著者
深田 淳太郎
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.535-559, 2009-03-31

パプアニューギニア、トーライ社会ではタブと呼ばれる貝殻貨幣が、婚資の支払いから秘密結社の加入の手続、役所での税金の支払いまで広い用途で用いられている。このように貨幣がなんらかの意味を持ち、その意味を様々に変え、また実効的な役割を果たすということはいったいどのような事態として考えられるだろうか。本稿では、貨幣やそれを用いた実践が特定の意味を持つことを、それが何であるのかが周囲の人々から見て分かり、説明(アカウント)できることと捉えるエスノメソドロジーの視点を採用する。ここで問うべきは、そのようなアカウンタブルな事態がいかにして出来上がっているのかということである。この問いを具体的に考えていくための事例としてトーライ社会の葬式を取りあげる。葬式においてトーライの人々はタブを用いて、死者への弔意を表し、自らの豊かさを誇示し、他の親族集団と良好な関係を築くなど様々なことを行なう。周囲から見て、個々のタブ使用実践がこれらの様々な意味や効果を持つものと分かるのは、それがなんらかの秩序だったコンテクストの中に位置付けられることによってである。だが同時に、そのようなコンテクストは個々の実践を通して可視化され生成されるものでもある。本稿では葬式におけるタブ使用実践が、そのときどきのコンテクストに沿った適切なやり方でなされながら、同時に周囲の様々な要素との関係の中で当のコンテクストを生成していく相互反照的な生成の過程を記述し、その過程から貝貨タブが具体的な意味や効果を持つものとして可視化されてくる様子を明らかにする。
著者
中井 大介
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.359-371, 2015
被引用文献数
5

本研究では, 自己決定理論による中学生の教師との関係の形成・維持に対する動機づけを測定する尺度を作成し, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を検討した。中学生483名を対象に調査を実施した。第一に, 探索的因子分析を行い「教師との関係の形成・維持に対する動機づけ尺度」を作成した結果, 「内的調整」「同一化」「取り入れ」「外的調整」の4因子構造であることが明らかになった。第二に, 教師との関係の形成・維持に対する動機づけと担任教師に対する信頼感との関連を性別に検討した。その結果, (1) 「自律的動機づけ」が担任教師に対する信頼感と正の関連, (2) 「統制的動機づけ」が負の関連を示すこと, (3) その関連の様相は性別に違いがみられることが明らかになった。(4) また, 教師との関係に対する動機づけで調査対象者を類型化した結果, 統制的動機づけの高い類型の生徒, すべての動機づけが低い類型の生徒の担任教師に対する信頼感が低いことが明らかになった。以上, 本研究の結果から教師と生徒の信頼関係は, 教師側の要因と生徒側の要因が相互作用を繰り返すことで次第に親密になっていく過程である可能性が示唆された。
著者
岡田 有司
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.153-166, 2012
被引用文献数
1

本研究では, (1) まず学校生活の諸領域が生徒関係的側面と教育指導的側面の2つの側面から捉えられるのかについて検証した。その上で, (2) これらの側面から生徒を分類し学校適応の違いを検討するとともに, (3) これらの側面と学校適応との循環的な関係について検討した。研究1では, 質問紙調査によって得られた中学生822名のデータ分析の結果, まず学校生活の諸領域が生徒関係的側面(友人関係, クラスへの意識, 他学年との関係)と教育指導的側面(教師との関係, 学業への意欲, 進路意識, 校則への意識)の2つの側面から捉えられることが示された。次に, 生徒関係的側面・教育指導的側面のどちらか一方の側面の得点が高かった生徒は, その側面が学校への心理的適応の支えになっており, 社会的適応についても部分的に支えていることが示された。研究2では, 中学生338名の縦断データ(1学期と3学期に同一の質問紙を実施)の分析から, 生徒関係的側面・教育指導的側面と学校適応の循環的な関係が示唆された。そこからは, それぞれの側面が学校適応に及ぼす影響の違いだけでなく, 学校適応がその後の両側面に与える影響についても示された。
著者
幸田 新平 宮城 洋之 荒川 豊 岡本 聡 山中 直明
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PN, フォトニックネットワーク (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.546, pp.17-20, 2007-02-27

近年,光ネットワーク技術の発展によりグリッドシステム内のネットワークに光ネットワークを用いた光グリッドに関する研究が盛んに行なわれている.光グリッドでは,光ネットワークを制御するGMPLS技術を用いることで,計算機リソース,実行時間などに加えてネットワークリソースの自動的な事前予約が可能である.従来のジョブスケジューリング方式では,新たに発生したジョブ(新ジョブ)がすでに割り当てられてるジョブ(既存ジョブ)の影響によって,要求通りにリソースを割り当てることができない場合,スケジューラは既存ジョブと新ジョブの優先度を比較し,既存ジョブの優先度が低い場合には,たとえジョブの実行がまもなく終了する場合でも既存ジョブを中断させ新ジョブを割り当てる.中断により,ネットワークリソースの資源確保といったオーバーヘッドが増加する.そこで本論文では,優先度に加え既存ジョブのジョブ終了時間を考慮したジョブスケジューリング方式を提案する.計算機シミュレーションによる特性評価を行い,従来のジョブスケジューリング方式と比較して,グリッドシステム内の平均遅延時間を約20%改善できることを示す.また既存ジョブの中断回数を減少できることを示す.
著者
高橋 恭兵 立浪 良介 丹保 好子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.128, no.10, pp.1443-1448, 2008 (Released:2008-10-01)
参考文献数
33
被引用文献数
7 11

Diabetic patients exhibit increased blood plasma levels of methylglyoxal (MG), a metabolite of glucose. Since MG generates advanced glycation end-products (AGEs) that disrupt the functions of such biomolecules as proteins, it is responsible for the progression and complications of diabetes. A functional disorder of the vascular endothelium may also contribute to the progression and complications of diabetes. In endothelial cells, MG is the major precursor for the formation of AGEs. In this study, we examined the effects of MG on vascular endothelial cells and found that it induced the apoptosis of bovine aortic endothelial cells (BAECs). MG induced the collapse of mitochondrial membrane potential, an index of apoptosis, and the elevation of caspase-3 activity, an apoptotic execution enzyme, leading to cell death. Flow cytometric analyses with annexin-V and propidium iodide double staining revealed that cells exposed to a lethal dose of MG displayed features characteristic of apoptosis. MG induced an increase in the level of intracellular reactive oxygen species (ROS) prior to induction of apoptosis. Taken together, these findings suggest that BAECs exposed to MG die by apoptosis due to the increase of intracellular ROS level.
著者
清水 英利
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.29-36, 1977

私は分裂病退院患者を常時30~40名受持ち, 再入院予防を目的として10年間アフターケアを行つてきた. 現在2年以上社会生活を維持できたものが12名あり, 就職6名, 家業従事2名, 家事従事2名などすべて就労していた. 長期間社会生活を維持できた諸要因として<br>1)大部分が定期通院と服薬持続をしている<br>2)全例において家族の協力が良好である<br>3)家庭の経済状態は中流以上が多い<br>4)在院期間は短く1年未満が多い<br>5)病前に就労経験のある若い人が多い<br>6)患者の好む夜勤のない対人関係の容易な過労にならない持続的な仕事がある<br>7)精神衛生法32条と43条は通院中断防止に役立つている. 再発の誘因には服薬中断, 過労, 通院中断, 精神緊張が多く, 再発時初発症状は不眠, 幻聴, 好褥などが多かつた.
著者
中野 達哉
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要. アーカイブズ研究篇 (ISSN:18802249)
巻号頁・発行日
no.9, pp.1-25, 2013-03

弘前藩は、国元と江戸で藩庁日記を作成・管理し、現在、弘前市立弘前図書館に津軽家文書として、弘前藩国日記は寛文元年(一六六一)六月から元治元年(一八六四)一二月の三二九九冊、弘前藩江戸日記は寛文八年(一六六八)五月から慶応四年(一八六八)三月の一二二五冊が現存する。藩庁日記は毎月ほぼ一冊ずつ作成されたが、寛文期より幕末までほぼ欠けることなく現存している状況は希有な例と言える。本稿では、これら日記を作成・管理した日記役に注目し、日記役が作成した「御日記役勤向覚記」を紹介・分析し、基礎的な考察を行った。そして、初期の日記役の職務は、藩庁日記の作成・管理と将軍家をはじめとする諸家(武家)との贈答に関わる記録の作成であり、その後職務が拡大し、さまざまな記録を作成するようになったこと、延宝三年(一六七五)に発令された日記役全般に関わる条目が基底となり日記役の職務が確定するとともに、この時期に藩庁日記の記述内容も整えられていること、日記役は寛文期から確認されているが、正徳二年(一七一二)に日記役が表右筆から分離するとともに、下役なども職制に位置づけられること、また、日記役の前役も、それ以前は御手廻り役であったのが、それ以降は御書物預・表右筆・日記物書など同種の役職からの転任へと変化することがみられ、専門性が高まったこと、そして、正徳二年の変化の背景には、藩主交代による藩政の転換があり、それに伴って変化したと考えられることなどを明らかにした。日記および日記役について考察したが、日記役の職務・地位が確立していくなかで、専門性も形成されていったのである。The Historical Documents of Hirosaki Domain were created and managed in Hirosaki and Edo. These Documents are currently stored in the Hirosaki Public Library as documents of the Tsugaru family, which contain 3,299 volumes of the HirosakiHanKuniNikki (Documents created in Hirosakifrom June l661 to December l864), and l,225 volumes of the HirosakiHanEdoNikki (Documents created in Edo from May l668 to March l868). The documents were produced approximately once a month, and the fact that almost all of them from the Kanbun Era (1661-1672) to the end of the Edo Period exists, is an extremely rare case. For this paper we focused on the record keepers who created and kept these documents, and to introduce some speculations about them, we analyzed the ''Record of the Record Keeper's Duties" created by the writers of the documents. During early period, their duties had been to create and manage the domain diaries and to record the exchange of gifts with shogun families and other samurai families. Afterward, their duties extended into many fields and they started to create various types of records. The stipulations regarding all record keeping were announced in l675, and they established the official duties of the record keepers. From this time, the descriptive contents of domain documents were fixed. Although the record keepers had been found from the Kanbun Era, in l713, they were separated from the " Omote Yuhitsu" (a type of secretary that existed in this era) and lower level officials were also arranged in the governmental organization. Previous record keepers had been OtemawariYaku (aides), but from this period, they were recruited from the similar positions such as general record keepers, "OmoteYuhitsu", chronicle writers, etc., so their professional standards of work were improved. We demonstrated that, behind these changes in l712, there was the shift of domain's politics caused by the change of the feudal lord. Considering the documents and the record keepers, we conclude that as the duties and position of the record keepers became clear; their specialization also took form.