著者
今橋 美千代 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.131-147, 1997-01-24
被引用文献数
26

本研究では小規模な「表層土壌のまきだし」を行うことにより,河畔自然草地の植生復元に土壌シードバンクを利用する可能性を検討した.小貝川の河畔林林床と冠水草原において1992年7月末と1993年3月初めに表層土壌試料を採取し,バーミキュライトを敷いたプランター内にまき出し,出現する実生を定期的に調査した.その結果,林床の土壌からは少なくとも26種5896,草原の土壌からは41種15935の実生が得られた.その中には保護上重要な種であるミゾコウジュとタコノアシが含まれていた.まきだし時期にかかわらず主要な出現種は共通し,多くの種の実生がまきだし直後に出現した.まきだし実験で出現した主要な種はすべて土壌採取地の上部植生構成種であった.これらの結果により,「表層土壌のまきだし」が季節を問わず利用可能であり,河畔冠水草原のような自然度の高い撹乱地の植生を復元する手段として有用であることが示唆された.
著者
真鍋 勇介
巻号頁・発行日
2014-03-25

我が国の電力系統は,地下資源の乏しさや縦長な国土形状などの特徴から,日本を10の地域に分け各地域に一般電気事業者を配する,一地域一社による垂直統合型の管理を行ってきた。しかし,現在,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー(Renewable Energy:RE)の大量導入と,発送電分離や電力市場の開設などの電気事業の規制緩和という二つの大きな転換を迎えている。 RE電源の不確実性や地域偏在性,電力市場を介した複数の発電事業者による競争状態は今までの電力系統にはなかった要素であり,これらの変化は電力系統の運用・管理手法に大きな影響を与えると考えられる。 本論文ではその中でも,従来型電源や地域間連系線,蓄電池という電力系統設備の拡充計画へ与える影響や問題点を明らかにし,数年単位の長期的視点が必要となる設備形成の新たな策定方法の提案,検証を行うことを目的とする。最初に,長期的不確実性を考慮するための確率的動的計画法(Stochastic Dynamic Programming:SDP)による電源開発計画評価や,競争環境における電源開発計画を評価するための確定的動的計画法 (Deterministic Dynamic Programming:DDP)とSDPを組み合わせた新たな評価手法の開発,評価を行う。次に,RE電源の大量導入に対応した供給信頼度評価を行うために,正味負荷を用いた状態列挙法による評価手法,地域間連系線によって接続された2地域系統に対応した新たな供給信頼度手法の開発を行い,RE電源の等価負荷供給能力(Effective Load Carrying Capability:ELCC)の評価等を行う。この信頼度評価手法を用いることで,RE電源の大量導入に対応した電源開発計画の評価をSDPによって評価することが可能となった。さらに,競争環境で且つRE電源が大量導入される電力系統において既存電源の適切な建設を促すことを目的とした新たな容量市場の設計も行う。また,広域に点在する大規模RE発電所を同時に観測,制御する広域運用システムの実証研究事業を紹介し,その事業の一環として行った,複数の蓄電池と可制御電源との協調制御システムの開発と,ならし効果による必要蓄電池容量の削減量評価について述べる。 これらの研究を通して,経済性,環境性,供給信頼性の観点から,次世代における最適な設備形成とは何かを議論し,将来の電力系統のあるべき姿を示す。
著者
加瀬 進 荒川 智 真城 知己 新井 英靖 米田 宏樹 星野 常夫 山中 冴子 渡邉 健治
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

欧米8カ国(アメリカ・イギリス・オーストラリア・ロシア・ドイツ・フランス・デンマーク・スウェーデン)のインクルーシヴ教育は、単に障害児と非障害児を同一空間・同一教材で教授することを施行するのではなく、「学習への完全参加」をすべての子どもに保障しつつ、共に生きる市民として育ち会える環境をどのように構築するか、という大きな教育的チャレンジであり、合理的配慮のあり方も障害者差別禁止法体制との関連で探求されつつある。
著者
BERNARD Gelloz
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

酸化ナノシリコン層の青色燐光について基礎研究を行った。青色燐光は材料の酸化部分の分子種に由来し,シリコンナノ結晶は発光に関与しないことが分かった。青色燐光には6つの振動源をもつサブバンドが含まれており,励起エネルギーにより各強度を調整できる.紫外領域(275-290 nm)での発光が発見され,材料のポーア表面の吸着水に関連する分子種に起因することが分かった。化粧品,ディスプレイ,光電素子, 太陽電池への応用研究も行った。赤・青・白色発光粉末の開発。また、電気的活性なデバイス作製のため,超臨界流体を用いたナノシリコンポーア内部への金属堆積技術を開発した。
著者
ジョンソン デイビッド
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.46-66, 2008-10-20

日本の刑事施設への拘禁率は,1992年から2007年までに75%増加している.他国と比較すると,この増加率は異常なものではなく,少なくともアジアの他の7ヵ国では,同じ期間にさらに高い増加率を見せている.日本が他のアジア諸国と異なるのは,拘禁刑の適用と死刑の適用の双方が近年増加しているという点にある.他のアジア諸国には,同様の状況は見られない.この論文では,日本の拘禁刑と死刑にかかわる政策状況と他国のそれとを比較している.特に,「penal populism」-より厳しい刑罰を望む世論を満足させるための政治的な動き-が,大半のアジア諸国の政策において,死刑の適用を促進させる方向に向かわせるものではないことを述べる.日本において,「penal populism」は,最近見られる死刑適用の再活性化に影響を与えている要因のひとつとされているようだが,「指導者によるリーダーシップ(leadership from the front)」が少なくとも重要な要因であると考えられる.将来的に,死刑廃止を求める国際基準の影響を受けて,(明治時代のはじまりから30年間に死刑執行が97%も落ち込んだように)日本が死刑の適用を縮減するのか,または,日本の歴史上顕著に見られる別の傾向,すなわち他の民主国家からの普遍化の要求(universalistic claims)を無視するという傾向のほうに従って,死刑が維持されていくのか,について予測を述べることは難しい.最後に,日本における人権の絶対性に対する反感は,同国に最近見られる死刑適用の再活性化を抑制し,結果的には死刑を廃止しようとする努力に対して,大きな障害となるであろう.
著者
木村 修一
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
油化学 (ISSN:18842003)
巻号頁・発行日
vol.20, no.10, pp.670-677, 1971-10-20 (Released:2009-11-10)
参考文献数
56
著者
邊 姫京
出版者
東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻
巻号頁・発行日
2012-11-22

報告番号: 乙17750 ; 学位授与年月日: 2012-11-22 ; 学位の種別: 論文博士 ; 学位の種類: 博士(学術) ; 学位記番号: 第17750号 ; 研究科・専攻: 総合文化研究科言語情報科学専攻

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著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1937年01月27日, 1937-01-27
著者
吉田 あこ
出版者
実践女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

研究目的:高齢者の家庭内事故死数は一層増加しているが、その因の一つに加齢に伴う眼球水晶体の白内障化による黄変化が起こり、これが空間把握を誤認し、事故を生む。そこで加齢黄変化そのものを一時的にでも矯正する眼鏡開発、つまり、黄色を中和するその補色にあたる青系の透明薄膜の選出が目標である。研究実績:初年度は、高齢者の見えに関する実態調査(1993)から剪定された加齢対応黄透明薄膜を打ち消す青透明薄膜をカラーチャート一万色より、青み組合せ441色をコンピュータのスキャナーで取り込み、441色の透明薄膜を出力した。これを加齢対応の黄透明薄膜を打ち消し、しかも明るさの現象の少ない青系統名薄膜をカラー輝度計で測定し、矯正候補を数種選定した。この矯正効果を高齢者実態調査で用いた21色のカラーチャートを対象に、黄変化後、それぞれ元の色系統に戻るか否かを色差計で測定後、xy-色度図上で比較判定し、その結果、中度黄変化視界をかなり矯正しうる4種類の青系統明薄膜を選定した。本年度はこの薄膜の視野の暗さを補正するために、人間の目を模したカメラに透明薄膜フィルターを装着させ絞りとシャッター速度で補正調整した。さらに、試行対象として住宅屋内外の環境色を含む固有色名事典全色220の元の色への復帰情況を、元の色と中度黄変化色と本研究創出による矯正青透明薄膜使用で各色をカメラ撮りし、色度図並びに輝度率の比較で、元の色への復帰状況を比較検討し、かなりの矯正復帰効果を得た。なお、これら研究成果を日本建築学会や日本生理人類学会・日本ロボット学会及び、人間工学国際会議に発表し、意見徴収を行ったが、今後は現場で試行を重ねる方針である。
著者
丸山 道生
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.819-824, 2014 (Released:2014-06-23)
参考文献数
15

摂食・嚥下障害患者にとって、人工的水分・栄養補給(AHN)を行う場合、その多くはPEGが第一選択となる。特に適応上議論のある認知症に関して、欧米では医学的観点からもPEGの効果は認められないとされ、合理的にPEGの適応はないことが導き出されている。しかし、本邦ではPEGは生存も効果も良好であるゆえに、AHNをすると意思決定した場合は、PEGをして長く生きることを、一方、AHNを選択しない場合はPEGを施行せず、早く死ぬことを意味する。その意思決定はより哲学的な問題で、PEGによるQOLの考慮は副次的なものでしかない。医療者・介護者の役割は、患者と家族のPEG選択への苦悩を軽減させること、そして、患者がPEGとそれに続く胃瘻栄養を行った時に、患者と家族のQOLを向上させ、患者の人生の物語を豊かにするのを応援することである。
著者
小林 直樹 五十嵐 淳 田浦 健次朗 渡部 卓雄
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は,本研究代表者が提唱した疑似線形型システムに基づく新しいメモリ管理方式の実現により,プログラミング言語処理系のメモリ管理の信頼性および効率を改善することであった.主要な成果は以下のとおり.・擬似線形型システムに基づく型推論によるメモリの獲得・解放命令の挿入…擬似線形型システムに基づき,プログラム中で用いられる各データが最後に使用される箇所を特定し,その部分にメモリの解放命令を挿入するための方法を確立し,関数型言語MLを対象としてプロトタイプシステムを構築した.・擬似線形型システムに基づくメモリ管理のためのバイトコード言語の設計と実装…上で述べたメモリの獲得・解放命令を挿入したプログラムを実際に実行するためのバイトコード言語を設計し,実装を行った.・通常のメモリ管理の改良と本メモリ管理方式との融合…擬似線形型システムのみでは自動的に管理できないメモリが存在するため,既存のメモリ管理方式であるGCを改良して融合する方法について研究した.主な課題はGC自体の性能,特に並列計算機上のGCの性能をあげること,および疑似線形型に基づくメモリ管理によるダングリングポインタの問題の解決であった.後者については型情報を実行時まで保存し,GC時にこれを用いることによってこの問題を解決した.・線形型解析の資源使用解析への一般化…疑似線形型を拡張し,ファイルやネットワークなど一般の計算資源の使用方法の解析を行うための型システムを構築した.これにより(i)割り当てられたメモリはいずれ解放され,解放後はアクセスされない,(ii)オープンされたファイルはいずれクローズされ,クローズ後は読み書きされない,といった性質が満たされているかを統一的に検証することができる.