著者
永田 佳奈子 赤坂 真二
出版者
日本学級経営学会
雑誌
日本学級経営学会誌
巻号頁・発行日
vol.3, pp.23-33, 2021

本研究では,教職員間で交わすインフォーマル・コミュニケーション(以下,IFC)の実態と職場の職場風土及び被援助志向性に対する認知との関連を調べることを目的とする。調査校の職場に対する認知を調べた結果,職場の雰囲気を協働的に捉え,周囲に援助を求めようとする教職員が多かった。次に,教職員が交わすIFCの実態を調べるため,授業時間中の職員室での発話を分析した結果,職務に関わる話題とともに,生徒や私的な話題も頻繁に交わされていた。この結果から,協働的で,相談をしやすいと感じている職員が半数以上を占める職場では,教職員同士のやりとりの中で,普段から気軽な声がけや相談,生徒のことや私的な会話などのIFCも割合的に多く行われていると考えられる。そして,これらのようなIFCの中の言語的コミュニケーションが,職員が安心して働ける職場となる一助になっている可能性が示唆された。
著者
山内 惟介
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.1-54, 2018

国連諸機関は,第二次世界大戦後,特にアジア,アフリカ諸国で顕著になった恒常的人口増加の問題性を繰り返し指摘してきた。約76億人の世界人口は毎年8千万人を超える規模で今後も増加することが高い確率で予測されている。概して,食糧の増産や資源の新規開発が行われるようになっても,このような人口増加は先進諸国における食糧,資源等の配分量に深刻な影響を及ぼすと考えられてきた。その前提には,利便性や効率性を追求する生活様式を維持しようとする先進諸国の欲望肯定型の政策がある。この現象は,政治や経済が機能していない国際社会の現実を示すだけでなく,現行の政治制度や経済体制を基礎付けてきた伝統的法律学の在り方(法学教育,実定法解釈学,司法実務等を含む)にも根本的な反省を迫っている。国際社会の現実をみると,一方で,戦禍や貧困に喘ぐ大多数の弱者は見捨てられ,他方で,強者に都合のよい自由主義,名ばかりの民主主義,少数の富裕層に有利な金融資本主義が優遇されている。その根底には,地球社会全体への目配りを拒否し,自分さえ良ければ他人の幸せはどうでもよいという偏った見方がある。小稿の意図は,伝統的法律学が抱える致命的弱点とこれに代わる地球社会法学の必要性を訴えることにある。
著者
岡部 光明
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.46, pp.19-49, 2014-10

「自分にしてもらいたくないことは人に対してするな」(禁止型)あるいは「自分にしてもらいたいように人に対してせよ」(積極型)という格言がある。これは,洋の東西を問わず古くから知られた倫理命題であり,一般に黄金律(Golden Rule)と称されている。本稿の前半では,その生成と発展の歴史を簡単にたどるとともに,この格言の意義を考察した。その結果(1)禁止型を積極型へ明確に変更したのはキリスト教の聖書である,(2)黄金律は宗教や文化を超えて道徳の基礎となっているので普遍性があり,またそれは相互性,論理整合性,人間の平等性といった重要な原則も主張している,一方(3)自分と相手の価値観に差異がある場合にはそのルールの適用に留意が必要である,などを主張した。本稿後半では,黄金律よりも視野を拡大し,世界中の多くの宗教や文化に共通する規範になっている利他主義(他人の幸せに関心を払う主義ないしそのための行動)を取り上げた。そして,利他主義の動機をどう理解すべきかについて,多様な分野(社会科学,生物学,神経科学等)の研究や実験結果を展望することによって多面的に考察した。その結果(1)人間は利己主義的動機に基いて利他的行動を示す場合もある一方,他人の利益だけを考慮して行動するケースも確かにあること,(2)利他主義(与えること)は与える人の健康と幸福にとって良い効果を持つこと,(3)この(2)のことが利他主義の普遍性を支える一つの要因になっている可能性があること,などを述べた。【研究メモ/Research Memoranda】
著者
上村 惠也
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.208-211, 2012 (Released:2013-04-16)
参考文献数
3

ヤマユリは,近畿地方から東北地方にかけて里山を彩る代表的な花であり,かつてはごく一般的な花として多くの市民に親しまれていたが,近年は里山が利用されなくなり林内に光が入らなくなったことなどから,生育箇所が減少している。一方,高速道路においては,牧草等の一次植生で緑化されたのり面に次第に周辺の植生が侵入し,かつての里山の植生が回復しつつある。特に,毎年草刈りを行なっている切土のり尻部においては,ヤマユリの生育に適した半日陰の環境となっているため,夏に数多くの花を咲かせている。
著者
堀 直人
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、(1)リボソームを中心とするタンパク質生合成システム作動原理の構造に立脚した理解と、(2)そのために必要な巨大分子シミュレーション技術の確立である。前年度までに、目的(2)に対応するRNA一タンパク質複合体の粗視化モデルの構築を完了している。また、目的(1)の達成に向けて、リボソーム-tRNA複合体の計算を開始しており、本年度は計算結果の解析や論文出版へのまとめ作業を行った。リボソームの翻訳伸長時には、結合した2つのtRNAが正確に1コドン分移動する。この際、(a)リボソームサブユニット間の回転運動、(b)L1ストークの動き、(c)tRNAのハイブリッド状態形成という3つの特徴的運動が実験的に観察されている。しかし、それらがどのように共役しているかなど、メカニズムの詳細は分かっていない。そこで、状態の異なる2つのリボソーム構造を用いて、Aサイト、Pサイト、または両方にtRNAが結合した状態でシミュレーションを行い、tRNAの移動過程とリボソーム構造の関係性について調べた。解析結果から、リボソーム構造に関わらずPサイトtRNAはハイブリッド状態をとるが、サブユニット回転後の構造においてより安定であることが分かった。一方、AサイトtRNAは比較的ハイブリッド状態を形成しにくく、A・P両方にtRNAがある場合は、"ハイブリッド2(P/E,A/A)"と呼ばれる状態が安定であった。さらに、実験的に関連が示唆されているA-sitefinger(ASF)について、変異型リボソームでのシミュレーションを行い、ASFがAサイトtRNAのハイブリッド状態形成を抑制していることが確認できた。一連の計算は、原子数としても時間スケールとしても一般的な全原子MD計算では困難なものであり、本研究において粗視化モデルを適用して進めたことで初めて可能となった。
著者
山本 洋之 大久保 雄司 小川 一文 内海 邦広
出版者
一般社団法人 プラスチック成形加工学会
雑誌
成形加工 (ISSN:09154027)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.104-114, 2010
被引用文献数
3

In this study, the physical performance (adhesion resistance, heat resistance, abrasion resistance, chemical resistance) extremely thin, highly durable and chemically adsorbed fluorocarbon film with low surface energy on the metal surface (the thickness is about 1 nm order.) was evaluated, and the evaluation results (durability, demolding resistance) on the actual injection molding performance up to 100,000 shots using a test mold were reported. <BR>The demolding resistance could be drastically decreased without losing the mold shape and dimensional accuracy by using the chemically adsorbed and highly durable fluorocarbon film.<BR>From these results, this technique should be useful for molding various elastomers such as silicone and urethane resin which are difficult to release from a mold for making high precision products such as optical components and chemical chips.
著者
谷 誠
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2014

降雨流出応答の物理的根拠について、なぜ有効降雨が観測降雨から分離されるのか、不均質性が大きいのに降雨流出波形変換がなぜ簡単な準定常過程を通して再現できるのか、に焦点をあてて考察した。その結果、両方の課題に対して不飽和土壌の役割が重要であること、簡単な再現結果は、土壌層が波形変換のクラスターを構成するためだということが推定された。
著者
Insel Thomas R.
出版者
日経サイエンス
雑誌
日経サイエンス (ISSN:0917009X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.62-70, 2010-07
被引用文献数
1

うつ病などの精神病患者は,悪霊にとりつかれている,危険人物だ,意志が弱い,親の育て方が悪かったなど,時代ごとにいろいろな汚名を着せられてきた。精神疾患は脳に明確な損傷が見られないため,純粋に「精神的なもの」と考えられてきたためだ。
著者
大峰 光博
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.539-546, 2018-12-10 (Released:2018-12-20)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

The purpose of this study was to present a new perspective on the problem of attempting to lose a game on purpose through a consideration of whether doing so threatens the existence of sport. We began by hypothesizing the concept of “failed athletic contests”, which has been discussed in the field of sport philosophy, as jeopardizing the existence of this activity. We then examined the concept of “losing games on purpose” with reference to the “failed athletic contests” theory of Kawatani (2013). We examined 2 broad categories of “losing games on purpose”: one where defeat is clearly the goal, and the other where players deceive referees and spectators by behaving as though they want to win, while in fact actually trying to lose. Kawatani claims that games where an ethos (internal purpose) is not achieved, even though the contest is based on athletes playing according to the rules, constitute “failed athletic contests”. He found that player commitment to winning is necessary as a condition in achieving the ethos of the game, suggesting that “losing games on purpose”in either category constitutes a “failed athletic contest” in that athletes are not committed to victory and the ethos is not established. On the other hand, it was also clarified that there is a dilemma for players in athletic meets when a commitment to winning is called for, but when this is occasionally in conflict with the ethos of individual games. For the second category, it was also revealed that referees and spectators were not aware of the nature of such a defeat when it was concealed. This suggests that the second category of “losing games on purpose” is more problematic than the first.