- 著者
-
薮下 史郎
- 出版者
- 早稲田大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1998
本研究は、これまで行ってきた『不完全情報と金融市場』に関わる研究の延長線上にあるもので、情報の不完全性や取引費用観点から貨幣金融制度の役割およびその発展過程を理論的に考察し、さらにそれらを日本とアメリカに関して歴史的に比較分析を行ったものであった。完全情報や完全競争市場を前提とした新古典派経済学においては「貨幣」、「金融機関」や「制度」は重要な役割を果たさないが、不完全情報や取引費用が存在し、市場が不完全な経済においては、貨幣制度や金融システムなどの制度のあり方によって、経済活動や経済発展が大きな影響を受けることになる。また、こうした問題を分析するためには経済と政治制度や政治過程との関連を重視した政治経済学的アプローチが不可欠になる。本研究で行った研究は大きく次のように分類することができる。(1)これまでの成長理論や内生的成長理論における貨幣の役割を整理するとともに、貨幣金融制度と経済成長との関連を理論的に分析した。(2)中小企業金融の問題点がどこにあるかを情報の不完全性から明らかにするとともに、それを経済発展と関連づけて考察した。(3)経済制度の意味を明らかにし、また、そうした制度の成立および変化をゲーム理論や新制度学派のアプローチなどを用いて理論的に考察した。(4)明治初期およびアメリカの19世紀における貨幣制度の成立過程を比較検討することにより、政治と経済の相互依存の重要性を明らかにし、理論的分析を補完した。こうした研究成果を『貨幣金融制度と経済発展:貨幣と制度の政治経済学』(有斐閣:2001年9月)としてまとめ刊行した。また、大学内外の研究会などで発表するとともに2002年3月末には上掲書の内容に基づき、『不完全情報下の金融システムと経済発展』と題して南開大学(中国天津)において集中講義を行った。本研究から導いた結果は、今後進める予定である中小企業金融や開発金融に関する研究の基礎となるものであった。