著者
今出 真司 内尾 祐司 若槻 拓也 古屋 諭 中澤 耕一郎 松村 浩太郎
出版者
南江堂
雑誌
別冊整形外科 (ISSN:02871645)
巻号頁・発行日
vol.1, no.75, pp.230-234, 2019-04-25

は じ め に 骨折治療では主にチタン製ネジが使用されている.チタンは生体適合性がよく耐食性に優れ,ステンレス鋼に比較し高強度低剛性を有する骨折内固定に適した素材である.一方で,骨折治癒後は異物となり抜去を要する.偽関節症例では抜去後のネジ孔が骨欠損部となって問題を上乗せする.こうした問題を解決するため,筆者らは患者自身の骨をネジへ加工し骨接合を行う「自家骨製ネジによる骨接合術」を考案した.専用機器開発から実臨床応用まで行い,現在はより汎用性を高めた骨折治療支援システム構想を立ち上げているので紹介する.
著者
神﨑 美玲 禾 紀子 青島 正浩 戸倉 新樹
出版者
金原出版
雑誌
皮膚科の臨床 (ISSN:00181404)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.1800-1804, 2018-10-01

38歳,男性,ゴルフ指導員。初診前年の秋より,食事や運動時に,背部にチクチクとした痛みがあった。初夏には発汗低下,うつ熱のため屋外での仕事に支障をきたし,8月には熱中症に至った。コリン性蕁麻疹の合併はなく,温熱発汗試験で広範囲な無汗,発汗低下がみられた。薬物性発汗試験は陰性であった。病理組織学的に汗腺組織の形態学的異常はなく,炎症細胞はわずかであった。無汗部の汗腺上皮では,アセチルコリン受容体の発現が低下していた。無汗をきたす基礎疾患や自律神経異常はなく,特発性後天性全身性無汗症と診断した。ステロイドパルス療法が奏効し,3クールで発汗が回復した。本症はまれな疾患であるが,早期に診断・治療すべきである。
著者
六崎 裕高 吉川 憲一 佐野 歩 古関 一則 深谷 隆史 山崎 正志
出版者
南江堂
雑誌
別冊整形外科 (ISSN:02871645)
巻号頁・発行日
vol.1, no.75, pp.241-244, 2019-04-25

は じ め に ロボットスーツHybrid Assistive Limb(HAL;Cyberdyne社)は,着用可能なロボットで,装着者の皮膚表面に貼付された電極から生体電位信号を解析し,パワーユニットを制御して,装着者の動作を支援することができる1).これまで,脳卒中,脊髄疾患,小児疾患などで安全性や効果が報告されてきた2~4).人工膝関節全置換術(TKA)後においても,関節可動域(ROM)の改善のために単関節型HALが用いられ,また,歩行能力の改善のために両脚型HALが用いられ,安全性や効果が報告されてきた5,6).われわれは,歩行能力,ROM,筋力の改善を念頭におき,両脚型HALより軽量で,単関節型HAL同様にROM訓練可能な単脚型HALを用いてTKA後にトレーニングを行い,リハビリテーションとしての可能性を考察した7).これをもとにTKA術後急性期における単脚型HALを用いた臨床研究について報告する.
著者
清水 如代 門根 秀樹 久保田 茂希 安部 哲哉 羽田 康司 山崎 正志
出版者
南江堂
雑誌
別冊整形外科 (ISSN:02871645)
巻号頁・発行日
vol.1, no.75, pp.249-252, 2019-04-25

は じ め に 脊髄損傷に伴う完全下肢麻痺患者における歩行再建のために,歩行支援ロボットが臨床応用されている.トレッドミル据えつけ型ロボットのLokomat(Hocoma社)や,外骨格型装着ロボットであるReWalk(ReWalk Robotics社)などが知られている.これらはあらかじめ決められたプログラムに基づく歩行で筋活動電位の取得できない完全麻痺患者でも使用できる反面,受動的な歩行となり麻痺患者の運動意図を反映しにくいものとなる. ロボットスーツHybrid Assistive Limb(HAL,Cyberdyne社)1)は,装着者の神経筋活動を感知することのできる生体電位センサをもつ外骨格型装着ロボットである.重度麻痺症例で筋活動が微弱であっても,生体電位センサにより感知できる点が,他のロボットにない最大の特徴である.われわれは,随意的筋活動が得られない症例であっても「四肢を動かしたい」という運動意図により随意的に麻痺肢を動かすために,本来の主動筋ではない残存筋にセンサを貼り,トリガーとして選択する方法を開発した.この方法をheterotopic Triggered(異所性のトリガーを用いた)HAL(T-HAL法)2~4)と名づけ,完全麻痺者を対象に麻痺肢の随意運動訓練を行っている.本稿では,T-HAL法について概説をする.
著者
松岡 晃弘 矢島 健司 渡部 秀憲 川上 民裕 相馬 良直
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.98-101, 2008-04-10

要約 シクロスポリン内用液含嗽療法は,扁平苔癬や天疱瘡による難治性口腔内病変に対して,その有効性が報告されている.筆者らは,78歳の女性の天疱瘡患者の,ステロイド内服治療に抵抗する口腔内病変に対し,ネオーラル®内用液含嗽療法を行い,その良好な治療効果を確認した.含嗽時に口腔内灼熱感と疼痛がみられたが,粘膜症状の改善とともに軽減した.その他の副作用はなく,シクロスポリンの血中濃度も測定感度以下であった.シクロスポリン内用液は天疱瘡に対する保険適用がなく,含嗽という投与形態も認められていないため,天疱瘡に対するシクロスポリン内用液含嗽療法は安易に行ってよい治療法ではない.しかし,適切に使用すればほとんど副作用はなく,高い効果が期待できることから,ステロイド増量や免疫抑制薬内服が困難な患者に対しては,十分なインフォームド・コンセントを得たうえで,試みてもよい治療法であると思われた.
著者
林 正雄 青木 繁 石川 哲
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.815-817, 1979-06-15

緒 言 糖尿病患者の瞳孔異常については,現在まで幾つかの報告がなされている。近年における代表的なものを表1に示すが,いずれも網膜症との因果関係について詳しく研究された報告は無い。著者らの一人林は,2年前に双眼電子瞳孔計を利用して,糖尿病患者における瞳孔のメタコリン感受性が正常者コントロールにくらべて,有意に高いことを報告し,さらにそのメタコリン反応は網膜症の重症度にある程度,相関することを示した。 今回は,あらたに交感神経系剤について同様の検討を行なうとともに,副交感・交感神経系各種薬剤点眼時における対光反応因子と網膜症との因果関係について検討し,若干の知見を得たので報告する。
著者
後藤 一美 丸山 友裕
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.1131-1133, 2003-11-01

掌蹠・腋窩多汗症患者10例に対して,入院の上,水道水イオントフォレーシスを行った.治療期間は約2週間,治療時間は各10~20分,1日1~3回連日施行した.効果判定は患者の自己評価に基づいて行った.手掌では,10例中著効6例,有効2例,やや有効2例,足底では,7例中著効1例,有効4例,やや有効2例,腋窩では,3例中著効2例,やや有効1例であった.また,各部位の全対象患者において無効例は認められず,本療法の有用性が示唆された.

1 0 0 0 Cobb症候群

著者
関 俊隆 飛驒 一利
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.390-393, 2015-04-25

Cobb症候群とSpinal arteriove-nous metameric syndrome Cobb(コブ)症候群は神経皮膚症候群の1つであり,脊髄動静脈シャント(spinal arteriovenous shunts:SAVS)と椎体や皮膚などに発生した血管病変が同一の髄節に認められる疾患である.1915年にStanley Cobb(1887-1968)が,突然の背部痛および対麻痺で発症した8歳の男児の症例を報告したことに始まる3).この男児は左背部にポートワイン母斑と,同じ髄節レベルに脊髄血管腫が認められた.しかし,本文中の手術所見および手術シェーマから推測すると,脊髄血管腫ではなくSAVSであったと思われる. Cobb症候群と同様に顔面や網膜の血管奇形に脳の血管奇形が合併する場合があり,合併する脳の血管奇形がAVSの場合をWyburn-Mason(ワイバーン・メイソン)症候群11),静脈奇形の場合をSturge-Weber(スタージ・ウェーバー)症候群10)と呼んでいる.これらの症候群は脳や脊髄の同一分節の異なる部位に複数の血管奇形が認められる場合を指しており,近年ではmetameric syndromeとして考えられている6).脳病変におけるmetameric syndromeは,AVSの場合はcerebrofacial arteriovenous metameric syndrome(CAMS)2),静脈奇形の場合はcerebrofacial venous metameric syndrome(CVMS)9)に分類され,さらにこれらは3つの領域に分けられている.また,脊髄にAVSを合併するCobb症候群は,spinal arteriovenous metameric syndrome(SAMS)として考えられるようになってきている7).ヒトの脊髄は31の髄節に分かれており,8対の頸髄,12対の胸髄,5対の腰髄,5対の仙髄,そして1対の尾髄からなっている.そのため,Cobb症候群(SAMS)はSAMS 1からSAMS 31に分けることができる7).

1 0 0 0 Tinel徴候

著者
長尾 聡哉
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.297-299, 2015-04-25

Tinel徴候とは,末梢神経損傷が回復途上にあることを示す徴候であり,銃創後の末梢神経損傷手術例について初めて報告がなされた.第一次世界大戦中にあたる1915年,ドイツの生理学者Paul Hoffmann(1884-1962)とフランスの神経学者Jules Tinel(1879-1952)によって相次いで報告されたことから3,11),ドイツ語圏ではHoffmann-Tinel徴候とも呼称されている.前述の文献によれば,同徴候は「神経走行に一致した部位を末梢側から中枢側へ指で軽く叩打していくと,神経線維の再生部位に一致して異常感覚を生じる」と記載されており,Hoffmannは異常感覚をeine prickelnde Empfindung(チクチク感)と表現し,英訳者であるBuck-Gramckoらはcreeping sensationと訳している4).また,Tinelは異常感覚をfourmillement(蟻走感)と表現し,Kaplan7)はこれをtinglingと英訳している. 本徴候は,知覚神経再生の際に軸索の再生が髄鞘の再生に先行するため,先端は無髄で機械的刺激に対して鋭敏であることに起因すると考えられている.本徴候は受傷後早期には出現せず,受傷後3〜4週から出現する.経時的に末梢へ移動し,中枢側から軽減していく場合は神経再生の進行を意味し,本徴候が移動せずに同じ部位に留まっている場合は再生が進まず損傷部に神経腫が形成されていることを示唆する.また,長期にわたって本徴候が出現しない場合は,末梢神経の機能再生は期待できず,予後が不良であることを意味している.
著者
後藤 友美
出版者
医学書院
雑誌
看護管理 (ISSN:09171355)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.19-24, 2015-01-10

厚生労働省では今年度,モデル事業として,患者の意思を尊重した「人生の最終段階における医療体制整備支援事業」に取り組んでいる。人生の最終段階における医療にかかる意思決定支援は,同省では初めての事業であり,医療機関における相談員の配置や委員会の設置などによる相談体制の整備を目的としている。本稿ではこのモデル事業の開催に至った背景と経緯,事業の内容等について紹介する。
著者
本望 修
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.93-98, 2015-01-01

薬事法に基づき自己培養骨髄間葉系幹細胞を医薬品(細胞生物製剤)として実用化するべく,医師主導治験を実施している。これまで,前臨床試験(GLP試験)を完了し,GMP(good manufacturing practice)で細胞製剤(治験薬)を製造し,2013年3月より医師主導治験(第III相,二重盲検無作為化試験,検証的試験)を医薬品承認審査調和国際会議のgood clinical practice基準に基づいて実施中である。本稿では認知機能向上の可能性について言及する。
著者
本望 修
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-24, 2016-01-01

筆者らは1990年代初頭から脳梗塞や脊髄損傷の動物モデルに対して各種幹細胞をドナーとした移植実験を繰り返し行っている。なかでも,有用なドナー細胞として骨髄間葉系幹細胞に注目し,経静脈的に投与することで著明な治療効果が認められるという基礎研究結果を多数報告してきた。現在,自己培養骨髄間葉系幹細胞を薬事法下で一般医療化すべく,治験薬として医師主導治験を実施し,医薬品(細胞生物製剤)として実用化することを試みている。脳梗塞は,2013年2月に治験届を提出し,医師主導治験(第Ⅲ相)を開始している。脊髄損傷は,2013年10月に治験届を提出し,医師主導治験(第Ⅱ相)を開始している。数年後を目途に薬事承認を受けることを目指している。
著者
森田 智慶 本望 修 山下 敏彦
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.366-371, 2017-04-25

はじめに 本邦の脊髄損傷患者の年間発生数は5,000〜6,000人と言われており,総数は10万人を超える.その発生機序は,直達外力による脊髄組織の圧挫である一次損傷と,出血・浮腫・炎症などによる壊死や損傷神経線維の脱髄・軸索損傷などの二次損傷が関与すると考えられている1).今日の標準治療は,脊椎の整復固定術・除圧術といった手術療法や,リハビリテーションが一般的である.メチルプレドニゾロンの大量投与療法は,その有効性が疑問視され,また種々の重篤な合併症が散見されることから,2013年のガイドラインにおいて「推奨しない」と記されている2).一度受けた脊髄の損傷そのものを修復し得る治療法はいまだ存在せず,現在も患者は大きな後遺症を抱えたまま,その後の生活を余儀なくされている. われわれは1990年代から,脊髄損傷の実験的動物モデルを用いて,各種幹細胞をドナーとした再生医療研究を精力的に行ってきた.なかでも,脊髄損傷のみならず,脳梗塞やパーキンソン病など,他の多くの分野の再生医療研究において有用性が高いと注目されており,臨床応用が大いに期待できるドナー細胞として骨髄中に含まれる間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)に着目した.われわれは,急性期から亜急性期の脊髄損傷動物モデルに対し,骨髄由来のMSCの移植実験を行い,良好な機能回復が得られたことを報告した1,3).これらの基礎研究結果に基づき,2013年11月には,脊髄損傷患者に対する医師主導治験を実施しており,再生医療等製品としての薬事承認を目指している. 本稿では,われわれがこれまでに行ってきた急性期から亜急性期,さらに慢性期の脊髄損傷に対するMSCを用いた再生医療研究の最新の知見と,現在本学で施行している自家MSC移植療法の医師主導治験の概要について述べる.
著者
北井 暁子
出版者
医学書院
雑誌
保健婦雑誌 (ISSN:00471844)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.691, 1990-09-10

いよいよ1990年代を迎え,21世紀まで残すところあと10年となりました。わが国は今や世界一の長寿国となり人生80年時代を迎えておりますが,今後,わが国の人口高齢化は諸外国に例をみない驚くべき速さですすみ,2021年のピーク時には,4人に1人が65齢以上の老人という本格的な高齢社会が到来すると予測されています。 そんななか,今年の6月に発表された1989年の人口動態統計によりますと,出生数は124万6796人,人口千人当たりの出生率も10.2と史上最低を更新。女性が生涯に産む赤ちゃんの平均(合計特殊出生率)は1.57人にまで下がり,空前の「少産少子時代」に突入。高齢化社会対策に並んで少子化対策は,わが国の社会問題として,大きくクローズアップされるに至っております。
著者
出沢 明
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.1395-1399, 2001-12-25

抄録:梨状筋の緊張や収縮に伴う坐骨神経の絞扼性末梢神経障害に対して内視鏡視下に梨状筋を切離する低侵襲手技を考案した.絞扼性神経に対して手根管症候群では既に内視鏡による切開が開発され優れた成績が報告されている.スポーツ選手をはじめ若年者に多いこの疾患に対し,内視鏡を用いた低侵襲手技による本法は,6例8肢全例に良好な成績が得られたのでその術式を紹介する.われわれの9項目の診断基準のうち5項目以上を満たし,かつ6カ月以上保存療法に抵抗する人を手術適応としている.特に局所麻酔により梨状筋に直接触れてスパスムスを惹起する診断法を考案し,診断率が著しく向上した,本法は梨状筋切離の手技に通常の後方内視鏡椎間板ヘルニア手術の要領で十分に腔の作成と維持は可能である.術後の疼痛の軽減と早期の社会復帰に極めて有用な方法と考える.
著者
牧原 優
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.436-440, 2018-03-10

抗不整脈薬によるイオンチャネルの遮断作用を理解するためには,心筋細胞の電気活動について知る必要がある.図1は,心筋(心室筋)細胞個々の電気活動を示した活動電位波形と呼ばれるものである. きわめて簡略化してあるため詳細は成書を参照いただきたいが,心筋細胞の活動電位波形は第0〜4相に分けられる.心筋細胞は,Na-Kポンプ,Na-Caポンプ,Kイオンの移動により静止膜電位と呼ばれる負電位で電気的平衡状態となっており,Naは細胞外に,Kは細胞内に多い.第0相でNaチャネルが開放されると,Naイオンが細胞内に流入し,脱分極を起こす.次に,一過性にKチャネルが開放され第1相となった後,Caチャネルを介してCa2+が流入することで,第2相のプラトー相が形成される.さらに,第3相でCaチャネルの閉鎖とKチャネルの開放により再分極が進み,第4相で静止膜電位に戻る.活動電位波形は図1のように心電図波形に対応する.
著者
大谷 晃司
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1045-1048, 2017-11-25

難治性慢性疼痛の病態仮説 発症後3カ月以上経過しても疼痛が改善しない疼痛は,慢性疼痛と定義される.特に,各種治療法を駆使しても疼痛が改善されない疼痛,疼痛によって生じている機能障害,あるいは,疼痛が残存する現状に満足できない状態のような「治療に難渋する」疼痛を難治性疼痛と呼ぶ1)(図1).疼痛の難治化には,多かれ少なかれ,解剖学(身体)的な原因のみならず,心理的あるいは社会的因子,個人の性格や人格的な問題,あるいは精神医学的疾患の関与が複雑に絡み合っていると考えられている.慢性疼痛を「生物・心理・社会的症候群」として捉えるべきであるとされる所以である2).一方,最近の神経科学の進歩から,脳機能が疼痛の先鋭化や遷延化に関与していることが明らかにされつつある3).
著者
中泉 行弘 林 尋子 安部 郁子
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.94-98, 2010-01-15

清朝,乾隆年間に武英殿が刊行した『医宗金鑑』は最後の漢方医学全書といわれた書である。清朝の盛時に大学士鄂爾泰らが高宗の勅命を受け,国家的規模で編成した近世中国医学の代表的医書である。総計90巻のこの医学書を実際に纏め上げたのは医官の呉謙らで,医家の実用を主旨として編集され,最初に『傷寒論』『金匱要略』という基本書をおき,後に図,説,歌訣でわかりやすく解説している。 その明解さは『四庫全書提要』において評価され,「学者をして考究し易く,誦習に便ならしめてある」と書かれている。こうした実用書が望まれた背景には,「聖済総録や和剤局方などの官選医書もただ博いだけで要は少なく,或は偏して中を失い実際の治療に裨益するものではない」ということがあったためで,日常の臨床の際に役立てることを考えれば,単に網羅してある医書では扱いに手間取るため,わかりやすく覚えやすい医学書が望まれていたのであろう。