著者
佐藤 次高 加藤 博 私市 正年 小松 久男 羽田 正 岡部 篤行 後藤 明 松原 正毅 村井 吉敬 竹下 政孝
出版者
東京大学
雑誌
創成的基礎研究費
巻号頁・発行日
1997

1.中東、中央アジア、中国、東南アジア、南アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカを対象に、イスラームの諸問題を政治、経済、思想、歴史、地理など広範な分野にわたって検討し、近現代の政治運動、知識人の社会的役割、聖者崇拝など、将来の重要研究課題を明らかにした。2.和文と英文のホームページを開設し、研究情報を迅速に公開したことにより、日本のイスラーム研究の活性化と国際化を実現することができた。研究の成果は、和文(全8巻)および英文(全12巻)の研究叢書として刊行される。なお、英文叢書については、すでに3巻を刊行している。3.アラビア文字資料のデータベース化を推進し、本プロジェクトが開発した方式により、全国共同利用の体制を整えた。これにより、国内に所在するアラビア語、ペルシア語などの文献検索をインターネット上で簡便に行うことが可能となった。4.各種の研究会、現地調査、外国人研究者を交えたワークショップ、国際会議に助手・大学院生を招き、次世代の研究を担う若手研究者を育成した。とりわけ国際シンポジウムに多数の大学院生が参加したことは、海外の研究者からも高い評価を受けた。5.韓国、エジプト、トルコ、モロッコ、フランスなどから若手研究者を招聘し(期間は1〜2年)、共同研究を実施するとともに、国際交流の進展に努めた。6.東洋文庫、国立民族学博物館地域研究企画交流センターなどの研究拠点に、イスラーム地域に関する多様な史資料を収集し、今後の研究の展開に必要な基盤を整備した。
著者
尾西 康充
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

平成17年に逝去した丹羽文雄に関する資料がある。孫・丹羽多聞氏から寄贈されたもので、平成19年に丹羽文雄念室が設けられた。丹羽文雄記念室には自筆原稿をはじめとして浄土真宗関係の蔵書などが所蔵されている。他方、三重県立図書館には作家田村泰次郎に関する資料が9,000点保存されている。これらは田村泰次郎が亡くなった後、平成5年に妻・美好氏から三重県立図書館に寄贈されたものである。本研究は丹羽文雄記念室および田村泰次郎文庫に所蔵されている資料類を整理、解読、活字化する基礎的作業をふまえ、丹羽文雄および田村泰次郎の文学史的・文化史的意義を明らかにした。
著者
齋藤 孝道
出版者
明治大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

昨今のCPUアーキテクチャの多様化の中で,コア内に暗号処理を専ら行うモジュール(以降,暗号モジュールと呼ぶ)を持つプロセッサがいくつか登場した.この種のプロセッサでは,暗号処理以外の処理は汎用モジュールで行い,処理速度の要求される暗号処理は暗号モジュールで行うことにより,プロセッサ全体で処理速度の向上を狙っている.しかしながら,既存のソフトウエアの多くは,この種のプロセッサ向けに設計されておらず,一般的に,暗号モジュールを活用するためにはソフトウエアを改修するなどの処置が必要となる.本研究では,コアの中に暗号モジュールを一つ持つプロセッサにおいて,暗号ライブラリの処理の一部を透過的に暗号モジュールへオフロードし暗号処理を行う仕組みを提案し,その実装と評価を行い,効果があることを確認した.
著者
菱本 明豊
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

現在、日本国内で社会問題となっている自殺行動の生物学的機序を解明し、自殺予防のための治療モデルを開発する為に、我々はストレス反応を主に制御するHPA axis(視床下部-下垂体-副腎皮質系)関連遺伝子に着目し自殺との関連解析を行った。我々はFKBP5遺伝子の特定のハプロタイプと自殺に有意な相関を認め、自殺行動には遺伝的脆弱性が関与していることを明らかにした。さらにALDH2、NOS1遺伝子と自殺、NOS1遺伝子と統合失調症との有意な相関を認めた。これらの知見より自殺行動のバイオマーカーとしていくつかの遺伝子変異が利用できる可能性があることを示した。
著者
香曽我部 秀幸 横山 充男 鵜野 祐介 加藤 康子 近藤 眞理子 田中 裕之 富安 陽子 長澤 修一 畠山 兆子 福井 善子 藤井 奈津子 松井 外喜子 高科 正信 香曽我部 秀幸
出版者
梅花女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

研究を始めたとき、「幼児教育・保育の実践をめざすこと」と「児童文学・絵本の創作・伝達・研究を行うこと」は密接に関連すると考えていた。だが、それぞれを目標とする若い女性には、異なる気質が見出され、簡単に2つの目標を合体できないことが、実践的研究からわかってきた。だが、5年間の実践的研究を積み重ねた結果、児童文学・絵本の創作や伝達の実践活動は、幼児教育・保育を目指す若い女性に刺激を与え、新たな技能や知見を獲得し、意欲を生み出していく現象が見出された。すなわち、児童文学・絵本の創作・伝達・研究を巡った実践的な教育は、時間はかかるものの、幼児教育・保育の教育に寄与すると考えられる。
著者
藤田 基
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、我々が開発した生体内活性酸素種測定システムを用いて、ラット熱中症モデルにおけるスーパーオキシド(O2-・)の動態を測定し、組織障害の程度と産生されたO2-・量との関連を解明することにより、熱中症におけるO2-・傷害の病態解明と治療指標としてのO2-・の意義を検討することである。本年度は、ラット熱中症モデルを作成・確立し、このモデルの生体内で混合静脈血中O2-・電流値の測定を行った。中枢温が38度を越えたあたりからO2-・電流値の上昇を認め、熱中症発症まで上昇し続けた。O2-・電流値の積分値(Q値)は肝臓および血漿中のマロン酸アルデヒド(MDA;脂質過酸化物質)、HMGB1(急性期炎症反の指標)、ICAM-1(血管内皮傷害の指標)、ALT/AST(肝障害の指標)と有意な相関を認めた。また、熱中症発症後に輸液投与、中等度低体温療法を含む体温管理を行うことにより、混合静脈血中O2-・値、肝臓および血漿中のMDA、HMGB1、ICAM-1、ALT/ASTの改善を認めた。以上の結果より、熱中症の病態において混合静脈血中で発生した過剰なO2-・は、全身および肝織の酸化ストレス、血管内皮細胞傷害、急性期炎症反応に関連しており、中等度低体温療法はそれらの抑制に効果的であることが示された。重症熱中症の臨床において、明確な治療指標は確立されていないが、本研究の結果、熱中症において混合静脈血中O2-・を測定することにより組織障害および全身炎症を予想することができ、熱中症の治療の指標となることが示唆された。また、熱中症における中等度低体温療法の有用性が示唆された。
著者
堀 正樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

2007年度は、欧州合同原子核研究機構CERNの反陽子減速器施設を用いて、反陽子ヘリウム原子の二光子吸収分光実験を行った。そして、反陽子ヘリウム原子の二光子遷移エネルギーを、3ppbという世界最高精度で計測することに成功した。これによって、素粒子物理の基本的な定理と考えられているCPT対称性を、従来よりも高い精密で検証した。この実験では、まず反陽子ヘリウム原子を5ケルビンという低温標的中で100万個合成した。次に、出力波長を10桁の精度で安定化させたcwチタンサファイアレーザーをパルス増幅して、この光線を原子に照射した。この際に、特別な波長の組み合わせを利用することによって、原子内で非線形な二光子遷移をひきおこすことに成功した。次に、超伝導ポールトラップを開発して、振幅4キロボルト、周波数35メガメルツ、Q=100万の特性をもった空洞を実現した。このトラップは、高純度ニオブ製で、電子ビーム溶接を用いて建設したものである。超流動ヘリウムで常時、1.8度ケルビンに保たれる。ニオブ電極の表面では、数メガボルト毎メートルという非常に強い電場が発生するが、これによって電子が発生し、放電を誘発するという問題が発生した。現在、表面の洗浄方法や、電極の形状を工夫することによって、この問題を解決しようとしている。また、反陽子ビームを測定する新型の検出器を開発した。これは、厚さ数百ナノメートルのカーボンフォイルに反陽子が衝突した際、発生する二次電子をとらえて、高感度カメラで撮影する仕組みになっている。特殊な加速電極を用いることによって、数ナノ秒という超高速シャッターを切ることができる。
著者
内藤 陽子 (駒田 陽子)
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

健康成人20名(21.7±0.92歳)を対象として,認知機能に関する実験を実施した.これまで報告者が蓄積してきた実験手続きやスケジュールを駆使し,剰余変数の混入を防ぎ,厳密な統制条件下で行った。実験被験者には本研究の実験内容および手続きを十分に説明し,インフォームドコンセントを得た。各被験者に対し,実験3日前より生活統制を行った。通常の就床時刻をCircadian time 0時とし,規則正しい生活を送るよう指示した。非利き腕にアクチグラフを装着させ,生体リズムの統制を厳密に確認した。実験前日は自宅にて通常の睡眠をとらせるControl条件と,睡眠不足状態をシミュレートすることを目的とし90分間の部分断眠を課すDeprivation条件をカウンターバランスで配置した。翌CT9時に実験室に来室させ,脳波等を装着した上で以下のテストバッテリーを使用し,前頭連合野機能への影響を測定した。テストバッテリーは,(1)visual analog scaleを用いた眠気や意欲に関する主観調査,(2)安静時開眼および閉眼時脳波測定,(3)事象関連電位P300測定,(4)psychomotor vigilance task(数字加算課題,作業記憶課題,記憶操作課題(セマンティックプライム),英数字検出課題,go/no-go課題)とした。部分的睡眠遮断がどの前頭連合野機能へより強く影響を及ぼしているか,回復過程を用いて確認するため,CT10時より20分間安静仰臥位を保たせた後,再度テストバッテリーを施行した。その結果,主観的眠気(KSS)は,通常睡眠後の午前セッションでは,通常睡眠午後・部分断眠後午前・午後のセッションに比べて,有意にKSS得点が低く,眠気が弱かった。生理的眠気(AAT)は,通常睡眠後ならびに部分断眠負荷後どちらにおいても,午後のセッションは午前のセッションに比べて,有意に生理的眠気が強かった。事象関連電位については,午前の測定では部分断眠を負荷した場合,P300頂点潜時は延長し,振幅が低下したが,午後の測定では部分断眠の影響は見られなかった。若年者を対象とした今回の実験の結果,午前の時間帯では,部分断眠の影響で,脳内情報処理速度は遅延し,処理能力が悪化した。午後の時間帯では,通常睡眠の場合も部分断眠負荷条件と同様に,主観的・生理的眠気の増強と,脳内情報処理の悪化が認められた。部分断眠によって,ワーキングメモリの機能が低下する傾向がみられた。日常よく経験するような90分程度の部分断眠(睡眠不足)であっても,記憶の引き出しの妨害が生じている可能性がある。継続的な部分断眠(慢性的な睡眠不足)がワーキングメモリに及ぼす影響について今後検討する必要がある。部分断眠の負荷およびサーカディアンリズムによって生じる眠気は,記憶・学習能力や注意集中力に影響を及ぼし,判断ミスや事故を引き起こす原因となる。日常生活においては,眠気を軽視しがちであるが,脳機能の観点から睡眠の役割を再認識する必要がある。
著者
川畑 隼人
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2010年度はこれまでの研究に引き続き、中央ユーラシアにおける青銅鈴の出現と拡散、社会的意味について検討を深めていった。特に、今年度は博士論文構想発表会と、全国規模の学会での発表と、ロシアでの資料調査が主な活動となった。まず、11月に奈良文化財研究所で開催された、日本中国考古学会で口頭発表を行なった。その内容は昨年度に文学研究科紀要に基づく内容で、「出土状況からみた弓形器の用途-諸説の検証と解釈-」という題目で研究発表を行ない、全国や海外から集まった専門の研究者から指摘と教示を受けた。また、同会の会員と交流を深めた。12月には、ロシアのモスクワとサンクト・ペテルブルクを訪れ、両都市の博物館を歴訪し資料の収集や本の購入、現地研究者との親交を深めた。特に、モスクワ歴史博物館とエルミタージュ美術館には、旧ソ連時代より収集された考古資料が多数所蔵されており、騎馬遊牧民の青鋼器や鉄器を中心に観察と写真撮影を行ない、多くの収穫を得た。この資料調査をまとめ、論文や研究ノートとして成果を発表する予定である。また、所属している草原考古研究会においても、資料調査の内容について発表を予定している。上記以外にも様々な調査を行なって来ており、その成果は論文や報告として雑誌に掲載される。来年度はロシアでの資料調査をもとにして論文執筆を行ない、年度末までに提出予定の博士論文の一部とする。堤出前に必要となる学内の博士論文構想発表会も7月に済ませており、「後期青銅器時代の中央ユーラシアにおける青銅鈴の出現」という題目で研究経過を発表し、今後の展開についての批判を受けた。現在は章立てや構成を精査している段階であり、各章にあたる論文をまとめている状況である。
著者
友田 修司 下田 昌克
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

今年度はSe-Se結合をもつ3種類のホスト分子の新規合成およびX線構造解析を行った。さらにホスト分子に取り込まれた銅(II)イオンとSe-Se結合との間に容易に電子移動が起こることを示唆する実験結果が得られた。まず、セレンユニットの最も基本的なモデル系として、無置換のo-異性体o-C_6H_4(SeCN)COClにホスト部位を導入した後に-SeCN同士のカップリングを行い、クラウンエ-テル型ホスト分子(1)、クリプタンド型ホスト分子(2)、およびキレ-ト型ホスト分子(3)をそれぞれ合成した。合成したホスト分子(1,2)についてX線構造解析を自分で行い分子構造を明かにした。1は長方形の空洞をもち2個の金属イオンを同時に取り込む可能性がある。セレン原子の超原子価性に起因すると考えられる分子内相互作用が明かとなった。同様に2においても、SeとOの原子間距離が異常に短くなっており、これらの原子間に引力的相互作用が存在することが判明した。セレン原子の超原子価性は大環状分子の安定化に大きく寄与する一方で、ホスト部位の配座を固定化し、ポリエ-テル鎖の立体配座を歪ませている。3の構造を決定するため、塩化銅(II)とメタノ-ル中で攪はんして生じる緑色沈澱を集め、クロロホルムより結晶化したところ少量の濃青色結晶が得られた。これをX線構造解析したところ、銅は6配位でSe-Se結合が酸化的に返断されセレネニルクロリドとなっていることがわかった。これは銅とSe-Se結合との間に何等かの電子的相互作用があったことを強く示唆している。この錯体はメタノ-ル中でアルケンと反応させると、ほぼ定量的にメトキシセレン化反応を生起した。今後、この錯体の反応性解明も含めて、ホスト分子1-3の錯体合成とその構造・性質に関する検討を行って行きたい。
著者
久保田 裕之
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

最終年度にあたる平成21年度の研究成果は、以下の通りである。本研究の第一の目的は、生活の物理的基盤としての居住を中心として、家族ではない他人との共同居住(非家族居住)の事例を検討していくという経験的なものであった。この点につき、日本でも若者を中心に実践されつつある「シェアハウジング」と呼ばれる非家族居住についてのフィールドワークを行い、単著『他人と暮らす若者たち』として刊行した。また、とりわけ家計経済学とコモンズ論の観点から非家族居住を考察した。このような非家族との居住実践のデータを元に、現在の家族社会学における「家族の多様化」論を批判的に検討したものが「『家族の多様化』論再考-家族概念の分節化を通じて」である。その結果、家族概念を単に押し広げるだけでは、近代家族以外の多様な生活形態を分析から除外してしまい、結局は従来の家族さえも十分に考察できないことを明らかにした。本研究の第二の目的は、「生-政治」の戦略拠点としての近代家族とは異なる、新たな「生の基盤」の可能性を検討するという理論的なものであった。この点につき、個人単位で無条件一律に現金給付を行うというベーシック・インカムの議論を手がかりに、政策単位は家族か/個人かという従来の議論を批判的に検討した。その結果、最低限の生活水準を確定するためには、従来はもっぱら家族が担ってきたケアのコストと、生活の共同による規模の経済を考慮する必要があり、これらの検討なしに個人単位の福祉を議論できないことを明らかにした。以上のような議論は、雇用によっても家族によっても生活を支えることが困難になったと考えられる現代において重要な意義を持っている。また、定額給付金や子ども手当てをはじめとする個人単位給付が導入されつつある現在、その効果と是非をめぐる議論に重要な示唆を与えることになる。
著者
徳安 彰
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

グローバリゼーションと機能的分化を背景とした社会システムと行為主体の関係を、一般理論のレベルで定式化した。一般理論の具体化のために、中間的な単位としての科学技術の研究組織におけるバイオセキュリティの問題を取り上げ、情報の境界管理という概念をもちいて、セキュリティにかかわる研究情報が研究組織の境界を越えるリスクと、境界を越えないようにする規制の可能性を具体的に特定した。
著者
佐藤 嘉夫 野口 典子
出版者
会津大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

豪雪・過疎・超高齢化山村における分散・孤立した高齢者のみ世帯の生活は、除雪、家屋の維持、火災等に対する安全・防犯、通院などの交通、日常生活の利便性など生活の全面にわたり大変厳しいものがある。人的資源の流出に加え、過疎化の進行に伴う財政悪化や投資効率の低下による公共サービスの脆弱化がその背景にある。それを補う形で残村高齢者と他出子と密度の高い親族ネットワークが形成されている。他出子の居住地の違いによってその緊密度や交流・援助の手段に違いは見られるがそれはさほど大きなものではない。その内実をなすものは、老親に対する精神的・経済的・身体的扶養と「家」(稼業・家作、墓、親族関係)の継承、郷土への愛着などである。しかし、他出子の帰郷への直接的な動機づけとしては、そうした所与の客観的条件よりも、他出子側の主体的条件に拠るところが大きい。他出子家族内の子供の成長・自立(就職、結婚)、帰郷後の仕事・役割・生きがいの有無、帰郷にたいする家族の同意などである。比較対象群として行った、冬季間(4〜5ケ月)に他出子世帯と同居する「出ぐらし」高齢者世帯の調査によると、残村高齢者の自立の低下による通院や要介護の高まりが、他出子の帰郷への要因とはならずむしろ高齢者の「引き取り」(村外流出)を促していることにもそれは示されている。また、帰郷後の不安として上げられているのは、先のものの他、自分の老後とりわけ介護問題や人間関係でありその点でも、他出子は帰郷を自らの問題として受け止めているということが分かる。したがって、具体的に帰郷を考えている1割弱、漠然とした願望のものも含めて4割弱にも上る帰郷意向をもつ他出子の帰郷がどれだけ現実性を帯びるかは、現存の高齢者と他出子の親族ネットワークへのさまざまな形の支援に加え、村と他出子の早期からの情報交換・交流と幅広い高齢者のためのまちづくりにある。高齢二世代家族の再生の条件もそこにある。
著者
中野 俊郎 吉田 昭治 粟生田 忠雄
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

長辺50m、短辺40mの20aの水田に排水の能力差のある暗渠条件を長辺方向に2本設けて、暗渠の能力差による排水効果を測定した。一本の暗渠は小排水路に排水され暗渠の水頭差は田面下60cmである。他方の暗渠は田面下100cmに埋設された集水渠に接続したため大排水路の水位が集水渠より常時高く暗渠には約40cmのサクションが掛かる構造になった。その結果、取水時、間断潅水時および落水の水管理時には集水渠に接続した方のA暗渠の水位は常時田面下60cmを維持するようになり、土壌水分張力値もA暗渠の方が大きくなることがわかった。気象装置や土壌水分張力測定器を設置観測開始年の2年間は少雨高温の特異年であった。TDR土壌水分率測定結果も平行して測定した結果は、作土層と耕盤層の土壌水分は心土層より約1日遅れで圧力が伝達されて減少し始めることが分かった。お盆過ぎから刈取り期近くの間断灌漑は慣習的に5〜4日間隔で水管理されているが、耕盤層の水分張力の減衰が1日間観測されていることから、3日間隔の方が稲の生育生長および収量や地耐力の発現に好結果を期待することができると思われる。地耐力の測定にはコーン指数で判定する構造改善局基準があるが、側面摩擦抵抗や泥炭地水田では必ずしも適さない事例があり、ベーン試験と三軸試験機を用いた非排水条件の側圧一定試験から有効応力解析を行いベーン試験による沈下量とスリップ率から判定した。その結果、シルト質粘土地盤の作土層表面が極度に乾燥履歴を受けてシルトの噛合い成分が強くなり、刈取り期近くになると粘着力成分より摩擦力成分が卓越することが判明した。一方、植物遺骸が堆積した泥炭地水田の作土層の表面が乾燥すると植物遺骸の繊維質がメッシュ構造を生成して地耐力が増強されると判断した。
著者
国分 充
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

知的な障害を有する子どもに運動を行わせるときにもっている能力を十分に発揮させるような課題設定のあり方を検討することを目的として、立ち幅跳びの計測を、何の目標もなく最大の力を発揮するよう言語教示して行う目標なし条件と、そうして得られた跳躍距離の20cm遠くに設定された目標まで跳ぶように求める目標あり条件の2つの条件下で行った。その結果、目標あり条件での成績は目標なし条件の場合よりも有意に高く、跳躍距離を伸ばすのに目標をしめすことは一般に有効であることがわかった。また、条件間の違いと有意に関係していた被験児の属性は、行動調節能力であった。すなわち、行動調整能力が低ければ低いほど、条件間の差は大きかった。しかし、ダウン症児は、彼らの行動調節能力の如何にかかわらず、条件間の違いは小さく、目標の効果はほとんど見られなかった。これは、ダウン症児では、運動の表出に係わる系ではなく、運動能力自体、すなわち運動の実行系に問題を有するためと考えられた。しかし、彼らにあっては、丁寧さを必要とするような運動課題では、他の知的障害児とかわらないことが、水を入れたコップが載ったお盆を3メートル運ぶというお盆運び課題から明らかになった。この課題において、ダウン症児では時間は長くかかり、また、歩数も多かったものの、こぼした水の量は他の知的障害児で差がなかった。このことは、ダウン症児の運動実行系の障害の性質を考える上できわめて示唆に富む事実であり、また、運動課題設定上も十分留意すべきことと考えられた。
著者
石川 清
出版者
愛知産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

当該研究は、中世後期のイタリアの各地方都市(フィレンツェ・シエナ・ヴィテルボ・ローマなど)にける街路の公的都市規制と、それに伴う都市住宅・都市景観の様態変化を把握するために、(a)中世後期の市民生活形態、(b)街路を構成する建築の建設過程、(c)中世後期の都市条例statuti、(d)中世後期の政治体制を調査し、これらの分析を並列的に進めていくことで、イタリアの都市の街路における公道と私道の成立の実態、それに面する邸宅に関する法的規制の歴史的経緯を把握することによって、イタリア中世の都市生活の様態に新しい知見を見出そうと試みたものである。平成16年度から平成18年度にかけて、(1)イタリア中世後期の都市条例、(2)街路に面する景観整備のための建築規制、(3)統一的美観の成立:建築ファサードにおけるラスティケーションの導入、(4)街路環境整備のための道路監督官制度、(5)街路に面する住居建築のパラダイムの変容、を順を追って分析・考察することで、イタリア中世後期における都市景観に対する法的整備の様態を解明した。イタリアでは14世紀初頭には、我が国で言うところのいわゆる「景観法」がすでに成立しており、統一的都市景観という意識が個人都市住宅の設計理念に組み込まれていたことを垣間見ることができた。中世都市国家の中で法的整備がなされ、かつその当時の都市条例が現存する都市に分析対象が絞られたが、中世イタリアの都市国家における都市景観に対する考え方の相貌は把握できたと考える。
著者
佐々木 節 ANACLETOARROJA Frederico ANACLETO ARROJA Frederico
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は本研究計画のまとめとともに,これまでとは異なる視点から宇宙論的揺らぎの理論を展開し,非線形性や非ガウス性に関する考察を進めた。その主な成果を以下に記す。(1)近年のインフレーション宇宙の揺らぎの振る舞いに関する研究から,一般的な非正準的な運動項を持つスカラー場と断熱的完全流体との類似性が指摘されていたが,この点をより明確にするべく,これらの2つの場合が非線形揺らぎも含めて完全に一致するための条件を議論した。その結果,両者が非線形まで含めて完全に一致するのはいわゆる純粋なK-エッセンス理論の場合だけであることを証明した。これは,これまでの揺らぎの理論に新たな見方を提供する重要な成果であるだけでなく,これまでにあるモデルで得られた結果を対応する別のモデルに適用して直ちに解を得ることができる,という意味でも有用な成果である。(2)インフレーション理論に対するアプローチとして,最近,いわゆる有効場の理論的アプローチが注目を浴びている。しかし,これまでは単一のスカラー場の仮定のものに有効理論が展開されていた。そこで,これを複数場の場合に拡張した。特に,2階微分までの一般的有効作用の下で,複数スカラー場理論の高エネルギー極限の補正項の一般形を導出に成功した。この結果は近いうちに論文として発表予定である。(3)単一スカラー場の理論でも,ポテンシャルに急激な変化があるモデルではスローロール近似が破れることが知られている。この場合に発生する非ガウス揺らぎを解析的に評価することに成功した。この結果も近いうち論文として発表予定である。
著者
熊谷 謙治 進藤 裕幸 丹羽 正美
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

特発性大腿骨頭壊死症は近年疫学や臨床的研究が著しく進歩したため、大腿骨頭壊死症はSteroid Hormone治療で一時期に大量投与(12.5mg以上)で増加し、高脂血症との因果関係、更には細動脈や細静脈の内皮細胞の関与も明らかになってきている。近年腎臓などの諸臓器の生体移植や膠原病などでSteroid Hormone増加に相まって、大腿骨頭壊死症の増加が危惧され、社会問題となりうるため注目されている。研究の課題は特発性大腿骨頭壊死症における阻血機序の病態解析で、Steroid Hormone投与によって生じる脂肪細胞の増生、膨化と末梢循環特に血管内皮の関与を解明することを目標とした。上記病態解析のため、約100匹のSHRSP/Izmを17週齢で犠牲死とし、大腿骨頭を採取、光学顕微鏡用に病理組織標本を作製、また採血、多臓器採取も行った。壊死の有無を検鏡し、免疫組織学的に抗ラットの抗体を用いて、レプチン、アジポネクチン、PAI-1、TNFαの骨髄脂肪細胞内、および周囲の定性的反応性が確認された、Steroid Hormone投与の有無、大腿骨頭壊死の有無で各種サイトカインの定量的反応性を評価した。サイトカインの分子生物学的検討には大腿骨頭の光学顕微鏡組織標本から、大腿骨幹部の脂肪細胞から抽出を試みたが、技術的に困難であった。そこで脂肪細胞の動態を検討するためスタチン系薬剤であるプラバスタチンとヘパリン様物質のペントサンを投与する2実験を行った。両者ともに、壊死頻度は減少し、脂肪細胞の縮小・減少がみられ、脂肪細胞の大腿骨頭壊死症に関与の証明や治療薬の探索の観点で収穫が得られた。