著者
岡崎 哲二 浜尾 泰 星 岳雄
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.15-29, 2005-01

本論文は1878年の創設から1930年代半ばにいたる東京株式取引所(東株)の発展を概観し,その上場企業の増加に影響を与えた要因を探る.東株の規模は,対GDP比で見て,同時代の他国に比べても,また現在の先進国に比べても,非常に大きなものであった.東株への上場基準は緩かで,特に現物市場への上場はほとんど規制されていなかったので,当時のデータを使ってどのような企業が上場を決定したのかを調べることができる.綿紡績企業を使った回帰分析から,資本金が大きい企業ほど,そして年齢が高い企業ほど上場する確立が高いことが確認できる.また,東日本の企業は西日本の企業よりも東株に上場する確立が高いが,この傾向は時代を経るにつれて,特に1918年の東株の組織改革以降,弱まった.組織改革は,上場株の増加を促す効果も持った.最後に,外部株主の権利を強めた1911年の商法改正も,東株への上場を増加させる効果を持った.
著者
小口 あや
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.171-184, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
12

本研究は,作品鑑賞時,中学生がどのように作品と向かい合う傾向にあるのかを明らかにするために行った。これまでの研究で,小学3年生から6年生は,作品世界に埋没する観念的自己と現実世界で客観的に作品を見る現実的自己の両方で作品と向き合っていること,鑑賞時はどちらかというと観念的自己が強く出ていることが分かっていた。今回の調査と鑑賞実践で,中学2年生から観念的自己が弱くなり代わりに現実的自己が強くなることがわかった。中学2年生からの変容は,他の研究分野での発達段階とも重なる。小学生に続いて中学1年生までは,作品世界に入り込んで作品を感受する観念的自己が強い。中学2年生からは作品をあくまでも現実世界に存在する物として感受する現実的自己が強くなる。それぞれの学年に合わせた指導をすることが教育方法論としては重要である。
著者
小野 友道
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.1549-1564, 2012

1935年,当時東北帝国大学教授太田正雄は映画のシナリオ作成を依頼された.映画は梅毒予防のための啓発映画で,作成されたシナリオは当時熊本医科大学助教授北村包彦に手直しするよう送付された.それは「螺旋形の悪魔」という題名で完成を見たが,しかし,映画は実現しないまま幻に終わった.太田正雄のシナリオは,現在,神奈川近代文学館に所蔵されている.このシナリオには当時の梅毒に対する考え方,歴史,症状そして治療などが記されており,それらを混ぜながらの若い建築家夫婦の梅毒物語である.歴史学的に貴重であり,また皮膚科学的にも興味深い資料である.
著者
佐藤 直木
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.66, 2019

<p>「津田三省堂(つださんせいどう)」は、1909 年(明治42 年)に、津田伊三郎(つだ・いさぶろう)によって名古屋の地に創業された活字製造・販売会社である。かつて日本には、宋朝体の国産鋳造活字は存在しなかった。中国の宋朝体活字に源流を求め、苦心のうえ、津田三省堂により宋朝体活字がはじめて国産化されることとなった。筆者は「文字と書体のデザイン」を研究テーマに掲げて大学研究室を運営している。研究を進める中で、ふとした機会から古書を入手した。津田三省堂発行の「宋朝 各号 長体・方体 略見本 /二号 長体 総見本」である。書体見本帖を手にしてその内容に触れたときの衝撃は大きなものであった。その書体は「雄健にして典雅、活字面の鮮鋭明確なるは無比」とかつて称されたと伝えられるように、独特の風格と気品を漂わせる書体であった。文字をデザインする人間のひとりとして、偉大な先駆者である津田三省堂へのリスペクトを込めて、津田三省堂宋朝体のデジタル復刻に取り組むことを決意した。今回はその取り組みにおける成果のごく一部を紹介するものである。</p>
著者
江頭 憲治郎
出版者
早稲田大学法学会
雑誌
早稻田法學 (ISSN:03890546)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.95-117, 2016-11-30
著者
桧 学 中西 和仁 岸本 誠司 牛尾 信也 北村 溥之 東辻 英郎 林 正彦 玉城 進 上原 範子 松浦 健次郎 西条 秀明
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4special, pp.537-563, 1981 (Released:2011-11-04)
参考文献数
25

におい刺激でおこるめまいの機序を明かにし, その診断法, 治療法を開発する目的で一連の検査が行われ, 次の成果がえられた.(1) におい負荷平衡試験を考案した. この検査では, アリナミン (Diallyl sulfide) 溶液2ml (10mg) のアンプルより1mlをとり出し, それをしみこませた綿花 (1cm3) を被検者の鼻孔前1cmの箇所におき, 口を軽くとぢ, 安静呼吸で60秒間鼻呼吸を命ずる. 刺激中止後10分で愁訴, とくにめまいの変動を問診で確かめ, 各種平衡機能検査で客観化する.(2) (1) で述べた検査を正常成人に実施したがめまいの誘発や平衡失調の出現はなかった. しかし, 頭頸部外傷によるめまい例に施行すると, 次の成績がえられた.1) 受傷後, ある種のにおい物質に過敏となり, それを嗅ぐとめまいをおこした経験のあるものにのみ上述の平衡試験は陽性所見を示した.2) におい負荷平衡試験が陽性所見を示したものはすべて“アドレナリン負荷平衡試験; 桧, 他”が陽性所見を示した. この際, 両者の平衡試験で誘発される平衡失調は, その潜時, その形において相似する傾向を示し, 何れも delayed response を示す傾向が強かった.3) におい刺激で誘発される平衡失調型は病巣の局在と密接に相関した.4) 上肢小脳症状検査で陽性所見を示したものはにおい負荷平衡試験が陽性であることが多く, かつ前者の症状がつよいものほど後者の試験の陽性頻度が高かった.5) 我々が発表した“心因性めまい検出を意図した平衡試験”でA型平衡失調 (心身症型) を示すものは, におい負荷平衡試験で陽性所見をうることが多かった. しかし, A型平衡失調を示すものでも後者の平衡試験が陰性のものもあり, B型平衡失調 (非心身症型) を呈するものでも後者の平衡試験が陽性であることが少なくなかった.6) におい刺激で誘発されるめまい. 平衡失調の治療には cloxazolam (Benzodiazepime 系 minor tranquilizer) は効果がある. しかし, 小脳機能異常を有する例ではその効果を期待しがたい.以上の成績とこれまでにえた動物実験の成績より次の結論をのべた.(1) におい刺激でめまいが誘発される機序のうち, 大脳辺縁系 (とくに扁桃核) 中にふくまれる交感成分の活動性亢進は重要な因子である.(2) におい刺激で誘発されるめまいの機序のうち, 小脳は primary neural element ではない. しかし, その何れかの神経要素に作用し, 機能異常を助長して, におい刺激によるめまい・平衡失調の出現に促進的役割を果す.(3) 心身症によるめまいの機序とにおい刺激で誘発されるめまいの機序は overlap し, 相互に影響を与える可能性はあるが, それぞれの機序が独立した面をもつことを肯定すべきである.(4) 中枢神経系の交感神経成分の活動性抑制を目的とする操作はこの種めまい. 平衡失調の治療法として有用性がある.
著者
田中 俊男
出版者
島根大学教育学部
雑誌
島根大学教育学部紀要. 教育科学, 人文・社会科学, 自然科学 (ISSN:18808581)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.94-85, 2015-02

本稿では、小学校における長期安定教材であり、国民的童話文学とも言うべき新美南吉「ごんぎつね」を取り上げる。「ごんぎつね」本文の問題に触れた後、第一、二章では教科書と「赤い鳥」という二つの場を想定し、きつねが活躍する他の物語群との相関で「ごんぎつね」をとらえる。第三章では「ごんぎつね」のテキスト分析を試みる。まず情報伝達という観点から反復・反省と遅れの操作を見る。次に「鶴の恩返し」や南吉の他の初期作との共通点を述べ、南吉の作劇術を考察する。
著者
佐藤 研一 今井 裕 石山 信之 小林 操 金沢 春幸
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.70-76, 1981-07-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33

今回,われわれは極めて稀れ(本邦で9例)な奇形とされている下顎正中裂および下口唇正中裂の症例を経験したので報告した.患児は生後3ケ月女児,2児中第2子で同胞に異常は認められない.両親に血縁関係はなく,家系中にも異常を認めない.母親は妊娠2ケ月頃,転倒により腰部を打撲したことを除き,妊娠経過は順調であった.全身的には栄養発育状態は良好で,他部合併奇形などの異常を認めない.局所的には下口唇が正中で縦裂し,さらにその破裂下端部より願部にいたる腫瘤が認められたという(但し出産病院で腫瘤は切除) .下顎骨も正中離開し,そのため左右の下顎は個別に可動性を有していた.また,舌尖は下顎離開部を越え,その前方に附着し固定されていた.X線的には下顎骨正中離開を示すも,歯胚数の異常や舌骨の欠損は認められなかった.両親ならびに患児の染色体数は正常で,生後4ケ月目にZ-plastyによる下口唇形成術および舌小帯伸展術を施行した.術後経過は良好で現在に至っている.下顎裂に対する処置は,今後充分な観察の下に,下顎の発育を待ったうえ行う予定であり,併せてその論拠にっいての考察を附して報告した.
出版者
日経BP
雑誌
日経コンストラクション = Nikkei construction (ISSN:09153470)
巻号頁・発行日
no.726, pp.45-47, 2019-12-23

奇妙な倒壊事故は、長野県生坂村にある新山清路(しんさんせいじ)橋の架設現場で発生した。橋長136mの鋼単純下路式ニールセンローゼ橋を犀川に架ける。2006年の土砂崩れで寸断され、現在は戦前に完成した重量制限2tの旧山清路橋を迂回せざるを得ない県道55号の…
著者
林 千絢
出版者
法政大学大学院デザイン工学研究科
雑誌
法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編 = 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編 (ISSN:21867240)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-2, 2017-03-24

The purpose of this study is reveals urban structure of Osaka from sacred water sites. Urban development of Osaka is carried out by Hideyoshi Toyotomi which is closely tied with water or praying for water. In fact, there was certain urban planning related to topography and geology around Edo era. This planning was based on ancient sacred water sites. In addition, Hideyoshi Toyotomi shaped new city with sacred water sites as an axis. So, first I analyze genealogy of god in sacred water sites in Osaka. Then I pile up layers which made from this result, topography or geology on Hideyoshi’s urban planning in Osaka. Finally, from the new point of view, I interpret urban structure of Osaka.