著者
二村 太郎 荒又 美陽 成瀬 厚 杉山 和明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.225-249, 2012-12-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
67
被引用文献数
3 1

生理学・生物地理学の研究者であるジャレド・ダイアモンドが1997年に上梓したノンフィクション『銃・病原菌・鉄』は,一般書として英語圏で幅広い読者を獲得し,2000年に刊行された日本語版も売れ行きを大きく伸ばしていった.地理的条件の違いがヨーロッパ(ユーラシア)の社会経済的発展を優位にしたと主張する本書については,そのわかりやすさとダイナミックな内容ゆえに多くの書評が発表された.しかしながら,本書は英語圏では地理学者をはじめ学術界から数々の強い批判を受けてきたのに対し,日本では多方面から称賛されており,また地理学者による発信は皆無に近い.本稿は主に書評の検討を通して英語圏と日本における本書の受容過程を精査し,その差異と背景について明らかにする.また,これらの検討を通じて本稿では,諸外国からの地理学的研究成果の積極的な導入が必要であるとともに,より批判的な視点が求められることを論じていく.
著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 田原 麻衣子 川原 陽子 真弓 加織 五十嵐 良明 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-163, 2014 (Released:2014-08-26)

【目的】近年、生活空間において“香り”を楽しむことがブームとなっており、高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤や香り付けを目的とする加香剤商品の市場規模が拡大している。それに伴い、これら生活用品の使用に起因する危害情報も含めた相談件数が急増しており、呼吸器障害をはじめ、頭痛や吐き気等の体調不良が危害内容として報告されている。本研究では、柔軟仕上げ剤から放散する香料成分に着目し、侵害受容器であり気道過敏性の亢進にも関与することが明らかになりつつあるTRPA1イオンチャネルに対する影響を検討した。【方法】ヒト後根神経節Total RNAよりTRPA1 cDNAをクローニングし、TRPA1を安定的に発現するFlp-In 293細胞を樹立した。得られた細胞株の細胞内Ca2+濃度の増加を指標として、MonoTrap DCC18 (GLサイエンス社)を用いて衣料用柔軟仕上げ剤から抽出した揮発性成分についてTRPA1の活性化能を評価した。また、GC/MS分析により揮発性成分を推定した。【結果】市販の高残香性衣料用柔軟仕上げ剤を対象として、それぞれの製品2 gから抽出した揮発性成分メタノール抽出液についてTRPA1に対する活性化能を評価した。その結果20製品中18製品が濃度依存的に溶媒対照群の2倍以上の活性化を引き起こすことが判明した。さらに、メタノール抽出液のGC/MS分析結果より、LimoneneやLinallolの他に、Dihydromyrcenol、Benzyl acetate、n-Hexyl acetate、Rose oxide、Methyl ionone等の存在が推定され、これらの中で、Linalool 及びRose oxideがTRPA1を活性化することが明らかになった。これらの結果より、柔軟仕上げ剤中の香料成分がTRPイオンチャネルの活性化を介して気道過敏性の亢進を引き起こす可能性が考えられる。
著者
三上 岳彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.79-88, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
24
被引用文献数
9 7

日本の都市ヒートアイランド研究が大きく進展している.東京都心部の年平均気温は過去100年間に3°Cも上昇しており,地球平均気温の5倍の上昇率である.都市高温化の要因としては,第一に人工廃熱の増加による都市大気の直接加熱,第二に都市構造の変化,すなわち地表面の人工化や高層建造物の増加,緑地・水面の減少が挙げられる.最近行われた一連のプロジェクト研究から,都市内大規模緑地のクールアイランド効果や東京湾海風に及ぼす高層ビル群の影響,さらに高密度観測網による都内気温分布の日変化と海風による移流効果などが解明されつつある.今後のヒートアイランド問題の解明には,気候学をはじめ,気象学,建築・土木工学,医学,生態学など多くの分野における学際的な研究が不可欠である.
著者
Ryugo S. HAYANO Masaharu TSUBOKURA Makoto MIYAZAKI Hideo SATOU Katsumi SATO Shin MASAKI Yu SAKUMA
出版者
The Japan Academy
雑誌
Proceedings of the Japan Academy, Series B (ISSN:03862208)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.92-98, 2015-03-11 (Released:2015-03-11)
参考文献数
17
被引用文献数
4 7

Comprehensive whole-body counter surveys of Miharu-town school children have been conducted for four consecutive years, in 2011–2014. This represents the only long-term sampling-bias-free study of its type conducted after the Fukushima Dai-ichi accident. For the first time in 2014, a new device called the Babyscan, which has a low 134/137Cs MDA of <50 Bq/body, was used to screen the children shorter than 130 cm. No child in this group was found to have detectable level of radiocesium. Using the MDAs, upper limits of daily intake of radiocesium were estimated for each child. For those screened with the Babyscan, the upper intake limits were found to be ≲1 Bq/day for 137Cs. Analysis of a questionnaire filled out by the children’s parents regarding their food and water consumption shows that the majority of Miharu children regularly consume local and/or home-grown rice and vegetables. This however does not increase the body burden.
著者
Takao Hoshino Yumiko Uchiyama Eiichi Ito Shunsuke Osawa Takashi Ohashi
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1595-1598, 2012 (Released:2012-06-15)
参考文献数
19
被引用文献数
12 21

A 36-year-old man was admitted to our hospital because of urinary retention and muscle weakness affecting all 4 limbs after receiving a H1N1 09 influenza vaccination. Magnetic resonance imaging demonstrated multiple lesions in his brain and spinal cord. Furthermore, nerve conduction study showed acute sensorimotor neuropathy, and anti-GM2 antibodies were detected in his serum. Based on the temporal association and exclusion of alternative etiologies, we made a diagnosis of acute disseminated encephalomyelitis (ADEM) and Guillain-Barré syndrome (GBS). To our knowledge, this is the first case of co-morbid ADEM and GBS after influenza vaccination with positive anti-ganglioside antibodies.
著者
福永 玄弥
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.75-85, 2022-10-14 (Released:2023-10-13)
参考文献数
30

2022年4月21日、「誰もがありのままに暮らしていける社会」を掲げたレインボーさいたまの会が、「埼玉県LGBTQ 条例案のパブコメが、トランスジェンダーの差別を煽る反対意見で荒れに荒れています」とツイートし、危機感を表明して支援を呼びかけた1 。「埼玉県LGBTQ条例」とは、自民党埼玉支部連合会が公表した「埼玉県性の多様性に係る理解増進に関する条例(仮称)骨子案」を指す。この条例案は「何人も、性的指向又は性自認を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない」という文言を含む15の条文と附則から構成される2 。4月1日にパブリックコメントの募集が開始されると、「トランスヘイトを行う団体等」が条例制定を阻止するために抗議活動を展開したのである。日本におけるジェンダー主流化は、男女共同参画社会基本法の制定(1999)と全国の自治体による関連条例の制定がセットで進んだが、こうした潮流のなかで保守政権とそれを支持する保守市民によるバックラッシュが展開した。山口智美や斉藤正美、荻上チキらは2012 年に刊行した『社会運動の戸惑い:フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』において、いくつかの男女共同参画推進条例をとりあげ、フェミニストと保守市民との間でみられた係争を批判的に考察している。なかでも、2003年12月に制定された宮崎県都城市の「男女共同参画社会づくり条例」は注目に値する。というのも、この条例は「性別又は性的指向にかかわらずすべての人の人権が尊重され」という文言を導入し、自治体として初めて性的マイノリティの人権を掲げた先駆的な事例となった一方で、まさに「性的指向」をめぐって『世界日報』や保守派の市民や議員からの激しい抗議を喚起したのである(斉藤正美・山口智美2012)。都城市の事例でみられたように、「埼玉県LGBTQ条例案」をめぐっても「保守」を標榜する草の根の市民が抗議運動を推進している3 。しかし本稿で注目したいのは、埼玉県の条例案をめぐって保守派が「性自認」を標的としているという事実である。驚くべきは、保守派と結託して条例案に対する抗議活動を展開しているのが、2018年頃からトランスジェンダー女性に対する攻撃を続けてきた一部のフェミニストや女性団体であるという点だ。一連の抗議では「性的指向」(あるいは同性愛者やバイセクシュアルに対する差別の禁止)が争点となっているのではない。そうではなくて、「性自認」、とりわけトランス女性が潜在的な犯罪者として焦点化され、パブリックコメントが「トランスジェンダーの差別を煽る反対意見で荒れに荒れてい」るというのである。埼玉県の条例案に反対する保守団体は次のように懸念を表明する(保守の会2022)。〔条例案は〕「性自認」を「自己の性別についての認識をいう」と定義付けているが、この定義に従えば、自己申告による性別をそのまま認めなければならない。「性自認が女性」という身体的には男性が、女性専用スペース(公衆トイレや公衆浴場、更衣室等々)に堂々と侵入するなどして、女性に不利益をもたらし、社会的混乱を引き起こしかねない。事実、札幌や大阪ではすでにその種の事件が起きている。「女性スペースを守る会」が「設立趣意書」でも訴えているように、「女性トイレがもし身体男性にも開かれるのであれば、個室に引きずりこまれての性暴力被害、個室の盗撮被害の増加や盗聴さらに使用済みの生理用品を見られたり、持ち出されることも増えるでしょう。警戒心が薄く抵抗する力のない女児や、障害のある女性が性暴力被害に遭いやすくなるのでは、という懸念」について、ぜひ真摯に考えていただきたい。トランス女性がシスジェンダーの「女性に不利益をもたらし、社会的混乱を引き起こしかねない」として両者の間に敵対的関係があるかのように強調するとき、「保守の会」がそれを根拠づけるために「女性スペースを守る会」の主張を引用しているという事実は示唆的である。なによりも、「保守の会」が性的マイノリティの人権を保障する条例案に反対するために、右派の学者や政治家ではなく、「女性の権利を守るために」結成された団体の主張を根拠にしているという点において 4。そして、「女性の権利を守るために」2021年に結成された団体が、SNSをとおしてトランス女 性に対する憎悪や嫌悪の情動を動員してトランス女性とシス女性の間の対立を強調してきたという点においても。実際、本稿を執筆している4月29日現在、条例推進を呼びかけたレインボーさいたまの会の一連のツイートに対しては、フェミニストや「市井の女性」たちによるトランスフォビアを剥き出しにした攻撃が集中している。近年、性的マイノリティの権利、とりわけ婚姻平等とトランスジェンダーの権利が、米国や欧州、アフリカ、中東、そして東アジアでも大きな政治的争点となっている。2010年代後半に入ると、ジェンダー平等を標的としてきた保守が、トランス女性の排除・排斥を主張するフェミニストと連携して性的マイノリティの運動やコミュニティの分断を煽る動きをみせるようになった。私が専門とする東アジアでは、韓国がこの点において先駆的な事例である。本稿では、このような問題意識から、トランスナショナルに拡散しているトランスフォビアについて、韓国を中心に検討したい。韓国におけるTERF(Trans-Exclusionary Radical Feminist)の言論活動は後述するように日本のフェミニストにも影響を与えているため、日本の状況を理解するためにも韓国の動向を参照する意義はあるだろう。以下では、韓国や日本や英語圏の先行研究をレビューしつつ、韓国社会のトランス排除言説について考察を進めていく。第二節では、トランス排除言説が2010 年代後半にフェミニストの間で支持を獲得したことを指摘し、その背景を検討する。第三節では、2000年代に発展を遂げたバックラッシュの構成や歴史的背景を確認する。第四節では、TERFと保守の〈連帯〉の背景にある制度化されたトランスフォビアについて、軍隊に焦点を当てて論じる。第五節で、トランスナショナルに広がるトランスフォビアについて議論を整理する。最後に、トランスフォビアとの闘争が、けっしてトランス/クィア・スタディーズだけでなく、フェミニズムやジェンダー・スタディーズにとっても重要な課題であることを主張する。
著者
安藤 寿康
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌 (ISSN:13423215)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.107-112, 2017 (Released:2017-10-31)

Twin method is a traditional way to investigate genetic and environmental (shared and nonshared) influences on human behavior. The number of publicity using twin method is continuously growing recently which robustly shows substantial genetic contribution to almost any aspects of psychological individual differences. Molecular biological techniques and multivariate statistical method called structural equation modeling (SEM) provide several generalizable findings such as very small effect of each single gene, significant genetic mediation in phenotypic correlation, heritability increase in IQ from infancy to young adulthood, and socially important gene x environment interaction. Discordant identical twin method has a powerful possibility to investigate epigenetics.
著者
馬田 敏幸
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-33, 2017-03-01 (Released:2017-03-23)
参考文献数
43
被引用文献数
2

将来の新エネルギーを創出すると期待されている核融合技術には,燃料となるトリチウムが大量に使用され,放射線作業従事者のトリチウムによる被曝が懸念される.また福島第一原子力発電所の廃炉作業の工程では,発生しているトリチウム汚染水対策による,作業従事者の健康問題が懸念されている.トリチウム被曝の形態は,低線量・低線量率の内部被曝が想定されるが,経口・吸入・皮膚吸収により体内に取り込まれたトリチウム水は,全身均一に分布することから影響は小さくないと考えられる.さらに有機結合型トリチウムは生体構成分子として体内に蓄積され,長期被曝を生じるので,トリチウムの化学形の考慮は重要となる.トリチウムの生体影響を検討するために,生物学的効果をX線や γ線と比較する必要があり,トリチウムの生物学的効果比(RBE)の研究が多くされてきた.本総説では,確率的影響に分類される放射線発がんや,発がんの原因となる突然変異など生物効果を指標にして得られたRBEについて紹介する.加えて,近年開発されてきた,低線量・低線量率被曝の生物影響を検出可能な遺伝子改変マウスを使った動物実験系の原理と,トリチウム実験の概要についても紹介する.

411 0 0 0 OA 農学啓蒙

著者
十文字信介 編
出版者
広島以文社
巻号頁・発行日
vol.前編 巻の2, 1881
著者
陳 贇
出版者
関西大学東西学術研究所
雑誌
関西大学東西学術研究所紀要 (ISSN:02878151)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.279-296, 2012-04

The word "Min-do" first appeared in newspapers around 1888, but a clear etymology of the word has never appeared. This paper traces back the history of the word's formation and proposes the possibility that this word is a Japanese-created Chinese word influenced by Western thought. This paper also considers the reception of this word in China and researches its mutual relationship with "kokumin-teido (国民程度)" (the condeition of the people) in China during the first two decades of the 20th century.
著者
徳山眞実 廣井慧 山内正人 砂原秀樹
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.40, pp.1-6, 2013-03-07

科学の進歩によって今まではデータとして扱うことができなかった人の感性や好みを情報化しようとする試みがなされている.本研究では「女子力」という曖昧な感性情報を数値化することを目的とし女子力の数値化手法を提案する.「女子力」という言葉は2001年に新しく作られた造語で女性ファッション誌や広告等で頻繁に使用されており,現代女性の女性らしさの尺度である.しかし,明確な定義はなく非常に曖昧なまま使用されている.そこで,これらの感性を数値化することで具体的な尺度になり,女子力を上げたいと望む女性の指標としてモチベーション維持や行動変容に繋がる可能性も考えられる.また,「女子力」だけでなく,女性らしさの尺度となっている言葉は数多く誕生している.それは女性の社会進出が進み人々が掲げる「女性像」というものが多様化してきているという背景からである.提案する数値化手法では情報の入力,処理,出力という3つのステップを行う.その為に入力情報の決定,基準値の決定,正規化を行う.そして実際に2つのケースを例にとり数値化を行う比較実験と,行動変容への可能性を探る実験の2つを行う.その結果から考察を行い,今後の課題を明らかにする.By the progress of science, The progress of science has been developed to enable to quantify personal preference and sensitivity. In this paper, this research proposes a method to quantify and measure 'Joshi-ryoku', with an objective to numerically measure sensibility is proposed. 'Joshi-ryoku' is a word used for women to develop their sense of style or fashion in Japan. It is a common term used among young girls to increase their attraction. This word 'Joshi-ryoku' is a coined word, created in 2001. In most cases by enhancing your 'Joshi-ryoku', many women tend to become prettier or more attractive.However, it has no clear definition and the way it is being measured is ambiguous, but the term is still used within the daily life. With the diversification of a women's image in our generation, the society has created many terms to define women's image. Our scale of 'Joshi-ryoku', can increase and maintain their 'Joshi-ryoku' motivation. The research methodology is conducted through three steps. First is by the determining the input of the information, second is to determine the reference value, and thirdly is normalization of 'Joshi-ryoku' scale. We quantify 2 samples. Our results shows the possibility that our method can quantify and measure ' Joshi-ryoku'.