著者
伊東 乾 添田 喜治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ルクセンブルク大司教座大聖堂、バイロイト祝祭劇場を始めとする西欧教会・オペラ劇場を、従来の建築音響学に存在しなかった儀礼や演出の空間性、僧侶や歌手の発声の特質を踏まえた非線形音響の枠組みで詳細測定・解析し、教会・劇場内音響の動的異方性を始めて明らかにした。海外での測定評価の準備として国内でも同様の実証を東大寺二月堂、新国立劇場などにおいて行い、宗教建築内での伝統儀礼が言語の明瞭性や没入感など、音声言語の脳認知と密接に連関している可能性を、物理測定によって始めて示した。旧来顧慮されてこなかった垂直方向の音源移動評価のため6軸相関計等を開発し、高所からの歌声や話声が抱擁感を持つ機構を解明した。
著者
内田 智士 弓場 英司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

メッセンジャーRNA (mRNA)を用いたがんワクチンは、患者毎に異なるネオ抗原を標的とした設計が容易であり、かつ抗がん免疫を得る上で重要な細胞性免疫を得られるといった特長を持つ。一方で、ワクチンには、抗原とともに、免疫賦活化のためのアジュバントの投与が必要となるが、mRNAワクチンに適したアジュバントの開発は行われてこなかった。まず、本研究では、mRNAに2本鎖RNA構造を組み込むことで、アジュバント機能を組み込んだmRNAを開発するが、この設計は安全性が高く、さらに抗原提示細胞に抗原とアジュバント共送達できるといった利点を持つ。従来我々が開発したシステムでは、mRNAに2本鎖構造を付与した結果、その翻訳活性が若干低下した。本年度の研究で、2本鎖構造を再設計した結果、翻訳活性を損なわず、高い免疫賦活化作用を示すmRNA構造見いだすことに成功した。さらに、mRNA導入により惹起される炎症反応の強度を制御することにも新たに成功したが、この点は、ワクチン効果を得るのに必要十分な強度の免疫賦活化作用を得ることで、安全かつ効果的にmRNAワクチンを投与する上で極めて重要である。また、mRNAワクチンでは、脾臓やリンパ節といった免疫組織にmRNAを効率的に送達することが必要となるが、そのためには輸送担体に免疫組織指向性のリガンドを組み込むとともに、標的組織への送達前のmRNA酵素分解を防ぐことが必要である。本年度の研究で、2本鎖RNA構造を組み込む際に用いた方法論を、mRNA輸送担体の安定化に展開することで、生体内でのmRNA酵素分解耐性の飛躍的向上に成功した。以上のように、mRNAワクチンに必要な、mRNA設計、及び輸送担体設計において、優れた成果を得ることができた。
著者
大澤 昇平
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2015

審査委員会委員 : (主査)東京大学特任准教授 松尾 豊, 東京大学教授 元橋 一之, 東京大学特任教授 阿部 力也, 東京大学特任講師 森 純一郎, 国立情報学研究所教授 武田 英明

6 0 0 0 OA 大日本史料

著者
東京大学史料編纂所 編
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.第6編之3,
著者
西原 克成 末次 寧 丹下 剛 松田 良一 田中 順三 広田 和士
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、脊椎動物の謎と言われた骨髄腔における造血の仕組みを解明し、これを臨床応用する事を目的とした。これは進化の第二革命期の上陸に際して、造血の場が原始脊椎動物の本来の腸管を離れ、骨髄腔に移動したとする三木成夫の「脾臓の発生」研究に基づいている。人工骨髄造血器の開発は、今日、臨床上緊急の課題である。研究代表者の西原は、合成ヒドロキシアパタイトを用いて実験的に骨髄造血巣を哺乳類の筋肉内に異所性に、間葉細胞から誘導することにすでに成功し、1994年の第32回日本人工臓器学会にてオリジナル賞1位を受賞した。本研究はこの研究成果を実用化する目的のもので、次の5種類の研究を実施した。(1)間葉細胞の遺伝子発現がstreaming potentialによること (2)造血巣を誘導する電極型の人工骨髄バイオチャンバーの作製と成犬への移植による造血誘導能の観察 (3)系統発生における腸管造血から骨髄造血への変換の原因究明 (4)進化のエポックとなる哺乳類、鳥類、両生類、軟骨魚類と無顎類の筋肉内への合成アパタイト人工骨チャンバーの移植と、造血巣誘導の有無の観察 (4)牛由来のコラーゲン複合低温焼結アパタイト人工骨の開発と成犬およびドチザメへの移植による組織免疫と造血の関係の観察 (5)人類特有の免疫疾患の原因が口呼吸であることを究明し、成犬と成猫による人類型免疫病のモデル作製研究 以上の実験で異所性ならびに骨髄腔を持たない軟骨魚類における異種性の造骨と造血現象がすべてのアパタイトとチタン電極バイオチャンバーの移植により、すべての宗族に観察された。また、牛由来のコラーゲンは犬では明らかな細胞レベルの消化が観察されたが、サメでは円滑な類骨と造血巣の誘導が観察された。これらから骨髄造血の成立が、浮力に相殺された見かけ上の6分の1Gの水中から陸棲への変化に伴う1Gの作用によることが明らかとなった。また原始脊椎動物の組織は哺乳類の胎児蛋白に相当し、主要組織適合抗原を保ちないことが明らかとなり、胎児蛋白の成体型への変換が骨髄造血に伴う重力の作用によるとする結果が得られた。これらのことから組織免疫と感染免疫とアレルギーで混迷している現在の免疫学を統一的に理解できる新しい免疫学の考え方として「細胞レベルの消化・代謝・吸収」(三木)という新しい免疫学の概念を樹立することができ、同時に脊椎動物の進化の主要機序が解明され、画期的な成果が得られた。
著者
神馬 征峰 木村 真三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

原子力災害後、被災者はどのような心理社会的健康影響を受けるのか。日本でも世界でも学術的研究は少なく、その影響要因はほとんど明らかになっていない。本研究では、2011年3月に発生した福島第一原発事故の現場で、質的・量的調査の両手法を用いて、その要因を特定する。「放射線による健康不安」に着目し、一人ひとりの被災者や避難者が抱える不安を具体的かつ系統的に把握できる尺度(質問票)の開発を行うのが最初の目的である。次に、開発された尺度によって、精神健康指標をはじめとする健康状態と健康不安との関連を探索する。今後、原子力事故を含む同様の複合災害が発生した場合にも起こりうる心理社会的影響の予防や長期化した時のあり方について具体的に提言することを目指す。本研究は、三段階で構成される。1) 「放射線による健康不安」を把握するための尺度開発にあたり、質的手法を用いて被災者のインタビュー調査を行い、情報収集を行う。2) インタビュー調査で得られた内容に基づき、福島版「放射線による健康不安」尺度の開発を行う。3) 更に、開発された尺度を用いて、精神健康指標をはじめとする健康状態との関連を探索する。研究初年の26年度においては、避難生活を続ける高齢者を主な対象として、インタビュー調査を実施した。27年度においては、別の対象(母親、子供等)にインタビューを実施しながら、入手した情報の整理を行い、尺度開発を進めている。28年度においては、インタビューで得られた内容を、チェルノブイリ原発事故被災地のウクライナで開発され、使用されている「放射線被ばくによるPTSD尺度」及び、その他関連のある尺度等を参考に福島避難者用の尺度の作成を行った。29年度においては、国内での調査の一部を実施。また、尺度が長期的に使用可能かを調査するため、チェルノブイリ原発事故被災地における聞き取り調査を実施した。
著者
本田 由紀 濱中 義隆 中村 高康 小山 治 上西 充子 二宮 祐 香川 めい 小澤 昌之 堤 孝晃 河野 志穂 豊永 耕平 河原 秀行 西舘 洋介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、人文社会科学系大学教育の分野別の職業的レリバンスを把握することを目的とし、①大学3年時点から卒業後2年目までのパネル調査、②25~34歳の社会人を対象とする質問紙調査、③大学生・卒業生・大学教員を対象とするインタビュー調査を実施した。その結果、主に以下の知見が得られた。(1)人文社会科学系の大学教育の内容・方法には分野別に違いが大きく、教育の双方向性・職業との関連性の双方について教育学・社会学は相対的に水準が高いが、経済学・法学等の社会科学は前者の、哲学・歴史学等の人文科学は後者の、それぞれ水準が相対的に低い。(2)大学教育の内容・方法は卒業後の職業スキルに影響を及ぼしている。
著者
小島 渉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

集団で生活するカブトムシの幼虫において、自分が作った蛹室が、近くにいる他個体に壊されてしまう可能性がある。前年度の研究から、蛹室に幼虫が近づいた時、蛹は回転運動により振動を発し、幼虫の接近を防ぐことが明らかとなった。今年度は、蛹の振動信号を受容した幼虫が、どのようなプロセスで蛹室から離れるのかを解析した。幼虫の行動を直接観察するのは困難なため、幼虫が地中を動くときに発する微弱なノイズを計測することで、幼虫の行動を評価した。その結果、蛹の振動を受容した幼虫は約10分間のフリーズ反応をおこすことがわかった。また、蛹の発する振動の成分中の低周波の成分が、幼虫にこのフリーズ反応を引き起こすことが明らかとなった。幼虫の天敵であるモグラの発する振動に対しても、幼虫はフリーズ反応を示したことから、振動に対する幼虫の反応は、モグラなどの捕食者に対する戦略が起源となっているのではないかと考え、種間比較を行った。蛹が振動を発しない近縁種のスジコガネ亜科とハナムグリ亜科の幼虫に対し、カブトムシの蛹の発する振動を与えたところ、カブトムシの幼虫と同じように、約10分間のフリーズ反応をおこした。つまり、ある振動に対してフリーズを起こすという幼虫の性質は、コガネムシのグループに古くから存在していた性質だと考えられる。カブトムシの蛹は、もともと幼虫が持っていた性質に便乗することで、振動信号を進化させた可能性が高い。本研究は、感覚便乗モデルの数少ない実証例であり、動物のコミュニケーションの進化を考える上で重要な発見である。
著者
境 有紀 田才 晃 隅澤 文俊 柏崎 隆志
出版者
東京大学
雑誌
東京大學地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.243-291, 1993
被引用文献数
1

1993年1月15日に,北海道釧路市の沖合深さ107kmを震源とし,マグニチュード7.8の「1993年釧路沖地震」が発生した.震源に近い釧路市では震度6(烈震)の強い揺れに襲われ,北海道から東北南部の太平洋岸にかけての広い地域で震度4(中震)以上を記録した.強震記録によると,釧路地方気象台の地動水平加速度の最大値は気象庁の強震計で922cm/s2,建設省建築研究所の強震計で711cm/s2と非常に大きな値を記録した.震源が深かったために津波は発生しなかったが,器物の落下などにより2名が亡くなり,数百名が重軽傷を負った.被害は北海道から東北の広い範囲にわたり,北海道釧路支庁が最も被害が大きく,十勝支庁,根室支庁,青森県などでも相当程度の被害が生じた.特に釧路市を中心に,港湾,道路,鉄道,橋梁など地盤に起因する土木関連の被害が大きく,ライフラインの被害も大きかった.筆者らは,この地震による被害の概要を把握するため1月19日から23日までの5日間,震央に近い釧路市から帯広市にかけての地域の主として鉄筋コンクリート造公共建物,特に学校建物を中心に被害調査を行なった.その結果,鉄筋コンクリート造建物の被害は,一部崩壊1,一部大破2,中破4,小破10で,ほとんどの建物は軽微な被害であり,1968年十勝沖地震,1978年宮城県沖地震等の過去の大きな被害地震に比べ鉄筋コンクリート造建物の被害は小さかった.非常に大きな地動最大加速度を記録したにもかかわらず,建物の被害が小さかった原因としては,いくつかのことが考えられるが,1つには,地震動の性質があげられる.即ち,釧路地方気象台および建設省建築研究所で記録された強震記録は,非常に短周期が卓越しており,一般に建物は短周期になるほどその保有耐力が大きいことを考えると,地動最大加速度の大きさの割には,建物に対する破壊力は小さかったといえる.このことは,地動最大加速度が必ずしも建物に対する地震動の破壊力指標として適していないことを意味している.The 1993 Kushiro-oki Earthquake which occurred on January 15 offshore Kushiro City with magnitude of 7.8 at the depth of 107 km brought about damage over a wide area from Hokkaido to Tohoku. Very strong shaking(6 on the JMA scale) was observed in Kushiro City near the source of the earthquake, and strong shaking(more than 4 on the JMA scale) was observed over a wide area from Hokkaido to the south of Tohoku which faces the Pacific Ocean.
著者
竹内 秀明 亀井 保博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

メダカのメスがそばにいた異性を目で見て記憶し、性的パートナーとして積極的に受け入れることを発見した。オスとメスを透明なガラスで仕切ってお見合いさせておくと、メスは目で見ていた「そばにいたオス」の求愛をすぐに受け入れ、他の恋敵のオスはメスをめぐる闘いに敗北する。さらに、性的パートナーを受け入れる際に、拒絶から受け入れへとモードを切り替えるための神経細胞を同定した。お見合いをすると、メスの脳では終神経GnRH3ニューロンの電気的活動が活性化し、この神経細胞がメスの「恋ごころスイッチ」として機能することが明らかになった。
著者
早野 龍五
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2008

反陽子ヘリウム原子(ヘリウム原子核に反陽子と電子が束縛された準安定原子)の精密レーザー分光により、反陽子と電子の質量比を10^-9の高精度で決定した。この結果は科学技術データ委員会CODATAに提供され、基礎物理定数CODATA2010(理科年表や高校理科教科書などにも掲載されている基本的な物理量)の決定に貢献した。これにより、当初目標が達成された。
著者
多田隈 尚史 三嶋 雄一郎
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

遺伝子発現の自由自在な制御は、生物学の挑戦です。本研究は、独自に開発してきた転写ナノチップを発展させ、細胞や個体内の状態にあわせて自律的にRNAを産出するナノデバイス(転写ナノチップ)の構築を目的とします。このナノチップを用いて、従来技術では難しかった事、(例えば、1個1個の細胞毎に、タイミングや量だけでなく、出力するRNAの種類を変える事)、を実現します。そして、このナノチップを用いて、遺伝子発現を自由自在に制御する事で、細胞の遺伝子発現の仕組みを理解します。また、その理解を応用し、細胞の運命制御の基盤技術を確立します。
著者
溝口 紀子
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2015

審査委員会委員 : (主査)東京大学教授 松原 隆一郎, 東京大学教授 内田 隆三, 東京大学教授 市野川 容孝, 筑波大学教授 菊 幸一, 大阪大学名誉教授 井上 俊
著者
山本 健一 鄭 雄一 光嶋 勲 大庭 伸介 矢野 文子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)が異所性骨化や石灰沈着性腱炎の治療に奏功するという報告があるがその基礎的研究報告はなく、メカニズムは不明。本研究ではH2ブロッカーを介した腱の石灰化抑制のメカニズムを基礎的に調査した。H2ブロッカーの中でも力価の高いファモチジンを選択し、in vitroで腱由来細胞TTD6と骨芽細胞系細胞MC3T3-E1においてファモチジンが石灰化抑制することを確認。次にin vivoでアキレス腱が異所性石灰するTTWマウスを用い、ファモチジンが異所性石灰を抑制することを証明。以上よりファモチジンが異所性石灰化に対する治療薬として基礎的にもその効果が証明された。
著者
永島 育
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2023-04-25

多宗教・多民族帝国であったオスマン帝国は、19世紀から20世紀にかけて発生した叛乱や紛争の末に、陸軍による治安維持、さらには強制移住や虐殺など、民衆への暴力を伴いながら崩壊した。東欧・中東を支配したオスマン帝国が、暴力的に清算された過程を明らかにすることは、テロや紛争等の暴力という課題を抱える現代の東欧・中東を理解する上で、欠かせない問いである。本研究は、治安維持のための軍事作戦時、民衆への暴力の主体となったオスマン陸軍将兵の体験、そして暴力体験の報道等における再定義を分析する。これにより本研究は、陸軍将校はなぜ過剰なまでの暴力でオスマン帝国の清算を実行したのかという点を明らかにする。