著者
商 海鋒 訳:廣瀬 直記
出版者
東洋大学東洋学研究所国際禅研究プロジェクト
雑誌
国際禅研究 = INTERNATIONAL ZEN STUDIES (ISSN:24338192)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.225-248, 2018-10

重顕の『雪竇録』は、北宋前期の宗門語録のさきがけ的存在である。当初は七集八巻という構成で、写本として伝えられた。北宋神宗(在位1067-1085)のときに入蔵(大蔵経に収めること)を請願する奏上があったが、かなえられなかった。初刻本が作られたのは徽宗の大観二年(1108)以前であり、南宋寧宗の開禧元年(1205)に再刻された。再刻本は、雪竇徳雲の指導のもとで、寧波の刻工洪挙が彫ったものであり、中国国家図書館所蔵「雪竇四集」がその天下の孤本である。この語録は、理宗の淳祐元年(1241)に日本に渡り、鎌倉時代の正応二年(1289)に三刻本が上梓された。それは東山湛照が中心になって、開禧本を底本に復刻したもので、五山版の初期代表作である。日本の東洋文庫所蔵本がその唯一の完本であり、それによって散佚した宋僧徳雲の「序」を補うことができる。また、元の泰定元年(1324)には、寧波の刻工徐汝舟によって四刻本が彫られた。東京の石川武美記念図書館、ミュンヘンのバイエルン州立図書館、台北の「国家図書館」に零本があり、それらによって散佚した元僧如芝の「序」と自如の「疏」を補うことができる。「雪竇七集」は南宋中期からは「語録」、「偈頌」、「詩歌」という体裁によって三冊に分けられ、再刻本、三刻本、四刻本は、いずれも由来を同じくする十一行本である。明初の建文帝のときにはじめて入蔵されたが、その後「頌古」の部分が省略され、明末『嘉興蔵』本に至っては、もはや宋元の旧状を留めていない。
著者
金子 有子
出版者
東洋大学国際哲学研究センター(「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ)事務局
雑誌
「エコ・フィロソフィ」研究 = Eco-Philosophy (ISSN:18846904)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.101-112, 2017-03

The clonal diversities of Potamogeton pectinatus L. (Potamogetonaceae) and Vallisneria asiatica var. biwaensis (Hydrocharitaceae) were evaluated for conservation of genetic diversity of these species. Potamogeton pectinatus is a rare submerged macrophyte in Japan. Protection of the genetic variability of these rare and endemic species is required from a viewpoint of conservation genetic. According to microsatellite analysis, the clonal diversities (Shannon’s index) of P. pectinatus populations varied widely among 11 sampled populations, with ranging from 0.000 to 0.990. The low clonal diversities were found in some populations in Kinki districts. These populations were affected by the anthropogenic disturbances because of cutting these areas before flowering. Vallisneria asiatica var. biwaensis is an endemic submerged macrophyte in the Lake Biwa-Yodo River system. Local populations of V. asiatica var. biwaensis have decreased in the south basin of Lake Biwa since the 1970s. Genetic variation of this species was evaluated by using allozyme analysis. The clonal diversities (Simpson’s D index) of 13 sampled populations were ranging from 0.782 to 0.972. These results would be useful information for development of conservation program.
著者
横山 真男 八代 月光 植木 一也
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2018-MUS-119, no.41, pp.1-4, 2018-06-09

深層学習を用いて,演奏音からそのヴァイオリン製作者を当てる楽器識別および未知の楽器がどの製作者のヴァイオリンに近いか音色分析を行うプログラムを開発した.音響特徴量としてケプストラム法によるスペクトル包絡を深層学習の学習およびテストデータに用いた.ヴァイオリンは,ストラディバリをはじめとするオールドイタリアンの名器からモダン,国産の新作楽器まで 21 本で評価実験を行った.開放弦の演奏音を学習させたところおよそ 90% 以上の割合で識別ができ,楽曲の演奏音では約 60% 弱の正答率が得られた.また,未知の楽器が学習したどの楽器に類似しているかといった傾向分析についても試みた.
著者
仲谷 兼人 ナカタニ カネト Kaneto NAKATANI
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.5, pp.57-69, 2006-01-31

絵画表現の本質は2次元の平面上に3次元の空間を再現するところにある。このことと、網膜像に基づいて立体的な空間を認知している我々の視知覚システムの機能との間には強い類似性が指摘できる。本稿では絵画に見られる各種の遠近表現法、特に線遠近法をとりあげ、ルネサンス期以降の西洋絵画と江戸期の浮世絵を比較して論じている。知覚心理学と芸術心理学の立場から、単眼性の「奥行き知覚の手がかり」が芸術表現の意図とどのように調和し、利用されているか、例を示しながら紹介した。 初期の浮世絵の中にはルネサンスの線遠近法の直接的・間接的影響を受け、紙面上に構成された奥行きのイリュージョンを楽しむものがみられた。これを浮絵と呼ぶ。浮絵はくぼみ絵の別称が示すように奥行き感の表現を重視したが、次第に線遠近法の制約、限界を意識し、最盛期には洗練された独自の空間表現が見られるようになった。葛飾北斎は伝統的な日本画の表現と線遠近法に基づいて構成される近代的な風景表現を画面上に描き分け、観察者を窮屈な幾何学的枠組みから解放した。また直線を用いず、多くの同心円で構成された画面から新たな幾何学的遠近法の可能性を示した。安藤広重は伝統的な俯瞰図を遠近法と調和させ、観察者の視線を誘導することによって空間の広がりを表現することに成功した。同時期西洋では印象派がルネサンス以来の空間表現の限界を打破すべく台頭し始めていたが、幕末の開国以降、浮世絵は西欧、とくにフランスでよく知られるようになり、ジャポニズムの流行とともにロートレック、セザンヌ、ドガ、ゴッホをはじめとする後期印象派に強い影響を与えた。
著者
福家 孝彦 菊池 豊
雑誌
情報処理学会研究報告インターネットと運用技術(IOT)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.38(2006-DSM-040), pp.133-138, 2006-03-29

本研究では、IPv4 PAアドレス体系に基づくネットワークに対して、インターネットへのマルチホームを行う手法を提案する。本提案では、アドレスプレフィックスの長い経路を広告しないため、インターネットバックボーンに与える影響が小さい。また、トンネリングによる仮想接続上にトラフィックを流すことで、冗長経路の有効利用や障害時の高速切り替えを実現する。これらの機能について、所定の性能が確保できることを検証した。本研究の内容は、企業や地域ISPなどのPAアドレス環境において特に有効であり、バックボーンへの負荷をかけずに高品質なインターネット環境を提供できる。
著者
中矢 誠 野口 克洋 富永 浩之
雑誌
第80回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, no.1, pp.287-288, 2018-03-13

本研究では,Word2Vecの手法を,エンターテイメント分野に応用することを目指す.今回は,スマートフォンのアプリケーションとして,単語連想ゲームを実装した.システム側が,キーワードを提示し,プレイヤは,そのキーワードから連想した言葉を回答する.キーワードとプレイヤの回答とのWord2Vecによる距離に応じて得点とする.試行実践として公開したアプリから,利用データを収集した.また,プレイヤの意見を数名から得た.Word2Vecによる単語の素性と人間の感性との親和性を確認するため,これらの結果を分析した.そこで生じる人間の連想とのギャップについて考察する.これらを基に,クロスワードパズルの作問など,他のゲームへの応用について検討する.
著者
吉田 充
雑誌
日本獣医生命科学大学研究報告 (ISSN:18827314)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.8-16, 2013-12

2002年に高温加熱加工・調理食品中にアクリルアミドの存在が確認されて以来,食品におけるアクリルアミドの生成,様々な食品中の濃度,食品からの摂取量推定に関する研究・調査が進められてきた。日本においても,トータルダイエットスタディに加えて,日本やアジア特有の食品を含めた市販加工品や,炊飯米を含めた調理食品の分析が行われた。アクリルアミドの毒性と摂取量とをあわせて考えると,食品中のアクリルアミドの人の健康に対するリスクは無視できず,低減の努力が必要と考えられる。そこで,食品規格に関する政府間機関Codexでも,2009年にじゃがいも加工品と穀物加工品に関するアクリルアミド低減のための実施規範が採択された。食品におけるアクリルアミドの生成抑制や,食品中のアクリルアミドのリスク管理のためには,簡易迅速な分析方法の確立が望まれていたところ,2011年にアクリルアミドのEIA検出キットが開発された。また,アクリルアミドの分析の精度管理に関しては,加熱食品をマトリクスとした標準物質や分析の技能試験も供給されており,利用しやすい状況になっている。
著者
才野 慶二郎 大浦 圭一郎 橘 誠 剣持 秀紀 徳田 恵一
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2012-MUS-94, no.7, pp.1-6, 2012-01-27

ラップのような短時間のうちに音高などの特徴が大きく変動するスタイルの歌い方は,それを適切に表現するための記譜法が確立されておらず,従来のように五線譜基づく合成の仕組みではユーザが直観的にそのスタイルの歌声を再現することが難しかった.本稿では,ラップスタイルの歌唱のための記譜法を定義し,それを用いて HMM 歌声合成の枠組みでラップスタイルの歌声合成を行った.その結果得られた合成音声はラップ特有のグリッサンド技法によるピッチ変動の現象を含むものになっていることが確認された.また,合成時に得られる対数基本周波数系列を素片接続型の歌声合成器に与えてラップスタイルの歌声を合成することも試みた.
著者
嶽 俊太郎 金子 知適
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.250-257, 2017-11-03

ゲームAI分野において,自己対戦により強化学習を行って評価関数を作成する手法は,AlphaGoに代表されるように大きな成功を収めてきた. しかし,強化学習で学習した評価関数は,当然のことながら最適価値関数とは限らず,また最適価値関数からどの程度離れているかもわからない. この研究では、強化学習により学習した評価関数が、最適評価関数と比べてどの程度精度の面で離れているか一定の判断基準を与えることを目的とする. 実験は最適評価関数が解析されているどうぶつしょうぎを用いて行う. 完全解析データにノイズを加えて学習させた評価関数を強化学習による評価関数と見立て,これと最適評価関数との精度を比較をする. 実験から,評価関数のモデルの種類によっては40%のノイズを加えても精度があまり落ちず,想定していたよりもノイズに対して頑丈であることを示す結果が得られた. また,より高度なモデルの方がノイズの影響を受けやすいことを示唆する結果も得られた. この結果は,より高度で正確な評価関数を作成・学習させるには,学習データの精度もより正確でなければならないということ指し示していると考えることができる.
著者
大海 由佳 舘 亜里沙
雑誌
帝京科学大学教職指導研究 : 帝京科学大学教職センター紀要 = Bulletin of Center for Teacher Development, Teikyo University of Science (ISSN:24241253)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.27-32, 2016-03-15

本研究は、初等音楽教育における新しい「表現教材」として,小学校第6 学年の鑑賞教材として取り上げられることが多い宮城道雄の《春の海》に着目し考察することを目的としている.初等音楽教育では「日本の伝統音楽」の代表的な教材として取り上げられている筝と尺八のための器楽曲《春の海》の歴史的背景と楽曲を分析し,これを踏まえて渡辺論文「《春の海》はなぜ日本的なのか」やルネ・シュメー Renée Chemet の《春の海》編曲作品を基底にした音楽学的視点から《春の海》が「音楽表現教材」となりうる根拠を挙げている.明治時代以降に入ってきた西洋音楽の作曲技法と,それ以前から存在していた邦楽器の響きを組み合わせる形で創作された《春の海》は,児童の表現技術に合った構成と編曲により小学校音楽教育の現場での新しい可能性を持つ楽曲であるといえる.
著者
長谷川 聡 山住 富也 小池 慎一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.1180-1183, 1998-04-15

初心者に対してプログラミング教育を行う際に,制御構造の理解が十分でないためにプログラミング全体の理解が困難な学習者の存在に気付く場合がある.そこで,我々は,プログラミングの実行時の動作を正しくイメージできるかどうかが,制御構造の理解度に関係していると考え,プログラミングの学習者を対象に,制御構造のイメージと理解度について調査を行った.その結果,制御構造のイメージと理解度の間に回帰関係が認められた.また,調査に用いたイメージテストはプログラミングの潜在的能力の指標になるものであるとの結論を得た.
著者
倉田 量介
出版者
獨協大学国際教養学部言語文化学科
雑誌
マテシス・ウニウェルサリス = Mathesis Universalis (ISSN:13452770)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.159-180, 2015-03

Summary: This paper is the result of participant observation of the musical and dance practice of “salsa”.Its origin is said to be in Cuba. By comparing it and historical documents, the semantic contrast of “folk” and “popular” is examined. The point is analyzed by dealing with the style of entertainments born in Cuba and developed in New York. First, the history of Cuban musical genres, for example son, danzón, mambo, cha-cha-chá etc., is investigated. Next, the popularity of a Cuban social dance style “casino” is considered. Orquesta Aragón from Cuba, one of famous traditional“charangas”, and Fania Records in New York, a company founded by Dominican musician Johnny Pacheco, are taken up as concrete cases. I pay attention to an identity called “Nuyorican”. There we can see a principle of glocalization.
著者
西谷 大
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.79-150, 2001-03-30

豚便所とは畜舎に便所を併設し,人糞を餌として豚を飼養する施設である。豚便所形明器の分析からその分布には偏りがあり,成立の要因も地域によって異なることを明らかにした。豚便所は黄河中下流域で,戦国期の農耕進展による家畜飼養と農耕を両立させるため,家屋内便所で豚の舎飼いをおこない,飼料のコスト削減を目的として成立したと考えられる。一方豚便所のもう一つの重要な機能である廏肥の生産と耕作地への施肥との積極的な結びつきは,後漢中期以降に本格化する可能性が高いと推定した。黄河中下流域で成立した豚便所は,周辺地域へと広がるが,各地の受容要因は地域性が認められる。長江流域の水田地域の豚便所普及は,華北的農耕の広がりに伴う農耕地への施肥が,水田地にも応用されたことが契機になっている。一方,華南の広州市地域における豚便所の受容は,華北の豚便所文化を担った集団の移住による強制的な受容形態である。中国における豚飼養は,人糞飼料・畜糞・施肥を媒体とし,農耕と有機的に結合したシステムを形成しただけでなく,さらに祭祀儀礼などと複雑に結びつく多目的多利用型豚文化を展開した点に特質がある。一方日本列島で,中国的豚文化を受容しなかった一つの要因として,糞尿利用に対する拒否的な文化的態度の存在が指摘できよう。弥生時代には,豚は大陸からもちこまれ,食料としてだけでなくまつりにも重要な役割をはたした。しかし弥生時代以降の豚利用は,食料の生産だけにその飼養目的を特化した可能性が高い。その後奈良時代になると,宗教上の肉食禁忌の影響・国家の米重視の政策など,豚飼養を維持する上で不利な歴史的状況に直面する。食料の生産以外に,農耕・祭祀など多目的な結びつきが希薄だった日本列島の豚文化は,マイナスの要因を排除するだけの,積極的な動機づけを見いだせず,その結果豚飼養は衰退への道をたどっていったのではと考えられる。
著者
松山 辰男
雑誌
四條畷学園大学リハビリテーション学部紀要 = Annual reports of Faculty of Rehabilitation, Shijonawate Gakuen University
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-12, 2011

グルカゴンは膵ランゲルハンス島のα細胞から分泌される強力な血糖上昇作用ホルモンで、血糖を下げるインスリンと共に血糖値を調節している.消化管にもα細胞が存在し、特にインスリン欠乏状態で血中に分泌され、膵α細胞グルカゴンとともに、糖尿病の高血糖状態の重大な原因になっている.消化管L細胞からは多量のグルカゴン様物質エンテログルカゴンが分泌され、平行して分泌されるグルカゴン様ペプチドGLP-1,GLP-2の分泌を表しているが、エンテログルカゴンそのものにも何らかの活性が存在していると思われる.GLP-1は生体内でインクレチンとして働いており、日本でも昨年から理想的な糖尿病治療薬として使用されるようになった.以前の私どもの研究を中心に、グルカゴンの糖尿病における重要性を紹介したい.