著者
稲本 守 Mamoru Inamoto
出版者
東京海洋大学
雑誌
東京海洋大学研究報告 (ISSN:21890951)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.45-54, 2009-03-27

国連海洋法条約101条は海賊行為を、私有の船舶の乗組員が、私的目的のために行う略奪行為と定義している。しかし歴史上の多くの海賊が、実際には国家によって認可され、植民地の防衛や戦時における海商破壊等の公的目的を果たしていた「私掠船」であったことを考えるなら、「私有の船舶」及び「私的目的」の意味を明確にすることは難しい。そこで本論はまず私掠行為の発生と歴史的展開を考察し、国家が私掠船を奨励、もしくは黙認した歴史的背景と動機の解明につとめることにより、私掠行為の一貫した特長として、一定の国家戦略の存在を指摘した。更に本論は、19 世紀半ばに私掠行為が廃止された経緯を、主に国家による軍事力独占の過程から説明した。言い換えれば国家は、海上における軍事力を独占し、海賊を「万民の敵」とすることによって初めて海上における主権を確立したのである。
著者
木村 正則
出版者
近畿大学全学共通教育機構教養・外国語教育センター
雑誌
近畿大学教養・外国語教育センター紀要. 外国語編 = Kindai university center for liberal arts and foreign language education journal. foreign language edition (ISSN:2432454X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.21-43, 2016-07-29

本稿は、外国語科目を担当することが採用条件となっている常勤教員の公募情報に着目し、教員ポストの供給量をもとに、現在の日本の大学ではどのような外国語が広がりを見せているのか、その動向を探ろうと試みたものである。調査対象としてJRECIN-Portal を利用し、2012 年4 月から2015 年10 月までの3 年6 ヶ月間に同サイトに公開された外国語教育関連の常勤教員ポスト2,431 件の求人情報を収集し、分析した。その結果、英語教員および留学生を対象とした日本語教員の公募件数が顕著に多いことが確認された。その一方で、これまで伝統的に学術言語として広く普及してきた仏語および独語の需要は低く、これに替わって中国語の需要が高いことが確認され、外国語教員の供給サイドの動向からも日本の大学における外国語教育に偏りがあることが指摘された。さらに、言語別および大学の設置機関別で雇用形態にも異なる傾向があることが示唆された。
著者
上田 真理
出版者
東洋大学法学会
雑誌
東洋法学 = TOYOHOGAKU (ISSN:05640245)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.25-52, 2017-07
著者
小谷野 敦
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.29, pp.301-323, 2004-12-27

一九八七年頃から、古代中世日本において女性の性は聖なるものだったといった言説が現れるようになった。こうした説は、もともと柳田国男、折口信夫、中山太郎といった民俗学者が、遊女の起源を巫女とみたところから生まれたものだが、「聖なる性」「性は聖なるものだった」という表現自体は、一九八七年の佐伯順子『遊女の文化史』以前には見られなかった。日本民俗学は、柳田・折口の言説を聖典視する傾向があり、この点について十分な学問的検討は加えられなかった憾みがある。
著者
岡本 雅享
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 = Journal of the Faculty of Integrated Human Studies and Social Sciences, Fukuoka Prefectural University (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.11-31, 2009-01-08

筆者は拙稿「日本における民族の創造」(大阪経済法科大学『アジア太平洋レビュー』第5号、2008年9月)で、1880年代末の日本で「民族」という言葉・概念が生じてから、どのよう に民族が創造されてきたかを、大和民族(1888年初出)と出雲民族(1896年初出)を対比しながら検証した。本稿では民族の三要素(歴史・文化、言語、宗教)の中で、日本の中ではより単一だと思われがちな言語に焦点をあてて、単一・同質だといわれるものの内部から、その幻想を解体してみたいと思う。
著者
藤山 あやか Ayaka Toyama
出版者
滋賀文教短期大学
雑誌
紀要 = BULLETIN OF SHIGA BUNKYO JUNIOR COLLEGE (ISSN:09126759)
巻号頁・発行日
no.24, pp.(63)-(69), 2022-03-22

ヒギンズ著の「コミュニティミュージック」から、英国におけるコミュニティミュージック成立の背景や発展、その概念と意義について整理した。コミュニティミュージックは人々の音楽体験の共有により創造される芸術表現の形であり、1960年代にコミュニティアート運動の一部として登場した。ヒギンズは、コミュニティミュージックを (1)コミュニティの音楽、(2)共同体の音楽制作、(3)音楽リーダーやファシリテーターと参加者が積極的に関わり合う音楽活動と特徴づけている。また、学校教育でのコミュニティミュージックの実践は学校と外部機関との音楽交流であり、地域社会とのパートナーシップによる音楽教育を行うために「音楽リーダーやファシリテーター」の重要性を強調している。本稿では、学校と地域を結ぶ教育プログラムの開発に向けて、ヒギンズの論考からコミュニティミュージックの教育的意義を明らかにしている。
著者
加治木 紳哉 Kajiki Shinya
出版者
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
雑誌
宇宙航空研究開発機構特別資料 = JAXA Special Publication (ISSN:24332232)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-SP-19-004, pp.1-343, 2020-03-13

In February 1954, Japan's space research activities began with the Pencil rocket launch experiment by the Avionics and Supersonic Aerodynamics (AVSA) research groups that was a part of the Institute of Industrial Science, the University of Tokyo. This group’s members (engineers) and other institute’s researchers (scientists) formed a committee for sounding rockets and joined the international earth observation program the International Geophysical Year (IGY) from July 1957 to December 1958. Their attempts to carry out observations of the upper atmosphere, cosmic rays, and others were successful. Following the recommendations of the Science Council of Japan, the Institute of Space and Aeronautical Science (ISAS), the University of Tokyo was founded in April 1964 by the merger of the two institutes of this university, that were the Institute of Industrial Science: engineers related to space research activities, and Aeronautical Research Institute. In February 1970, ISAS launched Japan's first satellite "Ohsumi" and put it into orbit. In April 1981, based on the report of Scholarship Commission, ISAS was reorganized as an inter university research institutes directly under the Ministry of Education and started more ambitious activities. In October 2003, as part of the reformation of administration, the Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA) was established, by integrating ISAS, the National Space Development Agency of Japan (NASDA) and the National Aerospace Laboratory of Japan (NAL). This report investigates the history of ISAS, from 1960-2010, considering three perspectives: 1) Collaboration of scientists and engineers, that includes the space science staff that researched the mysteries of space and engineering staff that worked to meet their needs, 2) Activities as an inter university research institutes; and 3) Decision making process in space science missions.
著者
石森 大貴
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.4-11, 2019-12-15

従来,防災情報はテレビやラジオといった「放送」が情報伝達の役割を担ってきました.放送は輻輳による障害がありません.しかしスマートフォンの普及で,情報収集の手段は放送からインターネット通信に変化してきています.そのなかで放送では発生しなかった通信の輻輳が発生したり,設備が物理的に損傷して,災害時に情報にアクセスできない障害が各地で多発しています.近年発生した障害事例および大量アクセスに耐えられる情報伝達インフラのスケーラビリティ向上方法について解説しました.
著者
小寺 敦之
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
人文・社会科学論集 = Toyo Eiwa Journal of the humanities and social science (ISSN:09157794)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.29-46, 2014-03

As Internet use has proliferated worldwide, maladaptive patterns or negative impacts of Internet use, so-called Internet addiction, have been increasingly reported. This study critically reviewed literature and discussed some problems regarding the study of Internet addiction. Development of Internet addiction research and criticism of this subjectindicates that the research to date on Internet addiction 1) has no heoretical background, 2) lacks valid measurement, 3) may have resented misleading causal relationships, 4) has restricted research with a psychiatric paradigm, and 5) has been debated on the presumption that the Internet has brought negative consequences. IfInternet addiction truly exists, researchers must respond to these problems.
著者
小松原 宏子
出版者
多摩大学グローバルスタディーズ学部
雑誌
紀要 = Bulletin (ISSN:18838480)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.9-24, 2020-03-31

2014 年と2015 年、学研の「10 歳までに読みたい世界名作」『若草物語』『あしながおじさん』の編訳をする機会に恵まれた。それに際し完訳版および原書を読むなかで気づいたこと、この2作品を初めて読んだ子ども時代から心に留めていた、あるいは疑問に思っていたことをここで整理してみたい。今回は脇役ながら物語中で重要な役割を果たしている脇役たち---『若草物語』のハンナ、『あしながおじさん』の視察委員プリチャード---に関しての考察をまとめる。