著者
渡部 匡隆 岡村 章司 大木 信吾
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、知的障害を伴わない広汎性発達障害児への包括的な教育支援プログラムの開発を目的とした。研究では、1.広汎性発達障害の心理特性とアセスメント方法の開発、2.広汎性発達障害児への指導プログラムの開発、3.広汎性発達障害児の関係者への支援プログラムの開発、4.広汎性発達障害児への教育支援システムの調査を行った。本研究により、学齢段階において主に通常学級に在籍する知的障害を伴わない広汎性発達障害児への教育支援プログラムを明らかにすることができた。
著者
背戸 博史
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

日本近代化過程における民衆統合のメカニズムは、「伝統」の擬制的創造の過程であり、その実質化をすすめてきたのは、明治以降に創設された近代学校による「伝統」の擬制化であった。早急な近代化をすすめる過程において、近代学校は、旧来からの民衆的慣習を巧みにアレンジすることで、進行する近代社会の進展に「自然性」を付与し、民衆による受容を促進してきたのである。しかし、「琉球処分」により、旧来からの支配機構を温存させたまま、日本近代社会に編入された沖縄にあっては、近代学校の果たす役割は「本土」のそれとは対照的なものであった。そこでは、急速な近代化を「自然」に装う戦略は選ばれず、近代学校は、極めて抑圧的に、新たな言語・文化・思想を注入する場として機能したのである。ただし、本研究においてその過程をいくつかの事例によって検証した結果、抑圧的な沖縄型近代学校も、一義的に「抑圧的」であったとは結論し得ないことが明らかになった。本研究が事例としたのは伊平屋島や伊計島のような離島地域であったが、沖縄の中心地から隔たる地域にあっては、むしろ積極的に近代学校を受容し本土化することで、沖縄圏内におけるそれまでの(離島的)後進性を払拭しようとする傾向も少なからず見られるのである。その際注目されるのは、沖縄においても展開された報徳会運動であった。沖縄における報徳会運動には、本土のそれとは異なる論理が貫かれていたと考えられるが、沖縄近代化過程の特異性は、沖縄において展開された報徳会運動の特異性を検証することでより明確になるという仮説を得ることができた。
著者
伊藤 淳史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

戦時の植民地開拓と戦後の国内開拓の「断絶」面・「連続」面に関して福島県西郷村の白河報徳開拓農業協同組合を事例とした考察を行い、その成果は下記の論文に掲載された。伊藤淳史「加藤完治の戦後開拓-福島県白河開拓における共同経営理念をめぐって-」『農林業問題研究』第154号、2004年6月、76-80頁(地域農林経済学会大会個別報告論文)本論文では、開拓指導者加藤完治の指導理念における戦時と戦後の「連続」、一方でその理念を形骸化させる形での農業経営の安定化(=「断絶」)という、戦後状況における理念と現実との乖離を指摘した。また、植民地と農業教育の接点たる高等農業学校留学生について論じた著書に関して下記のブックガイドが掲載された。伊藤淳史「ブックガイド 河路由佳・淵野雄二郎・野本京子著『戦時体制下の農業教育と中国人留学生』」『農業と経済』第70巻第9号、2004年7月、111頁なお、8月には茨城県内原町・福島県西郷村において現地調査を行い、内原では戦時期より現在に至るまでの現存する機関紙誌の収集および関係者からの聞き取り、西郷では開拓第一世代および第二世代からの聞き取り調査を行った。
著者
大塚 英二
出版者
愛知県立大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

豪農の家政改革は、一個人の経営立て直しにとどまらず、地域的な信用構造の面からして、村共同体と地域社会に大きな影響を及ぼさざるをえない。その社会的・政治的意識や行動は常に衆人環視の対象であった。その家政改革や行動について論究する場合には、やはり彼らの日常的な業務内容と地域社会状況について検討を加える必要がある。以上のような観点から、山田家文書に残された書状類及び触・御用留の類の分析を通じて、山田家が家政改革を行う時期の東部遠州地域における政治的・社会的な状況と、その中での同家の役割について検討を加えた。山田家の経済的蓄積期にあたる18世紀後半には、山田家は庄屋として領主蔵米を扱い、当該地域の積み出し港である川崎湊の廻船問屋八郎左衛門と日常的なつながりを持って、八郎左衛門所有の湊の蔵(領主蔵米の一時保管庫)の実質的管理にも関わった。山田家の炭山経営にも八郎左衛門は関わっていたと推定され、こうした廻船問屋商人とのつながりが同家の豪農としての成長に直接関わっていたと考えられる。しかし、その後、山田家の経営は順調には進展せず、米穀類の価格低下や地域的金融の混乱の中で家政改革を余儀なくされる。最初に家政改革が行われた文政期は、まさにそうした不況下で幕府が大々的な倹約触(文政2)を出した時期であった。この時、山田家は郡中惣代として倹約と諸物価引き下げに関わる郡中議定を策定するのに奔走していたが、これは同家の経営上の問題と全く二重写しとなっている。豪農の社会的・政治的活動をその家政改革は相即的なものであると見てよいだろう。なお、当該議定に関わる郡中惣代間の書状のやりとりでは、隣接する他郡の議定内容なども意識されており、こうした有力百姓層においては社会意識の面でかなりの共通性があったことが理解できる。今後更に書状類からそうした意識を探っていく必要があろう。
著者
長谷川 直哉
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

CSRは企業行動に対する予防的措置機能を持つことによって、はじめて本来の意義が機能する。CSRの予防的機能を担保するものがSRI(社会的責任投資)である。SRIの本質は、企業行動の収益至上主義的側面を抑制し、環境や社会との共生的側面との調和を促すものである。SRIが市場メカニズムにビルトインされることは、投資家が市民に代わって企業行動に対するサステイナブル・ガバナンス機能を持つことを意味する。環境金融の視点は、企業が主体となるCSRから投資家の社会的責任(ISR)へと中心命題が移行しつつある。
著者
丹治 愛
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.ガブラー版『ユリシーズ』の第4挿話(「カリュプソー」)から第6挿話(「ハーデス」)までを、河出書房版を参考にしながら実際に日本語になおし、かつ、それぞれの挿話についてこれまで独自に収集したデータのなかから、読解上とくに重要と思われるものを選び、それを注釈として添付した。2.第7挿話(「アイオロス」)および第9挿話(「スキュレーとカリュブディス」)については、各種の参考書を読みながら、そのつど日本語訳に役立つと思われる情報をデータベースのかたちで保存した。3.第11挿話(「セイレーン」)については、日本語訳の作業と注釈づけの作業を同時に進めているところである。いろいろな作業行程をこころみることによって、以後の作業にとっていちばん効率のよいかたちを模索したいと思う。4.たしかにガブラー版はそれまでのどの版よりもテクストとしての妥当性を主張しうる版であろう。しかしながら、ジョン・キッドの「ユリシーズのスキャンダル」という論文以後、その妥当性はかなり揺らいでいると見なければならない。たとえ反ガブラー派の批評家たちが問題にする箇所のほとんどーあえて97%以上と言っておこうーが、コンマかセミコロンか、あるいは大文字か小文字かといった、日本語になおした場合にはほとんど表面に浮かびあがってこない細部であるにしても、残る3%のなかにはわれわれにとってもひじょうに重要と思われる論点がふくまれている。そのようななかでわれわれにとって重要なのは、いずれの版も絶対化することとなく、テクストの妥当性を相対的に判断していく態度であろう。
著者
岡澤 慎一
出版者
宇都宮大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

重度・重複障害児3事例を対象として,彼らが表出した行動を確定し,その意味を見出すとともにその際のやりとりにおける関係性のあり方について検討した.その結果,(1)対象児から表出された微弱微細な状態変化を糸口として係わりを展開することが妥当であること,(2)視覚的に確認できないほど微弱な身体の動きが係わり手との共同的活動のなかで拡大すること,(3)重度肢体不自由事例との話題の共有化過程の様相,等が明らかになった.
著者
東 信行 泉 完画 佐原 雄二 野田 香 小出水 規行
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

流域単位の生態系評価を行うことを目的としたため,岩木川という一級河川の中下流域の大半を対象とする比較的大規模な研究地を設定した。これにより,従来から進められているマイクロバビタット評価に加えて,マクロな視点の調査・解析を行うことができた。第1に,(1)水田-小水路,(2)溜池,(3)河川-幹線の用水路-承水路-排水路-河川のそれぞれにおいて,水域ネットワークとしての連続性と環境の空間配置の視点から解析を行った。TWINSPAN解析の結果,大きな水路網では,水路構造そのものよりその水路がどの様な位置に存在するかが魚類群集を決定する要因となっていることが明らかとなった。加えて,重回帰分析ではマイクロバビタットの相当する構造にも関連性を示す魚種も見られ,異なるスケールの要因を同時に考えなければならない当初の仮説を支持する結果が得られた.魚種ごとの具体的な特性を双方の結果から把握し,保全に生かすデータが得られたと考えられる。この際,水系の連続性にも注目し,水系の連続性を補償する魚道や流速条件に対する魚類の遊泳能力にも研究を展開した。第2に,多様な生態系を維持してきた溜池の生態的特性を溜池構造や浚渫の方法それらに関連した植生構造から明らかにすることにした。さらに,生物生息に関連する物理化学要因について詳細な調査を加えることとし,特に溜池の貧酸素が生物群集に与える影響に注目し,またそれがどの様な条件で発生するかについても検討を深めることにした。本研究では具体的な問題点の抽出や環境デザインの提案まで行い、農業水利事業に生かすことを目的とし,この成果はその目的を一定程度達成したものと考えている。
著者
後藤 秀司
出版者
秋田県潟上市立天王中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

キャリア発達の視点から,学校の教育活動全体を通じたキャリア教育推進のための教員研修に寄与するプログラムの開発を目的として,以下の研究を実施した。1 小・中学校の教員のキャリア教育に関する質問紙調査小・中学校の教員約120名を対象にキャリア教育に関する質問紙調査を実施した。因子分析の結果,現場の教員のキャリア教育に関する課題意識については,「授業実践」「指導計画の整備」「目標設定・評価」「指導時間確保」「教科等の指導と評価」「相談・連携」「体験活動」「各教科・領域等の有機的関連付け」の8つの因子が抽出された。各尺度間の相関から,「各教科等の指導計画の整備から評価規準の設定,具体的な授業プランの策定」「職場体験等の体験活動の実施と保護者・地域等との連携」に関する研修を求めていることが分かった。2 キャリア教育研修内容の分類キャリア教育に関して文部科学省が報告書等で例示した研修プログラムから,教員研修に求められる内容を整理・分類した結果,「共通理解を図る研修」「実践にかかわる研修」の2つの視点を得た。さらに研修の趣旨や目的から,「キャリア教育の本質的理解」「児童生徒のキャリア発達の状況理解と学習プログラムの枠組み作成」「キャリア・カウンセリング」「教科,領域におけるカリキュラム開発」「取組内容の重点化と全体計画等への反映」「校種間の連携・接続」の6つに分類することができた。3 教員研修プログラムの開発研修プログラムを「共通理解」「実践」の2つの視点から体系化し,教員研修の実施に必要なワークシートを開発した。
著者
金元 敏明
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

タンデム風車ロータの特徴的な回転挙動に則して騒音を把握した. 相反回転時 : 騒音の卓越周波数はブレード通過周波数およびその高調波とは一致せず, 前後段風車ロータの干渉騒音が支配的となる. 後段風車ロータ停止時 : 前段風車ロータのブレード通過周波数の高調波で卓越周波数が確認され, 後段の大規模剥離による騒音が顕著となる. 同方向回転時 : 相対周速比が増加すると干渉騒音レベルが高くなり, 広帯域周波数の騒音レベルも上昇する.
著者
金元 敏明
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

前後段風車ロータと内外二重回転電機子からなる風力発電ユニットについて,好適な風車ロータ形状を提案した.また,二重巻線形誘導発電機を搭載して実風況下で実証試験を行い,低回転速度から同期回転速度まで最高効率運転が可能なことを確認するとともに,その電機的制御法を提示した.実用上問題となる騒音については,後段風車ロータが小径のため前段風車ロータ翼端渦の影響はなく,ブレード面上の境界層に基づく速度せん断層同士の干渉を抑制すればよいことが判明した.
著者
杉山 晋作
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究の目的は、古代日本において金めっき技法を用いる製品の国産化が開始された時期、考古学でいう古墳時代の新しい生産技術とその製品の実態を明らかにすることであった。そこで上総金鈴塚古墳出土の金銅製品を主たる研究対象とし、X線透視装置等の分析機器をも併用して製品と製作技術の詳細な観察および実測図・写真の作成を行い、以下の成果を得た。1.大刀 金鈴塚古墳出土の金銅装および銀装の大刀について検討を加えた結果、従来の発掘調査報告書と出土品修理報告書で認識されていた復元形態に誤りのあることが明らかとなった。また、環頭大刀の環頭の固定に多種の技法があったことを認めその相異が今後の大刀の編年研究の基準となり得ること、大刀外装具の製作に今まで解明されていなかった技法を認め他の類品を再検討する必要が生じることになったこと、大刀の鞘口構造に2種あることが判明し合口か呑口か問題となっていた課題に新しい知見を提起することになったこと、など多くの新事実を確認した。2.馬具 金鈴塚古墳出土の金銅装馬具については、鉄地に金銅板を固定する鋲留技法の相異によって3種の馬具の組合わせが識別できることとなり、また、付属品の1種に関する学界の従来の認識が誤っていることも判明した。今後、金銅製品の金属元素組成分析値を他の類品のそれと比較検討した結果をも合わせた研究成果を公表することによって、上総金鈴塚古墳出土品は従来に増して古墳時代編年研究の重要資料としての価値が大きくなる。ただし、研究成果の詳細な公表には大量の頁数の報告書を必要とするので3年後に別の刊行物を予定している。
著者
宮崎 隆彦
出版者
東京農工大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、80℃以下の温水を利用して10℃前後の冷水を供給する吸着冷凍機の高性能化を目的とし、新たな吸着冷凍サイクルの提案・実証を行った。シミュレーションによる性能予測から、提案する二段蒸発型吸着冷凍機は従来型の1.5倍の冷凍能力、1.7倍のCOPとなることが予測された。実験機による性能検証の結果、想定した温度・圧力範囲で動作することを確認し、温水温度80℃の条件においてCOPが約1.5倍となることを実証した。
著者
伊藤 英夫
出版者
広島国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本年は、4年間の調査・研究を総括した。1.アンケート結果1年間のAACに関するスーパーバイズで、AACに関する知識、授業改善に寄与するという意識,使ってみようという機運など、両校とも一定の成果を上げることができた。それぞれの地域性、学校の特色や背景などによって異なる点もあったが、AACを導入することにより、これまでの音声言語主体の授業の在り方に問題提起をし、個々の児童生徒に対するアセスメントの在り方、特に言語理解と言語表出を分けてアセスメントをする点、コミュニケーションに対する考え方、障害特性を配慮し自閉症を有する児童生徒への視覚支援の有効性などに対する認識を浸透させ、授業改善へのきっかけを作ることができた。2. AACの導入に関する研究養護学校におけるAAC導入に関する共同研究では、以下の研究を行った。緘黙傾向の中学部ダウン症児へのPICの導入では、問題行動や保護者のコミュニケーションニーズに対して、担任が音声言語の限界を理解し、生徒自身の選択でPICを導入した結果、ストレス、問題行動の半減、家庭生活の改善、コミュニケーションの促進に伴う音声言語の促進などを通して、授業改善、QOLの改善などが示された。指示待ち傾向の自閉症生徒の視覚支援では、クラス内で自発行動を促進し、自分の意思の発信できるようになることを目的として行われ、視覚支援を行った結果、学校生活での見通しが立ち、指示待ちが少なくなり、自発行動が促進され、意欲も高まり、音声言語の促進も確認された。小学部でのビッグマックの導入は、VOCAの使用が初めての教員への導入に関する研究として行われた。AAC事態があまり導入されていない養護学校での実践であったが、導入を始めて経験した教員は、対象児が使用している姿を見て、ある程度の効果を実感したものの、他の教員への理解など、導入には困難を感じている。携帯電話の文字入力機能の利用は、通信手段ではなく、文字入力したものを相手に提示してコミュニケーションを図るもので、スムースなコミュニケーションと情緒の安定、かんしゃく行動の減少などが確認できた。これまで重度の自閉症児と思われていた対象児が、さまざまなことをコミュニケーションすることにより、担任のコミュニケーションに対する考えや、生徒理解が深まっていく過程が示された。
著者
渡辺 定夫 花木 啓祐 野澤 康 宇田川 光弘 出口 敦 篠崎 道彦
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、大きく実測調査による考察と、シミュレーションによる考察の2つの部分から構成される。前者からは、空地に直達日射量が多い配置では空地の表面温度が高くなること、直達日射量は街区内空地の植栽によってできる日影や街区内空地の地表面素材の物性とその範囲によっても大きく左右されること、風による温度低減効果は卓越風向と住棟配置の関係が重要であること、単に風が抜けていくだけではなく、高層住棟の場合には特に住棟にぶつかって街区内に流れ込むことも考えるべきであるという結果が得られた。一方のシミュレーションの結果からは、高密型モデル、低密型モデルのいずれに関しても、原則的に南北軸住棟配置のほうが東西軸住棟配置に比べて、熱、風、日照、採光いずれの視点から見ても良好な環境が得られるという結果になった。また、特に冬期の北よりの季節風が強い場合には、それらを分散させて平均化して流すという意味で、南北軸配置のほうが良いのではないかとの示唆が得られた。以上の結果から、南北軸住棟配置のほうが優れているという結果が得られた。わが国の住宅地は、「南面平行配置」という語に集約されるように、すべての住戸が平等に日照を享受して冬も暖かく、衛生的に暮らしましょうというコンセプトでつくられてきた。それに対して、高温化した夏を少しでも涼しく過ごそうとすると、これまでの考え方とは全く異なる配置計画のほうが良いという結果になるということが明らかになったわけである。
著者
小川 朝生
出版者
国立がんセンター(研究所及び東病院臨床開発センター)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

化学療法の発展に伴い長期的な予後が期待できるようになった一方、化学療法後に慢性的に中枢神経系有害事象(認知機能障害)が生じる可能性が指摘されるようになった。この認知機能障害はchemo-brainと総称される。しかし、認知機能障害と化学療法との関連性、その機序に関する検討は未だ途上である。そこでわれわれは、化学療法前後を通して、脳構造画像の変化を追跡し、その病態メカニズムを検討する研究計画を立案し、脳画像の測定技術を確立した。
著者
池永 満生 滝本 晃一 石崎 寛治
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究の目的は、X線で誘発される突然変異が、どのようなDNAの塩基配列の変化によるかを明らかにすることである。このために、プラスミドpHA7上にクロ-ニングされている大腸菌のcAMPレセプタ-蛋白(crp)遺伝子について解析した。X線を照射したpHA7を大腸菌にトランスフェクションし、ラクト-ス発酵能を指標にしてcrp遺伝子に突然変異が生じているクロ-ンを多数分離した。これらの変異株からプラスミドを回収して、crp遺伝子の全塩基配列(627塩基)をサンガ-法で決定した。96個の突然変異クロ-ンについて解析し、92個の塩基配列の変化を検出した。その内訳は、塩基置換型突然変異が74個とフレ-ムシフト突然変異が18個であった。また、74個の塩基置換の中では、GCからATへのtransitionが56個、ATからGCへのtransitionが1個、残りの17個は、transversionであった。更に興味あることは、56個のtransitionの中で、実に41個が同一の場所(706番目のGC塩基対)に生じていたことである。つまり、この位置がX線による突然変異誘発のホットスポットになっていた。X線による損傷はランダムに生じると考えられており、このように明確なホットスポットの存在は過去に報告された例がない。恐らくは、この部分がcAMPレセプタ-蛋白の機能にとって、非常に重要なアミノ酸をコ-ドしているためだと考えられる。X線との比較のために、ニトロソグアニジン(MNNG)で誘発した突然変異についても解析した。検出した42個のDNA塩基配列の内訳は、GCからAT、ATからGCへのtransitionがそれぞれ39個と2個、フレ-ムシフトが1個であった。また、MNNGについてもX線と同じ場所がホットスポットになっていた。