスでは低かった。一方で,交尾音声が確認された映像から交尾音声446バウトを抽出し,音響分析をおこなった結果,交尾音声の区切り数,発声継続時間,共鳴周波数の分析から得られた体重推定値はいずれも順位に依存した効果は認められなかった。とりわけ,体サイズを反映する共鳴周波数と順位との関連性が認められないことから,音声情報を介したメスからの選択が難しいことが推察された。これらの結果から,ベニガオザルのオスにおける交尾音声は,高順位オスしか発声しない「順位依存的な」音声であり,繁殖相手であるメスに対する宣伝より,発すること自体が周辺の競合オスに対する権力誇示音声であると示唆される。
著者
越智 勇成
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第37回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.57-58, 2021 (Released:2021-09-22)

年々増加しているメダカの種類の中で,最近注目されている体色が緑色のメダカ。しかしメダカに元来存在している色素胞は,黒,黄,虹,白色の4つであり,緑色の色素胞は存在していない。それなのになぜ緑色の体色が発現しているのかが不思議に思った。 また,緑色が発現するメカニズムを解明することができれば,今後の品種改良等に貢献できると考え,研究を行った。メダカに緑色の体色が発現するメカニズムを調べ,それが遺伝的要因であるのかを調べるため,緑色のメダカを作出することから始めた。青色のメダカと黄色のメダカをかけ合わせると緑色のメダカが生まれるのではないかと仮説を立て,ドラゴンブルーメダカ(青色体外光ヒカリメダカ・補足:ヒレ光)レモンスカッシュメダカ(黄半透明鱗ヒカリメダカ)を交配し,生まれたF1の体色を評価すると,茶系と青系の体色が生まれ,比は約3:1となっていた。 また,茶系の体色をした個体の一部に背中に黄緑色の光沢が発現しているメダカを確認できた。次に,黄緑色の光沢をもつ個体をかけ合わせると,それらが体全体に広がるのではないかと仮説を立て,生まれたF1の黄緑色の光沢をもつ個体を選別し,交配した。 その結果,F2の体色は10種類に分かれ,その中には,グラスグリーンという色に近い体色をもった個体も含まれていた。しかしながら,黄緑色の光沢が見られる個体は確認できなかった。これらの結果から,メダカの緑色の体色は,突然変異ではなく,青系統のメダカと,黄色系統のメダカを交配させることで生まれることが分かった。また,黄緑色の光沢は,累代しても伸びていかないが,緑色の体色は累代すると濃くなっていく可能性が高いと考えられる。
著者
鞍貫 心美 佐藤 夏妃
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
巻号頁・発行日
pp.84, 2022 (Released:2022-10-07)

2つの食品を組み合わせて味が変化する現象はさまざまなものが知られている。その中で、お餅を食べた後にアクエリアスを飲むと、灰汁っぽい苦みが残るという話を聞き、味覚のひとつである苦味について興味を持ったためこのテーマの研究に着手した。私たちはお餅に苦味を生じさせる原因があると考え、2つの仮説を立てた。その後、それぞれの仮説に基づいた実験を行った。1つ目はお餅の粘り気が舌の甘味受容体を塞ぐと考え、実験1を行った。実験1は、粘り気のある食べ物を口に含んだ後に、アクエリアスを飲み、味の変化を確かめた。2つ目は、お餅の成分であるアミロペクチンがアクエリアスの甘味を抑えるはたらきをすると考え、実験2を行った。実験2は、アミロペクチンを口に含んだ後に、アクエリアスまたはアクエリアスに含まれている苦味成分や甘味成分を組み合わせて作成した溶液を飲み、味の変化を調べた。実験1では、アクエリアスの甘味が減じ、苦味がより強く感じたという結果を得た。実験2も同様に、アクエリアスの甘味を感じなくなった。もしくは、苦味を感じるという結果を得た。結果よりお餅の粘り気や成分であるアミロペクチンが、アクエリアスの甘味を抑えるはたらきをする可能性が考えられる。そのため、お餅を食べた後にアクエリアスを飲むと苦味を感じる原因は粘り気のみか、アミロペクチンのみか、もしくは両者による増幅効果だと考えられる。
著者
菅原 亨 郷 康広 鵜殿 俊史 森村 成樹 友永 雅己 今井 啓雄 平井 啓久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第25回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.14, 2009 (Released:2010-06-17)

哺乳類の味覚は,基本的に甘み・酸味・苦味・塩味・うま味の5つを認識することができる。その中で苦味は,有毒な物質の摂食に対しての警告であり,ほぼすべての動物が苦味物質に対して拒否反応を示す。一般に苦味は,有害物質の摂取に対する防御として進化してきたと考えられている。一方,チンパンジーにおいて寄生虫感染の際に自己治療として植物の苦味物質を利用することが知られている。苦味は薬理効果のある植物の認識としての役割も併せ持つことを示唆している。我々は,霊長類における苦味認識機構の進化・多様化に興味を持って研究をおこなっている。 苦味は,七回膜貫通型構造を持つ典型的なG蛋白質共役型受容体の1種であるT2Rを介した経路で伝わる。T2Rは,舌上皮の味蕾に存在する味細胞の膜上で機能しており,全長およそ900bpでイントロンがない遺伝子である。近年の研究で,T2Rは霊長類ゲノム中に20~40コピー存在していることがわかっている。特徴的なことは,その遺伝子数がそれぞれの生物種で異なることである。これらの種特異性は,採食行動の違いと関連があると考えられる。また,ヒトやチンパンジーでは,味覚に個体差があることが知られているが,その要因はT2R遺伝子群の1つであるT2R38の一塩基多型(SNP)であることが明らかにされている。T2Rの機能変化は,個体の味覚機能に直接影響を与えると考えられる。 本研究では,46個体の西チンパンジーでT2R遺伝子群の種内多型を解析した。T2R遺伝子群の進化や個々のT2R遺伝子のSNPを解析し,チンパンジーにおける味覚機能の進化や採食行動との関連性を考察した。
著者
菊池 瑛理佳 三輪 美樹 中村 克樹
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第28回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.37, 2012 (Released:2013-11-01)

ヒトの子どもには、おもちゃの選好性に性差があることが報告されている。例えば、男の子はミニカーなどの動くおもちゃを好み、女の子はぬいぐるみや人形などを好む。これらの選好性が親の教育方針などによって左右されるという見解も多くあったが、こうした選好性は、出生前のホルモン暴露の影響を強く受けていることなど生物学的要素が影響しているという考えが支持されている。さらにヒト以外の霊長類でも、ベルベットモンキー(Alexander and Hines, 2002)やアカゲザル(Hassett, Siebert, & Wallen, 2008)でもヒト用おもちゃに対する選好性の性差が報告されている。ヒト以外の霊長類がおもちゃの意味を理解しているとは考えにくいが、こうした物体の何らかの要素に対する選好性の性差が存在することを示唆する。本研究は、小型新世界ザルであるコモンマーモセットが物体の選好性に関する性差を示すか否かを、ヒト用おもちゃを刺激として調べることを目的とした。実験には1歳半以上のコモンマーモセットのオス9頭、メス9頭を対象に実験した。刺激として、ぬいぐるみ(ヒトの女児用おもちゃ)とミニカー(ヒトの男児用おもちゃ)を用いた。実験は飼育ケージで行なった。実験1では、ぬいぐるみとミニカーを同時に30分間個体に提示し、実験2では、ぬいぐるみ2つとミニカー2つを用意し、一つずつ5分間個体に提示した。おもちゃの提示期間中、コモンマーモセットの行動をビデオ撮影した。結果、実験1において有意差は見られず、実験2においてメスがぬいぐるみに接触する時間がオスよりも有意に長かった(Mann-Whitney’s U test, P